ここで、私の記述が途切れているのは、決して私が気絶をしていたからでも、なんでもない。ただ、たとえどんな記録にも、小説にも、はたまた実用書でも別に書かなくても良い部分というのは存在する。この空白の部分も言わばそういう部分であると認識してもらいたい。
「その説明の部分はいるの?」
うるさい。
「気が小さいのね」
引くぐらい真っ青だった雷鼓の全身も、もう元通りになっていた。私達は現在、人里にある、小さな団子屋の店先に置いてある長椅子に座っていた。
雷鼓は無表情で団子を食べていた。
これからどうするんだ?
「さて、どうしようかしらね」
何かあてがあったんじゃないのか。
「ないわよ。私だってそんな頻繁に人里に降りてきているわけじゃないもの」
それじゃあ、ここでじっとしているのか?
「う~ん、どうしようかしらね」
本当になにも考えていなかったようで、と言うか、今も真面目には考えているようには見えない。上の空、成すがままと言った感じである。
「要するに適当ってこと?失礼しちゃうわ」
本当のことだろう?
「あなたはこの先どうなりたいのよ。どこか行きたい場所でもあるのかしら?」
私は・・・。頻繁に誰かに読んでもらえる所が良い。
「・・・他には?」
いや、それだけだ。
雷鼓は不審な目で私を見た。
「一つ聞いてもいいかしら?」
何だ?
「本当にそれでいいの?」
・・・どういうことだ?
「あなたの言いたいことはわかる。頻繁に誰かに読んでもらえて、『本』としての本分を果たせるところ。確かに、私がもしあなたと同じ本だとしたら、これ以上幸せなことはないわ。でも、それと同じことがあなたに同じことが当てはまるの?」
・・・話が見えてこないんだが?
「あくまでとぼけるのね・・・。本当は知っているはずなのに」
雷鼓はそう言うと、もうどうでも良くなってしまったかのように、最後の団子を口に頬張る。
「フン、そうやって、無理矢理にでも話を変えようとするのならいいわ。あなたの言う通り、私にはどうでもいいことだし」
そして、お茶を飲み、一息ついたあとに更に彼女は続ける。
「この通りの先に、鈴奈庵っていう店があるの。知ってる?」
やっぱり、あったんじゃないか。あてが。
「最後に、あなたの本当の気持ちを確認してみたかっただけよ」
我々は団子屋の席を立った。
「おじさん。お勘定。ここ置いとくわよ」
奥のほうで、「はいよ」という声が聞こえる。雷鼓は上着のポケットからジャラリと小銭を取り出し、座っていた席に置いた。
「さて、行きましょう」
その、鈴奈庵にか?
「鈴奈庵は、小さな古本屋よ」
雷鼓ニッコリと私の方を向いて
「あなたにピッタリでしょ?」
失敬にそう言って、私を閉じた。
鈴奈庵に向かっている間、私は雷鼓の片腕に抱えられる形になっていた。目につくのは道行く人の、私達に対する視線である。理由はわかっている。それは雷鼓の服装にある。
ここの住民達の主な服装といえば、和服がメイン、と言うか、それ以外に見当たらないのに対し、雷鼓といえば、洋服。それも、かの霧雨魔理沙のような、洋は洋でも古き良きドレス風の洋服ではなく、もっと時代を先どった・・・
「もしかして、あなた幻想郷に来たのって割と最近?」
わからん。私のいたあの墓場(ヴワル魔法図書館のことである)には、時間を認識できるものがなかったから、いつ頃からこの世界にいたのか・・・って、お前、私の声が聞こえてるのか?
「バレちゃった?」
馬鹿にしているのか・・・。しかし、そう思えば、さっきのあのアリスの人形にも、私の声が聞こえていたみたいだったな。お前、他の本の声も聞けたりするのか?
「そんなわけないじゃない。あなたが初めてよ。もしかして、これもあなたの秘密に関わることだったりする?」
いや、このことは私も知らん。
「このことは、ねぇ」
探るようにフフンと笑う。
・・・お前、外からの目線は気にならないのか?
「何が?」
私の声は、無論、お前にしか聞こえていないわけだろう?
「あぁ・・・」
周囲からの怪しい目線がより増えた気がする。当たり前だ。自分にしかいない透明人間と話しているように見える人など、怪しいに決まっている。
「私が美人だからかしら?」
ババ臭い冗談はよせ。
「あなたよりは若いわよ」
私達はそうこう言いながら、段々少なくなる人並みをかき分け、この通りの、丁度収束地点付近と思われる場所まで辿り着いた。その店はちゃんとそこにあった。
「入るわよ」
“鈴奈庵”と大きく書かれた暖簾をくぐる。
スライド式のドアを開けると
チリリン。
という音が室内に静かに響き渡る。
薄暗い店内に、それでもわかる本の壁を見ながら、私は懐かしい空気を感じた。のは一瞬だけで、なんだか奇妙な空気に早変わりした。だからといって奇妙なものは見当たらないのだけれど。やはりなんだか変なところだと、不思議にそう思った。実質まだ少ししか外には出ていないのだが、今日この時点で、私はもう色々散々な目にあっているため、エルマーも驚きの大冒険をした気になっていた。この場所を変に思ってしまうのも、多分、それで少し興奮気味になっているだけかもしれない。
「いらっしゃいませ」
店の奥から、(また少女である)若い少女の声が聞こえた。少女は店の一番奥のところで、椅子と机に、本を装備してちんまりとそこに座っていた。
「見てもらいたい本があるのだけれど?」
「はぁ、もしかして、その抱えている本ですか?」
「そう、この本なんだけど。ダメかしら?」
「いえ、大丈夫ですよ。ちょっと見せてもらえますか?」
それを聞いた雷鼓は「ごめんなさいね。だいぶボロいんだけど」とまたも失敬なことを言い、店主である少女の前の机の上に置いた。そして、そのまま
「それじゃあ、私はこれで」
「え?」
少女はキョトンと、颯爽と入ってきた入り口に向かう雷鼓を見た。少しの空白を作って、大きな声で
「あ、あの!」
と呼び止めようとする少女に
「あぁ、買い取りのお金はいらないから。ちょっと捻くれてるけど、よろしく頼むわね。古本屋さん」
呆気にとられる少女をよそに、右手をひらひらさせて、雷鼓は出て行ってしまった。
「ここは貸本屋です!」
遅れて少女はそう言い返したが、そこにもう雷鼓の姿はなかった。
少女は背を伸ばして外を見たが、めんどくさかったのか席は立たず、そのまま手元にある私をみた。表紙と裏表紙を舐めまわすように見て、語尾をあげて私の名前を言ったあと、満を持して、私を開いた。
何も言わずに、私の中身を見ていた。
彼女が私にを読んでいる間、私はこの、古本屋だか貸本屋だか知らないが、ここの本の奇妙な空気を感じていた。
彼らは常に喋っていた。常に喋っているのは私も変わらないのだが、彼らのブツクサには相手がいない。
それぞれが単独で、一人で喋っているのだ。
彼らが何を喋っているのかは、声が小さすぎてわからない。のもいれば、聞こえれていどの声で
「私は、私な闇だ。私は、光?光なのか?」
となんとも言えぬ、妙ちきりんなことを言っているものもいる。
「おい」
私はなんとも、この奇妙な
「おい、聞こえてんだろ。新入り」
・・・私は、恐る恐る、声のする方を見た。
「な、何でしょう」
「便所コウロギって知ってっか?」
「は?」
「便所コウロギだよ。便所にいるコウロギ」
「・・・」
「気持ちいいだろうな」
「え?」
「便所コウロギだよ。気持ちがいいだろうな」
「・・・」
「・・・ふふふ」
私はここに来てからまだ数分と経っていないが、もうここから抜け出したい気持ちでいっぱいになった。と言うか、これから私はこんな奴らと一緒に共同生活を送っていかなければならないのか。
・・・何たることだ。
「何たることだとは失礼ね」
読み終えた店主が興味深そうに私を見る。その時だ。
チリリン。
「あ、いらっしゃいま・・・」
店主はそう言いかけて
「何だ、阿求かい」
と、気の抜けた声を出した。
阿求と呼ばれた少女は、もう言われ慣れていると見えて(もしくは単に気にしない性格なのかもしれない)、「何だ」と言われたことには触れずに
「どーも」
とだけ言って、両手に抱えている複数の書物を、店主の机に置こうとする。店主は私を机の隅に
「小鈴。本居小鈴よ」
「え、知ってるわよ。藪から棒に、なに?」
阿求は気味の悪そうな顔をしながら、店主、否、小鈴にそう言った。そして私をどけて開いたスペースに持っていた書物をドサリと置く。
「あんたに言ったんじゃないわ。この本に言ったのよ」
小鈴は私の表紙を阿求に見せた。
「えっと、なんて読むの?」
「フフン、教えない」
意地の悪い笑顔を阿求に向ける。阿求はむず痒そうな顔をしたが「まぁいいわ」と諦めた表情をすると
「で、これはなんの本なの?」
「読んでみれば?」
「言われなくても」
小鈴は再び私を広げる。阿求も小鈴の側に回りこみ、私を覗きこむ。
ペラリ、ペラリとページをめくるたび、阿求の眉間のシワが濃くなっていく。読み終えて
「なんなのこれ?」
と小鈴に言った。
「なんなの?って、ここに全部書いてあるじゃない?」
「本当のことなの?」
阿求は、それでも納得いかなそうに小鈴の顔を見る。誠に失敬な小娘である。
「多分ね。そうなんでしょう?」
小鈴は私に顔を向ける。多分も糞もなく真実である。
「随分と言葉が汚いようだけどね」
阿求は私を持ち上げ「ふ~ん」と言いながら、小鈴と同じように表紙と表紙裏を舐めまわすように見た。そして
「ねぇ、題名なんて読むの?」
とよっぽど気になったのか再度小鈴に聞いた。
「だから秘密だって」
阿求は怪訝な顔をして
「何よ。何か言ってまずいことでもあるの?」
「いや、まずいことはないと思うけど」
「じゃあ何よ。教えてよ」
「うーん、でも、きっと、多分この場合はわからない方が、この本の趣旨に沿う気がする」
「趣旨?なにそれ。・・・じゃあせめて、この本の題が、何語で書かれているかだけでも教えてよ。見たことない文字だけど・・・」
「それは私もわからない。見たこともないわ」
「それじゃあ、何もわからないじゃない・・・」
「と言うか、多分これ、題名の部分は敢えて誰もわからないように書いてるのかも」
「なにそれ、暗号ってこと?」
「多分そうだと思う。この本を作った人にしか、分からなく書いてるみたいね」
「う~ん?・・・そういうふうにしてるのも、この本の趣旨に沿うよう、わざとやってるってこと?」
「多分、ね」
「でも、小鈴は読めちゃうのね」
「そうだね」
小鈴は自慢気にフフッと笑う。阿求は一応納得したようで「まぁいいわ」と言いかける。しかし小鈴はそれを遮るように
「でも、後で教えて上げるよ」
「え?」
阿求はわけが分からなそうにウンウン唸る。それが小鈴には楽しいようで、嬉しそうにニヤニヤと阿求の苦悶の顔を見ていた。やがて、悔しそうに阿求が「はぁ」と溜息を出すと、やっとここで
「まぁいいわ」
と一言。阿求は私に目を落とした。
「ねぇ、あなた」
・・・私か?何だ?
「うわ、本当に会話出来た」
今更の驚きを示された。本当に今さらである。阿求は微笑を浮かべながら
「ごめんなさい。流石に初めての経験だから」
いや、多分今までが普通じゃなかっただけだ。その反応が普通だ。魔法使いだったり付喪神だったりとは違うだろう。
「それならいいわ。一つ聞いてもいいかしら」
なんなりと。
「この『ヴワル魔法図書館』っていうのは、紅魔館のことよね」
・・・紅魔館と言うのは?
阿求はここで驚いて
「ヴワル魔法図書館がある建物よ。知らなかったの?」
へぇ、初耳だ。
「本当に一歩も外に出たことがないのね・・・」
「『墓場』とか言われてるくらいだもんね」
小鈴が笑い事のように言う。全く笑えない話である。
と言うか、ここも似たようなものじゃないのか。
「そんなことないわよ!少なくても『死蔵』なんてことはないと思うわ」
私が言っているのはそういうことじゃない。ここの本の不気味さ加減のことだ。何だここに所蔵されてる本は!まともな本なんかないんじゃないか?
「失礼ね!ちゃんとまともな本だってあります!と言うかそれが大半よ!」(阿求はボソッと「五分五分ね」と言った)
嘘つけ!何だ便所コウロギって!
「それは、私にもさっぱりだわ。な、なんの本よそれ・・・」
すると阿求は席を立って
「これじゃないかしら」
と一冊、本棚から取り出した。まさしく、さっきの声が聞こえてきた本棚である。
「『佃煮百選。』確か、その中にコウロギを佃煮にする奴があったと思うけど」
確かにその本である事は間違いないようだった。ぼそぼそ「コウロギ、コウロギ」と呟いている。なんでそんなコウロギに執着しているのか。
阿求が呆れた顔で、『佃煮百選。』をめくる。
「これ、ほとんど、と言うかほぼ全部コウロギの佃煮だわ。コウロギの佃煮が、作り方とか、コウロギの種類とかを微妙に変えて、百種類書いてある」
小鈴も怪訝な顔をして、その本を覗く。
「あぁ、多分おじいちゃんだわ」
「おじいちゃん?小鈴の?」
「そう。この店の本の半分は、おじいちゃんの時代からあるものだから」
「変わったおじいちゃんだったのね。って、私はコウロギの本なんてどうでもいいのよ」
阿求は気を取り直したようにこっちを見て
「あなたの中を見ていると、ここに、幻想郷に来たのはそれほど昔じゃないようなことが書いてあったけど、ここに来る前はどこにいたの?」
そう言われて考えてみれば、うむ、覚えてないな。
「は?」
阿求は再び怪訝な顔に戻った。
「覚えてないって、どういうことよ」
そのままの意味だ。記憶が無い。分からないという意味だが?
「じゃあこの『ジョナ・ファルコン司祭』っていうのはなんなの?」
彼は私の作り主に当たるお方だ。
「あの絶賛は自画自賛かよ・・・」
小鈴が呆れたように言った。残念ながらこの小娘たちは、かの偉大なジョナ・ファルコン司祭を知らないらしい。それもしょうがないか。あんなコウロギ本を置いている店の店主など、所詮はそんなものか。
「コウロギはほっとけ!」
「もういいわよコウロギは!これ以上のコウロギの話題禁止!それに、『ジョナ・ファルコン司祭』なんて聞いたこともないわ。・・・本当にそんな人いるの?」
なんて愚かな小娘達だ!自分たちの持っている知識が絶対と信じて疑わず、それにほころびが生じると今度はその存在を疑うなんて!実に腹立たしい限りだ!彼の存在は、この私がここにいることが何よりも証明!本当にそんな人いるのだと?私は千年近くもの長い間、言わば流浪の旅とも思えるほどに数々の主人を転々としてきたが、こんな愚かな質問は初めてだ!
「さっきあなた、これまでの記憶はないって言ってたじゃない!ちぐはぐなのよ!あんたの言っていることは!」
阿求は眉間にしわをよせて
「それに、千年の旅なんてよく言えたものね。あなたの言うことが本当なら、ここに来る前の、その千年分『日記帳』はどうしたのよ」
日記帳だと!それは私のことか!
「怪しいわ」
とハッキリ口にした。全く、シワをよせたいのはこちらだというのに!
「あなた、本当に魔導書?」
それはどういう意味だ?
「実は、魔導書かなんかに化けた妖怪なんじゃないの?」
そんなわけないだろう!私の中身は全部ウソとでも言うのか?
「小鈴。あなたは見たのよね。この『堀川雷鼓』っていう、ここには付喪神って書いてあるけど」
「ええ、見たわ」
「どんな感じだった?」
「いや、別に普通の人間に見えたわ」
「普通の人としてはどうだったのよ?」
「そういえば、服装が周りより少し浮いていたわね。あまり見ない格好をしてたと言うか、でも、完全に見たことがないって感じじゃなかった、かな」
「どこかで見たことがあるってこと?」
「う~ん、何だったかな。でも、なんか似たような格好をしてる人がどこかに・・・う~ん・・・」
今度は小鈴がウンウン唸り始めた。
「・・・しょうがないわ。フン、でもあなたの言っていることが本当かどうか、確かめる方法はあるわ」
・・・何?
「魔理沙さんに聞いてみるのよ」
お、おま、今なんて言った!?
「だから、あなたを魔理沙さんに合わせる。あなたの中身が本物なら、魔理沙さんは相応の反応を示してくれるはずだわ」
そそそそれだけはよせ!?頼む!
「そんなに慌てなくても。それとも、嘘だとバレるのが嫌だからそんなに慌てているのかしら」
そうじゃない!私をまたあの地獄に返すつもりなのかと言っているんだ!このバカちんがぁ!
「バカちんなんて親にも言われたことないわ。親と言っていいのかわからないけど。けど、これでますますあなたのことが怪しくなったわ。魔理沙さんはどこにいるのかしら?ねぇ、小鈴」
小鈴はまだ、雷鼓の格好について考えているようで
「知らないよ。しばらく待ってたら来るんじゃないかしら」
と適当にあしらう。こっちの気も知らないでいい気なものである。と、その時だ。
チリリン。
「いらっしゃい」
反射的に小鈴が答える。そして
「あ、グットタイミング」
「へ?なんだ?」
聞き覚えのある声、あの地獄でわれら同胞を焼き殺したあの声。
「まぁよくわからないが、小鈴。聞きたいことがあるんだけど・・・」
間違いない!霧雨魔理沙だ!
殺せ!ここで殺せ!焼き殺せぇ!
案の定魔理沙は私を見つけると、目を輝かせて来た。
「おぅい、これどこで見つけたんだよ!」
阿求はキョトンとして
「え、じゃあ、ここに書いてあることって」
本当に決まっているだろう!あんぽんたん!
「もう、見つからないかと思ったぜぇ」
嬉しそうに私を覗きこむ。冗談じゃない!わ、わ、わ、止めろ!離せ!
「ここまで本に嫌われる人、初めて見たわ」
「そんなに嫌うなって、来週か再来週か、部屋は掃除するからさ」
お前それ絶対しないだろ!
「それじゃあ、小鈴。ちょっと借りてくぜ」
「あ!思い出した!」
場の空気をぶち壊して、小鈴が叫んだ。
「『ろっくばんど』だ。『ろっくばんど』!どこかで見たことあると思ったら、外から流れてきた音楽の本の中に、似たような格好の人達が楽器を演奏してたんだわ!」
阿求がそれに応じる。
「へぇ、どの本?」
おい!私はどうなる!?ちょっと?
すると小鈴は
「その本は持って行って貰っても構いませんよ。多分それがその本にとっても正解だと思うんです」
魔理沙はわけがわからないようで、それでも
「よくわからんが、分かった」
そう言うと手早く私を抱え込んだ。ってなんだ。正解もクソもあるか!私は自分の体にきのこなど生やしたくはない!や、や、止めろ!離せ!
その時だ。私は大きな光に包まれた。何かが発光しているのか。いや、私だ。私自身が発光しているのだ。
驚きの声を上げる魔理沙。しかし、その声もどんどん遠くに離れていく。そして完全に聞こえなくなり、優しい浮遊感が私を包む。
なるほど、もうリミットか。今回の主は、短気の癖があるらしい。それでも、今回の旅は少しハードだった。まぁ、それも一興ということだろうか。
なんにせよ。今回ももう佳境に入っているらしい。あとは、本来の役目を果たすだけだ。