Coolier - 新生・東方創想話

黒幕、銀幕の央に輝いて

2024/07/27 17:48:33
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第一幕
秋。寂れた映画部

 とある大学の部室。入口には「映画部」と書かれたプレートが掛かっている。しかしプレートのペンキは獣にでも引っ掻かれたような剥がれ方をしている。中では男子大学生が数人、少し体を動かしただけで軋むような歪んだ椅子に座って駄弁っている。


部長「来年の学祭に向けた映画なんだが、次はミステリとかいいと思うんだ」
部員A「ミステリーっすか。この中の誰か一人でも推理物を読んだことってあるんすかね」
部員B「僕はそれなりに読んだことはありますよ。アガサ・クリスティの『そして誰もいなくなった』と『予告殺人』。あとはホームズと京極夏彦を何冊か。だから脚本を書こうと思えば書けると思うんですがね」
部長「なんだその奥歯に物が挟まったような言い方は」
部員B「前の映画、日常もので撮って鳴かず飛ばずでしたよね」

 部員Bは棚からディスクを一つ取り出す。

部長「あれはお前のせいじゃない」
部員B「別に責任を感じてるというわけじゃないですよ。そもそも現状だと成功させるには決定的に欠けてるものが一つあるってことです。なんだか分かりますか?」

 残り全員が同時に答える。

部長「華」
部員A「華」
部員C「華」
部員B「分かってるじゃないですか。野郎の大学生活とか見せられてもなんの需要もありゃしないんですよ。ミステリーを撮るにしたって殺す側か殺される側のどっちかに女性は必要ですよ。ポリコレとかじゃなくて商業的に」
部長「まあそうだな。しかし逆説的に言えば、女優がいたら撮れるってことだ」
部員A「この中の誰かが女装するとかどうっすか」
部長「鏡見てから言え」

 役者全員が髭が濃く生えた男性としか言いようのない顔を観客席に向ける。

部員A「冗談っすよ」
部員B「まあ女優問題は後に回すとして、設定はどうします?」
部長「学祭はゴールデンウィーク明けだから、それまでの期間を考えると、ロケは冬のうちに終わらせたいな。雪山のペンションってのはどうだ? ベタだが」
部員B「いいんじゃないですか? ありふれてますが、昨今はどこもありふれていない題材を探すのに必死なのでありふれたシチュエーションにこそ新規性があるってもんです」
部員A「問題は学生映画とはいえ殺人事件の現場に仕立て上げられるペンションが不憫ってことっすかね」
部長「そこは上手いこと許可採ってみせるさ。交渉スキルを買われてこんなオワコンな部活の部長の座を押し付けられた俺を舐めるなよ」
部員A「まあありがたいっすけれど大変じゃないです? たまには俺達を使ってくれてもいいんっすよ」
部長「ほざけ交渉スキルゼロ」
部員A「厳しいっすねえ。まあ許可採れるなら雪山は賛成っす。ついでに空き時間でスキーでも滑りましょ」
部員B「機材で荷物一杯になるのにその上スキー道具って運ぶ量多くないです?」
部員A「雪山でやることっていったらスキーかスケボーなんすから、脚本作ったらどうせスキー道具も機材の一つってことになるっすよ。それにスキー場でのレンタルって結構充実してるんすよ」
部員C「あの。熱心に映画と旅行の構想を練っているところ悪いけれど、さっきから椅子がキーキーうるさいのなんとかなりません?」

 全員椅子から立ち上がり、それで音は止まる。

部長「これはね、どうしようもないんだ。考えてみたまえ。まず部員が映画の役者にも足りないくらいしかいない。そんなんで活動実績作りに映画を撮っても観客は少ない。部費でも映画でも稼げないのだうちは」
部員B「でもまあ確かにいくら金欠だからって話し合うのに集中できないほどに椅子がボロボロってのも考えものですねえ。誰か自腹切りません? 椅子代工面してくれる人ー」

 誰も手を挙げずしばし沈黙が流れる。

部員A「こりゃ来年度の終わりには廃部っすかね」
部員C「そのようですね」
部長「そんな泥舟についてきてくれる君達には申し訳ないと思っているし感謝してるよ」
部員A「そんなそんな。映画好きとしてエンドロールまで見たいってだけっすよ」
部員C「僕が一番の後輩だけれど申し訳なく思わなくていいですからね。兼部しているからここが終わっても路頭に迷うってことないんで」
部長「あ? 言ってろ言ってろ。俺が女優見つけてミステリ撮ってやるよ。次がラストと思うな。どのみち来年度で卒業する俺はともかく、お前達にとっちゃあせいぜい今は起承転結の起か承だ」

 部長が乱暴に部室の扉を開けて出ていく。部長が舞台の袖に消えたところで照明が消えて暗転。


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