Coolier - 新生・東方創想話

ファイト!

2024/09/14 14:53:56
最終更新
サイズ
13.6KB
ページ数
5
閲覧数
875
評価数
5/8
POINT
600
Rate
13.89

分類タグ



   がんばれ椛ちゃん 2
 
 たしかに鬱蒼としてはいる。しかしなんてことのない林道だった。だいいち、ちょっと見てきてくれとは、どういった類の任務なのか。たとえば入隊したばかりの新入りの様子を見てきてくれ、なら理解はできる。不出来を慈しみ、手取り足取りをすればいい。整備したての何もない林道は、いったいどうすれば見たと云えるのだろうか。椛は周囲を訝しみながらゆっくりとスクーターで進む。ヘッドライトだけでは心許ない感じもしたが、押して歩くのも面倒に感じる。とりあえず、とりあえずで奥へと進む。
「暗いところ行ったら怖い目に遭いますよ」
 ふいに思い出したそれは件の鴉天狗が吐いた呪いの言葉だった。怖い目、というのは漠然としていたが、呪いとしては十分に機能する。椛の友人たちは交遊のさなか、話題がなければとりあえず椛に呪いをかけた。寝るときの目の位置、舌の置き場……シャワーを浴びているときの背後霊について。もちろん椛は寝るときに目の位置に違和感を覚えたし、舌の置き場にも困った。シャワーを浴びるときは極めて仰向けになることを心掛けていた。そしていま、林道は暗かった。ともすれば、自分は怖い目に遭うかもしれない……。林道は次第に暗さを増し、木々の密度が増してきた。霧がどこからともなく漂い、ヘッドライトの光がぼんやりとにじむ。椛の耳に届く音は、スクーターの小さなエンジン音と、時折かすかに聞こえる風の音だけ。それが逆に異様な静けさを際立たせ、空気は重く、冷たい。思えばなんか「テン、ソウ、メツ」みたいな音もしていたし、視界の端に首と足のない白い宇宙人みたいなシルエットさえあった。こ、こわすぎる! 思わず椛はアクセルを全開にした。その瞬間、ヘッドライトが人影を照らす。
「うおおおああああああ!!!」
 悲鳴は山彦のようにこだました。

コメントは最後のページに表示されます。