Coolier - 新生・東方創想話

できそこないラプンツェル

2024/07/20 18:52:07
最終更新
サイズ
31.06KB
ページ数
4
閲覧数
1193
評価数
3/8
POINT
520
Rate
12.11

分類タグ


ひとりぽっちでいると、ちょっぴりさみしい

(草餅を咀嚼する音)
(お茶で流し込む音)
(ふう、とひといき)

……えーと、霊夢の質問の再確認だね。正邪が最近なにかやらかしたか? だったよね。
まあ~アイツは常にやらかしているというか、やらかしていないと死んじゃうようなヤツだからなあ……。
えとね、最近までたらし込みしていたんだよ。
え? いやいや冗談じゃないって!
霊夢は解らないかなあ……アイツって、結構たらしだよ?
自分の目的のためなら甘言おべっか、御機嫌取りとまあ上手いこと使い熟すもん。
実際、私もそれにやられたわけだし……まあ、アイツはわたしに関しちゃ後悔しているだろうけどねえ……ふふん!
それでさ、アイツのそういうところの先を見たヤツで、稀に“刺さる”のが出るのよ。
私とか、霊夢とか。
え? なんじゃそりゃって……だって霊夢、正邪の事気に掛けてるじゃん。
そういうのじゃない? そっかー……まあ、そこは深掘りやめとこか。
アイツのたらしはその甘味処で働いているときだよ。
え? ちがうちがう。
お店にやってくるやつばらではないよぉ。

「今日もお疲れさん。しかしお前、猫被ったときの芝居が本当に上手いなあ……」
「たりめぇよ。此方人等たったひとつそれだけで三千世界を嫌渡り(きらわたり)抜いた天邪鬼様だぜ。歴が違わぁ。商売女の真似事なんてなお茶の子済々塞翁が暴れ馬よ」
「……それで、約束の三日目になったが今日で終わりで良いんだな?」
「なあ、お赤ちゃん」
「ちょっとやめてよ。お前に言われると背中がゾワッとする」
「ヒヒ……なあ、あの屋敷」
「――ああ、甜瓜邸?」
「まくわうり?」
「そう、甜瓜さん。商売やっているのよ……って見れば解るか。商売繁盛な織物問屋」
「ふうん」
「あすこがどうかしたのか」
「いや……うーん、なぁ、まだ熱りが冷めた気がしねえし、もう少しだけこのままで――」
「お、マジで? そりゃ勿論働いてくれるって事だよな?」
「え、お、おぅ」
「いや~助かるわ! どうやって切り出そうかと思ってたのよ。あんた……お正ちゃん目当ての客がまたぞろ増えてさ、人手欲しくて呼び込んだ猫が小判を咥えていたってなもんで店主が少しでも長く働かせて欲しいってわざわざ頼んできてねえ」
「ふぅん」
「気のない返事だな」
「野郎の御機嫌取りなんて、ちょいと愛想振りまけば誰にだってできらぁ。褒められたとは思わんぜ」
「天邪鬼だねえ……まあいい、ウチで寝泊まりするのは幾らでも構わないよ、こっちも助かっていると、そう言いたかったのさ」

……甜瓜邸? うん、あの店の、通り向かいにある大きなお屋敷だよね。一階が織物問屋で二階建て。そうそう、霊夢も知っているのよね。
どうしたの、霊夢?
話し続けて良い?
……それでね、正邪はもうしばらくの間働いたのよ。
私はこの会話を聞いていた……この段階でアイツを見付けていたんだけどぉ、見付けて、キャーってなって、なんとか映像に収められんかとか、のうてんきに悩んでいたら……アイツが姿を眩ましちまった。
お赤……蛮奇ちゃんも困って怒っていたなあ……ったく、ほんと迷惑かけることに関しちゃ天才的なヤツだよ! 自分の価値が高まった途端にアレだもの。
ああ、うん、その理由だね。

――甜瓜邸の二階、半ば開いた雨戸。

アイツを見付けた日からずうっと監視していたんだけど、正邪のヤツ、働きながらもちょくちょくそっちを気にしてた。
だからね、予感はしてたんだ。
ふふ、我ながら鼻が利くようになったものだよ。ああ、こりゃあそのうち何かやらかすぞ、と直感できるようになったよね。
アイツが夜中に忍び込むのを、わたしも追っかけていったんだよ。
瓦屋根の上に載って、半開きの雨戸をするりと抜け入る……そういえば、夜中も開いていたなあ。不用心だよねえ――え? 本来は開いていない?
え、そんなことないよぉ。
だって正邪は普通に抜け入ったもん。わたし、後ろから覗き込んでたから確かだよ。
……疑ってない? 中にいたものが許可したから?
……へえ……。
あの子がねえ……。
そう、中にいたのは……女の子だったんだ。
雪みたいに白い肌と、髪まで白くてねえ、雪の妖精かなにかと疑う感じだった。まぁ……美少女だよね。ちと悔しいけど。

「こんばんは」
「……あ……」
「あ、じゃねえよ。お前、ずうっとわたしを見ていただろう。何か用か?」
「…………」
「なんだ、だんまりか」
「おめ……はくれいのみこ?」
「………………ん?」
「…………」
「ちょ……いやいやいやいや、わたしが!? 博麗の巫女!? え、なんで、どうしてンなこと言い出すんだ?」

そう、その子は正邪を霊夢と勘違いしたの。
ありえなくない?
……って思ったんだけどもねえ。

「ちげのが?」
「違うも違わんも……どうしてそう思った?」
「気配……気配がすた」
「気配、ねぇ……ふむ……」
「……ちげのが? へば、おらのまちげだが」
「そうか、わたしを呼んだのは、博麗の巫女と思ったからなのか」
「…………」
「まぁただんまりかよ」
「よんでね」
「フン、まぁ呼んではいねぇよ。だけどもお前、あんな風にじいい……っと見られ続けてみろよ、気になるんだよ。なんか言いたげな顔しやがって……」
「…………」
「まぁいいや。で、どうしておまえ、こんな座敷牢に囲われているのよ」

……正邪って、時折物凄く勘所が良いときあるよね。
わたし、正邪がそう言うまでそこがなんなのか解らなかったもの。
いや、正邪は……自分がちょくちょくお世話になっているから悟りやすかったのかなあ?
でもおかしいよね、二階の窓の或る部屋をそんな目的で使うなんてサ。窓から顔出して「助けて!」って言えば済む話じゃん。
……え? あの子にはそれができない?
霊夢、あの子知っているの? え、知らない?
もー、なんなのよ。知らないのに知ってる風に言うなんて。
……解った。とりあえず全部話すから、そしたら霊夢も教えてね?
ちなみにわたしは部屋にまでは入らなかった。霊夢のその話じゃ入ろうと思っても入れなかったのかな?

「……囲いじゃねえ」
「じゃあ好きで此処にいるってか? とんだ変態だな」
「そいでもねえ」
「ハッキリしねえ奴だなあ。まあいいや、ともかくジロジロ見るのは止めてくれ、此方人等人気者でね、人の視線が気になるのさ。お前みたいな熱持った視線はなんというか、刺さるンだわ」
「おめ、ほんとに博麗の巫女でねのが?」
「しつっけえなあ……だいたいそんなモンそんだけジロジロ見て……りゃ……」

少しだけ沈黙した。
その後の、正邪の声が凄く優しくなったのをよく憶えてる。

「お前ェ、盲か」
「…………」
「あー……すまん。迂闊な物言いだった」
「気にさねでけれ。おらが悪(わり)がった。もう見ねがら」
「あー……いやそのなんだ、見るなとは言ったがお前ェのそれが、ほら、言ったろ。わたしは人気者なんだ……なにしろ“博麗の巫女”ってのもサァ、隠しておかなきゃイロイロほら……面倒事も多かろう? だから、普段は身分を隠しているちゅうわけよ。よくぞ見破ったな、ハハハ!」

……聞いてるこっちが頭抱えたくなるような苦しい騙りだったよねえ。
笑いを堪えるのに苦労したよ。
でもね……その子は信じたんだよ、天邪鬼のヘッタクソなウソを。

「おお……やっぱり博麗の巫女さまだったか」
「フッフッフ……頭が高いぜ座敷童の小娘が」
「ははぁー、さすが巫女さま、おらのごともわがるのけ」
「おうよ、わからいでかぁ」

で、続いて驚いたのは正邪の言葉。
その子が座敷童って解っていたのよ。
だからああして忍び込んだのかなあ……ねえ霊夢、座敷童って正邪の役に立つような子なの?

「……で、博麗の巫女さまになんぞ用事かよ、妖怪童(わっぱ)」
「ん……いや、お話がしたかっただけだァ」
「ふぅン? よかろ、相手になってやらァ。なんぞ聞きたいことでもあるのかよ?」
「外……お外は、いま、春だが?」
「いンや、春は過ぎちまったよ。いまはすっかり夏模様さ」
「夏かぁ、ぬぎがぁ?」
「……えぇと、暑いか? ってか。そりゃあお前ェ、夏は暑いと決まってるさね。ンなもん、部屋に引き籠もってても解るだろうよ」
「おらの肌はよわいから、彼岸のおこりがわがんねぇ」
「…………そりゃあ箱入りも止むなしってなもんだなァ、おい?」
「うん」
「夏は……」
「……夏は向日葵に襲われる季節さァ、気をつけろ、太陽の畑ってとこの向日葵は、顔からビームを出して襲って来るンだぜ?」
「まさげぇ」
「マジだって、わたしァそいつに数日かかりきりだったんだから。そこにいるよ、おっかねェ花の妖怪と戦ったンだ。もうちょっとで退治するまで追い詰めたがよ! 逃げられちまった」
「へええ……そいは……こえぇなぁ……」
「へへへ、気をつけなァ、お前みたいな可愛い子は食べられちまうぜ」

聞いた?
あの正邪がね、「可愛い」って言ったのよ!
キーッ! あ、まあ、芝居しているんだからおべっかかもだけど!

「夏はこえぇのけ……」
「……だけども飯は美味い季節だわなぁ、冷やした西瓜に赤茄子つけて、素麺に鮎に岩魚に鰻、膨れた腹に追い討ちたっぷりの黒蜜をかけた心太をちゅるりとやりゃあンマッ! 最高!ってなモンだぜ」
「……ゴクリ」
「へへへ、想像したか?」
「うん……でも、あんまり食うと腹ぁこわすど」
「ケッ! ガキなんざァたらふく食って、腹壊して、ピーピー糞垂れたらぐっすり寝りゃあ良いンだよ。そうだ、明日ァ心太持ってきてやらぁ。わたしの気配しか見ていなかったのかもだが、わたしァソコの下にある店で働いているんだ」
「……? 巫女さまが?」
「あーっ……ええと、ほら、宗教活動ってぇヤツよ。店で働きつつありがた~い念仏唱えて托鉢を受けるのさ」
「へええ……ごんげぇだあなあ……あ、あ、あ、明日もきてけるが?」
「ああ、いいともさ。お前さんはどうやらおれっちのファンらしいからなァ?」
「えへへ……」

なんか聞いてられなくなって、わたし、この辺で離れちゃった。
……いやっ? ヤキモチなんかじゃないよ? ないからね!?
なんであんな小さな子に……あ、そうそう、小さな子だったのよ。まあ、妖怪なんて見た目じゃ計れないけれど、あの喋り方、無邪気な感じは見た目相応に見えたなあ……。
……正邪ってよくわからんトコあるよねえ……あんな小さくって自分の役に立ちそうにない子にさあ、わたしみたいに取り入る気でもあったのか……いや、ヤキモチじゃないからね!?
ともかくね、その日からしばらくの間、アイツは夜中、甜瓜邸の二階の半開きの雨戸を潜って白い髪に白い肌に白い目のおんなのこの処に通ったのよ。
次の日は本当に店からお土産として買った心太を持参して、次の日は鮎と岩魚と鰻、その次の日はおんなのことのおはなしで聞かれた向日葵(レーザーは出さない)とかをね。
本当、献身的だった。

「巫女さま、今宵もようこそおいでくだすった」
「おう、今日はヌル草の酢和えと山女を持ってきたぜ」
「うふ……巫女さまがもってきてけるものぁ、どれもめんけくてついついくてまう」
「おうよ、たらふく食え。そんな細っちいナリじゃあ婿のもらい手も見つからねえぞ」
「婿……」
「ん? どうしたよ」
「巫女さま、おらをもらってくれねえか?」
「あァん?」
「…………」

ヤキモチなんてしてないからね!
……なあんてね、流石にわたしだっておかしいなあって思ったよ。
まだ知り合って二つの手指で数えられる程度の仲なのに、いきなり貰ってくれとはねえ。
ねえ、霊夢、そろそろ教えてよ、あの子のこと、何か知っているのでしょう?


コメントは最後のページに表示されます。