藍と紫 面倒くさくてすいません……
『出かけてくるわ。留守をよろしく』
『畏まりました。どちらへ?』
『今日は――――へ。何かあったら連絡をちょうだい』
『お気をつけて』
すっかり慣れてしまった家事を片手間にして、なんでもない事に思いを馳せるのが癖になってしまった。それに気づいた時は自分は案外暗いんだと思った。家事くらいなら『式神を操る程度の能力』を使うこともできるが、せっかくの私と紫様の居場所だ。管理くらいは自分でやりたい。
『出かけてくるわ』
『……どちらへ?』
『今日は――――へ』
『お気をつけて』
かといって紫様と一緒に過ごす時間はそれほど多くない。冬は冬眠しているし、私自身も忙しい身、その上よくフラフラと出かけてしまうのだから仕方がない。生憎寝ている紫様を見ているだけで満足できる時期はとうに過ぎてしまっている。
『出かけてくる』
『……お気をつけて』
紫様が出先を言わなくなったのが早いか、私が聞かなくなったのが早いか、最早思い出せない。私が出かける場所を聞くのが耐えられなくなったのか、それを紫様が先に察したのかは分からない。
「はー……」
空っぽになった樽をまとめて片付けながら、次は屋敷の掃除に向かう。紫様は今日はどちらに向かったのだろうか。おそらく博麗神社だろう。あの巫女に紫様は惹かれている。今代の博麗の巫女はスペルカードルールの制定という点で見ても幻想郷の歴史で特別な存在だが、紫様にとってはそれだけではないようだ。そして霊夢も満更ではないように見える。
嫉妬、なんて感情は湧いてこようはずはない。あんな年端もいかない少女にそんな感情を抱くほど可愛げはない。所詮は道具である式がそんな感情を抱けるはずがない。
『お前に紫様の何が分かる』……ちゃんちゃらおかしい話だ。長くいればいるほどあの方のことはわからなくなってくる。
『私から紫様を―――――』……言えるはずもない。私は所詮式なのだから。
従者とは主に仕え、そして正しい道を歩めるようにしてその後ろを追従する者のこと。友はお互いに高め合い、共に歩んでいくもの。……では式は?式は何処を歩めばいいのだろうか?
こんな思いをするくらいなら本当に道具でよかったと思ってしまうほど私は弱くない。かと言ってこの気持ちをずっと抑えていられるほど私は強くない。
「帰ったわ」
「……お帰りなさいませ」
ちょうど家事も終わり、出かけていた紫様を玄関まで迎えに行く。
「……藍」
「はい」
「どれだけ飲んだの?」
「……分かりません」
「貴方は溜め込みやすいんだから、適度に発散させないとダメになってしまうわよ」
部屋に上がる紫様の三歩後ろを黙ってついていく。部屋に到着し、紫様が腰を下ろした所で重い口を開く。
「……式とは何なのでしょうか?」
「道具よ」
即答される。それが事実であり、何より私にそう教えたのは紫様だ。そのまま黙って部屋を出ようとすると優しく抱きしめられた。
「―――ですか?」
「ん?」
「霊夢にも……そうやって抱きしめるんですか?」
ちょうど私の顔が紫様の胸に当たり、そこからよく知った匂いを感じて思わず聞いてしまった。
「……藍、よく聞いて。霊夢は私にとって最も愛しい人、霊夢が望むことならなんだって叶えてみせるわ」
「………………」
「でもね、私が誰かのために命を投げ出すとしたら……それは藍、貴方のためだけよ。だって貴方は私にとって最も大切な人だから」
「それは……式だからですか」
「そうよ」
所詮私と紫様の繋がりはその程度のものということなのだろうか。
「だけど忘れないで。貴方を式に選んだのは他でもないこの私。そして貴方に名を与えたのも私よ。貴方には私の隣を歩んで欲しかったから。今日はゆっくり寝なさい。私が側にいてあげるから」
「紫……さ……ま……」
「何?」
「愛……て……ま……」
「……お休み、藍」
紫様は私に何か術をかけたのだろうか。紫様に包まれながら私はそのまま意識を手放した。随分と古い夢を見た後に目を覚ますと、紫様が私を抱いたまま眠っていた。もう起きなければいけない時間だったが、私は紫様が起きるまでずっとそのままだった。
・アリスと魔理沙
なんだかんだいって魔理沙に付き添うアリスはとてもお姉さんって雰囲気がします。甘える魔理沙可愛い。
・霊夢と紫
こんなにも打ち解けた会話を紫とできるなんてそれこそ藍とゆゆさま以外では霊夢だけでしょうね。ていうかゆかりん、そのネタはちょっと古いかと・・・
・紫と藍
ゆからんは間違いなく境界を越えてます。親子愛とはまさしくこれです。
・ゆゆさまと妖夢
可愛い。素敵。ゆゆみょん最高。ゆゆみょんは私のファンタジー。
ありがとうございました。
・アリスはクールな方が好みです
・私の書く紫はダメなキャラばっかですね……。かっこいいのもいつか書いてみたい
・藍様は何となく不器用なイメージを持っています
・この組み合わせのすごいところはプロットなしでも何となく書けてしまえる所
奇声さん・絶望さん
楽しんでいただけたなら嬉しいです。シリーズは続けるので今後も楽しませることが出来るよう頑張ります
8さん
長く生きるとはそういうことです。……多分