がんばれ椛ちゃん 3
ひとを轢いてしまった。あれから、椛の頭のなかはそればかりだった。もはや乗る資格のないスクーターを返却しにきた今でさえ、椛は茫然自失として、友人たちの声も耳に入っていない様子でいる。
「まいりましたね。こうも落ち着かないんじゃ、慰めようもありませんよ」
「まったくだよ。轢かれた子も無事だったのに、轢いた側がこんなじゃなあ」
河童と鴉天狗の両名だった。前例の無い轢過事故はすぐに山中の噂になった。噂は噂のうちに留めておきたい河童と、噂をすぐにでも拡散したい鴉天狗が金の話をしているときに、茫然自失の椛がやってきたのだった。
「とにかく椛に落ち着いてもらわないと話になりませんよ。にとりさん、なにかありませんか」
「あるとも。なんせわたしは言葉に詳しいから」
にとりは自身ありげに口を開く。
「椛、ちょっとほら。深呼吸してごらん」
「……どうですか?」
言われたとおりに深呼吸をする椛に、鴉天狗は好機のまなざしを向け尋ねた。
「……たしかに。少し落ちつきました」
完
最近言葉に詳しいにとり好き
もはや椛はいじめられているのではないか