Coolier - 新生・東方創想話

シャドーボールだ!

2026/05/08 20:05:01
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「……私には全く理解できなかったのだが、もう一度分かりやすくご説明いただけるか?」

 後日。
 小石だらけの三途の川原を一歩一歩、ゆっくりと進む二人の人影。今問いかけられた人物は全身青色の女性で、それが霍青娥である事は説明不要だろう。
「豊聡耳様にはレベルが高すぎましたか。貴方様の屠自古さんが考えた作戦なのですけども」
 そして問いかけた側のもう一人は、何度も話にだけは出ていた豊聡耳神子。片腕には菓子折りの入った袋がぶら下がっている。
「貴女の弟子でもある。あの時から親友の暴走を止めるのは青娥の役目ではなかったかな?」
「あの人ったら暴走してる体で好き放題するのに味を占めちゃって。一体誰に似たのやら」
「うん、間違いなく貴女だ」
 身内の人間が好き放題してそのままでは派閥のリーダーである神子の名に傷が付く。だからどこか(寺を除く)で何かやらかす度に謝罪行脚の羽目になるわけで、今回の行き先はもちろん畜生界だった。
「まあでも今回の一つは早鬼ちゃんの所なわけですから、あの子も涙とおしっこ流して喜ぶんじゃないですか?」
「いや、確かによく失禁していたけど、流石に人の形になってまでしないだろう……しないよね?」
 ろくでなしな方の仙人が迷惑をかけて、それに対して詫びれば当然謝った方の仙人はまともに見える。神子の顔と評判はそうやって広がっていくのだ。悪く言えばマッチポンプである。
「それにしても神に喧嘩を売ってよくも五体満足で帰ってきたものです。流石は私の師匠と同士と言っておきますか」
「その自分中心の考え方、身内以外には絶対漏らさないでくださいね」
「……最上級の誉め言葉なのだが。ともかく、その水子達はあれなわけか。うん、あれが……」
 神子の視線の先、少し離れた平坦な地面には小さな霊魂が大量に群れていた。無論水子だけではなく、積み上がった石の塊も並び立っている。立ってはいるが、神子の声に困惑の色が混じっていた理由が当然あるわけで。
「次はここにイスと机をお願いしまーす!」
「はいはい、ガンガン組んじゃうわよー」
 これはもう完全に建築物であった。瓔花のお願いの下、かの埴安神袿姫が小石をトンテンカンカンと削り、巧妙に積み上げ、磨き、見事な家具を造り上げていたのだ。
 あの戦いの後、袿姫はさらに信仰を得る道を見つけたのだ。ヒーローに倒される悪役を見事に演じきった袿姫はさらに水子から慕われる事となり、ただ帰らせてこれを手放すのは惜しい。そこで三途の川まで出張して求められる物を造ってあげようという話にまで発展してしまった。
「……まあ、子供に喜ばれて嫌がる者はいないだろうな、うん」

「あ、お姉さん! それと……とんがってるお姉さん?」
「ぶふっ」
 ミミズクみたいな変な髪形でおなじみの神子がそう呼ばれ、青娥も思わず吹き出してしまう。
 そのとんがり姉さんが口を尖らせている事も露知らず、青娥に駆け寄った瓔花は挨拶として腰にぎゅっと抱き付いた。
「今日は芳香ちゃんと屠自古ちゃんは?」
「芳香はお腹が膨らみすぎて壊れたからお休みよ。屠自古さんは……」
「布都と共に反省を促す滝行中だ」
 まだむすっとした顔で、修行を命じた張本人がそう答えた。
「お水をじゃばじゃば浴びて頑張ってるそうよ」
「そうなんだー。こっちの人はだれ? お姉さんのお友だち?」
「おほん、豊聡耳神子だよ。青娥は私の先生なんだ」
「あー! あの光っててえらい子? でもあんまり光ってないね」
「……青娥?」
 私をどう説明したの。顔を近付けてじろじろ睨む神子だが、当の青娥はそれを知らんぷりして瓔花の頭を撫でるのだった。
「今日こそ弾幕ごっこのメンバー集め? 今度はいっぱい連れていけるよ!」
「いいのよ別に。今はこっちの方に夢中でしょう?」
「まあね。けーき様がもうずっとこっちに居るからみんなはしゃいじゃって」
「石積みのプロどころか文字通り神様が居たらそうなるわねえ」
 青娥にとって水子弾など、結局は邪仙らしさを演出する為の小技に過ぎないのである。あんなものは文字通り児戯でしかない。本当の巨悪というのは見て分かるものではなく善側のフリをしているものだ。

「おやおや、青色の邪仙。この前はよくも私を茶番に付き合わせてくれたねえ」
 くまさんチェアーを磨き上げて一息付いた袿姫もこちらにやって来た。笑顔のままゴゴゴゴと神っぽい地響きを鳴らして威圧するが、なんだか逆に面白い感じになってしまっている。
「埴安神袿姫様ですね。青娥の弟子であり、かつては主でありました豊聡耳神子と申します」
 青娥が余計な事を言う前に神子が前に出て、用意しておいた菓子折りを袋から取り出した。
「先日は師がご迷惑をおかけしたようで……これで償い切れるとは思いませんが一先ずお受け取りいただければ幸いです」
「あら、そんなつもりじゃなかったのよ。でも美味しい供物は大歓迎だからありがたくいただくわ」
 神子はほっと胸をなでおろした。神に匹敵すると言われる神子だがやはり本物の神は厳しい相手だ。既に怨霊を一人抱えているのにさらに祟られるのは勘弁である。
「それにしても、凄い光景ですね」
「でしょう? これぜーんぶ私が石だけで造ったのよ。畜生界の遊技場みたいな広場を作るっていう大プロジェクトらしいわ」
「そうだよ。遊ぶのにいつも畜生界に行ってたんじゃすぐ迷子になっちゃうからね!」
 動物のオブジェや家具にヤクザが飛び出してきそうな小屋など、それを全部石で作った袿姫と発想した瓔花は確かに凄いが、今神子が言いたい事はそうではなかった。
「……ここは是非曲直庁の管轄です。鬼が黙っていないのでは?」
「知ったことではないね。この私の創作をぶち壊す勇気があるならお好きにどうぞよ」
 彼女の造った物が動くのは前述の通り。椅子がタックルしてきたり、神本人が彫刻刀で襲い掛かってくるのを凌げる者だけにその資格がある。
「それに鬼の仕事は水子の石塔崩しでしょう? 私がここに何か作ってはいけない決まりなんて無いわ」
「あまりにも度が過ぎれば生真面目な閻魔辺りが黙ってないかもしれませんよ」
 袿姫はフンと鼻で笑った。所詮地蔵からの叩き上げなど何するものぞ。我神ぞ?と言わんばかりに。
「破壊無くして創造無し。水子と同じよ、また造り直せばいいの。それに適当に壊れてくれないと私もおまんまの食い上げだものね」
「……そうですか。ところで黒駒ともいろいろあったようですが、私としては中立の立場ですので。あちらに過剰な肩入れは無いと思っていただければ」
「それはどうも。ところで聖徳太子さん、工芸の腕も特別だって付喪神界隈で噂になってたわよ。是非そのセンスを見せてもらいたいわね」
 曇り気味だった神子の瞳が一転きらりと輝いた。
「私の拙作がそこまで……ならばやらないわけにはいきませんね。瓔花、次は何を作ればいいのかな」
「えーっとね、乗って遊べるお馬さんとか」
「馬か、得意分野だな。では素材の選定から入ろう。案内したまえ」
「その馬の組に行くのもお忘れなく。まああの子なら明日でも明後日でも喜ぶでしょうけど」
 瓔花を連れて積み石の山へと向かう神子。どうせ翼を生やしたり自分の顔を彫っちゃうんだろうなあと、青娥はその背中を苦笑して見送るのであった。

「……それにしても、埴安神様がここまで水子に親身になってくださるとは思いませんでした。重ねてお礼申し上げますわ」
 青娥は恭しく頭を下げると、丁度いい大きさの石に腰かけた。それに合わせて袿姫も自作したばかりの椅子に座る。
「畜生共が大人しい間だけよ。あいつらは所詮獣だからすぐ痛みを忘れて暴れだすわ」
 地上進出を企てたものの、それが実は地獄の人鬼に踊らされていただけだったと分かり意気消沈。しかし幻想郷に異変は付き物なのだから数か月後にはまた新たな異変が起こり、畜生界もついでになんやかんや騒がしくなるのだろう。
「そもそもお礼って、お前はどういう立場なのよ。水子を操ってる分際で母親気取りかしら?」
「お姉さん、ですよ。私が母親なはずないでしょう」
「……ふーん、分かってるんだ。でもあの子達はお前をちゃんと慕ってるのだから精々裏切らないことね」
「もちろんですよ。時間潰しのお友達でいられれば十分です」
 青娥と袿姫は二人、水子達が飛び回る様子を眺めながら静かにほほ笑んだ。
「それで、要は暇だからここに居るわけですか」
「無礼よ。聞きたい事があるならストレートに言いなさい。職人は言葉遊びに興味は無いの」
「では、戎瓔花の名を聞いた時にどう思いました?」
「ストレートすぎるわ。もうちょっと情緒を大事にしなさい」
 袿姫も流石に5秒前の発言を覆してため息をついた。

「……お前はその名について本人に聞いたの?」
「自分の名前を決める時に、なんとなくそう思い浮かんだそうです。エビス、と」
「なるほどね。だけど、そのエビスが私の思うエビスと裏付けるものは何もないわ」
「そうでしょうね。現代でエビスと言ったら七福神か、あの方も大好きなビールかですし」
「どの方よ。どの道、今のあの子が矮小な水子である事は変わらない」
 休憩終わり。袿姫は立ち上がって頭の三角巾を結び直した。
「その通りです。ですが、もしそれが為にあの時手心を加えていただけたのならば、重ね重ね感謝を」
 青娥も立ち、軽く会釈を。あちらでは神子が水子達に囲まれて有頂天になっている。面白いから放っておいてもいいのだが、余計な失態を晒さぬよう適度に諫めるのも師匠の役目だ。
「関係無いわ。お前だって瓔花を気に入っている理由は別のところでしょう?」
「ふふっ。生まれが何であれ、今を楽しく過ごそうと一生懸命で。それを後押ししてあげるのが大人の役目ですから」
「本当に邪な奴だよお前は。さあて、あの子達が待っているから次よ次。お前も掘るのは得意なんだから手伝いなさい」
「かしこまりました。画伯と畏れられた私の腕、存分に発揮しようじゃありませんか」
 青娥がいつも髪に刺しているかんざしを抜いた。彼女を壁抜けの邪仙たらしめる特殊なノミを加工して作っており、かけがえのない人物との思い出が詰まった一点物だ。

 青娥が死者を好む理由はそれ以上死なないからである。千年以上死神から逃れて生き抜いた彼女にとって、人の生はあまりにも短い。その意味では、次の転生を待つのみの水子も似たようなものだが、瓔花だけは特別だった。
 瓔花だけはいつまで経っても消える気配が無い。一人だけ成長した子供の姿を持ち、強い相手にも立ち向かう精神を持っている。その理由が出自からかも不確かだが、彼女が水子でありながらそれを超えた存在になっているのは誰の目にも明らかだった。
 だとしても、瓔花は今更他の何かを名乗らないだろう。水子のリーダー、戎瓔花。それ以上もそれ以下も望むつもりはない。
 一つ確かなのは、彼女は大勢に囲まれて今を楽しんでいる。水子以外の友も出来たし、神すら力を貸してくれた。それは石と違って容易に崩されるものではない、瓔花が一生懸命積み上げた確かな実績なのである。
キャノンボールはダメでしょ。
石転
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コメント



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1.100南条削除
面白かったです
ド頭から邪仙がフルスロットルで笑いました
畜生界の複合レジャー施設に夢中になっている瓔花や他の水子たちもとてもかわいらしかったです
大人のはずの屠自古も一緒になって遊んでいて笑いました
不意に出てきて第一村人のクマもチョイ役のはずなのに妙な凄みがあってよかったです
子供にほめたたえられて喜んでる埴安神も見ていて楽しかったです
3.100のくた削除
面白かったです
途中途中の小ネタギミックが笑えます
まゆけーきは良い
最後の青娥と袿姫様の会話もとても良かったです
4.100名前が無い程度の能力削除
面白かったです。クレーンゲームと格闘するくだりで吹き出しました。あと青娥の保護者感と芳香のお姉さん感が良かったです。
6.90奇声を発する程度の能力削除
面白かったです