Coolier - 新生・東方創想話

幻想郷縁起捨遺、人喰い抜粋。

2021/07/04 03:30:58
最終更新
サイズ
4.4KB
ページ数
6
閲覧数
2574
評価数
5/10
POINT
690
Rate
13.00

分類タグ


3.
 伊勢国にある田舎にて、可愛らしい娘が居たという。名はまどかと云い、農民の貧しい生活であったが、大層可愛がられて育てられた。齢が一○となる頃、伊勢国に蝗が襲来して、村にある田畑を食い荒らし、備蓄も全て奪い去ってしまわれた。その冬、村は飢餓に襲われることとなり、娘も飢えに苦しんだ。ある日、母は動かなくなった。痩せこけた頬の父は、母を抱えると家から出て行ってしまわれ、次に戻られたときは一人になってしまわれており、両手に肉を抱えていた。娘は不思議に思い問うてみると「母は埋めてきた。その時に冬眠していた猪を見つけた」と父は淡々と告げ、肉を鍋に放り込んで、煮汁を娘に飲ませた。肉は美味しく、次から次に口に運んでしまい、挙句には全て平らげてしまった。父は優しい笑みを浮かべて、静かに娘を見守っていたのだという。
 ある日、父は死んでいた。どうやら自らの首を切断したらしく、血を噴出して倒れていた。娘は目の前の光景を理解できなかったが、母の時と同じように眺めるだけだった。父が母にそうやったように、娘も父を埋めなくてはならないと思い、父の大きな身体を引きずって家の外に出た。しかし娘の力では凍った土を掘るのは難しく、かといって野ざらしにもできず、娘は焼いて埋葬することを思いつく。家の裏手にある納屋に父を運び入れると枯れ草と薪を敷き詰めて火を焼き放つ。火は娘の想像以上に燃え盛り、瞬く間に小屋を包み込んでしまった。それを見ていて娘は両親を失ったことを実感し、自らも一緒に焼かれたいと思ったそうな。燃え盛る納屋を戸を開けて、火の中に身を投げ打とうとしたが、納屋の中は肉の香ばしい匂いで充満していたという。それが父の身体から放たれたと知った娘は、すぐさま父を納屋から救い出し、その身体に齧り付いた。肉は猪に似た味がしたという。

コメントは最後のページに表示されます。