Coolier - 新生・東方創想話

旧今雨夜~紅夢叢萃~

2020/10/05 10:47:01
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Prologue

―博麗神社
 幻想郷の東端―現実世界との境にあり、妖怪の山を背に建つ神社。幻想郷を覆う博麗大結界の要の役割を果たしている。妖怪が入り浸っていることから人間の里では妖怪神社と呼ばれている。そこで幻想郷と外の世界を隔てる博麗大結界の管理をするのが歴代の博麗の巫女の職務だった。
 その境内では、一人の少女が掃き掃除をしていた。
 艶やかな黒髪を左右耳の下に白い髪飾りで留め、後頭部には赤く大きなリボン、肩や腋を露出させた特徴的な赤い巫女装束に白い袖と白い襟、胸元には赤いリボンという、紅と白で構成された出で立ちをした少女。
 彼女こそが、当代の博麗の巫女―博麗霊夢その人である。
「やっぱり、夏はこうじゃないとね。あんな薄暗い夏じゃ、向日葵の油すら取れないわ」
 太陽が霧で隠れるという異変が起こっていたものの、しばらくの間休息を取っていた太陽も久々に顔を出し、神社は快晴続きだった。
 人の姿は無く、蝉の音だけが五月蠅く響き渡る……。
「あー、でもここまで暑いとさすがに仕事にならないわ」
 霊夢は額の汗を腕で拭った。
「もっとも、人が来ないから仕事も無いけどね」
「暑くて暇だったら、百物語でもしようぜ」
 霊夢の背後から声がする。
「あー、人が誰もいないってのも虚しいわね」
「ほんとにねー。こんなんじゃあ商売が成り立たないぜ」
 霊夢が振り返って背後の人物に声をかける。
「あんたは人じゃないでしょ。あんたみたいなのが居なければ、もちっとましかな?」
 そこにいたのは一人の幼女。
 短く切りそろえられた水色がかった銀髪の上から紅いリボンの付いたナイトキャップを被り、淡いピンク色を基調とした半袖の洋服にロングスカートを穿き、背中には紅いリボンの幼女。 またその背中からは、背丈よりも大きな蝙蝠羽が生えている。
 彼女の名はレミリア=スカーレット。幻想郷全土を霧で覆い太陽を隠した〝紅霧異変〟の犯人の吸血鬼である。
「失礼ね。わたしが居なくても最初からこんな辺鄙なとこに人なんてこないぜ。それにしても貧素な建物ね」
「五月蠅い、神社ってそういうもんよ。魔理沙の真似のつもりなら似てないわよ」
「魔理沙なら、わたしのお菓子を食べたあげくパチェのところで本を物色してるわ。咲夜も、なんだってあんなネズミをつまみ出さずにもてなしたりするのかしら」
 霊夢は小さくため息をついた。別に魔理沙を待っていたわけではないが、あいつがいれば少しは退屈が紛れると思っていたのは否めない。
 そこになんでこいつが現れるのか。
「これなら怪談向きの建物ね、涼しくなるわよ」
 レミリアが背後から霊夢に抱きついてその胸元に手を這わせる。
「なにが悲しくて、昼間から化物と怪談しなけりゃいけないのよ」
「夜まで待っても、いいのよ」
 霊夢はレミリアの手を指でつまんで離す。
「待つな……で?」
「はい?」
「怪談のネタは?」
 霊夢は怪訝な顔で背後を振り返る。
「うーん、五〇〇年以上生き続けた少女の話」
「が? どうしたってゆーの?」
「わたしっ」
 レミリアは体をさらにくっつけて霊夢の背中に頬ずりする。
 ただでさえ暑いのによけいむさ苦しい。
 霊夢がレミリアを倒して異変を解決して以降、この幼女は霊夢に懐いていた。
「ところで、日光に弱いんじゃなかったの? さっさと灰になっちゃってよ」
「日傘があるわ」
 レミリアは手に持った日傘を掲げる。
「そんなんでいいなら霧なんてだすな!」
 霊夢はレミリアの背後に回り込んでヘッドロックをかける。
「危ない危ない、日に当たる!」
「少しは日に焼けた方がいいんじゃないの? 病的に白いし」
「その前に気化しちゃうって。気化したらそれを吸い込んだだけで吸血鬼になっちゃうわよ」
 霊夢がぱっとレミリアから手を離す。
「……それはいやだわ」
「でしょでしょ?」
 別の気配に気づいて霊夢がそちらを振り向く。
「ずいぶん、仲がいいんだな」
 そこにいたのは一人の少女。
 癖のある金髪を片側だけお下げに垂らして白いリボンで留め、同じく白いリボンのついた黒い三角帽、黒いワンピース型のドレスの上に白いエプロンという、白と黒で構成された出で立ちをした少女。
 彼女の名は霧雨魔理沙。幻想郷において霊夢と並ぶ妖怪退治の専門家で、人間の魔法使いである。
「ち、違うのよ魔理沙。これは」
「そうなの、とっても仲良しなのよ? わたしたち」
 レミリアが改めて霊夢にひっついて霊夢はそれを引き剥がそうとする。
「もう、霊夢ったら照れなくてもいいじゃない」
「この死にそうな暑さの中、よくやるなお前ら」
 魔理沙はその様子を呆れてみている。
「死んだら、わたしがが鳥葬にしてあげるわ」
 もみ合いながら霊夢が答える。
「あら、わたしに任してくれればいいのに」
 レミリアもそれに続いて答えた。
「あんたに任すのは、絶対にいやだぜ。それより、そんなに家空けて大丈夫なのか?」
「咲夜に任せてるから大丈夫よ。」
「きっと大丈夫じゃないから、すぐに帰れ」
 霊夢がレミリアを引き剥がそうとするが、レミリアもすぐにくっつきなおす。
「あら、霊夢ったら冷た~い」
「こらっ、血を吸おうとするなっ」
 口を開いて牙をむくレミリアの首にお祓い棒を当てて引き離そうとする霊夢。
 そのとき、三人の背後で稲光が輝き雷鳴が轟いたのだった。
 すぐさまじゃれ合いを中断して母屋の中に入る三人。
「夕立ね」
「この時期に、珍しいな」
「わたし、雨の中、歩けないんだよねぇ」
 しばらくたっても、雨は降ってこない、外の様子を見ると明らかに不自然な空になっていた。
 幻想郷の奥の一部だけ強烈な雨と雷が落ちていた。
 レミリアが目を凝らして雷雲のある方角を見る。
「あれ、わたしんちの周りだけ雨が降ってるみたい」
「ほんとだ、何か呪われた?」
「もともと呪われてるぜ」
 三人は雨が降ってこないと知って、石畳を歩いて行って鳥居の下で雷雲の様子を確認する。
「困ったわ、あれじゃ、帰れないわ。」
「あんたを帰さないようにしたんじゃない?」
「いよいよ追い出されたな」
 レミリアが腕組みして目を閉じ、考えるそぶりをする。
「あれは、わたしを帰さないようにしたというより……」
「実は、中から出てこないようにした?」
「やっぱり追い出されたのよ」
 レミリアは目を開いて霊夢の方を見た。
「まぁ、どっちみち帰れないわ。食事どうしようかしら」
「わたしを見るなわたしを。あんたの食料になる気はないわよ」
 霊夢は自分の両肩を抱いて自分の肌を隠す。
「仕方ないなぁ、様子を見に行くわよ」
「楽しそうだぜ」
 お祓い棒を出し、魔理沙とともに飛び上がろうとした霊夢の腕をレミリアがつかむ。
「霊夢はいっちゃダメ。あなたがいったらわたしの食事はどうするのよ」
「だから、あんたの食料になる気はないって……」
 レミリアは縋るような目で霊夢を見ている。
「神社を、わたしみたいな悪魔に任せて留守にする気?」
―置いていかれるのが寂しいのね……。
「霊夢、ここはわたし一人で十分だぜ」
 霊夢は魔理沙とレミリアを見比べてポリポリと頭を掻いた。
「しょうがないわね」
 霊夢は石畳に再び降り立った。
「わぁい。霊夢、好き~」
 降りてきた霊夢に抱きつくレミリア。
「じゃあ、行ってくるぜ」
 箒に跨がり、改めて飛び上がる魔理沙。
「魔理沙、気をつけなさいよ」
 霊夢の視線に魔理沙は微笑み返す。
「ああ、わかってるぜ」
 二人の様子を見て、レミリアは頬を膨らませて霊夢により深く抱きついた。
 紅魔館の方に向かった魔理沙の姿を見えなくなるまで見つめる霊夢。
「心配しなくても大丈夫よ。魔理沙一人で十分、なんでしょ?」
 レミリアの意味ありげに微笑むのに対して、霊夢は不安げな表情。
「そうだとは、思うんだけど」
 妙な胸騒ぎがしていた。
「ああ、そうか、あいつのこと忘れてたわ。きっと、外に出ようとしてパチュリーが止めるために雨を降らせたのね」
 レミリアは右手をほほに添えて、首をかしげる。
「あいつ?! 紅魔館にまだ誰か隠れた住人がいたの?」
「困るわー、わたしも、あいつも、雨は動けないわ……」
 霊夢はレミリアの躰を突き放し、その服の襟を強く掴んだ。
「ちゃんと答えて。場合によっては今からでも魔理沙を追いかけないと」
「心配性ねえ……。あいつはわたしの不肖の妹よ。力こそ強いけど、力も感情も制御ままならない未熟者だし、あなたの言うとおり、魔理沙一人で大丈夫よ」
―まあ、正直なところ魔理沙一人じゃ荷が重いと思うけど。
「さあ、家に帰れなくなった哀れな客人をもてなすのよ、霊夢」
 霊夢は大きくため息をついた。


紅色の境 ~ Scarlet Land

 霧雨魔理沙は全速力で紅魔館に向かって箒を飛ばす。
 〝紅霧異変〟では、主犯のレミリアは霊夢によって倒されて異変解決の手柄は霊夢のものとなってしまった。
 今回の件だけでも魔理沙だけで解決して、少しでもポイントを稼がなければならない。
 これまでも、異変や事件はいくつか起こって来たし、その解決に霊夢や魔理沙は関わってきた。
 そして今回の〝紅霧異変〟は、霊夢が考案した〝命名決闘法〟を正式に用いて行われた初めての異変となった。
 今後も、これをプロトタイプとして異変が起こされて解決する流れが起こるだろうし、異変を起こしたりそれを解決することに対するハードルも下がっていくだろう。
 その時に、霊夢と遜色ない実績を上げておかなければ、魔理沙は霊夢のそばにいるだけのオマケか、あるいは下手をすればお荷物とすら思われてしまうかもしれない。
 そんなことに魔理沙は耐えられないのだ。
 遠目に霧に覆われた小さな湖が見えてくる。
 レミリアが主人を務める紅魔館は、博麗神社と同じく妖怪の山の麓にある、霧の湖の畔にある館である。
 その方向から、魔理沙と逆走してくる一つの人影があった。
 その人影は魔理沙の存在に気づいて魔理沙と一定の距離をとって二人は空中に対峙する。
 ボブにカットした銀髪の両側を三つ編みに結って緑のリボンで留めホワイトブリムを被り、胸元にも緑色のリボンの付いた青い洋服の上に、肩や襟にレースのついた白いエプロンをつけた青と白のメイドルックの少女。
 彼女の名は十六夜咲夜。紅魔館のメイド長であり、館に住む唯一の人間である。
「誰かと思えば魔理沙じゃない」
「咲夜か。そんなに急いで、当主様のお迎えか?」
 魔理沙は視線を咲夜の持った雨傘に向ける。
「まあ……ね。あなたこそ、ウチで本を物色していたと思ったら博麗神社に向かって、今度はまたまたウチに戻ろうとしてるの? ずいぶん忙しないわね」
「どうやら紅魔館で面白いことが起きてるみたいなんでね」
 咲夜の表情が強張り、魔理沙を小さく睨み付ける。
「ええ、でも今回は紅魔館内部の問題ですからね。自分たちで対処して、外には迷惑はかけませんのでひとまず放っておいてくださるかしら。あの雨も、この間の霧と違ってこれ以上広がらず紅魔館周辺のみに留めますので」
「つれないことを言うなよ。わたしとお前の仲だろ?」
 魔理沙が咲夜に向けてウインクする。
 〝紅霧異変〟以降、紅魔館にたびたび忍び込むようになった魔理沙に対して咲夜は密かに彼女を匿ったりもてなしたりしており、レミリアも気づいていながら見て見ぬふりをしていた。
「ずいぶん懐いてくれたみたいで複雑だけど……。ウチの問題に介入してくると言うならば容赦はしないわよ?」
 咲夜が微笑みながらその手にナイフの束を取り出した。
「そう言えば……知ってると思うが、そちらの当主様は異変以降、霊夢にずいぶんとご執心でな~」
 魔理沙が白々しく視線を上に向けて思い出すそぶり。
「わたしが博麗神社に行ったときも、霊夢を押し倒したりとずいぶん大胆に迫っていてな。わたしがお邪魔虫として現れてからは中断していたけど、今はまた二人きりだから今頃どうなっているかな~」
「くっ……」
 咲夜が苦々しい表情で出したナイフを懐にしまう。
 彼女が主人であるレミリアに、従者として以上の感情を抱いているのは魔理沙もよく知っていた。
「いいこと?! 余計な騒ぎを起こしたら、出禁にして見かけ次第つまみ出しますからね?」
 咲夜はそう言うやいなや全速力で再び博麗神社に向かう。
「まあ、せいぜい気をつけるぜ~」
 すれ違いざま、魔理沙は適当に答えた。
―お嬢様、早まらないでください~。
 遠くから咲夜の声がこだまする。
 魔理沙も、再び紅魔館へ向かって急いで箒を飛ばす。
 咲夜が博麗神社に向かったということは時間的猶予はそこまでない。
 そして、紅魔館周辺に雨を降らせつつ咲夜が雨傘を持って迎えに行ったということは、紅魔館から出してはいけないような、当主の手が必要になるレベルの魔理沙が知らない〝何か〟がまだ紅魔館にいるということだ。
 魔理沙の予感が確信に変わる。
 霧に覆われた湖に近づくにつれて、見えてくるその畔にある紅い洋館。
―霧の湖
 幻想郷を見下ろす妖怪の山の麓にあるその湖は、昼になると霧に深く包まれそれほど大きくないにもかかわらず見通しがつかなくなる。
 その湖の畔―霧の奥に紅色を基調とした、周囲の景色からひどく浮いた洋館が建っていた。
 それが紅魔館と呼ばれる、吸血鬼を主人とする館である。その館は太陽が苦手な主人のために、極力窓を減らされ、日光が入らないように設計されている。
 つい先日、幻想郷全土を覆わんとする紅い霧を発生させる異変を起こしたその館は、今はその周辺にのみ雨を降らせていた。
「遠目に見てもわかったが、土砂降りだなあ、こりゃ」
 とんがり帽を目深にかぶり、豪雨の中を一気に突き抜ける魔理沙。
 そこで、いつも通り妖精メイドたちの妨害に遭う。
 門を守るのは、白いメイド服で金髪に黄色いリボンのついたナイトキャップを被った妖精メイドたち。
 ヘッドドレスを付けた多くの妖精メイドたちと違い、彼女たちは咲夜の選抜した精鋭の妖精メイドたちである。
 その奥で彼女たちを指揮しているのは、魔理沙の知る紅魔館の門番―紅美鈴ではなかった。
 そこにいたのは、赤いメイド服で赤髪、そして周囲の妖精メイドと違い赤いリボンのついたナイトキャップを被った妖精メイド。
 魔理沙が他の精鋭たちを次々と撃破しても、彼女は門の前で魔理沙に最後まで立ちはだかる。
「こいつが美鈴の代役って訳か……」
 魔理沙の弾幕をかわし、受けても耐え弾幕を放ち続ける。
 いよいよ、門の前にいるのはその赤髪の妖精メイドと魔理沙だけになる。
「大妖精ってやつか……小悪魔と同等かそれ以上じゃないか?」
 大妖精とは、妖精の中でも特に力のある個体を指し、霧の湖を根城にする氷精チルノも大妖精に分類される。
 弾幕を集中させ、ようやくその大妖精を撃破。 
 しかし、妖精は自然現象の具現なので、人間や妖怪とは違いしばらくすればまた発生する。
 俗に〝一回休み〟と言われる状態になるだけである。
「手こずらせやがって……」
 ようやく門を抜け、館のエントランスホールに入った途端に禍々しい魔力の波動に身震いする魔理沙。
「どこに隠れてたんだ、こんなヤツ……」
 魔理沙の肌感覚によれば、魔力の大きさだけならばレミリアと同等かそれ以上に感じられた。
「隠してたとしたら、パチュリーだな」
 その魔力が感じられる方向が地下だと感じた魔理沙はそう呟いた。
 魔力の波動に導かれるように、紅魔館地下図書館に向かって飛び始める魔理沙。
 先日来たばかりの道であり、迷うはずもない。
 階段を降りきるなり、眼前には高い書架の立ち並ぶ。
 魔力を手繰ってさらに飛び続けると、同じ方向に向かう一つの人影に追いついた。
「よう、美鈴じゃないか。門を留守にしてこんなところでどうした?」
「げ?! 魔理沙じゃない。なんでこんな時に」
 腰まで届く紅い髪を部分的に側頭部からお下げに垂らしたリボンで留め、髪の上には〝龍〟と書かれた星形のエンブレムのついた緑の帽子を被り、スリットの付いた淡い緑色の大陸風の衣装に身を包みんだ背の高い女性。
 彼女の名は紅美鈴。紅魔館の門番である。
 振り返って魔理沙と改めて対峙するも、背後から感じる魔力を気にかける美鈴。
「申し訳ないんだけど、今はあなたに構っている余裕がないのよ……虹符『彩虹の風鈴』っ」
 美鈴は虹を模した七色の弾幕を回転しながら雨のようにバラ撒き始める。
「咲夜だけじゃなくお前までそんな連れないことを言うなよ……グラウンドスターダストっ」
 魔理沙はそう言いつつ地面に魔法瓶をバラ撒いて、その爆炎で弾幕を相殺していく。
「なっ……咲夜さんと会ったんですか?!」
「ああ、今のお前と同じで別のことに気をとられて慌ててたな。そういうヤツほど邪魔したくなるのが、わたしの性でね……ウィッチレイラインっ」
 箒に跨がって美鈴の方に急加速してまっすぐ突進する魔理沙。
 美鈴はさらに上空に飛び上がってそれを躱して魔理沙を睨み付ける。
「咲夜さんに何をしたの、魔理沙っ……彩符『極彩颱風』」
 美鈴がさらに濃い虹色の弾幕を展開し始める。
「ミアズマスウィープっ」
 美鈴が弾幕を展開しきる前に、魔理沙はそのまま上方へと方向転換してさらに突進。そのまま美鈴の懐へと飛び込んだ。
「ぐっ……」
 魔理沙の加速と体重の乗った、箒の柄が美鈴の腹部に直撃する。
 美鈴は高い位置の書架に激突し、書架に入っていた何冊かの本とともに大きな音を立てて床に落下した。
「え、ちょっと美鈴?!」
 慌てて美鈴のそばに降り立つ魔理沙。
「おい、どうしたんだよたった一撃で。打たれ強さがお前の売りじゃなかったのか」
 上体を起こして揺するが、美鈴はぐったりして目を覚まさない。
「お~い、美鈴?」
 その頬を突いてみたり、改めて上体を揺すってみる。
「う……ん」
 悩ましい声を上げたので、目を覚ますかと思われたが、やはりその躰には力が入らず、瞼が開くことはなかった。
「打ち所が悪かったか……」
 改めて美鈴を仰向けに寝かそうとすると、改めて異様なまでに存在感を放つその胸に視線がいく。
 さきほど、躰を揺すったときもそうだったし戦っているときもそうだが、よく揺れていつも視線がそちらに吸われてしょうがないのだ。
「めいり~ん……」
 小さな声でそう言いつつ、魔理沙は服ごしに乳房を指で突いてみる。
 その膨らみは、しっかりとした弾力で指を押し返してくる。
―ゴクリ
 改めてその存在感に唾を飲む魔理沙。
 美鈴が目を覚ます気配は未だにない。
「お~い、大丈夫かめいり~ん」
 小声でそう言いつつ、両掌で覆うように触れてみる。
 魔理沙は吸い寄せられるように指を開いて、掌全体でその弾力を味わべく服越しに乳房を揉み始めた。
 これが、自分にはない女らしい躰の感触というものなのか。
 自分の師匠以外でここまでのものに魔理沙は触れたことがなかった。


暗闇の館 ~ Save the mind

「魔理沙さん? なに……やってるんですか」
 書架の陰からさらにもう一つの人影がその様子を覗いていた。 
 赤い長髪で頭と背中に悪魔然とした羽、白いシャツに黒色のベストとネクタイ、同色のタイトスカート。彼女の職業に見合った司書然とした格好でその起伏に富んだ悩ましい肢体を包み込んでいた。
 彼女は小悪魔。この紅魔館地下図書館の司書である。
 彼女は真名をこの図書館の主人の使い魔となったときに捧げているので、名を持っていなかった。
「いや、これは……心臓マッサージだぜ! 美鈴が目を覚まさないからこうやってだな」
「だって、心臓マッサージなら気道確保して両掌を重ねてもっと力を込めて押さないといけないわけで。そもそも美鈴さん呼吸あるみたいですし、そもそもその手つきが明らかに美鈴さんのおっぱいの感触楽しんでるじゃないですか」
 小悪魔が恐る恐る指さして指摘する。
 なお、魔理沙の掌は未だに現在進行形で美鈴の乳房を揉みしだいていた。
「いや、とにかく誤解だって」
 魔理沙はようやく自分の姿に気づいて美鈴から離れて立ち上がる。
 かといってあまりにも言い訳が厳しい状況である。
 美鈴の躰にイタズラするのが目的で、彼女を襲って昏倒させたと言われても仕方のない状況だった。
「とりあえず、落ち着いて話せばわかるから」
 そう言って宥めるように小悪魔に近づこうとする魔理沙。
「いやっ……近寄らないでください。次はわたしを狙ってるんですね?!」
 両腕で自分の乳房を隠して魔理沙から距離をとる小悪魔。
 思わず、小悪魔の胸に視線を向ける魔理沙。
 小悪魔も美鈴にそう劣らない大きな胸の持ち主であり、両腕で抱えているせいでむしろそれが強調されている。
「でも、わたしが魔理沙さんに敵うはずないし……パチュリー様にもまだ抱いてもらってないのに、わたしこのまま手籠めにされちゃうんですねっ」
 魔理沙の視線に気づいて涙目で首を振りながら一人でしゃべり続ける小悪魔。
「まさか紅魔館の大きい順に揉みしだく気ですか?! ということは次に狙われるのはパチュリー様……」
「騒がしいと思ってきてみれば……」
 そこに現れるもう一人の少女。
 彼女は長い紫髪の先をリボンでまとめ、その上から三日月の飾りのついたナイトキャップを被っていた。
 紫と薄紫の縦じまが入った寝間着の上から薄紫の上着を羽織り、服のいたるところに青と赤のリボンが施されている。
 彼女は本のそばにいるものこそ自分と考えており、その出で立ちは寝て体を休める時間以外は全ての時間を読書に費やしたい、着替える時間すら惜しいという彼女の生活を物語っていた。
 彼女の名はパチュリー=ノーレッジ。この紅魔館地下図書館の主人であり、紅魔館の客分の魔女である。
「パチュリー様っ……よかった。わたしまだ何もされてませんよ」
 ようやく現れた主人に抱きつく小悪魔。
「何の話をしてるのよ……」
 上着を脱ぎ去り、パチュリーの服にも手をかけようとする小悪魔。
「そうですよ、今すぐわたしを抱いてください。そうすれば一石二鳥で……あいたっ」
 パチュリーは手にあった辞書の角で小悪魔の頭を叩いた。
「これと、そこで寝てる美鈴を連れて下がりなさい。魔理沙の相手はわたしがするから」
 涙目でパチュリーから辞書を受け取る小悪魔。
「どうか、魔理沙さんに手籠めにされないようお気をつけて……」
 盛大にため息をつくパチュリー。
「何があったのか知らないけど、どうしてもそういうことがしたいなら物陰で美鈴にでもしてなさい。ちょうど気絶してるんだし」
「そうじゃなくて、魔理沙さんが」
「もういいから下がりなさい……」
 美鈴を担いで、名残惜しそうに書架の向こうに下がっていく小悪魔。
 それを見届けてから改めてパチュリーは魔理沙の方に向き直る。
「また来たと思ったら、面倒なことをしてくれたわね……」
「誤解だぜ、美鈴のがあんまり大きかったから魔が差しただけで」
「これで、レミィが戻る前に妹様が暴れ出したら、わたしが相手をしないといけなくなったじゃないの!」
 魔理沙がはっとなる。
「そうだった、その妹様の件だぜ」
「あら、本当に小悪魔の言うとおりの目的だったの? それなら、今は忙しいから小悪魔を追いかけて美鈴のおっぱいを適当に揉んだら帰ってくれないかしら。なんならついでに小悪魔のも揉んでいっていいわよ」
 魔理沙が小悪魔の去った方を視線で追って息を呑む。
「そ……それはそれで魅力的なご提案だが、今回来たのは別の目的だぜ」
 自分に言い聞かせるように目を閉じて話す魔理沙。
「なによ。わたしのを揉みたいというなら、さすがに抵抗させていただきますけど?」
 自分の胸を両腕で覆うように隠すパチュリー。パチュリーが両腕で隠した自分と大差ない平原を見て、やれやれといった表情で魔理沙は首を振る。
「おっぱいの話から離れろよ。妹様の件だって言ってるだろ。その妹様の相手をわたしがしてやるって言ってるんだ」
 訝しむように魔理沙を見るパチュリー。
「妹様の相手を……あなたが? 荷が重いと思うけれど」
「どいつもこいつも人をなめやがって。なんなら試してみるか?」
 魔理沙が懐からミニ八卦路を取り出す。
「そう言えば、前に来ていただいたときは喘息の発作が出て、最後までお相手できなかったんだったわね」
 パチュリーも魔方陣を展開し、魔導書を召喚する。
 〝紅霧異変〟の異変解決のために、魔理沙が霊夢とともに紅魔館に乗り込んできたときも魔理沙とパチュリーは戦ったが、その時はパチュリーが喘息の発作を起こしたせいで勝負は中断―痛み分けに終わっていた。
「今日は、喘息も調子が良いから、とっておきの魔法を見せてあげるわ!」
 召喚した魔導書を開き、詠唱を始めるパチュリー。
「月符『サイレントセレナ』!」
 詠唱を終えると同時にパチュリーは背後に無数の魔方陣を展開、そこから青い弾幕を雨のように発射する。それと同時に、パチュリー自身も水色の米粒弾を放射状に放ち、その範囲を徐々に狭めて回避範囲を狭めてくる。
「月符だと?!」
 前に魔理沙がパチュリーと戦った時に用いたのは、木火土金水の東洋における五行の属性の符とその相性のよい属性同士を組み合わせた符だった。
 だが、〝月〟という属性は五行の中には存在しない。
「これは……七曜か」
 弾幕を回避しながら魔理沙はそう結論づける。
 最初は目新しさに驚いたものの、魔理沙からすれば慣れてしまえば回避するのは難しくない。
「うまく避けるわね……ご明察よ」
 パチュリーが新たに呪文の詠唱を始める。
「日符『ロイヤルフレア』!」
 パチュリーが両手を掲げると、そこに現れたのは太陽を模した巨大な火球。
 その火球からさらに太陽のフレアを模した細かい火炎弾が、幾筋か曲線状に広がったり収束したりしながら飛んでくる。
 弾幕の発生源である太陽火球がパチュリーと共に動くため、それに伴って弾幕も不規則になっている。
「くっ……やはり次は日符か」
 弾幕を見極めつつ箒をあちらこちらへと向ける魔理沙。
 魔理沙をもってしても、弾幕のパターンが読みづらく避けるのに苦戦を強いられていた。
 詠唱を開始し、魔理沙も自分の周囲に魔方陣を展開、魔方陣の中に魔力が収束されていく。
「また、人から盗んだ魔法を……」
 苦虫を噛み潰したように呟くパチュリー。
 しかし、魔方陣はパチュリーの予想とは違い、魔理沙から遠く離れてパチュリーを遠巻きに囲むように配置される。
「これは、『ノンディレクショナルレーザー』とは違う?!」
「恋風『スターライトタイフーン』!」
 遠巻きに周囲を囲むように配置された魔方陣からは大型の星形弾幕が発射され、パチュリーの火炎弾を相殺していく。
「さらに改良させてもらったぜ、パチュリー」
 魔理沙がパチュリーから盗んだノンディレクショナルレーザーが自らを中心に発する無軌道レーザーだったのに対して、スターライトタイフーンは外周を大きく囲い、内側に大型弾幕を放つ、星の渦―銀河系をイメージしたスペルカードだった。
「この泥棒ネズミめ……」
 忌々しげに呟くパチュリー。
 そう言う間にもパチュリーの弾幕は次々と相殺されていく。
「まさか、これを使うことになるとはね……火水木金土符『賢者の石』!」
 パチュリーの周囲に、五行の属性にそれぞれ対応した五つの結晶が召喚される。
「賢者の石だと?! まさか……」
 召喚された石から発生する魔力に身震いする魔理沙。
「あなたも魔法使いを名乗るだけあって、これの怖ろしさがわかったみたいね」
 パチュリーがニヤリと笑うと、五色の結晶が彼女の周りを周回しながらそれぞれの属性に合わせた弾幕を、大量に発射し始める。
「くっ……」
 魔理沙も器用に躱すものの、賢者の石が際限なく大量の弾幕を発射し続けるため、周囲は弾幕で埋め尽くされていく。
 魔理沙は、どうにか残っていた弾幕の隙間に停止し、ミニ八卦路をパチュリーの方に向けてそこに急速に魔力を収束し始める。
「マスタースパーク……まあ、そう来るわよね」
 パチュリーは余裕の表情。
 五つの賢者の石はパチュリーを隠すように集まり、魔理沙に向けて弾幕を集中させる。
 余裕のない表情でそれに対応するかのようにミニ八卦路から魔砲を放つ魔理沙。
 魔理沙の魔砲と賢者の石の五色の弾幕が、周囲を覆い尽くすような激しい光と音でぶつかり合う。
 最初は互角にも見えたが、無尽蔵に発せられる賢者の石の弾幕が魔理沙の魔砲を押し返し始める。
「ふふっ、火力しか能のない魔法使いが火力で負けるとは……どんな気分かしら?」
 パチュリーが微笑んでそう言ったとき、斜めの別の角度からもう一本の魔砲が賢者の石に向かって降り注いだ。
 一本目の魔砲に対処するために、パチュリーの前に密集していた五つの賢者の石。
 弾幕を発していたのと別の角度から撃たれた魔砲がその五つすべてを射程に捉える。
「な、なに?」
 パチュリーが二本目の魔砲のもとに目をやるとそこにいるのは霧雨魔理沙。
 しかし、一本目の魔砲もかわらず照射され続けている。
「どういうこと?!」
 パチュリーが動揺しているその間にも、弾幕を発していない無防備な別角度からの魔砲の直撃を受け続ける賢者の石。
 しかし、賢者の石も一本目の魔砲を押し返すのに全力を注いでおり、二本目に対応する余裕はない。半分を二本目の魔砲の対処に当てても、両方の魔砲に押し返されることになるだけだろう。
 賢者の石に小さなヒビが入り始める。
「ちょっと、そんな……」
 パチュリー自身も出力的に賢者の石の弾幕を維持するので余力がない。
 膨大な魔力容量を持つパチュリーも、一度に放出できる魔力は限られていた。
 そうこうする間にも賢者の石に入ったヒビはどんどん大きくなっていく。
「まさか、わたしの賢者の石が……」
 パチュリーが目を凝らして一本目の魔砲の方を見ると、弾幕と魔砲がぶつかり合う向こうに、ミニ八卦路だけが宙に浮いて魔砲を発しているのが確認できた。
「こんな、つまらない手でわたしの研究成果が……」
「これが、恋心『ダブルスパーク』だぜ!」
 亀裂が広がり、とうとう五つの賢者の石が砕け散る。
「魔理沙ぁぁぁ!」
 パチュリー自身は交差する魔砲の後ろに身を躱していたが、砕け散った賢者の石の破片に打ち据えられて墜落した。
 床に落ちたパチュリーはすぐさま身を起こし、周囲に落ちた賢者の石の欠片に歩み寄る。
「これだけ大きな結晶を造るのに、それだけの手間がかかると……」
 ミニ八卦路を回収してパチュリーの前に降り立つ魔理沙。
「これでも、わたしでは不足か?」
 パチュリーはそれを強く睨み付けた。


東方紅魔狂 ~ Sister of Scarlet

「凄いわね、喘息の発作を起こしていない、万全のパチュリーに勝っちゃうなんて」
 そこに、二人とは別の幼い声が響き渡った。
 降り立ったのは一人の幼女。
 サイドテールにまとめた金髪の上から紅いリボンの付いたナイトキャップを被り、紅を基調とした半袖の洋服にミニスカートを穿き、胸元には黄色いリボンの幼女。
 またその背中からは、一対の枝に七色の結晶がぶら下った特殊な翼が生えている。
 彼女の名は、フランドール=スカーレット。
 この紅魔館の当主―レミリア=スカーレットの妹である。
「わたしをお呼びかしら?」
「誰だ……お前は」
 その容姿から、おそらく探しているレミリアの妹であることは魔理沙にも見当がついていた。
「人の家に押し入っておいて誰だとは……そもそも人に名前を聞くときは、まずは自分から名乗るのが礼儀ではなくて?」
「ああ、わたし? そうだな、博麗霊夢、巫女だぜ」
 ジト目で魔理沙を見るフランドール。
「フランドールよ、魔理沙さん。で、あなたはもしかして人間? 人間って飲み物の形でしか見たことないのだけれど」
「人間を見るのは初めてか? ほれほれ、思う存分見るが良い。しかし、人間を見たことがないとは、外を知らないにもほどがあるな」
「わたしはずっとこの家の地下にいたわ。四九五年くらいね」
 魔理沙は目の前にいる幼女を改めてみる。
 やはり、レミリアと同等かそれ以上の魔力を発している。
 しかし、容姿から察する見た目の年齢は変わらないはずなのに、なぜか彼女からは幼い印象を受けた。
「いつもお姉様とやり取りしているの、聞いていたわ。わたしも人間というものが見たくなって、外に出ようとしたの」
「それであの雨って訳か……」
 魔理沙の視線に対してパチュリーは目を反らす。
 フランドールの羽からぶら下がった七色の結晶には見覚えがある。
 つい先ほど見たパチュリーの研究の成果―賢者の石。
 おそらく、彼女の力の制御のために使われているのだろう。
 それでも、外に出すのが危険なほどの力を目の前の幼女は秘めているというのか。
「それで魔理沙さん、今日はあなたが一緒に遊んでくれるのかしら?」
 魔理沙に向けて敵意を向けるフランドール。
 その小さな体に充填されていく魔力の波動が魔理沙の肌に突き刺さる。
「いくら出す?」
「コインいっこ」
 ミニ八卦路を構える魔理沙。
「一個じゃ、人命も買えないぜ」
「あなたが、コンティニュー出来ないのさ!」
 フランドールが高く飛び上がった。
「パチュリー、障壁を張る力ぐらいは残ってるな?」
 魔理沙がそばにいたパチュリーに話しかける。
「当然でしょ。それより、本当に妹様の相手をするつもりなの?!」
 魔理沙が小さく微笑みかける。
「まあ、安心して見てるがいいぜ」
 そう言うと、魔理沙はすぐさまフランドールを追って箒で飛び立った。
「な、なんなのよ……あいつは」
 胸に手を当てて魔理沙を見送るパチュリー。
 魔理沙が紅魔館地下図書館の書架の上層まで飛び上がり、フランドールと同じ高さまで追いつく。
「待たせたな、妹君」
 フランドールは手に持っていた、先端にトランプのスペードが付き柄がグネグネ曲がった黒い剣を構えた。
「いっくよー、禁忌『レーヴァテイン』!」
 フランドールの手に持った剣が燃え上がり、その剣の炎はどんどん伸び上がっていく。
 そして、もとの長さより遙かに伸び上がったその剣をフランドールは横に薙ぎ払う。
「なっ……」
 長い剣を薙ぎ払うだけならば避けるのは難しくない。
 しかし、その炎の剣は薙ぎ払った後に同じく炎の弾幕を大量にまき散らしていく。
 レーヴァテインは北欧神話においてロキが作ったとされる炎の剣である。
 フランドールが炎の剣を振るうたびに炎の弾幕で周囲が埋め尽くされていく。
「魔空『アステロイドベルト』!」
 たまらず魔理沙はミニ八卦路を構えて、赤青の大型星形弾幕に黄緑の小型星形弾幕を織り交ぜた弾幕群を放つ。
 天之川を模した魔符「ミルキーウェイ」をさらに強化した、小惑星群を模した星弾幕だった。
 魔理沙の弾幕によってフランドールの炎の弾幕が相殺されていく。
「へぇ~」
 しばらく、炎の剣を振り回していたが、フランドールは飽きたのかそれをポイと投げ捨てた。
「なら、こんなのはどうかしら」
 フランドールの背後から、もう三人のフランドールが現れる。
「「「「禁忌『フォーオブアカインド』!」」」」
 四人のフランドールがそれぞれ動き回り、赤・緑・青・黄の四種類の属性弾幕を放ってくる。
 パチュリーが放つ属性魔法が木火土金水の東洋の五行だったのに対して、フランドールが放つ属性魔法は火風水土の西洋の四大元素。
 ひとまず、魔理沙もアステロイドベルトを解除してフランドールの弾幕を回避しながら分析する。
 おそらく、フランドールに魔法の使い方を教えたのはパチュリー。
 フランドールに魔力を制御する術を学ばせるために、彼女にも属性魔法を仕込んだのだろう。
 分体を放ちそれぞれに違う属性の魔法を使わせるなど、フランドールも十二分に器用に魔法を扱えている。
「天儀『オーレリーズソーラーシステム』!」
 オーレリーズサンが太陽の名を冠し赤青緑黄の四つのビットが魔理沙の周囲を回るのに対して、太陽系の名を冠し赤青緑黄桃橙の六つのビットが回転するスペルカード。
 六つのビットから発する弾幕を各方向に振り分けながら、風水土の弾幕を放つフランドールをいなし、魔理沙は火の弾幕を放つフランドールに迫っていく。
 パチュリーは膨大な魔力容量を持つかわりに、一度に放出できる出力が限られていた。
 だから、魔力容量が少ないかわりに大出力魔法を持つ魔理沙は、短期決戦ならば押し切ることもできた。
 だが、このフランドールは膨大な魔力容量と大出力魔法を兼ね備えている。
 長期戦はもちろん、放出魔法のぶつけ合いの短期決戦でも魔理沙に勝ち目はない。
 ならば、相手の魔法を躱しつつ、相手の本体を最大火力で撃ち抜くのみ。
「ずいぶん、あっさりと本体を見抜くのね。魔力感知が得意なのかしら」
 魔理沙の弾幕を躱しているうちに、残りの三人のフランドールが本体を囲むように集まってくる。
「そういえば、パチュリー相手に面白い魔法を使っていたわね」
 四人のフランドールが弾幕を放つのをやめて、両掌を前に向けてそこに魔力を充填させていく。
「四人だからダブルじゃなくて……『クワッドスパーク』!」
 四人のフランドールが魔理沙を真似てそれぞれ四色の魔砲を放つ。
 四本の魔砲は魔理沙の周囲を回っていた六つのうち四つをそれぞれ射貫き、四つのビットが炸裂する。
「くっ……」
 炸裂したビットの放つ爆風で視界が封じられる。
 残った二つのビットと共にその場を離れ、周囲を見渡すもフランドールは見当たらない。
 しかし、どこかに逃げたわけではない。
 すぐ近くにフランドールの魔力を未だに感じる。
「増えたと思ったら、今度はいなくなるのか……」
「秘弾『そして誰もいなくなるか?』」
 誰もいない空間からその声だけが響いてきた。
 姿を消す魔法というのは確かに存在する。
 風見幽香も姿を消すのを得意としており、その魔法で多くの魔法使いを隠れて観察してその魔法を盗んできた。
 青い大型弾が何もない空間から現れ、その軌道の後に尾を引くように小さな青い弾幕を残していく。
 それが、しばらく続いたあと、今度は四方から魔理沙を囲むように四色の弾幕が発せられる。
 回避をしながら魔理沙は考える。
 風見幽香のように、本体はそのままで姿を見えなくする魔法ならば、弾幕を放てばその所在はすぐにばれる。
 しかし、こうやって多方向から弾幕を放つということは、あらかじめ何らかの仕掛けを施しておくか、そうでなければ無数の分体に分かれているか。
 回避を続けながら魔理沙は周囲に目を凝らす。
 フランドールは普段はさらに地下深くに幽閉されていたはずで、パチュリーならともかく、フランドールに前者の仕込みをすることはおそらく難しい。
―ならば後者……。
 魔理沙は魔力感知を働かせながら周囲に目を凝らす。
 周囲は弾幕で埋め尽くされていき、いくつかの弾幕は二つのビットから放つ弾幕で相殺してながら躱し続ける。
 吸血鬼は無数の蝙蝠に分裂できると聞いたことがある。
 仮にそうだとしても、さきほどのフォーオブアカインドと同じく、どこかにすべてを統括する本体がいる。
 魔理沙は目を閉じて耳を研ぎ澄まし、魔力感知に集中する。
 二つのビットの一つが撃墜される。
「目を閉じちゃうなんて、どういうつもりかしら」
 どこからか声が響いてくる。
 その声の発生源も参考に魔力の大元を探る魔理沙。
 残ったビットは一つ。
 回避しながら、ビットからも弾幕を放つ。
 残った最後のビットを撃墜しようとそこに弾幕が集中される。
 魔理沙が目を見開く。
 最後のビットが撃墜されるのとほぼ同時、魔理沙がミニ八卦路をある一点に向けて構えた。
「ストリームレーザー!」
 ミニ八卦路から発せられたレーザーを、何かを追って横に薙いでいく。
 魔理沙が目を凝らすとその先にいたのは一匹の小さな蝙蝠。
 その蝙蝠は魔理沙のレーザーから逃れながら周囲の蝙蝠とくっついて徐々に大きな群体に膨らんでいく。
「ちょ、ちょっと……なんで?!」
 蝙蝠がくっつき合って、人間の形を形成していく。
 それが、元のフランドールの形をなしたとき。
「彗星『ブレイジングスター』!」
 魔理沙の箒の後ろにはミニ八卦路が仕掛けられ、そこから魔砲が火を噴いた。
 箒にしっかりとしがみつき魔理沙はその体ごと、姿を現したフランドールに突っ込んでいく。
 弾幕技でなく、突進技としての魔符「スターダストレヴァリエ」をさらに強化したスペルカード。
 星形弾幕だけでなく、マスタースパークまで推進力に加えた突進技だった。
「がっ」
 ようやく姿を現して体勢を整えるまもなく、フランドールはその体に箒の突進の直撃を受ける。
 堪えることもできず、そのまま書架に叩きつけられた。
 書架に収まっていた数冊の本と共に、床に墜落するフランドール。
 魔理沙はその前に降り立った。
「さー、満足したか?」
「弾幕ごっこでは、自分自身を一つの弾幕とすることもできるのね。嘘みたい、私が負けるなんて……」
 フランドールが体を起こし、魔理沙を見上げる。
「ああ、割と嘘かもな。今日は、わたしはもう帰るけど」
「ああ、満足したわ。でも、結局また一人になるのか」
 魔理沙が箒を肩にかけ、口の端をつり上げる。
「一人になったら首を吊るんだろ?」
「何でよ?」
「She went and hanged herself and then there were none.(一人が首を吊って、そして誰もいなくなった)」
 魔理沙が口ずさんだのに対して、フランドールが頬を膨らませる。
「私の予定では最後の一人はあなただったのよ?」
「さっきの攻撃で、おまえが消えたときだな」
「She died by the bulletand then there were none.(一人が弾幕を避けきれず、そして誰もいなくなった)」
 フランドールが口ずさみながら、埃を払って立ち上がった。
「当てが外れて悪かったな。あいにく、弾避けは得意なんでねぇ。大人しく本当の歌どおりにしとけよ」
「本当の歌って?」
「おいおい、知らんのか? She got marriedand then there were none.(一人が結婚して、そして誰もいなくなった)」
 その歌詞の内容を悟ったフランドールは、魔理沙を睨みながら歩み寄る。
「だ、誰とよ」
「神社の娘でも紹介するぜ」
「えっ……」
 フランドールは頬を染めて魔理沙の顔を見上げる。
 魔理沙はその視線を受けて思い出した。
 自分は、最初にこの幼女になんと名乗った。
―ああ、わたし? そうだな、博麗霊夢、巫女だぜ。
「わたし、フラン。フランドール=スカーレット。あなたの本当の名前、教えて……」
 フランドールが魔理沙に寄り添って、問いかける。
「霧雨魔理沙、普通の魔法使いだぜ」
 魔理沙はフランドールの視線を受け止めながら、そう答えた。
「魔理沙……また、わたしと遊んでくれる?」
 フランドールはそっと魔理沙に抱きついた。
「それは……この図書館の主人の答え次第だな」
 フランドールの頭に手を置きながら、魔理沙はパチュリーに視線を向ける。
 急に水を向けられてぎょっとなるパチュリー。
「しょ、しょうがないわね。そういうことなら今後もここに来てもいいわよ。た・だ・し、本は絶対に持って行かせないけどね!」
 パチュリーは頬を染めて視線を逸らした。
「お許しが出たみたいだから、また遊びに来ることにするぜ」
「わ~い、魔理沙魔理沙~」
 フランドールは微笑んで改めて魔理沙に深く抱きつく。
―なんなのよ、あいつは……。
 パチュリーは改めて魔理沙を見た。
 なんで、あんな雑で力任せの魔法で自分を倒し、フランドールまで手懐けてしまえるのだろう。
 そして、さっきから収まらないこの胸の高鳴りはなんなのだろう……。
 その原因をパチュリーが自覚するのはもう少ししてからだった。


同胞異種 ~ Dog and Monkey

―魔法の森
 幻想郷で最も湿度が高く、人間が足を踏み入れる事が少ない原生林。
 幻想郷で森といえばこの魔法の森のことを指す。
 人間の里からの道のりは比較的マシな部類だが、森の中は人間にとっては最悪の環境で、地面まで日光が殆ど届かず、暗くじめじめしており、茸が際限なく育つ。
 胞子が宙を舞い、普通の人間は息をするだけで体調を壊してしまう。
 近くに居るだけで魔法を掛けられた様な幻覚を見るような種も多い。
 また、この茸の幻覚が魔法使いの魔力を高めると言う事で、この森に住む魔法使いもいる。
 そもそも魔法の森と呼ばれるようになったのも、この幻覚作用をもつ茸が生える為である。
 霧雨魔理沙もその魔法の森に住まう魔法使いの一人である。
 あの〝紅霧異変〟から一年の時が流れ、いま幻想郷では誰が言い出す訳でもないのに、三日置きに博麗神社で宴会が開かれるという奇妙な異変が起きてきた。
 今回も、魔理沙は異変解決のために動き始めようとしていた。
「まずは近い所から潰していくか。こいつはあんまり関係なさそうだけどな」
 自宅である霧雨魔法店を出た魔理沙は、同じ森の中にある森の中にあるこぢんまりとした白い洋館の前に降り立った。
 このマーガトロイド邸も、この魔法の森の魔法使いの住む家の一つである。
―コンコンッ
「アリス、いるか~?」
 魔理沙がノックをしながら声をかけると、すぐさま扉が開かれた。
「あら、魔理沙じゃない。よく来てくれたわね」
 中から現れたのは、整えられた金髪を赤いヘアバンドで留め、青の洋服の肩に白いケープを羽織って、首と腰に赤いリボンを巻いたロングスカートの少女。
 彼女の名は、アリス=マーガトロイド。人間の魔理沙とは違い、種族としての魔法使いである。
 魔理沙とは〝紅霧異変〟より少し前に魔界で起きた異変で知り合い、それ以降は魔法の森に住み着いていた。
「さあ、入って。いまお茶を淹れるから」
 笑顔で家の中に魔理沙を迎え入れるアリス。
 魔理沙を居間の椅子に座らせると、ヤカンに火をかける。
―なぜだ? なんでこんなに歓迎してくれるんだ。
 魔理沙には違和感があった。
 〝紅霧異変〟の頃までアリスとは散々争ってきたし、数ヶ月前に起きた〝春雪異変〟でも異変解決の折に立ち塞がったアリスを撃退して異変解決に向かった。
「それで、今日はどうしたの?」
 後ろから、そっと魔理沙に寄り添うアリス。
 背中から柔らかい感触と、香水の良い香りが伝わってくる。
「そ、その……いま奇妙な異変が起きてるのは知ってるよな。三日置きに宴会が開かれるっていう」
「もちろんよ。それで、異変解決にいくのね。そうよね、異変解決は人間の仕事だものね」
 後ろからアリスが囁くたびに、耳に息がかかる。
「それで、アリスに聞きたいことがあって―」
「ところで、もうパチュリーのところには行ったのかしら」
 魔理沙はアリスの口からその名前が出ることに違和感を憶えたが、つい先日にアリスとパチュリーを引き合わせたことを思い出して得心した。
「いや、パチュリーのところには行ってないぜ」
「そう、真っ先にわたしのところに来てくれたのね……」
 アリスはより深く魔理沙に寄り添った。
 魔理沙の背中に、アリスの胸が深く押しつけられる。
「アリス……その、胸が当たって」
「嬉しい……」
 アリスは瞼を閉じ、感慨深そうに魔理沙を後ろから抱きすくめる。
「宴会が開かれるのと同時に、妖気が発生してるのには気付いてるよな」
「ええ、気付いてるわよ。その……魔理沙がどうしてもって言うなら手伝ってあげなくも―」
「その妖気に……心当たりはないか?」
 アリスの体にビクリと震える。
「ちょっと待って」
 その声色が変わった。
 魔理沙から離れて、ヤカンにかけていた火を消すアリス。
「やっぱり、外で話しましょうか」
 アリスは、マーガトロイド邸の前に出て一定の距離を取って魔理沙と改めて対峙する。
「ええと、アリス?」
 さっきまで過剰なスキンシップと、あまりの態度の落差に困惑する魔理沙。
「念のために確認しておくわ。魔理沙は、わたしを異変の犯人だと疑っている……そういうことでいいのよね?」
「犯人と疑っているというか、関わっているのではないかというか、何らかの手がかりを知っているのではないかと―」
 アリスは、人形操りの糸が通った指輪を指に嵌めていく。
「そういうことね。魔理沙の考えは、よ~くわかったわ」
 アリスは笑顔。しかし、先ほどまでとはずいぶん温度差のある笑顔だった。
「だったら力尽くで聞き出してみてはどうかしら? ずっとそうしてきたでしょ、わたしたち」
 アリスの周囲に召還される何体かの人形達。
「魔操『リターンイナニメトネス』」
 その人形達が魔理沙めがけて突進してくる。
 魔理沙がギリギリのところで躱すと、触れてもいないのにその一体が炸裂した。
「なっ」
 魔理沙が箒で飛んで躱すが、地面や障害物にぶつかるように回避しても炸裂しないし、逆にどこにもぶつかっていなくても魔理沙の近くで勝手に炸裂する個体もいる。
 魔符「アーティフルサクリファイス」が仕込んだ火薬で、相手に接触すると炸裂する爆弾人形達だったのに対して、この人形達はアリスの魔力で任意のタイミングで炸裂する自爆人形だった。
 そうなると、魔理沙は距離をとって逃げ続けるしかなくなる。
「マジックナパーム!」
 魔理沙がミニ八卦炉から発した魔法弾頭で集まった人形を何体か焼き払った。
 しかし、次から次へと周囲から沸いて増える人形達。
 その多くは、魔方陣を介さずに物陰や土中から現れる。
―人形の森
 マーガトロイド邸の周辺は外敵を迎え撃つためにアリスが作った結界となっていた。
 高火力の魔砲で一気に薙ぎ払おうにも、それを撃つための詠唱をする暇がない。
―これは長引かせるのはまずいぜ。
 魔理沙がそう思ってアリス本体を見ると、そこでは新たな人形が召還されようとしていた。
 アリスが魔方陣を介して召還したのは、初めて魔界でアリスと出会ったときから抱えていた赤い人形。
「この子でトドメよ、咒詛『首吊り蓬莱人形』」
 その人形の前面に魔力が収束していく。
―まずい。これ以上弾幕を増やされたら。
 魔理沙も回避しながら可能な限りミニ八卦炉に魔力を込めていく。
 アリスの召還した赤い人形の前面から、赤いレーザーが照射される。
 射線上の人形達を誘爆させながら魔理沙を狙い、魔理沙が避けても照射させたまま魔理沙を追って人形ごと薙ぎ払う。
「ふふふ、わたしも強くなったでしょう、魔理沙」
 笑いながらアリスは魔理沙を追ってレーザーを薙ぎ払っていく。
 魔理沙はレーザを躱しながら徐々にアリスとの距離を詰めていったが、それでも無数の自爆人形とレーザーで一定以上は近づけなかった。
「ナロースパーク!」
 ミニ八卦炉から極細の魔砲が発射される。
「この短時間で……魔砲?!」
 自爆人形達を貫通して魔砲がアリスに突き刺さった。
「な……んで」
 早撃ちに特化した、最小限の魔力で放つ魔砲。レーザーではなく魔砲と呼ぶだけあって威力も相応にあるものだった。
 頭部に魔砲を受けたアリスが意識を失うと同時に、周囲にいた大量の人形達もボトボトと地に落ちる。
 素早く箒ですぐ傍まで寄って、倒れ込もうとしたアリスの体をそっと支える魔理沙。
―ふにょん
「うっ」
 掌に感じた柔らかな感触に気付いて、魔理沙は別の場所を持ってアリスを支え直した。
 魔理沙は、アリス本人と彼女が特に大切にしているであろう―赤い人形だけを抱えてマーガトロイド邸に運び込む。
 赤い人形を机に置き、アリスの体を居間のソファにそっと横たえて、魔理沙は傍の椅子に座った。
「アリス……」
 アリスの顔を見ながら魔理沙は考える。
 さっきの言動から考えるに、どうしてそう考えるに至ったのかはわからないが、アリスは魔理沙の異変解決の手伝いを申し出ようとしてくれていたのだ。
 それが、自分が犯人だと疑われていると知って腹を立てたのだろう。
―悪いことをしてしまったな。
 初めて会ったとき、彼女のグリモワールを取り上げたのを始め、彼女には嫌われることしかしてなかったはずだ。
 それなのに、アリスはどうしてわたしを手伝おうと思ったりしたのだろう。
 そう考えて周囲を見ると、棚の上に置いてある黒い人形が目についた。
 その人形は、とんがり帽子をかぶり黒い服を着て白いエプロンをつけ、手には箒を持っている。
―まさかとは思うが、わたしの人形か?
 そう思ってアリスの改めて顔を見た。
「魔理沙ぁ……」
 そう呟いて微笑むアリス。
 その笑顔に、魔理沙の心臓が跳ね上がる。
 魔理沙がそっと手を握るとその手を握り返してきた。
 アリスは綺麗だ。
 人形遣いだけに自らも人形のように着飾り、家事全般も完璧にこなす。
 魔理沙と同等の実力を持ちながら、女であることにも一切の妥協がないのだ。
 初めて会ったときは一〇歳に満たない幼女の姿だったはずなのに、先日の〝春雪異変〟でしばらくぶりに会ったアリスは、魔理沙と同世代の美しい少女の姿に急成長していた。
 身長も他の部分も魔理沙より大きく成長していたのだ。
「調子が狂うぜ」
 握り返してきたアリスの指はすべすべとして柔らかだった。
 アリスの顔から少し視線をずらす魔理沙。
 背中や、掌で感じたアリスの胸の柔らかな感触が蘇る。
―ゴクリ
 魔理沙は唾を呑む。
「そうだよな、打ち所が悪かったみたいだし、責任を持ってちゃんと介抱してやらないとな~」
 誰に言う訳でもなく、魔理沙はそう言うとアリスに向けて手を伸ばす。
―ガチャッ
 玄関の開く音がしたので魔理沙が振り返ると、そこにいた一人の少女と目が合った。
「霊夢」
 そこにいたのは、博麗の巫女―博麗霊夢だった。
「家にいないと思ったら、やっぱりこっちだったのね。それで、何してんのアンタ」
 霊夢の冷ややかな視線受けて、自分が倒れたアリスの胸に手を伸ばしているのに気付く魔理沙。
「な、なんでもないぜ。異変についての情報を聞くためにアリスと戦ってこんなにしちゃったから、介抱をしようとしていただけで」
 慌てて魔理沙は伸ばした手を引っ込める。
「どうだか」
 魔理沙は霊夢の顔から視線をやや落とし、アリスと見較べて小さくため息をついた。
「何と何を見較べてんのよ」
 霊夢が拳で小さく魔理沙を小突いた。
「あんたもわたしも大差ない……っていうかあんたの方がむしろちょっと薄い―」
「その話はもういいぜ!」
 魔理沙が霊夢に抵抗しようと両手を振り上げようとする。
 しかし、魔理沙の左手はアリスと握りあったまま。魔理沙が手を離そうとしても眠っているはずのアリスはその手を離そうとしなかった。
 霊夢はそれを見て、手を下ろして小さくため息をついた。
「やっぱり、あんたも異変解決のために動いてるって訳ね。で、そいつからは何か聞き出せた?」
「いいや、アリスは何も知らなかったぜ。そっちはどうだ?」
 無理矢理引き剥がすのも気がひけたので、魔理沙はそのまま会話を続ける。
「今朝、咲夜と妖夢が別々にうちに来たわ。あいつら、お互いが犯人だと疑い合ってるみたいでうちで鉢合わせて一触即発の状態でね。迷惑だからよそでやれって言って追い返したけど」
「そうか。あいつらも異変の犯人を捜してるって訳だな」
 魔理沙が呟く。
 今まで、異変解決をする人間と言えば霊夢と魔理沙のことだった。
 それが〝春雪異変〟では十六夜咲夜が加わり、今度は魂魄妖夢まで犯人を追っているというのか。
「仮に犯人じゃないとしても、何かしらの手がかりを得ているかも知れないから、話を聞く価値はあるかもね」
「……そうだな」
 魔理沙は小さく頷いた。
「わたしはとりあえず、紅魔館に向かうけどアンタはどうする?」
「じゃあ、わたしは……」
 そう言って立ち上がろうとするも、アリスは未だに魔理沙の手を握って離そうとしない。
「もう少し、アリスの様子を見てから白玉楼に向かうことにするぜ」
「そう、わかったわ」
 霊夢が外に出ようと扉を開ける。
「くれぐれも、変な気を起こさないようにね」
 去り際に改めて釘を刺す霊夢。
「そんなことあるはずないぜ!」
 魔理沙は右手を大きく振った。
 ジト目で魔理沙を見た後、マーガトロイド邸をあとにする霊夢。
 霊夢が出て行ったあと、魔理沙は握られた左手を少し大きめに振ってみた。
「おーい、アリス~」
 それでもアリスは手を離そうとしない。できれば、気絶したアリスにあまり無体なことはしたくない。
 そもそも、アリスは本当に眠っているのだろうか。
―やっぱり、少しぐらい揉んでもバレないんじゃないか?


目に優しくない ~ Dark Room

 少ししてから、魔理沙はマーガトロイド邸をあとにして、霊夢への言葉とは違い紅魔館に向かっていた。
 今頃、霊夢は門番の紅美鈴を撃破して紅魔館に侵入をしている頃だ。
 霊夢の性格上、まっすぐ上階に向かって十六夜咲夜と戦うだろう。
 タイミングよく侵入すれば強敵との戦いを避けて最小限の戦いで当主―レミリア=スカーレットとの戦い、うまくすれば異変解決出来るかも知れない。
 霧の湖を抜けると、何度か訪れた赤い洋館が見えてくる。
 門では、霊夢に叩き伏せられた紅美鈴が倒れ伏しており、魔理沙は予定通り横を素通りして紅魔館に易々と侵入した。
―知識を得るなら、当主のところに行く前にアイツに話を聞いておく必要があるか。
 魔理沙はそう思い、上階ではなく地下へ向かう。
 見慣れるようになった高い書架たち。
「やっぱり来たのね、魔理沙」
 その最奥には、その来訪を待っていたかのように佇むパチュリー=ノーレッジ。
「なんだ、来るとわかっていたような物言いだな」
「わかっていたわよ。異変が起きて、霊夢が上階に攻め入って地下にはあなたが降りてくる。完全に〝紅霧異変〟の再現じゃない」
 魔理沙は箒を降りて、床に降り立つ。
「なるほど。言われてみれば確かにそうだ」
「それで、ここに何の用? 一応言っておくけど今回の件はウチの仕業ではないわよ」
「やはり、お前も気付いてるよな。外に広がる怪しい妖気に」
 魔理沙はニヤリと笑った。やはりパチュリーは何かを掴んでいる。
「その前に聞かせて欲しいのだけれど……アリスのところにはもう行ったの?」
 パチュリーは気まずそうに視線を逸らして訊ねる。
「お前もそんなことを訊くのかよ? 先に訊いたらあいつは何も知らなかったぜ」
「そう……先にアリスのところにねえ」
 パチュリーは魔理沙をギロリと睨んだ。
「なんだよ? 近い順に回ってるだけ―」
「あれは無害よ。……しかも気じゃ無いしね。魔法使いならその位判るようになりなさい」
 露骨にパチュリーの態度が素っ気なくなる。
「なんだよそれ。お前凄く怪しいな」
「そうね……ここから先は、力尽くで聞き出してみる?」
 不敵に笑いながらパチュリーは取り出した魔導書を開いた。
「水&火符『フロギスティックレイン』」
 パチュリーは青い弾幕を雨のように降らせ始める。
 それと同時に水色の炎のレーザーを二本蛇行させて放ち、その二本が双頭の蛇のように魔理沙を挟み撃とうとしてくる。
「水&火符だと?!」
 初めてパチュリーに出会ったときは火&土符や水&木符といった、五行で言えば相生―相性が良く片方が片方を生かす組み合わせのスペルカードばかりだった。
 だが、水&火符とは相剋―相性が悪く片方が片方を剋する組み合わせである。
 しかし、雨のような弾幕の中、執拗に追尾してくる水色の炎のレーザーを見るに、相生の組み合わせのスペルカードよりむしろ威力は上がっているように見えた。
―相性の悪い属性魔法を反発させ合って、威力を高めているのか。
 しかし、それには片方が片方を殺しきらないような、絶妙な力加減が必要なはずだった。
「くっ」
 青い弾幕の雨の中、蛇行するレーザーは執拗に追尾して確実に魔理沙を追い詰めていく。
「黒魔『イベントホライズン』!」
 魔理沙は周囲に複数の魔方陣を展開し、そこから弧を描くように色とりどりの細かい星型弾幕が発射されていく。
 突進技でなく、弾幕技としての魔符「スターダストレヴァリエ」をさらに強化した、ブラックホールを模したスペルカード。
 レーザーは相変わらず蛇行しながら追尾してくるが、青い弾幕の方は魔理沙のスペルによって押し返され始める。
 レーザーだけならば魔理沙からすれば躱すのは容易だった。
 青い弾幕が押し返され、魔理沙の星弾幕がまさにパチュリーに迫ろうとしたとき。
「火金符『セントエルモピラー』」
 パチュリーは頭上で火球を生成すると、離れた地面に投げつけていく。
 その火球は斜め上に伸びる巨大な火柱となり、魔理沙に向けて立ち上がっていった。
「なっ」
 正面からのレーザーに対応していたところに、急に足下からの火柱への対応を迫られ戸惑う魔理沙。
「火金符?! また相克の組み合わせかっ」
 火柱は何本も立ち上がり、しかもしばらくはそのまま停留する。
 魔理沙は弾幕を維持する余裕もなく、回避に専念せざるを得なくなっていた。
「土水符『ノエキアンデリュージュ』」
 パチュリーは畳みかけるように、さらに相克の組み合わせのスペルカードを重ねる。
 蛇行するように二本の軌道を描く、超高速水弾の連射。
 威力も速射性もさきほどの炎のレーザーを上回るスペルカードで、魔理沙が体勢を立て直す暇もない。
「うわっ」
 その弾の一つが魔理沙の箒の先端を掠め、魔理沙と箒がバラバラに跳ね上げられる。
「しまった……」
 箒を失った状態で空中に放り出される魔理沙。
「箒がないと飛べないの? 本当に未熟者ねえ……金木符『エレメンタルハーベスター』」
 またも相克の組み合わせのスペルカード。パチュリーの周囲に、回転脱穀器を模した複数枚の金属の刃が現れ回転し始める。
「安心して落ちてらっしゃい。しっかり受け止めてあげるわ」
 微笑みながら魔理沙を見上げるパチュリー。
 魔理沙は、跳ね上げられながらも詠唱をはじめ、自分の体が落下し始めると同時にミニ八卦炉を取り出してパチュリーに向ける。
「星符『ドラゴンメテオ』!」
 魔理沙のミニ八卦炉から魔砲が発射され、その勢いで魔理沙の体は再び上空に跳ね上げられる。
 パチュリーは金属の刃を盾にしながら、直撃を避けようと体をズラす。
 轟音と共に金属の刃は跳ね飛ばされ、パチュリーのすぐ脇に魔砲の着弾痕が空いて煙が上がった。
「不十分な詠唱でもこの威力とは、相変わらずデタラメな威力ね」
 煙に咳き込みながら魔理沙を探して周囲を睨みまわすパチュリー。
「おかげさまで、今度こそ詠唱は十分だぜ。魔砲『ファイナルスパーク』!」
 煙の向こうからは魔理沙の声。
 轟音と共に、先ほどの着弾痕と同じ場所に魔砲が突き刺さる。
 魔砲で晴れた煙の向こうには、書架に掴まり体を支えながら魔砲を放つ魔理沙の姿。
「どこを狙っているのよ」
 パチュリーは、照射され続ける魔砲からさらに距離を取りつつ嘲笑する。
 その姿を確認した魔理沙は、微笑んだ。
 さらに詠唱を重ね、魔砲はその威力と太さを増していきながら、そしてパチュリーの回避した方向へ向けてそのまま周囲を薙ぎ払っていく。
「ちょっ……嘘でしょ?!」
 パチュリーがさらに逃げようとするも、魔砲が薙ぎ払うスピードの方が早い。
 魔理沙の魔砲はデタラメな威力のかわりに、それなりの詠唱時間がかかるし一度照射してしまえばその角度を修正できないという、外したらおしまいの一撃必殺だったはずだ。
 これが魔理沙の新型魔砲だというのか。
 背後からさらに威力を増しながら迫る魔砲の熱を感じる。
 パチュリーが持てる知識を巡らし考えるが、パチュリーの回避能力では広範囲を灼く極太魔砲を回避し続けることは出来ないし、彼女の魔法出力ではこの魔法を相殺する威力の魔法を放つことなど咄嗟には出来ない。
 考えている間に、魔砲は目前にまで迫っている。
「そんな……いやぁぁぁぁ」
 ついにパチュリーを捉えた魔砲が彼女の体を灼いていく。
 うつ伏せに倒れ伏したパチュリーが動かなくなったのを確認した魔理沙は魔砲を解除する。
「リトルデビル」
 魔理沙は小さな蝙蝠羽を背中に生やし、はためかせながらゆっくりと着地する。
「別に箒がないと飛べないわけじゃない。その方が魔力効率がいいし、スピードも出るからそうしてるだけだ。魔砲を撃つのにミニ八卦炉を使ってるのと同じ理由だぜ」
 そう言いつつ魔理沙は箒を拾い上げた。
「むきゅ……酷い目に遭ったわ。服がボロボロじゃない」
「わたしの魔砲の直撃を受けて意識があるとは流石だな。さては、服に護符とか色々と仕込んでたな?」
 そう言って、体を起こしたパチュリーを見た魔理沙はギョッとして固まる。
「まあ、それもご覧の通り全てパァよ……何よその顔は」
「なんだ……それは」
 魔理沙が箒の先でパチュリーの胸を指す。
 そこには、破れた服を押し上げる大きな膨らみがあった。
「な、なによ。服が破けて着痩せの魔法が解けただけじゃない。あなただって使ってる魔法でしょ?」
 パチュリーが破れた服の隙間から零れそうな乳房を腕で覆い隠す。
 足早に近寄って至近距離から睨み付ける魔理沙。
「そんな魔法使ってないぜ。わたしのは自前なんだよ」
「嘘でしょ?! あなた本当に女なの―」
 魔理沙は強くパチュリーを突き飛ばし、彼女は強かに床に打ち付けられる。
「こんな秘密兵器を隠し持ってやがったとは」
 魔理沙は、小悪魔が以前言っていた台詞を思い出していた。
―まさか紅魔館の大きい順に揉みしだく気ですか?! ということは次に狙われるのはパチュリー様……。
 前に聞いたときは意味がわからなかったが、この館でパチュリーは美鈴・小悪魔に次ぐ大きさの乳房の持ち主ということなのだろう。
「まさか、咲夜も隠してるだけで、本当はもっとデカいのか?!」
「咲夜は違うわ! むしろ逆に―」
 言いかけたパチュリーが口をつぐむ。
「まだ何か隠してやがるのか」
 仰向けに倒されたパチュリーの上に馬乗りになる魔理沙。
 パチュリーの顔に向けてミニ八卦炉を構える。
「さあ、今回の異変について知っていることを洗いざらい吐け」
 パチュリーは毅然とした表情で魔理沙を睨み返す。
「あれは自然現象+1よ。魔法使いなら、あとは自分で調べなさい」
「へえ……」
 魔理沙の視線がパチュリーの顔からやや下がる。
 パチュリーが仰向けに倒れているのにもかかわらず、圧倒的な存在感を損なわない乳房がそこにあった。
 それを見て思わず息を呑んだあとに、改めて自分の胸元に視線を降ろす魔理沙。
「なら、あとはその体に直接聞くことにするぜ」
 ミニ八卦炉を脇に置いて口の端をつり上げる魔理沙。
「何をする気で……んっ」
 魔理沙はパチュリーの乳房を鷲掴みにしていた。
「ちょっ、やめなさ―」
 魔理沙はパチュリーの乳房を揉み拉き、その力を次第に強くしていく。
「さあ、とっとと喋らないと、どんどん強くするぜ~」
 その感触は、以前揉んだ美鈴のしっかりと弾力を持って押し返してくるものと違い、柔らかく指が吸いついていく。
「胸の大きさが魔法使いとしての能力の決定的な差ではないんだぜ。わかってるのか?」
「あれは、正確には妖気ではなくて、発生源もなくて。どちらかと言うと、気みたいな物そのものが発生源で……んっ」
―しかも感度もいいなんて。本当にむかつくぜ
「回りくどくてわかりづらいぜ……つまりどうすればいいんだ?」
 パチュリーは頬を染め、悩ましい声を上げている。
―こいつ、このわたしの胸をこんな乱暴に揉み拉くなんて……。
「だから、この気みたいなものと対話する方法を見つければ……」
 パチュリーはすでに抵抗しようとせず、完全に魔理沙に為されるがままになっていた。
 魔理沙の掌にはパチュリーの鼓動が伝わり、硬くなった尖端が当たっている。
―なんだか変な気分になってきたぜ。
 パチュリーにつられて頬を染める魔理沙。魔理沙の方もなんだかドキドキしていた。
「ま、魔理沙……」
 艶やかな唇の隙間からは熱い吐息と共に囁かれる魔理沙の名前。
 手を止めた魔理沙をパチュリーは物欲しそうに潤んだ瞳で見上げてくる。
「パチュリー……」
 パチュリーは何かを待つように黙って目を閉じた。
 魔理沙はパチュリーに顔を近づけていく。
「むぎゅ~」
 パチュリーは、そのまま失神してしまった。
「お、おい。パチュリー?」
 魔理沙がパチュリーの乳房の先端を突いたり摘まんだりしても、体は反応するものの目を覚まさない。
「や……役に立たない奴だな。この家も何でこんな奴飼ってるんだ?」
 魔理沙がパチュリーの上から立ち上がり離れる。
 名残惜しそうにパチュリーの方を振り返る魔理沙。
 掌には柔らかな感触の余韻がまだ残っている。
「パチュリー様!」
 物陰で見ていたであろう小悪魔がパチュリーに歩み寄った。
「小悪魔。パチュリーから外で起きている異変について何か聞いてないか?」
 小悪魔は首を大きく振って否定する。
「本当だろうな? その体に直接聞いてもいいんだぜ」
 魔理沙は小悪魔の顔から視線をやや下げる。
「聞いてませんっ。本当に何にも聞いてませんっ」
 その視線に気付いた小悪魔は、乳房を両手で覆い隠しながら涙目で首を振った。
 魔理沙は小悪魔に歩み寄ろうとするも、何かに気付いて箒に跨がり飛び上がる。
「お前のを揉むのは今度にしてやるよ」
 そう言い残し、魔理沙は地下図書館を後にした。


紅い飼い主 ~ Red Magic

 紅魔館の上階に向かって飛び続ける魔理沙。
 上階で大きな音がした。
 音から察するに時計台の方では霊夢と咲夜が戦っている。
 咲夜が今回はかなり頑張っているようだが、音から察するに霊夢が大技を連発し始めているので、そう遠くないうちに決着は付くだろう。
 霊夢達が戦っている区画を避けて、館のさらに上階を目指す。
 何度か出入りしているので、魔理沙もこの館の構造をある程度把握していた。
 上階のロビーに辿り着いた魔理沙は、箒から降りて床に降り立った。
「……漸く、本命だが。そろそろでてきな。悪魔の飼い主さんよ」
「何処から入ってきたのかしら。全くもう」
 最上階の当主の間から、この館の主人レミリア=スカーレットがゆっくりと降りてくる。
「正面から入ってきたぜ。普通に」
「家の正面入り口は、何時からそんなにオープンになったのかしら?」
 魔理沙がミニ八卦炉を取り出しながら、ニヤリと笑ってレミリアを見上げる。
「お前がまた霧を発生させたって、もっぱらの評判なんでねぇ。だから、わたしが悪魔退治に乗り出したって訳。元々吸血鬼ハンターだしな」
「それは初耳ね。この妖霧は私のものじゃないわ。そもそも、妖霧の中心地は博麗神社じゃない。そんな事も分からないの?」
 レミリアが中空に浮かび上がりながら爪を構える。
「まぁいい。やっつけてやりゃ、正体現すだろう。さぁ、大人しくハントされるが身のためだぜ」
「あなた達、本当に〝紅霧異変〟の時のようにわたしが霧を湧かせたと思ってるの?! だから、一年前と全く同じように二人で攻め込んで来た訳?」
 レミリアが怒りと共に紅いオーラをまとい始める。
「ああ、だがあの時は違って今度はわたしが異変解決させてもらうぜ」
「パチェと戦ったそんな体でわたしに勝とうだなんて……ナメられたものね」
 レミリアがその身に纏った紅いオーラを手の中に棒状に凝縮させていく。
「知っているか? フランに勝ったときも、わたしはパチュリーと戦ったあとだったんだぜ」
 魔理沙は箒に乗って飛び上がる。
「なるほど……妹に勝ったからわたしにも勝てると。ならば、その勘違いを正してやらんとなあ」
 レミリアは、掌中で強烈な輝きを放つ、穂先の付いた紅色の槍を魔理沙に向けて投げつけた。
「神槍『スピア・ザ・グングニル』!」
 グングニルとは、北欧神話の主神オーディンが持つ投げ槍。同じく北欧神話の武器を模したフランドールの禁忌「レーヴァテイン」と対になっているのだろう。
 猛烈な速度で突っ込んできたその槍を魔理沙はギリギリで躱す。
「確かに、魔力の量でも技の破壊力でも妹の方が上。だが、如何に大きなでも扱いきれなければ意味はない……サーヴァントフライヤー」
 レミリアが複数箇所設置した魔方陣から、使い魔の蝙蝠が吐き出される。
 躱した紅い槍が、すぐさま魔理沙を狙って戻ってくる。
「力の指向性ではわたしの方が遙かに上。つまり、妹より―わたしの方が強い」
 魔理沙がいくら躱しても、切り返すたびに槍はその速度と精度を上げて、壁にぶつかってもそれを貫通して執拗に魔理沙に迫っており、使い魔の蝙蝠と共に魔理沙の回避場所を奪っていく。
「くっ……」
 さっき、パチュリーに受けた箒のダメージと、なにより魔理沙自身が受けたダメージが回避と詠唱の速度を鈍くしている。
 あらゆる対応が間に合わない。
 レミリアは魔理沙に背を向け、ゆっくりとその瞼を閉じた。
「知っているか、魔理沙。グングニルは回避不能の必中の槍だぞ?」
 魔理沙が背を向けたレミリア本体を撃とうとそちらに向かうも、背後から先にグングニルに追いつかれる。
「あ、あぁぁぁぁっ」
 魔理沙の体を槍の紅いオーラが貫いて灼いていく。
 レミリアが振り返ると、そこには灼けて倒れ伏した魔理沙の姿。
 倒れ伏した魔理沙に使い魔の蝙蝠達がまとわりつき、その体を動けない形で無理矢理宙に持ち上げる。
「うぅ……」
―設置した魔方陣から吐き出される蝙蝠の使い魔か……この技、何らかの形で盗んでやるぜ。
 魔理沙は薄らと瞼を開きながらそんなことを考える。
「さぁて、この生意気な侵入者をどうしてやろうかしら」
 レミリアが魔理沙に向けて爪を伸ばす。
「博麗アミュレット!」
 その声と共に大型のお札が、魔理沙を固めていた蝙蝠達の上から何枚も貼りついて、蝙蝠達を祓っていく。
 蝙蝠から解放されて落ちてきた魔理沙を、ロビーに上がって来た霊夢が素早く、そしてそっと受け止める。
「ああ……魔理沙ったら、またこんな無茶して」
 魔理沙が瞼を見開くと、そこには自分を抱きかかえて心配そうに覗き込む霊夢の顔。
―可愛い……けど、わたしは霊夢にこんな顔をさせたかったんじゃないぜ。
 魔理沙が何か言おうと口を開くが、上手く声が出ない。
「レミリア、これ……あんたが?」
 魔理沙に向かい、レミリアに背を向けたまま霊夢が問いかける。
 その声色は、冷ややかながら明らかな怒気を含んでいた。
「そ、そうよ?」
 霊夢は小さく祝詞を唱えると、魔理沙の周囲を覆うように結界を張った。
 レミリアの方を振り返る霊夢。
 〝紅霧異変〟の時にも見せなかった凄まじい形相でレミリアを睨み付ける。
「な、何よ! わたしはこの館の当主として侵入者を撃退しただけじゃない」
「そう……。なら、ここにいるもう一人の侵入者も撃退してしては如何かしら、当主様?」
 慄きながらも飛んで霊夢から距離をとるレミリア。
「『レッドマジック』!」
 〝紅霧異変〟の紅い霧を模したスペルカード。
 レミリアを中心に波紋状に発せられた紅い大玉弾が、軌道上に弾幕を残しながら発射される。
「夢符『二重結界』」
 霊夢の前面に展開された二重の結界が、レミリアの弾幕を悉く防いでいく。
「何よっ。そんなに魔理沙が大事って訳?」
 霊夢は魔理沙を護るようにその前に立ち、二重の結界も魔理沙ごと護るように展開している。
「夢符『封魔陣』」
 霊夢は何も答えず、淡々とレミリアを封じ込めるように大量のお札を放つ。
「紅符『不夜城レッド』っ」
 レミリアは、紅いオーラを十字架型に噴出して霊夢のお札を跳ね返す。
「神技『八方鬼縛陣』っ」
 霊夢は苛立ちつつ、さらに大量のお札を放ってレミリアを封じようとする。
「紅魔『スカーレットデビル』っ」
 レミリアも自分の異名を冠したスペルカードで、さらに大量の紅いオーラを噴出して応戦する。
―こんなの……こんなの霊夢の戦い方じゃないっ。
 付き合いの浅いレミリアでもわかる。
 いつも余裕を持って相手より少し上の力で戦うのが霊夢の戦い方のはずだ。
 こんな、圧倒的な力で相手を捻じ伏せようとするのは断じて霊夢の戦い方ではない。
 そもそも、霊夢だって美鈴・咲夜と戦った後で消耗しているはずなのだ。
 霊夢の後ろでグッタリしている魔理沙をチラリと見るレミリア。
 それほど、魔理沙を倒したことに怒っているのか。わたしなんて、とっとと倒して早く魔理沙を介抱したいとでも言うのか。
 霊夢は魔理沙を護るようにその前に立ったままお札を放ち続け、そこからは一歩も動こうとしない。
 形相を険しくしていくレミリア。
 レミリアがオーラでお札を跳ね返している間に、霊夢はさらに祝詞を唱えいた。
「宝具『陰陽鬼神玉』っ」
 結界を介して天井から巨大な陰陽玉が現れる。
「なっ」
 レミリアが自分を覆う影に驚いて見上げた瞬間、降ってきた陰陽玉に叩きつぶされる。
 陰陽玉の下で動かなくなったレミリアを見て、霊夢は小さくため息をついた。
「咲夜にだいたいのことは聞いたし、ここはもういいか……。さっ、行くわよ魔理沙」
 魔理沙に肩を貸して助け起こす。
「わたしはまだ……負けてないぜ」
「ええ、そうね」
 霊夢はそう言って魔理沙に肩を貸して、紅魔館のロビーを後にしようとする
「な……んで」
 背後では額を初めあちこち流血しながらレミリアが立ち上がって睨み付けていた。
「パスウェイジョンニードル」
 霊夢は冷ややかな表情のまま、魔理沙を抱えていない方の手で封魔針を複数投擲する。
「うっ」
 その全てがレミリアの頭部を深く貫き、彼女は仰向けに大きく倒れ込んだ。
 魔理沙に肩を貸したまま、紅魔館をあとにして飛び立つ霊夢。
「わたしは、お前にも負けてない、負けてないぜ……」
 霊夢の腕を魔理沙が強く掴む。
「ええ、わかってるわ」
 霊夢が魔理沙をおぶったり、抱えたりせずに肩を貸しているのも、魔理沙のプライドを傷つけないための最大限の配慮だった。
「負けてない……ぜ」
 歯を食いしばってそう言いつつ、魔理沙の意識は遠のいていった。


Epilogue

 次に魔理沙が目を覚ましたときに、その目に飛び込んできたのは、自室の天井だった。
 辺りは薄暗くなっており日は沈もうとしている。
 視線を横にすると、ベッドのそばには一つの人影。
「霊夢っ」
 魔理沙がその人影に話しかける。
「ごめんなさいね、霊夢じゃなくって」
 そこにいたのは、博麗霊夢じゃなくアリス=マーガトロイドだった。
 魔理沙の手の中を見ると、そこには一枚の布が握られていた。
「それ、あなたが掴んで離さなかったから、霊夢がそのまま置いていったみたいね」
 それは、霊夢の巫女装束の袖だった。
「異変は……異変はどうなったんだっ」
 魔理沙がアリスに問いかける。
「あなた、丸一日眠っていたのよ……。わたしは、目を覚ましてから紅魔館に行ったんだけど、あなたたちが引き上げてからだいぶ経ったあとだったみたい」
 アリスは、魔理沙に対して静かに語りかける。
「レミリアと咲夜は白玉楼に攻め込むために出払ってたから、話を聞くためにパチュリーと戦ったんだけど、痛み分けに終わって大した話は聞けなかったわ。白玉楼に攻め込んだレミリア達は幽々子達と夜が明けるまで戦ってたみたいね」
「霊夢はっ」
 はやる魔理沙に対して、アリスは一呼吸置いてから話を続ける。
「わたしは八雲紫が何か掴んでると踏んで、博麗神社で彼女に挑んだんだけど軽くあしらわれてね。結局、霊夢が八雲紫を叩き伏せて異変の主犯の所在を吐かせて、それを退治して異変を解決したみたいね」
 魔理沙が俯いて歯を食いしばる。
「そうか……また霊夢に先を越されたか」
 手に持っていた霊夢の袖を強く握りしめる魔理沙。
「アリス……悪いんだけど、出て行ってくれないか。わたし、一人になりたいんだ」
 魔理沙は、肩を震わせながら言った。
「イヤよ」
「なっ?!」
 アリスは魔理沙の両肩を強く掴んだ。
「魅魔様はもういないのよ? 霊夢や幽香に甘えられないのなら、わたしにぐらい……弱いところを見せてくれたっていいじゃない」
 アリスの言葉の最後の方は、恥ずかしそうに目を逸らしつつ声を小さくなっていた。
「何を言って―」
 魔理沙の言葉を待たず、アリスはその胸に魔理沙の顔を深く抱きしめた。
「どう。これで誰も……わたしも魔理沙を見てないわ」
―何すんだ、はなせよ。
 アリスの胸の中で、モゴモゴとその体を引き剥がそうと抵抗する魔理沙。
 その間にも、魔理沙にはアリスのまとった香水の甘い香りと、その胸の柔らかな感触が伝わってくる。
―だめだぜ。いま、そんなに優しくされたら。
 魔理沙は、自分から強くアリスの体を抱きしめ返した。
「きゃっ……」
 アリスの体が魔理沙にベッドに押し倒される形になる。
 跳ね上がるアリスの心臓。
「う、うわぁぁぁぁ―」
 魔理沙の声が響き渡る。
 何も言わず黙ってアリスは魔理沙の頭を撫で続けた。
 アリスが魔界から幻想郷にやって来てからは、魔理沙を負かしてグリモワールを取り返そうと、彼女の弱点を探るために観察してきた。
 その過程で、彼女が魔法使いとして自分より恵まれない環境から努力だけで這い上がり、そして今も努力に何度も裏切られてライバルに敗れ続けていることをアリスは知った。
 そして、師匠であり母でもある魅魔と離れて以降は、その悔しさを一人で堪えて噛み殺し続けている。
 それを知ってアリスの胸は痛み、別の感情が芽生えた。
 この春の〝春雪異変〟で姿形が変化したことにより、その感情はさらなる変化を遂げることになる。
 一年前の〝紅霧異変〟以降、魔理沙の話の中に混ざるようになった別の魔女の名前。
 その名前を聞くたびにアリスの心はザワついた。
 それまで、風見幽香に指摘されても頑なに否定し続けていたが、〝春雪異変〟で姿形が変化してからは、その感情を自覚するようになっていた。
 それは嫉妬。
 友情か恋慕か愛情か―自分が魔理沙に対して何らかの好意を抱き執着し、他の誰かに渡したくないと思っているのだ。
 だったら答えは明確だ。
 魔理沙が誰にも甘えられず、それを見て心を痛めるぐらいなら、自分が魔理沙が甘えられる存在になればいい。
 しばらく魔理沙の嗚咽が続いていたが、程なくして収まってきた頃にアリスが話しかける。
「どう、少しは落ち着いたかしら」
「もう少し、このままでいいか?」
 魔理沙がアリスの服の裾を小さく掴む。
「ええ、いいわよ」
 魔理沙の頭を優しく撫で続けるアリス。
「魅魔様に較べたら物足りないかも知れないけど、もしこんなことがあったらまたこうしてあげ……なくもないわ」
「確かに魅魔様に較べたら物足りないが……癒やされるぜ」
 魔理沙がアリスの胸に顔を埋めたまま、その乳房に指を這わせる。
「んっ……誰も揉んでいいとは」
 そう言いかけて、アリスはパチュリーと戦ったときに聞いた言葉を思い出した。
―魔理沙ったらあんなに執拗に揉み拉いてくるなんて……そんなにこれが気に入ったのかしら。
 そう言いつつ、パチュリーは着痩せの魔法を解除した自分の胸をこれ見よがしに主張してきた。
 まさか、パチュリーがあんな秘密兵器を隠し持っていたとは。
「うん……いいわ」
「アリス、何を言って―」
 魔理沙が驚いてアリスの胸から顔を離し、その顔を見る。
 月明かりの下、アリスは慈愛に満ちた表情で魔理沙を見上げていた。
 衣擦れの音と共に、自分の肩につけていたケープを脱ぐアリス。
「今日は何でも魔理沙の好きに甘えて……いいよ」
 アリスが魔理沙に向けて両手を広げて迎え入れる体勢を取る。
 そうだ、こんなことで躊躇していて、パチュリーに勝てるものか。
「どうしたの? 意外と意気地がないのね。そう言えば、一昨日の朝も揉みたそうにしてたのに何もせずに紅魔館に行っちゃったし」
「起きてたのか?!」
「途中からね……それで、どうするの?」
 アリスは優しく誘うような表情で魔理沙を見ている。
 成長後のアリスは、戦い方も含めてどことなく魔理沙の想い人である霊夢に似ていた。
 しかし、体つきといい魔理沙を甘えさせてくれるところといい、あらゆる意味で霊夢とは違う。
 それが抗いがたい魅力となって魔理沙を誘惑していた。
「アリスっ」
 堪えきれず、魔理沙は改めてアリスの胸の中に顔を埋めてその胸に指を這わせる。
「ふふふっ。魔理沙ったら可愛い」
 魔理沙はアリスの胸に顔を埋めながら、その胸をフニフニと揉み拉く。
 アリスの胸は、極端に大きくはないがほどよい大きさと柔らかさと、滑らかな肌触りで魔理沙を安心させた。
「アリスは……その、どうしてそんなにわたしに優しくしてくれるんだ?」
 魔理沙はずっと思っていた疑問をぶつける。
「それは……その。そう、魅魔様にあなたの面倒を見てやってくれって頼まれたから。仕方なくよ!」
「そうか、わたしも魅魔様や神綺からお前の面倒を見るように頼まれたんだがな」
 魔理沙はアリスの胸から顔を離し、アリスと視線を合わせてお互い苦笑する。
「それなら、ねえ魔理沙。もし今度、異変が起きたらね」
「そうだな。もし今度異変が起きたら」
「「一緒に」」
―ガチャリ
「お邪魔だったかしら」
 扉を開く音と共に現れたのは、パチュリー=ノーレッジ。
「魔理沙?」
 その背後からはフランドール=スカーレットが顔を覗かせる。
 魔理沙とアリスはすぐさま体を離し、なぜか背中合わせでベッドに正座していた。
「フラン、外に出ても大丈夫なのか?」
「うん、今日は特別だって。パチュリーの他にお姉様や咲夜も一緒にお出かけするから」
 魔理沙がフランドールと話している傍らでアリスとパチュリーが小声で話す。
―せっかくいいところだったのに、よくも邪魔してくれたわね。
―まったく。油断も隙もあったものじゃないわ。
「それで、どうしたんだこんなところまで。パチュリーにフランまで」
 魔理沙が笑顔を繕って改めて二人に話しかける。
「異変解決の祝いに、最後の大宴会をしているから、あなたたちを呼びに来たのだけれど」
「宴会だって? 出遅れたっ。急ぐぜアリス」
 アリスの手を引いて外に出て行く魔理沙。
 外に出てすぐに箒に跨がる魔理沙。
「さあ、飛ばすからしっかり掴まれアリス」
 アリスはすぐさま、魔理沙の背中にしっかりと胸を押し当てる体勢で強く抱きつく。
「アリス、さすがにくっつきすぎじゃ―」
「だって、しっかり掴まれって言ったのは、マ・リ・サ・だ・よ?」
 アリスは息がかかるほどに魔理沙の耳に唇を寄せて、そう囁きながら魔理沙の胸元を指で弄ぶ。
 魔理沙が照れくさそうに帽子を深く被る。
「まあいいや、行くぜ」
 魔理沙は全速で箒を飛ばす。
「きゃっ」
 アリスは驚いたフリをしてさらに魔理沙に深く抱きつき、一瞬だけその耳たぶに唇を触れさせた。
「ちょっと、せっかく呼びに来たわたしたちを置いていくとか、あんまりじゃないの魔理沙」
 後ろから追いすがろうとするパチュリー。
 しかし、二人乗りでも魔理沙の箒のスピードには叶わない。
「魔理沙~」
 パチュリーを追い抜いて魔理沙達に追いつこうとしたフランドールの体にパチュリーが掴まる。
「ちょっと、パチェ。掴まらないでよ」
「だって、わたしだけ置いていく気?!」
 アリスは後ろで揉めている二人に向かって振り返ると、舌を出して見せた。
「アリス~!」
 背後でパチュリーの怒号が響き渡る。
―魔理沙……好き。
「ん? 何か言ったかアリス」
「ううん。何でもない」
 アリスは改めて魔理沙に寄り添う。
 月明かりの下、眼下には幻想郷の夜空が広がる。
 自分の魔理沙への想いを自覚したアリスには、その夜空はひどく澄んで輝いて見えた。
 この夏が終わり、秋が来て〝永夜異変〟で二人が手を携えて異変解決に向かうのはもう少し先のお話である。
『紅魔郷EX』から『萃夢想』までにかけて、魔理沙を挟んだアリスとパチュリーの三角関係に、霊夢やフランを加えた悲喜こもごもを自分なりに描いてみました。
感想をお待ちしております。
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1.100終身削除
戦いの最中や前後にも相変わらず(主に白黒)イチャイチャしてるようなやり取りが面白かったです でもそのおかげで意地やプライドをかけた戦いでもあんまり悲壮感を感じすぎなくてメリハリがあったと思います 魔理沙が色々と考えて機転を利かせて動いているのはもちろん相手の方にも企みがあって読み合いがあったりパチュリーも2戦目だと一味変わってたり駆け引きも良かったと思います
2.90奇声を発する程度の能力削除
面白く良かったです