「お帰りなさい」
見覚えのある光景。この薄暗さ、私は帰ってきたらしい。
ヴワル魔法図書館。
私はその中心の小さなテーブルの上に、広げて置かれていた。
「フン、短気で悪かったわね」
パチュリー氏が口を曲げて言う。
いや、実にナイスタイミングだった。流石である。
「散々、言ってくれてるようじゃないの。死蔵なんて、心外だわ」
しかし、他の本たちもそう言っているぞ?
「死蔵じゃないわ。いずれ、私が読むもの」
デザートのレシピ本もか?とてもデザートを作って楽しむような風体には見えないが?
「うるさいわ。それもいずれ作るのよ!」
ハ!どうだか。似合うエプロンがあればいいが?
「フン、言ってなさい。それにね、死蔵死蔵というけれど、あなた達をここに保管するのだって、ちゃんとした理由もあるのよ?」
ほう、何だそれは?
「全ての本、活字とその記憶は、必ずどこかに保管されてなきゃいけないもの。なぜなら、本には人の歴史、文化全てが詰まっている。例えただのレシピ本でもね。一つだけならただのレシピ本でも、あらゆる種類のレシピ本が揃えば、それは立派な人の歴史の一つになる。少なくとも私はそう考えるわ」
その保管場所がここなのだと?
「そういうこと。あなた達は失われてはいけない存在。他の物とは違う。本と物は違うのよ」
君が私達のことが大好きなのはよくわかった。
「単なるエゴとか言われてしまえばそれまでだけどね。でもまぁ、それはそれよ」
彼女はにまりと笑い
「これで、やっとあなたが読める。楽しみにしてたのよ。今日一日」
それは光栄だ。
「だって、変に特殊な本なんですもの。性格がひねくれているのはそのせいかしら?」
ほっとけ。
「本当にあなたを読むためには、まず下ごしらえをしなくてはいけない。それが、あなたの隠された千年の記憶を読む鍵だから。
それはひとつ、あなたに旅をさせること。魔導書の本棚駆ら外に出て、あなたに様々な経験をさせること。その一つだけ。そうやって、幾千もの場所をさまよいながら、持ち主を変えて、長い物語を紡ぎだす本。それがあなた。
あなたは、その時の主と決めた者以外に、自分の正体に関する事はある程度言わないようにできてる。表紙に書かれている題の文字もその一つね。
それはあなたが、あくまで、お遊びで作られたものだから。要するに暇つぶしね。あなたの本来の目的は、研究室で引きこもりがちになりやすい魔法使いが、手安く外の様子を娯楽感覚で知るためのもの。
あなたはその場に起こったことを、自分に意志があるように、叙述的に自らのページに書いていく。それに興味を持った人が、あなたと会話し、ともに経験し、あなたは段々厚くなっていく。そこに『実は、あなたの行動を、自分の主の娯楽目的で覗かせてもらうために自分はこうやって、ページを重ねていくのだ』なんて言ったら、誰も気楽にはあなたに手を伸ばさないものね。故に、あなたは自分では正体は明かさないようにできている。
ジョナ・ファルコン氏も洒落たことを考えるわ。
と言っても、今回ことでは、何人かにはバレていたみたいだけど、あの人形遣いに限っては、どうやら、私のこの時間制限式のカムバック魔法にも気付いて、表紙の隅に小さく書いた、魔法式を消して、あわよくば、なんて考えていたみたいだけど、残念ながらあれはカムフラージュ。本物は、この最後のページ。ページがここまで来たら自然とここに帰って来るように仕込んでいた。もう一人は、まさか持ち主以外で、この表紙の文字を読める人物がいるとは思わなかったけど、そこは流石幻想郷というべきところかしらね」
パチュリー氏、私の主は私に手をかざした。
中身が膨れ上がる。千年のページがよみがえるのを感じる。
主は両の手で私を持ち上げる。
「これが千年分?『コウジエン』とそんなに変わらないじゃない」
あんまりでかくすると、読みづらくなるだろう?ページはめくればどんどん増えていく。
「フフン、なるほど。便利にできるわね」
そして我が主は、この私『引きこもりの望遠鏡』の最初の1ページ目を開いた。
無計画に書いたからこそ自然なメルヘン感があるというか
三魔女のそれぞれの雰囲気も魅力的でした
途中で挫折してしまいそうだけど。