Coolier - 新生・東方創想話

うるう妹紅と会話と師走

2025/12/30 14:35:18
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「決めた、私の誕生日は2月の29日だ」

 妹紅はぱんと膝を叩いてそう宣言をした。
 となりで聞いていたてゐなんかは「あーまたそういうのね」という目をしながらみかんを剥いているし、輝夜は午睡とばかりに二日ほどの眠りについてすぐだし、永琳はこの後に落ちてくるであろう星の位置を計算する暇潰しで忙しそうにしている。

「決めたんだ私は、私は決めたぞ」

 ちらっちらっとやりながら妹紅はもう二度ほどぱんと膝を叩く。てゐは「忙しいよわたしゃ」と言わんばかりにもう一つ目のみかんを取ったし、輝夜は目覚めて顔を洗い伸びた髪の毛を五厘に刈り上げた後再び午睡に入ったし、永琳はこの後にぶち上げてくるだろうプレートの振動に合わせて流すEDMを選曲するのに必死だった。

「良い発見なんだよこれは。いい、とても良いんだよなあ」

 てゐ略輝夜略永琳略。

「つまり、うるう年を誕生日にすることによってね」

 とうとう誰からも聞かれなかったので、妹紅は自分から説明を始める。
 てゐは腕を振って先ほど得たみかんの栄養を空に返しながら、かつての記憶を掘り返していた。あれはそうだな、そうそう、霊夢だ。異変解決に長けた霊夢が居た頃の話だ。あの時にも妹紅は何やら張り切っていたように思える。都市伝説がどうやら、完全憑依がどうやら、鉄分信仰がどうやら、輪廻延滞異変や透明逆行異変、裏切りイェノーク星人異変の時も妹紅は張り切っていたんだ。だいたいこいつの張り切りは、自己満足の至りだし、周りに何も影響を与えない。暇つぶしになることだってあんまり無いのだ。てゐはそこまで思考を伸ばしてみかんを剥く手を再開した。

「みんなは年齢を聞かれたら陰鬱とするでしょ? 乙女だもん、年なんて聞かれた日には心が陰鬱と鬱屈と鬱蒼と鬱然としてしまうじゃない? いかんせん陰鬱でしょ。私がそうだもの」

 ところどころ言葉が破綻しているのは、会話の頻度が少ないからだろう。それも仕方ない。
 人によっては永遠に復活するみかんを開発していたり、人によっては食べたものの一切合切を全て吸収せず肌から蒸発させ排泄が不要になっていたり、人によっては脳内の発達に適応するために人の形から逸脱したのだったり、人によっては心との境界線を無くして感情や思考を読み取ったりするのが出来るほどなのだから。

「永琳もそう思うでしょ」

 とうとう耐えきれなくなったのか、妹紅は少し前まで煤竹色に光っていた永琳のフォトフォアを何度か揺すって興味を引こうとしている。しかしながら永琳は頑固者だ。ペディセルを大きく伸ばして自分の心地よい姿勢になって篩板から大きく空気を吐いた。

「だからうるう年なんだよ。これで年齢が若くなるんだよ、誕生日がうるう年ならほら、私が仮に50影尺歳なら、えへへもうそんな若くはないんだけど。50影尺の4だから、200影尺歳になるってこと。これで陰鬱はもう無くなるって寸法よ。200影尺歳のことなんてみんな覚えてないでしょ」

 計算が違う。てゐは脳内で発するだけでわかっていてもそれは言わない。うるう年で若くしたいなら、50影尺を4で割らないといけないし、約分すると20天虚になるはずだ。それに十進数なんて使っている時点で妹紅の程度が知れる。何年前の計算をしているんだ、こいつは。てゐはみかんをもう一つ取り上げて、我が子を愛でるように剥き始める。

「てゐ、もうみかんは良くない? これからは若作りの時代よ」
「誰に対して若作りするってのさ」
「会話だ! 会話が、会話だねてゐ!」
「見せたいやつでもいるの?」
「へへん自分だよ自分。全部は自分のためだよ」
「あたしとの会話もかい」
「それは……むむむ、考えさせて」
「一生考えてな」
「それが出来るならそうするよ」

 よほど嬉しかったのか妹紅は親指と人差し指でブイの字を作ってあごにやった。顔はにやにやと、わくわくとしているのが誰にだってわかる。妹紅は先程「全部は自分のため」と言ったがそれは間違っていることに気づいていない。現に、妹紅はてゐとの会話によって感情を蘇らせているし、未だに顔に滅多にない表情が張り付いている。

「輝夜……輝夜! おい姫様起きな。髪が長すぎて鬱陶しいよ。起きて斬ってもらいなよ」
「はっ。私は姫。ここは永遠亭」
「そうだよあんたは姫だよ。髪が長くて邪魔ったらありゃしないよ」
「会話?」
「会話だよ。妹紅を見てみなよ」
「あらなんなのあの子。表情筋を歪ませたりして。ひょっとして若返ったんじゃないの。ばかねえ」
「若返った?! やっぱりそう見える? ほら、誕生日をね」

 輝夜は妹紅の猛攻(ダジャレだ)を交わしながら髪を斬りに来て、再び睡眠に入っていった。「ちぇー」と口を尖らせながら妹紅はもう一度先程と同じ体勢を取る。考えるべきことを思い出したのだ。

「どう妹紅、会話は」
「いま会話してる場合じゃない! 会話を考えている場合なんだ!」
「面白いやつだねえ。姫や永琳が手元に置いてる理由がわかるよ」
「面白いで思い出した。昔けーねが言ってたんだけど……」
「けーね? ああ、慧音か。そろそろだっけ?」
「なんだっけ……なんて言ってたんだっけ」
「思い出しな。あれは先生だよ。先生だから輝いてるやつなんだ。思い出してやらないとまるで意味が無くなっちゃうんだから」
「わかってるよ!」
「面白いで思い出したんじゃなかったのかい」
「ああ思い出した。今日から十二月だよ。師走だ師走。先生が走るのが師走。面白い、想像するだけで笑えてきちゃう」
「やっぱりそろそろか」

 こたつの中に何かがあることにてゐは気づく。みかんだ。出してみるとけして暖まっていないみかんが出てきた。また、永琳がやったのだろう。時間はある。思考さえしていれば、永琳は何だって生み出すんだから。

「それでわかったよてゐ。会話は人だ。自分じゃない」
「でしょ?」
「でも若作りは自分のためだよ。若いと良いんだ。嬉しい、跳ね上がるんだ心が」
「そういうもんかねえ」
「てゐは何歳だっけ?」
「は?」
「ほら怒った! 怒るんだよ乙女だからね。ごめんね、ごめんごめん。わざとなんだ」
「……」
「誕生日をうるう年にしてみる?」
「それもいいかもねえ……」

 てゐは定位置に戻り(ダジャレだ)またみかんを手に取った。今宵は会話の大盤振る舞いだった。次にくる会話はいつだろうか。そんなことを思っていると、永琳が皆の心の中にメッセージを送ってきた。

【来たわよ】

 振動に一番敏感なのが永琳だ。なぜなら生業だから。
 ゆえに先に気付いたのが永琳で、次に気付いたのが意外にもてゐだった。

「ほらもうあれだから。面白いからね」
「なに? 何があるの?」
「さっき自分が言ってたのに。ほらみなよ。慧音が走ってきたよ」
「ぶふーっ」

 妹紅は吹き出してげらげらとしはじめた。つられててゐも笑い出したし、永琳のフォトフォアも虫襖に点滅し始めた。輝夜なんて寝ているのに皆の気配で感じ取ったのか、もう髪の毛で表情が見えないくらいだ。

「あーやっぱりけーねが言ってた通りだ。面白いなー先生が走ると」
「師走だからねえ」
【師走ねえ】
「何ていうかな、慧音」
「なんだろうねえ」
【誰に対してかしらねえ】

 私達は徐々に大きくなる振動と、徐々に大きくなる慧音のシルエットともに、期待も徐々に大きく膨らませていく。一日が28星刻になってどれくらい経っただろうか。それは慧音のそれを味わう期間も伸びたということになっているのだ。

「慧音!」
「妹紅、もしかして少し若返ったか?」
「さすが、わかるんだ慧音は!」
「てゐも若返ったな。ビタミン????を良く摂っているんだろう」
「流石によくわかるねえ、先生」
「姫は寝てるのか。髪を斬るように言っておいてくれ妹紅」
「きっとね、会話!」
「あとは……????冂⿰⻖彳????????⿰艹几????⺉????」
【草生える。禿げ沼ポキエモみワァァァ】
「最後に。午睡というのは昼間にとる短い仮眠のことだぞ。Grokが言ってた」

 それは失礼。最初の説明の所、誤用でしたか。
 もともとあんまり頭が良くないんです、私。
 だから先生と話せて嬉しいです。注意してくれるんですから。
 また来てくださいね。
 みんな楽しみにお待ちしておりますので。

 そうして慧音は走ってどこかに行ってしまった。
 どこに行くのかはわからないし、みんなも追いかけない。
 そもそも慧音は生きているかもわからないし、あれが存在しているのかもわからない。
 流石に輪廻延滞異変はもう解決していると思うけど。

 そんなことを思っていると、輝夜が私の元へとじわり寄ってきた。

「ねえねえ、斬って斬って」

 はいはい、任せてください。

「言葉をしてよ、会話!」
「貴方もですか、姫様」
「だってもこたん楽しそうだったし、会話」
「永琳さんはあれなのに」
「永琳はいいの。必要だから」
「たしかにそうですね」
「だから会話」
「わかりました会話。ええと、斬るのは時でしたっけ? 髪でしたっけ?」
「どっちでもいいわよ、適当に」
「じゃあ適当に、ほい」

 私が剣を振るうとてゐが悲鳴を上げた。

「ああもう! 姫様、髪が邪魔だってば!」

 間違っていたようだ。まあこんなこともあるでしょう。
 さあ、私のせいで師走ももうすぐ終わるだろう。
 また来年。
 来年ももっともっと、楽しみたいものですね。
 今年もありがとうございました。
ここまでお読みいただきありがとうございました。

三題噺の箱を作り、「妹紅」「Grok」「妹紅」という髪(誤字にあらず)を入れて三つ引いたらこの話になりました。
妖夢は心のそれを斬ることで、相手の気持ちや思考なんてお手の物になったんだと思います。そしてきっともう半分だけのはず。
それでは今年はあんまりお世話になってないけれど、来年も宜しくお願い致します。

みかんについて
ばかのひ
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コメント



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1.90奇声を発する程度の能力削除
面白かったです
3.100夏後冬前削除
オフチョベットしたテフをマブガッドしてリットって感じでした。ずいぶん遠くまで行っちまったもんだ。
4.100南条削除
面白かったです
みんな会話しててよかったです
ゆかいな師走でしたね