「ったく、もぐもぐ、今年の霊夢はなんだってんだ、もぎゅもぎゅ、あれじゃあつんでれいむじゃなくて、もごもご、ただの、んぐんぐ、でれいむなんだぜ」
「うんうん、もごもご、そーですよ。もぐもぐ、不機嫌なのも困りますけど、もぎもぎ、あぁやって、んぐっ、ひたすらデレられても、ぱくぱく、対応というか、コメントと言いますか、もぐもぐ、見せ付けられるコッチの身にもなれって言いますか、あ、お茶おかわりです」
「もぐもぐ、もっ、魔理沙も早苗も、もぎもご、口に物入れながらしゃべんないで下さいよもぐもぐもぐもぐ、あ、すみません、芋羊羹おかわりありますか?」
「いや、それは貴女もでしょうが」
芋羊羹を頬張ったりお茶を飲み下したりしながら会話を無理矢理にでも成立させようとする魔理沙と早苗と妖夢。咲夜は「まったく、口に物を入れるか言葉を吐き出すかどっちかにしないさい」と、行儀の悪さを指摘しながら熱い緑茶を啜った。流石は姫様が飲む物だけあって、茶葉は相当高級なもののようだ。そして姫様なのに和に関する事では咲夜さえ及ばない輝夜直々に淹れてくれただけあって、その緑茶は渋みの中に甘みがあり、奥ゆかしい深い味わいが舌先を支配し、鼻先から仄かに爽やかな匂いが通っていくを感じた。
咲夜はどれくらい丁寧に淹れればこんな味が出せるのだろうと頭の隅で考えながら、輝夜お手製の芋羊羹とお茶に舌鼓を打った。
「そんなに慌てて食べなくても、まだいっぱいあるわよ」
お茶と芋羊羹のおかわりを用意しながら輝夜が言う。お子様は食欲も旺盛ね、とでも言いたそうな顔で淡く笑っていた。
「だって、これメッチャうまいぜ!」
「まいうーです!」
「褒めてもおかわりしか出ないわよ?」
「やったぜ! なぁなぁ、少し持って帰ってもいいか? アリスに食べさせてやりたいんだ」
「私も私も! 神奈子様に是非!」
「……意外と図々しいのね」
苦笑する輝夜に、魔理沙と早苗は「「お子様は遠慮しちゃいけない」」「んだぜ!」「です♪」と声を揃えて無邪気に笑った。
「でも、本当にとっても美味しいです。あの、宜しければあとで作り方を教えて頂けますか?」
「あ、私もお願いしていいかしら?」
そんな二人とは対照的にレシピを所望する妖夢と咲夜。いつもの事なので、輝夜は「はいはい」と軽く頷いた。
「でも、ほんっと今年の霊夢は害が無さそうで良かったぜ」
芋羊羹をたらふく食べ終え、お茶を飲んで一息つきながら魔理沙が言う。その言葉に早苗が「そーですねー」と同意した。
「あー、冬もこうならいいのに~」
「それは無理でしょう」
「無理なんですか?」
早苗の希望的観測を否定した咲夜の言葉に、妖夢がきょとんとしながら問う。
あんまりにも鈍感な妖夢に、輝夜は「ふふっ」と小さく笑みを零した。
「貴女はそのままで居て欲しいわね」
そうして「よしよし、いい子いい子」と、まるで飼い犬にでもするかのように妖夢の頭を撫でた。
「え、えぇ、な、なんなんですかいきなり!?」
輝夜に笑顔つきで頭を撫でられて、妖夢は顔を真っ赤にする。お子様扱いされている事には変わらないのだが、輝夜の綺麗な笑顔を向けられたら、大抵のものは逆らえなかったりするから困りものだ。
「何はともあれ、今年の秋は平和に過ごせますね」
「あーぁ。ご機嫌取りの食物献上も、あんま意味無かったなー」
「でも、何故いきなりあんな態度を取ってるのかしら? 夏場は結構……」
「やっぱり秋だからじゃないですか?」
「……あの、霊夢の様子ってそんなに違います?」
妖夢の言葉に魔理沙と早苗と咲夜は半笑いを返した。
輝夜は四人のやり取りを微笑ましく見守りながらも、その内ふっと軽やかな笑みを漏らし、口を開く。
「そんな難題じゃないでしょう?」
「?」
四人の視線が輝夜へ向く。そりゃお前の難題よりは簡単だろう、とか誰かが零した。
「素直になっただけよ」
机に頬杖を付いて、輝夜は微笑む。
その言葉に、魔理沙と早苗と咲夜は何処と無く苦笑して、妖夢はきょとんと僅かに首を傾げた。
「よく分かるんだな」
「まぁ、ね……」
周りに凶悪なヤンデレ薬師とか、超暑苦しいツンデレフェニックスとかいるから……と、顔を逸らし、どこか遠い目をして呟いた輝夜が印象的だったと、後に四人は語ったという。