A-1:円軌道の幅 (Edit)
阿求お気に入りのわらべ歌のレコード盤の溝がなんだかおかしくなってしまったらしく、レコード針が同じ場所をぐるぐると巡り続けて、奇妙に妥当性があるようなないような、異様なフレーズの一周を繰り返すようになった。
「曲のぶつ切りになった部分の頭と尻尾とが、偶然同じ音だったのよ。だから、変なところで始まった終わりが、始まりの部分で終わる感じになってる」
と、わずか数秒のループを、感じ入ったように何千回と聴きながら彼女は呟いた。そんな友人の奇行を、小鈴は呆れ半分で眺めるのもやめて、この稗田の主人の選りすぐりのレコード棚の方に目を向けた。
けして大きくない棚の内容は、つつましいが粒ぞろいだった。それに、入れ替えが頻繁に行われている様子もあって、この書斎の目に見える部分でしかない事を予感させている。彼女のお気に入りから外れてしまった盤は、蔵の中にでもしまいこまれてしまうのだろう。
「よく飽きもせずに聴き続けられるわね」
「飽きる理由がないわ」
阿求はニンマリと笑いながらそう言って、今の何千何百何回めのループで起きた、フラッターめいた微妙な音のよれは何百何回めのループのものと酷似しているといった事を言い当てた。その真偽を確認するすべが、小鈴にはない。
「繰り返される音に、一つとして同じ音がないからね。あんたの耳には同じようにしか聞こえないかもしれないけれど、記録っていうものは受け手によっても随時変わっちゃうものだし」
「頭のいい人の脳みその中はわかんないわ」
小鈴は呆れ半分で眺めるのもやめて、この稗田の主人の選りすぐりのレコード棚の方に目を向けた。
けして大きくない棚の内容は、つつましいが粒ぞろいだった。それに、入れ替えが頻繁に行われている様子もあって、この書斎の目に見える部分でしかない事を予感させている。彼女のお気に入りから外れてしまった盤は、蔵の中にでもしまいこまれてしまうのだろう。
「よく飽きもせずに聴き続けられるわね」
「飽きる理由がないわ」
阿求はニンマリと笑いながらそう言って、今の何千何百何回めのループで起きた、パチパチはぜるようなポップノイズが、何百何回めのループのものと酷似しているといった事を言い当てた。
その真偽を確認するすべが、小鈴にはない。
(了)