Coolier - 新生・東方創想話

黒幕、銀幕の央に輝いて

2024/07/27 17:48:33
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第四幕
五月 学園祭

舞台の中央に映写機が一台客席を向けて置かれている。映写機の後ろの椅子に部員Cが座っている。横にもう一脚椅子があるが、部員Aは座らず立っている。


部員C「開演の時間が近づいてきましたね」
部員A「そっすね」
部員C「いやあ、ドキドキしますねえ」
部員A「ドキドキするっつったって、こちとら時間に合わせてこいつ操作して、で異常なかったらそれで終わりじゃないっすか」
部員C「そう思ってるんなら舞台挨拶の方に行けばいいじゃないですか。映写機操作するだけなんだから一人で足りますって」
部員A「面倒。それにお目付け役がいた方が安全っすからねえ」
部員C「そんな子供じゃないんですから」
部員A「酒と煙草はまだ駄目な年齢じゃないっすか」
部員C「民法上は大人ですよ」
部員A「大人っすかね? まあいいや。あと今回の主役はどう考えてもレティさんっすからね。私めみたいなのは裏方日陰者で丁度いいんすわ」

 部長が走って入場。

部長「レティは来てないか!?」
部員C「いや、来てないですね」
部員A「というか、この部屋の場所からしてこっちから入る人なんてまずいないっすよ。部長達がいる黒板側の出入口が建物の入口に近い側なんすから、そっちに来てないなら来てないっすよ」
部長「まあ、そうなんだろうなあ。しかし困ったな。彼女にも舞台挨拶をしてもらう手筈だったわけだが。代わりにお前やらないか?」
部員A「えー、めんど……いや考えてないっすよ」
部員C「言い訳になってない……。まあしかし、来ていないなら来ていないでしょうがないんじゃないですか? 別に誰が舞台挨拶をするのかは告知もしてないですし」
部長「確かにそれもそうだが……。いかんな、時間がない」

 部長は走って退場し、部員Aが椅子に座る。

部員A「心配っすねえ。俺やお前なんかよりよっぽど社会性がある子だからドタキャンとかじゃねえとは思うんすが」
部員C「社会性のない側に勝手に僕を含めるのはやめてください。まあレティさん体弱いそうですし休学期間中って言ってましたから当日になってしんどいってこともあるんでしょう。それはそれで心配ですが」

 部長の挨拶が聞こえてくる。

部員A「始まったっすね」
部員C「そうですね。結構盛況じゃあないですか」

 拍手の音。

部員C「終わったらレティさんの見舞いに行きましょうよ。沢山お客さんが来たっていう土産話込みで」
部員A「見舞いに。いいっすね……。ん? 提案するってことは彼女の家知ってるんすか。いやー、なかなかどうして隅に置けないっすなあ」
部員C「いや僕も知らないですよ。変なこと言わないでください。部長なら知ってるんじゃないですかね」
部員A「どうっすかねえ。やりとりはメールなりLINEなりで完結するっすからねえ。住所までは聞いてないんじゃないっすか? 部長って割とそういうところはお硬いっすから」
部員C「あーそうですねえ。残念。と、時間ですね」

 部員Cが映写機を再生する。かすかに風の音が聞こえる。

部員C「この音は……?」
部員A「天気が荒れてるんすかね。ぶっちゃけ上映を想定した映画館じゃなくてただの講義室っすから外の音が入るのはまあ仕方ないっす」

 「雪だ、雪だ」という叫び声が遠くから聞こえる。続けて「只今映画上映中ですのでお静かにお願いします」という部員Bの声。

部員C「ひょえー。雪ですって。こんな季節に雪なんて降るんですねえ」
部員A「北国っすからなくもないっすよ。まあ雪が降るってだけでも十年ぶりとかのはずっすけど。それになんかただの雪でもないっぽいっすよねえ。吹雪いているっぽい」
部員C「雪山を題材にした映画のおかげで周りの音の違和感がいくらか薄れるのが不幸中の幸いですね。まあ雪から逃れてここに入ってきた人にとっては二重にとんだ災難でしょうが」

 強い冷房の風が流れる。

部員A「壁が薄いんすよねえこの建物。外の音は聞こえるわ気温の影響モロに受けるわでたまったもんじゃないっすわ」

 冷房がさらに強まる。舞台に雪が舞う。
 二人は沈黙している。暗転。レティが笑う声がかすかに聞こえる。


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