カポンっ
「 あ…」
いつの間に手にしていたのか 屠自古に耳当てを着せられ、途端に音と欲が遠退いた
遠退いたが、耳当てを押さえる屠自古は眼前にいる
「朝から惚気た事を言わないで下さい! 恥ずかしい!」
「…屠」
「化粧はあとは御自分で出来ますね!? 着替えは出てます! 朝食の用意をして来ますから、何かありましたら御呼びを」
「……」
あの流れでも崩せない、か
となると…
「御返事ィ!」
「!ッひゃい!」
「あぁそれと、お味噌汁の具は何がよいですか?」
「た、玉葱で」
「分かりました」
『たぁま葱はあったかなぁ~…』と、いつもの様に腕を組んだ姿勢で朝の献立組み立てつつ、屠自古が障子の向こうに消えて行った
(…屠自古は真面目な人だなぁ)
もう少し、素直なままに甘えてくれていいのに
それに耐えられない性分なのだろうし、そうした気難しさが魅力的なのだが
(貴女が甘えてくれないと、私も甘えられないんですよ?)
それでも、今朝の彼女は本当に頑張ってくれた
彼女の問題を解決したいと言う欲は、神子が予知した未来をより良いものにしてくれた
同志として、そして夫婦としての仲をより良くする為に
本当に、何と言う女だ 私の妻は
「……屠自古!!」
凛とした、偉そうとも取れる声で呼びつける
いやまぁ実際偉いみたいなんだけど
「……、何か?」
慌てて、僅かに何かを期待して、しかし動きと顔にはそうとは表さずに彼女は素早く戻って来てくれた
歳よりやや幼くも感じる顔付き
呼び出され何事かと身構える表情
胸の内で何かを期待する欲
それら全てが朝日を浴び、明るさと陰を纏ってそこに在った
(こんなに綺麗な人を、どうして手放せようか…)
ついさっき、不安や意地悪も含んでいたとは言え別れ話を持ち出した自分を罵倒にする
自分は余程寝惚けていたに違いない
「…大好きですよ、屠自古」
自分でも怖気(おぞけ)が走る程に甘い声色で、改めて伝えた
「…私は大嫌いですよ まったく…」
『 』
そんな下らないからかいの為に呼び戻したのか、と言わんばかりの苦々しい表情で返し、屠自古はさっさと引っ込んでいってしまった
あまりにも、素早く
“?おや屠自古 おはよぉ”
“…なんだ布都か”
“なんだとはなんだ、朝から不景気な…赤い顔をしておるな?”
“知らん”
“……御主、太子様の閨の方から来たのか?”
“…………あぁ、私が起こしに行ったが既にお目覚めになられていた”
“…朝から不景気な、赤い顔をしておるなぁ?んん?”
“お前殺されたいのか?”
“わしゃあ孫の顔を見るまでは死ねんでのぉ~? ほっほっほ、腰が痛い腰が痛い…”
”てンめぇ!”
「…ふふっ」
パタパタと廊下を遠ざかる二人分の足音に身体中のむず痒さを堪えつつ、神子は化粧台に椅子を近付け鏡に向かった
あのせっかちな恋人の為にも、のんびりしてはいられない
朝日と雀のさえずりと、遠退く程に大きくなる温かい欲望を聞きながら、神子は化粧筆を取った
(…やっぱり、お茶は渋いものに限りますね)
お陰ですっかり目は醒めて、甘やかな一日が始まった
みことじたまんねぇな!
しおらしい屠自古は可愛いというか・・・エロい(?)感じがしますね
お茶の例えも自分にはしっくり来ました
神霊廟組はカップリングを考える場合、神子と屠自古、布都のうち一人が余るのが悲しいですよね
永い時間を共に越えてきた関係な訳ですし
やはりふとじこ義母娘説に基づいたものが一番しっくり来ますね
面白甘かったです。
大変美味しく頂きました。ご馳走さまです
あと出番はちょっとですが、ロリ姑な布都というのも面白かったです