* * * * *
障子の隙間から入って来る光を感じて、霊夢は眠たげに呻きながらも目を開けた。
「……ねっむぅ」
出来る事ならば二度寝したい。
そう思ってゴロリと横を向くと、
「……え?」
すぅすぅと穏やかな寝息を立てる紫の顔があった。
(あれー? 帰ったんじゃないの? 昨日夜雪降ったわよね? もしかして夢? まだ夢の中にいるの?)
唖然としながら、霊夢は自分の頬をむにっと抓ってみる。
あまり遠慮なく抓んだので相当痛かった。
「ゆ、め……じゃない……」
抓んだ頬を撫でながら、涙目で呟く。
夢じゃないという事は分かったが、じゃあどうして紫がここにいるんだろうかという疑問が解消されたわけではない。
(もしかして一緒に春まで寝てたとか?)
いやいや、ないって。明らかにダウトだってばそれ。第一あたしは人間だってば。
霊夢は自分の素っ頓狂な思考に容赦なく突っ込みつつ、とりあえず起き上がって、
「……ぐっ? ぇえ……?」
みようとするが、腰が言う事を聞かなかった。
気合いを入れてもう一度起き上ると、物凄いダルさを伴ったが今度は何とか上体を起こすことに成功した。
「……だっる」
有り得ないほどにダルい。主に下半身が。
いや、なんでとか言わないから。うん。原因は分かり切ってるから、今更なんでとかは言わないから。
「………」
霊夢は隣でまた寝こけている紫を見下ろす。
起き上がった所為で布団がめくれてしまい紫の真っ白な肌が見え隠れしていたので、霊夢は慌てて掛け布団の位置を直してやった。
「……ったく」
呟く霊夢の頬が心なしか赤く染まっている。
何か言おうと思って、でも上手い言葉が出てこない。そうこうしていると、腹の虫が情けない声で鳴いた。
(あー。もう、昨日の夜はメチャクチャ激しく運動したもんねー。そりゃあお腹減ってるよねー)
って、アホか。
照れ隠しとか羞恥を誤魔化す為に思考を動かしたが、結局自分で突っ込んで終わった。なんだこれ虚しい。
「とりあえず……」
ご飯の用意をしよう。
霊夢はそう決めて立ち上がろうとしたが、腰に力が上手く入らずにガクンっと膝を折り、べしょっと布団の上に倒れた。
「……ぐぐっ」
悔しそうに奥歯を噛み締めて、ついでに恥ずかしさも押し殺す。
「昨日はガンバリ過ぎちゃったかなっ♪ テヘッ☆」
とか言えるキャラでもないので、霊夢は頑張って起き上がって、そして負けずに立ち上がった。
脱ぎ散らかされて皺苦茶になっている寝着をひとまず纏う……ところで、霊夢は自分の体を見下ろして頬を朱に染めた。
「……う、わぁ」
思わずそんな声が漏れる。
なんというかアレだ。うん。こぉ~、その……うん。赤々とした、なんという……うん。そういうのがですね、たくさんと言いますか。えと、つまりなんというか、うん。
「…………」
いや、愛されたとか、んな恥ずかしい事言わないから。べ、別に恥ずかしいけど、その、う、う、嬉しいとか思ってないから!
誰に弁解してるのかは分からないが、そう必死で訴える霊夢。
霊夢の体の至る所、それはもう、首から肩、鎖骨、胸、脇、臍の隣、脇腹、下腹部、太股、それから太股の内側とかいう際どいところまで、余す所なく……見えないけれど、多分この調子だと背中とかも付いてる筈……な感じで、赤い花弁のような綺麗な形をした痕が、皮膚の上に無数に散っていた。
「こ、こんないっぱい……!!」
妙に形の整った鬱血を眺めて、霊夢はぷしゅ~と顔から湯気を出し、あまりの恥ずかしさにその場に蹲ってしまう。
でも、こんなにいっぱい付いているにも関わらず、服を着てみればあら不思議。絶妙に見えないという、まさに計算し尽くされた位置で。それが逆にイヤらしい。なんかもう色々な意味でやらしい。
「……バカ」
腕で顔隠しながら、ちらっとまだ寝ている紫へ向かって言う。
「こんなの……直ぐに消えちゃうんだからね……」
悪態は吐いてみるが、言葉の端々が若干震えていた。恥ずかしさと、嬉しさで。
ふぅーと深く息を吐いて落ち着きを取り戻し、霊夢は寝室から出た。
廊下を歩きながら、ご飯を作る前にお風呂に入る必要があるなと、霊夢は清く正しく悟ったりしたのだった。