Coolier - 新生・東方創想話

幻想郷のお正月

2013/01/01 00:15:39
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◇三日目◇



 目を開ける。時計を見ると時刻は六時前。まぁ許容範囲だろう。去年の三日目は十時だったし。それに昨日は服の仕立て直しが思ったよりかかってしまったので、寝るのが遅くなったのだ。のろのろと準備をするために布団を出ようとするが……ダメだ、寒い。もう少し布団であったまってからにしよう。あと三十秒数えたら布団から出よう。







「いい加減起きなさい」
「……ん?……あぁえーっと……17、18、19……」
「起きなさい!博麗霊夢!」
「うーん……紫が起きたら起きる……」
「……」



 ……ダメだ。これ以上やるとほんとにここが戦場になる。どうやら私は二度寝をしてしまったらしい。薄目を開けて時計をチラリと見る。



「八時過ぎか……。私、成長してる……」
「起こされなければまだ寝ていたでしょうに。それを進歩とは言いません」
「この時期の布団の魔力は強力なのよ……」
「わかる!超わかる!だよねー、あたいもついつい二度寝三度寝を繰り返して仕事ある日なのに起きたら夕方とかしょっちゅうだもん。仕方ないさ」
「あなたも少しは反省しなさい!」
「きゃん!」



 映姫の言うことも小町の言うことも最もである。とりあえず布団から出て支度をするから二人には居間で待ってもらうように言う。映姫がまた寝るんじゃないだろうか疑っていたが、そこまで信用がないのだろうか?……まぁ自業自得なのだが。







「お待たせ。それでは改めて、明けましておめでとう、映姫、小町」
「「明けましておめでとう(ございます)、(博麗)霊夢」」



 二人ともいつもの仕事着のままである。こいつらは着替えを持っていないのだろうか?


「今年こそはちゃんと仕事をこなしているかと思って来てみたのですが……どうやら予想通り、期待はずれだったようですね。もう少し真面目になったらどうですか?」
「毎年毎年オフなのにとりあえず説教から始まるのね。そういえば今年は珍しく三日に来たわね。何かあったの?」



 映姫は日替わりで閻魔を勤めている。だから毎年初詣には元日、もしくは二日の休みの方にやってくる(ついでに幻想郷中を新年早々説教して回る)。三日に来たのは今までで初めてだ。



「元日休みだったんですが、色々とあったんですよ」
「簡単に言えばあたいが元日に珍しく休みが取れなかったんだ」
「ふーん……あんた達は毎年二人で来るもんね」
「なにか問題でも?」
「別に何もないわよ」
「全く、元日に行けなかったからできるだけ早く行こうと思って早朝に出てきたのに、まさか寝ているなんて思いもしませんでしたよ」
「いや私も三日目の早朝っていう一番私が機嫌の悪いタイミングに知人がやってきて、しかも私をたたき起こすなんてことをするとは思わなかったわよ。自分で言うのもなんだけど、状況次第では八つ当たりに巻き込まれかねないのに」
「博麗霊夢、それがあなたの罪ならば全て受け止めてみせましょう。そして正しく裁くことが私の仕事です」



 なんというか、映姫は相変わらず話が通じない。頭が悪いわけでもなければ嫌な奴でもなく、まして自分勝手というのともなんか違う。職業柄なのかもしれないが徹底的に頑固なのだ。意見を聞く耳はあっても決して自分の考えを変えることがない。まぁ実際映姫の言ってることは正しいらしいから仕方ないのかもしれないが。
 そんなことを考えているうちに映姫と小町は二拝二拍手一拝をして参拝を終える。この二人は基本的にお賽銭を入れない。なんでも楽園の最高裁判長という立場のせいなのか、人にむやみにお金などを与えるのは良くないと考えているらしい。まぁその代わりに毎年それ以外の形で示してくれる。さっき台所を見るとまた新しくお節料理としていくつかのおかずが増えていた。適当に残っていた食材で作ってくれたのだろう。



「さて、今年は神社は賑わっていますか?」
「いつも通りね」
「そうですか。それならまぁいいでしょう」



 いつもなら参拝後、すぐに幻想郷中をまわるのに今年はその気配がない。それどころか縁側に座ってしまった。



「珍しいわね。いつもならすぐに行ってしまうのに」
「あなたがあまりにもだらしないので少し心配になったのです。少しあなたの仕事ぶりを見ていこうかと思いまして」
「邪魔しないのなら別に構わないけど」
「説教をしてあなたの仕事の邪魔をするような真似はしないのでご心配なく」



 新年早々説教してまわるのは流石にみんなの迷惑になるということに気づいたのかもしれないと思ったが、別にそんなことはなかった。



◇◇



「ふむ……思っているよりは勤勉に働いているようですが、参拝客がいないと巫女の仕事はほとんどないのですね」
「まぁ……基本的に掃除くらいよね」
「いいなぁ……。あたいも巫女になろっかな……」



 一応御札作ったり、おみくじ作ったりといった仕事もあるが、そもそもほとんど減らないので新しく作る必要はあんまりないし、掃除も割と毎日してるからそこまで大変ではない。実は『巫女』は割と楽な仕事なのだ。収入が壊滅的なだけで。異変解決は『博麗の巫女』としての仕事だし。



「ならばもっと参拝客が増えるように工夫するべきと言いたいところですが、流石に今日は巫女の仕事に専念してもらうべきですしね」
「今異変が起きたらどうするんだい?」
「そうねぇ……。ほんとにやばくなったら私が動くけど、今は他にも解決に動いてくれる奴がいるから任せようかしらね」
「魔理沙に早苗、最近は妖夢もたまに動くんだっけ?あとちょっと前なら咲夜もか」
「早苗は私と同じ理由で動かなさそうだし、妖夢もどうだろう?咲夜はレミリアが絶対に許さないから、結局魔理沙だけね。……あら?意外と少ないわね」
「異変解決は本来博麗の巫女の仕事ですからね。必要以上に増やすこともないでしょう」「確かに映姫様の言うことは最もだと思う。しかしその博麗神社の立地場所があまりにも悪いと私は思うのだが」



 声のする方を向いてみるとそこにいたのは慧音と……誰だろう?いやまぁ誰かはなんとなくわかるんだが、いつもとあまりにも格好が違いすぎる。私の知る限りこんなに着物が似合うやつではない。



「明けましておめでとうございます、上白沢慧音、そして藤原妹紅」
「明けましておめでとうございます、映姫様」
「……おめでと」



 映姫が言ったから間違いないのだろう。やっぱり横にいたのは妹紅らしい。慧音は毎年初詣には着物で来るが、妹紅は毎年いつもの格好で来ていた。しかし今年は髪も結ってあり、ちゃんと女物の着物を着て、薄く化粧までしている。ここに文がいたら間違いなく写真に撮られていただろう。



「明けましておめでとう、慧音、妹紅」
「明けましておめでとうございます、霊夢。少し笑顔に疲れが出てるぞ?もう少し頑張れ」
「……おめでと」



 妹紅はイマイチ機嫌がよろしくないようだ。隣の慧音は随分と機嫌がよさそうだが。



「それで先ほどの話はどういう意味ですか?慧音」
「うむ、博麗の巫女は中立の立場であるべきというのは分かっているから、なにも人里の近くに神社を建てろというわけではない。しかしこんな場所に建てられたら道中危なくて人里の人間は妖怪と違ってそう簡単に来れないだろう?」
「なるほど。そういう考えもありますね」
「そもそも異変解決の出来る者たちへの人里からのアクセスが少々不便なんだ。博麗神社、魔法の森、守矢神社、白玉楼、紅魔館。どれも人里からは遠すぎる」
「妹紅の仕事を増やせば解決じゃない」
「……なるほど。たしかにそうか」
「何勝手に人の仕事増やしてるのよ。あと慧音も納得しないで」



 ダメだったか。何もせずに人里からの参拝客を増やせるかと思ったのに。



「藤原妹紅、怠惰は人間の大きな罪の一つです。人としてはありえないほどの長い人生を過ごすのですからもう少し」
「私だけじゃなくて参拝客への説教もとりあえずやめてくれない?これで帰られたら立派な営業妨害よ」
「……失礼しました」
「あんたが私に特に説教臭くなるのは知ってるから、別に気にしてないよ」
「説教の内容はもっと気にしてくれてもいいのですよ?」
「……善処しとくわ」
「小町も」
「え!?あ、いや、はい。がんばります」



 いきなり話を振られて小町は慌てている。映姫も死ぬことがない、つまり裁判で裁けない妹紅については個人的に思うところがあるのだろう。



「そんなことよりも霊夢、いい話があるんだ!な、妹紅」
「ん?……あぁ、そうだったわね。うっかり忘れるところだったわ」
「何よ?」
「実はな……今年の初夢なんだが、妹紅が出てきたんだ!」
「……それで?」
「霊夢は知らないのか?『一富士二鷹三茄子』というのがあってだな」
「『四扇五煙草六座頭』って続くんだっけ?それがどうかしたの?」
「詳しいな。幻想郷で富士と言ったら妹紅だろう?」
「好きにすればいいんじゃない?」
「そういえば私は小町の夢を見ましたね」
「お、怒られてなければなんでもいいです」



 慧音は縁起がいいからとか関係なく、妹紅が夢に出てきたから良かったのだろう。イチャイチャしたいのならよそでやってくれ。



「何回話してるのよ……。もう恥ずかしいからやめてほしいんだけど」
「霊夢はどんな初夢だったんだ?」
「言いたくない」
「そうか、まぁ無理に聞くつもりはないが」



 初夢……、一応扇はもって出てきたっけ?あと名前は茄子の色だけど関係ないか。個人的な感情は置いといて別におめでたい夢でもないだろう。



「ところでいい話ってそれ?」
「そうだぞ?」
「いやそれは慧音にとってのいい話でしょ。そうじゃなくて。霊夢、人里から参拝客連れてきたわよ」
「ふーん……へ!?さんぱいkっつああっつ!」



 あまりに驚いたせいで舌をかんでしまったうえに、持ってたお茶をひっくり返してしまった。



「驚きすぎよ」
「いやごめん、ちょっと待って!…………………………よし、落ち着いた。で、その参拝客はどこ?」
「ここですよ。全く、なかなか呼ばれないので帰っちゃおうかと思いましたよ。まぁ一人では帰れませんが」



 階段を上ってくる音と共になんとなく聞いたことのある声が聞こえる。あどけない少女のような、しかしどこか知性を感じさせるようなこの声には聞き覚えがある。



「明けましておめでとうございます、霊夢さん」



 そう、たしか……幻想郷縁起を書いてる子!……やばい、名前が思い出せない。取材を受けた記憶はあるけど、なにせ割と適当だったから記憶が曖昧だ。どうしよう……いくら考えても思い出せない。人里でお肉を買った時に安くしてくれた大将、野菜をサービスしてくれたおばさん、お菓子をおごってくれたおっちゃん、みんな名前を覚えているのにどうしても思い出せない。



「どうかしましたか?」
「いや、ちょっと……人里から来る参拝者って慧音ぐらいしかいないから驚いちゃって……」
「慧音さんが連れて行ってくれると言ってくれたので来ちゃいました。また行きたいとは思ってたので良かったです」
「楽しみにしていたところ悪いけど、素敵なお賽銭箱以外は何もないわよ?」
「建前なので特に気にしないでください」
「……そう。まぁ連れてきてくれてありがとう、慧音」
「なにか苦労したわけじゃないし、別に気にするな」
「おや、映姫様もおられるのですか。明けましておめでとうございます」
「明けましておめでとうございます、稗田阿求。まだしばらくは私のもとに来なくてよさそうですね、なによりです」



 そうそう阿求だ、稗田阿求。映姫のおかげでなんとか思い出せた。



「明けましておめでとう、阿求」
「おや、随分と愛想がいいですね。私の取材の時は耳半分で受け答えをしていたのに」
「霊夢は毎年この時期だけは頑張ってるのよ。なんせ稼ぎ時だし」
「ほう、そうなのですか」
「変なこと書かないでよ?」
「私は今まで変なことなど書いたことはありませんよ」



 周りの空気が少し微妙なものになる。この子はあれを悪意で書いてるのか、それとも天然なのだろうか。微妙に判断がつかない。



「そうだ、人も少し集まってるしなにか出すわ」
「貧乏なのはみんな知ってますし、無理なさらなくても大丈夫ですよ?霊夢さん」
「うるさいわね」



 そう言って戸棚から丁寧に和紙で包まれた箱を取り出す。紙を破らないように気をつけながら箱を開けると、中にはお饅頭が入っていた。



「お饅頭があったわ」
「お、今年はお饅頭なのか」
「その言い方だと、毎年何か出ているのですか?」
「そうだな。毎年初詣に来た時には何かをもらっている、だよな妹紅」
「そういえばそうね。何年か前に食べたクッキーはひどかったなぁ……」
「ほう、霊夢がこのように参拝客を増やす努力をしていたとは知りませんでした。感心です」
「ふむ……このお饅頭は里で見た記憶はありませんが、霊夢さんの手作りですか?」
「いや違うわよ。まぁ貰い物になるのかしら」
「まぁなんとなく手作りっぽいよね。うん、、あたいは美味しいと思うよ。ちょっと甘すぎる気もするけど」
「そうでしょうか?私はもう少し甘いほうが好みです」
「映姫様は意外と甘党なんだな。私も少し甘すぎるかと思う。まぁ好みの範囲だがな」
「私は皆さんと違って甘さに合わせて紅茶を選ぶので、特に気にしませんが……あいにく紅茶はここにはないですよね」
「ここはお茶しかないわ。文句があるならレミリアみたいに自分で紅茶を持ってきなさい。で、肝心の妹紅はどうなの?」
「ん?……あぁ美味しいよ。甘さもちょうどこれくらいが好きだし」
「了解。伝えとくわ」



 今年は割と好評だったようだ。去年も割とマシだったが、それ以前はなかなかひどい有様だったから、少し感慨深いものがある。



「そういえば映姫達のせいで朝ごはんまだなのよね。誰か代理したい人いる?」
「代理?なんのことです?」
「それはだな……」
「はぁ……」



 慧音が事情を話すと阿求は思いのほか食いついてきた。



「なかなかできない経験ですし、是非やってみたいです」
「いや、代理を頼んどいてなんだけどいろいろと条件があるのよ。この中でできるのは映姫と妹紅だけね」
「も、妹紅はダメだぞ!この格好になってもらうのに私がどれだけ説得したと思ってるんだ!それにほとんど徹夜で準備したんだから、今年は絶対にダメだ!まだ写真も撮ってないし!」
「……らしいけど?」
「私はやっても構いませんが……せっかく初めての初詣ですし、なんとか阿求にやらせてあげられないですか?」
「そうねぇ……」







「どうですか?似合ってますか?」
「なかなか似合ってるじゃない」
「そうですね、いいと思いますよ」
「ありがとうございます」



 そうやって笑っているところだけを見れば、阿求も年相応に見える。



「妹紅さんもありがとうございます」
「別に構わないよ、大したことしてるわけじゃないし」



 阿求はたださえあまり体が丈夫ではない。この時期に巫女服なんて着たら、体調を崩しておおごとになる可能性だってある。そこで妹紅に部屋を暖かくしてもらい、そこから出ない条件で着替えてもいいということにした。阿求の希望は巫女服を着ることではなく、巫女の体験だったのだがそこは妥協してもらった。まぁ珍しい人里の参拝客だし、夏に来るようならいつかはさせてあげてもいいだろう。



「ふむ、お節料理はどれも美味しいが、味付けになんとなくばらつきを感じるな」
「あぁ、何人かが別々に作ってるのが混ざってるからね。基本はアリスだけど、藍が作ったのも少し混ざってるし、内緒なんだけど映姫も作ってくれたのもあるしね」
「ちょっと気になったんだけどさ……」



 妹紅が尋ねてくる。部屋から出ないことになった阿求では結局巫女の代理にはなれないので、それとは別に結局映姫が巫女の代理をすることになったのだ。どうでもいいことだが、妹紅は普段着慣れてる格好ではないはずなのに座るときや、食事するとき服などにちゃんと気を使っており、上品でその姿は様になっている。そういえば元貴族なんだっけ?


「映姫ってこういう服着るのに抵抗ないのね。普段いつもおんなじ服着てるからちょっと意外だったわ」
「映姫は何回か着たことがあるからね。初めて着た時も割と抵抗しなかったし」
「映姫様はあんまり格好とか気にしないからね。あたいはもう少し気を使ったほうがいいと思うけど」
「スペルカード戦にまでなったのは文とあんただけよ」
「う……」
「さっき思い出したんだけどあんたって昔貴族だったんでしょ?あんなに嫌がったのはそれに関係あるの?だったら去年のことは一応謝るけど」
「いやそういうんじゃないけどさ……ほら、私って普段そんな服着ないでしょ?だからなんか恥ずかしくって」
「似合うんだし、もうちょっとそういう服着ればいいのに」
「動きにくくて色々と面倒なのよ。あと殺し合いしたらどうせ燃えちゃうし」
「じゃあなんで今年は着物にしたの?」
「……新年の挨拶に慧音のところに行ったら既に着物が買ってあって泣きつかれたの。あまりに必死で流石に断れなかった」
「あんた来年からは毎年その格好ね」
「一応ちゃんと覚悟してOKは出してる……」



◇◇



 そのあと少しして慧音、妹紅、阿求は五百円、百円、千円札を九枚、入れて帰っていった。夜にはまた宴会があるのだが、阿求は参加しないから一旦返さないといけないし、二人とも少し食材を持ってきてくれるらしいので、また夜に来るそうだ。
 小町も遅めの朝ごはんを食べて縁側で昼寝をしだしてしまったし、あと来そうなのは……二組かな。そのうちひとつは宴会のちょっと前に来るし、もうひと組はごはん時を絶対に外してくるからもうそろそろ、もしくは夕方少し前に来るだろう。



「ふむ、小町は寝てしまいましたね」
「あら怒らないの?」
「プライベートをどう過ごすかは自由の範囲内ですし。まぁ改善して欲しい点は説教しますがね。小町は今日に休みを合わせるために昨日も仕事してましたし、まぁ寝かせてあげてもいいでしょう」
「まぁ別に構わないけどね」



 映姫に膝枕していもらっている小町は、気持ちよさそうにしていて起きる気配がない。その小町の頭を巫女服姿の映姫が優しくなでる。……映姫はいつまで巫女服着てるつもりなんだろう。



「あやややや。霊夢さん来ましたよー!今度はプライベートです」
「あぁ、やっぱり来たか」



 不意に空からやってきたのは文だった。例年通りならこのあとににとり、雛、椛も追いかけてくるのだろう。毎年みんなで着物ではないものの、自分達の正装を着て一緒に初詣に来ている。厳密に言えば文と椛は初詣にならないことが多いが。



「あんたらは毎年三日に来るはよね」
「まぁ一応私達もそれぞれ組織に所属している身分、色々と大変なんですよ」
「私には分からないわね」
「分からないままでいいと思いますよ」
「それで、あんたは後ろに何を担いでるの?」
「文さん、もう少しスピードを落としてください。せっかくみんなで初詣に来たんですから」
「あ、えっと、すいません。皆さん」
「文が後ろを振り返らないのはいつものことだしね。もう慣れたよ」
「でもそれじゃあ椛が可愛そうよ?文と一緒に初詣行くの楽しみにしてたのだから」



 予想通り遅れて椛、それににとり、雛とやってきた。みんなそれなりに大きな袋を担いでいる。そういえば元日に文にお賽銭のことで言伝を頼んだんだっけ?ということはもってきたのはお賽銭かしら?やだ、どうしよう、あんなにいっぱいお賽銭箱に入りきらないわ。



「明けましておめでとう、椛、にとり、雛」
「「「明けましておめでとう(ございます)、霊夢(さん)」」」
「やっぱり三日ともなると疲れは見えますね。初日ほどのいい笑顔は見られませんか」
「私はあいにく人間なの。疲れもするわ」
「まぁ一応宣言通り、三日目の昼まで頑張ってるようですね」
「最悪私が疲れちゃってもいいんじゃない?その代わりにあんたら参拝客が笑っていれば」
「博麗霊夢、あなたはいささか不真面目すぎる」
「今の発言は謝るから説教は勘弁して頂戴」
「おや、映姫様ではないですか。初詣で居合わせたのは初めてですね。明けましておめでとうございます」
「明けましておめでとうございます、射命丸文、鍵山雛、河城にとり、犬走椛」
「「「明けましておめでとうございます、映姫(閻魔)様」」」
「さて、せっかく来てもらったところ悪いけど、ちょっと待っててね」
「ん?どうしたんだい?」
「いやお賽銭箱を大きくしようと思ってね。今回みたいに入りきらない額を持ってこられても困らないように」
「雛さん、霊夢さんは何を言っているんでしょうか?」
「欲に目がくらんだのよ。椛は文に毒されてもこうなっちゃダメよ?」
「今の言葉はスルーさせていただきます」
「大工仕事は基本的に萃香の仕事なんだけど……椛の千里眼で見つかるようなら呼んできてくれない?」
「さすがに元上司をパシリ目的で呼び出せませんよ」
「じゃあにとりが手伝って。あんたもの作るの上手でしょ?」
「機械専門なんだけど……。自爆装置とかつけていい?」
「霊夢さんの家計が火の車ですね!」
「やめて。そんなことされたら私、泣くから。マジ泣きするから」
「みんな意地悪ね。霊夢がなんでこんな勘違いをしてるか、原因はだいたい察せているでしょうに」



 ……は?勘違い?



「雛さんもそう言ってることですし、といっても騙すつもりなんて全くなかったですけどね。霊夢さんが勝手に勘違いしただけなんですよ?」
「どういうことよ、椛」
「文さんが『霊夢さんが『守矢神社に入れたお賽銭に自分の年齢かけた額持ってきなさい』と言ってたので、今年は守矢神社へのお賽銭はお金以外にいないと大変なことになりますよ』と言ってたので」



 そう言いながら文達は担いでいた袋を開ける。中に入っていたのはお金ではなく、山菜だった。おそらく山で取れた分だろう。



「…………」
「そ、そんな怖い顔で睨まないでくださいよ霊夢さん。仕方ないじゃないですか!特に私はいつも通りの額を守矢神社に入れたらとんでもないことになっちゃいますし……」
「そういえば諏訪子に聞いたんだけど、山の連中は毎年随分と守矢神社にお賽銭を入れてるらしいわね。うちにはいつも千円くらいなのに。額自体に文句を言うつもりはないけど、この差は一体何かしらね」
「いや、だって、そこは仕方ないじゃないですか!組織の付き合いってものがあるんですし……ねぇ?」
「すいません文さん、私は所詮下っ端天狗なので給金も少ないですし、守矢神社も博麗神社も入れる額は大して変わりません」
「私もあんまり変わんないね。河童はその分技術提供してるし」
「私もよ。曲がりなりにも神だし、本来はお賽銭を払う立場ではないもの。守矢神社に入れてるのはむしろ博麗神社に入れるだけだと不公平だと思っただけだし」
「みなさん私を裏切った!?」
「……すいません霊夢さん、文さんも一応立場のある身の上です。それに新聞もあまり金銭の利益を考えない売り方をしていますし、お金にそこまで余裕があるわけではないんです。許してはもらえませんか?」
「別に冗談よ。守矢神社が随分と裕福らしいから少し嫌味を言っただけ。山菜も十分嬉しいし、ありがと」



 実際持ってきてくれた山菜の量は結構多いし、これだけあればしばらく食料には困らないだろう。持ってくるのも大変だっただろうし。



「さっきから誰も触れないけどさ、なんで閻魔様が巫女の服を着てるんだい?霊夢も今は食事してないし」
「私も気になってたのよ。そういえば文は写真を撮らないのね。珍しいしいつもなら撮ってそうなものだけど」
「文さんのカメラは今家に置いてきてるんですよ。じゃないとすぐ取材始めちゃいますから」
「あ、それで思い出したけどさ。あんた、新聞になんか細工した?」
「はて?なんのことでしょう?」



 文は首をかしげているが、この顔は分かっててとぼけている顔だ。



「あんたの新聞を焼き芋に使おうと思ったらいきなり爆発したのよ。どう責任取ってくれるの?」
「霊夢さん、新聞は読むものであって、焼き芋に使うものではないですよ?」
「読んでから燃やしたかもしれないじゃない」
「読んだのですか?」
「活字はあんまり好きじゃないのよ」
「そんなことだろうと思いました。新聞の記事の一つにパチュリーさんの描いた魔法陣があったんですよ。それで燃やすと爆発する仕掛けをしてもらったんです」
「イタズラで済まないでしょ」
「霊夢さんなら大丈夫でしょ?他の新聞は普通の新聞ですし」
「芋が焦げた」
「……それは、まぁ弁償します」



 文に限って大丈夫だと思っていたが、一応この新聞が入ってたのは私だけという確認は出来た。人里にもばらまいたなら流石に笑い事じゃすまなくなるし。



「それにしても小町さん、全然起きる気配無いですね。このまま起きないようなら新年の挨拶は宴会の時になりますかね」
「そういう文も割と朝は弱いよね。まぁ私も割と徹夜で機械いじりとかやっちゃうから人のこと言えないけど」
「文さんは今でも毎朝起こすのが大変ですよ」
「霊夢もあまり人の事は言えませんよ?今朝起こすのにずいぶん苦労したんですから」
「普段はもっとちゃんと……、いや起きてないけど。それにしても朝起きたら閻魔が馬乗りになって怒ってたのよ。一瞬とうとう死んだのかと思ったわ。それにみんなそこまで言わなくてもいいじゃない。私も文も何だかんだ元日には夜明け前に起きてるんだし」
「文さんは元日は毎年私が起こしてますよ?」
「椛も大変ねー」
「好きな人が新年に最初に見る顔は自分であってほしいじゃないですか。好きでやってることですし別に気になりませんよ」
「愛されてるわねー」
「い、いやー……、照れます……。でも霊夢さんだって完全に他人事というわけではないはずですよ?」
「分かってるし、なんだかんだそこは感謝してるわよ」
「新年最初に見るのが自分の大事な人の顔というのはやっぱり素敵なことだと思いますよ」
「だったら来年からはもう少し早く起きてくださいね?今年も寝ぼけた文さんに襲われそうになって大変だったんですから」
「す、すいません……」



◇◇



 その後も少し話をして文達は一旦帰っていった。時刻はお昼過ぎ、そろそろお腹もすいてきたのだが、参拝客は一向に来ないし、私の中でももうしばらくは来そうな奴が思い当たらない。



「もうそろそろお昼時ですが、誰も来ませんね」
「毎年来てる奴はもうほとんど来たし、もう夕方以外は来ないんじゃないかしら?だから悪いんだけど、このままお昼ごはんの時も代理やってもらってもいい?」
「来ないようなら仕方がないでしょう」
「それはちょっと困るかな。せっかくお姉ちゃん連れてきたんだし」



 突然の声にサッと振り返る。まぁここまで近づかれるまで気づけない奴なんてそう多くはないし、声で分かっていたが、やはりそこにいたのはこいしだった。普段の格好ではなく着物姿で随分と機嫌がよさそうだ。



「珍しい、というか初めてよね。あんたがうちに初詣に来るのは」
「やっぱりそうだよね。だって去年は……あれ?どこにいたんだっけ?」
「それじゃああんたのところのペットと変わらないじゃない」
「無意識の行動って記憶に残りにくいの。ほら、何も考えずにボーッとした後にその時何を見てたかなんて覚えてないでしょ?」
「イマイチ分かりにくい例えね。まぁ来てくれたんだし歓迎はするわ。明けましておめでとう、こいし」
「明けましておめでとうございます、古明地こいし」
「明けましておめでとー」



 そうやってこいしと話していると、階段を上ってくる気配を感じる。これはまた珍しいやつが来たものだ。



「明けましておめでとう、さとり」
「明けましておめでとうございます、古明地さとり」
「明けましておめでとうございます、霊夢さん、映姫様」



 やってきたのはさとりだった。もちろんこいつがうちに初詣に来るのもこれが初めてだ。こいしと同じく着物姿だが、こちらはあまり機嫌が良くないらしい。



「さて、帰りますよ。こいし」
「いやいや、せっかく来たんだしお賽銭は入れていきなさいよ」
「分かりました」



 そう言ってさとりは一万円札を二枚お賽銭箱に入れる。



「さて、帰りますよ。こいし」
「随分帰りたいようだけど、何か用事でもあるの?それとも単純にここに居たくないだけかしら?」
「両方です。そして残念ですが私は巫女の代理とやらをする気はありませんよ?映姫様がそのまま代理でやればいいでしょうし」



 せっかくいいタイミングで来てくれたことだし、このままさとりかこいしに代理を頼んでもいいかと思ったが、たしかにさとりの言うとおりだ。様子からして無理にさせようものならスペルカード戦まで発展しそうだし、ここは素直に映姫に任せてもいいかもしれない。



「えー!お姉ちゃん、せっかくここまで来たんだし、やっていこうよ!フランに教えてもらって楽しみにしてたんだから」
「出かける前に時計を頻繁に見てたのはこのためだったのですか。何度も言ってますが私は早くこいしと一緒に帰りたいんです」
「お姉ちゃんが一緒に巫女服来てくれるまで私帰らないから!」
「えっ!?こ、こいし!」



 こいしはよほど楽しみにしてたのか、全く譲る気はなさそうだ。さとりはこれまでの態度からこいしを無視して帰るのかと思ったが、そんなことはなく目に見えてオロオロし始めた。



「ねぇ、お姉ちゃんちゃんと約束守ったでしょ?だから今日はもう帰ろ?」
「たしかにそうだよ。でも私だって約束はもう守ったんだから好きにしていいじゃん」
「ペットもみんな待ってるし、こいしの食べたいものなんでも作ったあげるから。ね?
「そんなに長い間いないよ。だから、ダメ?」
「で、でもね、あの巫女服はほら、肌の露出が多いし……」
「たしかに今の季節は少々肌寒いかもしれませんが、そこまで気になりませんよ?」



 さとりが気にしてる部分はきっとそこじゃないと思う。まぁたしかにさとりの普段着に比べたら露出は多いか。それにしてもさっきからさとりの様子がどうもおかしいように感じる。なんというか……らしくない。こんなやつだったっけ?



「……分かりました。巫女の代理を受けましょう。それに少しくらいならここで過ごしても構いませんよ。私もちょっとらしくなかったですね」
「やったー!お姉ちゃん大好き!」
「私もですよ。皆さん先程までは失礼しました。少し取り乱していたのかもしれません」「幻想郷でその程度を気にしてたらやっていけないし、別に構わないわよ」
「説教するまでもなく気づいていただけてなによりです」



 こいしはさとりに許可をもらうと嬉しそうに神社の中に入っていった。さとりは『ご迷惑をかけます』と言って、縁側に腰を下ろした。



「そういえば参拝客は私達と映姫様達しかいないのですか?もう少し混んでいるものだと思っていたのですが」
「うるさいわね。あんたらみたいに来ない連中が多いのよ」
「人が少ないのは私にとってはいいことです。そもそも私達は長い間地上との行き来ができなかったので、初詣の習慣自体がないんです」
「あぁなるほど。じゃあこれからは習慣づけなさい。もう自由に地上まで来れるんだし」「自由に行き来できるようになったとはいえ、そこまで頻繁に行き来している者は少ないですし、年末年始はわざわざ地上に出なくても旧都ではそこらじゅうで宴会をやってます。なかなかあなたの思い通りにはいかないのではないでしょうか?」
「お燐とお空がいるじゃない。あいつら結構頻繁にうちに来てるし鬼達ほど宴会が好きなわけでもないでしょ?というかそういえばなんであいつら今まで初詣に来なかったのかしら?」
「私が泣くからですよ」
「あんたのせいか、貴重な参拝客候補なんだk……えっ?泣く?なんで?」



 さとりが少し涙目になっている。



「少し前に、といっても十年以上前なのですが、旧都で年末年始にかけて旧都で大きな宴会があったんです。私は大勢で騒ぐより家族みんなでのんびり過ごすのが好きなので適当な理由を作って参加しなかったのですが……私の知らない間にどうやらほとんどのペットは参加を希望してしまったらしく……」
「まぁペットって言っても基本的にプライベートは自由みたいだしね、あんたのところ」「そして気づくとみんなで飲もうと思っていたお酒を年明けに一人で飲むことになり、みんなで食べようと思っていたお節料理を元日に一人で食べて、お正月にみんなでやろうと思っていた双六を一人でやる羽目になったんです……」
「それは、まぁ、寂しいわよね」
「地霊殿の主になるまではこいしと二人きりだんたんですが、いつの間にか寂しがり屋になってしまっていたようですね。とりあえずそれ以来、年末年始はよほどの理由がに限り家族みんなで地霊殿で過ごすことにしてるんです」



 これは実は幻想郷全体に言えることだ。基本的に元日は皆一緒に住んでいる者とのんびり過ごす傾向にあるし、その気持ちもわからなくはない。紅魔館、白玉楼、命蓮寺の連中は元日に来ることは今まで一度もないし、永遠亭も元日に来たのは今年が初めてだ(そんなに長居もしなかったし)。元日に来るのはひとり暮らしの連中やのんびり過ごすことのできない連中、あとは律儀な映姫、一緒に来る小町、仕事として来ている藍と橙くらいか。



「理由は分かったけど、別に元日に来いって言ってるわけじゃないんだし、二日や三日でいいから来れないの?」
「そうですね……。あんまりペット達を縛るのもなんですし、考えてみます」
「あんたは来る気はないの?」
「できればお正月くらいは家でのんびりしたいです」
「来れたらでいいわ。じゃあ今年はなんで来たの?」
「こいしと約束したんです。『今年はお正月を家族と一緒に過ごす。その代わりに一緒に博麗神社に初詣に行く』って」
「どういうこと?」
「知ってるかもしれませんが、こいしは第三の目を閉じてからいろんなところを無意識で放浪するようになったので、お正月を一緒に過ごせることがほとんどなかったんです。だから今年は久しぶりに一緒に過ごせるので、ちょっとはしゃいでしまいました」
「ふーん。あんたら姉妹って仲良さそうなのに結構大変なのね」
「根本的に考えが違うのですよ。こいしは『私といろんなものを経験したい』と思っているんでしょうね。今回みたいに私をどこかに連れ出そうとすることが結構ありますし。けど私は『家族さえいれば他はいらない』んですよ。……映姫様、そんな顔をなさらないでください。それじゃダメなことは分かってますし、外に目を向けるように努力はしています」



 そうやってさとりが話している間に後ろの障子が勢いよく開いて、半裸のこいしが立っていた。



「巫女服見つけたけど着方がわかんない!」
「すいませんが小町が寝ているので、もう少し静かにしていただけませんか?」
「あぁ……今日のためにこいしに買った着物がシワだらけに……」
「あんた達、まず突っ込むべきは格好じゃないの?」



◇◇



 姉妹は巫女の代理をしたあと、少し話して帰っていった。だいたいそれくらいのタイミングで小町が目を覚ましたので映姫達も一緒だ。姉妹は地霊殿の責任者として旧都の宴会に出席しないといけないらしいし、映姫達はこのあと明日の仕事について予定があるらしく夜の宴会には不参加だ。残念ではあるが、来年来るかという質問にさとりが割といい返事を返してくれたし、良かったということにしておこう。
 空に赤く染まってきて、時刻も夕方と呼べる頃だろう。少しずつ夜の宴会の準備をしていると、いつも通りやってきた。おそらく今年最後の初詣の参拝客が。……厳密に言えば宴会のついでに初詣を行う奴もいるのだが。



「明けましておめでとう、レミリア」
「明けましておめでとう、霊夢」



 普段着ているのより少し気合の入った赤いドレス姿のレミリア。



「明けましておめでとう、咲夜」
「明けましておめでとう、霊夢」



 そのレミリアにいつもと同じメイド服で、いつものようにレミリアの日傘を持っている咲夜。



「明けましておめでとう、フラン」
「明けましておめでとー、霊夢」



 いつもとほとんど同じ格好だが、普段あまりしていないお気に入りのリボンをつけているフラン。



「明けましておめでとう、美鈴」
「明けましておめでとうございます、霊夢さん」



 その後ろでいつもの格好でフランの日傘を持っている美鈴。



「明けましておめでとう、パチュリー、小悪魔」
「明けましておめでとうございます、霊夢さん」
「……明けましておめでとう、霊夢」



 そしていつもより多く服を着こんでいるせいで体積が二倍くらいになってるため、自分であんまり動けず美鈴に背負ってもらっている手ぶらのパチュリーとその横にいる小悪魔。簡単に言えばやってきたのは紅魔館の住人だ。



「さて、まずはやらないといけないところからしてしまおうかしら。霊夢、今年入れられた中で一番高い額のお賽銭はいくらかしら?」
「一万円札を十枚以上入れていった奴がいたわね」
「はぁ!?去年の三倍以上じゃない!どこの誰よそんなに入れたバカは」
「代表で言うなら神子になるのかしら?最近霊廟から目覚めた連中で、まだお金に対する感覚がズレてるんだと思うわ。代理で入れたやつも苦笑してたし」
「これだから庶民感覚がないやつは嫌いなのよ」
「あんたも大概だと思うけどね」



 レミリア達は毎年三日目の夕方、宴会の始まる前にやってくる。そして三が日にみんなの入れた額より少し多い額のお賽銭を入れるのだ。二年前は二万五百円、一昨年は二万五千五十円、去年は三万円と美鈴のポケットに入ってた飴玉一個をお賽銭箱に入れていた。まぁこっちは儲かるから言うことはないのだが。



「お嬢様、別に無理することないんじゃないですか?身の丈にあった額を入れればいいと思いますよ?」
「何よ美鈴、私達が最近目覚めた新人に劣っているっていうのかしら?」
「そういう訳ではありませんが……」
「これは意地とプライドの問題なの」
「ねぇお姉様、私達が一番高い額をお賽銭として入れたことになればいいんでしょ?だったらお賽銭箱をきゅっとしてドカーンすればいいんじゃない?」
「一休宗純もびっくりの発想の破壊っぷりね。だけど三つ問題があるわ。そのためにはまず霊夢を倒さないといけない、倒した上にお賽銭箱を破壊してしまったらほんとに霊夢が路頭に迷うことになる、そして何よりスマートじゃないわ」
「ではお嬢様、その復活した霊廟の者達にもう一度眠りについていただいてはどうでしょう?いなくなってしまえば実質うちの勝利ではないでしょうか?」
「咲夜はバイオレンスね。そういうのも好みだけど、些かエレガントではないわね。それに私達は最早幻想郷の大御所でしょ?新人イビリみたいな狡い真似はしたくないわ」
「つまり解決策はレミィへの出費から差し引くしかないことになるわね。紅茶や食事の費用を削減すればなんとかなるでしょ」
「ぐ……私に融資してくれる家族はいないかしら?」
「すいませんお嬢様、そもそも私も美鈴も減らすほどお金を使うことがありませんので」「親友が意地を張るのは応援するけど巻き込まないでね?あと小悪魔も私の所有物だから」
「お姉様、私は意地も大切だと思うけどそれより食後のデザートのほうが大事なの。ごめんね?」
「……わかったわ。霊夢、今すぐ払える額じゃないからまた今度払わせてもらうけどいいかしら?」
「別にそこまで無理しなくていいわよ?もらえるなら遠慮なくもらうし返さないけど」
「無理なんてしてないわよ!」
「はいはい」



 宴会の準備はまだ半分くらいしかやっていなかったが、最後の参拝客をもてなすためにお茶を用意して縁側に腰を下ろす。そうするといつの間にか宴会の準備が終わっている。やはり咲夜は優秀だ。







「へー、今年は結構珍しい奴も来たのね。山の神に花の妖怪、阿礼乙女に地霊殿の管理者か」
「今年は収入も去年より随分増えたし、いい年を迎えれそうだわ」
「こいしちゃんも来たの?」
「えぇ。そういえばフランから巫女の代理のことを聞いたって言ってたけどあんた達って仲いいの?」
「仲がいいっていう程でもないけど、たまに勝手に入ってきた時にはお喋りしたり弾幕ごっこしたりするね。その時確か話したけど、そっかこいしの巫女服姿ちょっと見たかったなぁ」
「勝手に入ってくる……か。もう門番いらないんじゃない?」
「門番はそこにいることが大事なんです」
「いや門に入ってくる奴を対処するのが大事でしょ」



 レミリア達と今日までに来た参拝客について話しながら宴会までの時間を過ごす。日も落ちてきたしそのうち他の連中も来るだろう。



「まぁ幽香や諏訪子はどうなるかわかんないけど、来年はさとりと阿求は初詣に来てくれるんじゃないかしらね」
「ふーん……さとりって随分シスコンなのね。聞いていたイメージと少し違うわ」
「あんただって大概でしょうに。元旦と二日には毎年誰も紅魔館に入れずに家族だけで過ごしてるじゃない」
「人間とは時間の感覚が違うのよ」
「え?」



 レミリアは少し真剣な顔で私を見つめ、一瞬咲夜を見た後、ふっと表情を崩して笑う。


「霊夢、人間はどれくらい生きれるのかしら?」
「まぁ百年生きれたら大往生じゃないかしら?」
「そのとおり。長くてもたった百年。つまり人間は年越しをたった百回しか迎えることができないのよ」
「百回もあれば十分じゃない?」
「そこが人間と妖怪の感覚の違いよ。もうこの紅魔館のメンバーであと何回年を越せるのか。そんなことを考えたら、年始くらいは家族水入らずで過ごしたいじゃない」
「その割には今日ここに来てるけどね」
「あなた達も家族ほどでなくても大切なのよ」



 そう言ってレミリアは立ち上がり、ゆっくりと空に上がる。もう夕方ではあるが、念の為に咲夜が日傘を持ってレミリアにつきそう。かなり高くまで上がったレミリアは幻想郷全体を見回して言う。


「ここに来てよかったわ。紅茶を飲んでのんびり過ごす今が私はたまらなく愛おしいの」
「そのセリフは『楽園の巫女』としては喜ぶべきなのかしらね」



 レミリアを追ってなんとなく空まで上がって、返事をしてやる。



「ねぇレミリア、弾幕ごっこしましょうか」
「えらくいきなりね。どうかしたのかしら?」
「なんだかんだいってあんたはスペルカードルール導入後、初めての異変の首謀者じゃない。だったら一年の最初に博麗の巫女の相手をするのはあんたがふさわしいんじゃないかって今思いついた」
「相変わらず思い付きで生きてるわね。言ってることも滅茶苦茶だし」
「それに正月早々弾幕ごっこなんて幻想郷らしいでしょ?」
「そこは同意するわ。咲夜、もう日も落ちてるし日傘は大丈夫よ。私が博麗の巫女を叩きのめすところを下で見てなさい」
「いえ、少々お待ちになってください」



 そう言って咲夜が一旦下まで降りる。そして再び私達のいるところまで上がってくる。


「なんだったの?」
「いえ、今年初めてのスペルカード戦ですし、賭けでもしたら盛り上がるかと思いまして」
「みんなどういう風に賭けたのかしら?」
「私、美鈴、小悪魔がお嬢様の勝利にそれぞれ百円。パチュリー様と妹様が霊夢の勝利にそれぞれ三万円です」
「そんなにお金持ってるんなら貸してくれたっていいじゃない!」
「あんた期待されてないのね。あんたより下の立場のやつしかあんたの勝利に賭けてないじゃない」
「妹様からのメッセージで『次は私がやるから早くしてね?』と。パチュリー様からのメッセージで『負けたらお金足りないからレミィが払ってね?』とのことです」
「……こんなにも月が紅いから」
「いや今更格好をつけてもなんにもならないわよ?」
「……それもそうね。じゃあ始めようかしら。いくわよ霊夢!」
「楽しい夜になりそうね」
「あ、ずるい!」



 レミリアと弾幕ごっこを始めているといつの間にかギャラリー、宴会に参加する人妖達が集まってきていた。観戦するもの、酒盛りを始めるもの、弾幕ごっこを始めるもの、皆勝手に行動し、なし崩し的に宴会が始まった。正月早々馬鹿騒ぎだが、こういうのも思い出に残るし悪くないだろう。これも幻想郷のお正月らしいし。
 目を開けるとそこにあったのはいつもの天井だ。立ち上がり、体の調子を確かめる。十分冬眠はとれたようだ。
 毎年のとおり机の上の写真立てを手に取る。そこにあるのは二枚の写真で、寝る前とは写っているものが一緒だが、新しくなっている。一枚は私の大切な幻想郷、そこで過ごす者達の姿、お正月の宴会の記念写真だ。そしてもう一枚はその幻想郷の中で私が特別な感情を抱いている巫女の笑っている姿が写っている。
 境界を操って一瞬で身だしなみを整え、そしてその力でスキマを開く。随分遅くなったけど新年の挨拶に行こうか。新年最初に会う相手は昔ながらの友人でなければ、娘のように可愛がっている式でもない。



「明けましておめでとう、霊夢」
「……もう季節は春、遅いわよ。バカ」
「待たせてごめんね?」



 私の新年はこの笑顔で始まるのだ。
福哭傀のクロ
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コメント



0.2240簡易評価
5.100名前が無い程度の能力削除
新年からホクホクできてよかった
9.100名前が無い程度の能力削除
やっぱりトリは紫ですよねー。
なんだかんだでみんなから愛される霊夢さんですね
10.90奇声を発する程度の能力削除
良い新年を迎えられそうです
11.100名前が無い程度の能力削除
これは良い愛されいむですね。
とりのゆかりんもいい感じでした。
20.100名前が無い程度の能力削除
落ち着いた風景、幻想卿の日々を自然に描かれていて素敵。
そして流石レミリアお嬢様。いい大取りでした。
24.90名前が無い程度の能力削除
あけおめ!
それにしても幻想郷は広いですね!
たくさんキャラが出てきて面白かったです。あったかい気持ちになりました。

ついでですが誤字?を見つけたので。
3ページの真ん中らへんで、多分(失礼)文のセリフ
仕方ないじゃないです!。

そのちょっと下、椛のセリフ
好きでやてることですし別に気になりませんよ

更にその下、映姫さま
「来ないようなら止むおを負えないでしょう」

もしかしたら既にお気づきになっているかもしれませんが報告させていただきました。
31.無評価福哭傀のクロ削除
 まず、ここまで注意の多い上に長い文章を読んでいただき誠にありがとうございます



5さん・10さん
 楽しんでいただけたようで幸いです。新年一発目に投稿しようとして……度胸がなくて結局こんな中途半端な時間になってしまいました。……ページを分ける方法探ってるうちにいつの間にか年が明けてたのは内緒……。

9さん・11さん・20さん
 この話のトリは紫という考えもできますし、そこは番外という扱いでレミリアがトリともとれると思います。要はそこは読者しだいです。……20さんが後書きを読んでいないということがなければ。
 この作品では私の中の幻想郷を表現してみたつもりです。今後多少これとは違う性格でキャラを出したり、関係性は変えたりすることはありますが、私の中の幻想郷は基本的にこんな感じです。

24さん
 ……誤字は申し訳ありません。ご報告本当に感謝します。これについてはもう言い訳はしません。今後さらに気をつけていきます。
 多分今後これ以上のキャラは出せないと思います。大変でしたが書いてて楽しかったです。セリフを言ったキャラは全てあってます。
44.703削除
長いですが、読みやすい文章ですっと読み終えることが出来ました。
今更ですが、「青娥」が「青蛾」になっている箇所がいくつか有りました。
45.無評価福哭傀のクロ削除
44さん

 投稿した後自分の作品の感想が増えてないかちょこちょこ覗いてるのですが、まさか増えてると思ってなかった!
 ただ……キャラ名間違えるのは最悪だ……。これはマジで反省しないと……。
 誤字報告ありがとうございました。長い自覚はあったので、すっと読めたのなら少し安心しました。

 今後も誤字気をつけないと……青娥が出てくる作品は3つ程書いてる途中だし……。