食事が終わり
食器類は流しで水につけ、慧音は修繕の続き 私は…手持ち無沙汰になりぼんやりしていたが、慧音が
「どうせここじゃ普段からそうやってボンヤリしてるんだろ?」
と、持って来てくれた本を読む事にした
思いの外、夢中になってしまった
「ふううぅっっ…ッはぅ」
本を閉じて首の骨をゴキゴキならす
どれだけ読み耽っていたのだろう 慧音はと言えば、いつの間にか(いや、一声掛けていたか)服の修繕を終え、風呂に入って寝巻きに着替えも済ませ、押し入れから出して敷いた二人分の布団に陣取り、今度は箪笥から引っ張り出した綺麗な、しかしボロボロの服まで縫い直していた
慧音の事だから洗濯物を水に浸けたり食器も洗ってくれたんだろう
頭が下がる
この小屋に来るのは確かに初めてではないが、手慣れてるなぁ
「いいよそこまで縫わないで どうせ部屋着なんだし」
「その部屋着と大差無いくらいボロボロだぞ お前の普段着も」
「ぇー」
そんな大げさな
「他人の目にはそう見える」
腰を捻ってポリポリ鳴らせば、一度も手をつけなかった湯飲みが視界に入る
そう言えば、慧音が入れてくれたんだったか
「冷めたろう? 入れ直すぞ」
急須の中を覗いてからヤカンに手を伸ばした慧音を制し、冷めきった緑茶を飲み干す
「……慧音が入れてくれた緑茶は美味しいな」
「本音は?」
「冷めて渋くなってる」
「だろうな」
「でも美味しいよ」
「お茶なんて誰が入れても同じさ」
「寺子屋の先生がそんな夢の無い事言っていいの?」
「お前はもう大人だろう 年季だけなら」
「うへぇ」
*****
程無くして、慧音のお裁縫は終わった
厳密にはその少し前に「妹紅もやってみろ」と、針と糸と最後の服を私に手渡し慧音が手解きしてくれたのだが
流石に私も千年以上生きていて、その間寝食は要らずとも裸でいる訳にはいかなかったのだ
裁縫歴だけでも人間の人生数回分に相当するつもりだ
慧音は私が指を刺す位の事は考えたのだろうが、その予想に反して手慣れた手付きの私に
「なんだ、上手いじゃないか」
と嬉しそうに手を叩き、
「それなら普段から自分で縫わないか!」
と頬を膨らませた
忙しいやつだ
「全く…手伝ってくれればもっと早く終わったのに」
「慧音にやって欲しかったんだよ」
囲炉裏の火を掻き消しながら呟く
「そう言うのは目と目を合わせて言ってくれ」
「こっ恥ずかしい」
で、そんな茶番と同じくして寝支度に入り、布団に入った次第だ
壁際に隙間無く並べた二つの布団は寒さを凌ぐ為
枕の間には行灯が一つ
「それじゃ、今日はお世話になりました っと」
その行灯の灯りは、互いの口元が辛うじて見えない程度のもの
「御粗末様でした」