変わらぬということは、なんと愚かしいことでしょう。
色づき散る山も、衣を替える鳥や獣も、きっとそれを知っている。
変わらぬものなど何もない。変わらなければ、その存在は停止する。
服装一つも変えないで、あなたは巡り行く四季を越えてゆけますか?
――あぁ、だからきっとあなたは、馬鹿なのでしょう。
『ちるのさんLv.99』
とお
とお
「そのちくわは私のものだーっ!」
「なんのー! あたいのものだー!」
嘴の一突きのごとく繰り出される空の箸を、チルノが阻止するべく自らの箸を突き出す。
そして、箸と箸が交錯し、二人の手と手が触れ合った。
バチィ!
「きゃっ!」
「ひゃうん!」
「なんか静電気みたいになってる……」
上空で激しい戦いを続けていたチルノと空だが、今はさすがに疲れて休戦状態にあった。
もっとも、休戦した直後に、眼下に広がる宴会風景にやっと気づき、今はみんなが持ち寄った食べ物を元気よく貪っている。
二人の戦いを花火代わりに始まった宴会だったが、盛り上がってしまえば戦いが終わってもまったく勢いが萎えることなく宴会が続行されているのはさすが鬼というべきか。
しかしこの二人、戦いにおいては相反する強大な力が爆発を生んでいたが、特に意識しなくても体が触れただけでちょっとした反発作用があるようだった。
「というか戦ってるときはいくら爆発しようが気にも留めてなかったのに……」
「大きすぎるものは逆に認識できないものですよ」
「そういう問題なのかなぁ……」
茶をすすりながらのさとりの回答に、首をかしげるパルスィであった。
「ぱるすぃ~、なんかバチッてしたぁ」
「ちょっ、近い近い!」
反発作用におびえたチルノが擦り寄ってきて、パルスィが狼狽する。
「『うへへ……役得役得……』ですか」
「だからそんなこと思ってませんよっ!」
茶化すさとりに抗弁しつつ、パルスィはチルノの気を逸らそうと試みる。
「ほらほら、ゆで卵あげるから」
「わーい!」
箸でゆで卵を挟んでチルノの方に持っていくと、チルノはうれしそうに口を開けた。
(うわー、ヒナみたい)
黙って澄ましてればかっこいいクール系姉さんな今のチルノが、無邪気に口をあけている姿を見て、改めてものすごいなぁと思う。
何か勇儀が言っていた『犯罪じゃないか?』ってな一言を思い出してしまって、ちょっとばつの悪いパルスィであった。
だが、期待にはこたえないとそれこそばつが悪い。
「ほい」
「むぐむぐ、うめえ!」
「ふふ」
こうしているチルノを見るのは決して悪い気分じゃない。
誰かが楽しそうにしている様子を見て、笑みが漏れてくるなんて想像できなかったことだ。
嫉妬する余地さえ与えてくれない、天衣無縫の妖精。
そう、いつまでも、いつまでも変わらない――
「酒飲んでるときにあんまり甘いもん見せないでくださいよ」
「へうあ!?」
さとりの冷静な声に、まるで冷たい指で背筋を撫ぜられたかのような感覚に陥るパルスィ。
「おーおー、サトリ妖怪の前で甘々思考にはいるたぁいい度胸じゃないでございますか」
「酔ってますねさとりさん!?」
やっかむように右肩をつついてくるさとりの指を払っていると、左腕の方にも何か絡んでくるような感触を覚える。
「もー! 私を仲間はずれなんてひどいじゃない!」
「こいしまで……」
三方からじゃれつかれているパルスィを見て、勇儀がピコーンと何かを思いついたようにパルスィの背後に立つ。
「な、なによ勇儀まで」
「よいかパルスィよ。我々はインペリアルクロスという陣形で戦う。破壊力の高いチルノが前衛、両脇をさとりとこいしが固める。私はお前の後ろに立つ。お前のポジションが一番総受けだ。覚悟して戦え」
「なんなの!?」
「それ、かかれい!」
「「わー!」」
「な、なにをするきさまらー!」
酔ってノリがよくなってる皆様方が、勇儀の号令で一斉にパルスィに飛び掛る。
「にゃー! なんだか楽しそうだからあたいも!」
「なんだかよくわかんないけど私も!」
少女たちがじゃれあう様を見てうずうずしてきたのか、燐と空も混ざってきた。
「ひゃあ、やめ……っておくーさんまで来たら!」
バチィ!
「ひぎぃ!」
「ぬふぅ!」
「やっぱり……」
予想通り過ぎるオチに、パルスィは指を眉間に当てた。
「……相変わらず愉快な奴らだなぁ。こっちが妬ましくなってくるぜ」
ふと、この場にいなかったはずの声が聞こえる。
「誰だい?」
勇儀の声で合図されたように、全員が振り返る。
「とりあえず一斉にこっちみんな」
その光景が少し刺激が強かったらしく、小ぶりな岩に座って、徳利からお猪口に手酌していたいかにもな魔法使いは、そっと目を逸らした。
「お前は、マリーサ!」
「よっ、しばらくだな」
魔理沙は徳利を持っているほうの手をちょいと挙げて、挨拶に代える。
「なんでこんなところに?」
パルスィが疑問の声をあげた。
魔理沙といえば魔法の森に生息し、その周辺を縄張りにしつつも主に神社に出現する生き物。
地底にもやってきたことがあるとはいえ、そのときは例外だ。ましてやこんな突発的な宴会を嗅ぎ付けてやってきたとは思えない。
「あぁ、お前らを探しに来たんだがな。なんだか面白そうなことになってたんで、ついでに一杯ごちになっていこうかと」
「ふぅん、忍び込み癖は相変わらずねえ、あなた」
「はっは、もっと褒めろ」
胸を張る魔理沙に、さとりは肩をすくめる。
「それより、なんであたいたちを探しに来たのさ」
首をかしげるチルノに、魔理沙はおおそうだそうだと徳利を揺らした。
「香霖が呼んでるぜ」
エキセントリックな日々にすっかり忘れていた。
そういえば確かに、香霖堂店主に依頼していたのだ。
チルノを元に戻す方法の、調査を。
「……わかったの?」
「さてな。私は探してきてくれと言われただけだしな。……まぁ、そんなに急ぐ用事でもなかったようだが。ま、近いうちに顔を出してくれと、そういうことだった」
「そう……」
元々、今のチルノに違和感を覚えて出した調査依頼。
だけども、いくら大きくなったって、いくら強くなったって、呆れるほどにまったく相変わらずのこの世界。
パルスィは思ってしまう。
いつだって全力で駆け抜けて行く彼女を取り巻くこの世界に、自分がちゃちゃを入れるのは正しいのか、と。
チルノの気持ちすら、確かめてはいないのに。
「……考えすぎないようにって、言われたんじゃなかった?」
「うわっ!?」
完全に心の中を見透かす妖怪がいるのを忘れていた。
懊悩するパルスィに、さとりがクールな声を再び突き立てる。
「ま、お節介ではあるけれど。時間はあるのでしょう? しっかり話をなさい。一人で考えていても堂々巡りですよ」
「はい……」
この上ない正論をかみ締め、パルスィは項垂れる。
自分はチルノの意向を確かめることを恐れているだけだ。天真爛漫ゆえに底の見えないチルノの領域に、入っていくことを恐れているだけだ。
だが、もはや自分の勝手で恐れている場合ではない。覚悟を、決める必要がある。
「……ありがとうございます。さとりさん」
「いえいえ。それじゃあわかったところで、もっと呑みやがれなのですよー!」
「そういや酔ってたこの人ー!」
さとりに杯を押し付けられるパルスィを眺めて、魔理沙はからからと笑う。
「はっはっは、宴もたけなわだなぁ。こーゆーのは高みの見物をするに限るぜ」
「なんだ、混ざらないのかい」
さも意外そうに言う勇儀に、魔理沙は苦笑する。
「おいおい、からかわないでくれよ」
「別にからかってなんかいないさ。同じ阿呆ならおどらにゃ損だろう?」
「うーむ、だがそんなべたべたしたのはあいにく好みじゃなくてな」
渋る魔理沙の言葉に、勇儀がにぃっと口の端を上げる。
「ならカラっと行こうじゃないか。宴の余興にも丁度いい」
言って勇儀は豪快に、自分の杯に酒を注ぐ。
呑もうという合図ではない。
「なるほど、弾幕戦か……」
「おっ、戦うの? じゃああたいも混ぜて混ぜて!」
勇儀と魔理沙の会話を聞きつけて、チルノがやってくる。
「おっ、チルノも混ざるのか。よーし、いつぞやの借り、返してやるぜ」
レベルアップ後のチルノと最初に戦ったのは魔理沙。その記憶を思い起こし、魔理沙は気合を入れる。
「あー! なんか楽しそうなことやってる! 私も混ぜなさいよ!」
「あっ、レイマリさんだ」
「えっ」
せっかく入れた気合が霧散する瞬間であった。
「だから私の名前はレイマリじゃなくて霊烏路だってば!」
「な、なんだそういうことか」
魔理沙はほっと胸をなでおろす。
「だからわかんないんだってば! いいじゃんレイマリで。やーいお前の母ちゃんレイマリー!」
「悪口なのそれ!?」
空が面食らう。
そしてそれを聞いていたこいしがピコーンと閃いた。
「直訳すると霊夢と魔理沙の娘がおくうってことだね! スペクタクル!」
「ハッ、母さん!? 母さんなの!?」
「人違いだぜ」
魔理沙は力なく否定した。そんな生物学的に色々おかしいことがまかり通ってなるものか。
「むう、だましたわねチルノ! 許せん!」
空はそう吼えてチルノに掴みかかる。掴みかかったのだから、もちろん。
バチィ!
「あべし!」
「たわば!」
「いい加減学習しなさいよ!?」
思わず少し離れたパルスィがツッコんでしまう。
そんな、まるで日常のような光景。
地底の宴は、そうして、楽しく過ぎていった。
*
今、チルノとパルスィは、チルノの氷結城を目指して飛んでいた。
まさか二日連続で宴会しっぱなしになるとは。勇儀たちのタフさには尊敬の念すら覚える。
そんなわけで、パルスィたちが動けるようになったのは、さらに一日後のことだった。
早朝から飛ばして地上へ出る。
なんだか、いてもたってもいられなかったからだ。
「霧が出てきたね」
「そうね……」
既に妖怪の山を降り、霧の湖が近くなっていた。こうして出てくる霧が何よりの証拠。
「うーん、今日はいつもより濃いわねっ」
「ねぇ、チルノ」
不意に、俯きながらパルスィが呼びかけた。
「あなた……今の力のこと、どう思ってる?」
そんなに深く考えていないのかもしれない。
だけど、まずは話を進めよう。そう思って、パルスィは問いかけた。話を進めると決めたのだから。
「……」
だが、予想外に返事が返ってこない。
彼女なりに思うところがあるのだろうか、と顔を上げると。
そこに彼女はいなかった。
霧の中に溶けてしまったかのように、その姿はどこにも見当たらなくなっていた。
「チル……ノ……?」
*
「……あれ? パルスィ? パルスィ~?」
チルノは、ふと振り返るとパルスィの姿が見えなくなっていることに気づいた。
「むー、迷子になったのかなぁ」
顎に指を当てて首をひねる。
「ふふーん、まったくもうしょうがないなぁ~」
なぜかにやついた表情を浮かべながら再びチルノが飛び立とうとすると、背後から、じゃり、と土を踏む音が聞こえた。
「あっ、パル……」
言いかけて振り向き、そしてその言葉を止める。
霧に紛れて見えたのは、緑色の髪。
言わずもがな、パルスィはそんな髪の色をしていない。
それがこちらに歩みを進めるごとに、見えていく。青い服が、白い袖が。
「道に迷うは妖精の所為。……ねえそうでしょう? 氷精よ」
「っ、あんたは――!」
*
「……チルノ? チルノっ?」
霧の中をあてどもなく名前を呼びながら彷徨っていたパルスィ。だが、彼女は感じた。ニュータイプもかくやとばかりに、感じた。
「っ、そこぉ!」
手をねじ込んだその一点から、視界が開けていく。
「なんでこんなことが……」
不可思議な現象に眉をひそめていると、突如、派手な音を立てて傍らの木に何かが打ちつけられた。
「な、何……って!?」
パルスィは目を疑った。
なぜならその木に叩き付けられていたのは、体中ぼろぼろの……
「チルノっ!?」
「あ……ぱる……すぃ」
パルスィの姿をみとめて、体中傷だらけながらも顔をほころばせるチルノ。
それを見て、パルスィは考えるより先に、駆け寄っていた。
「ひどい……一体何が……」
そしてそこで初めて考える。あのチルノが、吸血鬼と戦って引き分け、神の力を得た地獄烏と平気でぶつかり合える今のチルノが、どうやったらこんなことになるのか。
「――そう、あなたは少し、変わらなさ過ぎる」
霧に紛れて、声が聞こえた。
「昔からそうでした。妖精には似つかわしくないほどの力を持っているというのに、あなたは決して自重する様子がない。真に力あるものは、その力を振りかざしたりしない。それが自然の理ですのに」
つかつかと、霧の中から足音が聞こえる。
「強力な力を得ても、自重を知らない。身体が変わっても、精神が変わろうとしない。山の神に負けて、少しは懲りるかと思っていたのに、それどころかますます強大な妖怪に喧嘩を売る始末。……あなたをよく思わず八つ当たりを受ける妖精も、出始めているのですよ?」
声のするほうをパルスィは見る。
こちらに歩みを進めるごとに、見えていく。
「自然のバランスが崩れていく。均衡を取り戻さなければ。取り返しのつかないことになる前に」
青い服が、白い袖が。
「さて、あなたの馬鹿は、何度殺せば治りますか?」
――そして、羽が。
「あんた……一体……?」
呆然とパルスィが問う。
なぜなら、その姿は、どう見ても。
「私は……自然の代弁者――
――大妖精」
~続~
山田じゃない……だと……
私もインペリアルクロス混ざりてぇっす。
国王か兵士か王子にならないと駄目っすかね。
第一印象→幽香さん
第二印象→四季映姫様
第三印象→「閻魔様では…………御座いませんとな…………!?」
大ちゃんはカッコいいと思うんだ。
むしろ幽香さんの婿で良いと思うんだ。
最終回、首を洗って待ってます。
あ、作品集99の99作品目おめでとうございます。
…そういえば、今まで出てきてなかったっけ。
最終回楽しみにしてます。
あ、最終回は足を洗って待ってます。
お空はレイマリの娘だったのか…
HA☆NA☆SE
ロスト99回目で元に戻る!??
変わらぬカオスぶりに乾杯w
>DIE妖精
……なん、だと」
頼むから出しゃばるな