紫と霊夢 そんな貴方が
「夜分遅くにこんばんわ」
「……」
「あら霊夢、そこは『キャー、の◯太さんのエッチ!』よ」
人がお風呂で鼻歌歌っている中、突然侵入してきて何言ってるんだこのスキマは。誰だのび◯さんって。
「入ってきてもいいけど、タオルを湯船にいれないでね」
「えっ……それはちょっと……」
顔を赤らめてモジモジするな、気持ち悪い。
「お、お待たせ」
「待ってないけど」
「では失礼して」
「ちょっと、洗ってから入りなさいよ。汚いでしょ」
「き、汚いって。今汚いって言った!」
「当然でしょ。あんたお風呂のマナー知らないの?」
「人間と妖怪は違うの。それに私は境界を弄ってるから大丈夫よ」
「気持ちの問題。嫌なら出てって」
「……分かったわ」
渋々といった様子で紫が身体を洗う。流石に目の前で鼻歌を歌うのは抵抗があるのでボーっとその姿を見てる。
「な、何かしら?」
「いや別に」
「そんなに見られると穴が開いちゃうわ~」
「……」
「いや、穴が……ガン見しないで欲しいのだけど」
あ、意外な所にホクロ発見。まぁそんなことをしている内に紫が湯船に入ってくる。
「……んっ」
「……」
「……」
「……狭いわね」
「あんたのせいでね。文句があるなら温泉に行ったらいいじゃない」
「私は無闇に肌を晒すほど軽い女ではありませんわ」
「あ、お酒飲みたい。ちょっと出してよ」
「人の話は聞きなさいな」
そう言いながらも紫はスキマからお酒とコップ2つ出し、私の方と自分の方にそれぞれ注ぐ。その後嬉しそうに『乾杯』と言ってコップを差し出してきたので黙ってグラスをぶつける。
「美味しい」
「それはそうでしょう。普段貴方が飲んでいるものとは値段が違いますもの」
「それで、何の用?」
「何だと思う?」
「用なんて無い」
「流石は博麗の巫女。その通り、何となく顔を見に来ただけ」
そこは『流石は霊夢』と言って欲しかった。
「よく分かんないけど年をとると色々あるのね」
「辛辣ねぇ……」
「何よ、こんな小娘に優しくされたいの?」
「……」
「考えないでよ。紫ってロリコン?」
「霊夢が好きなだけよ」
「ちょ、動か……んっ……ないでって。狭いんだから」
紫がこちらに身体を預けてくる。水気を帯びた金髪が顔にあたって非常に煩わしい。
「ひゃん!ちょっと霊夢、変な所触らないでよ」
「だったら大人しくして。全く、今度からお風呂には入ってこないでよ」
「あら?霊夢から誘ってきたんじゃないのかしら?」
「……何のことよ」
「普段ならこの時間は寝ているでしょ?てっきり私をお風呂で待っていたのだと思ったんだけど、違ったかしら?」
「随分とおめでたい推測ね」
「『博麗の巫女』なら私が来ることは分かっていたでしょうに」
流石に色々と我慢の限界だった。紫の顔をガッシリと両手で掴んでこちらに向けさせる。
「『博麗霊夢』だから!」
「……えっ?」
「『博麗の巫女』は関係ない。『博麗霊夢』だから分かるの。分かった?」
「れ、霊夢?」
「返事は!?」
「は、はい!」
「あともう眠いし、のぼせたからもう帰って」
「えっちょっ――――」
紫の声は嫌いじゃないけど今はその口が鬱陶しいから黙らせる。
「これで満足して今日は帰って」
「霊夢……」
「あと湯船に入った時からさ、あんたの手がね……その……ずっと当たってるんだけど」
「……?……あ、ご、ごめんなさい。きょ、今日は帰るからまたね霊夢!」
そう言って紫はスキマの中に消えていく。私はというとフラフラとした足取りで風呂場から出て行く。顔の熱が引かないのは長風呂のせいか、お酒のせいか、それとも……。なんかすごいことしちゃった気がするがもうどうでもいい。服を着るのも億劫だ。(恐らく紫が用意してくれていたのであろう)台所に置いてあった瓶のコーラを一気に飲み干して布団に倒れこんだ。