「このお茶美味しいわねぇ」
「当たり前よ。私が作ったんだもの」
「その言い方、お前が普段作るお茶は全て美味しい、みたいな言い方だな」
「ちょっと、それはどういう意味よ?」
「言葉通りの意味なんだぜ。咲夜はたまに飲めないようなお茶も作るからな」
「ちょっと二人とも、喧嘩はやめてよね」
今日は珍しく家の中が騒がしい。
魔法の森にある私、アリスの家には仲が良い友人が集っていた。
紅魔館からパチュリーと咲夜、近所から魔理沙の三人だ。
今日は「たまにはお泊り会でもしようぜ?」という魔理沙の提案により、この四人でお泊り会なのだ。
ちなみにパチュリーは小悪魔と一緒に来る予定だったらしいのだけれど、風邪のために小悪魔は欠席。
紅魔館で妖精メイドに介抱されているとのこと。
で、その代わりにお世話役として咲夜が来たのだった。
パチュリーによると、小悪魔は「パチュリー様は行って来てください」と言ったそうな。
良くできたお世話係よね。まぁ、今回はお世話される側になっちゃったぽいけど。
「それにしても咲夜、お屋敷の方は貴方抜きでも大丈夫なの?」
咲夜は紅魔館のメイド長。
そのメイド長抜きで仕事は進むのかしら?
「大丈夫よ。うちのメイドはああ見えてしっかり者なんだから。ドジな子も多いけど」
「いいよなー、メイドさん。ウチにも一人くらいくれないかね?」
「レンタルなら格安で承ってるわよ?」
「金取るのならいいや。私はタダでお世話を見てくれるメイドが欲しいんだ」
そんな会話を聞いて、少し呆れてしまう。
魔理沙の家はどうしようもないほどに汚い。
それは彼女が片付け下手だからだ。
まぁ、面白そうなものはどんどん家に持って帰るという性格のせいでもあるだろうけど。
もし魔理沙の家に妖精メイドを連れて行ったら、どういう反応をするかな。
……たぶん開いた口がふさがらなくなると思う。
いや、逆にものすごいやる気を出すかも?
そんな子を何人か知ってるし。
「自分の世話くらい自分でしなさいよ」
私の言いたいことををパチュリーが代弁してくれた。
まさにその通り。
「いやー、あれほど散らかると自分でするのも面倒でねー」
「はぁ……呆れて物も言えないわ……」
ため息をつくパチュリー。私も同じ意見よ。
「今度はお泊り会の代わりに『魔理沙亭掃除の会』を開かなくちゃいけないわね」
「あら、それはいいわね。もしそうなったら、ウチから何人かメイド引っ張ってくるわよ?」
「お、それは良いアイデアかもな。考えとくぜ」
私が冗談っぽく言った提案を、良いアイデアと言う魔理沙。
そんな彼女を見て、皆が苦笑した。
と、その時だ。ドンドン、と扉を叩く音が外から聞こえた。
「あら、お客さんかしら? ちょっと行ってくるわ」
席を立ち、廊下の先にあるドアへと向かう。
なんだろう? 郵便かな?
「はいはーい、どちら様?」
ガチャリ、とドアを開けると目の前には見覚えのある顔が。
「やっほー、アリスちゃん。元気にしてたー?」
「ま、ママ!?」
ニコニコと笑う顔は紛れもなく私のママ、神綺その人だった。
「そんなに驚かなくても良いじゃない」
「いや、いきなり来られたら誰だってびっくりするって……
ま、それは別に良いや。入って入って。今日は友達も来てるから紹介するね」
「あら、アリスちゃんのお友達が来てるのね。どんな子か楽しみだわー」
うふふ、と笑うママを家の中に招き入れ、私はまたリビングへと戻る。
いやー、いきなりママが来るなんてね……
「お客さんは誰だったー……って神綺じゃないか!」
「あら、魔理沙ちゃん、お久しぶりー」
談笑していた魔理沙はびっくり仰天。
そりゃあ、そうなるわ。
「えーと、どちら様? 二人の知り合いみたいだけれど……」
パチュリーは私達を不思議そうに見ながら切り出した。
あー、そういえば二人はママのこと知らないのよね。
「えっとね、一応私のママ」
「「ま、ママ!?」」
咲夜とパチュリーが同時に驚く。
あー、やっぱ驚くわよね。
「どうも、神綺です。いつもアリスちゃんがお世話になってるみたいで……」
「あ、いえ、こちらこそ……」
そう挨拶を交わす三人。
「……本当にお母さんですか? 私はてっきりお姉さんかと」
咲夜が疑問を口にした。
「あー、よく言われるのよね。でも私はれっきとしたお母さんよ?
ん、でもお姉さんでも悪くないかな!」
「と、まぁ、こんな母です……」
ママと私はよく姉妹に見られる。
昔はそうでもなかったんだけど、最近は姉妹って勘違いされることが多くなったなぁ。
でも私から見ても、ママはすごい若いとは思う。
どうやったらこうやって若さを保てるのだろう。
んー、魔界の神だから、とか?
「とりあえず、椅子もあるし座ってよ」
「あら、ありがとね」
ママに椅子を勧めてから、私もさっきから座っていた椅子に腰掛ける。
「そういえば、上海ちゃんたちは?」
ママはきょろきょろと辺りを見回している。
実は上海、蓬莱、ゴリアテの三人は幽香の家にお泊りに行っていたりする。
あの三人は幽香、メディスンと仲が良いから、よくお泊りに行くのよね。
「あの子達は幽香の家にお泊りしてるよ」
「へぇ、幽香ちゃんの家にねぇ……幽香ちゃんは元気かしら?」
幽香は魔界にいた頃からの付き合いなので、ママももちろん知っている。
そういえば、この前「神綺さんに会いたいわねぇ」なんて言ってたな。
また今度呼ぼうかしら?
「うん、幽香は元気にしてるよ。ママにも会いたがってたし」
「あら、そうなんだ。それじゃあ今度また挨拶に行かないとね」
そうねぇ、今度はママと一緒に幽香の家に行こうかなぁ。
ま、機会があればね。
「それにしてもいきなり来るなんてびっくりしたじゃない」
「あら、そっちに行くって手紙は出したはずなんだけどねぇ」
「手紙? 届いてないけれど」
出した手紙が届かないなんてことは滅多にないはずなんだけれど……
もしかして事故か何か?
「……あ、ごめん。ポストに投函するの忘れてた」
「だぁーっ!」
てへへ、と笑いながら持ってきたバッグの中から手紙を見せるママ。
その言葉に私たちは全員ずっこけた。
「と、投函し忘れなんて流石は神綺だぜ……」
「ウチの妖精メイドよりもドジかもしれないわね……」
「咲夜の言う通りね……」
「あはは……」
そう呆れる三人と苦笑するママ。
「そういうところはやっぱり昔から変わらないね、ママ……」
「昔からなんだ……」
パチュリーのそんな言葉が聞こえたので、過去の失敗をみんなに話すことにする。
すごいんだから、ママの失敗。
「あー、前は砂糖と塩を間違えたりとかしてたわねー」
「そんな今時珍しいミスを……」
「あとはうっかりカレーを肉じゃがにしてたりとか」
「ちょ、全く別物じゃん!」
皆が一斉に突っ込んだ。
「あー、あったわねぇ、そんなこと。自分でやったことだけど忘れてたわー」
「いや、忘れないでよ……あの時はびっくりしたんだから。
作ってたものはカレーだったはずなのに」
ママはすでにうっかり屋というレベルを超えているんじゃないかと私は思っている。
だって、ここまでくるとうっかりじゃ済まないもの……
「あはは……でもカレーと肉じゃがって似てるじゃない」
「「「「どこが!?」」」」
四人のツッコミがハモる。
「いや、材料入れて煮込むところとか」
「そこしかあってないじゃん……」
「ま、まぁ、間違いは誰にでもあるって! あは、あはは……」
いや、間違いじゃ済まないって。
「な、なんか色々とすごいのね……アリスのお母さんって……」
「ああ、神綺は昔からこうだからな……まったく、すごいよ……」
咲夜と魔理沙の苦笑と呆れが混じった声が聞こえた。
うん、色々とママはすごいわよ……
「そ、そんなことより! せっかく五人もいるんだから、トランプでもしましょうよ!」
あ、無理やり空気を変えに来たわね……
しかしその時、トランプと聞いて三人の目の色が変わるのを私は見た。
「トランプ、ね。紅魔館のトランプマスターと呼ばれた私と勝負する気ですか?」
いや、咲夜、そんなの初めて聞いたんだけれど。
「そういえばこの前のポーカーの借りをまだ返してないわね、魔理沙?」
「そうだな……ま、今日もお前は私に勝てないだろうが」
「そんな口が利けるのも今のうちだけよ……?」
「はっ、それならやってみるか!?」
「望むところ!」
あ、魔理沙とパチュリーもやる気満々だ。
「あら、みんなやる気になったみたいね。アリスちゃんも……もちろんやるでしょ?」
「あ、う、うん、もちろん」
ママが昔から変わらないのはうっかり屋な所だけじゃない。
今みたいに場の空気を一変させてしまうのも昔から変わってないところだ。
ま、空気を一変って良くも悪くもなんだけれどもね。
「さぁ、始めましょうか! 魔界神のトランプの腕前を見せてあげるわよ!」
こうしてママの失敗話暴露からトランプ勝負へと流れが変わっていくのでした。
ま、やるからには私も勝ちを狙いに行くわよ!
ママだろうと誰だろうと負けないんだから!
「はい、私、上がりね……ふぅ、貧民転落は避けられたわ」
「咲夜は平民街道まっしぐらねぇ。で、あの二人は……」
「おいおい、また親子で仲良くドベか?」
「う、うぅ……」
数種類のゲームを終え、結果は私とママの惨敗。
なんでこう仲良く負けちゃうのかしら……
ちなみに交互にビリと一個上の順位をママと行ったりきたりしている。
「今回はママには勝つわよ!」
「ふふ、やってみなさい、アリスちゃん……! さぁ、来なさい!」
……そう言ってるけど、実はもう私の勝ちは決まってるのよね。
「八で切って、二を出して、三で終わり!」
「な、ななな……」
「お、最後は神綺が大貧民か。お疲れー」
ラストゲームは私がママに勝った。
その一個前は私が大貧民だったけどね。
まさか手札交換で余って、出す場所を逃してしまった二のカードがここで役に立つなんて思いもしなかったわ。
「それにしても魔理沙が連続大富豪って言うのがね……」
私がポツリと呟くと、魔理沙は胸を張った。
「今日は運が良かったなー。自分でも恐ろしいと思うくらいにツイてたよ。
パチュリーもなかなかにツイてたみたいだが」
「私のは全て計算の上よ。もちろん運もあったけど。で、トランプマスターさんは?」
「うーん、今日はダメダメでしたね。カードもあまり良いのが来ませんでしたよ……」
三人でそんな会話をしている。
私たちはそれ以上にダメダメだった気もするけど……
「あうー、勝てなかった……」
「ほら、ママもいつまでも落ち込まないでよ……」
勝てなかったりすると落ち込むあたり、子供っぽい性格をしているのよね。
そんなところもママの特徴なんだけれども。
「あー、勝負は時の運って言うだろ? こんな日もあるさ」
「うーん、そうだよね……」
そんな感じにフォローする魔理沙。
この様子を見ていると、どちらが年上なのか分からなくなるなぁ。
ちょっと笑いがこみ上げてきてしまう。
「ん、そろそろ夕食の時間ね」
「え、もうそんな時間なの?」
咲夜の持っていた懐中時計を覗き込むと……あ、ほんとだ。
うわぁ、私たちってば、結構トランプにのめりこんでいたのね……
全く気が付かなかったわ。ゲームって恐ろしい。
「うーん、流石にそろそろ夕食の準備をしなきゃいけないわね」
そう漏らしたとき、ママが反応した。
「ん、夕食? だったら私が作るわよ!」
「え、ママが? いいの?」
「もちろん! 私に任せておいて! ぐふっ、げほっげほっ……」
「だ、大丈夫ですか、神綺さん……?」
ドン、と胸を叩いて……むせるママ。どうやら勢いよく叩きすぎたっぽい。
本当に任せて大丈夫かな……
「へ、平気平気……ごほっ。と、とにかくママに任せなさい!」
「だ、だったら任せるよ。うん」
まぁ、今までもずっと料理を作ってきたわけだし、腕が悪いわけではないのよね。
おっちょこちょいな面があるから危なっかしいとは思うけれどもさ。
それに……久々にママの手料理を食べてみたい。そんな気持ちが今、すごい強い。
だから私は任せることにした。
「それじゃ、台所借りるわね。皆は待ってて。とびっきり美味しいもの作ってあげるから!」
「期待して待ってるぜー」
「お願いします」
「怪我しないように気をつけてくださいね?」
口々にママへと声をかける三人。
ああ、怪我だけはしないようにして欲しいわね。
ママに何かあったら、なんて思うと胸が張り裂けそうになっちゃうから……
「さて、と。私たちはここで待たせてもらおうかな」
「そうね。それにしても、神綺さんのご飯ってどんな味なのかしら」
「アリスのお母さんですから、とっても美味しいご飯を作ってくれると思いますよ。
ねぇ、そうでしょ、アリス?」
「え、ええ。ママの作るご飯はもちろん最高よ!」
少しぼーっとしていたところにいきなり話を振られ、多少戸惑ってしまう私。
でも、ママのご飯が最高の味なのは保障するわ。
「そこまで言われたら、余計楽しみになってきたわね……期待して待とうっと」
「それにしても……神綺さんって面白い人よね」
「え?」
咲夜がクスクスと笑ったので、思わずそう問い返してしまう。
「いや、私たちよりも年上のはずなのに子供っぽいっていうか……」
「あー、神綺は昔からああだったぜ?」
「あ、やっぱり昔からだったんだ。なんかそういう気がしてたのよね」
魔理沙の言葉に頷くパチュリー。
「でも母親としては尊敬できるんだよなー。
わざわざこうやってアリスの家に訪ねてきてくれるくらいだからな。
娘のことはすごい愛してると思うんだ。私もあんな母親になりたいもんだよ」
「結婚相手もいないのに?」
「むぅ、余計なお世話だ」
私が笑いながらそう返すと、魔理沙は膨れっ面になった。
その様子がおかしくて、また笑ってしまう。
皆も私につられて笑っていた。
「でもその気持ちは私も分かるわね。
神綺さんは本当に素晴らしい母親だと思うし、私もあんなになりたいわ」
「パチュリー様には同意しますけど、おっちょこちょいな面は似たくないですね」
「あっはっは! それは言えてるな!」
咲夜の一言でまた爆笑に包まれる面々。
若干毒舌な気もするけど、本当のことだから仕方ない。
私もあそこだけは似たくないって思ってるしね。
でも……あれくらいが可愛げがあってちょうど良いのかも?
「ふぅ、美味しかった……あれほど上手いシチューを食べたのはいつぶりだったかな」
食事が終わり、私たちは食後のティータイムを楽しんでいた。
魔理沙はママ特製のシチューを何杯も何杯もお代わりしていたなぁ。
私もパチュリーも咲夜も「美味しい美味しい」と言って何杯もお代わりした。
「ほんとほんと。あれが『お袋の味』って奴なのかしらね」
「私のお母さんを思い出しちゃったくらいですよ……とても美味でした」
「ふふ、褒めてくれてありがとね」
お袋の味……どれだけ料理が上手くなってもあの味だけは出せそうにないわ。
まさにママだけが出せる味、ね。
「それにしても、咲夜ちゃんが入れてくれたこの紅茶は美味しいわね」
「あ、その紅茶は私が作った特製の紅茶なんですよ」
「へぇ、そうなのね。うん、美味しいわ」
そういえば、ママは紅茶が好きだったわね。
一時期はすごい凝ってて、いろんな紅茶の茶葉を買ってたこともあったっけ。
「もし気に入ったのなら、茶葉をお分けしますよ?」
「あら、いいの?」
「もちろん。家に帰れば、まだたくさんありますしね」
「すまないわねぇ。それじゃありがたく……」
ママは咲夜から紅茶の缶を受け取り、蓋を開けて香りを楽しんでからまた閉めた。
余程気に入ったのか、満足そうな顔をしている。
「うーん、やっぱり紅茶の香りには癒されるわねぇ……」
「咲夜のは香りも味も良いからなー。そこらへんの店で売ってる高い紅茶にも負けないぜ?」
「ああいうのには流石に負けるわ。高いだけあって味も香りもあっちの方が上よ」
「そうかー? 私はこっちの方が好きだけど」
「とりあえず、褒め言葉として受け取っておくわ。ありがと」
私も咲夜の紅茶の方が好きだなぁ。
美味しいからこればかり飲んでるくらい。
「そういえば、パチュリーちゃんって魔法使いなんだよね?」
「え? はぁ、まぁ一応……」
ママは今度はパチュリーに話しかけた。
いきなりの振りに戸惑ったのか、しどろもどろに返事をしてしまうパチュリー。
「アリスちゃんって貴方から見てどんな感じ?」
「そうですね……努力を惜しまないし、勉強熱心だし……素晴らしい魔法使いだと思いますよ」
パチュリーったら、私のことをそんな風に思っててくれたのね……ちょっと嬉しくなる。
「やっぱりアリスちゃんはすごいのねぇ……
私の駄目な面を見て育ったから、ここまでしっかりした性格になったのかしら?」
否定したいけど否定できない私がいる……
「ママを支えられるように、しっかりしなきゃ」なんて思って育ったのは事実だし……
「で、でもママから学んだことも多いのよ?」
「例えば?」
「お料理とか、お掃除とか……家事はほとんどママに教わったようなものよ」
これは嘘偽り無い。
ママは小さかった私に丁寧に家事を教えてくれた。
おかげ様で私は一人暮らしするには困って無いし……
「だからママがいなかったら今頃一人暮らしなんて出来てないよ」
「……アリスちゃんがここまで成長してくれただけでもママは嬉しいわ。
よくここまで育ってくれたね」
「ひゃっ、み、皆が見てるって……!」
皆が見ている前で、頭を撫でられてしまった。
嬉しいんだけど、恥ずかしいよ……
「あとは恋人の一人でもいれば、安心できるんだけどねぇ……」
「恋人、ねぇ……」
恋人は確かに欲しいなぁ。
「そういえば、アリスちゃんは小さい頃に『将来魔理沙と結婚する!』なんて言ってたわねぇ」
「「ぶっ!」」
ママの言葉に、私と魔理沙はお茶を猛烈に噴き出してしまう。
「え、それ本当なの?」
「き、気になるわね……」
しかも咲夜とパチュリーが食いついてきたし。
「あ、うん、確かに小さい頃はそんなこと言ってたけれども……」
「け、けど、あの頃はお互いに小さかったしなぁ……」
真っ赤になる私たち。
「じゃ、今はどうなのかしら?」
ママー、そこ突っ込まないでよー……
「さぁ、言っちゃいなさい……!」
「どうなの、二人とも?」
うわぁ、咲夜もパチュリーも目がマジだ……
うーん、ここは正直に言った方が良さそう。
それに変なこと言ったら大変な目にあいそうだし。
「えっと、今は貴方たち三人と一緒にいるのが楽しいなーって思ってたりして、その……」
「ん、つまり……どういうことなんだぜ?」
「あー、つまり『私は貴方たち三人を愛しています』ってことねー」
ちょ、のん気にそんなこと言わないでよママ!
いや、間違っては無いんだけれど!
「そ、そうなの……?」
うぅ、三人とも一斉に私を見ないで……
「まぁ、間違ってはいない、かな。四人でいるときが一番楽しいのは本当だし……
とりあえず友人としては大好きよ……?」
うつむきながらそんな答えを返す。
すると三人は……
「わ、私もアリスのことは大好きよ、うん……」
「私も魔理沙、アリス、咲夜と一緒にずっと過ごせたらなー、とは思ってるわ……」
「アリス、その、私も大好きだぜ……?」
や、やめて、そんなに真っ赤にならないで……
私まで真っ赤になっちゃうから……
「うんうん、青春ねぇ……」
頷くママに何か言ってやりたかったけど、今の私にはそんな余裕は無かった。
こうしてティータイムの後半は、なんだかピンクのような赤のような色に包まれたのでした。
こっ恥ずかしいティータイムも終わり、ふくろうの鳴き声が響き渡る森の深夜。
私たちはパジャマに着替え、寝室のベッドで寝ようとしていた。
「うぅ、ちょっときついな……」
「それじゃ、魔理沙だけ床で寝る? 布団はあるわよ」
「う、それは勘弁して欲しいぜ」
ダブルベッドが二つあればなんとか五人で寝れるのよね。
ところでこのベッド、普段は私と上海たちで一個ずつ使っている。
もしかしたら使う機会があるかなーと思ってダブル二つにしたんだけれど、ダブルベッドにして正解だったわね。
おかげさまで誰かが泊まりに来たら、大活躍してくれるわ。
「それでも二つくっつければ十分な広さになるわね」
「ええ、なんとか五人寝れるくらいの広さにはなるのね」
咲夜とパチュリーはなにやら感心している。
「それにしても、アリスちゃん……両手に花ねぇ」
「そ、そうかしら?」
ママにそう言われて横を見ると……魔理沙とパチュリーが。
言われてみれば両手に花、かもしれない。
「アリスは幸せ者だなー。私たちみたいな美女に挟まれてるんだからな」
「そうそう。なかなかこんな光景はお目にかかれないわよ?」
「……ふふ、確かにそうかもね」
二人の言葉に少し笑ってしまう。
パチュリーも魔理沙も確かに美女だからねぇ。
まぁ、魔理沙は性格が男っぽいけれどもね……これ言うと怒られそうだからやめとこ。
でもこう見えて意外と乙女なところはあるのよね。
可愛いものが好きだったり、甘いものが好きだったり。
魔理沙のそんなところは可愛らしいと思うし、逆にそんなところが大好きよ。
「私は蚊帳の外ね……」
「私も蚊帳の外ねー」
そう言う咲夜とママはそれぞれパチュリーの隣と魔理沙の隣にいる。
咲夜もママも好きだけど……今日は流石に隣で寝るのは無理ね。
ごめんね、二人とも。
「まぁ、咲夜は今度遊びに来たときに一緒に寝れば良いじゃない」
「それはそうですけれど……」
「あ、今度は妖精メイドも一緒に連れて、遊びに来れば良いんじゃない?」
「ん、それも……なかなか良いですね」
パチュリーの提案に頷く咲夜。
私もそれは面白そうだなーと思ってしまう。
妖精メイドたちが遊びに来たことは何回かあるけど、咲夜と一緒に来たことは無いからね。
「ま、私はもう一泊していくつもりだから、明日一緒に寝れば良いけどねー」
あ、ママは明日も泊まるつもりなんだ。
まぁ、上海たちが帰ってくるのは明日だからちょうど良いかもしれないけど。
「私も時間があればもう一泊したいところだけど、予定があるからなー。残念だぜ」
「私もお嬢様が心配だからもう一泊はきついわねぇ……」
「あー、私もこあが心配だしね……残念」
「ふふふ、それじゃ明日は私がアリスちゃんを独り占めできるのね」
悔しがる三人と、一人笑うママ。
私も予定が合うならもうちょっと皆にいてもらいたいんだけれどね……
流石に皆予定があるからしょうがないか。
「まぁ、会うの久々なんだろうし、明日はお母さんと一緒に過ごした方がいいでしょうね」
「うん、私もそれは思う」
「だなー。明日は一日親子水入らずでまったり過ごすのが良いと思うぞー」
みんなの言う通りね。
久々に会ったんだから、明日は親子水入らずで過ごすのが良いかも。
「さてと、私はそろそろ寝る。おやすみー」
「あ、おやすみ魔理沙……私たちも寝ましょうかね」
「そうですね。それではお休みなさいませ……」
「あ、皆が寝るなら私もー。お休み、みんな」
あ、皆寝ちゃった。
じゃ、じゃあ私もそろそろ……
「皆、お休み……」
そう呟いてから、私は目を閉じた。
そうすると、パチュリーと魔理沙の体温が伝わってくるのが感じられた。
あぁ、やっぱり皆で寝るのって気持ち良い……おやすみ、皆……
朝の日の光が部屋に差し込んでくる。その眩しさに、私は目を開けた。
「んんー……ふわぁ、もう朝ね……」
体を起こし、大きくあくびをしながら体全体をうーんと伸ばす。
「ん、もう朝か……おはようアリス」
私が起きたせいなのか、魔理沙も目を擦りながら起き上がった。
「おはよう魔理沙。良い朝ね」
「ああ、良い朝だな、んっ……」
「ん……」
魔理沙とおはようのキスを交わす。
これは私達の挨拶のようなものだから、恥ずかしさとかそういうのはあまり無い。
ま、やっぱり少しはドキドキしたりもするけど。
ちなみに咲夜、パチュリーともしたりする。魔理沙も二人とするしね。
ま、今はそんなことは置いておきましょ。
横を見てみると、パチュリーはまだぐっすりと眠っているようだった。
そして意外なのは咲夜。早起きするかと思いきや、そうでもないのね。
「咲夜、まだ寝てるわね」
「普段は仕事があるせいで、早く起きてるからなぁ。
咲夜もたまにはゆっくり寝たいだろうさ」
「ふふ、そうね」
彼女も苦労してるのよねぇ。今日は仕事も無いし、ゆっくり休んでいってね咲夜。
サラサラの銀髪を撫でながら、私は心の中でそう呟いた。
すやすやと眠る姿は歳相応の女の子のものね。
普段てきぱきと働いてる姿からは想像できないわ。
「それにしても神綺は何処だ? 姿が見えないけど」
「うーん、多分朝ごはんを作ってるんじゃないかしら?」
「朝ごはんか。神綺の朝ごはんなんて何年ぶりかなぁ」
「そういえば、こっちに来てから魔理沙は食べたことないもんね」
私にとっても久しぶりのママの朝食なので期待していたり。
最後に食べたのは……確か数ヶ月前ね。
「それじゃ、行きましょうか」
「ああ、そうだな」
ベッドを出て、パジャマから普段着へ着替える。
寝ている二人の横で服を着替えるのってなんか変な気分ね……
なんかいやらしい行為をしているみたいで……
「よし、着替え終わったー。それじゃお先ー」
「あ、待ってよ魔理沙!」
部屋を出て行く魔理沙を、服のボタンを掛けながら慌てて追いかける私。
外に出ると、朝食の良い香りがリビングに漂っていた。
うーん……いい匂い。
「おはよう、神綺」
「あら、おはよう魔理沙ちゃん。アリスちゃんもおはよう」
「おはよう、ママ」
案の定、ママは朝食を作っている最中だった。
ピンクのエプロンがとても似合っている。
ちなみにそれは私が普段使ってるエプロンだったりする。
こうやって見ると、見慣れたエプロンも新鮮に見えるわね。
「もうすぐ出来るからねー。あ、配膳だけ手伝ってもらえるかしら?」
「お安い御用だ。な、アリス?」
「ええ、もちろん」
魔理沙の言葉に頷いて、台所へ駆け寄る私達。
今日の朝ごはんは、ハムエッグにトースト、サラダ。
うんうん、朝食らしい朝食ね。
シンプルだから朝の忙しい時間でもさっくり作れるのは大きな利点。
それでいて栄養は十分!
「ママは最後のやつを焼いてから持っていくわねー」
「わかったー」
そんな親子らしい会話をしてから、テーブルに料理の盛られた皿を置いていく。
「おはよー……まだ眠いわねぇ……」
「おはよう、二人とも。今日は二人よりも遅く起きちゃったわ」
と、ちょうどパチュリーと咲夜が目を擦りながら起きてきた。
「おっ、おはよう。朝食出来てるぞー」
「おはよう。後は運ぶだけだから、二人は先に座って待ってて」
「そう? それじゃ、お先に失礼するわ。さ、パチュリー様もお座りください」
「うん、わざわざありがとね」
二人に座るように言ってから、残ったお皿を台所まで取りに行くことにする。
咲夜はパチュリーの座る椅子を座りやすいように引いてから席に着いた。
流石は瀟洒なメイド。抜かりないわね。
おっと、急がないと食べ始めるのが遅くなっちゃうわね。
急げ急げ。
「あとはこれだけ?」
「うん、お願いできる?」
「もちろん!」
台所に駆け込み、ママに返事をしてから残ったお皿を手に持って居間へと急ぐ。
あとはこれを置けば……うん、朝食の準備は完了。
よく見てみると、魔理沙がみんなの分の紅茶をカップに注いでくれていた。
お、気が利くわね。あいつは昔から気が利くのよ。
そこは変わってないみたい。
「よいしょ……みんなの分は揃ってる?」
「ええ、揃ってますよ」
ママの問いに咲夜が答える。
「それじゃ、早速いただきましょうか!」
「そうですね。冷めないうちに……」
咲夜の言うとおり。
冷ましちゃったら美味しくなくなるもんね。
「それじゃ、頂きまーす」
「頂きます!」
私のいただきますに続いて、皆も頂きますを言って食事に手をつけ始めた。
「ん、美味しい!」
「朝はやっぱり美味しい朝食から始まるよなー。うん、最高だよ」
「これはこれは……私も見習いたいわね……」
皆の口からそんな言葉が漏れる。
やっぱりママの作るご飯は最高ね!
ちらりと横目でママを見ると、私達の様子を見ながらにっこりと微笑んでいた。
まるで……「私達皆」のママみたい。
「昨日の夕食も今日の朝食も絶品だったなぁ。
いやぁ、良いもの食べさせてもらったよ」
「うんうん。ここまで美味しい朝食は初めてかもしれないわ」
「あら、私達が作る朝食はどうなんですか?」
「美味しいけれど、流石に神綺さんのには負けるわね」
「だったら私もメイドももうちょっと努力しないといけないですね」
食後に三人はそんな会話をしていた。
私とママは後片付け。
私がお皿を運び、ママがそのお皿を洗う。
こうしてると、まだ小さかった頃のことを思い出しちゃうわねぇ……
いつも私が運ぶお皿をママが綺麗に洗ってくれたっけ。
「ありがと、アリスちゃん。ここはママがやっておくから、お友達と話してらっしゃい」
「え、いいの?」
「だって、皆そろそろ帰っちゃうんでしょ? 今のうちに話しておきなさい」
「うん、そうする。ありがとね!」
最後のお皿をママに預けて、私はリビングへと戻ることにする。
「お、お疲れアリス」
「うん、ただいま」
「ねぇ、アリスはどう思う?」
「へ? 何が?」
帰ってきた瞬間、咲夜にそう振られた。
そこで咲夜の代わりにパチュリーが説明してくれる。
「あー、今度紅魔館でパーティがあるからそれに神綺さん誘うのはどうかしら、って話」
「なるほどねー。ママだったら喜んで参加すると思うけれど」
「ん、分かった。今度詳しい日程が分かり次第、貴方に招待状渡すから届けてもらっても良いかしら?」
「ええ、もちろん良いわよ」
紅魔館のパーティ、か。
そういえば最近ご無沙汰だったわね。
久々に皆でわいわい飲み食いできると考えると、楽しみになってくるわ。
「さて、と……私達はそろそろ帰ろうかしらね」
「そうですね。お嬢様のことも気になりますし」
あら、二人はもう帰っちゃうのね。
魔理沙はどうするのかしら?
「魔理沙も帰る?」
「んー、私はもうちょっとここにいるぜ。神綺とも色々話したいところだし」
「なるほどね。会うの久々らしいし、話したいこともたくさんあるんでしょうね」
「ま、そんなとこ」
パチュリーに対してそんな返しをする魔理沙。
ふむふむ。魔理沙はもうちょっといる、と。
「それじゃ、私達はこれで」
「神綺さんによろしく言っておいてね」
「ええ、わかったわ。二人とも気をつけて」
そう言って、二人は手を振りながら家を出て行った。
残されたのは私と魔理沙、そして台所にいるママ。
「ふー、それにしても久々に神綺と一緒に寝たなぁ」
「魔理沙は子供の頃以来かしら?」
「そうだなー。あれ以来かも」
子供の頃はよくお泊りとかしたもんねぇ。
あー、懐かしいな。
「ふぅ、やっと終わったー。あれ、咲夜ちゃんとパチュリーちゃんは?」
と、ママが洗い物を終えて戻ってきた。
「あ、お疲れ様。二人はもう帰ったよ」
「二人とも急がしいようでね」
「ふぅん、もうちょっとゆっくりしていけばよかったのに」
そう呟きながら、ママは椅子に腰を下ろした。
「でもこれで、久々にこの三人でゆっくり話せるわね」
「そうねー。でも魔理沙ももう少ししたら帰るってさ」
「あら、そうなの?」
「んー、まぁ、用事があるからなー」
「それは残念ね……また三人でお風呂とか入りたかったのに」
三人でお風呂、という単語を聞いて「あー、確かになー」なんて漏らす魔理沙。
魔理沙、ママとお風呂かぁ……昔を思い出すわね。
昔は良く三人でお風呂に入ったっけ。
魔理沙と二人でママの背中流したりとかしたなぁ。
ま、今でも二人とは一緒にお風呂に入ったりはするけれども。
「ま、それはさておき、二人の近況が聞きたいわね。
昨日はあまり聞けなかったから、今聞いても良いかしら?」
「ああ、いいぜー。面白いことがたくさんあったからなー」
「私も話題ならたくさん持ってるわよ」
「それじゃ、二人とも、ママにお話聞かせてよ」
「ええ、もちろん!」
私と魔理沙は元気良く頷いた。
そういえば、魔理沙もママのことが好きなんだよね。
だからママは二人にとってのお母さんと言っても過言じゃない……かもしれない。
こうして私と魔理沙は、かわるがわる最近起こった出来事をママに話すのでした。
「いやー、面白い話がたくさん聞けて満足よ」
「そんなに面白かったか?」
「ええ、もちろんよー。友達の話とか異変の話とか、それはもう面白かったわ」
ニコニコと笑うママ。
いろいろなことを話したけど、ママは全部の話を面白そうに聞いていた。
時折質問も交えながらね。
「さてと、私もそろそろ時間だから帰ろうかな」
「あら、もうそんな時間?」
む、言われてみれば、もう昼前だ。
魔理沙は午後から用事があるって言ってたし、そろそろ帰らないとまずいかもね。
「ああ、そんな時間なんだぜ。それじゃ、二人ともまた今度会おうぜー」
「ええ、また今度」
「また皆で遊んだりしましょうねー」
私とママは手を振って魔理沙を見送った。
……そして残される二人。
「……二人きりになっちゃったね」
「そうね。こうしてアリスちゃんと二人きりになるのも何年ぶりかしら」
「数ヶ月ぶり、じゃないの?」
「んー? ……あ、そういえばこの間二人きりになったわね」
いかにも思い出した、という風にママは手をポンと叩く。
もう、ママったら忘れっぽいんだから。
「じゃ、二人きりになったし……ママの膝の上に来ない?」
「……うん。それじゃ遠慮なく」
席を立ち、ママの膝の上に腰を下ろす。
えへへ、久々のママの膝の上……いい気持ちー。
「おっきくなったわね、アリスちゃん」
「えへへ、ありがと」
ママは優しく頭を撫でてくれた。
今みたいに二人きりだと思いっきり甘えられるんだよね。
「アリスちゃんは昔も今も甘えん坊さんなのかしら?」
「もう、それは言わないでよ……」
「ふふふ、ごめんごめん」
あぁ、こうしてるだけで幸せ……
「ねえ、アリスちゃん。体ごとこっち向いてくれる?」
「へ? 別に良いけど……ひゃっ!?」
ママの方へと体を向けると、ぎゅっと抱きしめられてしまった。
「アリスちゃん、可愛い……」
「ま、ままぁ……」
顔を赤くしながらも、私はママの背中に手を回し、抱きついた。
あぁ、いい匂いがする……と、その時。
「あ、あれ? ちょ、きゃあっ!?」
「ひゃあっ!?」
バランスを崩して、二人とも椅子に乗ったまま後ろにバターン!と倒れてしまった。
「あいたたた……」
「アリスちゃん、大丈夫?」
「ええ、何とか……ママは?」
「私も何とか大丈夫よ。はー、びっくりした……」
びっくりしたけど、お互いに怪我がなくてよかった……
「ただいま帰りましたー」
「ただいまですー!」
「マスター、帰りました……よ?」
そんな声に振り返ると、玄関に続く廊下の入り口に上海、蓬莱、ゴリアテの姿が。
しかも私達の様子を見て固まる三人と目が合ってしまった。そしてしばし沈黙に包まれるリビング。
えーと、今の私達の状態は他人が見ると「私がママを押し倒して襲おうとしてる」ように見えるわけで……?
もしかしてあの子達もそう勘違いしたんじゃないかなと思うわけでして。
「……上海、蓬莱、外に出るわよ」
「そ、そうだね、邪魔しちゃいけないもんね……」
「二人ともごゆっくりー……」
やっぱり勘違いしてる!
「ちょ、ちょっと待ってー! これ、そういうのじゃないから!」
「そ、そうよ! いや、若干そういうのだと嬉しいかなーとは思うけど……」
「何言ってるのよママ! 誤解解いてってばー!」
勘違いされてしまった私達は、真っ赤になって弁解を始めるのでした……
ちなみに三人の誤解を解くのに三分ほど掛かりました。
「それにしても、上海ちゃんたちとも久々に会うわねぇ」
「そうですねー……」
誤解も解け、ママの膝の上でニコニコしている上海。
ちなみに青い服を着ているのが上海で、赤い服を着ているのが蓬莱だ。
私以外の人が見分けるには服の色と口調に気をつけるしかないと思ってたり。
まぁ、お互いに似てるものねぇ……
「ちょっと上海ー! あとで私にも代わってよー?」
「あとでねー」
「もー……」
上海の言葉に頬を膨らませる蓬莱。
二人一緒に座れば良いのに、とか思ってしまったのは内緒。
「あ、マスター、これ幽香さんからです」
「ん、お土産?」
私のことをマスター、と呼んだのはゴリアテ。
上海と蓬莱にとってはお姉さんのような存在だ。
余談になるけれども、三人はそれぞれ私の呼び方が違う。
上海は「アリス様」だし、蓬莱は「ご主人様」。
そしてゴリアテは「マスター」だ。
ゴリアテは二人より大きいので、初対面の人でも分かりやすいと思う。
さて、それは置いといて……お土産って何かしら?
新聞紙に包まれた長いものだけれど……とりあえず新聞紙を取り払ってみることにする。
「ん、これは……わっ、綺麗なひまわり!」
新聞紙の中には立派なひまわりが。
「幽香さんが『庭で綺麗に咲いてたからアリスに持っていって』と渡してくれたんですよ」
「へぇ、立派に咲いたわねぇ……」
流石は幽香。こんな綺麗な花を育てられるなんて只者じゃないわ。
フラワーマスターの異名は伊達じゃないわね。
「ん、それ、幽香ちゃんから?」
「うん、そうみたい」
「へぇ、綺麗ねぇ。そういえば幽香ちゃんは昔からお花が大好きだったっけ」
「そうなんですか?」
ママの話に上海と蓬莱が興味を持った。
どうやらゴリアテもちょっとばかり興味があるみたいね。
ママのほうに顔を向けて、興味津々といった目をしているし。
「ええ、昔からお花をたくさん育てたりしててねー」
「ほうほう!」
「昔からお花好きだったんですねー」
上海と蓬莱はそんな感じにママと仲良く話している。
で、ゴリアテはというと。
「昔の幽香さんってどんな感じだったんですか?」
「んー、今とあんまり変わらない、かしら? 花好きは昔からだったけど。
あとは昔はズボン履いてたわねー」
「ズボン姿の幽香さん……気になりますね」
私と話しているのだった。
せっかくだから、あっちに混ざれば良いのに。
まあ、私も退屈しないから別にいいけれどね。
「ゴリアテはママのところに行かなくてもいいの?」
「いえ、神綺さんは今上海たちとお話してますからね。邪魔は出来ませんよ」
ふーむ、やっぱりしっかり者ね。
二人のお姉さんに相応しいわ。
「流石はお姉さんねー。よしよし」
「む、や、やめてくださいよ……恥ずかしいです……」
頭を撫でられて恥ずかしがるゴリアテも良し。
こういうところが可愛いのよね。
「さてと、そろそろゴリアテちゃんともお話したいのだけれど、どうかしら?」
「あ、それじゃ私たち交代しますね!」
そう言ってママの膝から飛び降りる上海と蓬莱。
あれ、いつの間に二人とも膝の上に?
……ま、どうでもいいけど。
「さ、ゴリアテちゃん、私の膝の上においで!」
「は、はいっ!」
三人をも惹きつけるママの魅力……すごいなぁ。
そんなことを言う私もママには惹きつけられちゃうんだけれどもね。
「んー、ゴリアテちゃんも大きくなったわねぇ」
「そ、そうですか……?」
「ええ、前会ったときよりも大きくなってるわよ。ふふふ、色んな所がね……」
「あ、あぅ……」
えと、ナチュラルにセクハラするのはやめてもらえますかお母さん。
放っておいても害はなさそうだけれどさ。
「アリス様ー! 今度はアリス様の膝の上でー!」
「ご主人様ー! 私もぜひお願いします!」
「ん、二人ともおいでー」
それじゃ、私は残った二人とお話しましょうかしらね。
ふふっ、やっぱり三人とも可愛いわ……
こうして五人での楽しい時間はあっという間に過ぎていったのでした。
ちなみに私はその時間の半分以上をニヤニヤして過ごしていました。
だって皆可愛いんだもん。
「いただきまーす!」
「はい、どうぞー」
今日の夕食は皆大好き、ママ特製のハンバーグ。
ママによると、隠し味が決め手とのことらしいんだけど……なかなか教えてくれない。
うーん、気になる……スパイス? それともヨーグルト?
「冷めないうちに召し上がれー」
「はーい!」
んー、まぁ、今はそんなこと気にしないでおこう。
冷めないうちに食べなくちゃ、ね?
それじゃ、いただきまーす。
「んー、やっぱり神綺さんの作るご飯は美味しいですー」
「アリス様のご飯も美味しいけれど、やっぱり神綺さんのご飯も美味しいですよー!」
「ええ、流石は親子ですね」
ハンバーグを口の運んだ三人は、そんな風にベタ褒めしている。
まぁ、ママのご飯が美味しいとは私も思ってるけどね。
だけど、ママ以上に料理ができるようになるっていうのが、実は目標だったりする。
それでママに褒めてもらえたら、もう最高……!
頭も撫でられたりして……
「あれ、マスター、ニヤニヤしてどうかしたんですか?」
「あ、いや、なんでもないわっ!」
……どうやら顔に出ていたみたい。気をつけないと。
にやけた顔とか見られるの恥ずかしいし……
「ご主人様は美味しさのせいでニヤニヤしてたんですよね?」
「あ、うん、まぁ、そんなところかな……あ、あはは……」
わ、笑ってごまかすしかないや……
これでこの場を乗り切れるのなら安いもの……
「アリスちゃんったら、私の料理に魅了されちゃったのねー」
「う、うん、だって美味しいもの! この腕前だったらお店も開けるよ、うん!」
「えー、流石にそこまではないわよ」
謙遜するママ。でも、どこか嬉しそう。
やっぱり褒められて嬉しいみたいね。
「それよりも早く食べないと冷めちゃうわよ」
「あ、はーい!」
おっとっと、そうだった。
早く食べないと硬くなっちゃう。
ナイフで丁寧に切り分けて、と……うん、やはり美味しい。
あーあ、私もこれくらい上手くなりたいなぁ……
もっとママに料理教えてもらおうっと。
今度暇がある時にでも……
「ふあー、眠いです……」
「私もー……」
「もう夜も遅いからね……私も眠いです」
お茶を飲んだり、皆でお風呂に入っていたらもうこんな時間。
上海、蓬莱、ゴリアテはもうおねむの様子。
私はそこまで眠くはないけれど……みんなが寝るんだったら……
「ママも寝る?」
「ん、そうねー。皆が眠いって言うなら私も……」
「それじゃ、私もー……」
そういえば昨日は魔理沙たちと一緒にいたから、あんまりママに甘えられなかったのよね。
だから……今日はいっぱい甘えちゃおっと!
普段皆からクールだとか冷静だとか言われてるけれども、私だって人の子。
甘えちゃいたい時だってあるもん。
「あのね、ママ……昨日はゆっくり寝られなかったから……
今日は一杯甘えちゃってもいい……?」
三人に聞こえないようにママに耳打ちをする。
まぁ、三人とも眠さのせいであんまり聞いてはいないだろうけど。
「あらあら……アリスちゃんったら、いつまで経っても甘えんぼさんなんだから」
「わ、私だって人の子だもん……だ、ダメかな?」
うぅ、顔が熱くなってきたよ……
「ふふ、ダメなんて言うわけないでしょ? 久々だし、いくらでも甘えていいのよ」
「う、うんっ!」
と、そこまで言ってから、あることに気がついた私は慌てて視線を前に戻した。
三人のこと忘れてたよ……い、今の見られてないよね……?
「くー……」
「すかー……」
「マスター……んー……」
よ、よかったぁ……三人とも寝てたよ。
もし見られてたら、恥ずかしさで爆発してたわね……
「でも甘える前に三人をベッドに寝かせてからにしましょうね」
「あ、う、うん……」
ということで、三人をベッドに移すことにする私達。
「よいしょ……!」
まずは上海を……よし、抱っこできたわ。
「じゃ、私は蓬莱ちゃんを運ぶわね」
「うん、お願いね」
二人で寝室に入り、ベッドの上に上海と蓬莱を乗せる。
この二人は軽いから、そこまで大変じゃないのよね。
……よし、これであとはゴリアテだけね。
でもゴリアテは大きいから二人で運ばないと無理かも。
「ママ、ゴリアテを運ぶの手伝ってくれる?」
「ええ、もちろんよ。アリスちゃん一人じゃ無理だろうしね」
「うん、ありがと……」
こうして二人でゴリアテを寝室まで運ぶことに。
リビングに戻って、ゴリアテの体に手をかける私達。
「それじゃ、行くわよ。せーのっ!」
「うんしょっ!」
せーの、の声でゴリアテを持ち上げる。
彼女は決して重くはないんだけれど、二人で運んだ方がやっぱり楽なのよね。
ゆっくりと寝室に向かい、ベッドの横に立つ。
……うん、起きてはいないみたい。
「下ろすからゆっくりね?」
「うん、よいしょ……」
起こしてしまわないように注意しながらゆっくりとベッドに下ろす。
「ふぅ、これで三人とも運び終わったわね」
「うん、これで私達もゆっくり出来るね」
ふふふ、三人を運び終わった後は……お待ちかねの甘えんぼタイム!
「マーマっ♪」
「きゃっ、こらこら!」
三人を見下ろすママの後ろから抱きつく私。
昔から変わらないママの暖かさ、香り、柔らかさ。
全てが私の体を虜にする。
「もう、いきなりそんなことされたらびっくりするじゃない」
「えへへ、ごめんなさい」
私の頭を軽く撫でながら、ママは怒った。
怒った、と言っても軽く注意する感じだけれどもね。
「全く、しょうがない子ね……さぁ、さっさとベッドに入りましょ」
「うんっ!」
大きく頷いて、ママと一緒にベッドに潜り込む。
もちろん三人を起こさないように気をつけながらね。
「こうして寝るのも久方ぶりねぇ」
「そうだねー。昨日は皆がいたからこんな風に寝れなかったし」
「そうそう。それにしても、皆はアリスちゃんがこんなに甘えん坊さんってことを知ってるのかしら?」
「むぅ、それだけは知られたくない……」
皆にこんな一面を知られちゃうなんて考えただけでも恐ろしい。
もし知られてしまったら、一ヶ月はからかわれること間違いなしね……
「ふふ、大丈夫よ。私は言いふらしたりしないから」
「や、約束だよ?」
「ええ、もちろんよ。絶対に言わないから」
悪戯っぽい笑みを浮かべるママ。
でもママがそこまで言うなら絶対に言わないと思う。
……たぶん。
「さてと、昔みたいにぎゅっと抱っこしてあげましょうか?」
「うん、お願い……」
「アリスちゃんは抱っこされるのが大好きだもんねー」
そう言いながら、ママは私をぎゅっと抱きしめる。
ママからされる抱っこが一番好き。
すごく暖かくて、気持ちが良くて……最高なの。
「ママぁ……」
私もママの背中に腕を回して、抱きしめ返した。
二人の体がぴったりとくっつく。
あう、ママの胸の膨らみが体に当たってるよ……やっぱり大きいな。
私もこれくらいになりたい。
「ん、お風呂に入ったときにも感じたんだけど……やっぱりアリスちゃん、大きくなってるわね」
「ふ、ふぇ?」
「身長だけじゃなくて胸も、ね?」
「あうう、恥ずかしいよ……それにそんなに大きくないし……」
そんなに大きくなったとは思わないんだけれど……
「いやいや、十分大きくなったわよ。
あんなにちっさかったアリスちゃんがここまで大きくなってくれるなんて……ママはとっても嬉しいわ」
「あ、ありがと……」
またしてもママは頭を軽く撫でてくる。
褒められたのと撫でられたので、顔が熱くなってきちゃった……
「あ、アリスちゃん真っ赤ー」
「ママから撫でられたり、褒められたりしたから真っ赤になっちゃったの……」
ややうつむきながらそう返す。すると……
「あら、だったらもっと真っ赤にしちゃおうっと」
「ひゃわっ!?」
顔をママの胸にぎゅうっと押し付けられた。
あ、でも、何これ……すごい落ち着く……
ママが押し付けていた顔をいつの間にか私自身が押し付けていることに気がついた。
「ふふ、落ち着くでしょ?」
「うん……すごい不思議……」
「昔からアリスちゃんが泣いたりする度に、こうやってママの胸の中で慰めたものよ。
きっと体がそれを覚えてるんでしょうね」
あっ、思い出した。
小さい頃に泣いたり、機嫌が悪かったりした時にはこうやってママの胸に顔を埋めてたっけ。
そんな私をママは優しく慰めてくれたんだ。
だから、こうやってママの胸に顔を埋めていたら落ち着くんだ。
ああ、そういうことなんだ。
「ふふっ、懐かしいなぁ……
胸の中で泣いてた私をママはいつも優しく撫でてくれたっけ」
「そうそう。そうしていると、いつの間にか寝てたりしてね」
「覚えてる覚えてる! 気がついたら朝だったりしてびっくりしたなぁ」
気がついたら、ママも私を抱きしめたまま寝ちゃってたりしたのよねー。
懐かしいなぁ。
「それじゃ、今日は久々にこのまま寝てみる?」
「……それもたまにはいいかもね。それじゃ、このまま寝る!」
「はいはい。それじゃお休み、アリスちゃん」
「うん、お休み!」
ママは私のおでこに、お休みのキスをしてくれた。
私もお返しのキスをママのおでこにする。
これが私達のお休みの挨拶。
小さい頃から今もずっと変わってない私達の挨拶。
キスが終わると、私は目を閉じた。
すると、ママの暖かさと心地よさも手伝って、私の意識はあっという間に遠くなっていくのでした。
チュンチュン、と外から鳥のさえずる声が聞こえてくる。
「ん、もう朝……」
私はゆっくりと目を開けた。
すると目の前には……
「あ、おはよう、アリスちゃん」
私を見ながらにっこりと微笑むママの顔が。
「あ、ママ、おはよう」
「ふふっ、アリスちゃんの寝顔が可愛かったから、起きてからずっと見とれちゃってた」
「や、やだ、もう、恥ずかしい……」
わ、私の寝顔、変だったりしなかったかな……
いびきとかかいてたらどうしよう……
「アリスちゃんの寝顔は天使の寝顔ね!」
「そ、そんなんじゃないよぉ……」
「いや、断言するわ。天使の寝顔ってね!」
「も、もう……」
朝からテンションの高いママだけど、これはいつものことなのでしょうがない。
ママはいつも朝から元気なのだ。
「で、さっき思ったんだけど……今日は朝ごはんは里で食べない? 毎日朝作ると面倒でしょ?」
「あ、それいいね。私、朝ごはんが美味しいお店知ってるよ」
「じゃあ、そこに行きましょ! そうと決まれば三人を起こさないと!」
こうして朝ごはんを外に食べに行くことになったのでした。
ふふ、昔からこんな感じに物事が決まっていくことも多かったな。
やっぱりこれも変わらないや。
「みんな、準備は出来た?」
「はい!」
「出来ましたよー!」
「私もばっちり出来ました!」
ママの問いに元気良く返事をする上海、蓬莱、ゴリアテ。
皆、髪もしっかり整え、服も着替えている。
準備は万端ね。
「アリスちゃんも出来た?」
「ええ、もちろん! しっかり準備したよ!」
大きく頷いて、サイフやらハンカチやらが入ったポシェットをママに見せる。
「よーし、皆準備出来たみたいだし、行くわよー! 目的地は人間の里!
目標は美味しい朝ごはん!」
「「「「おー!」」」」
私、上海、蓬莱、ゴリアテの声が家の中に響き渡った。
まるで探検隊の隊長と隊員みたいね。
「それじゃ、しゅっぱーつ!」
「「「しゅっぱーつ!」」」
「行くわよー! ついて来ーい!」
ママの掛け声に続いて、三人も叫ぶ。
そして、そのまま走って外に出て行ってしまった。
あ、朝から皆テンション高いわねぇ……
まぁ、さっきの奴にノった私のテンションも高いのかもだけど。
苦笑いをしてから家の中を見回すと……
「……あ! ママったらサイフ忘れてるじゃない!」
テーブルの上にママのサイフが。
もう! ママったらそそっかしいんだから!
「ママー! サイフ忘れてるー!」
急いで外に出て、家の鍵を閉めてから追いかけることにする。
……ってか、もう姿見えないし!
一体どれだけ早いのよ!?
「も、もーっ! これじゃ私までダッシュしないといけないじゃない!」
一人でそう叫び、みんなの後をダッシュで追っかけることにした。
はぁ、ママったらほんとドジよねぇ……
ま、そんな面もママらしくて好きなんだけど、ね?
「こらーっ! みんな待ちなさいよー!」
クスリと笑いながら私は里への道を走り出した。
私の大事な娘たち、そして私を育ててくれた誇れる母親を追いかけて。
「当たり前よ。私が作ったんだもの」
「その言い方、お前が普段作るお茶は全て美味しい、みたいな言い方だな」
「ちょっと、それはどういう意味よ?」
「言葉通りの意味なんだぜ。咲夜はたまに飲めないようなお茶も作るからな」
「ちょっと二人とも、喧嘩はやめてよね」
今日は珍しく家の中が騒がしい。
魔法の森にある私、アリスの家には仲が良い友人が集っていた。
紅魔館からパチュリーと咲夜、近所から魔理沙の三人だ。
今日は「たまにはお泊り会でもしようぜ?」という魔理沙の提案により、この四人でお泊り会なのだ。
ちなみにパチュリーは小悪魔と一緒に来る予定だったらしいのだけれど、風邪のために小悪魔は欠席。
紅魔館で妖精メイドに介抱されているとのこと。
で、その代わりにお世話役として咲夜が来たのだった。
パチュリーによると、小悪魔は「パチュリー様は行って来てください」と言ったそうな。
良くできたお世話係よね。まぁ、今回はお世話される側になっちゃったぽいけど。
「それにしても咲夜、お屋敷の方は貴方抜きでも大丈夫なの?」
咲夜は紅魔館のメイド長。
そのメイド長抜きで仕事は進むのかしら?
「大丈夫よ。うちのメイドはああ見えてしっかり者なんだから。ドジな子も多いけど」
「いいよなー、メイドさん。ウチにも一人くらいくれないかね?」
「レンタルなら格安で承ってるわよ?」
「金取るのならいいや。私はタダでお世話を見てくれるメイドが欲しいんだ」
そんな会話を聞いて、少し呆れてしまう。
魔理沙の家はどうしようもないほどに汚い。
それは彼女が片付け下手だからだ。
まぁ、面白そうなものはどんどん家に持って帰るという性格のせいでもあるだろうけど。
もし魔理沙の家に妖精メイドを連れて行ったら、どういう反応をするかな。
……たぶん開いた口がふさがらなくなると思う。
いや、逆にものすごいやる気を出すかも?
そんな子を何人か知ってるし。
「自分の世話くらい自分でしなさいよ」
私の言いたいことををパチュリーが代弁してくれた。
まさにその通り。
「いやー、あれほど散らかると自分でするのも面倒でねー」
「はぁ……呆れて物も言えないわ……」
ため息をつくパチュリー。私も同じ意見よ。
「今度はお泊り会の代わりに『魔理沙亭掃除の会』を開かなくちゃいけないわね」
「あら、それはいいわね。もしそうなったら、ウチから何人かメイド引っ張ってくるわよ?」
「お、それは良いアイデアかもな。考えとくぜ」
私が冗談っぽく言った提案を、良いアイデアと言う魔理沙。
そんな彼女を見て、皆が苦笑した。
と、その時だ。ドンドン、と扉を叩く音が外から聞こえた。
「あら、お客さんかしら? ちょっと行ってくるわ」
席を立ち、廊下の先にあるドアへと向かう。
なんだろう? 郵便かな?
「はいはーい、どちら様?」
ガチャリ、とドアを開けると目の前には見覚えのある顔が。
「やっほー、アリスちゃん。元気にしてたー?」
「ま、ママ!?」
ニコニコと笑う顔は紛れもなく私のママ、神綺その人だった。
「そんなに驚かなくても良いじゃない」
「いや、いきなり来られたら誰だってびっくりするって……
ま、それは別に良いや。入って入って。今日は友達も来てるから紹介するね」
「あら、アリスちゃんのお友達が来てるのね。どんな子か楽しみだわー」
うふふ、と笑うママを家の中に招き入れ、私はまたリビングへと戻る。
いやー、いきなりママが来るなんてね……
「お客さんは誰だったー……って神綺じゃないか!」
「あら、魔理沙ちゃん、お久しぶりー」
談笑していた魔理沙はびっくり仰天。
そりゃあ、そうなるわ。
「えーと、どちら様? 二人の知り合いみたいだけれど……」
パチュリーは私達を不思議そうに見ながら切り出した。
あー、そういえば二人はママのこと知らないのよね。
「えっとね、一応私のママ」
「「ま、ママ!?」」
咲夜とパチュリーが同時に驚く。
あー、やっぱ驚くわよね。
「どうも、神綺です。いつもアリスちゃんがお世話になってるみたいで……」
「あ、いえ、こちらこそ……」
そう挨拶を交わす三人。
「……本当にお母さんですか? 私はてっきりお姉さんかと」
咲夜が疑問を口にした。
「あー、よく言われるのよね。でも私はれっきとしたお母さんよ?
ん、でもお姉さんでも悪くないかな!」
「と、まぁ、こんな母です……」
ママと私はよく姉妹に見られる。
昔はそうでもなかったんだけど、最近は姉妹って勘違いされることが多くなったなぁ。
でも私から見ても、ママはすごい若いとは思う。
どうやったらこうやって若さを保てるのだろう。
んー、魔界の神だから、とか?
「とりあえず、椅子もあるし座ってよ」
「あら、ありがとね」
ママに椅子を勧めてから、私もさっきから座っていた椅子に腰掛ける。
「そういえば、上海ちゃんたちは?」
ママはきょろきょろと辺りを見回している。
実は上海、蓬莱、ゴリアテの三人は幽香の家にお泊りに行っていたりする。
あの三人は幽香、メディスンと仲が良いから、よくお泊りに行くのよね。
「あの子達は幽香の家にお泊りしてるよ」
「へぇ、幽香ちゃんの家にねぇ……幽香ちゃんは元気かしら?」
幽香は魔界にいた頃からの付き合いなので、ママももちろん知っている。
そういえば、この前「神綺さんに会いたいわねぇ」なんて言ってたな。
また今度呼ぼうかしら?
「うん、幽香は元気にしてるよ。ママにも会いたがってたし」
「あら、そうなんだ。それじゃあ今度また挨拶に行かないとね」
そうねぇ、今度はママと一緒に幽香の家に行こうかなぁ。
ま、機会があればね。
「それにしてもいきなり来るなんてびっくりしたじゃない」
「あら、そっちに行くって手紙は出したはずなんだけどねぇ」
「手紙? 届いてないけれど」
出した手紙が届かないなんてことは滅多にないはずなんだけれど……
もしかして事故か何か?
「……あ、ごめん。ポストに投函するの忘れてた」
「だぁーっ!」
てへへ、と笑いながら持ってきたバッグの中から手紙を見せるママ。
その言葉に私たちは全員ずっこけた。
「と、投函し忘れなんて流石は神綺だぜ……」
「ウチの妖精メイドよりもドジかもしれないわね……」
「咲夜の言う通りね……」
「あはは……」
そう呆れる三人と苦笑するママ。
「そういうところはやっぱり昔から変わらないね、ママ……」
「昔からなんだ……」
パチュリーのそんな言葉が聞こえたので、過去の失敗をみんなに話すことにする。
すごいんだから、ママの失敗。
「あー、前は砂糖と塩を間違えたりとかしてたわねー」
「そんな今時珍しいミスを……」
「あとはうっかりカレーを肉じゃがにしてたりとか」
「ちょ、全く別物じゃん!」
皆が一斉に突っ込んだ。
「あー、あったわねぇ、そんなこと。自分でやったことだけど忘れてたわー」
「いや、忘れないでよ……あの時はびっくりしたんだから。
作ってたものはカレーだったはずなのに」
ママはすでにうっかり屋というレベルを超えているんじゃないかと私は思っている。
だって、ここまでくるとうっかりじゃ済まないもの……
「あはは……でもカレーと肉じゃがって似てるじゃない」
「「「「どこが!?」」」」
四人のツッコミがハモる。
「いや、材料入れて煮込むところとか」
「そこしかあってないじゃん……」
「ま、まぁ、間違いは誰にでもあるって! あは、あはは……」
いや、間違いじゃ済まないって。
「な、なんか色々とすごいのね……アリスのお母さんって……」
「ああ、神綺は昔からこうだからな……まったく、すごいよ……」
咲夜と魔理沙の苦笑と呆れが混じった声が聞こえた。
うん、色々とママはすごいわよ……
「そ、そんなことより! せっかく五人もいるんだから、トランプでもしましょうよ!」
あ、無理やり空気を変えに来たわね……
しかしその時、トランプと聞いて三人の目の色が変わるのを私は見た。
「トランプ、ね。紅魔館のトランプマスターと呼ばれた私と勝負する気ですか?」
いや、咲夜、そんなの初めて聞いたんだけれど。
「そういえばこの前のポーカーの借りをまだ返してないわね、魔理沙?」
「そうだな……ま、今日もお前は私に勝てないだろうが」
「そんな口が利けるのも今のうちだけよ……?」
「はっ、それならやってみるか!?」
「望むところ!」
あ、魔理沙とパチュリーもやる気満々だ。
「あら、みんなやる気になったみたいね。アリスちゃんも……もちろんやるでしょ?」
「あ、う、うん、もちろん」
ママが昔から変わらないのはうっかり屋な所だけじゃない。
今みたいに場の空気を一変させてしまうのも昔から変わってないところだ。
ま、空気を一変って良くも悪くもなんだけれどもね。
「さぁ、始めましょうか! 魔界神のトランプの腕前を見せてあげるわよ!」
こうしてママの失敗話暴露からトランプ勝負へと流れが変わっていくのでした。
ま、やるからには私も勝ちを狙いに行くわよ!
ママだろうと誰だろうと負けないんだから!
「はい、私、上がりね……ふぅ、貧民転落は避けられたわ」
「咲夜は平民街道まっしぐらねぇ。で、あの二人は……」
「おいおい、また親子で仲良くドベか?」
「う、うぅ……」
数種類のゲームを終え、結果は私とママの惨敗。
なんでこう仲良く負けちゃうのかしら……
ちなみに交互にビリと一個上の順位をママと行ったりきたりしている。
「今回はママには勝つわよ!」
「ふふ、やってみなさい、アリスちゃん……! さぁ、来なさい!」
……そう言ってるけど、実はもう私の勝ちは決まってるのよね。
「八で切って、二を出して、三で終わり!」
「な、ななな……」
「お、最後は神綺が大貧民か。お疲れー」
ラストゲームは私がママに勝った。
その一個前は私が大貧民だったけどね。
まさか手札交換で余って、出す場所を逃してしまった二のカードがここで役に立つなんて思いもしなかったわ。
「それにしても魔理沙が連続大富豪って言うのがね……」
私がポツリと呟くと、魔理沙は胸を張った。
「今日は運が良かったなー。自分でも恐ろしいと思うくらいにツイてたよ。
パチュリーもなかなかにツイてたみたいだが」
「私のは全て計算の上よ。もちろん運もあったけど。で、トランプマスターさんは?」
「うーん、今日はダメダメでしたね。カードもあまり良いのが来ませんでしたよ……」
三人でそんな会話をしている。
私たちはそれ以上にダメダメだった気もするけど……
「あうー、勝てなかった……」
「ほら、ママもいつまでも落ち込まないでよ……」
勝てなかったりすると落ち込むあたり、子供っぽい性格をしているのよね。
そんなところもママの特徴なんだけれども。
「あー、勝負は時の運って言うだろ? こんな日もあるさ」
「うーん、そうだよね……」
そんな感じにフォローする魔理沙。
この様子を見ていると、どちらが年上なのか分からなくなるなぁ。
ちょっと笑いがこみ上げてきてしまう。
「ん、そろそろ夕食の時間ね」
「え、もうそんな時間なの?」
咲夜の持っていた懐中時計を覗き込むと……あ、ほんとだ。
うわぁ、私たちってば、結構トランプにのめりこんでいたのね……
全く気が付かなかったわ。ゲームって恐ろしい。
「うーん、流石にそろそろ夕食の準備をしなきゃいけないわね」
そう漏らしたとき、ママが反応した。
「ん、夕食? だったら私が作るわよ!」
「え、ママが? いいの?」
「もちろん! 私に任せておいて! ぐふっ、げほっげほっ……」
「だ、大丈夫ですか、神綺さん……?」
ドン、と胸を叩いて……むせるママ。どうやら勢いよく叩きすぎたっぽい。
本当に任せて大丈夫かな……
「へ、平気平気……ごほっ。と、とにかくママに任せなさい!」
「だ、だったら任せるよ。うん」
まぁ、今までもずっと料理を作ってきたわけだし、腕が悪いわけではないのよね。
おっちょこちょいな面があるから危なっかしいとは思うけれどもさ。
それに……久々にママの手料理を食べてみたい。そんな気持ちが今、すごい強い。
だから私は任せることにした。
「それじゃ、台所借りるわね。皆は待ってて。とびっきり美味しいもの作ってあげるから!」
「期待して待ってるぜー」
「お願いします」
「怪我しないように気をつけてくださいね?」
口々にママへと声をかける三人。
ああ、怪我だけはしないようにして欲しいわね。
ママに何かあったら、なんて思うと胸が張り裂けそうになっちゃうから……
「さて、と。私たちはここで待たせてもらおうかな」
「そうね。それにしても、神綺さんのご飯ってどんな味なのかしら」
「アリスのお母さんですから、とっても美味しいご飯を作ってくれると思いますよ。
ねぇ、そうでしょ、アリス?」
「え、ええ。ママの作るご飯はもちろん最高よ!」
少しぼーっとしていたところにいきなり話を振られ、多少戸惑ってしまう私。
でも、ママのご飯が最高の味なのは保障するわ。
「そこまで言われたら、余計楽しみになってきたわね……期待して待とうっと」
「それにしても……神綺さんって面白い人よね」
「え?」
咲夜がクスクスと笑ったので、思わずそう問い返してしまう。
「いや、私たちよりも年上のはずなのに子供っぽいっていうか……」
「あー、神綺は昔からああだったぜ?」
「あ、やっぱり昔からだったんだ。なんかそういう気がしてたのよね」
魔理沙の言葉に頷くパチュリー。
「でも母親としては尊敬できるんだよなー。
わざわざこうやってアリスの家に訪ねてきてくれるくらいだからな。
娘のことはすごい愛してると思うんだ。私もあんな母親になりたいもんだよ」
「結婚相手もいないのに?」
「むぅ、余計なお世話だ」
私が笑いながらそう返すと、魔理沙は膨れっ面になった。
その様子がおかしくて、また笑ってしまう。
皆も私につられて笑っていた。
「でもその気持ちは私も分かるわね。
神綺さんは本当に素晴らしい母親だと思うし、私もあんなになりたいわ」
「パチュリー様には同意しますけど、おっちょこちょいな面は似たくないですね」
「あっはっは! それは言えてるな!」
咲夜の一言でまた爆笑に包まれる面々。
若干毒舌な気もするけど、本当のことだから仕方ない。
私もあそこだけは似たくないって思ってるしね。
でも……あれくらいが可愛げがあってちょうど良いのかも?
「ふぅ、美味しかった……あれほど上手いシチューを食べたのはいつぶりだったかな」
食事が終わり、私たちは食後のティータイムを楽しんでいた。
魔理沙はママ特製のシチューを何杯も何杯もお代わりしていたなぁ。
私もパチュリーも咲夜も「美味しい美味しい」と言って何杯もお代わりした。
「ほんとほんと。あれが『お袋の味』って奴なのかしらね」
「私のお母さんを思い出しちゃったくらいですよ……とても美味でした」
「ふふ、褒めてくれてありがとね」
お袋の味……どれだけ料理が上手くなってもあの味だけは出せそうにないわ。
まさにママだけが出せる味、ね。
「それにしても、咲夜ちゃんが入れてくれたこの紅茶は美味しいわね」
「あ、その紅茶は私が作った特製の紅茶なんですよ」
「へぇ、そうなのね。うん、美味しいわ」
そういえば、ママは紅茶が好きだったわね。
一時期はすごい凝ってて、いろんな紅茶の茶葉を買ってたこともあったっけ。
「もし気に入ったのなら、茶葉をお分けしますよ?」
「あら、いいの?」
「もちろん。家に帰れば、まだたくさんありますしね」
「すまないわねぇ。それじゃありがたく……」
ママは咲夜から紅茶の缶を受け取り、蓋を開けて香りを楽しんでからまた閉めた。
余程気に入ったのか、満足そうな顔をしている。
「うーん、やっぱり紅茶の香りには癒されるわねぇ……」
「咲夜のは香りも味も良いからなー。そこらへんの店で売ってる高い紅茶にも負けないぜ?」
「ああいうのには流石に負けるわ。高いだけあって味も香りもあっちの方が上よ」
「そうかー? 私はこっちの方が好きだけど」
「とりあえず、褒め言葉として受け取っておくわ。ありがと」
私も咲夜の紅茶の方が好きだなぁ。
美味しいからこればかり飲んでるくらい。
「そういえば、パチュリーちゃんって魔法使いなんだよね?」
「え? はぁ、まぁ一応……」
ママは今度はパチュリーに話しかけた。
いきなりの振りに戸惑ったのか、しどろもどろに返事をしてしまうパチュリー。
「アリスちゃんって貴方から見てどんな感じ?」
「そうですね……努力を惜しまないし、勉強熱心だし……素晴らしい魔法使いだと思いますよ」
パチュリーったら、私のことをそんな風に思っててくれたのね……ちょっと嬉しくなる。
「やっぱりアリスちゃんはすごいのねぇ……
私の駄目な面を見て育ったから、ここまでしっかりした性格になったのかしら?」
否定したいけど否定できない私がいる……
「ママを支えられるように、しっかりしなきゃ」なんて思って育ったのは事実だし……
「で、でもママから学んだことも多いのよ?」
「例えば?」
「お料理とか、お掃除とか……家事はほとんどママに教わったようなものよ」
これは嘘偽り無い。
ママは小さかった私に丁寧に家事を教えてくれた。
おかげ様で私は一人暮らしするには困って無いし……
「だからママがいなかったら今頃一人暮らしなんて出来てないよ」
「……アリスちゃんがここまで成長してくれただけでもママは嬉しいわ。
よくここまで育ってくれたね」
「ひゃっ、み、皆が見てるって……!」
皆が見ている前で、頭を撫でられてしまった。
嬉しいんだけど、恥ずかしいよ……
「あとは恋人の一人でもいれば、安心できるんだけどねぇ……」
「恋人、ねぇ……」
恋人は確かに欲しいなぁ。
「そういえば、アリスちゃんは小さい頃に『将来魔理沙と結婚する!』なんて言ってたわねぇ」
「「ぶっ!」」
ママの言葉に、私と魔理沙はお茶を猛烈に噴き出してしまう。
「え、それ本当なの?」
「き、気になるわね……」
しかも咲夜とパチュリーが食いついてきたし。
「あ、うん、確かに小さい頃はそんなこと言ってたけれども……」
「け、けど、あの頃はお互いに小さかったしなぁ……」
真っ赤になる私たち。
「じゃ、今はどうなのかしら?」
ママー、そこ突っ込まないでよー……
「さぁ、言っちゃいなさい……!」
「どうなの、二人とも?」
うわぁ、咲夜もパチュリーも目がマジだ……
うーん、ここは正直に言った方が良さそう。
それに変なこと言ったら大変な目にあいそうだし。
「えっと、今は貴方たち三人と一緒にいるのが楽しいなーって思ってたりして、その……」
「ん、つまり……どういうことなんだぜ?」
「あー、つまり『私は貴方たち三人を愛しています』ってことねー」
ちょ、のん気にそんなこと言わないでよママ!
いや、間違っては無いんだけれど!
「そ、そうなの……?」
うぅ、三人とも一斉に私を見ないで……
「まぁ、間違ってはいない、かな。四人でいるときが一番楽しいのは本当だし……
とりあえず友人としては大好きよ……?」
うつむきながらそんな答えを返す。
すると三人は……
「わ、私もアリスのことは大好きよ、うん……」
「私も魔理沙、アリス、咲夜と一緒にずっと過ごせたらなー、とは思ってるわ……」
「アリス、その、私も大好きだぜ……?」
や、やめて、そんなに真っ赤にならないで……
私まで真っ赤になっちゃうから……
「うんうん、青春ねぇ……」
頷くママに何か言ってやりたかったけど、今の私にはそんな余裕は無かった。
こうしてティータイムの後半は、なんだかピンクのような赤のような色に包まれたのでした。
こっ恥ずかしいティータイムも終わり、ふくろうの鳴き声が響き渡る森の深夜。
私たちはパジャマに着替え、寝室のベッドで寝ようとしていた。
「うぅ、ちょっときついな……」
「それじゃ、魔理沙だけ床で寝る? 布団はあるわよ」
「う、それは勘弁して欲しいぜ」
ダブルベッドが二つあればなんとか五人で寝れるのよね。
ところでこのベッド、普段は私と上海たちで一個ずつ使っている。
もしかしたら使う機会があるかなーと思ってダブル二つにしたんだけれど、ダブルベッドにして正解だったわね。
おかげさまで誰かが泊まりに来たら、大活躍してくれるわ。
「それでも二つくっつければ十分な広さになるわね」
「ええ、なんとか五人寝れるくらいの広さにはなるのね」
咲夜とパチュリーはなにやら感心している。
「それにしても、アリスちゃん……両手に花ねぇ」
「そ、そうかしら?」
ママにそう言われて横を見ると……魔理沙とパチュリーが。
言われてみれば両手に花、かもしれない。
「アリスは幸せ者だなー。私たちみたいな美女に挟まれてるんだからな」
「そうそう。なかなかこんな光景はお目にかかれないわよ?」
「……ふふ、確かにそうかもね」
二人の言葉に少し笑ってしまう。
パチュリーも魔理沙も確かに美女だからねぇ。
まぁ、魔理沙は性格が男っぽいけれどもね……これ言うと怒られそうだからやめとこ。
でもこう見えて意外と乙女なところはあるのよね。
可愛いものが好きだったり、甘いものが好きだったり。
魔理沙のそんなところは可愛らしいと思うし、逆にそんなところが大好きよ。
「私は蚊帳の外ね……」
「私も蚊帳の外ねー」
そう言う咲夜とママはそれぞれパチュリーの隣と魔理沙の隣にいる。
咲夜もママも好きだけど……今日は流石に隣で寝るのは無理ね。
ごめんね、二人とも。
「まぁ、咲夜は今度遊びに来たときに一緒に寝れば良いじゃない」
「それはそうですけれど……」
「あ、今度は妖精メイドも一緒に連れて、遊びに来れば良いんじゃない?」
「ん、それも……なかなか良いですね」
パチュリーの提案に頷く咲夜。
私もそれは面白そうだなーと思ってしまう。
妖精メイドたちが遊びに来たことは何回かあるけど、咲夜と一緒に来たことは無いからね。
「ま、私はもう一泊していくつもりだから、明日一緒に寝れば良いけどねー」
あ、ママは明日も泊まるつもりなんだ。
まぁ、上海たちが帰ってくるのは明日だからちょうど良いかもしれないけど。
「私も時間があればもう一泊したいところだけど、予定があるからなー。残念だぜ」
「私もお嬢様が心配だからもう一泊はきついわねぇ……」
「あー、私もこあが心配だしね……残念」
「ふふふ、それじゃ明日は私がアリスちゃんを独り占めできるのね」
悔しがる三人と、一人笑うママ。
私も予定が合うならもうちょっと皆にいてもらいたいんだけれどね……
流石に皆予定があるからしょうがないか。
「まぁ、会うの久々なんだろうし、明日はお母さんと一緒に過ごした方がいいでしょうね」
「うん、私もそれは思う」
「だなー。明日は一日親子水入らずでまったり過ごすのが良いと思うぞー」
みんなの言う通りね。
久々に会ったんだから、明日は親子水入らずで過ごすのが良いかも。
「さてと、私はそろそろ寝る。おやすみー」
「あ、おやすみ魔理沙……私たちも寝ましょうかね」
「そうですね。それではお休みなさいませ……」
「あ、皆が寝るなら私もー。お休み、みんな」
あ、皆寝ちゃった。
じゃ、じゃあ私もそろそろ……
「皆、お休み……」
そう呟いてから、私は目を閉じた。
そうすると、パチュリーと魔理沙の体温が伝わってくるのが感じられた。
あぁ、やっぱり皆で寝るのって気持ち良い……おやすみ、皆……
朝の日の光が部屋に差し込んでくる。その眩しさに、私は目を開けた。
「んんー……ふわぁ、もう朝ね……」
体を起こし、大きくあくびをしながら体全体をうーんと伸ばす。
「ん、もう朝か……おはようアリス」
私が起きたせいなのか、魔理沙も目を擦りながら起き上がった。
「おはよう魔理沙。良い朝ね」
「ああ、良い朝だな、んっ……」
「ん……」
魔理沙とおはようのキスを交わす。
これは私達の挨拶のようなものだから、恥ずかしさとかそういうのはあまり無い。
ま、やっぱり少しはドキドキしたりもするけど。
ちなみに咲夜、パチュリーともしたりする。魔理沙も二人とするしね。
ま、今はそんなことは置いておきましょ。
横を見てみると、パチュリーはまだぐっすりと眠っているようだった。
そして意外なのは咲夜。早起きするかと思いきや、そうでもないのね。
「咲夜、まだ寝てるわね」
「普段は仕事があるせいで、早く起きてるからなぁ。
咲夜もたまにはゆっくり寝たいだろうさ」
「ふふ、そうね」
彼女も苦労してるのよねぇ。今日は仕事も無いし、ゆっくり休んでいってね咲夜。
サラサラの銀髪を撫でながら、私は心の中でそう呟いた。
すやすやと眠る姿は歳相応の女の子のものね。
普段てきぱきと働いてる姿からは想像できないわ。
「それにしても神綺は何処だ? 姿が見えないけど」
「うーん、多分朝ごはんを作ってるんじゃないかしら?」
「朝ごはんか。神綺の朝ごはんなんて何年ぶりかなぁ」
「そういえば、こっちに来てから魔理沙は食べたことないもんね」
私にとっても久しぶりのママの朝食なので期待していたり。
最後に食べたのは……確か数ヶ月前ね。
「それじゃ、行きましょうか」
「ああ、そうだな」
ベッドを出て、パジャマから普段着へ着替える。
寝ている二人の横で服を着替えるのってなんか変な気分ね……
なんかいやらしい行為をしているみたいで……
「よし、着替え終わったー。それじゃお先ー」
「あ、待ってよ魔理沙!」
部屋を出て行く魔理沙を、服のボタンを掛けながら慌てて追いかける私。
外に出ると、朝食の良い香りがリビングに漂っていた。
うーん……いい匂い。
「おはよう、神綺」
「あら、おはよう魔理沙ちゃん。アリスちゃんもおはよう」
「おはよう、ママ」
案の定、ママは朝食を作っている最中だった。
ピンクのエプロンがとても似合っている。
ちなみにそれは私が普段使ってるエプロンだったりする。
こうやって見ると、見慣れたエプロンも新鮮に見えるわね。
「もうすぐ出来るからねー。あ、配膳だけ手伝ってもらえるかしら?」
「お安い御用だ。な、アリス?」
「ええ、もちろん」
魔理沙の言葉に頷いて、台所へ駆け寄る私達。
今日の朝ごはんは、ハムエッグにトースト、サラダ。
うんうん、朝食らしい朝食ね。
シンプルだから朝の忙しい時間でもさっくり作れるのは大きな利点。
それでいて栄養は十分!
「ママは最後のやつを焼いてから持っていくわねー」
「わかったー」
そんな親子らしい会話をしてから、テーブルに料理の盛られた皿を置いていく。
「おはよー……まだ眠いわねぇ……」
「おはよう、二人とも。今日は二人よりも遅く起きちゃったわ」
と、ちょうどパチュリーと咲夜が目を擦りながら起きてきた。
「おっ、おはよう。朝食出来てるぞー」
「おはよう。後は運ぶだけだから、二人は先に座って待ってて」
「そう? それじゃ、お先に失礼するわ。さ、パチュリー様もお座りください」
「うん、わざわざありがとね」
二人に座るように言ってから、残ったお皿を台所まで取りに行くことにする。
咲夜はパチュリーの座る椅子を座りやすいように引いてから席に着いた。
流石は瀟洒なメイド。抜かりないわね。
おっと、急がないと食べ始めるのが遅くなっちゃうわね。
急げ急げ。
「あとはこれだけ?」
「うん、お願いできる?」
「もちろん!」
台所に駆け込み、ママに返事をしてから残ったお皿を手に持って居間へと急ぐ。
あとはこれを置けば……うん、朝食の準備は完了。
よく見てみると、魔理沙がみんなの分の紅茶をカップに注いでくれていた。
お、気が利くわね。あいつは昔から気が利くのよ。
そこは変わってないみたい。
「よいしょ……みんなの分は揃ってる?」
「ええ、揃ってますよ」
ママの問いに咲夜が答える。
「それじゃ、早速いただきましょうか!」
「そうですね。冷めないうちに……」
咲夜の言うとおり。
冷ましちゃったら美味しくなくなるもんね。
「それじゃ、頂きまーす」
「頂きます!」
私のいただきますに続いて、皆も頂きますを言って食事に手をつけ始めた。
「ん、美味しい!」
「朝はやっぱり美味しい朝食から始まるよなー。うん、最高だよ」
「これはこれは……私も見習いたいわね……」
皆の口からそんな言葉が漏れる。
やっぱりママの作るご飯は最高ね!
ちらりと横目でママを見ると、私達の様子を見ながらにっこりと微笑んでいた。
まるで……「私達皆」のママみたい。
「昨日の夕食も今日の朝食も絶品だったなぁ。
いやぁ、良いもの食べさせてもらったよ」
「うんうん。ここまで美味しい朝食は初めてかもしれないわ」
「あら、私達が作る朝食はどうなんですか?」
「美味しいけれど、流石に神綺さんのには負けるわね」
「だったら私もメイドももうちょっと努力しないといけないですね」
食後に三人はそんな会話をしていた。
私とママは後片付け。
私がお皿を運び、ママがそのお皿を洗う。
こうしてると、まだ小さかった頃のことを思い出しちゃうわねぇ……
いつも私が運ぶお皿をママが綺麗に洗ってくれたっけ。
「ありがと、アリスちゃん。ここはママがやっておくから、お友達と話してらっしゃい」
「え、いいの?」
「だって、皆そろそろ帰っちゃうんでしょ? 今のうちに話しておきなさい」
「うん、そうする。ありがとね!」
最後のお皿をママに預けて、私はリビングへと戻ることにする。
「お、お疲れアリス」
「うん、ただいま」
「ねぇ、アリスはどう思う?」
「へ? 何が?」
帰ってきた瞬間、咲夜にそう振られた。
そこで咲夜の代わりにパチュリーが説明してくれる。
「あー、今度紅魔館でパーティがあるからそれに神綺さん誘うのはどうかしら、って話」
「なるほどねー。ママだったら喜んで参加すると思うけれど」
「ん、分かった。今度詳しい日程が分かり次第、貴方に招待状渡すから届けてもらっても良いかしら?」
「ええ、もちろん良いわよ」
紅魔館のパーティ、か。
そういえば最近ご無沙汰だったわね。
久々に皆でわいわい飲み食いできると考えると、楽しみになってくるわ。
「さて、と……私達はそろそろ帰ろうかしらね」
「そうですね。お嬢様のことも気になりますし」
あら、二人はもう帰っちゃうのね。
魔理沙はどうするのかしら?
「魔理沙も帰る?」
「んー、私はもうちょっとここにいるぜ。神綺とも色々話したいところだし」
「なるほどね。会うの久々らしいし、話したいこともたくさんあるんでしょうね」
「ま、そんなとこ」
パチュリーに対してそんな返しをする魔理沙。
ふむふむ。魔理沙はもうちょっといる、と。
「それじゃ、私達はこれで」
「神綺さんによろしく言っておいてね」
「ええ、わかったわ。二人とも気をつけて」
そう言って、二人は手を振りながら家を出て行った。
残されたのは私と魔理沙、そして台所にいるママ。
「ふー、それにしても久々に神綺と一緒に寝たなぁ」
「魔理沙は子供の頃以来かしら?」
「そうだなー。あれ以来かも」
子供の頃はよくお泊りとかしたもんねぇ。
あー、懐かしいな。
「ふぅ、やっと終わったー。あれ、咲夜ちゃんとパチュリーちゃんは?」
と、ママが洗い物を終えて戻ってきた。
「あ、お疲れ様。二人はもう帰ったよ」
「二人とも急がしいようでね」
「ふぅん、もうちょっとゆっくりしていけばよかったのに」
そう呟きながら、ママは椅子に腰を下ろした。
「でもこれで、久々にこの三人でゆっくり話せるわね」
「そうねー。でも魔理沙ももう少ししたら帰るってさ」
「あら、そうなの?」
「んー、まぁ、用事があるからなー」
「それは残念ね……また三人でお風呂とか入りたかったのに」
三人でお風呂、という単語を聞いて「あー、確かになー」なんて漏らす魔理沙。
魔理沙、ママとお風呂かぁ……昔を思い出すわね。
昔は良く三人でお風呂に入ったっけ。
魔理沙と二人でママの背中流したりとかしたなぁ。
ま、今でも二人とは一緒にお風呂に入ったりはするけれども。
「ま、それはさておき、二人の近況が聞きたいわね。
昨日はあまり聞けなかったから、今聞いても良いかしら?」
「ああ、いいぜー。面白いことがたくさんあったからなー」
「私も話題ならたくさん持ってるわよ」
「それじゃ、二人とも、ママにお話聞かせてよ」
「ええ、もちろん!」
私と魔理沙は元気良く頷いた。
そういえば、魔理沙もママのことが好きなんだよね。
だからママは二人にとってのお母さんと言っても過言じゃない……かもしれない。
こうして私と魔理沙は、かわるがわる最近起こった出来事をママに話すのでした。
「いやー、面白い話がたくさん聞けて満足よ」
「そんなに面白かったか?」
「ええ、もちろんよー。友達の話とか異変の話とか、それはもう面白かったわ」
ニコニコと笑うママ。
いろいろなことを話したけど、ママは全部の話を面白そうに聞いていた。
時折質問も交えながらね。
「さてと、私もそろそろ時間だから帰ろうかな」
「あら、もうそんな時間?」
む、言われてみれば、もう昼前だ。
魔理沙は午後から用事があるって言ってたし、そろそろ帰らないとまずいかもね。
「ああ、そんな時間なんだぜ。それじゃ、二人ともまた今度会おうぜー」
「ええ、また今度」
「また皆で遊んだりしましょうねー」
私とママは手を振って魔理沙を見送った。
……そして残される二人。
「……二人きりになっちゃったね」
「そうね。こうしてアリスちゃんと二人きりになるのも何年ぶりかしら」
「数ヶ月ぶり、じゃないの?」
「んー? ……あ、そういえばこの間二人きりになったわね」
いかにも思い出した、という風にママは手をポンと叩く。
もう、ママったら忘れっぽいんだから。
「じゃ、二人きりになったし……ママの膝の上に来ない?」
「……うん。それじゃ遠慮なく」
席を立ち、ママの膝の上に腰を下ろす。
えへへ、久々のママの膝の上……いい気持ちー。
「おっきくなったわね、アリスちゃん」
「えへへ、ありがと」
ママは優しく頭を撫でてくれた。
今みたいに二人きりだと思いっきり甘えられるんだよね。
「アリスちゃんは昔も今も甘えん坊さんなのかしら?」
「もう、それは言わないでよ……」
「ふふふ、ごめんごめん」
あぁ、こうしてるだけで幸せ……
「ねえ、アリスちゃん。体ごとこっち向いてくれる?」
「へ? 別に良いけど……ひゃっ!?」
ママの方へと体を向けると、ぎゅっと抱きしめられてしまった。
「アリスちゃん、可愛い……」
「ま、ままぁ……」
顔を赤くしながらも、私はママの背中に手を回し、抱きついた。
あぁ、いい匂いがする……と、その時。
「あ、あれ? ちょ、きゃあっ!?」
「ひゃあっ!?」
バランスを崩して、二人とも椅子に乗ったまま後ろにバターン!と倒れてしまった。
「あいたたた……」
「アリスちゃん、大丈夫?」
「ええ、何とか……ママは?」
「私も何とか大丈夫よ。はー、びっくりした……」
びっくりしたけど、お互いに怪我がなくてよかった……
「ただいま帰りましたー」
「ただいまですー!」
「マスター、帰りました……よ?」
そんな声に振り返ると、玄関に続く廊下の入り口に上海、蓬莱、ゴリアテの姿が。
しかも私達の様子を見て固まる三人と目が合ってしまった。そしてしばし沈黙に包まれるリビング。
えーと、今の私達の状態は他人が見ると「私がママを押し倒して襲おうとしてる」ように見えるわけで……?
もしかしてあの子達もそう勘違いしたんじゃないかなと思うわけでして。
「……上海、蓬莱、外に出るわよ」
「そ、そうだね、邪魔しちゃいけないもんね……」
「二人ともごゆっくりー……」
やっぱり勘違いしてる!
「ちょ、ちょっと待ってー! これ、そういうのじゃないから!」
「そ、そうよ! いや、若干そういうのだと嬉しいかなーとは思うけど……」
「何言ってるのよママ! 誤解解いてってばー!」
勘違いされてしまった私達は、真っ赤になって弁解を始めるのでした……
ちなみに三人の誤解を解くのに三分ほど掛かりました。
「それにしても、上海ちゃんたちとも久々に会うわねぇ」
「そうですねー……」
誤解も解け、ママの膝の上でニコニコしている上海。
ちなみに青い服を着ているのが上海で、赤い服を着ているのが蓬莱だ。
私以外の人が見分けるには服の色と口調に気をつけるしかないと思ってたり。
まぁ、お互いに似てるものねぇ……
「ちょっと上海ー! あとで私にも代わってよー?」
「あとでねー」
「もー……」
上海の言葉に頬を膨らませる蓬莱。
二人一緒に座れば良いのに、とか思ってしまったのは内緒。
「あ、マスター、これ幽香さんからです」
「ん、お土産?」
私のことをマスター、と呼んだのはゴリアテ。
上海と蓬莱にとってはお姉さんのような存在だ。
余談になるけれども、三人はそれぞれ私の呼び方が違う。
上海は「アリス様」だし、蓬莱は「ご主人様」。
そしてゴリアテは「マスター」だ。
ゴリアテは二人より大きいので、初対面の人でも分かりやすいと思う。
さて、それは置いといて……お土産って何かしら?
新聞紙に包まれた長いものだけれど……とりあえず新聞紙を取り払ってみることにする。
「ん、これは……わっ、綺麗なひまわり!」
新聞紙の中には立派なひまわりが。
「幽香さんが『庭で綺麗に咲いてたからアリスに持っていって』と渡してくれたんですよ」
「へぇ、立派に咲いたわねぇ……」
流石は幽香。こんな綺麗な花を育てられるなんて只者じゃないわ。
フラワーマスターの異名は伊達じゃないわね。
「ん、それ、幽香ちゃんから?」
「うん、そうみたい」
「へぇ、綺麗ねぇ。そういえば幽香ちゃんは昔からお花が大好きだったっけ」
「そうなんですか?」
ママの話に上海と蓬莱が興味を持った。
どうやらゴリアテもちょっとばかり興味があるみたいね。
ママのほうに顔を向けて、興味津々といった目をしているし。
「ええ、昔からお花をたくさん育てたりしててねー」
「ほうほう!」
「昔からお花好きだったんですねー」
上海と蓬莱はそんな感じにママと仲良く話している。
で、ゴリアテはというと。
「昔の幽香さんってどんな感じだったんですか?」
「んー、今とあんまり変わらない、かしら? 花好きは昔からだったけど。
あとは昔はズボン履いてたわねー」
「ズボン姿の幽香さん……気になりますね」
私と話しているのだった。
せっかくだから、あっちに混ざれば良いのに。
まあ、私も退屈しないから別にいいけれどね。
「ゴリアテはママのところに行かなくてもいいの?」
「いえ、神綺さんは今上海たちとお話してますからね。邪魔は出来ませんよ」
ふーむ、やっぱりしっかり者ね。
二人のお姉さんに相応しいわ。
「流石はお姉さんねー。よしよし」
「む、や、やめてくださいよ……恥ずかしいです……」
頭を撫でられて恥ずかしがるゴリアテも良し。
こういうところが可愛いのよね。
「さてと、そろそろゴリアテちゃんともお話したいのだけれど、どうかしら?」
「あ、それじゃ私たち交代しますね!」
そう言ってママの膝から飛び降りる上海と蓬莱。
あれ、いつの間に二人とも膝の上に?
……ま、どうでもいいけど。
「さ、ゴリアテちゃん、私の膝の上においで!」
「は、はいっ!」
三人をも惹きつけるママの魅力……すごいなぁ。
そんなことを言う私もママには惹きつけられちゃうんだけれどもね。
「んー、ゴリアテちゃんも大きくなったわねぇ」
「そ、そうですか……?」
「ええ、前会ったときよりも大きくなってるわよ。ふふふ、色んな所がね……」
「あ、あぅ……」
えと、ナチュラルにセクハラするのはやめてもらえますかお母さん。
放っておいても害はなさそうだけれどさ。
「アリス様ー! 今度はアリス様の膝の上でー!」
「ご主人様ー! 私もぜひお願いします!」
「ん、二人ともおいでー」
それじゃ、私は残った二人とお話しましょうかしらね。
ふふっ、やっぱり三人とも可愛いわ……
こうして五人での楽しい時間はあっという間に過ぎていったのでした。
ちなみに私はその時間の半分以上をニヤニヤして過ごしていました。
だって皆可愛いんだもん。
「いただきまーす!」
「はい、どうぞー」
今日の夕食は皆大好き、ママ特製のハンバーグ。
ママによると、隠し味が決め手とのことらしいんだけど……なかなか教えてくれない。
うーん、気になる……スパイス? それともヨーグルト?
「冷めないうちに召し上がれー」
「はーい!」
んー、まぁ、今はそんなこと気にしないでおこう。
冷めないうちに食べなくちゃ、ね?
それじゃ、いただきまーす。
「んー、やっぱり神綺さんの作るご飯は美味しいですー」
「アリス様のご飯も美味しいけれど、やっぱり神綺さんのご飯も美味しいですよー!」
「ええ、流石は親子ですね」
ハンバーグを口の運んだ三人は、そんな風にベタ褒めしている。
まぁ、ママのご飯が美味しいとは私も思ってるけどね。
だけど、ママ以上に料理ができるようになるっていうのが、実は目標だったりする。
それでママに褒めてもらえたら、もう最高……!
頭も撫でられたりして……
「あれ、マスター、ニヤニヤしてどうかしたんですか?」
「あ、いや、なんでもないわっ!」
……どうやら顔に出ていたみたい。気をつけないと。
にやけた顔とか見られるの恥ずかしいし……
「ご主人様は美味しさのせいでニヤニヤしてたんですよね?」
「あ、うん、まぁ、そんなところかな……あ、あはは……」
わ、笑ってごまかすしかないや……
これでこの場を乗り切れるのなら安いもの……
「アリスちゃんったら、私の料理に魅了されちゃったのねー」
「う、うん、だって美味しいもの! この腕前だったらお店も開けるよ、うん!」
「えー、流石にそこまではないわよ」
謙遜するママ。でも、どこか嬉しそう。
やっぱり褒められて嬉しいみたいね。
「それよりも早く食べないと冷めちゃうわよ」
「あ、はーい!」
おっとっと、そうだった。
早く食べないと硬くなっちゃう。
ナイフで丁寧に切り分けて、と……うん、やはり美味しい。
あーあ、私もこれくらい上手くなりたいなぁ……
もっとママに料理教えてもらおうっと。
今度暇がある時にでも……
「ふあー、眠いです……」
「私もー……」
「もう夜も遅いからね……私も眠いです」
お茶を飲んだり、皆でお風呂に入っていたらもうこんな時間。
上海、蓬莱、ゴリアテはもうおねむの様子。
私はそこまで眠くはないけれど……みんなが寝るんだったら……
「ママも寝る?」
「ん、そうねー。皆が眠いって言うなら私も……」
「それじゃ、私もー……」
そういえば昨日は魔理沙たちと一緒にいたから、あんまりママに甘えられなかったのよね。
だから……今日はいっぱい甘えちゃおっと!
普段皆からクールだとか冷静だとか言われてるけれども、私だって人の子。
甘えちゃいたい時だってあるもん。
「あのね、ママ……昨日はゆっくり寝られなかったから……
今日は一杯甘えちゃってもいい……?」
三人に聞こえないようにママに耳打ちをする。
まぁ、三人とも眠さのせいであんまり聞いてはいないだろうけど。
「あらあら……アリスちゃんったら、いつまで経っても甘えんぼさんなんだから」
「わ、私だって人の子だもん……だ、ダメかな?」
うぅ、顔が熱くなってきたよ……
「ふふ、ダメなんて言うわけないでしょ? 久々だし、いくらでも甘えていいのよ」
「う、うんっ!」
と、そこまで言ってから、あることに気がついた私は慌てて視線を前に戻した。
三人のこと忘れてたよ……い、今の見られてないよね……?
「くー……」
「すかー……」
「マスター……んー……」
よ、よかったぁ……三人とも寝てたよ。
もし見られてたら、恥ずかしさで爆発してたわね……
「でも甘える前に三人をベッドに寝かせてからにしましょうね」
「あ、う、うん……」
ということで、三人をベッドに移すことにする私達。
「よいしょ……!」
まずは上海を……よし、抱っこできたわ。
「じゃ、私は蓬莱ちゃんを運ぶわね」
「うん、お願いね」
二人で寝室に入り、ベッドの上に上海と蓬莱を乗せる。
この二人は軽いから、そこまで大変じゃないのよね。
……よし、これであとはゴリアテだけね。
でもゴリアテは大きいから二人で運ばないと無理かも。
「ママ、ゴリアテを運ぶの手伝ってくれる?」
「ええ、もちろんよ。アリスちゃん一人じゃ無理だろうしね」
「うん、ありがと……」
こうして二人でゴリアテを寝室まで運ぶことに。
リビングに戻って、ゴリアテの体に手をかける私達。
「それじゃ、行くわよ。せーのっ!」
「うんしょっ!」
せーの、の声でゴリアテを持ち上げる。
彼女は決して重くはないんだけれど、二人で運んだ方がやっぱり楽なのよね。
ゆっくりと寝室に向かい、ベッドの横に立つ。
……うん、起きてはいないみたい。
「下ろすからゆっくりね?」
「うん、よいしょ……」
起こしてしまわないように注意しながらゆっくりとベッドに下ろす。
「ふぅ、これで三人とも運び終わったわね」
「うん、これで私達もゆっくり出来るね」
ふふふ、三人を運び終わった後は……お待ちかねの甘えんぼタイム!
「マーマっ♪」
「きゃっ、こらこら!」
三人を見下ろすママの後ろから抱きつく私。
昔から変わらないママの暖かさ、香り、柔らかさ。
全てが私の体を虜にする。
「もう、いきなりそんなことされたらびっくりするじゃない」
「えへへ、ごめんなさい」
私の頭を軽く撫でながら、ママは怒った。
怒った、と言っても軽く注意する感じだけれどもね。
「全く、しょうがない子ね……さぁ、さっさとベッドに入りましょ」
「うんっ!」
大きく頷いて、ママと一緒にベッドに潜り込む。
もちろん三人を起こさないように気をつけながらね。
「こうして寝るのも久方ぶりねぇ」
「そうだねー。昨日は皆がいたからこんな風に寝れなかったし」
「そうそう。それにしても、皆はアリスちゃんがこんなに甘えん坊さんってことを知ってるのかしら?」
「むぅ、それだけは知られたくない……」
皆にこんな一面を知られちゃうなんて考えただけでも恐ろしい。
もし知られてしまったら、一ヶ月はからかわれること間違いなしね……
「ふふ、大丈夫よ。私は言いふらしたりしないから」
「や、約束だよ?」
「ええ、もちろんよ。絶対に言わないから」
悪戯っぽい笑みを浮かべるママ。
でもママがそこまで言うなら絶対に言わないと思う。
……たぶん。
「さてと、昔みたいにぎゅっと抱っこしてあげましょうか?」
「うん、お願い……」
「アリスちゃんは抱っこされるのが大好きだもんねー」
そう言いながら、ママは私をぎゅっと抱きしめる。
ママからされる抱っこが一番好き。
すごく暖かくて、気持ちが良くて……最高なの。
「ママぁ……」
私もママの背中に腕を回して、抱きしめ返した。
二人の体がぴったりとくっつく。
あう、ママの胸の膨らみが体に当たってるよ……やっぱり大きいな。
私もこれくらいになりたい。
「ん、お風呂に入ったときにも感じたんだけど……やっぱりアリスちゃん、大きくなってるわね」
「ふ、ふぇ?」
「身長だけじゃなくて胸も、ね?」
「あうう、恥ずかしいよ……それにそんなに大きくないし……」
そんなに大きくなったとは思わないんだけれど……
「いやいや、十分大きくなったわよ。
あんなにちっさかったアリスちゃんがここまで大きくなってくれるなんて……ママはとっても嬉しいわ」
「あ、ありがと……」
またしてもママは頭を軽く撫でてくる。
褒められたのと撫でられたので、顔が熱くなってきちゃった……
「あ、アリスちゃん真っ赤ー」
「ママから撫でられたり、褒められたりしたから真っ赤になっちゃったの……」
ややうつむきながらそう返す。すると……
「あら、だったらもっと真っ赤にしちゃおうっと」
「ひゃわっ!?」
顔をママの胸にぎゅうっと押し付けられた。
あ、でも、何これ……すごい落ち着く……
ママが押し付けていた顔をいつの間にか私自身が押し付けていることに気がついた。
「ふふ、落ち着くでしょ?」
「うん……すごい不思議……」
「昔からアリスちゃんが泣いたりする度に、こうやってママの胸の中で慰めたものよ。
きっと体がそれを覚えてるんでしょうね」
あっ、思い出した。
小さい頃に泣いたり、機嫌が悪かったりした時にはこうやってママの胸に顔を埋めてたっけ。
そんな私をママは優しく慰めてくれたんだ。
だから、こうやってママの胸に顔を埋めていたら落ち着くんだ。
ああ、そういうことなんだ。
「ふふっ、懐かしいなぁ……
胸の中で泣いてた私をママはいつも優しく撫でてくれたっけ」
「そうそう。そうしていると、いつの間にか寝てたりしてね」
「覚えてる覚えてる! 気がついたら朝だったりしてびっくりしたなぁ」
気がついたら、ママも私を抱きしめたまま寝ちゃってたりしたのよねー。
懐かしいなぁ。
「それじゃ、今日は久々にこのまま寝てみる?」
「……それもたまにはいいかもね。それじゃ、このまま寝る!」
「はいはい。それじゃお休み、アリスちゃん」
「うん、お休み!」
ママは私のおでこに、お休みのキスをしてくれた。
私もお返しのキスをママのおでこにする。
これが私達のお休みの挨拶。
小さい頃から今もずっと変わってない私達の挨拶。
キスが終わると、私は目を閉じた。
すると、ママの暖かさと心地よさも手伝って、私の意識はあっという間に遠くなっていくのでした。
チュンチュン、と外から鳥のさえずる声が聞こえてくる。
「ん、もう朝……」
私はゆっくりと目を開けた。
すると目の前には……
「あ、おはよう、アリスちゃん」
私を見ながらにっこりと微笑むママの顔が。
「あ、ママ、おはよう」
「ふふっ、アリスちゃんの寝顔が可愛かったから、起きてからずっと見とれちゃってた」
「や、やだ、もう、恥ずかしい……」
わ、私の寝顔、変だったりしなかったかな……
いびきとかかいてたらどうしよう……
「アリスちゃんの寝顔は天使の寝顔ね!」
「そ、そんなんじゃないよぉ……」
「いや、断言するわ。天使の寝顔ってね!」
「も、もう……」
朝からテンションの高いママだけど、これはいつものことなのでしょうがない。
ママはいつも朝から元気なのだ。
「で、さっき思ったんだけど……今日は朝ごはんは里で食べない? 毎日朝作ると面倒でしょ?」
「あ、それいいね。私、朝ごはんが美味しいお店知ってるよ」
「じゃあ、そこに行きましょ! そうと決まれば三人を起こさないと!」
こうして朝ごはんを外に食べに行くことになったのでした。
ふふ、昔からこんな感じに物事が決まっていくことも多かったな。
やっぱりこれも変わらないや。
「みんな、準備は出来た?」
「はい!」
「出来ましたよー!」
「私もばっちり出来ました!」
ママの問いに元気良く返事をする上海、蓬莱、ゴリアテ。
皆、髪もしっかり整え、服も着替えている。
準備は万端ね。
「アリスちゃんも出来た?」
「ええ、もちろん! しっかり準備したよ!」
大きく頷いて、サイフやらハンカチやらが入ったポシェットをママに見せる。
「よーし、皆準備出来たみたいだし、行くわよー! 目的地は人間の里!
目標は美味しい朝ごはん!」
「「「「おー!」」」」
私、上海、蓬莱、ゴリアテの声が家の中に響き渡った。
まるで探検隊の隊長と隊員みたいね。
「それじゃ、しゅっぱーつ!」
「「「しゅっぱーつ!」」」
「行くわよー! ついて来ーい!」
ママの掛け声に続いて、三人も叫ぶ。
そして、そのまま走って外に出て行ってしまった。
あ、朝から皆テンション高いわねぇ……
まぁ、さっきの奴にノった私のテンションも高いのかもだけど。
苦笑いをしてから家の中を見回すと……
「……あ! ママったらサイフ忘れてるじゃない!」
テーブルの上にママのサイフが。
もう! ママったらそそっかしいんだから!
「ママー! サイフ忘れてるー!」
急いで外に出て、家の鍵を閉めてから追いかけることにする。
……ってか、もう姿見えないし!
一体どれだけ早いのよ!?
「も、もーっ! これじゃ私までダッシュしないといけないじゃない!」
一人でそう叫び、みんなの後をダッシュで追っかけることにした。
はぁ、ママったらほんとドジよねぇ……
ま、そんな面もママらしくて好きなんだけど、ね?
「こらーっ! みんな待ちなさいよー!」
クスリと笑いながら私は里への道を走り出した。
私の大事な娘たち、そして私を育ててくれた誇れる母親を追いかけて。
後やたらメイド妖精ごり押ししてくると思ったら
作者名見て納得・・・・・・
たまにそういう感じの作品見かけますけどここまでハッキリと人格があるのは双角さんの作品だけじゃないですかねー。私は好きです。
アリスちゃんとママの絡みがほほえましい
メディスンも元々人形ですしね。
妖精メイドについては関係ない作品でもチラリと存在を示唆することで興味を持っていただければ、と思っております。
最後になりますが、コメントありがとうございました。