Coolier - 新生・東方創想話

【贈り物に愛を込めて】

2018/05/13 17:55:38
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* * *
その頃、咲夜は玄関門に向って走っていた。
レミリアさまに褒められたからか、心が弾み、足取りが軽かった。
あっというまに門扉の所まで駆け寄った所で咲夜は足を止めた。
美鈴の隣で赤い髪の妖精メイドが何やら話し込んでいたからだ。
スラリとした長身にあちこち紅いリボンを結んだメイドと美鈴は親しげに言葉を交わしている。
咲夜はそっと門柱の陰によると、そっと二人の様子を窺った。
と、唐突に美鈴が顔を上げると、咲夜の方に目を向けてにっこりと笑みを浮かべた。
「咲夜ちゃん。そんなとこで隠れてないでこっちに来たらどうです?」
美鈴はとても勘が鋭い。こうして物陰に隠れていても大抵見つかってしまう。
おいでおいでと手招きされ、咲夜は門柱からそっと離れて歩み寄った。
「それじゃあ、私は持ち場に戻るわね」
咲夜が出てくるのを見て、赤毛のメイドはそう口を開いた。
「おや、もうですか?」
「少し用事があっただけだから。それに――」
少し視線を下ろし、妖精メイドは咲夜を見遣った。
「そこのおチビさんが、待ちくたびれるとよくないでしょ?」
そう言って軽く肩を竦めると、妖精メイドはそのまま踵を返し、カッカッと靴音を立てて館の方に戻っていった。
美鈴は暫くその後ろ姿を見ていたが、咲夜の方に向き直ると、屈んで咲夜の視線に合わせてくれた。
「それで咲夜ちゃん。お嬢様への贈り物は上手くいきましたか?」
「うん! レミリアさま、すっごく褒めてくれたの!」
「それは良かった。――ただ咲夜ちゃん。レミリア“さま”じゃなくて、レミリア“お嬢様”でしょ?」
美鈴はそう窘めると、コツリと手の甲を咲夜の額に当てた。
「――レミリアおじょーさま! もう、子供扱いしないで!!」
「そうですねえ。咲夜ちゃんが咲夜“さん”になったら考えてみますね」
「もう!!」
どうにも軽くあしらわれてる様で不満だったけど、ややあってから咲夜はポケットを探って、小さな袋を取り出した。
「……美鈴。これ、アドバイスとお花のお礼」
「おお! 嬉しいですねえ、中身は何ですか?」
「うん。ジンジャーと黒コショウのクッキー」
包みを受け取ろうとした手がはたと止まる。
「今、何と?」
「ジンジャーと黒コショウ。美鈴が居眠りしないようにってすすめられたの」
「薦められたって……ああ、彼女ですか」
ポリポリとバツが悪そうに頭を掻くと、美鈴は苦笑を浮かべ包みを押し頂いた。
「では、ありがたく眠気覚ましに使わせていただきますね」
「じゃ、わたし図書館に行ってくるね。……居眠りしたらダメだからね」
「分かってますよ」
美鈴に軽く手を振ってから、咲夜は懐中時計に触れ時間を止めると、その場を後にした。

咲夜がいなくなった後、美鈴は小さく溜め息を漏らす。
「私って、信用ないのかなあ?」
袋を開け、一枚口に放り込むとピリリとした辛さが舌を刺激した。
「――当分は、気を引き締めますか」

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