注)この二次創作は、同作品集にある憲法第⑨条(前編)の続編となります。
それと、もしかしたら人によっては不愉快に思われる展開・描写があるかもしれません。
それらをご理解頂けた上で、読んでもらえれば嬉しい限りです。
▲
目を覚ますと、板張りの天井と、それに吊るされた仄かな光を瞬かせるランプが、私の視界に入りました。
気だるい身体を上半身だけ起こして、恐る恐る辺りを見回します。
私はベッドに横たわっていました。その周りには鏡台やクローゼットといった調度品が並べられています。
殺風景な部屋だけど、薄桃色のカーペットが私の脳裏に女性の寝室、という言葉を連想させました。
ここはどこなんだろう? それに私、何してて。
思い出そうとしても、霞がかかっているかのように、思考がハッキリとしてくれません。
頭を軽く振って覚醒を促している私に、部屋の戸口から女性の声がかかりました。
「目が覚めたようね」
……その声を耳にした途端、私の意識はクリアになり、今までの経緯を思い出す事が出来ました。
そうだ私、チルノちゃんを探してて、アリスさんに会って、そして―――
怖気が立つようなアリスさんの乾いた冷笑。
憎しみに満ち満ちた、地獄の釜底から響いてくるような怨嗟の声。
首を絞められたことによる恐怖。
何故? という疑問。
自分がこれからどうなるか知れない不安。
―――全ての感情がない交ぜになって、知らず私は小さな悲鳴をあげながら、ベッドの隅で身体を丸めました。
ガタガタ、と小刻みに震えるその様は、さながら獰猛な肉食獣を前にした小動物そのものです。
私は無力でした。
「こ、来ないでっ。来ないでください」
「……怯えるな、って言うほうが無理か。まあ、別にそれはいいんだけどね」
声の主である人形使い―――アリスさんは、私のそんな滑稽な姿を見て、困ったように苦笑しました。
一体この人が何を考えているのか、私には想像さえ出来ないし、そんな余裕もありません。
チルノちゃんの事も忘れて、私はただただ震える身体を、ギュッ、と抱き締めることしか出来ませんでした。
「手荒な真似をした事は謝るわ。粉々になった上海の様を思い浮かべて、ちょっと冷静さを欠いていたみたい。
……でも、貴方にこれ以上危害を加えるつもりはない。それだけは信じて頂戴」
「……」
「妖精さん。チルノを本当に心配しているのであれば、私に協力してくれないかしら?
私の手できっちりと、あのじゃじゃ馬娘を教育してあげるから」
「……チルノちゃんに、何をするつもりなんですか?」
教育って何ですか? こんな真似までしておいて、今更何を言っているのですか?
チルノちゃんにまで、危害を加えるつもりなのですか?
私の猜疑心に満ちた視線を受け止めてなお、アリスさんは涼しい顔で微笑みました。
「アリス・マーガトロイドが大妖精を粛清したという嘘を、チルノに吹き込みたいのよ。
貴方、チルノの大切なお友達なのでしょう?
自分のしでかした事がどれだけ重く、そして悲しみを招くのか、あの子も知らなくてはいけないわ」
「……そっ、そんな!?」
それはいくらなんでも酷すぎます!
荒療治といえば、そうかもしれませんけど、私はあの子の悲しむ顔なんて見たくありません!
私は全力で抗議しました。それはあんまりではないか。もっと穏便に済ませる方法があるのではないか、と。
そんな私の声を、そしらぬ素振りで受け流していたアリスさんの笑みが、突然消えました。
首を絞められた時の恐怖が甦り、私はひっ、と息を呑んで、身体を竦めました。
「……本当に何もわかってないのね貴方。私が今どれだけ怒っているか気付いてないの?」
「……あ、……あ」
アリスさんは、人形のように表情を消したまま一歩、私に近づきます。
言葉とは裏腹に、その無機質な能面からは何の感情も伝わってはきません。
だからこそ恐ろしい。
チルノちゃんを庇いたくても、私が何か言えば、その瞬間に今度こそ八つ裂きにされてしまいそうで。
「上海が奪われるところだったの。
私の人形が、私の一部が、子供のいたずらで、永遠に失われてたのかもしれないのよ。
もし上海が助かっていなければ、私は貴方だけでなく、チルノも確実に消し去っていたわ。
……何のために私が、こんなくだらない話に首を突っ込んでいると思ってるワケ?」
いつも冷静で、素っ気無くて、魔法使い然とした佇まいを見せていたアリスさん。
「あいつに後悔させたいからよ! 絶望と悲しみの一歩手前まで追い込んでやりたいからよっ!!」
そんな彼女が初めて私に見せた、激しい感情。それは例えようもない大きな怒り。激昂でした。
……私は、なに被害者のつもりでいたのだろう?
意味のないいたずらで、掛け替えのないものが奪われようとしていたのは、他ならぬアリスさんの方なのに。
チルノちゃんが全面的に悪いのは、疑いようもありません。
私が何かフォローを入れたとしても、今のアリスさんに届くとは思えませんでした。
「……私に、何をして欲しいんですか?」
だから、私も、覚悟を決める必要があるようです。
「……そうね。まずはそのリボンを貸してくれないかしら? 演出の為のいい小道具になりそうだし。
それと、貴方は事が済むまで家で待ってなさい。私は今から湖に向かうわ」
「私も行きますっ!」
「え?」
「アリスさんの言いたいことはわかりました。私にはそれを止める力も、資格もないと思います。
でもっ! それならせめて私も見届けたいんです! チルノちゃんの傍にいたいんです!
お願いします、私も一緒に連れて行って下さいっ!!」
解いたリボンをアリスさんに手渡しながら、私は懇願しました。
協力を余儀なくされました。それがチルノちゃんの為になるのであれば、私は貴方に従いましょう。
だけど、これだけはどうしても譲ることが出来ません。
アリスさんは驚いた顔で、私の目をまじまじと覗いていました。
「……あの子、いい友達をもったみたいね。これは思った以上に効果があるかもしれない。
それと、わかっていると思うけど、見守るならすぐには出てこないでね。白けちゃうから」
「え? そ、そうなんですか?」
「……釘を刺しておいてよかったわ。一応、全部説明しておきましょうか。
私のシナリオでは、チルノはショックを受けた後、猛然と私に襲いかかってくるでしょうね。
それを私の人形たちが、ギッタンギッタンのケチョンケチョン、にしてあげるわ」
「あ、あの。手加減はしてくださいよ?」
「動けなくなって、後悔に打ちひしがれて、泣いてるところに、貴方が駆け寄ってあげなさい。
それでこの話はお終い。……今度こそ、チルノにちゃんと諭してやりなさいよ」
「……はい」
チルノちゃんが学ばなければいけないこと。私がもっと早く教えるべきだった大切なこと。
今こそ私は、それをチルノちゃんに教えなければいけません。
私怨を含んでいるのは否めないけど、アリスさんも彼女なりにあの子を心配してくれています。
……もう、迷いはありません。
弾幕ごっこの準備をしているアリスさんから背を向け、私は一足早く外に出ました。
煌々とした斜陽を眺めながら、私は胸元で手を組み、静かに祈りました。
どうかチルノちゃんが無事に帰ってきてますように。ひどい目にあっていませんように―――
肩を並べて飛んでいた私たちは、ほどなくして霧の湖に辿り着きました。
ですが、まだチルノちゃんは帰ってきていないようです。
アリスさんは湖の前に、私はそこから少し離れた雑木林の陰に隠れて、チルノちゃんの帰りを待つことにしました。
それにしてもこんな時間まで遊び歩いているなんて、チルノちゃんにしては珍しいです。
遊んでるだけならいいけど、もし何かのトラブルに巻き込まれてたりでもしてたら……。
アリスさんの件もありますし、私は気が気ではありませんでした。
四半刻ほど待って、いよいよチルノちゃんを探しに行こうと、足を踏み出した頃。
暮色の空に、豆粒ほどの小さな点を見つけました。きっとチルノちゃんです。……よかった。
慌てて木の陰に隠れました。今見つかったら、アリスさんの計画が台無しになってしまうからです。
私は息を潜めて、アリスさんとチルノちゃんの会話を見守っていました。
―――ああ、チルノちゃんが泣いてる。
本当は今すぐにでも出て行きたい。あの子の手を握って、安心させてあげたい。
だけど、今は出来ません。歯を食いしばって懸命に耐えるしかありませんでした。
痛いくらいに両手を握り締めている私は、不意に、大気の急激な変化に気が付きました。
「……寒い?」
思わずそう呟いてしまうほど、目に見えて気温が低下していっているのです。
そして、その原因は一目瞭然。
私の脇に、親からはぐれた子狸が寒さにブルブル、と震えながら丸まっていました。
私はその子狸をそっと抱き寄せました。大丈夫、寒くないよ。大丈夫だから。大丈夫だからね。
自分に言い聞かせるように私も身体を丸めて、胸の中にある小さな命の体温を感じ取りました。
……あったかい。
チルノちゃんだって、本当はあったかいのに。
一体どうしちゃったの? この寒さはチルノちゃんの仕業なの?
やっぱりやめましょうアリスさん。何か、何かイヤな予感がするんです。
―――取り返しの付かないことになりそうな気がするんです。
私は子狸を抱えたまま、木陰から飛び出しました。
アリスさんは怒るかもしれないけど、今のチルノちゃんを放ってはおけなかったからです。
でも、私の決意は一歩だけ、ほんの一歩だけ遅かった。
私の胸の中にいた子狸の感触が、いつの間にか硬くなってて。
目線を下げると、そこにはもう何の温もりも宿さない、子狸だった氷の塊があって。
私が驚きに目を見開いた瞬間。
世界が、凍りつい、た。
●
「―――大ちゃん」
あたいは呟く。
誰よりも、誰よりもあたいに優しくしてくれた、大切な友達の名前を。
あたいはずっと一人ぼっちだった。
他の氷精たちは、あたいの最強を疎んで、避けて、そして離れていく。
同じ種族のヤツらでさえそうなのだ。人間や妖怪とだって仲良くなれるわけなかった。
蛙を凍らせたり、大ガマにちょっかいかけて食べられかけたり、みんなにいたずらしたりする毎日。
ますます嫌われて、孤独になって、寂しさを紛らわすためにいたずらを繰り返して。
悪循環。
―――もっとあたいを見てよっ! 相手してよ! あたいってばすっごい強いんだよっっ!!
お月様に向かって、いつも叫んでた。誰でもいいからかまって欲しかった。
あたいだけしか知らない秘密基地があるのに、それをこっそり教えてあげられる人がいない。
あたいの氷で作ったかき氷は、すっごくすっごく美味しいのに、一緒に食べてくれる人がいない。
それはとても辛くて、悲しくて、……心が痛い。
たまに面白いことに出会って笑っていても、いつだってあたいの胸の中はチクチクしていた。
そんな時に、大ちゃんに出会った。
最初は全くの偶然。通りすがりの妖精にいたずらしてやろうと思っただけ。
まだ弾幕ごっこがない頃だったから、落とし穴を作ったり、蜂の巣を突いて襲わせたりして、色々いじめてやった。
大ちゃんはトロいから、あたいのトラップに何度も引っかかってくれる。
でも、大ちゃんだけは、他の妖精みたいに冷たい目であたいを見ることはしなかった。
それどころか、「これどうやって作ったの?」って話掛けてくれたんだ。
あたいは嬉しかった。夢中になって喋り捲った。あんなに楽しかったのは生まれて初めてだったかもしんない。
その日から、あたいに初めての友達が出来た。
笑うのも、泣くのも、怒るのも、常に一緒。
喧嘩だってよくしたけど、次の日にはすぐに仲直り。
一緒に遊んで、一緒に食べて、一緒にいたずらなんかもしたりした。
あたいよりちょっとお姉さんな大ちゃんは、色んなことをあたいに教えてくれた。
真面目な話は好きくなかったけど、エッヘン、と指を立てて喋る大ちゃんの笑顔は―――大好き。
でも、もう二度と会えない。遊べない。大好きな笑顔が見れない。
……あたいはまた、一人ぼっちになった。
「―――あっ、ああああああああああああああああぁぁぁぁっっ!!!」
あたいの絶叫と共に地面が裂け、そこから巨大な氷柱が次々と飛び出した。
溢れんばかりの力は、あたいの周囲に氷礫で出来た小竜巻を作り上げていた。
止め処無く流れる涙は豪雪を招き、辺り一面を瞬く間に銀世界へと変貌させる。
ビュービューッ、と肌に心地よい雪嵐が吹き荒れる度、すでに上空にいるアリスはますます目を見開かせた。
「……なんて、ことなの」
そんな呆然とした、憎んでも足りない仇の呟きが、あたいの耳に届く。
今頃後悔しても遅いのよ。
どんなに泣き叫ぼうが、許しを乞おうが、あたいはお前を決して許さない。
お前の大事なものも、大事な人も、全て氷の底に閉じ込めてやる。
あたいの邪魔をするヤツ、お前を庇おうとするヤツもみんな同罪だ。あたいはもう誰も信じない。
……そして、最後はアリス、お前だ。
すぐには楽にしてあげない。指先からじわじわと凍らせて、自分の無力さを思う存分味わわせてやる。
動けなくなったお前の目の前で、大切な人形を一体ずつ丁寧に壊してやる。
その澄ました顔を泣き顔に変えてやる。あたいのように泣いて、叫んで、もがき苦しめ!
……でももし、もしも本当に助かりたいというのであれば。
お前が救われる道があるというのなら、それはただ一つだけ。
「大ちゃんを返せ」
「……認めてあげるわチルノ。貴方は最強の名に恥じない、一等級の化け物よ」
「大ちゃんを返せっ!!」
「正直、これほどの力を秘めていたとは、……露ほども思ってなかった。これは完全に私の誤算。失策だわ」
「―――ダイチャンヲカエセェェェェェェェェ!!!」
「……でもね。私にだって意地があるのよ。私が引き起こした以上、この災厄は―――私の手で止めてみせるっ!!」
―――そして、死闘がはじまった。
★
ジリジリ、と肌を焦がす陽光もこの時間になるとすっかり形を潜め、いい按配の微風をわたし達に運んでくれる。
うるさいくらいの蝉の鳴き声も、縁側に掛けられている風鈴の音色も、脇に置かれた蚊取り線香の匂いも、まさにこの季節ならではの醍醐味だ。
ん~、夏だなあ。
わたし―――霧雨魔理沙は、神社の縁側で西瓜に齧り付きながら、そんな風情の余韻に浸っていた。
その隣に座って、ズズー、と茶をすする霊夢も、わたしと似たようなことを考えているのか。
どっか腑抜けた顔で、手にした団扇をパタパタ、と扇いでる。
どうでもいいけど、何でお前は茶を飲む時はいつも湯呑みなんだ? 中身は冷たい麦茶なのに。
相変わらずこいつはよくわからんな、と思いつつ、三切れ目の西瓜の攻略に取りかかろうと、わたしは盆に手を伸ばす。
すると、霊夢が不意に、団扇を扇いでいた手を止めた。
な、なんだよ? お前の分にはまだ手をつけてないぜ?
「……何、これ?」
そんな呟きを一言を漏らしたかと思うと、霊夢は団扇を投げ捨て飛び上がった。慌てて私も追いかける。
神社の屋根に霊夢はいた。その顔はさっきまでとは違う、博麗の巫女のそれだった。
……一体なんだってんだ。面白いことが見つかったってんなら、わたしも混ぜろよ。
「どうしたんだ霊夢。そんなおっかないツラして」
「……山。山の方を見て」
山? 妖怪の山のことか、とわたしは何の気もなく、霊夢が指差す方向に顔を向ける。
そして、絶句した。
青々とした山の一部分が、真っ白に染まっていたのだ。
「な、なんだありゃ……?」
「どう見ても雪でしょうね。よかったわね魔理沙。ステキな避暑地が出来たみたい」
「バッ! 冗談だろ? こんなこと今まで一度も無かったぜ?」
「わたしだって、こんなシュールな光景見たことないわよ」
この時期に雪。しかも遠目からでもわかるくらい降り積もっている。
わたしは昼に紅魔館に行ってる。少なくとも、その時までは山に何ら異常はなかったハズだ。
つまり数時間で山の色を変えてしまうほどの、極局地的な大雪が発生したということだ。
……うん、なるほど。そりゃ異変以外の何者でもない。そして、異変となれば。
「―――ごめんあそばせ。二人とも、現状は把握しているわね?」
ホラ来た。スキマ妖怪―――八雲紫。こいつが絡んでくるのはもはやお約束と言ってもいい。
だが、こういう説明役がやって来るのは、わたしたちにとって好都合だろう。
何しろわたしも霊夢も、状況なんてさっぱり理解出来ていないのだから。
「紫、あれ何?」
「チルノよ。あの氷精が我を失って暴れている。ただそれだけの話」
「……はぁ?」
「お、おい大丈夫か紫? まさか変なキノコにあたってトリップしちまってるんじゃ」
「貴方じゃあるまいし。私は至って正常よ」
紫は事も無げにそう返した後、険しい顔で問題の山を睨み付けていた。
……こいつがこんな顔するなんて珍しい。そりゃ雪も降り出すってもんだ。
大体、わたしは紅魔館の行きがけに、普段通りのチルノをからかったんだぞ?
スキマの話に半信半疑だったわたしは、そんな適当なことを思いながら、箒にまたがった。
百聞は一見に如かず。それを地でいくのが霧雨魔理沙さんなんだぜ。
「わたしも行くわ魔理沙」
「待ちなさい二人とも。その格好じゃたちまちに凍え死んでしまうわよ?」
「そんなに寒いのか?」
「マイナス90度以上、って言えばわかるかしら。オイミャコンより寒いわよ。チルノの周辺に至っては絶対零度に近いわ」
「ぶっ! そ、それ異常気象ってレベルじゃないぞ!」
「……ねえ。本当にチルノがやったの? あの口だけのやんちゃが?」
「実際に行って確認してきたのだもの。チルノの仕業なのは確かよ。
……それに、あの子は口だけの妖精ではないわ。その潜在能力は閻魔様のお墨付きだからね」
マジなのか? 冗談なんかじゃなく本当に?
紫が嘘をついているようには見えないし、第一そんなことをする意味はない。
……それでもまだ信じられないぜ。だってあのチルノだぜ? EXチルノにでもなっちまったっていうのか?
「チルノはどうして暴れてるの?」
「……そこまではわからないわ。ただ、一つだけ言えることは」
「……」
「あの空間は閉じている。完全に閉鎖しているのよ。まるで今のあの子の心を代弁しているかのように」
「閉鎖って、結界でも張っているってこと?」
「結界とは少し違うけど、誰も立ち入らせない、邪魔させない意思みたいなものを感じたわ。
今の所、あそこに行く手段は私のスキマだけみたいね。……何か、悲しい事があったんじゃないかしら?」
……悲しいこと、ね。
あの馬鹿にも、嘆き悲しむくらいの情緒があったって事なのか。そりゃめでたいこって。
さっきまでは行く気満々だったわたしだが、現場の異常な状況を知って、途端にやる気を失くしてしまった。
霊夢はあれを聞いた上でもまだ行くつもりなのか、めんどくさそうに神社に戻っていった。着替えと準備の為だろう。
全くご苦労なことだぜ。巫女の鑑だね。
はっきり言ってこいつは人間様の埒外にあるお仕事だ。寒さに震えるだけで、チルノを止めるどころの話じゃない。
面倒な揉め事は紫たちに任せて、自分はさっさと家に帰ろう、とわたしは踵を返す―――
「……そういえば、あそこにはアリスもいたわね。何か狙われてたみたいだったけど」
「そっ、それを早く言えーーーーーーーっっ!!」
―――のをやめて、急いで神社に戻った。れいむー! わたしにも上着を貸してくれーっ!!
―――魔理沙も母屋に引っ込み、一人になったはずの紫は、何故か境内の方に目を向けていた。
目線の先。鳥居の真下に、日傘を差した女性が忽然と立っていたからだ。
「……今の話、ちゃんと聞いていてくれてたかしら? 同じ説明を二度するのは億劫ですわ」
「……ええ。ここに来れば、貴方に会えると思ってね」
「という事は山に行ったの。……貴方でも入れないのであれば、他の誰にも突き崩せそうにないわね」
「あの氷精とはちょっとした縁があったのよ。豹変した理由にも、心当たりがあるわよ?」
「……とても興味深い話ですわね。是非、聞かせてくれないかしら?」
「私もあそこに連れて行ってくれるならね」
そう言って。フラワーマスター、風見幽香は口元を三日月の如く吊り上げて、笑った。
◆
目の前に浮かぶチルノをしっかりと見据えたまま、私は懐から一枚のスペルカードを取り出した。
まずは、これで様子見というところ。口火は切らせてもらうわよ。
前に出ている三体の人形。和蘭、露西亜、オルレアンとリンクし、私の魔力を注ぎ込む。
残り五体は、牽制の為に弾幕を維持。……正直、この寒さではいくら私でも思うように動けない。
チルノの周囲には、大木ほどもある巨大なツララが数十本、その先端を私に向けて放とうとしている。
彼女は弾幕戦でツララをよく使用するけど、いつものそれとはスケールがまるで違う。
―――スペルカード。それは自身の技を弾幕化させる媒介技術。
言ってしまえば、危険を取り除き、戦いを試合に変える為に作られたフィルターのようなもの。
あのツララは、弾幕というフィルターがかかっていない、チルノが作った剥き出しの暴力。
鋭い切っ先から、チルノの明確な殺意が伝わってくる。どうやら本気でごっこ遊びをするつもりはないようね。
だけどその前に。
「散開!!」
私の号令と共に、尖兵役の五体をツララの周囲へ、そして本命の三体をチルノ本体に突貫させる。
疾風迅雷の速度で、光弾を撒き散らしながら規則的に進軍するその様は、さながら完成度と壮美を追及した弾幕の舞。
彼女達の神経系である私は、グリモワールを片手に持って、人形たちがイメージ通りに戦えるように、傷つかず私の元に帰ってきてくれるように、文字通り神経を研ぎ澄ます。
五体の人形が氷塊を囲む。それと同時に一斉掃射。
だが壊れない。チルノの強力な冷気によって作られたそれは、その硬度も尋常ではなかった。
だからと言って、人形たちに近接攻撃をさせるわけにもいかない。
今のチルノに不用意に近づけば、たちまちに芯まで凍てついてしまう。
ツララはすでに、限界まで張り詰められた弦のよう。恐らくはあと一秒もしない内に射出される。
弓が解き放たれれば最後。守りのいない私は無残にもその矢によって貫かれ、串刺しとなるだろう。
だが、間に合った。
視界を遮るほどに放散された米弾に紛れて、時間差で突撃した三体の擬似爆弾が、チルノの懐に飛び込んだ。
物理法則に縛られない魔力の塊は、凍りつくことを忘れたまま―――爆散。
―――魔符『アーティフルサクリファイス』
チルノの周辺に配置された氷の矢をも巻き込む規模で、私のスペルは凄まじい大爆発を起こした。
轟音と爆風の最中、八体の人形を手元に戻す。……全員無事だ、よかった。
しかし、これで決着がついたと思うほど、私は日和見ではない。このスペルはあくまでもテスト、実験だ。
彼女にどれ程のダメージを与えられたかによって、今後の戦術と方針を変えなくてはいけない。
少しでも効果があったのならば良し。それなら他のスペルも通用するだろう。
逆に、まったくの無傷だった場合は―――
「……さっきのは何? もしかして攻撃のつもりだったの?」
爆煙の向こうには、表情一つ変えず、不遜な態度で私を見下すチルノの姿があった。
―――今の私に持ち得る、最大の攻撃を叩き込む以外にない。
もはや、本気を出さないなんて言っていられない。何しろ敗北は自身の死に直結している。
私は決心した。全身全霊を以って、目の前の怪物を撃退する、と。
「それじゃ、今度はこっちから行くよ?」
どこか弾んだ声と共に、チルノの小さな指が頭上に掲げられ、パチン、と小気味よい音を鳴らした。
刹那。
湖に張られた分厚い氷が砕け散り、その破片がチルノの前に集まり出した。
大小様々な数千にも及ぶ氷の破片が、チルノの魔力によって結合し、一匹の巨大な生き物を模ろうとしていた。
あれは……ドラゴン?
あっという間に、全長五十メートルはあろうかという、巨大な氷の龍が私の前に立ちはだかった。
作り物の目玉がギョロリ、と私の方に向けられる。同時に龍の頤が大きく開かれた。
「……ッ!」
敵が何をしようとしているのか、逸早く察知した私は、慌ててシールドを展開する。
それと同時に、龍の口から氷のブレスが吐き出された。
……シールドから漏れた冷気が、私の皮膚をパリパリ、と凍り付かせている。
くそっ! 霜焼けにでもなったらどうしてくれんのよっ!
人形達に解凍してもらいながら、私は必死に耐えて、ブレスが吐き終わるのを待った。
「あははっ。便利な人形ねアリス。ほらほらもっと頑張らないと『死んじゃう』よ?」
龍の頭にちょこん、と座ったチルノは、そんな私の綱渡りをさも可笑しそうに眺めていた。
言い返してやりたかったけど、生憎そんな余裕など微塵もない。
指先の感覚がすでにない。見たくもない。ああ、こりゃ当分裁縫は出来そうもないわね。
視界が霞んでいく。何だかすごく眠くなってきた。……やばいなこりゃ。ダメそ―――
―――仕方ないから舌先を噛み切った。その気が狂いそうな痛みが、凍死しかけた私の意識を少しだけ甦らせてくれた。
口元から飛び散った鮮血が瞬時に凝固し、赤い礫となって私の顔を叩いた。
は、早く終わって! 早くっ!
集中力が切れてきて、私の命を繋げる盾にどんどん綻びが出来ていく。
それに比例して私を襲う凍気もどんどん強くなる。お願いっ! 寒くて寒くて、私……もう。
このままじゃ、切り札を出す前に終わっちゃう。しかも、チルノの攻撃じゃない。作り物の使い魔によってだ。
……そんなの、そんな結末認めるものかっ! 私の誇りが許せるものかっ!
「ぐっ、ガアアアアァァァァァァァァァッッッ!!!」
私は獣のように吼えた。苦しさを、冷たくなっていく意識を、少しでも紛らわせようとするかのように。
全く以ってうら若き乙女のすることではない。チルノは大変なものを奪っていきました。
淑女の嗜みを忘れた魔理沙をよく小馬鹿にしてた私だが、どうやら人のことは言えないようだ。
チルノは私が悶え苦しむ様を見て、手を叩いて大はしゃぎしてる。心の底から喜んでいる。
この状況が自業自得とはいえ、私にはチルノがどこか……壊れてしまったように見えた。
そして、永遠にも感じられた絶対零度のブレスが、ようやく止んでくれた。
私は肩を落とし、がっくりと項垂れた。貪るように呼吸をしてやりたいのに、肺が痛くてそれさえままならない。
凍傷がひどい。
指先から足先に至るまで、露出していた皮下組織はすでに壊死を起こしかけている。
今の自分の顔を鏡で見たら、トドメとばかりに私はショック死してしまうだろう。魔理沙たちに見られるのも大却下。
人形たちには、途中で自身の防御に徹するよう命じた。
あのまま私を庇っていたら、この子たちの方が先に参ってしまいそうだったから。
みんな、被害は私ほどではないけど、それでも所々が凍り付いているサマが痛々しい。
……私は、何をしているんだろう。
上海が殺されかけたのが悔しくてこの戦いに臨んだのに、結果的には上海を含めてみんなを余計に傷つけている。
あのまま泣き寝入りしていればよかったの?
私がチルノ如き、と侮っていたのがいけなかったの?
それとも、泣いているチルノに、すぐさまあの妖精を会わせてあげなかったのが、いけなかったの?
……迷っても、後悔しても答えなんか出るはずもない。
ここで弱気になってしまってはいけない。そうなれば、私たちは本当に終わってしまう。
所詮は結果論。私は、私の意志に基づいて行動を起こしたのだ。それを否定する事はあってはならない。
だから、今の私に出来ることはただ一つ。
「ボロボロ、ね。いい気味だわ。少しは大ちゃんの痛みや苦しみが理解できた?」
「……ふっ、ふふふ」
「……何が可笑しいのよ」
「いえ、ね。アンタ、今の自分の顔を鏡で見てみたら? って思ったのよ。今の私と同じくらい酷い顔よ?」
「……」
「大ちゃん大ちゃん大ちゃん。うるさいのよアンタ。
私たちはお互い爪弾き者。だからこそ、一度手に入れた温もりが大切で大切で仕方ないのよ。
それを奪われたら許せない。過剰に怒って、相手を悔やませてやりたい一心になる、大人気のない似た者同士。
アンタの気持ちは痛いほどにわかるけど、同時にすごく腹立たしくもあるわ。同族嫌悪っていうのかしらねコレ」
「……もう死ねよお前。あたいが今、トドメをさしてあげるからさ」
「生憎、私はまだ死ぬわけにはいかないわ。最後くらいは派手に暴れてやらないと気が済まないからね」
それは後悔したまま終わらせないこと。
勝敗なんて関係ない。
力に任せて、敵を圧倒するなんてつまらない。
弾幕ごっこの決着は、如何に勝負が楽しかったか、であるべきなのよ。
そんな楽しさを忘れてしまったアンタに、今一度思い出させてあげるわ。
「―――Last Word」
その呟きと共に、再び方円に組まれた八体の人形たちから、強烈な蒼の閃光が放たれた。
薄暗い凍土を全て照らし出す太陽のような光。それを浴びたチルノは、忌々しげに私を睨み付ける。
今までは自身の耐寒力を高める為に使用していた、グリモワールの魔力を全て攻撃に回した。
これでもう長期戦は望めない。否が応でもこの一撃で決着がつくだろう。
……ごめんね皆。無茶ばかりさせてしまって。
でも、これで最後だから。あとほんの少しだけでいいから、私の我が侭に付き合って。
チルノを止めなければいけない。
戦ってみて、双方の実力差を思い知ったからこそ、その思いはより強くなった。
これは私の贖罪であり断罪。慈愛であり憎悪。希望であり絶望。
それ即ち―――
「これ、は……」
「チルノ。貴方には荒唐無稽で残酷な、最高のショーを披露してあげるわ。せいぜい踊り狂いなさい」
―――『憎悪の悲劇(グランギニョル)座の怪人』
★
適当な上着を着込んで、霊夢と一緒に紫の所に戻ってみると、そこには珍しい顔が立っていた。
花の妖怪、風見幽香だ。何やら神妙な顔で紫と話し込んでいる。
わたしたちも話に加わってみると、どうやら幽香も昼頃にチルノに会っていたらしい。
厚着しすぎて、ほとんど雪だるま状態になってる霊夢が、しかめ面になって疑問の声をあげた。
「……修行?」
「ええ。あの氷精は所構わず生物を凍らせていた。そのツケが回ってきたんじゃないかしら?」
「おい、そこまでわかっていながら、何であいつを止めなかったんだ?」
「だって私には関係ないじゃない。あの子を諭す義理もないしね」
……まあ、確かにそうだな。
わたしだって、幽香の立場になったら同じように放置してる。今のは意味のない質問だった。
でもまさか、それがこんな事態を引き起こしちまうなんて、流石の幽香も思わなかっただろう。
紫の背後には、すでに楕円形に開かれた隙間が展開されている。
境界の向こうで、手薬煉引いてわたしたちを待っているのは極寒地獄。飛び込めばもう後戻りは出来ない。
「で、お前も行くのか?」
「行くわよ」
「関係ないんだろ?」
「ないわね。でも面白そうじゃない」
そう言って、幽香はニコリと微笑んだ。紫なみに胡散臭い笑顔だった。
だがこいつも並の妖怪じゃない。阿求からは、人間にとって最も危険な妖怪の一人、と評されているくらいだ。
いくらEX化したとはいえ、紫と幽香、この二人を前にしてはチルノもひとたまりもないだろう。
……あれ? わたしら行く意味あんのか?
わたしも霊夢ほどではないけど、相当に上着を着込んでいる。
正直、こんな格好じゃ機動力は落ちまくりだし、何よりもブリザードが吹き荒ぶ空なんて飛び回りたくない。
悪友であるアリスが絡んでるとはいえ、いつもみたいに自分から率先して動こうとは思えなかった。
「……あら。魔理沙、怖気づいたの?」
そんなわたしを流し目で見やった幽香が、底意地の悪い笑みを浮かべた。
図星をさされたわたしは、うぐっ、と言い淀む。
霊夢が紫の方に顔を向け、これが最後の質問よ、と前置きをした後、口を開いた。
「……何でわたしたちに声を掛けたの?」
今回ばかりは、人間である自分達は役に立たない。それは霊夢にもわかっていた。
「場合によってはチルノを処分するからよ。この異変の結末を貴方達は見届けてあげなさい」
「……そう」
幻想郷の調停役である八雲。そんな彼女の無慈悲な答えに、霊夢は僅かに目を伏せた。
小規模とはいえ、この世界に混乱を招いたんだ。紫はチルノを容赦なく裁くだろう。
チルノが消える。はっきりと口にされると何ともやり切れないぜ。
ああいう馬鹿が一人くらいいても、悪くないと思っていたんだが、な……。
「―――まず私が現地に赴いて、隙間の周囲に結界を張るわ。
ある程度冷気を緩和しないと、霊夢たちは五分ともたないでしょうからね」
「わたし達はそこから動くな、ってことか」
「ご自由に。多分チルノは貴方達にも牙を向けると思うから、自分の身は自分で守って頂戴」
そう言い残した後、紫は隙間の中へと潜った。続いて幽香も。
二人になったわたし達は、自然と顔を見合わせることになった。
「……魔理沙からどうぞ」
「……いや、殿にわたしに任せて、先に行ってくれ」
「いやいや、アリスが心配じゃないの? さっさと行きなさいよ」
「いやいやいや、こういう時こそ博麗の巫女の貫禄を見せ付けるべきじゃないか?」
いやいやいやいや、と呪文のように唱え合いながら、わたしたちは道を譲り合った。
早く行けよ、と思わないでくれ。人間は、未知なる世界というものに滅法弱いんだ。
結局、それなら二人同時に入ろう、という結論に落ち着き、わたし達は頷きあう。
腹は括った。向こうがどんな状況になっているのかはわからないが、なるようになれってんだ。
肩を並べたわたし達は、息を大きく吸った後、目の前の隙間に向かって思い切り跳躍した。そして。
「……あっ! つっかえた!」
「いててててっ! 霊夢お前ちょっと着込みすぎだっ!」
……今のわたし達の格好では、二人同時に入るのは無理だという事に気が付いた。
◆
ラストワード。
それは弾幕勝負における術者にとっての極意であり、最後の切り札。今の私が放てる最高のスペル。
魔理沙の場合は体当たりをするし、霊夢の夢想天生に至ってはもうほとんど反則技と言ってもいい。
私のラストワードは、本来構成する人形が異なる、個人的にはあまり好きではない封印魔法だ。
だけど選り好みなんてしていられない。
今のチルノに通用するかもしれないスペルは、もうこれしかないのだから。
……さあ。殺人、恐怖、伝染病。ありとあらゆる負を演じた人形劇(quiqnol)を、とくとご照覧あれ。
私を囲む八体の人形が、それぞれ放物線を描くように、半円の弾幕を張り巡らせる。
弧と弧が重なるその広がりは、遠目から見れば大きな花びらのような形に見えるかもしれない。
第一波はオーバーチュア。
―――チルノは再びブレスを吐かせようと、足元にいる氷龍に命を下す。
次に人形から放たれるは、半円ではなく真円弾幕。
私を中心に八つの円形は濃密度に交わり、軌道を変え、生き物のようにうねり、回転する。
第二波はワルツ。
―――龍の口が開かれる。喉の奥から魔力の波動が感じられた。発動まであと少し。
第二波が弾けるように全方位拡散。
極大の花火は、光弾の一つ一つが確殺の破壊力を以って、チルノとその使い魔を襲撃する。
―――轟! という咆哮と共に、絶対零度のブレスが再び射出された。それは私が膝を屈しかけた、悪夢。
私は、我が子たちと一緒に、軽やかなリズムで上下左右に移動した。
クルクル、と踊る。ステップを刻むかのように、空気を踏みしめるかのように、人形たちと手と手を取り合う。
正面にはチルノ。必中の誓いを立てて、私たちは志向性を前だけに向けた速射弾の雨を撃ちたてる。
第三波はカノン。
序曲でブレスを相殺し、
円舞は龍の頭を完全に破砕し、
輪奏がチルノの身体を瞬く間に呑み込んだ。
流れ弾が凍てついた大地を次々と穿っていく。断続的に聞こえる破壊音と一緒に、チルノの悲鳴が聞こえた。
当たってる。効いている。……ようやく、ようやく一矢報えた。
でも通用するだけではまだ足りない。もっと決定的なダメージを与えないと。
今のチルノは被弾したくらいでは戦闘不能にならない。今更だけどこれってずるいわよね?
私は再びスペルを唱え、同じプロセスを繰り返す。
耳を劈くような爆音が発する度、森に、湖に、大穴が刻印された。
いつしかチルノの身体は、弾幕の物量に押し潰され、大量の氷塊と一緒に地の底に埋まった。
……まだよ。魔力が底を尽きてスペルブレイクする前に、ここでチルノを仕留めなければ、
「―――アリスウウウッ!! アァァァァァリィィィィィスゥゥゥゥゥァァァァァァァ!!!」
私は終わる。終わってしまう。
地の底から聞こえる、この世の全ての恨み憎しみを集めたかのような、チルノの叫びがただただ恐ろしい。
だけど私は逃げられない。元よりそのつもりもない。
ここで怯えて背を向けるくらいなら、それこそ死んだ方がマシだ。
「……これで、終わりよっ!!」
トドメ、とばかりに私は大きく片手を振り上げた。
それと同時に上海人形が私の前に出た。上海の身体が光に包まれ、魔力チャージが開始される。
私はスペル発動中で動けない。代わりに彼女に最後の一撃を託す。
渾身のスペクトルミステリー。……このレーザーショットとの波状攻撃で決めるっ!
だが―――
「……え?」
―――レーザーは発射されなかった。
「シャン、ハイ?」
なぜって?
「上海……、シャンハーーーーーイっっ!!!」
氷漬けになった私の人形が、慣性の法則に従い落下した。
ほぼ強制的にスペルブレイク。私は全速力で上海を追いかけ、地面に叩きつけられる直前の氷塊を胸に抱きとめた。
割れた大地からチルノがゆっくりを這い上がってくる。その顔は悪鬼の如く険しい。
幻視する。服は千路に乱れ、所々ススで汚れているというのに、傷らしい傷は一つも見当たらない。
……ありえない。あれだけの弾幕をまともに喰らっておいて、ほぼノーダメージってこと?
チルノがゆっくりとこちらに向かって歩いてくる。私は人形達を庇いながら、少女の顔を思い切り睨み付けた。
「……バケモノ。あんた、上海に何したのよ?」
「……あたいが、……バケモノ? ……ふっ、ふふ。……あはははははははっ!!」
私の問いに、チルノは心底可笑しそうに哄笑した。
……怖い。こいつ、狂ってる。
「くっ、クク。あたいをこんなにしたのはお前なのに、今更なにを言ってるの?
お前のスペルが鬱陶しかったから、人形を凍らせてあげたの。……思ったより痛かったわ」
「……なんで? あんた、攻撃なんて一発もしてなかったじゃない」
「まだわかんない? 弾幕で戦う時点でお前は真剣とは言えなかった。お遊びであたいに勝てると思ってたの?」
チルノは言う。最初から私に勝ち目などなかったのだ、と。
何故そんなことが言い切れる。自惚れも大概になさい。そう私が反論しようとすると。
「ヒントをあげる。あたいの能力はなんでしょー?」
ニヤニヤ、と口元を歪めながら、チルノは得意げな顔で言葉を継いだ。
……チルノの能力? 冷気を操る程度の能力、でしょ。そんな事、私が知らないとでも―――
「―――あ」
「わかった? 今のあたいは、いつでもどこでも瞬時にモノを凍らせられるの。思うだけでね」
湿気を、空気中の水分を使って凍結させた? 世界には絶えず水が通う。それを逆手に取った?
私は戦慄した。冷気を操る力も、極めればここまで理不尽な能力になるの?
つまりそれは、チルノがその気になれば、私などいつでも殺せたということになる。
「お前はずっとあたいの手の平でブザマに踊ってただけなのよ。言ったでしょ? すぐには楽にしてやらない、って」
「……」
「でも思ってたよりもお前は強かった。だからちょっと予定を変更してあげる」
「……やめて」
「……今、お前の目の前で、人形全部粉みじんにしてやるよ」
「やっ、やめてぇぇぇぇぇぇぇぇっ!!」
私はチルノに向かって、無我夢中で駆け出した。
勝負はついたわ。悔しいけど、確かに私はあんたに勝てなかった。
だったらもういいでしょ? 負けでいいから、認めるから、やるならまず私をやりなさい!
チルノに近づけば、私は一瞬で身も心も凍てついてしまうだろう。それでも私は走った。
私の人形たちが、目の前で―――
……そんな悪夢を見せ付けられるくらいなら、それを止めることが適わないのならいっそっ!!
「大人しくしてろ」
でも、私のそんな破れかぶれの特攻も、チルノのただの一言であっさりと止められた。
首から下が氷漬けにされた。冷たい。身体がピクリ、とも動かない。なのに意識はまだ残ってる。
こいつ、本気で死ぬより辛い光景を私に見せ付ける気だ。見せ付けてから殺すつもりなんだ。
自重に耐え切れず、地面に崩れ落ちようとする私の身体を、七体の人形たちが総がかりで支えた。
「ダ、ダメッ! 私のことはいいからっ! 逃げて! みんな逃げてーーーーっ!!」
「あははははっ! 健気な使い魔たちだね。でもどこに逃げても無駄よ。一匹たりとも逃がさないわ」
そう言って、チルノが人形の一体、京人形に目配せをする。
それで、京は氷の塊になり、地面にゴロリ、と転がった。
次に倫敦、その次は西蔵。その次は―――
次々と氷塊が地面に並べられ、支える力が弱まった私の身体は、その度に少しずつ傾いていく。
「あ……、いやぁ……」
私は、そんな情けない呟き声をあげながら、ただそれを見ていることしか出来なかった。
今すぐに身体の拘束を解いて、チルノを止めないといけないのに、胡乱とした頭ではそれもままならない。
支えきれなくなった私の身体も、人形達と一緒に地面に転がる。
残った最後の一体、蓬莱人形が心配そうに私の目を覗き込んでいた。
「ほ、ほうら、い……」
(なかないでアリス。すぐたすけるから)
「……逃げて。逃げてよ」
(みんなでいっしょにかえろう? わたしたちのおうちに)
「―――チルノっ!! 私の負けよ! 私のことは好きにしたらいいわっ!!
だ、だからお願い! みんなだけは……。この子だけはっ!!」
「―――ひっ、ひゃはははは!! やった! 聞けた! そ、その言葉を待ってたの!!
今のお前の顔サイコーよっ!! 絶望に涙する姿なんか、あたいにそっくりっ!!」
チルノの言う通り、私は泣いていた。もう、……限界だった。
零れ落ちる涙さえ瞬時に凝固してしまうような地獄の中、私は心底絶望した。
どうして、どうしてこんなことになってしまったの?
どこで間違えてしまったというの?
私の力では誰も救えない。結局チルノも助けてあげられなかった。
私はこの時ほど、自分の無力さを呪ったことは、なかった。
そして、ついに蓬莱も動かなくなる。
チルノが、氷漬けになった人形の元まで近づき、その内の一体を手に取った。
氷塊を高々と頭上まで持ち上げ、地面に叩きつけようと、両腕を振り下ろそうとする。
これはきっと、チルノが私に与えんとする、憎悪の悲劇(グランギニョル)。
「噛み締めるのよ。あたいの絶望を、大ちゃんの痛みを。みっともなく泣き叫びながら―――」
「イヤァ……いやああああああああああああああああああああああっっっっ!!!」
「―――恋符っ!! 『マスタースパークッッッ!!!』」
失意と寒さで気を失う直前、そんな何よりも聞き慣れた、あいつのスペルが聞こえたような気がした。
●
アリスの人形を粉々にしてやる直前、あたいのすぐ背後から夜闇を吹き飛ばすかのような強い閃光が走った。
この光をあたいはよく知ってる。何度も見たことがある。生意気な魔法使い、まりさのスペルカードだ。
驚いたあたいは咄嗟に飛び上がる。その拍子に、手の中にあった氷の人形がポロリ、と落ちた。
……あ、落としちゃった。でも、どっちみち壊れるんだから別にいいか。
ところが人形が地面に激突する直前、その氷の塊をキャッチする影があった。……れいむだ。お前まで―――
―――あたいのジャマをするのかっ!!
誰にも入れないようにしたのに、お呼びでないのに、こいつらはいつだって首を突っ込んでくる。
お前らジャマだジャマだジャマだジャマジャマジャマジャマジャマジャマジャマジャマッ!!!
ようやくアリスの情けない顔が見れたっていうのに、泣き声で許しを乞わせたっていうのにっ!
何であたいのジャマするの!? 悪いのはアリスのほう! あたいは大ちゃんの仇をとりたいだけなんだから!
れいむとまりさが、身体をガタガタ、と震わせながらアリスの所に合流した。
そして、二人は揃ってあたいの顔を見る。
……やめろよ。何でそんな目であたいを見るのよ?
何か汚いものを見るような目。可哀想なものを見るような目。
それはあたいが一人だった頃、周りから向けられてた冷たい視線とソックリで。
あたいはホントのホントに、あの頃に戻ってしまったんだ、と悟った。
「……ッ!! みんな、みんな―――こおっちまえーーーーーーーーーーっ!!!」
もうどうでもよくなった。
アリスのことも、まりさもれいむも、大ちゃんのことさえ。
今は、あたいの目に入るもの全てを凍らせることしか考えられない。考えたくない。
湧き上がる力を、激情のまま解放しようと叫んだ瞬間。
―――境符『四重結界』
あたいの身体は、幾重にも張り巡らされた光の壁に包まれた。
能力が結界の外まで届かない。あたいの力は完全に結界の壁に遮断されてしまった。
後ろを振り向く。
そこには禍々しさの塊みたいな、怖くて強い大妖怪が、れいむたちよりも冷たい瞳であたいを見つめていた。
「……やくも、ゆかり」
「さようならチルノ。しばらく私の懐の中で頭を冷やしなさいな」
ゆかりがそう言った途端、あたいの周囲に大きな亀裂が走った。空がパックリ、と裂ける。
裂け目の向こうは紫色の世界。沢山の目玉があたいをギョロギョロ、と睨み付けてくる。
……やだ。怖い。
スキマは生き物の口みたいに、あたいを飲み込もうと襲い掛かった。
捕まらないようあたいは必死になって逃げた。だけど、結界の壁がジャマして思うように動けない。
……なんで? なんでよ。
結界がじょじょに小さく狭くなっていってる。どんどん追い詰められて、ついにスキマはあたいの目前まで迫った。
……どうしてみんな。
「……チェックメイト」
「どうしてみんなあたいを嫌うのおおおおおおおおっっっ!!!」
あたいは叫んだ。許せなかった。
どうして自分ばっかり、こんな思いをしなくちゃいけないのかわからなかった。
そんなあたいの思いに応えるかのように、絶叫はスキマを結界ごとパリパリ、と凍らせてくれた。
それを見たゆかりの眉がピクッ、と跳ね上がる。
「な?」
「うわあああああああああああっっっ!!!」
凍れ! 凍っちまえ! 何もかも。そう何もかもよっ!!
もういらない。もうイヤだ。あたいをいじめるみんななんか、こんな世界なんか―――大っ嫌い!!
あたいのあらん限りの力を受けたゆかりの身体が、カチン、と氷漬けになる。
すぐさまツララを一本作り出し、ゆかりに向けて投げ放つ。ゆかりの身体が氷と一緒に粉々に砕け散った。
「……ハッ、ハハ。 やった! ざまーみろっ!!
あ、あたいのジャマをするからこうなっちゃうのよ! これで、これでもう……」
「自分は引き返せない、かしら?」
「―――!?」
ギョッ、として声の方に振り向く。ゆかりは凍ってなかった。
微笑みさえ浮かびながら、隙間の中で口元に手を当てて、あたいをしげしげ、と観察していた。
あたいは驚愕した。でもそれは、ゆかりを仕留められなかったからじゃない。
いつの間にそこにいたのか、ゆかりの隣に、
「……ゆ、ゆうか」
「こんばんは雪ん娘さん。どうやら私の忠告は聞き入れてもらえなかったようね」
「グスッ、ゆうかぁ。あたい……あたいねぇ」
「……あら? こんな事までしておいて今更泣き言を吐くつもり?」
「……え?」
「勘違いしないでね。私は貴方を打ち倒しに来たのよ」
あたいが憧れた一番強くて優しい妖怪が、あの時と同じ優しい笑顔で宣戦布告をしてきた。
……ホントにもう、頭がおかしくなっちゃいそうだよ。
笑ってるのに、ゆうかがあたいを見る目は、まりさやゆかりとも違う、蔑みのそれだ。
何で? どうしてよ。ゆうかまで、あんたまであたいの敵になるっていうのなら、あたいは―――
★
すっかり変わり果てちまった霧の湖に到着した直後。
わたし達が耳にしたのはアリスの悲痛な叫びと、今まさにアリスにトドメをくれてやろうかとするチルノの姿だった。
わたしと霊夢は、脊髄反射で紫が作ってくれた結界の外に飛び出した。寒さなんか忘れてた。
チルノの注意を引き付けるため、ミニ八卦炉を目前にかざし、あいつの付近を狙ってマスタースパーク。
その間にアリスを安全な場所に移動させようと、わたしたちは氷漬けにされたアリスたちの元へと近づいた。
……その時に、チルノと目が合った。
無邪気で何も考えていないようないつものそれとは掛け離れた、まさに氷のように冷たい瞳。
その幼い貌にあらん限りのシワを浮かべ、わたし達を憎々しげに睨み付けている。
これがあのチルノなのか? ……一体、お前に何があったっていうんだ?
だが、そんな疑問を投げかける暇なんかわたし達になかった。
アリスは危険な状態だし、わたし達もいつまでもここにいれば、同じ末路を辿っちまうことになる。
霊夢がかじかむ手で、吹雪を遮断する簡易の結界を作ってくれたが、時間がない。
わたしはアリスを、霊夢は人形たちを抱えて、紫が残してくれた結界に向かおうとチルノに背を向けた。
背後からチルノの怒声がかかる。ヤバイ、わたし達もろとも攻撃する気か―――
……だが、攻撃は来なかった。紫がチルノを抑えてくれたからだ。
あいつがスキマ妖怪に気を取られている内に、わたし達は気絶しているアリスを連れて飛び去った。
シャレにならないくらい寒い。飛んでいるだけだっていうのに、意識が朦朧としてきた。
呼吸をするのさえ辛い。アリス……お前、こんなところで戦っていたのかよ。
「……うっ、く」
「アリスっ! 大丈夫か?」
「……ま、まりさ? 何でここに」
紫が作った結界に辿り着く。そこで目を覚ましたアリスが、震える声でわたしの顔を見た。
流石は魔法使い。こんな状態になっても、人間とはやっぱり身体の出来が違うのか、思ってたよりも大丈夫そうだ。
アリスは、寝惚け眼で数回瞬きを繰り返したかと思うと、ハッ、として唯一自由の利く首元を振り乱した。
「わ、わたしの人形はっ!? チルノはどうなったの!?」
「安心しろ。人形ならお前と一緒に回収した。チルノは今、紫が引き受けてくれてるぜ」
「……そう。結局、私ではあの子を救えなかったのね」
「とりあえず説明して頂戴。あんた達に何があったの? チルノはどうしてあんな」
「ま、待てよ霊夢。まずは神社に戻って、氷を溶かすのが先だ」
目を伏せて落ち込むアリスから、無情にも事の経緯を求めようとする霊夢に、わたしはムッ、となって抗議した。
お前、最近紫に似てきたんじゃないか? まずは人命救助が先決だろうが。
だけど、そんなわたし達の言い合いを、アリスは首を軽く振って制した。
「……いいのよ魔理沙。説明するわ。私の知っていることは全部」
そう言って、アリスは紫色に変色してしまった唇を、再びゆっくりと動かし始めた。
■
―――チルノ。
今私の目の前にいる氷精は、確かそういう名前だったと記憶している。
考えなしに、私の花畑を荒らそうとした妖精。
後先考えることをしないからこそ、自分のやっている事が自覚しきれていない子供。
それは、とても可愛らしくて、愚かで、そして興味深い。
この子の無垢な心が、どす黒い感情で汚れてしまうサマが、少なからず見たいと思った。
だから放っておいた。そして、それは思った以上に早い成果をもたらした。
今の貴方は本当にステキ。思わず殺してあげたくなってしまうくらい魅力的よ。
「ゆうか……あたいを倒しに来たなんて、嘘だよね?」
「どうしてそう思うのかしら?」
「だ、だってっ! ゆうかは優しいもん! 強くて優しくて、誰よりもカッコいい妖怪なんだもんっ!!」
感極まっているのか、この子の言動はいちいち支離滅裂だ。
自分にとって、四面楚歌なこの状況を精一杯否定しているだけ?
それとも、この私に気を許していたとでも言うの。本当に優しい妖怪だと思っていたの?
……気持ち悪い。魅力的だと思っていたけど、まだまだ改善の余地がありそうね。
「隙間妖怪さん。貴方は手を出さないで。この小娘は私の獲物よ」
「……せいぜい気をつけなさい。隙間や結界のような世の理に捉われない事柄まで凍らせた。
今のあの子はそれこそ炎だろうが幽霊だろうが、その形のまま凍結させる事が可能でしょう」
「何が言いたいの?」
「遊びでかかれば、たとえ私や貴方であろうと危険ってことですわ。あの人形使いのように」
「……いらないお世話よ。遊ぶつもりなんか欠片もないから」
私はその言葉と一緒に、所持していたスペルカードを全て投げ捨てた。
吹雪に煽られ、私のカードはどことも知れない彼方へと飛んでいく。
制約を課す気などハナからない。弾幕ごっこなんて窮屈なのは性に合わないわ。
それを見た隙間妖怪は再び妖精の方に顔を向けた。妖精は泣きそうな顔で、縋るように私を見つめている。
「……チルノ、一つだけ教えて頂戴。何故貴方はこんなことをしたの?」
「だ、大ちゃんが、大ちゃんがアリスに死んじゃうされたんだ! だから、あたいは……」
「大ちゃん? 死んじゃう? ……つまり貴方の友達が彼女に殺されたってこと?」
「そうよっ! 大ちゃんの仇を討つのっ! だからあんたたち、お願いだからあたいのジャマしないでよっ!!」
「大ちゃんって、あの緑髪で、気の弱そうな妖精の女の子?」
「そ、そうだけど?」
「……ああそう。そういうことだったの」
妖精の話を聞いた隙間妖怪は、得心がいった、という具合でしきりに頷いていた。
……相変わらず何を考えてるか知れない女。どうせまたよからぬ事を考えているのでしょうけど。
彼女は私に向き直ったかと思うと、ここは貴方に任せます、と言い残し、隙間の中に潜っていった。
私まで、あれの手中で踊っているかのようで腹立たしいけど、まあ……いいわ。
退屈だったのよ。今の平和ボケしている幻想郷は。
かつて人を襲い、妖怪と骨肉の死闘を繰り広げていた時代は、いつの間にか終わりを告げていた。
幻想郷を隔離する博麗大結界と、巫女が制定したスペルカードルールによって。
外から来る人間が激減したことによって、人間と妖怪の数のバランスが著しく崩れた。
食物連鎖が成り立たなくなってしまった。……人間の守護者なんて物好きな輩も現れたしね。
それどころか、人間と妖怪が馴れ合う文化まで形成された節がある。
その最たるものが弾幕勝負。でも、私は別段それを不満に思っているわけではない。
花さえ綺麗に咲いてくれる世界であれば、どう変わろうが関係ない。そのはずだった。
だけど、私の妖怪としての本能が、心のどこかで今の刺激のない生活を嫌っていた。
強い相手と根限り力をぶつけ合いたい。殺し合いたい。そして、その機会にようやく巡り会えた。
暴走する今のあの子は、文句なしの最高の強者。私の退屈を埋めてくれるにうってつけ。
しかも、殺してしまったとしても何の問題もない状況にある。殺してもいい理由がある。
この極寒の世界の中で、私の血は凍るどころか、むしろ熱く滾っていた。
……ふ、ふふ。こんなにワクワクするなんて何年ぶりになるのかしら。
まだ余計な情を抱えて躊躇っているみたいだけど、それさえ吹き飛ばしてしまえば、
「……私にどんな幻想を抱いていたのかは知らないけど、懐かないで頂戴。鬱陶しいから」
「ゆうか、ゆうかっ……ヒッ、ヒクッ」
「わからないのなら何度でも言ってあげる。私は貴方の敵。無様に死んでいったお友達にすぐに会わせてあげるわ」
「ち、ちくしょう……っ!! チクショウチクショウチクショウっ!!!」
「貴方、あの時言ってたじゃない。私に―――」
「ゆうかああああああああああああああああああぁぁぁっっ!!!」
「―――デコピンで勝ってみせるんでしょ?」
ホラ……この通り。
鬼神の如き形相で私に突撃してくる妖精を見て、私は例えようもない歓喜を抱いた。
★
「……じゃあ、チルノは大妖精が殺された、って勘違いであんな風になっちまったのか?」
「ええ」
「ええと。つまり、アリスの腹いせのせいってこと?」
「……腹いせって言われると心外だけど、結果的にはそうなってしまったわね」
「霊夢。アリスにとって上海は特別思い入れの強い人形なんだぜ? 一概にこいつを責めてやんなよな」
「……あんた、さっきからやけにアリスを庇うわね。
ま、チルノがあれだけの力を秘めていたなんて、誰だって予想出来なかったでしょうけど」
場所は、博麗神社のとある寝室。
わたしと霊夢は、アリスを寝かせている布団を囲んで、これからについて話し合っていた。
アリスは責任を感じていたのか、湖に残って事の顛末を見届けるつもりだったらしいが、私がそれを却下した。
どっちにしろ、まずは氷を溶かさないことには、とてもじゃないが安心出来なかったからだ。
チルノの冷気が余程強力だったのか、アリスの身体を纏う氷は中々溶けなかった。
人形たちは、今まとめて神社の風呂に漬けてあるが、まだまだ溶け切っていないだろう。
わたしと霊夢が試行錯誤した末、嫌がるアリスを何とか布団に寝かしつけられるまでに溶かす事が出来た。
露出したアリスの身体は冷たかった。……身震いするくらいに冷え切っていた。
まだまだ回復するまで時間がかかりそうだ。チルノも心配だが、あいつは紫たちに任せるしかない。
とにかく、今は傷ついたアリスに付き添ってやりたかった。
「わたしの八卦炉を貸してやる。持ってれば少しはあったいはずだぜ?」
「……随分と優しいのね。何でそんなに私に気を遣ってくれるの?」
「……」
……うるさいな。わたしだって結構気が動転してんだぞ。
ショックだったんだよ。怖かったんだよっ!
お前の悲鳴が、次の瞬間にも儚く消えてなくなってしまいそうな、お前の死にかけた姿が。
わたしよりも長命なアリスが、わたしよりも先に死んじまうなんて、今まで考えたこともなかった。
意識した瞬間、怖くなったんだ。大切な人がいなくなるなんて、わたしだって絶対に耐えられない。
だからわたしには、アリスの気持ちも、チルノの気持ちもよくわかる。
確かにアリスはちょっとやりすぎで、自業自得なトコもあるけど、その罰はもう十分に受けた。
今回のことは誰が悪いとかじゃない。本当に運がなかっただけの、悲しいすれ違いだったんだよ。
霊夢にはその辺がよくわかってないらしく、わたしの葛藤する姿を見て首を捻っている。
お前にも特別な存在、ってのが出来れば、わたしたちの気持ちもよくわかると思うんだがな。
霊夢にとってはそうじゃないかもしれないけど、お前だってわたしにとっては大切な……。
「……でも、結局アリスは大妖精を殺してないんでしょ?
そいつをチルノに会わせてやれば、あいつだって元に戻るんじゃない?」
霊夢のもっともな質問に、上半身だけ起こしていた寝巻き姿のアリスは自嘲気味に俯いた。
「あの子がどうなったのか、私にもわからないわ」
「お、おい。そりゃ流石に無責任だと思うぜ?」
「仕方ないじゃない。気にかける余裕なんてなかったんだもの。
避難してればいい、って思ってたけど、貴方達の話だと山の周囲はチルノの作った壁に阻まれてるんでしょ?」
「紫はそう言ってたぜ。何でも幽香でさえ入れなかったとか」
「……だったらあの子はもう生きてはいないわ。入れないって事は、逃がさないって事と同義だもの。
いくら力の強い妖精でも、あれだけの冷気の中じゃ数分ともたずに消滅してしまう」
「ってことは……」
「……最悪ね。チルノを元に戻す手がない以上、殺して終わらせるしかないわ」
霊夢が総括した一言によって、場に重苦しい沈黙が流れた。
……こんな後味の悪い、胸糞悪い結末が、幻想郷にあっていいのかよ。
いつもみたいに弾幕で解決なんて出来ない。そんなことをすればアリスの二の舞になっちまう。
何とかチルノを説得出来ないか? 力以外の方法で止めることは出来ないか?
……だけど、友達を失ってしまったあいつに、何て声をかけてやりゃいいんだよ。
ヘタに慰めたって、余計にチルノの傷口を広げることになるかもしれない。
やっぱり殺して止めるしかないのか。わたし達に何か出来ることはないのか。
「……紫たちの援護に行って来る。あんたはそこでアリスを看ていてあげなさい」
「お、おい! あんな場所で、お前に一体何が出来るっていうんだよ!?」
「そんなことわかってるわよっ。でも、これがわたしの仕事なの。
せめて……わたしの手でチルノを終わらせることが、それがわたしにとっての―――」
「―――行く必要はないわよ、霊夢」
その時、わたし達三人以外の声が背後からかかった。
後ろを振り向く。そこには
「……まだ何も終わってはいない。チルノも、何も失ってなどいないのだから」
気絶した大妖精を腕に抱き上げた紫が、ニッコリ、と母性溢れた笑みを浮かべながら立っていた。
● ■
あたいはゆうか目掛けて、全速力で飛び出した。
(妖精が私に向かい、弾丸の如く突っ込んできた)
それと同時に、ゆうかの身体を凍らせることを意識する。
(それと同時に、私の身体が瞬く間に凍り付いていく)
そのまま、あいつの身体を砕かんとあたいは自分の身体を武器にして、ゆうかの身体に体当たり。
(妖精の頭が私の胴体に直撃し、そこから亀裂が入った身体は、粉々に砕け散る)
ゆうかの身体を貫いたあたいは、すぐさま後ろを振り返る。
(花の生気を用いて、即座に失った肉体を再生、再構成し、私は無防備な妖精の背中に飛び掛る)
ゆうかが目の前にいた。
(妖精が目を見開いた)
蹴られる。
(小さな頭にハイキック。瞬間私の足まで凍りつき、また粉々に)
痛い。
(痛いわ。これがマイナスK……絶対零度の加護。何て素晴らしい、能力)
悔しい。
(嬉しさで身が震える。こんなにも興奮したのは本当に久しぶり)
なんで、なんであたいがこんな目に!
(もっと、もっと貴方の力を見せて頂戴! 私をトコトンまで追い詰めてみせて!)
許せないっ!!
(何よりも愛しい。その憎しみに満ちた瞳が。この世の不条理を嘆き悲しむ顔が)
ゆうか、お前を―――
(ああ、だからこそ愛しい貴方を―――)
―――死んじゃうしてやるっ!!!
(―――殺してあげるっ!)
「ダイアモンドブリザードッ!!」
あたいの掛け声と共に、周りの雪嵐がますます強くなり、ゆうかの目の前に巨大なハリケーンを発生させた。
凍りついた木々を、氷の塊を全て巻き込みながら、それはゆうかを飲み込まんと襲い掛かる。
だけど、ゆうかは吹き飛ばない。
豪風に巻き込まれても、飛んできた氷が頭に当たっても、ビクともしない。平然としてる。
なんで? ゆうかは痛くないの? 寒くないの? あたいの技が効いていないの?
(……寒い。それに時々身体にぶつかる飛来物が鬱陶しくてたまらない。
だけど、こんなものじゃ物足りないのよ。だからもっと追い詰めなくちゃ。もっと、もっとよ!
力の差を見せ付けるように振舞って、恐怖させて、貴方の底の底が見てみたい。そして私を驚かせて!
さあ、今度は私の番よ。『幻想郷の開花』、貴方に全て受けきれるかしら!)
ゆうかが閉じていた傘を、あたいの前に向ける。
瞬間、ゆうかの身体から、視界に収まりきらないほどの沢山の花が雨みたいに飛び出した。
これはゆうかのスペルで見た事がある技。だけど、それはあたいの知ってるスペルとは全然違った。
(花を操る程度の能力。それが私の力。
たかがそれだけ。貴方の技に比べるとインパクトに欠けるし、脆弱で儚い力に見えるかもしれない。
だけど、場所や条件などに縛られず、私の周りには常に花が咲き乱れる。
そう望むだけで、何者も圧倒出来る落花狼藉を生み出す事が出来る。
一瞬の内に、その数は無制限に、その種は自由自在に。
―――故に私は誰よりも強い! 貴方が極めた冷気と私の百花繚乱。どっちが……上!!)
氷の竜巻の中なのに、何百何千の大きな花がうねりをあげて、あたいに襲い掛かった。
花びらがかするたびに、あたいの身体が切り刻まれる。血がいっぱい飛び出て痛い痛いいたい。
あたいに触ったら絶対に凍るはずなのに、ゆうかにはそれが通用しない。
あたいは、声にならない叫びを上げた。
「―――――――!!!」
もっと寒く! もっと冷たくなって!
それだけを願うことで、あたいの力は際限なく強くなった。
あたいを襲う花も全部凍りついて、竜巻に飛ばされて舞い上がっていく。
身体を包む冷気が、すぐにあたいの傷を治してくれた。
……ゆうかは? さっきまで目の前にいたはずのゆうかがいなくなってる。
あたいはキョロキョロ、と左右に首を動かした。
(私は妖精の頭上、真上に移動していた。
この子には小手先の技は無意味。それがわかった。
高密度の魔力の塊であった私の花も、隙間妖怪の言う通りその気になったら無力化させることが出来る。
……全く何て無茶苦茶。妖精のクセになんでこんな事が出来るの?
イイわ。本当にいい! あれを受けて生きていられる者なんていつ以来だったかしら!
だったら私も大味なスペルで応戦しましょう。―――フルドライブの魔砲でね!)
魔力の波動を感じ、あたいがハッ、と空を見上げた瞬間。
太陽みたいに大きな光の塊が、あたいの目の前まで迫っていた。
これは魔理沙の? あいつまだいたの?
そんな見当違いなことを思いながら、あたいは、塵も残さず消滅した。
「……これで、終わるはずがないわよね」
(目下眼前は無人。そして、巨大なクレーター。私の特大の魔砲はあの妖精の全てを消し去った。
普通なら終わってる。でもまだ終わらない。何故なら今のあの子は普通じゃないから。
気配を感じる。口元を吊り上げて、背後に振り向いた。
そこには、裸体になった妖精が、凄まじい形相で私の身体に抱きついてきた。
どうやら再生は出来ても、復元は出来ないみたいね)
「つっ、つかまえたぞっ!! 死ねっ! 死んじゃえっ!! 身も心も凍りつけぇぇっ!!!」
「……くっ、くくく。ああ、冷たいわぁ。魂まで凍て付いてしまいそう」
「死ね死ね死ねっ! あっ、あたいはゆうかが好きだったのにっ!! あたいを嫌うヤツはみんな死んじゃえーーっ!」
「あら? 貴方のことは大好きだけど?」
「ウソっ!! もう誰も信じられるもんか! あたいはずっと一人ぼっちなんだっ!」
(妖精と密着した私の身体が、瞬く間に芯まで凍り付いて行く。
首だけを残して氷像と化した途端、妖精は私の身体だった氷をバラバラに砕いた。
そして、生首となった私の顔を両手で掴む。意識して冷気を抑えているのか、私の頭は中々凍り付かなかった)
「……キリがないわね。ここで貴方がこの首をどうしようが、私はすぐさま元通りよ?」
「……あたいがバケモノなら、あんただってよっぽどのバケモノだわ。そんな姿になってもいつも通りカッコイイままよ」
「でもね、本気の私をここまで傷つけられる者は、この幻想郷にもそうはいないわ。
よかったわねチルノ。貴方の悲願は成就された。今の貴方は間違いなく幻想郷最強クラスよ」
「……違う」
「違う?」
「―――あたいはこんな力なんか欲しくなかったっ! あたいの最強はもっと別のものなのっ!!
上手く言えないけど、こんなのじゃないんだ。あたいが欲しかったのは、きっと、……きっとっ!!」
「……ガッカリ、ね」
「え?」
あたいの手の中にあるゆうかは、残念そうな顔で、ふー、って深いため息を吐いた。
何で? って思う前にゆうかの首は消えてしまって、すぐ目の前に元通りになったゆうかの姿が見えた。
「……今の貴方は夜の吸血鬼と一緒。ほとんど不死身に近いから、どうやら殺し合いで決着がつくことはなさそうね」
「ゆ、ゆうか?」
「撃ち合いで勝敗を決めましょう。私の魔砲と貴方の魔力、どっちが上かをね」
「う、撃ち合いってどういうことよ? それにガッカリ、ってどういうことなのよ!?」
「……貴方はまだ、私の求める戦いをするには千年早かったってことよ。
どんなに強くても子供は所詮子供。……貴方は、貴方に相応しい世界に帰りなさい」
「あたいに帰るところなんか……もうないよ」
「……あるわ。貴方がさっきの言葉を忘れない限り」
そう言ってゆうかは微笑んだ。どうして今更になってそんな優しい顔を見せるの?
死んじゃうしようと思ってたのに、そんな顔されたら、あたいどうしたらいいのかわかんなくなってくる。
戸惑うあたいを無視して、ゆうかはそこから少し離れた所まで飛んだ。
そして、あたいを真正面に見据えて傘を構えた。傘の先に魔力が集まっていく。
さっきあたいを消し去った、まりさのマスタースパークに似たあの技だ。
「いい? これが最後よ? これを制した方が勝者という事で依存はないわね」
「……うん」
ゆうかがあたいを死んじゃう出来ないように、あたいもゆうかを死んじゃう出来ない。
戦えば戦うほど、何か空しくなってきた。自分は何をやっているんだろう、って気持ちになった。
だからこれで終わらせよう。そんで、この勝負が終わったら……。
あたい、これからどうしたらいいのかな?
(私の構えに合わせて、対面に浮かぶ氷精も両手を前に掲げた。
お互いの魔力が集束していく。発動まであと少し。
……つまらない。この氷精は結局チルノのままだった。
どんなに変わっても、ドス黒く汚れても、この子の芯は何も変わっていなかったのね。
残念なのは本当。だけど、……その強さは素直に羨ましい、と思う。
安心しなさいな。貴方は自分が思っているよりもずっと―――)
「―――いっけえええええええええええぇぇぇぇっ!!!」
「―――ふっ!!」
(―――ずっと、貴方の望む『最強』とやらに近づいているんじゃないかしら?)
●
―――また負けた。悔しい。
やっぱり、ゆうかは強いな。強くて、怖くて、カッコよくて、優しい? ……かもしんない。
よくわかんない。でも、あいつのことは嫌いになりきれなかった。
あたいは素っ裸で、大の字になって寝転んでいた。
あたいの怒りや悲しみが消えてしまったせいか、さっきまでの強い力はなくなってしまったし、吹雪も止んでしまった。
まだまだ雪も氷もいっぱい残ってるし、あたい以外は寒いと思うけど、今までほどひどくはなくなった。
でも、それはあたいが立ち直ったからじゃない。
……あたい、心の中がカラッポになっちゃった。
何もする気力がなくなった。
途中から大ちゃんもことも忘れて、ただ暴れまくって、みんなにまで嫌われてしまった。
アリスのことは今だって許せない。だけど、今更あいつをやっつけても、このカラッポが埋まるとは思えなかった。
もうどうでもいいや。あたいはどうせ、これからゆかりのスキマの中に入れられちゃう。
それでもう終わりになればいい。何も感じなくなって、その内死んじゃうすればいい。
……あたいが死んじゃうしたら、また大ちゃんに会えるのかなぁ。そうだったらいいなー。
「チルノ」
「……なに?」
「……楽しかった?」
「全然。最後だけ、ちょびっと楽しかったけど」
「私は楽しかった。でも最後が少しだけ不満だったわ」
「……あたい達、合わないね」
「ふふ。本当にそうね」
あたいを見下ろすゆうかはそう言って笑った。綺麗だな、って思った。
しばらく寝転んでいると、ゆかりがこっちに向かって歩いてくるのが見えた。
……ああ、やっと来た。さっさとあたいを連れてって。もう、抵抗なんかしないからさ。
「……終わったみたい、ね」
「ええ。思ったよりも呆気ない幕切れで、正直つまらなかったわ」
「そんな風には見えないけど」
「……ゆかり」
「なあに?」
「あたいを連れてかないの?」
「どうして?」
「……どうして、って。あたい悪いことしたんでしょ? だったらもう」
「……そうね。貴方は確かにこの地に大変な被害をもたらした。それは裁かれて然るべきなのでしょうね」
「じゃあ」
「でもそれをするのは私ではないわ。……そうね。この地の住人にでも判断を委ねようかしら」
「……え?」
そんなよくわからないことを言うと、ゆかりが後ろを向いて、誰かに手招きをした。
ゆかりがジャマで、誰なのかよく見えない。何よ? それってどういう―――
―――その後は、言葉にならなかった。
「……チルノちゃん」
「え?」
だって、もう会えないと思ってた人が。
「チルノちゃん」
「だ、大……」
誰よりも聞きたかった声、誰よりも見たかった顔。
「チルノちゃんっ!」
「……ひっ、ひっく」
防寒着姿ですごく寒そうだったけど。
その顔は青白くて、足取りもフラフラで、今にも倒れてしまいそうだったけど。
「チルノちゃーーーーーんっ!!!」
「だ、大ちゃ、ん? な、なんでぇ……?」
誰よりも会いたかった友達が、泣きながらあたいの身体を抱きしめてくれた。
驚きすぎて、頭が真っ白で、何も考えらんない。なのに涙だけは勝手にあふれちゃう。止まらない。
あたい夢見てるんじゃないの? ホントの、ホントのホントに大ちゃん、なの?
そんなあたい達を見ていたゆうかが、面白くなさそうにゆかりの顔を睨み付けた。
「……どういうこと?」
「別に。ただ最初にこの場に様子を見に行った時、凍えそうな妖精が倒れてたから、拾っておいただけですわ」
「……ぬけぬけと。つまり戦う必要なんかまるでなかったんじゃない。
結局、私もチルノもまんまと貴方に一杯食わされた、ってことなのね」
「そうでもありませんよ?」
「え?」
「だって、貴方が力で止めてくれたから」
「……」
「……彼女は今、チルノを抱きしめる事が出来るのですもの」
「本当に、大ちゃんなの?」
「……うん」
「アリスに、死んじゃうされたんじゃ、なかったの?」
「全部アリスさんの嘘だったの。
チルノちゃんが人形を凍らせちゃったから、それが悔しくてアリスさんは嘘ついて仕返ししただけなの」
「……じゃ、ホントに?」
「もう、……チルノちゃんはバカだよっ。バカで泣き虫で私の言うこと全然聞いてくれなくてっ。
狸さんも他の動物さんたちも、みんな……みんな死んじゃったんだよ。チルノちゃんのせいで」
「うぇっ、ぐすっ、ご、ごめんね大ちゃん。ごめんね、ごめんね、ごめんねぇ」
「……うん、わかってる。本当はちゃんとわかってるから。私のほうこそ心配かけてごめんね」
「うっ、ううううぅぅ~~。大ちゃん大ちゃんだいちゃぁん……」
「ちゃんと謝れば、きっと許してもらえるよ。だからもう、ぐすっ、泣かないで」
「うわああああああああああああぁぁぁぁぁん!!! だいちゃーーーーーーーーんっ!!!」
あたいは泣いた。大ちゃんの胸にしがみついて、思いっきり泣いた。
カラッポだったあたいの心が、大ちゃんの声を聞くたびに、あったかいもので満たされていく。
大ちゃんも涙でぐしょぐしょになって、あたいを抱きしめてくれる。
……うれしい。さっきまで冷たいだけだったのに、もうこんなにもあったかい。
大ちゃんの優しさが、温もりが、あたいの所に帰ってきてくれた。
今まで当然のように、そばにあるものだと思ってたけど、そうじゃなかったんだね。
失ってから初めて気付いたんだ。当たり前の日常が、あたいにとってどれだけ大切だった、ってことに。
もう、絶対に離したくないっ! ずっと、ず~~~~っと大ちゃんと一緒にいるんだもん!
吹雪が止んで、黒い雲に隠れていたお月様がすっぽり、と顔を出してくれて。
いつまでも、あたいたちを優しく照らしてくれた。
▲(エピローグ)
チルノちゃんが湖で暴れたあの日から、一週間が経ちました。
私とチルノちゃんはこの一週間、霊夢さんの博麗神社でお世話になっています。
突然、ご厄介する形となってしまって、霊夢さんには非常に申し訳なかったのですけれど。
霊夢さんは「この時期ならチルノが近くにいるのも悪くない」と案外喜んでくれました。
何故、私たちが神社にいるのかと言うと。
湖周辺を元に戻すまでは然るべき場所での謹慎せよ、と八雲紫さんから言い渡されたからです。
幸いと言うべきか、チルノちゃんが作った氷の世界の中に、妖怪や妖精は一人もいなかったそうです。
……その代わり、湖の近くに住む、何十匹もの動物たちの命が失われてしまいました。
だけど、私にはその元凶であるチルノちゃんを責めることは出来ません。
チルノちゃんは毎晩うなされていました。
泣きながら何度も「ごめんなさい」と繰り返し寝言で懺悔していました。
謝って済む問題じゃないかもしれないけれど、それでも彼女はもう十分に傷ついて、反省している。
私にはそれがわかっていたから、これ以上、この子を悲しませるような真似はしたくありませんでした。
私とチルノちゃんが、神社の庭で遊んでいると、空から二つの人影がここに向かって飛んでくるのが見えました。
魔理沙さんと、……アリスさんです。
それを見たチルノちゃんの顔が、段々と強張っていくのがわかりました。
そういえば、あの日以来、私たちとアリスさんが会うのはこれが初めてです。
何事も起こらなければいいのですが……。
「よう、チルノに大妖精。神社の暮らしは慣れてきたか?」
「よう魔理沙」
「こんにちは。おかげさまですっかりと」
「……久しぶりね二人とも」
「……う、うん。ひさしぶり」
「あ、あの。こんにちはアリスさん! 今日もいい天気ですね!」
うわ。や、やっぱり気まずいです。チルノちゃんが私の背中に隠れてしまいました。
私は努めて明るい声でアリスさんに挨拶しましたけど、どうやらちょっと不自然だったみたいです。
お二人は目をパチクリ、とさせて私たちを窺っていました。
「アリスさんこそ、もうお怪我は平気なのですか?」
「……ええ。まだまだ病み上がりの身だけどね。魔理沙が余計な世話を焼いてくれたから」
「おいおい、そいつはあんまりな言い草だぜ。高熱出して寝たきりのお前に、伝家の宝刀『はいアーンして』で―――」
「ちょちょちょ! な、何言ってんのよあんた! 名誉毀損で訴えるわよっ!!」
「アリスは猫舌だからな。口に運ぶ前にフーフー、して冷ますのがポイントなんだぜ?」
「まっ、魔理沙ーーーッ!!」
……お二人とも仲がいいんですね。
顔を真っ赤にさせて文句言ってるアリスさんが、何だかすごく可愛いらしいです。
チルノちゃんは、私の服の裾を掴んで、もじもじ、と何だか居心地悪そうに身をよじっていました。
仕方ないこととはいえ、こんなのいつものチルノちゃんらしくありません。
私が再び何か言おうとすると、アリスさんが私たちの元まで歩み寄ってきました。
チルノちゃんが慌てて彼女から顔を背けます。私の服を握る手が強くなりました。
伏せ目がちだったアリスさんは、意を決したように視線を上げると、消え入るかのような小さな声で話しかけてきました。
「……チルノ」
「……」
「私が、悪かったわ」
「……え?」
「貴方の気持ちを考えず、ひどいことをしたと思う。ちゃんと謝りたいからこっちを向いてくれないかしら?」
「ア、アリス……」
その言葉に、チルノちゃんは恐る恐るアリスさんの方に顔を向けました。
チルノちゃんは、アリスさんが許せないからそっぽを向いていたのではないと思います。
ひどい目に合わせたというのなら、それはチルノちゃんだって一緒です。
きっと、この子はアリスさんに嫌われたと思い込んで、怖がっていただけではないでしょうか。
「あたいの方こそ、ごめんなさい」
「……うん」
「人形にひどいことしちゃって、アリスにもいっぱい怪我させちゃった」
「……うん。でも私はもう気にしていないわ。上海たちも怒ってないって、……ね?」
アリスさんは傍に控えていた人形たちに視線を向けて、確認するように話を振りました。
金髪の小さな従者たちはコクコク、とその言葉に頷きます。それでやっと、チルノちゃんは破顔してくれました。
「チルノはまだ、怒ってる?」
「お、怒ってない! あたいももう全然怒ってないよっ」
「だったら仲直りしましょ。……いつも通りの私たちに戻りましょ」
「……うんっ!」
そう言って差し出してくるアリスさんの右手を、チルノちゃんはしっかりと握り返しました。
安心したかのようなチルノちゃんの満面の笑みと、それに優しく微笑みかけるアリスさん。
魔理沙さんも口元を緩めながら、母屋の奥にいる霊夢さんに声を掛けています。
永遠に戻らないものもある。でも、少し自分から手を伸ばせば取り戻せるものもある。
事件以来、初めて見せるチルノちゃんの心からの笑顔。
そんな彼女を見て、私はようやくこの事件が本当の意味で解決したのだと思いました。
―――あれからさらに数日が経って、私たちは湖に帰ってきました。
湖はまだ完全に甦った、というわけではありません。
けれど、紫さんや山の神様のお力で、緑は再び芽を息吹き、元の穏やかさを戻しつつあります。
そして、湖の修復までの間、その存在、歴史を隠し続けてくれていた方もいました。
里の守護者である、上白沢慧音さんです。
彼女のおかげで事件はそれほど公にならず、一部の関係者のみで終始させる事が出来ました。
私とチルノちゃんは、協力してくれた慧音さんに一言お礼を言おうと、彼女の家まで訪れました。
「まあ、大体の事情は聞いていたからな。それくらいの事ならお安い御用だ」
「本当にありがとうございました。今回の事では沢山の方にご迷惑をかけてしまって」
「……失礼なことを聞くが、何故無関係であるはずの妖精の君がこんな所まで出張るんだ?
本来ならこういう事は、当事者のチルノの口から言わせるのが筋というものだろう」
「そ、それは……」
慧音さんの言葉に、私は腕に組み付いて離れないチルノちゃんをチラリ、と見やりました。
事件からもう半月近く経っているのですが、その間チルノちゃんは私のそばから片時も離れようとしません。
何をするにもちょこちょこ、とくっついてきて、甘えるかのように私の腰にしがみついてきます。
……正直、寒くてかなわないのですが、それをやんわり言うと、チルノちゃんは涙目になってしまいます。
チルノちゃんの心の傷は私の想像以上でした。忘れっぽい彼女が二週間経っても未だに尾を引いているのです。
だから、この子の傷が癒え切らない内は、私はチルノちゃんの好きにさせてあげるつもりです。
……これは内緒ですけど、今のチルノちゃんすっごく可愛いんですよ。
すっかりしおらしくなっちゃって、私の言う事もちゃんと聞いてくれるんですから!
不謹慎ですけど、しばらくならこのままでもいいかな、なんてコッソリ思ってたりする今日この頃です。
「……まあいい。とにかくギリギリとはいえ、取り返しがついて本当に良かった。
憎しみは憎しみを呼び、更なる災厄と悲劇を生み出す。それが復讐の連鎖。……戦争の火種だ」
「……うん」
「大切な者が傷つけられて怒る。それ自体は決して悪いことではない。
だが一つ見誤れば、それは他者だけでなく、自分自身をも大きく傷つける結果となる。
お前のように強い力を持つ者なら尚更だ」
「あたいは、あの時どうすればよかったのかな?」
「……難しいな。私にはお前の行為を咎める事は出来んし、アリスにも非がある。
だからこそ人の戦いの歴史は途切れない。私の力でさえ及ばない宿怨。人類の業とも呼べるのだろう」
「あたいは人間じゃないけど、それでも人間の考えてることがよくわかった気がする」
「……それが一番大切なことだ。同じ過ちを繰り返すな。お前らしくあれ。私から言える事はそれだけだ」
「……うん。ありがとうけいね。あたい、けいねのお話が聞けてよかった」
妖精も、魔法使いも、妖怪も、神様でさえ。
心がある限り感情があります。人間と同じく、笑ったり、怒ったり、泣いたり出来ます。
愛憎は表裏一体。今回は人間の悪い根幹を、幼いチルノちゃんは受け入れてしまったのでしょう。
でも悪いばかりが人間ではありません。良い所も悪い所もあるから人間なのです。
私たちは忘れっぽい。時間が経って記憶が薄れれば、すぐに同じ過ちを繰り返してしまいます。
これからも悪い面に縛られることもあるでしょう。その度に私たちは悲しい思いをするでしょう。
だけど、それに負けないくらい良い所も探したいと思います。見つけて、そして笑い合いと思います。
……私の隣にいる、誰よりも大切な友達といっしょに。
●(えぴろーぐ)
あたいは今、お花畑にいる。
もちろん、お花に近づくとゆうかに怒られるから、ちゃんと空を飛んでるよ?
目の前には、あたいが憧れる強くて怖くてカッコいい、日傘を差したゆうかがいる。
何をしにきたかって? そんなの決まっている。
この間の決着をつけにきたのよっ!
「……今の貴方じゃ燃えないわー。もうちょっと強くなってから出直してきなさい」
ゆうかはめんどくさそうに欠伸を一つした。
ムキーッ! バカにすんじゃないわよっ! あたいを誰だと思っているの!
「幻想郷最強の妖精さん、でしょ?」
「な、なによ。わかってるじゃない」
「ふふ。それで何? あの時の続きがしたいっていうの?」
「そうよっ! 今日こそあたいの弾幕でギッタンギッタン、にしてやるわっ!」
あたいがそう言った途端、ゆうかは何を思ったのか目をつぶって苦笑した。
あれ? あたい何かおかしなこと言ったっけ?
「……そうね。貴方にはやっぱり弾幕ごっこが一番よく似合うのでしょうね」
「な、何ワケわかんないこと言ってんの! さあ! いざじんじょーに勝負っ!!」
スペルカードを頭の上にかざす。
ゆうかもあたいにならって、カードを取り出した。
あたいたちの間に、風がビューッ、って吹きぬける。
吹雪の中、ゆうかと撃ち合った時と同じような緊張感。
だけど、あの時とは一つだけ違うところがある。
それは―――
「いっくよーっ!!」
「……仕方ないから相手してあげる。やるからには手加減抜きでいくわよ?」
―――あたいは今、楽しいって思ってる。それはゆうかが遊んでくれるからだ。
死んじゃえ、って思いながら戦うのは辛くて、悲しいだけだった。
勝ってもちっとも楽しくなくて、ただ空しいなって思うだけで、何も残らなかった。
だからあたいは、二度とあんなことはしない。絶対にしたくない。
大ちゃんと一緒にいて、弾幕でゆうかと戦って、冬にはレティとも遊ぶんだ。
これは、あたいがあたいにした約束。忘れてはいけない誓い。
今のあたいは自信にみちあふれている。ゆうかにだって簡単には負けないよっ!
だからあたいは叫ぶんだ。声をはりあげて、冷たくなんかないあたいを強くしてくれる魔法の呪文を!
「―――あたいったら最強ねっ!!!」
チルノ、アリス、ゆうかりんと一見関連性のない三人がよく繋がってた。
前後編に分けないほうがテンションが持続してよかった気がする。
注意書きいらないしね。
失われる存在が「人形」や「名無しの動物」かつ妖精や妖怪は巻き込まれなかった、というのは作者の良心か、甘さか。どっちでしょうか
気持ちは分かるけれど、アリスが随分短絡思考だなあと思いました。
良かったです
バトルも読みごたえがありましたし、キャラ同士の話にしても同じことが
言えますし、なにより最後にアリスと仲直りできたというのがホッとしました。
やっぱりチルノは無邪気なほうが良いですね。
面白かったです。
よい話を書ききってくれたあなたに拍手。
後編を楽しみにしていました。
最初に仕掛けたのはチルノであるから結局のところ元凶はチルノという
アリスはただ教育しようとお節介かけただけにしか見えないな・・・
お節介かけた結果がこれだよ!
どのシーンも過不足無く書き込まれていて、読む楽しみを満喫させて頂きました。
登場人物がみんな愛情を込めて魅力的に描かれている事に感謝を。
特に風見幽香! 彼女の幻想郷とそこに棲む物に対する屈折した愛情がもう‥。
大変失礼な事を承知の上で、
個人的に一つだけ難点を指摘させて頂ければ、題名が、その‥。
シリアスな内容にあってないのではないかと。
この題名だと題名だけで、反発を受けたり、誤解されたり、スルーされたりが起きそうで、
勿体無いと思うのですが。
チルノを中心として作者氏が書きたいストーリーに合わせてキャラを配置し、動かしたような。
前編を読み終えて、チルノの強さをどう理由付けるんだろう? という興味を持っていたのですが、
「潜在能力は閻魔様のお墨付きだから」だけであそこまで強大なのは説得力に欠ける気が。
戦闘においても「アリス<EXチルノ<幽香」と強さのランクに差がありすぎて、読んでいてどきどき
できませんでした。アリス対EXチルノもEXチルノ対幽香も、まるで弱いものいじめみたい。
アリスにも非があるとはいえ元凶はチルノですし。物語はすっきりと終わってますけど、個人的に
もやもやしたものが残りました。
ただ、幽香の性格の解釈は良かったと思います。
一方でクライマックスはよく突っ走ったなぁと思います。出し切ったと仰るだけのことはあります。描かれたテーマを受け入れやすかったのもあったと思いますが、私は十分楽しめました。
これからも頑張ってください。
アリスをいたぶるときの態度に気持ち悪くて吐きそうになりました。
もし今後に大妖精が死んだら、このチルノはまた同じ事をするんでしょうね。
彼女の危うさが平和な幻想郷に強烈なスパイスとして効いていると思います。
作品はエンターテイメントとして面白かったです。
不愉快な思いをされた方は本当に申し訳ありません。
やはり今後のことも考えて、注意書きは残しておこうと思います。
タイトルについては、確かにちょっと内容にそぐわないかもしれません。
作品の方針を固めた時点で、タイトルはこれしかない、と思いまして…。
労って頂いて嬉しい、と同時に自分の書き手としての技術不足を改めて痛感致しました。
こんな私ですが、皆さん来年もどうぞよろしくお願い致しますm(_ _)m 皆さんよいお年を!
先に書いておきますが、あなた……覚悟してきてる人ですよね。
⑨が機種依存文字だってわかって書いているのですよね。
まあどうでもよい話でした。
内容について。
作者氏の主張がダイレクトに伝わってくる話でよかったです。幼いチルノだけに心に迫る話だったといえます。
アリスについてはやや軽挙すぎるかとも思いましたが、そこらは人形に対する愛情を思えばいたしかたないところなのかも。
技術的に言えば、もしかして三人称のほうが楽だったのかなぁとも思いましたが、一人称ならではの臨場的な感情表現がこの作品のもっとも良いところになっているので、やはり一人称で書いた結果、良作ができあがったのだろうと思います。
なお、作者氏のほかの作品もちらりちらりと散見させていただきましたが、この作品がもっとも鮮烈だったことを付記しておきます。
次回も期待。
そもそもスペカルールに則ってない相手に対してルールで応戦するってのが違和感
三月精でも復活できないほどに消すと言ってるし
次に紫のスキマ、あれを凍らせるってことは万物の理を超えた神の力になってるって事
強さを表現したいがためにこの二人が非常に弱く描かれているように感じた
テーマが先行しすぎてキャラを付いていかせるのに無理がある
細かい内容については色々言いたいのですが、とにかくこの読後感を出せる作品は1作品集に1,2程度しか見つからないんで、今回当たりですねw 個人的に。
ただ、アリスについて一言。
これじゃたんなる悪役(つーかピエロ役)じゃないか!
プロットはそのまんまでも、アリスの人形に対する愛情やチルノに対する考えをもちょっと詳しく書いてほしかったです。アリスファンとしては。
彼女が惨めに這いつくばって泣き叫びながらチルノに許しを請うほど酷いことをしただろうか?
どう考えても悪いのは上海人形を壊す寸前までやったチルノなのに。
そのチルノが実質無罪放免というのも納得いかない。
あんなに凄い能力を持っているのに考え無しでは、いつまた暴発するか分からないってのに。
湖じゃなく里で同じことをやられたとしても、慧音はあんな悟ったようなことをチルノに言えるのかね。
幽香が良い味出してました。
まあ2ボスと3ボスですから「本気を出していない」アリスにラストワードを出させるまでは持っていけるでしょうが、
あまりにも強すぎます。チルノがルール無視、アリスがルールに則っているにしても、差がおかしいしそもそも話の中でアリスが本気を出さねば死ぬといった考えに達していることからチルノの力がおかしいです。
さらに多くの命を奪い、その上十分脅威と成り得る力を持ったチルノがそのまま何も罰を受けないというのはおかしいと思います。
スキマを凍らせるような冷気、空間に大きな影響を与えるような力も考えて、
紫が幻想郷を大切にしている事から殺される可能性もあるような事です。
どうしても、「チルノ最強! ちゃんと命について学べて良かったね やっぱりチルノはいい子だね」ってことを言ってるだけな他の事が軽い物な気がします。
もちろん私もその1人です。
1000点レベルです!!
でも、アリスがレミリアかフランドールだったら私は絶望していたかも知れない・・・<エゴ
あたいったら最強ね!