私は紅魔館の地下にある隠し部屋に足を踏み入れた。
入った途端、ツンとくる腐乱臭に思わず顔を顰める。
「......それで、こいしがここで?」
「はい。妹様は、器があれば意識を移せるから早くどうにかしてくれとおっしゃるのですが......」
このメイド、十六夜咲夜が定期的な掃除に来たところこの部屋の惨状に気づき、遅れて私にまで連絡が来たらしい。
「......なるほど、事情はわかりました。そして、あなたの心配通りでもあります」
「では......」
「ええ、不可能です。 例えこいしでも存在の核を他人に移すなど出来るわけがありません。」
覚りとは現象から生まれた妖怪ではなく、心を読む存在への恐怖心が産んだ生物としての妖怪。
その存在の核は一般的な妖怪と同様自身の体に依存する。
「それは...申し訳ありません」
「あなたが謝る必要はありません。勝手に忍び込んだのも、相手の力量を見誤ったのも全てあの子の責任です」
酸化した血で茶色く変色した部屋の中央に転がる青色の物体を拾い上げる。
私達の異形の象徴、サードアイだ。
「しかし......殺した相手の人格を造り出すばかりか、自分に都合のいい妄想を垂れ流すなど......」
脳内に他人の思考をシミュレートする。
そんな事はまやかしに過ぎない。
他人の思考を完全に理解することなんて出来ないのだ。
そう、覚りでもないような存在が思考を理解するなどおこがましい。
「貴女はどうですか? 妹様とやらを理解できていますか? ふ、そうでしょうとも。あなただって本当は...」
そこまで言って、私は首を振る。
「いえ、失礼しました。これは八つ当たりですね。とりあえず、今日は帰らせていただきます。」
「...あの、妹様のことは...」
「この件の補償については追って使いを出します。 ...まだ何か?」
「いえ...なんでもありません。門までお送り致します。」
どうも。
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さて、サードアイが無事だったから良いものの。
危うく終わってしまう所でした。
はぁ...手のかかる子だこと。
「しばらくの間はおとなしくしてもらいますよ、こいし」
あちらにも罪悪感を持ってもらわねばなりませんしね。