Coolier - 新生・東方創想話

秘匿のグルメ

2025/02/28 12:03:08
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  二食目『Cafe de Ciel ~大空喫茶~』
 超高層ビル、三十階に位置しているカフェがある。そのカフェにはある一つの特徴があった。
 私は今日、蓮子に何も言わずに秘封活動をしようとしている。理由は簡単だ。
 半端ではないほどにお金が掛かるからだ。たぶん出せない額ではないのかもしれないけど。そんなわけで今回は一人調査だ。向かう先は最近話題のCafe de Cielという店。値段も店がある場所も高いが、女子高生や若いカップルに人気だそう。複数人で行くのがおすすめとのことだったけれど、今回ばかりは仕方がないかな……。
 ビル自体特殊な作りになっていて、三十階に上がるためには一度、二十九階から階段で上がらなくてはならない。しかも外壁に付けられている階段だ。つまり外。なんでこんな大変なところなのに人がたくさん来るのだろうか?(ちなみに階段で行かなくてはならない階は三十階だけだ。ますます不思議だ)
 エレベーターホールにある階層案内にはこのカフェ以外に有名高級レストランや全国に展開されているファミレス、さらにはベンチャー企業のオフィスなど様々なものが入っていることが示されていた。
 三十階。というと大体120mくらいで。数字を知っているからか、実際に見ると余計に怖い。階段を上っている間も強い風が吹いてきた。周りの建物より頭一つ分高く景色がきれいな筈なのに全く見る余裕は無かった。
 そんなこんなで苦労してたどり着いた店内には照明が数えるほどしかなく、全体的に暗い雰囲気に包まれていた。窓際の席に案内され、メニューを見ていると
「相席大丈夫ですか?」
と声が降ってきた。顔を上げて見てみると、なんと蓮子だった。
「えっ??なんでいるの?」
「なんでって、偶々だよ。偶然ここに来たらメリーがいた」
「そ、そうなの……」
悪びれる様子もなく私の相向かいの席に座った蓮子は、すぐさま店員を呼んだ。
 飛ぶような速さで来た店員に負けじと早口で呪文のような飲み物を頼む蓮子。対して私はというと、碌にメニューに目を通していないので「カフェオレで」と言ってしまった。
「で、なんでここに?」
「さっきも言ったじゃん。偶然だよ」
「はぐらかさないで。正直に言って」
「……」
「なんで?」
 まぁこれ以上問い詰めても何も出ないだろうし、この感じはたぶん本当に偶然なのだろう。
「来てても別にいいけど、来たからにはここの事調べるの手伝ってもらうからね」
 と口論(?)していると頼んでいた品物が運ばれてきた。気持ちを切り替えたかったのでありがたかった。
「お待たせいたしました。こちらカフェオレになります」
運ばれてきたのはカフェオレ二杯だった。
「あのカフェオレは一つしか頼んでないと思うんですけど……」
「いいからメリー。店員さんすみません、これであってます。ありがとうございます」
 蓮子がこれで良いと言うので、おとなしく引き下がることにした。にしても蓮子が頼んだのは絶対にカフェオレじゃない。もっと名前が長い奴だ。
「どういうこと?カフェオレ以外のやつ頼んでなかった?」
「いや、これで良いんだよ。わたしは、カフェオレを『カフェオレ』と言わずに注文したの」
 ……なんで今日に限ってこんなに変なのだろう。いやここで話を止めるわけにはいかない。そうじゃないとこのカフェの調査が進まない。
「それで。メリーはこのカフェについてどんな話を聞いてるの?」
「うん、私もちょうどその話をしようと思ってたの。えっと私が聞いてる内だとここの概要、三十階だけ階段なところとか後は最近話題で、超がつくほどの人気店」
「階段は……なんでそうなってるか考えたことある?」
「いや、全く。そっちのほうが雰囲気でるからとかかしら」
 実の所私は「この店への調査」というのは自分への建前で、ただカフェに来たかっただけなのだ。まぁ蓮子もそんな感じだろう。お互い流行りのカフェに行ってみたかった、それだけだろう。
「実はさ、このビルがある場所って、昔お寺だったんだよ」「ブフッ……げほっ……。ごめん。今なんて?」
 思わず飲んでいたカフェオレを吹き出してしまった。
「いや、このビル元々は大将軍八神社があったところに建てられてるんだよ」
「それが階段の話と関係あるの?」
「もちろん。その神社は、天文学とも深い関わりのある陰陽道を重要視しているとこで、ほら安倍晴明とか聞いたことない?」
「ある。でもそれがどう関係してるのよ」
「まぁまぁ、落ち着いて。順番に説明していってあげるから」
「天文学は、今でこそ星の動きを観測して位置を探ったりする学問だけど、昔はそうじゃなかったの。どっちかっていうと占いとか易学に近いもので、吉凶を見るために使われたのね。当時は、それこそ不吉なことがあったら風水に則って遷都するくらい、国を挙げて占いに全力投資していたのよ。そんな『国の今後を占う』場所で星が見えなかったら?」
「……国が廃れるかもしれない」
「そう、この店が暗いのも星を見るため。アンティークな飾りみたいに見えるあの望遠鏡も使えるものなのよ」
 そうなのか……。街の景色を眺めるため見下ろすためではなく、その逆の、星を見上げるための物だったのか。いや、それなら
「それなら、階段はどう説明するの?」
「ここが元々神社だったのはさっき説明下よね。神社は『神の存す所』。俗世とは境界が必要なのよ。地上では、それは鳥居がその役目を果たすけど、ここにそんなものを置く余裕はない。だから敢えて二十九階を何もない誰も立ち入れない空間にすることで物理的に隙間を作ったのよ」
 なんだか、ただのカフェ巡りの一環で来た私がバカみたいだ。そんな【意味】のある場所だったなんて。知ったからには、容易に来ていい場所に感じられなくなってしまった。
「ま、そんな理由のあるこの店だけど、それを知ってて来る人なんてそうそう居ないから。メリーも今後安心してここにくると良いよ」
 ……バレてた。見透かすようなことを言うのは蓮子らしい。
「ごめん。さっきは調査とか言ってたけど、実は普通にこの店に来たかっただけなの。誘わなくて本当にごめんなさい」
「いやぁ、いいんだよ。ここ奢ってくれるなら気にしないからさ」
 やっぱりか。下手に嘘つくんじゃなかった……。

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