Coolier - 新生・東方創想話

■紅ノ魔館■

2015/10/31 00:00:36
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【紅魔館:図書館】





「……」


術式により本来の…館本体よりも広大な敷地を手頃に狭め、それでも尚溜め息の出る程の広さを持つ大図書館

そこに胃もたれを感じる程の数の本を持ち込み敷き詰め山積みにしたものだから、まるで連なる山脈のジオラマの様な事になっていた


「…三番槽にこれ足しておいて 順次中身を変えていくわよ」


「はーい」


そんな小さな山々の合間で、ある者は運び、ある者は唱え、焼き、書き込み、駆け回り、声を張り上げていた


「あぁ貴女、これ濯いでおいて ちゃんと生姜を溶いた白ワインで」


「はーい」


その中心に意図的に用意された空間には、それ相応に大きな魔方陣

慌ただしく駆け回る小間使いの妖精や使い魔達ですらも、その陣には踏み入らなかった

言葉と、火掻き棒の様な熊手による物のやり取りだけが出入りした


「今日の気温は?」


「えと…日の入りが早めでしたから、三時頃には下がり始めるかと」


「よろしい」


その中心に椅子まで用意して深く座り込む子が一人
しかし誰よりも多く、困難な作業を進めている

他でも無い、この喧騒の指揮者である


「…・・・・・・…!」


呪文を唱え、小瓶の中身をパタパタと垂らしていく

円陣が光り、部下達が慌てて散らばり、館の外で力が渦巻いていく




賢く欲張りなパチュリー・ノーレッジ

知識の探求と実践以外を起点に動いた事は、その長い人生の中でも稀だろう
喘息持ちの身体が追い付けない事もあるが、両極端な興味本意に根差す価値観も多分に影響していよう


今回の企てにしても、あの人の気紛れの中に何か利用出来るものを見出だしてこそだろう

でなければ、例え大枚を積まれようがこの子は動かない
材料無しに黄金を錬成すら事すら可能とする彼女には、“餌”など何の魅力にもならない


その点この蔵量はこの子の御眼鏡に叶っている様だ

無限に思える部屋に居並ぶ無限の書物

彼女の友人たる真の持ち主は暇潰しの道楽程度にしか意識していなかったが、この子はそれに飛び付き、暴き、貪り続けた 
その探求は未もって終わりが見えない


それでも彼女は知識の咀嚼と反芻を止めない

喘息からまともに動けず、嘔吐の一つですら大事に障るか弱い彼女が、こと知識に対しては餓えた化け物の様に蹂躙する事を止めない


尊敬すべき事なのだろう

日がな一日空や雲を眺めてダラダラ過ごしている私などとは違う
この子は、一室に籠りながらにしてあちこちへ飛び回っている

世界中のあらゆるものを 過去から遺されたものを 未来に続くものを

場所も時間も超越して、この子は全ての知識を求めて奔走している




「パチュリー様」


頭と背中に翼を持つ、他の使い魔より自我の強そうな悪魔が羊皮紙の筒を三、四つ抱えてパチュリーに近寄る


「、小悪魔 …どうだった?」


「はい、正常に動作しています  霧は真上に昇り、均等に拡散しています」


「そ」


小悪魔と呼んだ悪魔から羊皮紙を受け取り、軽く目を通して何か書き込み、返す


「他には何かあった?」


「…御嬢様が、つまらなそうなお顔をされてました」


顔に出てしまう位には恐れを隠さず御報告

パチュリーは溜め息で返した


「一人で出来るって言って聞かなかったからね…それじゃ負担が強過ぎるって何度も説明したのに」


楽しそうだ

周囲の者達は皆、この子の事を根暗で倦怠感に埋もれた子と思っている

見た目にはそうだろう

だけど分かる
顔に出ていないだけ 満面の笑みが溢れている
聞こえないだけ はしゃぎ声を上げている
伝わらないだけ 彼女は口下手だから
挙げていないだけ 両手を広げて掴みたがっている

まだ見ぬ知識、まだ見ぬ結果を求め、待ち焦がれ パチュリー・ノーレッジの好奇心は傾き、満たされ、広がり、延々膨れ続けている


彼女はここに留まり続けるに違いない

いつか今ある書物の全てを読み終えた時には、その三倍の新たな書物が雪崩れ込んでいる事だろう

無限に流れ込む新知識の濁流に揉まれながら、それこそを新鮮な空気と呼吸を続ける彼女は、もう外の世界には生きられまい

館の外に出掛ける位の事は …極々たまにはあるだろうが、“外の世界”に戻る事は無いだろう

全て調べ尽くされ、その先にある不可思議な事象を頭から否定した世界には


「世話の焼ける御嬢様よ…全く」


しかし、それだけの彼女ではあるまい

もしもパチュリー・ノーレッジと言う魔女が知識を漁るだけの引き籠りだったら、彼女はここには居られなかっただろう


でなければ「使わぬ財に何の価値がある」とばかりに消費や変化や発動を好み、保守や停滞を唾棄するあの人がこの子を迎え入れる筈がない


あの人はパチュリーに魔法の発現を求め、パチュリーはあの人に魔法の知識を求めた

利害が一致したのだ

その後も、身近な者に限ってはその力を提供している


…初めて会った時はそこまで社交的には見えなかったけどなー

ホントに見た目通り、根暗で無口な物臭っ子だった

あの人の両腕と共に図書館の扉が開かれるまでは


あの人と会って何か変わったのかしら


「妹サマが地下から飛び出す前に決着してくれるといいんだけど…」


そう言う事が出来なくもない人ではあるけど…今回みたいに身内の為にしかしない感じだったのに

そもそもあの人に“友人”がいたのが驚きだ

唯我独尊と掛かれた看板で近寄る者を叩きのめしかねない様な人なのに


「もう決まったも同然でしょう これを阻むとなれば、この紅魔館の全てを打ち倒さなければなりません、が…そんなの不可能ですよ」


「…だといいんだけど」



迷いなさい、パチュリー・ノーレッジ

考える時間は沢山ある
考えるべき事も沢山ある
その助けになる知識も、相談相手も沢山ある

貴女にはそれを扱えるだけの知性がある


心ゆくまで気が済むまで、私の抱える世界に触れなさい



大事な大事なお客サマ

大事な大事なお友達

大事な大事な




…んー、姉貴分かしらね? あの人長女でそう言う人欲しがりそうだし
なんやかんやでこの子の方が聞き分けいいし


ぁでもあの人の方が歳上だったっけ…

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