「鍵渡してたんだっけ、そう言えば」
吊り下げられた鍋を掻き回す慧音を背に、あちこちボロついた肩掛けのバッグ(人里で売っていた外からの品)を部屋の隅に置き、その上に服を上下とも脱ぎ捨てる
服はあちこち切裂かれ、焼けていたり汚れていたり、袖が根本から無かったり
ともあれ、まんべんなく血塗れだった
「人里からも“花火”が見えてな 様子を見に来た」
「あー… お騒がせしました」
今日はちょっといつも以上に熱くなっていたしなぁ 山奥の方から随分移動してしまった様だ
「また、かぐや姫とか?」
鍋の縁でお玉をコンコンと叩き、溜め息
「…ぁぃ」
桐箪笥(きりだんす)から着替えを探す手を止め、溜め息
「…風呂を沸かしてある 入ってこい」
「、あの風呂桶蜘蛛の巣が…」
「流して擦ったよ 軽くだけど」
「……面目無いっす」
*****
「今縫わなくてもいいのに…洗ってないんだし」
一っ風呂頂き頭を拭きながら居間に戻ると、慧音は裁縫箱を傍らに妹紅がさっき脱ぎ散らかした服を修繕していた
「私がこっちにいる間に済ませないとな 山道を背負って持ち帰るのは流石に遠慮したい」
傍らにはボロ布の小さな山
中途半端な乾き具合の血や土汚れが、乗せられた慧音の膝元にこびりついていく
「、気にするな まだ山登りの為の服だ、汚れて構わん」
「……」
「それにしたって…」と言う妹紅の視線に慧音は苦笑した
「私がやりたいからやってるんだ」
「…ありがと」
こうなってはもう何を言っても無駄だ 慧音は頑固だからな
「もうすぐ一段落する 先に食べててくれ」
「うん」
ここで嘘をつく必要もあるまい
好意に甘えてささくれた笹の座蒲団に座り、お玉で鍋の中身を掬う
…豚汁か
程無くして慧音も服と針を置き、お椀と箸に持ち変えた
「…着替えた方がいいんじゃない?」
「私が来た時のこの小屋よりは綺麗なつもりだ」
「すいませんねー」
「何より、私も腹ペコでな」
「…すいませんねー」
炭火が弾ける