<前回のあらすじ>
パチュリーの手によって紅魔の迷宮に送り込まれたチルノとパルスィ。
しかし、小悪魔の恐るべき全裸や咲夜さんの恐るべきランダム要素によって、一気呵成にレミリアの部屋へと突き抜けてしまう。
そうしてレミリアの元にたどり着いてしまったパルチルだが、そんな彼女らにレミリアが提案したのはタッグバトルだった。
咲夜さんはともかく、強大な力を持つレミリアに、チルノとパルスィは勝つことが出来るのか……?
『ちるのさんLv.99』
むっつめ
むっつめ
「へぇ、私達を倒す、ねえ?」
パルスィの『紅魔の主従を倒す』発言を受けて、レミリアは楽しそうに笑う。
しかし、その無邪気そうな笑みは決して嘲笑ではない。
どこまでやってくれるのか、ホントにやってのけるのか……純粋な興味と期待が、そこにあった。
「減らず口を!」
だが、反応したのは咲夜。
やはり主が軽んじられると黙ってはいられないらしい。
「こちらにおわすお方をどなたと心得る。恐れ多くもツェペシュの幼き末裔、レミリア・スカーレット様にあらせられるぞ!」
「いや今ハッタリ使っても意味ないし。この子達に言ってもたぶん意味わかんないだろうし」
咲夜の時代劇がかった熱い言い回しは、当のレミリアの冷めたツッコミに打ち砕かれてしまった。
だが、その冷えた空気に、奴がのらないはずがない。
「ふふん、じゃああたいだって!」
「いやな予感!」
チルノのでかい胸を張った意気込みに、パルスィは本能で察知した。
「こちらにごわすお鷹をどなたと心得る。恐れ多くもペルシャ生まれの宇治育ち、パルパル君にあらせりゃりぇりゃりゃ!」
「全然恐れ多くねえ! しかも言えてない! 全然言えてないよ!」
『私かよ!』とか『それ前も聞いたよ!』とか『ああもうかわいいなあ!』とか言いたいことは色々あったが、泣く泣く省略した。
「むーっ、真似をするな! 銀符『パーフェクトメイド』!」
咲夜が口をへの字に曲げながらも、時間停止により瞬時に大量の銀ナイフを設置。壮麗なナイフの群隊がチルノを目指す。
「ふん! 凍符『パーフェクトフリーズ』!」
だが、チルノはそのナイフ弾幕を凍らせ、軌道をめちゃめちゃに逸らしていった。
「傷魂『ソウルスカルプチュア』!」
息もつかせず咲夜は斬撃をかたどる衝撃波を繰り出すも、
「氷像『アイススカルプチュア』!」
それに対してチルノは咲夜の姿をかたどった氷像を投げ入れる。
「なっ、何をするだァー!」
だがメイドは急に止まれない。みるみるうちに咲夜の氷像は削られていき、ついにそれはスペランカー先生の氷像と化してしまった。
「なんで!?」
「くっ……どうにかこうにかこの形にとどめるのが限界だったわ……」
「だからなんで!?」
パルスィが純粋な疑問をぶつけるが、咲夜さんはこの出来事に純粋に怒りを燃やす。
「くうう……よくもやってくれたわね!」
「へへーんだ!」
「うぬぬぬぬ!」
「ぬいいいい!」
なんだか子供の喧嘩のような妙な争いを繰り広げる二人に、パルスィは自分が息巻いていたことが虚しくなってきて、苦笑した。
「「馬鹿ばっか」」
自分の声色に重なって、別人の声が聞こえてきたことにパルスィは驚く。
見れば、レミリアも自分と同じ表情をしていた。
奇しくもシンクロしてしまい、なんだか親近感のような不思議な感情が行き来しているところに。
「これならどうかしらっ!?」
咲夜さんの威勢のいい声が聞こえてきた。
「光速『C.リコシェ』!」
「なんの! 凍符『マイナスK』!」
片や光速。片や絶対零度。このぶつかり合いが意味するところは。
お前のスペルで地球がヤバイ。
「まぁ、スペルカードはその弾幕から想起されるイメージで名づけたものであって、全然中身は別物なんだけどね」
「吸血鬼から冷静な指摘が入った!」
かくして高速跳弾ナイフ『C.リコシェ』と冷気爆弾『マイナスK』はどうなったか。
率直な答えとしては、双方軌道がまったく別の動きであったため、見事にお互いをスルーしてチルノと咲夜に命中したのであった。
「ぎゃー!」
「わー!」
そんな二人を見つつ、レミリアとパルスィは再びシンクロしつつため息をつくのだった。
「そろそろ真面目にやらない?」
せっかく前回の最後に真面目に決めたのに、こんな調子では意味がない。
「そだね」
パルスィの声かけに、チルノがゆっくりと上体を起こしながら答える。
「そんな! 私とのことは遊びだったって言うの!?」
「はいはいもういいから」
咲夜のほうもレミリアに引き起こされて、体勢を整えさせられる。
そうして、またぐだぐだと引き伸ばされないがため、レミリアは先陣を切った。
「それじゃあ仕切りなおしと――行きましょうかッ!」
――神槍『スピア・ザ・グングニル』
「避けてチルノ!」
「うん!」
今度はこちらの番とばかりの速攻でレミリアが放った槍状のエネルギー体を、チルノとパルスィは揃って右に避けた。
「幻葬『夜霧の幻影殺人鬼』!」
だが、その避けた隙を狙って、咲夜がナイフの雨を降らせてくる。
そして。
「今度はちょこまかと逃げられないようにしてあげるわ」
――天罰『スターオブダビデ』
「なっ!」
咲夜のスペル発動に合わせて、レミリアが動きを制限する『網』を部屋全体に張った。
「さすがですお嬢様! さぁ、これで終わりよ!」
咲夜が息巻く。スターオブダビデの制限の中で、咲夜のナイフを避けるのは至難の業、戦闘向きの妖怪でないパルスィと、色々と当たり判定がデカいチルノに避けきれるはずがない。
「凍らせてチルノ! 全部よ!」
「おっけー! 凍結『パーフェクトフリーズ―Lv.99―』!」
瞬間、弾幕を凍らせる寒波が部屋を席巻する。
「む……なるほどね」
レミリアが唸った。
寒波は瞬時に収まり、その時には咲夜のナイフのみならず、レミリアのスターオブダビデも凍り付いていた。
凍り付いた弾はもう、誰のものでもない。スターオブダビデは咲夜やレミリアをも拘束する檻となったのだ。
「恨符『丑の刻参り七日目』!」
パルスィはその隙を突き、前回のような穿った使い方ではなく、純粋に弾幕攻撃としてスペルを放つ。
「はっ、何かと思えばこんな一直線な弾幕、避けるのはわけないわ!」
「後ろよ咲夜」
「っ!?」
幾条かの弾の軌道は単純なれども、丑の刻参り弾幕の真髄はおびただしい跳ね返り弾。
「どういう技かも見切れないの?」
「くっ……! 申し訳ありません」
だが、凍ったスターオブダビデの中で丑の刻参り打ち返し弾を避け続けるのはレミリアとしても骨が折れる。
「仕方ないわね。――紅符『スカーレットマイスタ』!」
レミリア・スカーレットはその身から膨大なる弾幕を生み出し、凍らされた周囲と弾幕ごと吹き飛ばした。
「っ、なんて豪快な」
その勢いに、パルスィが気圧される。先日八坂神奈子と相対し、また傍らに常に大出力なチルノがいるという経験を積んでもなお圧巻たるその光景。
だがそれでこそ、攻勢に回られてはいけないという直感へとつながる。
「花咲爺『華やかなる仁者への嫉妬』!」
すかさずパルスィは一発の弾を放つ。
本当に一発。しかもレミリアにでも咲夜にでもなく、その中間を縫うように。
怪訝そうな顔でレミリアたちがそのさまを見ていると、その軌跡に弾幕の花が乱れ咲いた。
「しまった! 連携潰しね!」
その弾幕花は、弾けてレミリアたちを襲おうという風はない。ただ、そこに咲き誇り、咲夜との連絡を遮断するのみ。
ともかく、パルスィとしてはここをレミリアたちのフィールドにしてしまうわけにはいかなかった。
「後は、いくら時間を止めようが関係ないほどに攻撃するのみ! お願いチルノ!」
「いっくよー! 雪符『ダイアモンドブリザード』!」
弾幕が猛吹雪のごとく、咲夜へと吹き付けてゆく。
「くっ、これは……!」
咲夜とて長時間、時を止め続けられるわけではない。限定された空間でがむしゃらに押し寄せる弾幕に対しては時間停止など単なる延命作業にすぎず、その意味を著しく失わせてしまっていた。
「きゃああっ!」
「咲夜っ!」
レミリアがスピア・ザ・グングニルを振り回し、強引に花の壁をぶち破る。
「紅符『不夜城レッド』!」
そうして咲夜の前に躍り出ると、紅いオーラを発し、チルノのダイアモンドブリザードを跳ね飛ばした。
「無事? 咲夜」
「お嬢様……もったいのうございますぅ……」
レミリアの行動に、咲夜は感激に目尻をうるませる。
「まったく……しかしあの橋姫、想像以上にやってくれるわね」
レミリアが舌打ちする。
彼女は最初からチルノよりもパルスィに興味を抱いていた。だからこそ煽りもしたわけだが。
(状況を読んで氷精の力を十二分に発揮させている。いいコンビね)
レミリアと咲夜は連携攻撃こそ強力なものの、戦術的な連携は向こうに譲る。
(まぁそんなもの、私には不要なのだけれども)
レミリアは口の端を上げ、水橋パルスィを見やる。その緑色の瞳を。
(どれ、少し遊んでみようかしら!)
不夜城レッドでダイアモンドブリザードを捌ききると、今度はチルノへと向き直る。
「まずい、反撃が来るわ!」
パルスィが叫ぶも、
「反応する時間なんてあげると思う?」
翼をはためかせて高速滑空してきたレミリアは、その言葉が終わるときには既にチルノの正面へと到達していた。
さすがは吸血鬼の機動力。あるいは咲夜がサポートをしていたのか。
「チルノよけてー!」
「ふお!?」
チルノが驚くも、それ以上の反応は許されない。
まさに肉食獣が狩をするかのごとき圧倒的優位。レミリアはチルノに抱きつくべく両手を広げる。
そう、彼女の狙いは――『バンパイアキス』。
だが。
「むきゅー!(大丈夫か!)」
咲夜の空間操作で不安定だった扉が突如チルノの背後に出現し、勢い良く開け放たれた。
チルノは扉に当たって横っ飛びに吹っ飛ばされ、代わりにその空間に躍り出たのはパチュリー・ノーレッジ。
ワカったときにはもう遅い。
ムキュウウウウウウウン!
凄絶な効果音が、戦場に響いた。
あまりにも一瞬過ぎる出来事に、しばし全員そこに停止していた。
――が、いつまでもそうしているわけにいかんので、レミリアは人形が動くようにぎこちなく、唇を離す。
そこには、頬を染めて乙女のように恥らうパチュリーの姿が。
「む、むきゅう……(もう……レミィったらこんないきなり……)」
「いやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいや」
レミリアは滝のように汗を流す。
純然たる事故であった。
「むきゅ……(……ごめんなさい、私、気づかなくて……)」
「いやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいや」
さしものレミリアもこの状況に対しては、カリスマも何もかなぐり捨てて、ただそう手を振り続けるしかなかった。
「むむむ、これはどういう空気なのかしら」
何せチルノとて、パルスィとて固まっていたのだから。
――いや、パルスィはふとした拍子に自分を取り戻す。それはなんとも自分に馴染み深い気配。
(……これは、パル波?)
微弱ながらも嫉妬の波動。それが、彼女を放心から呼び戻したものだった。
(いったい、誰が。……あっ)
すぐにわかった。十六夜咲夜である。
口を真一文字に引き結んで、レミリアたちを見ている。
レミリアはパルスィの嫉妬心に揺さぶりをかけんとしてバンパイアキスを敢行した。だが、何の因果かその恩恵を受けたのは当のパルスィ。
(何かわからんがかけるしかないわ! 行け! 妬符「グリーンアイドモンスター」!)
今度は穿った使い方。それは弾幕ではなく、咲夜の嫉妬心を煽る波動。
――咲夜の瞳が、緑色に染まる。
キリと歯をきしませ、彼女は勢い良くレミリアの元へと飛ぶ。
そして後ろから、飛びついた。
「うわーん! お嬢様のバカバカバカ!」
「うわっ!?」
「なんつう可愛らしい嫉妬!」
まるで駄々っ子のように泣きつく咲夜に、パルスィは衝撃を受けた。
こいつ本当に人間か? と最初と別の意味で勘繰ってしまうほどに。
「むきゅー(ごめんごめん、お茶目が過ぎたわ)」
「まったくパチェったら……あー、ほら咲夜、さっきのは事故でなんでもないのよ。泣き止みなさい」
「ふえーん!」
この中で一番のチルノに次いで背が高いくらいの咲夜が、一番ちっちゃいレミリアに慰められているという、不思議な光景だった。
(高身長がこぞって幼いってのも奇妙な話よね)
パルスィは苦笑する。
実際のところ本当にこの二人が一番の低年齢かもしれないが。
「ああもう、ほら、明日遊んであげるから」
見た目が一番低年齢なレミリアが、羽ばたいて咲夜の頭をなぜる。
「うう……明日って今さ……」
「そんなこと言ってられるようなら大丈夫ね。……美鈴、いるんでしょ?」
「はい」
扉の影から華人小娘静やかにフェードイン。パチュリーについて戻ってきていたようだが、事態が事態だったので静観していたらしい。
「咲夜を頼むわ」
「わかりました。ほら咲夜さん、一緒にお嬢様のかっこいいとこ見ましょう?」
「うん……」
美鈴は咲夜の手を引きながら、パチュリーに顔を向ける。
「パチュリー様、もう不用意に飛び込んだりしちゃダメですよ?」
「むきゅー(ごめりんこ)」
「真面目にやってください」
美鈴たちが脇に下がっていく中で、パルスィが遠慮がちに声をかける。
「ええと、まだやるの?」
もう全然そんな雰囲気ではないような気がする。だがレミリアはそんな空気を吹き飛ばそうとするかのごとくぶわさと羽を広げる。
「当然よ。私もあなたたちも、まだ立っているわ」
「あ、やっと読めた、今は戦う空気!」
「ずっと空気読もうとしてたんだ……」
腕まくりするようなしぐさを見せてやる気のチルノを見て、パルスィも今一度納得する。
「確かにそういう空気ね」
チルノも中途半端なところで止まっては不完全燃焼だし、レミリアの目的は果たされていない。咲夜にかっこいいところも見せなければならない。
「もう、私は手加減しないわよ!」
叫び、そして勢いよく吸血鬼は上空へと舞い上がる。上へ上へ、月へと吸い込まれるように。
「獄符『千本の針の山』!」
おびただしい量のナイフと赤い弾幕の雨が降り注いだ。
「うわあああ!?」
この威力にパルスィは焦る。咲夜との連携攻撃に重きを置いていた時とはまったく違う、強力な広範囲弾幕。
さすが畏怖されるべき種族は格が違った。
「息もつかせん! 夜符『バッドレディスクランブル』!」
そしてレミリアは彼方から赤き弾丸となって飛来する。まっすぐ狙うは――チルノ。
「凍符『フリーズアトモスフェア』!」
自分に突っ込んでくるそれを見て、チルノは急いで冷気を溜める。
「はあああああ!」
「りゃああああ!」
レミリアが着弾する寸前に、チルノは冷気を開放した。
レミリアに押し込まれながらも、チルノから吹き出す冷気はレミリアの衝撃を押さえ、また壁に押し付けられる際のクッションにもなった。
「む、止められた!?」
レミリアは驚く。
確かにフリーズアトモスフェアの使い方は上手かった。だが、上空から勢いをつけて突っ込んだバッドレディスクランブルを止めるほどとは。
恐るべしLv.99なのか。いや。
「私を押しとどめたのはチルノのスペルのみにあらず! この頭に感じるやわらかい感触は――!」
レミリアはそうして、恐ろしい事実に気づく。
「“おっぱい”だッ! この弾力に私の突進力が相殺されてッ!!」
やっぱり恐るべしLv.99だった。
「ちぇい!」
驚愕した隙を突いて放ったチルノの手刀を、いまだに斜め45度の角度でチルノのおっぱいに突き刺さっていたレミリアは首の力でおっぱいから逃れ、回避する。
空中で一回転して着地したレミリアは、キリと奥歯をかんだ。
「ぬうう、胸ゆえに、人は苦しまねばならぬ……胸ゆえに、人は悲しまねばならぬ……胸ゆえに……」
そのとき、パルスィは波動を感じた。
(これは、パル波……? いえ、ち、違うわ!)
付け入れるか――。パルスィの期待は、一瞬で灰燼と化す。
「こんなに悲しいのなら、苦しいのなら……胸など要らぬ!」
嫉妬とは相手のそれを認めてしまっているが故の感情。だが、レミリア・スカーレットは、それを跳ね付けた。
(なんて強靭な精神力……!)
なんで胸のことでこんなにシリアスにならなあかんのだろうという思いもあったが、それを鑑みてもすごいことだったのだ。
しかし、そこに、チルノが氷塊を持って急襲する。
「氷塊『グレートクラッシャー』!」
「悪魔『レミリアストレッチ』!」
しかし、レミリアは手に紅い輝きを宿してとっさに上体を逸らす。そして戻ってくる勢いに任せて、そのエネルギーをぶつけ、氷塊ごとチルノを吹っ飛ばした。
「わわわわ!?」
「ふぅ……ちち妖精が相手ならストレッチパワーを使わざるをえないわ」
先ほど迎撃に使った手をぷらぷらと揺らしながら、レミリアは微笑む。
「ッ舌切雀――!」
「あくびが出るのよ」
それは弾幕ですらない、たった一つの弾だった。
紅いそれがごく自然に、パルスィの胸へと突き立つ。
もはや策も何もない。純粋な力と力のぶつかり合いに、もう水橋パルスィはついてはこれない。
「――『大きな葛籠と小さな葛籠』」
だがその地点から血のごとく噴出したのは、大量の撃ち返し弾。
「何!」
「それはニセモノよ、吸血鬼」
レミリアの視界の隅に、もう一人のパルスィが現れる。
この戦いにもうついていけないことなど、パルスィ自身も百も承知。だからこそ。
「受け取ってチルノ、これが私の精一杯のサポートよ」
自分にできるだけのことを、精一杯やるのだ。
「冷体『スーパーアイスキッーーーーク』!」
不意の撃ち返し弾に驚いているその隙を見事に、チルノの飛び蹴りが突き崩した。
「くああああああっ!?」
レミリアもしばらくはなんとか防御していたが、背後からもまだ撃ち返し弾が迫る。防御姿勢を貫き続けるわけもない。
「がっ!」
ついに受け止めきれなくなり、レミリアは吹き飛ばされて壁に打ち付けられた。
「ふっふーん、あたいたちったら最強ねっ!」
「や、やってくれるじゃないの……」
レミリアはひざを突かず、ゆらりと身を起こす。
チルノの冷気によって、右腕を中心に氷が張っていたが、それを無理やり気合で破砕する。しかし。
「く……冷えて動きが鈍くなってる……」
吸血鬼はその高い身体能力が何よりのアドバンテージ。だが、今の一撃でそれはいくらかではあるが埋められてしまった。
「橋姫め、この期に及んでちち妖精を使いこなすのね……」
レミリアは笑った。こうなることを望んでいた、いや、こうでなくては面白くない。
「でも、最後に私が勝たなきゃ、それは面白くもなんともないわ」
その手に、スピア・ザ・グングニルが具現する。
「ふーん、そっちがそう来るなら」
チルノの手には冷気が凝縮され、一振りの剣が具現する。氷符『ソードフリーザー』――念願のアイスソード。
「ふん、来るかちち妖精」
「……その呼び方やめてくんない?」
「ならば来なさい、氷精チルノ!」
その言葉を皮切りに、チルノが飛び上がり、縦に回転して威力をつけつつ剣でレミリアに斬りかかる。
「はっ!」
レミリアは槍でそれを払った。多少痺れているが、だがいまだ重い一撃。
そしてチルノを払いのけた後、すぐに上空に飛び上がる。チルノもそれを追って舞い上がった。
「私は、あんたが一番よくわからないのよ」
「んえ?」
剣と槍で鍔迫り合いを演じながら、レミリアはチルノに語りかける。
チルノはいきなり話しかけられて頓狂な声を上げている。
レミリアも自分で何を言い出しているのかよくわからなかったが、何か、少し話しておきたかった。
「何を考えているのか、まったくね」
「明日の予定とパルスィのことと新しいスペカと晩の献立」
「……晩の献立って?」
「おはぎ!」
「……献……立……?」
首を傾げたレミリアの力が弱まり、チルノが一気に押し切る。
だが、レミリアは体勢をずらしてチルノの肩をつかみ、ぐいと押して再び距離を開けた。
「むぅ……」
「なんであなたはあの橋姫と一緒にいるの?」
レミリアが横薙ぎに繰り出した槍を、チルノは剣を逆手に持って受け止める。
「友達だからよ」
「友達ねぇ」
レミリアは槍を引いた。先端の突起が釣り針の先のように、チルノの剣に引っかかる。
チルノは体勢を崩しそうになって、慌てて剣を抜いた。
「そうよ。あたいのことをわかってくれてて、あたいといっぱい遊んでくれるの。だから、大好き」
レミリアは、再び槍を構えなおす。
「そう、幸せね、あなた」
「あんたは幸せじゃないの?」
「あら、私はとても幸せよ?」
そうして軽くウインクする。
直後に再び槍と剣が打ち合い、そして両方が砕けて消えた。
お互いに武器を失い、仁王立ちで相対する。
「あなたたちを見てると、他人とは思えないわね。だからこそ、私は興味を持ったのか」
「え? 他人じゃない? 実はあたいたち、家族?」
「いや、それではない」
レミリアは嬉しそうに否定する。
「まぁ、よく似ているということかしら」
「双子か!」
「それでもない」
「ニワトリか!」
「どういうこと!?」
レミリアはこほんと咳払いをする。
「……まぁ、あなたたちと戦えて、楽しかったって事よ」
「そっか。あたいも楽しかったわ」
「それは重畳」
にこりと微笑む。
チルノもつられて笑う。
「じゃあ、決着をつけましょうか」
「そうね」
お互い、一枚ずつカードを取り出す。
決戦としては奇妙なほどに静かだった空気が、止まる。
次に動き出す、そのときのために。
「魔符『全世界ナイトメア』!」
「氷帝『氷の世界』!」
彼女らが、彼女らの世界が、ぶつかり合った。
似ているようで反対なような、そんな二人が奏でる紅と蒼の弾幕の饗宴は。
ただ、綺麗だった。
*
「お嬢様ー! 目を覚ましてお嬢様ー!」
「むきゅー……(死亡……確認……)」
「がーん!」
「それは生きてるってことだから安心して!」
「両者ノックダウン……。この場合、先に立ち上がり『優勝したもんねー!』と」
「それはもういいわよ!」
「ああ――うるさいわね」
レミリアの気だるげな声が、カンカンガクガクな声をぴしゃりと止まらせる。
「お嬢様ー!」
「くるしいからはなして」
上体を起こしたとたんに全身全霊で抱きつきに行った咲夜に、レミリアは一生懸命耐える。
「……私は気を失っていたの? 私は負けたのかしら?」
「いえ……」
美鈴がちらりと視線を動かす。レミリアがそれを追うと。
「ううん……」
すぐ横で、レミリアと同じように、チルノが瞳を開いていた。
「チルノ!」
美鈴、咲夜、パチュリーの相手をしていて憔悴した様子の伺えたパルスィが、その疲れをまったく見せない素早さでチルノを抱き起こしにいく。
「パルスィ……怖い夢を見たの……。パルスィがさらわれちゃうんだ……」
「チルノ……」
「それで、パルスィをさらったハリガネムシが、返してほしくばこの皿に山盛りになったレミリアを完食しろって……」
「「どういう状況!?」」
パルスィとレミリアの声が重なる。
そして二人はまた顔を見合わせると、苦笑した。
「なるほど、引き分けね。なんだか、一番しっくり来る結果に思えるわ」
「へえ、自分が勝たないと納得しないかと思ってた」
「ふふ、そのはずだったんだけどね」
そう言って、レミリアは再びぱちりとウインクした。
*
霧の湖。
紅魔館からここを挟んで対岸に、その薄蒼い氷の城は聳え立っていた。
「吸血鬼に目を付けられたときはどうなるかと思ったけど、まさかこういう結果になるとはね……」
地底の橋姫、水橋パルスィが、遠い過去を想うようにつぶやく。
結局、この城の存在は紅魔館に認められたのだ。
「夕飯にも御呼ばれしちゃったね。今晩はおはぎの予定だったのに」
「おはぎ……」
しかも、吸血鬼の一派に妙に気に入られてしまったらしく、また気軽に遊びにおいでとも言っていた。
パルスィとしても、レミリアと話しているとなんだか他人のような気がしなかったりしたりだったわけではあるのだが。それは不遜な感覚だったのだろうか。
「ねえパルスィ。今日は一緒に寝ない?」
「ぶー!」
豪快に吹き出す。
「だって、パルスィがいなくなったら、怖いし」
「……山盛りのレミリアを完食させられるから?」
想像するだけでえもいわれぬ気持ちになる一品を思い浮かべながら、パルスィはおどける。
「ううん、それだけじゃない」
だが、氷精チルノは首を振った。
「パルスィと一緒にいるのが、しあわせだから」
それは、レミリアに言われた言葉なのか。
はたまた、レミリアをとられそうになった咲夜を眺めていた実感か。
いずれにせよ、チルノはそうして、心をぶつけてきたのだ。
それは、二人が友達になった日以来のことではなかったか。
「――ッ!」
パルスィは顔を赤くする。
「ど、どうしてもっていうのなら、一緒に寝てあげないこともないわ!」
こみ上げてくる感情に、思わず微妙なツンデレになってしまう。
だけど、チルノにはそんなのは関係ない。見たままを、素直に受け止められるこの妖精には。
「うん、ありがとうパルスィ」
そう言って、にっこりと微笑む。
「大好きだよ!」
翌朝、熱に浮かされた橋姫は、めでたく風邪を引いたという話である。
――Go to next nightmare…?
他の言葉は要らない。
小ネタの嵐が良いスパイスになっていて飽きが来ませんでしたw
面白かったです!お嬢様カリスマ万歳!
よし最初から見てくるか。
レミリア苦労人すぎるwww
しかしぱっちぇさんはホント、おいしいなぁw
よがったぁ~。
そんなあなたに
99てんをあげる
四捨五入するけど。
とりあえずちるのさんの3サイズから行こうか!
長編にありがちだけど物語の題名を忘れないように。