Coolier - 新生・東方創想話

■紅ノ魔館■

2015/10/31 00:00:36
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【紅魔館:バルコニー】





「あれだけデカデカと独り言呟いときながら『やべっ』じゃないわよ…」


幻想郷を見渡せるバルコニーに置かれたお気に入りの席にちょこんと座った、しかしその擬音がまるで不適切に感じる覇気を放つ幼い吸血鬼が、背格好と性別の両面から見ても不似合いな低い声色で唸る

小さな全身からは考えられない程に滲み出た膨大な紅黒いオーラが立ち昇り、霧状になって空を被っていく

その霧に蝕まれた空が苦しむかの様に、風がビョウビョウと吹き荒れる


と言うか私声に出したつもりないんだけどなー…

“今は”口無いし




「“お前は私の館よ”? 考えている事位分かる」




いやーその理屈はどうかと…
って実際に聞かれてるのよね、ハイ

これだけの威圧感で怒っているのではなく呆れてるだけだと言うのだから、この人を怒らせたらどうなる事やら


「『傍目にはワガママで傲慢』で? 『友人がいたのが驚き』で? 『大口を叩く事に関しては天下一品』、と へぇ?へぇ?へぇえ?」


ぁ前言撤回 久しぶりにキてますわこの人

鷲掴みにされた肘置きがギシリッッと軋んでる

えーと御嬢サマ? それ買って来た咲夜が貴女に『目が利くのね』って誉められて貰って喜んでた椅子…


「お前ごときのせいで壊すものかよ なんなら代わりにお前の柱の二、三本も砕いてやろうか?」


眉間に皺が…ッ、ぁいえっ どうかそれだけは御勘弁をっ



「…饒舌ね」


これ以上無い位に馬鹿馬鹿しいとばかりに背もたれに寄り掛かり、息を吐く

が、陰口についての話ではなく、もっと根本的な事についての台詞だった

確かに、本来の私はこんなにお喋りじゃないのだ


「お前が意義のある言葉を吐けるとは今でも思わないけど…こうも無駄口が多いのは久し振りね」


ねー


「…高揚してる?」


…多分、ね


「腐っても化物ね…それはそれで安心したわ」


…そうね 楽しみよ、とっても




…この人…レミリア・スカーレットに“住まれて”数百年

彼女の下に家族が集って百数十年


そして、この郷に辿り着いて数年


全てが刺激に溢れていた


この人と出逢い、戦い、屈服し、生涯に渡り館として従属する契約を結んだ

形としては強要だったが、私自身それでよかったとも思った

住まいとして生かされる等、屈辱と感じるべき事なのだろうが…意外とそうはならなかった

元より強大無比の大怪物として生きる道は彼女に打ち砕かれたのだ
無くて元々、望むべくもない

何より…彼女の真の力を知ったのはその後だが、今にして思えば私の運命はそこで変わったのだろう


やがて家族が集った

誰も彼もが偏屈変人とち狂った不審者だらけだったが…皆、楽しそうだった

概ねが主人たるレミリアの半ば強引な勧誘で“住まわされた”連中だったが、すぐに馴染んだ

彼女の人柄か、あるいはそこに感じ入るものがあり、何か目指すべきものを見出だしたのか
要するに私と同じか

中途で出て行ったり謀叛を起こす様な者はいなかった
筈だ

毎日が楽しかった
豪奢絢爛自由奔放を望む主人の意のままに、毎日毎日宴と侵略と趣向に明け暮れていた


一人を除いて


初めて私に住んだのがレミリアなら、二番目は手を引かれたフランドールだった

それこそが、彼女が私を圧してまで館にした理由
御せぬ力のままに暴れ狂うフランドールを閉じ込める為の頑丈な籠が欲しかったのだ

幾度となく呼び込んだ客人達も右に同じ
フランドールを封じる為、フランドールに対処する為フランドールに娯楽を与える為、フランドールを治す為、そうした人員の生活面での面倒を看る為


全ては妹を救う為



「…パチュリーの方はどうしてる?」


概ね、作業は完了してるわね

霧の広まり具合は御覧の通り
対侵入者用の結界も館全体に行き届いてるし…

あと今日は喘息も落ち着いてるみたいよ? 比較的


「咲夜の…メイド達の様子は?」


ここ最近は業務の予定を繰り上げて先取りしてきたからね 掃除も普段以上に行き届いてるわよ

そうして出来た時間を使って訓練時間を増やしてたけど…普段のメイド業すらサボる様な子達だったからねぇ…
期待しなくていいでしょ


咲夜は相変わらず…ううん、今まで以上にピリピリしてる

久し振りの荒事になりそうだし…貴女の見てる前でのそう言う仕事は、初めてだしね


「…フランは?」


…パチュリーの結界はフランドールの部屋もしっかり覆ってるわね 内外両方から

メイド妖精達は今までより余計に下の階には近寄らない様に言われてるから…この分なら意図的な刺激でも与えない限り、内側から破られる事も無いと思うわよ

ただ…


「なんだ」


…今日は特に泣いてたわよ


「…そうか」


えぇ


「……」


…ねぇレミリア


「……」


『主人に対する口の利き方ではないが、仕置きは最後にしてやる』とでも言いたげな顔だ


全く
いくつになっても、どれだけ気高くあろうと


本当に素敵な方だ


「どうしたの? 言いなさいよ」



…もう、逢えない気がするの

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