Coolier - 新生・東方創想話ジェネリック

地底妖怪トーナメント・1:『1回戦1・洩矢諏訪子VS雲居一輪』

2014/09/05 16:34:42
最終更新
サイズ
64.96KB
ページ数
6

分類タグ


「で、その紫がしようとしている事を見逃せと」
 地上である幻想郷の一角には博麗神社という建物がある。そこに巫女として仕えている少女が、博麗霊夢である。神社の客間で机を挟むようにして向かいにいるもう一人の少女は霊夢の問いに答える。
「そういうことだ。私が直接お前に許可を貰いに来た。紫様は今、地霊殿に行っているからな」
「……結局、何をするんだっけ」
「地底で格闘大会を行うらしい。表向きは『弾幕勝負しかできないことによって溜まった鬱憤を発散させる』と言っていたが、実際のところはなんとも言えんな」
「……一応聞いておくけど、外の世界から人間を連れてきたりしてないでしょうね」
「そんなことはしないさ。あくまで幻想郷に住む者だけが参加できる。お前に許可を貰いに来たんだ。お前にとってはそんなこと論外だろう?」
「そりゃそうよ。でも、ま、構わないわ」
「ほう、快諾とは珍しいな」
「外の世界や人里に迷惑を掛けないならいいわ。もう慣れたわよ。それに――」
 霊夢の表情からは徐々に笑みが零れていく。
「そういう催しは嫌いじゃないわ。いいじゃない。天邪鬼におちょくられて以来、何かストレス発散したいと思ってたのよ」
 霊夢の言葉に、八雲紫の式である狐の耳を生やした少女――八雲藍は違和感を覚える。そこで彼女は霊夢が勘違いをしている事に気付いた。
「いいわ。参加してあげる、地底の大会……。さとり妖怪でも鬼でも、何でも相手してあげるわ」
「霊夢……」
 申し訳なさそうな表情で藍は目を逸らしている。
「楽しそうなところ申し訳ないんだが……お前は参加できない」
 藍が言い放った後、時が止まったように数秒程沈黙が訪れた。
「え?」
「人間はこの大会に参加できない決まりなんだ」
「………………。………………。……はぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!?」
 それは、九尾の狐である藍の耳をつんざく様な怒号だった。
「え、いや……じゃああんた、何しに此処に来たの?」
「だから、お前が紫様の大会を邪魔しないよう呼び掛けに――」
「あー無理無理」
 背を向ける様にごろりと横になり、やる気のなさそうに霊夢は藍の言葉を一蹴する。
「何で私がそんな事見守らなきゃいけないのよ。妖怪共が集まるなんて異変よ異変。人間が参加できない……じゃあ言いふらすわ、魔理沙や早苗にも」
「…………」
「そもそも、紫とさとりが手を組む時点で怪しいと思ってたのよ。何、妖怪が徒党を組んで人間を滅ぼす計画でもするつもり? あーそう、じゃあ慧音や妹紅辺りも呼んで、いっその事あの建物を破壊しようかしら――」
 一方的に喋る霊夢に構わず、藍は一枚の紙切れを机に置く。それに気付いた霊夢は向き直る。
「何よそれ。どーせ紫からの下らない手紙で……しょ……」
 取った紙の文字に目を通す霊夢の言葉は止まる。そこには一定の金額と箇条書きにされた食材が書かれていた。食材だけでも、それだけで二ヶ月は生きていける量だ。
「な、何よこれ」
「お前に渡す賽銭と言う名の金と食材。悪く言えば『わいろ』だな」
「ほ、ほほう」
 思わず涎が出る霊夢の胸は高鳴る。
「なるほど、私が目を瞑る代わりに、これをくれるというのね」
 心が折れる寸前なのか、動揺を鎮めようとお茶を飲む彼女の手は震えている。
「いや、それは前金だ」
 霊夢はお茶を噴き出した。
「えほっ、げほっ! ……ま、前金?」
「ああ。お前がどうしようが。紫様はそれをお前に渡すらしい。そして、もし大会が終わるまで何もしないでいてくれるなら、それと同じ量の金と食料を更にお前に渡すと言っていた」
 霊夢が力強く湯呑を叩き付けた音が部屋中に響く。
「あんた……そんなもので私が動くとでも思ってるの?」
 拳を握りしめる霊夢に対し、藍は溜息を吐いて言い放つ。
「嬉しそうな顔をしているな」
「……当然でしょう」
 霊夢は藍が見たこともないようなにやけ顔になっている。彼女が完全に堕ちた事を藍は確信した。
 紙切れをまるで小判のように大切に袖へと仕舞う霊夢はにやけ顔を抑えきれていないまま喋る。
「で、でもどうして人間が参加できないの?」
「『格闘大会』という名目故、この大会では私達が戦いの時に使っているような弾幕を禁止するらしい。つまり腕っぷしだけの真剣勝負ということだ。当然弾幕勝負より派手に血が流れる。しかし殺し合いではなく、あくまでも祭事だ。肉体の損失による死の可能性が大きい人間は参加できない、というわけさ」
 今現在、幻想郷の強者同士でなにか争いが起こった際は、弾幕というものを利用した『スペルカードルール』によって勝敗を決めている。今回の大会ではそれがない、というのが藍の言だ。
「ふーん。でも、私や魔理沙が参加しても別にいいんじゃないかしら。私を殺せる妖怪なんて、せいぜい紫ぐらい――」
 霊夢が気が付いた時には、首横には小太刀の刃先が向けられていた。小太刀を右手に持つ藍は怪しげな笑みで霊夢を見据えている。
「試してみるか?」
「……あんたもいい顔してるわね。参加するのかしら。というより、格闘大会なら武器は禁止よ?」
「紫様の代理、と言えばいいかな。それに、武器は一つずつ用意してもいいらしい。天邪鬼の道具でも、更に言えばアリス・マーガトロイドの巨大人形でも『ひとつ』だ」
 藍は言いながら、小太刀を衣服に仕舞いこんだ。
「代理? あいつは参加しないの?」
「開催者である紫様は参加しない事になった。同様に古明地さとりもな。自分が参加したら、優勝者を予想する楽しみがなくなる。だそうだ」
「大した自信ね。鬼も参加するんでしょう?」
「これから呼びかけるが、まず間違いないだろうな。さて――」
 藍は立ち上がり、外へと出る。
「邪魔したな。紫様には、霊夢は快諾した、と伝えておくよ。今から幻想郷の者達に大会の事を伝えねばならんのでな」
 そして境内から飛び上がろうとするも、藍は突然霊夢の方に向き直る。
「そうだ。一段落したら、此処に戻ってきてもいいかな?」
「なんで?」
「なぁに。大会が始まるのは、予定では一週間後だ。それまでには身体を温めておきたいと思ってな」
「ふぅん。紫が参加しないからって、やけにやる気ね」
「暴力を振るえなくて欲求不満なのは、なにも鬼や地底の妖怪に限らない、というわけだ。それに私だって九尾の狐だ。紫様が参加しない以上、優勝しないわけにもいくまい」
「……あんたが思ってる程、この世界の奴らは弱くないわ」
「分かってるさ。だからお前と手合せしたいんだ」
 思わず目を丸くする霊夢に、藍は手を差し出す。
「よろしくお願いできるか、幻想郷最強の人間よ」
「……しょうがないわね。ま、なら私が食べ物を受け取ってる事は一切秘密よ」
「もちろんだ」
 手を握り合った後、藍は境内から飛び上がりあっという間に見えなくなった。
「ふぅん。……あーあ。今回は何だか暇になりそうね」
 そう言いつつも、賄賂故か本気の式神と戦える故か、霊夢は笑みを隠さないまま神社へ戻って行った。



コメントは最後のページに表示されます。