三食目『聖夜に君と』
クリスマスに、メリーが変な服を着てきた。なんでも、彼女の地元ではクリスマスにそういうダサいセーターを着るのが通例らしい。
向かいに座ってナイフとフォークでチキンを食べるメリーは、服さえ見なければ上品でお嬢様そのもので、どうも勿体ない。去年の話である。
そして今年はというと、わたしがそのセーターを着せられた。その経緯は……まぁ話せば長くなる。
十二月二十四日、クリスマスイブの日の事。この日は珍しくメリーから電話がかかってきた。要件はクリスマスのことだったが……。
「明日は私の家に来てほしいの。旧型酒も取り寄せられたし、蓮子も暇でしょ」
「暇って決めつけられるほどでもないけど……まぁ特段用事もないし良いよ。明日はメリーの家ね。わかった」
「あ、あとちゃんとプレゼントも用意してね。交換するから。けっこう楽しみにしてる」
「急だねぇ、今から買って来いと?」
「蓮子の事だから、きっと前々から準備してると思ってた」
「あるけども……期待はしないでね」
とまぁこんな感じで当日の予定は簡単に決まっていttsのだった。
メリーの部屋は、たぶん昨日のうちに飾りづけを済ましたのだろう。きれいにクリスマス一色になっていた。持ってきたプレゼントは、部屋の隅に置かれたツリーの下に置くよう言われた。そっちのほうが雰囲気が出るからと。
それからはチキンを食べたり(本当は七面鳥が食べたいのだけれど、売ってないし二人では食べきらない)ケーキを食べたり(乗っていた飾りはじゃんけんの結果わたしが全部食べた。メリーは若干涙目だった)取り寄せてた旧型酒を飲んだり(かなり度数の高いものらしくメリーの顔は真っ赤だった)した。
「さて、お待ちかねの二人だけの大プレゼント交換会をやりましょう」
「メリー大丈夫?相当飲んでフラフラじゃん」
「大丈夫大丈夫。ほらほら持ってきたもの出す準備して」
酔った人の相手をするのは正直めんどくさいけど、クリスマスだしいっか。
「はい蓮子が用意してくれたプレゼントは何かな~」
「たぶんこれから使うことになると思うけど」
「おっ?これは……?」
わたしからメリーにあげたのは手袋だ。手編みではないけど。
「最近寒くなってきたからありがたいねぇ。大事に使わせてもらうわ。じゃあこんどは、私の番ね」
「開けても?」
「うん、もちろん」
丁寧に包装された袋から出てきたのは、赤い地にカラフルにモチーフが入ったセーターだった。俗にいうクソダサセーターだ。
「これは……えっと……」
「もう、今すぐ着て!すぐ!」
「は、はい」
クリスマスリースやサンタの模様が入って今の時期しか着られないようなセーターは、着てみると暖かく、肌触りも心地良かった。
「それね、私が編んだの」
「えっ???」
「うそ。普通にお店で買った。去年は蓮子に馬鹿にされたからその仕返し」
「あぁ、そんなこともあったね。その時はゴメンナサイ」
「もう気にしてないけどね。でもそういうの似合うと思ってたから、着てくれて良かった」
サイズもちょうどよくぴったりだった。特に服の事を訊かれてはいなかったので、普段からよく見ているのだろう。それはそれでなんかうれしかった。
と、こんな顛末でわたしは『ダサいセーター』を着ている。まさか自分が着る羽目になるとは……。記憶に残る良いクリスマスになった。