Coolier - 新生・東方創想話

来歴をめぐる冒険

2013/08/16 02:46:23
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二、 守矢の変

 如月の初旬と申しませば、インフルエンザの流行る時期でございます。妖怪の山のはずれにあります守矢神社でも、一人のしどけなき巫女がフルのえじきとなっておりました。
「諏訪子様、きっと私もうダメなんです」
 現人神、東風谷早苗は弱々しく言いました。
「馬鹿いっちゃダメだよ!今神奈子が薬鍋作ってるから!みんなで一緒に食べよう!」
 巫女は余計に心配になりました。普段は家事を自分が引き受けているので、神奈子様が台所に立ったことはほとんどないのです。
「諏訪子様…、神奈子様は一体何をお作りに…?」
「ふっふっふ、聞いて驚くなよ! 実は早苗のことを心配して幻想郷中からお見舞いが届いているんだ。魔理沙はまじっくまっしゅるーむっていうキノコ持ってきたし、萃香は天狗づてですぴりたすっていう養命酒届けてくれたし、さっきなんか青髪の仙人までがこの前のお礼とか言ってあへんっていう気付け薬くれたんだよ。今神奈子がぜーんぶミックスした鍋を作ってるからそれ飲めばきっとよくなるよ!」
 早苗は青ざめました。先ほどノリで口に出してみた「もうダメ」が現実のものになろうとしていることに気がついたからです。
「諏訪子様、ダメです! 助けて下さい! 私死んじゃいます!」
 今度は諏訪子が青ざめました。暴れだす早苗を見て、かつて外の世界のテレビで学んだエンザの幻覚作用を思い出したからです。
「大変! 神奈子、早苗が高熱でおかしくなっちゃった! 早いとこ夕食にしてそいつを食べさせよう!」
 境内にはしばし本堂からの阿鼻叫喚がこだましておりましたが、三者三様の断末魔を最後にぱったりと音もとだえ、しまいにはこんこんと静寂が続くばかりと相成りました。

 死んだような静けさを突き破ったのは二人の不死者でした。
「ごめんくださぁい」
 返事も待たずに傲慢に押し入る姫様でしたが、さすがに目の前に広がる光景に驚きを隠せませんでした。かつて大日本の物理的な中心(ナガノ)をしろしめされていた偉大な二神が、情熱的に抱擁し、大人の接吻を交わしていたのです。諏訪子様はお熱くなっていらっしゃったので、無上の歓びへの飛翔を求めて神奈子様の下の口へ手を延ばそうとなさりましたが、来客に気づいた神奈子様に止められてしまいました。
「来やれ、未だ和合の道に至らぬ迷い子らよ」
 神奈子様に手招きと共にお声をかけられて蓬莱人二人はたじろぎました。
「何かやばいわよこれ。日を改めたほうが良いんじゃないか?」
 白髪の方がおずおずと黒髪の方に尋ねました。見れば守矢のポン引き東風谷早苗は恍惚とした表情で「すわこさまかなこさまおきれいです」という呪文を繰り返しながら中空でくるくる回っておりました。
「馬鹿ね、これが奴らの本性だとしたら日を改めても意味ないじゃない。聞くことだけ聞いて帰ればいいのよ」
 黒髪の方はお姫様らしく気丈に答えました。
 以下は一夜限りの奇跡的な邂逅をはたした神様と不死者のダイアローグの貴重な記録でございます。

                                ☆

神(柱) 「汝らはいつまでも過去の因縁に囚われ争いを繰り返していると聞く。ひとえに信仰が足りぬゆえなり。とく守矢教へ入信せよ」
姫   「あいにく神様なんて信じないタチなのよね」
神(柱)  「なに信ずる必要などなし。ただひたぶるに南妙法蓮華経と唱えなさい。さすれば汝らの原罪も贖われよう」
神(アラジン)「違いますよ! 神奈子様、それでは創価と耶蘇教のまぜものです。私たちのモットーは『神は死んだ☆パワー・トゥ・ザ・ピーポー』だったじゃないですか」
神(柱)  「無神論を唱えるアカにでも毒されたか、早苗よ。我れが大義は『ああっ女神さまたちがみてる☆ごっど・ぶれす・ゆう』だったぞ、たしか」
神(蛙)  「オイタハツヅキナイデスカ? オアズケスワコカアイソウ、デモガマンエライコ、エライコ!」
姫   「あの、盛り上がっているところ悪いけれど、東風谷さん、私たちあなたに質問があって来たの」
神(あ)  「うれしい! 私、人からこんなに必要とされたの初めてです!」
姫   「そりゃどうも。で、本題なんだけれど、あなた最近まで外の世界の寺子屋に通っていたのよね?」
神(あ)  「ハイ! でも今時寺子屋はないですよ輝夜さん! ハイスクール、ナウい呼び方はジャパニーズ・ハイ・スクールですよ!」ドヤァ
姫   「で、歴史は習ってたわよね」
神(あ)  「ハイ! 圧倒的得意科目でした!」
姫   「それじゃ優等生さんに質問だけど、『藤原不比等』について外の世界で一般に広まっている情報を教えていただけるかしら」
神(あ)  「フジワラノフヒト…。えっと、固有名詞です!」
姫   「そりゃそうね」
神(あ)  「人名です!」
姫   「でしょうね」
神(あ)  「日本人です!」
姫   「火をみるより明らかね。えっと失礼だけど貴方無効ではあんまりお勉強ができなかったみたいね」
神(あ)  (手で顔を覆い、くずれおちて)
     「ひどいです! あんまりです! 突然質問責めにして人のことをドジで馬鹿のぬけさく扱いするなんて! え~ん」
神(柱)  「失礼な奴だな! 私がこっそり学校に視姦しに行った時は、いつも早苗は机につっぷして微動だにせずに授業に集中していたぞ!」
神(蛙)  「コウジョウシンノナイヤツハバカダ! やなやつやなやつやなやつ!」
姫   「うるさいわね。妹紅、どうやら無駄足だったみたい、帰りましょ」
神(あ)  「待って下さい! 私にもう一度チャンスを下さい! このままでは早苗教の沽券に関わります!」
姫   「チャンスと言ってもね。知らないものはどうしようもないでしょ」
神(柱)  「神を信じぬ近代主義者の視野狭窄なことよ! いやしくも早苗は風祝のはしくれ、奇跡を起こすなぞ夕飯前よ」
神(蛙)  「カズコのプラズマでポアするぞ!」
姫    「わかったから奇跡を起こすんならはよしてちょうだい」
神(あ)  「ではでは刮目してご覧下さい。そよぎだせ、天空の風よ。ぴぴるぴるぴるぴぴるぴー、最終召喚魔法・夢見る乙女の豪波動(ヴァージン・サニーサイドアップ)!」
(突然ばさばさぁと上空から数冊の本が落下してくる)
神(あ)  「さあさあ見て下さい。こちらは歴史書最大のロングセラー『詳説 日本史B』、さらにこちらは一夜漬け系歴女のバイブル『石川日本史B講義の実況中継』です。さらにこっちは、」
神(柱)  「ハレルヤ! 早苗の召喚物には稗史の類は一切交じっておらぬ。まごうことなき聖サナエの処女性の顕現よ!」
神(蛙)  (いつの間にか天井にはりついている)
     「処女狼ナンカコワクナイ~」
姫   「いや、ケロちゃんがあそこから貴方の私物を落っことしただけじゃない。早く私の質問に答えなさいよ」
神(あ)  「せかさないでください! 今書物のささやきに耳をかたむけているんです!」
姫    「ええい、いいからもう読み上げなさい! じれったい」
神(あ)  「藤原不比等様は大変な偉人です。改新の英雄中臣鎌足の子として生まれ、まだまだ不安定だった大和を引っ張りました」
神(柱)  「いいぞ! その調子だ、早苗」
神(あ)  「不比等様は娘を天皇と結構させ皇族の親戚となることで権力を握りました。これによって不比等様の子孫は『藤原氏』として以後の日本のトップにたち続けることになります」
神(柱)  「なんでも知ってるなぁ、早苗は。今の早苗、最高に輝いているぞ!」
神(あ)  「不比等様は聖徳王の遺志を継ぎ、天皇を頂点にいただく中央集権国家の構築を完成させます。皇太子の死という皇室存続の危機に際しては、孫が成長するまでつなぎの女帝をたてて乗り切りました。ああ、なんて偉大なお方なんでしょう。この天皇を中心とする神の国の大元を創ったのは不比等様だったのです。藤原不比等なくして日帝なし、これこそが歴史の真実だったのです!」
神(柱)  「待て早苗、それは聞き捨てならんぞ。開闢以来日の本を統べてきたのはまさしく我である。一介の私人をさまで称するはゆきすぎぞ!」
神(あ)  「何をおっしゃいますか、神奈子様! 不比等様は天皇制の庇護者にして奈良朝の憲法の制定者ですよ。それこそ一介の土着神なんかとは格が違います」
神(柱)  「主を愚弄するか、早苗よ! 不比等やらが講じた律令なぞは支那からのパクリではないか! 古来の伝統を捨て華夷にすがるなぞ売国奴のなすわざよ!」
神(蛙)  「リメンバーゲンコウ! リメンバーナンキン!」
神(あ)  「神奈子様がちんけな国粋野郎だったなんて正直がっかりです。私、決めました。貴方を倒して今日から私が守矢の主になります」
神(柱)  「愚か者め、受けてたとう! 弟子は師匠を越えられんということを教えてやる」
神(蛙)  「セイトウボウエイ! コクタイゴジトシテノジエイケンノコウシ!」

                                   ☆

  それまで三神の言い争いをやじうま根性で眺めていた姫としらがでしたが、三神がそれぞれにかめはめ波的怪光線を放つに及んで一目散に逃げ出しました。脇目もふらずに迷いの竹林まで飛んで振り返ると、妖怪の山からはそれはそれは見事なキノコ雲が泰然と立ちのぼっておったといいます。
  守矢神社が一夜にして灰燼と化したこの事件は、守矢の変と呼ばれ人々の耳目を集めました。その原因については、神社の存在を疎ましく感じた天狗一族の強襲、信仰を奪われた博麗神社の陰謀など様々な説が飛び交いましたが、肝心の三神がかたくなに口をつぐんで黙秘を貫いたため、結局事件は迷宮入りになってしまったということです。


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