「とまぁ、事の顛末はこんな感じだ。阿求から話を聞いておいて良かったぜ」
「……そんなことが。やっぱり妖怪が絡んでたのね」
優曇華院を白状させた魔理沙は鈴奈庵に戻り、阿求に今回の異変の報告をしていた。丸一日奔走したせいで日はすっかり沈んでしまった。けれど、日付が変わる前に解決できて良かったと魔理沙は思った。
「『浦島太郎』が見つかって良かった! 魔理沙さん疑って本当にごめんなさい……」
「見つかって良かったな。たまたま本棚の奥に隠れていたなんて。今度から大切に管理するんだぞ」
「はーい。気をつけますー!」
紛失していた『浦島太郎』も無事見つかり、小鈴はとても陽気だった。一方魔理沙は疑いをかけてきた小鈴に自身の活躍を話せず、腑に落ちないでいた。思い返せば、事件の解決の糸口は全て阿求の話にあった。
鈴奈庵を後にし、茶屋で話しこむ阿求と魔理沙。小鈴の手前話せなかったと聞き、魔理沙は道中気になって仕方なかった。
「なあ、『浦島太郎』に隠された事実って一体何なんだ?」
「そうね……まず最初に魔理沙が気になった部分を話してくれる?」
阿求は魔理沙に手を振って意見をしてもらうように促した。魔理沙は額に手を添えて先程の鈴奈庵での阿求の話を思い返した。
「――浦島太郎が宮殿へと連れて行かれた舟だな。陸を離れ、海を渡り、宮殿へと辿りつく。陸、海、陸と順を追って移動してるのが怪しい。そして、海が何らかの境目として表現されているんじゃないかと思ったぜ」
「他にはあるかしら?」
「そうだな……宮殿から戻って浜辺にたどり着くと七百年が経っていたこと。何故、具体的な数字が出てきたのか気になるが……実際どうなんだ?」
魔理沙は疑問点を挙げて再び阿求に尋ねた。阿求は二人の周囲に居る人物に聞かれないように、魔理沙に耳打ちした。
「……浦島太郎は月の都に行ったのよ」
「はぁ!? なんだそりゃ!」
阿求の突飛な答えに魔理沙は思わず、大声をあげて否定した。
「しっ、声が大きいわよ。落ち着いて聞いて」
「悪い……」
魔理沙を宥め、阿求は再び耳打ちをした。
「……浦島太郎を運んだ舟はきっと宇宙艇よ。魔理沙も月に行ったことがあるから想像はつくんじゃないかしら? そして、月に行ったという一番の根拠は宮殿と地上との時間経過の差よ」
「あぁ、パチュリーが以前似たようなことを言ってたな……。時間の流れ方が違うって」
「『浦島太郎』は室町時代に書かれたんだけど、著者がどうやって時間経過の差を知れたと思う? 自力で宇宙に行けるわけでもなければ、空想で具体的な数値を示せるわけもないわよね?」
「――月の使者が現れて、月の都に招待されたってことしかありえないじゃないか!」
「そうなのよ。『浦島太郎』は著者である浦島太郎の実体験。ノンフィクションね」
魔理沙はありえないと思いつつも述べた主張が、阿求にあっさり認められたものだから驚いて仕方ない。席から立ち上がり、必死に阿求の主張を否定する。
「無茶苦茶だぜそんなの! 第一あいつらは穢れを嫌っている。地上の生物を招き入れるなんてことは考えられない!!」
「月の住人は『浦島太郎』をきっかけに穢れの存在を知ったのかもね……」
阿求は口元を手で隠し、くすくすと笑いながら呟いた。
「馬鹿げているぜ……」
「でも、辻褄は合うでしょ?」
阿求の主張を認めざるを得ない。まさか、一冊の本をきっかけにこんなことが発覚するなんて。しかし、阿求のおかげで魔理沙は今回の『浦島太郎』紛失事件の真相に辿りついた。
「あぁ、そうだな。おかげで犯人の目星がついたぜ」
「そうなの? 良かったわ」
「私が気付くより前に阿求はもっと早く気付いてたんじゃないのか?」
魔理沙の問いかけに阿求は首を傾げ、にっかりと笑って答えた。
「さあね。でも餅は餅屋って言うじゃない?」
「それもそうだな。じゃあ行ってくるぜ」
魔理沙は箒に跨り、茶屋を後にした。そしてその後、優曇華院と事件の真相を明らかにするため対峙するのであった。
「今回の事件が解決できたのは阿求のおかげだよなぁ。実質私何もしてないんじゃないか?」
「まあまあ。無事解決できたからいいじゃない?」
「最初に疑われて、推理の材料は全て阿求から。……ただ巻き込まれただけじゃないか?」
はあ、と大きな溜息をつき魔理沙は肩を落とした。がっくりと項垂れる魔理沙の様子を遠目から見た小鈴は魔理沙に駆け寄り、提案をした。
「あの……私が本を見落としていただけみたいですから、お詫びとして今度魔理沙さんが本を借りる時に割引するのはどうでしょうか?」
「……本当にいいのか?」
「はい……疑ってごめんなさい」
魔理沙は小鈴からの提案を聞くと大喜びした。このまま苦労が報われなかったらただのくたびれ儲けになるところだった。
阿求は今回の事件を通してあらためて鈴奈庵、小鈴を注意深く見守るべきだと認識した。妖魔本を扱う以上、妖怪や霊が寄りついてしまうのは必然。そして、小鈴に対してだましだましでやりくりするのにも限界がある。大事に成らずに済んだけれど、裏に大きな存在に潜んでいた場合伝えるべきか伝えないべきか。独りで結論を出すのは困難すぎる。
小鈴は独り悩んでいた。タイミングを逃した所為で『浦島太郎』が妖魔本だと伝え損ねた。今回は事件ではなくただの見落としてであっさりと見つかったけれど、もしこれが事件だった場合、周りの人に自分の知る真実をちゃんと伝えることが出来るのか。伝えた時に周りの人がショックを受けてしまったらどうすべきかと考えると、簡単に答えを出すことはできない。霊夢や魔理沙、阿求と肩を並べて異変に立ち向かう機会が来たときどうするべきだろう、と悩む小鈴であった。
浦島太郎を『鈴奈庵』に持ち込むとこういう解釈になるのかと新鮮でした
ただ魔理沙が捜索に参加する所やうどんげがあっさり犯行を白状したところ等展開の進み方が強引に感じる部分もありました
でも全体的な雰囲気がそれっぽく、鈴奈庵への愛が伝わって来るようでした
少々展開が早く感じましたが、話そのものは面白かったです。