「ねぇ、蓮子、どこ行くの」
自分が今、置かれている状況はかなり異常だった。だが異常に気づいたのはつい先ほどである。
――次は、終点、関西空港。
土曜の朝に叩き起こされ、日も出ぬうちに列車に載せられた私は、車窓に差し込む朝陽に照らされ、やっとのことで目を覚ましたのだ。
「決まってるじゃない」
言って、彼女は私の手を取り列車を降りた。
私の相棒は時々、説明が少ない。だがそういう時は決まって、「説明するまでも無い」のである。少なくとも、彼女の基準では。
言葉を待つ代わりに、私は辺りを見回した。
空港のロビー。行き交う人々。様々な言語の会話。ガラガラと重そうなキャリーケース。電光掲示板には今日のフライトの予定がずらりと表示されている。……いたって普通の空港の、いたって普通の光景だ。一つおかしな点があるとすれば、フライト情報ではなく普通のニュースを流すスクリーンの方である。
大きく出されたテロップには、こう書いてあった。
――タイ 犬が高速回転か
見慣れた公共放送局のニュースキャスターが口を開く。
「タイの国営放送局によりますと、三日の現地時間〇時三〇分頃、タイ国内の犬が高速回転を開始した模様です」
映像には、文字通り高速回転する犬と、それを見て困惑するタイ人男性が映し出されていた。狂ったように回る続ける犬はまるで、コンピュータゲームのバグである。
開いた口が塞がらぬまま、私は相棒に視線を戻した。
「決まってるじゃない」
再び口を開く彼女。振り返り、キメ顔になった蓮子が発する言葉は、たいていろくでもないと私は知っている。
「止めに行くのよ。――タイで高速回転する犬を」
自分が今、置かれている状況はかなり異常だった。だが異常に気づいたのはつい先ほどである。
――次は、終点、関西空港。
土曜の朝に叩き起こされ、日も出ぬうちに列車に載せられた私は、車窓に差し込む朝陽に照らされ、やっとのことで目を覚ましたのだ。
「決まってるじゃない」
言って、彼女は私の手を取り列車を降りた。
私の相棒は時々、説明が少ない。だがそういう時は決まって、「説明するまでも無い」のである。少なくとも、彼女の基準では。
言葉を待つ代わりに、私は辺りを見回した。
空港のロビー。行き交う人々。様々な言語の会話。ガラガラと重そうなキャリーケース。電光掲示板には今日のフライトの予定がずらりと表示されている。……いたって普通の空港の、いたって普通の光景だ。一つおかしな点があるとすれば、フライト情報ではなく普通のニュースを流すスクリーンの方である。
大きく出されたテロップには、こう書いてあった。
――タイ 犬が高速回転か
見慣れた公共放送局のニュースキャスターが口を開く。
「タイの国営放送局によりますと、三日の現地時間〇時三〇分頃、タイ国内の犬が高速回転を開始した模様です」
映像には、文字通り高速回転する犬と、それを見て困惑するタイ人男性が映し出されていた。狂ったように回る続ける犬はまるで、コンピュータゲームのバグである。
開いた口が塞がらぬまま、私は相棒に視線を戻した。
「決まってるじゃない」
再び口を開く彼女。振り返り、キメ顔になった蓮子が発する言葉は、たいていろくでもないと私は知っている。
「止めに行くのよ。――タイで高速回転する犬を」