Coolier - 新生・東方創想話

くはふこ、紅白

2023/07/06 08:30:17
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次の日からも特に変わらない日常を過ごす。
変わったことと言えば、処理効率を早めたことくらいだろうか。
暇だったし、他にすることがあるでもなかったし。
それでも武器を使うことはやめなかった。自分の精度と集中を確かめるのには丁度良かったし、やはり思い通りにちからを動かすのはそこそこ楽しいからだ。
そして、教わったはずの神道についてのことや術の知識なんかは程々にこなし、自分が必要のないときは、概ねだらだらと過ごすことにした。

――何かを期待しすぎないこと。

それがのんびりと生きる秘訣だ。
淡々と過ごす日常。
暢気な平穏。
素敵な日々。
妖怪は殺す。
人々は護る。
規則は全うする。
だが……どうしようもなく退屈なのは何故だろうか。

暇を持て余し始めた私は考え始めていた。
何故人々は生きるのか。
何故妖怪は喰らうのか。
何故此処は美しいのか。
何故――。
正解などありはしないのだろう。
それは、それぞれが持っているものだから、それぞれの数だけ存在はする。言葉によって意思によって鍛えられたり解かされたりして堅かったり柔らかかったりする、それこそが千差万別な世界の真理。
だからこそ、ぶつかり合うのは避けられない。
そして多くの場合、ちからもつものがそれを定めるのだろう。
だったら私は、結構強めの決定権を持っているのではないかしら?
そして、私はそれそんな周りの現状を、酷く退屈に、ひどくつまらなく感じているのだ。
だって、なんでも思い通りになるなんてつまらないでしょう?
欲しいのは、対価だ。
欲しいのは、対話だ。
欲しいのは、対象だ。
なら、誰もがそれを振う場を造りたい。
できるだけ、平等に。
できるだけ、簡潔に。
できるだけ、鮮麗に。
紫が何を考えているかは識らないけれど、それを試すには此処は良い処よ。

……そんな或る夜のことだ、紅い霧が発生したのは。
「異変」と呼ばれるおよそ面倒臭い出来事に、これから何度も何度も振り回されることになるわけだが、それにあたり、私はある考えを以て解決へと赴いた。

「こんばんは」
「ついてくるなよ~……えっ? あ、こんばん……は?」

紅霧異変と後に呼ばれるそれの元凶は、いつのまにやら建っていた、湖の畔にある大きな館から起きるなんらかの影響である。そこまでなんとなく察してやってきた。
私の目的は当然幻想郷の巫女として異変解決なのだが、もう一つある。

この異変の前に、もう一つ、大きな事件があった。
……此処の主の吸血鬼が、突如何処からかお引っ越ししてきて、妖怪どもを次々手下に加えて大暴れしたとかなんとか。
後から紫に直接聞いた。
吸血鬼というかなり強力な妖怪が幻想郷に棲み着いたこと、
かなり「やんちゃ」が過ぎたこと、
自分達の力で鎮圧したこと……。
私に要請がなかったのは妖怪同士のいざこざであったからだとか。
まあ、ウソだろう。
私がその事件を識ったのは事後だった。
なんか最近妖怪の悪さが少ないなあとか思いながらお煎餅囓ってたからなあ。
私が出張って解決したら、吸血鬼の手下になった妖怪たちを一掃されかねないと、きっと紫は考えたのだろう。まあ、話を聞いたときはそのつもりだったし。
いっぺんに悪さする妖怪が同じ場所に沢山集まるというならば、探し回らず事件を待たず、実にラクチンだったのに。
その後、吸血鬼はきっと紫と何らかの交渉をしている。
その内容について興味はあれど、それはまあ良い。
いま大事な事は、私が此処の主と直接逢うことだ。
みんな、いつもなにかが起きてから護れという。それなら事件そのものを起こす原因をぜんぶ取っ払えば良いのではないかと、たまに考えてしまう。
その為に、殺すのか? 私は残務処理のために巫女を続けているというのか。
事件の詳細を紫から聞いて、ある閃きをもったのはそんな矛盾の答えを探しているときだった。
紅魔館と呼ばれるらしいその館の門番に向け話しかける。さっき途中であって、道案内代わりにさせていたんだけどね。

「館の主はいるかしら」
「はい、いらっしゃいますよ」
「じゃあ此処を通してくれる?」
「勿論それはできません。通りたいなら力尽くで――となりますね」

見たことない風体の妖怪はそう言って、見たこともない身体の使い方で、構えた。
外来の妖怪って面白いな。
そう思いながら軽く手を振る。

「殺る前に聞いて良いかしら?」
「ええ、どうぞ。なんなりと」
「あんた人を食う?」
「え、えぇ、まあ……でも最近はあんまりですね…」
「なんで?」
「え…えぇと…良いのかなあ、言っちゃって…館に、人間が住んでいます。皆、少しだけ気を使っているのかもしれません。でも人間を狩ってくるのはその人間なんですけどね……」

受け答えも面白い。
やっぱり、今までの妖怪たちとは少し違う。
やはり計画は、ここで打ち明けて良さそうだ。

「じゃあ、主に言伝、いいえ、手紙を渡して欲しいといったらだめかしら? それを主に渡してから、お返事待ってから戦いたいのだけど」
「……? 随分と変な御提案ですね……でも、なんであれ客人は持て成すよう主から言付かっております。文を頂けるなら受け取り、お渡し致しますよ……ちょっと待って貰うことになりますが」
「構わないわよ」

言葉終わりに袖から手紙を取り出し渡す。

「では――失礼します」
「ええ、此処で待っているわ」

手紙を受け取った門番が館へと消えた。
その背中を見て、妖怪には本当にお人好しが多い事だと、そう思う。
人間ほど小狡く、おぞましく、怖ろしい生き物はいない。
妖怪ほど純粋で、ひたむきで、恐ろしい生き物はいない。
紫が私に何を求めているのか……そんな事は知ったことではない。
……やがて門番が戻ってきた。

「ええと……“委細承知した。逢えるのを楽しみにしている”と伝えて欲しいとのことです」
「あら、そう。それじゃあ始めましょうか」
「え? え? えぇと……私には詳細が識らされていないのですけど……やはり仕事上、通せんぼするべきです?」
「……ありゃ、あんたの御主人様って面倒くさがり屋? しょうがないなー……じゃあちょっと聞いてくれる? 要するに殺し合いじゃない戦闘をしようっていうコンセプトなんだけどね」

説明を開始する……これ、もしかして出逢って戦闘しかけてくる輩全員に説明せにゃならんのかなーとか思いつつも、ふむふむと興味深げに聞く門番を見ている内にまあそれでも良いかと考え直す。

「これはつまり、殺し合いしないで闘いをルール付けしましょうということなんですね。へえ~……すごく面白そうですねえ! なにより死なないで済むのが良いです」
「そう言っていただけると嬉しいわ……妖怪って死ぬのが怖いの?」
「少なくとも私は嫌ですよ。死ぬのも、死なれるのも。仲の良い方と逢えなくなるのはやっぱり嫌なものです」
「ふうん……それなら良かったわ。このルールを、幻想郷中に制定したいと思っている。それを広めるためにも、此処は勝ってあんたの主に交渉しなきゃね」
「なるほどー……心境的にはお通したいのですが、これも仕事ですね……では……コホン! 仕方ない! 背水の陣だ!」
「あんた一人で陣なのか?」

そして始まる、幻想郷“初”のスペルカードルール。
辿々しくも、それは意味を成して行われた。
致死的なものではない、過程を楽しむ為の攻撃。
相手のいる場所をただ埋め尽くすのではない、自らの業を拡げ、魅せる為の戦い。
なにしろ私も初めてだから、要求されるのは加減と絞り。
敵の攻撃を掻い潜り、有効な術を、武器を当てていく。
――一瞬でも気を抜いたら殺してしまう。
実は途中で出逢った妖精にも試しにやらせてはみたのだけれど、あいつら、ルールは守っていたけれど、意味は理解してなかろうからなあ。
規則として、認識しての戦闘はこれが初だとしておこう。
藍に貰った武器たちを、霖之助さんにお願いしてより制御をより強く、操作性をより良く、精度をより細かくするよう調整してもらった。
新調されたそれらはまるでこのルールのために設えられたがように機能してくれた。

「すみませんお嬢様~」
「あら、それでも謝りはするのねえ」

落ちていく妖怪を一瞥し、しかしそれが死んでいないことは当然解っている。
私は主に会うため館の奥へと向かっていくことにした。
ああ、いけないな。私、いま、いつだかぶりに昂揚している。
戦いを楽しめるというのは素敵な事ね。
誰かのいのちを奪わずに済むのは、安心できる。
互いの主張をぶつけ合うのは楽しいことだわ。

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