穏やかな気候のある夜、相も変わらず博麗神社で開かれた大宴会。
いつかの時みたいに紅くはなく、また別のいつかの時のように歪んだものでもない、純粋に美しい月が人妖を照らしている。
鬼や亡霊などの飲めや騒げの喧騒から離れた縁側で、紅魔の主従が穏やかに過ごしていた。
「まったく…ご主人様より先に潰れて、あまつさえ膝枕までさせるなんてね。メイド失格ね」
「ご、ごめんなさーい……」
珍しく酔い潰れたメイド長が、主に看てもらっていた。普段、というか普通ならまずありえないような状況だが、レミリアはそんな咲夜を責めることなく、優しげに撫でてやっている。
「もう。謝んなくていいから、ゆっくりしなさいな」
「はい……ありがとうございましゅ……」
「咲夜、子供みたーい♪」
「うー…」
呂律が回らなくなってきている咲夜を、滅多にない外出をそれなりに楽しんでいるフランドールが笑う。
「おーおー、瀟洒なメイドも形無しだなぁ」
「おや、白黒」
「あ、魔理沙~って、ソレ、何?」
珍しいものを見るかのような目で魔理沙が近付く。その顔は宴会参加者の例に漏れず赤い。
彼女を見てフランドールは顔を綻ばすも、彼女が抱いている者を見て怪訝な顔をする。
「ん? 地霊殿の主の妹。酔っ払っちまったのか、抱きついてきて離してくれないもんだからさ」
魔理沙以上に赤い顔をした、古明地こいし―ファーストコンタクトで魔理沙を気に入った珍しい妖怪―を抱っこしていた。
こいしは心地よいのか顔が緩み切っている。
ちなみにそんなこいしの姉である古明地さとりは、
「うふふ~、あんたの大事なところはどんな味がするのかしら~?」
「きゃぁっ。や、やめてください霊夢さん!」
酒が完全に回り酔っ払って理性が吹っ飛んでいる(神職者であるはずの)巫女に襲われていた。
何も考えていないか考えていても支離滅裂な酔っ払いという存在はある意味さとりにとっては天敵といえよう。
あまつさえ、大事なところをひん剥かれて責められている。
「ふうっ」
「ひゃぁん!」
息を吹きかけられたり。
「ぺろっ」
「そ、そこはダメェ! 私、そこ弱いんですっ……!」
優しく舐められたり。
一応断っておくが、ひん剥かれたさとりの大事な部分とは、彼女の妖怪としての最大の特徴である第3の目である。
無駄に周りの心の声が聞こえないように瞼を閉じていたのだが……彼女のゆく末は……まぁね。
閑話休題。
「うー!! 次、私ー!!」
「んー、だめー……」
理性でこいしを引き離したい衝動を抑えつつ、フランドールが魔理沙に迫る。
が、寝ぼけつつもこいしがNoを出す。むしろ、彼女の能力的にこれが真骨頂かもしれない。
「がぁー!」
「落ち着け」
こいしを落とさないよう注意を払いつつフランドールの頭をポンポンと撫でる。
うーと零しながらも大人しくなった彼女の横に腰を下ろした。
これならいいでしょ、と背中から抱きついてきたフランドールに苦笑しながら、レミリアに話しかける。
「それにしても、咲夜がお前にベッタリな図って珍しいな」
「そりゃ人前で見せないようにはこの娘もするわよ。でも私と2人っきりの時とかはねぇ」
「お、おじょーさまぁ、それは秘密にしてくださいって言ってるじゃないですかぁ……」
咲夜としてはレミリア相手ならともかく、フランドールや魔理沙にとっての『かっこいい女性』でありたいのである。
こんな状況は、あまり見られたくなかったのだが。
咲夜の照れが多分に含まれた嘆きに、笑みを堪え切れないレミリア。
「くくく。だそうだ魔理沙、下手に言いふらしたりなんかしたらグングニルで串刺しにするぞ?」
「バラした張本人の台詞じゃないだろソレ……」
「えー! お姉様、そんなことしたらレーヴァテインで17分割にしてやるからね」
「わはは、頼もしいなぁ」
3人で、酌のし合いを続けていく。咲夜のように潰れないようそれぞれが自分のペースを保ちつつ続ける談笑は楽しかった。
ふと、レミリアが呟く。
「最近は平和ねー。異変らしい異変も起こりもしないし、退屈だわ。妖怪の山にまた喧嘩でも売ろうかしら」
「私も私もー!」
物騒極まりないレミリアの案にフランドールが賛同する。実際レミリアはかつて山を大窮地に追い込んだことがある分シャレにならなかった。
「それはやめとけって。異変が起きたってどうせお前は動かんだろうに……ん?」
呆れながら零した魔理沙が、ふと何かに気付いたような顔をする。
「どうかしたのかしら?」
「んー? いや、最近咲夜が異変解決に出ないなー、って思っただけさ」
少し考えてから、何でもなかった風に魔理沙が返す。
しかし、そこでさらに疑問が生まれた。
「……そういや、そもそも咲夜が異変解決に出かけたのって何でだっけ?」
話のタネにちょうどいい、という風に、レミリアも答える。
「んー……まず基本的に、咲夜自身が気になったっていうのがあるわね」
「ああ、萃香とか天子のやつか。それと花の異変」
「そうそう。あと永遠亭の連中が起こした異変は、私が引っ張ったんだった」
「そうだよー、私だって魔理沙と組んで行きたかったのにー!」
ぶーぶーと文句を言って抱きつく力を強くするフランドールを宥める。
そのままレミリアの膝の上の咲夜に声をかけた。
「なにー? まりさー」
口調は柔らかくなっているが意識はちゃんとしているようだ、そんな咲夜に尋ねる。
「お前って何で異変解決に行ったり行かなかったりするんだー? 教えてくれないか?」
「いいわよー」
「んー、じゃあまず春雪異変は?」
「あー、あれはねー、私が猫舌だからー」
「「は?」」
「ぷぷっ」
いきなりの斜め上な回答に目を丸くする魔理沙とフランドール。
その真意を知っているのかレミリアは笑い、それに付け加えた。
「ほら、うちの屋敷は大きいから、暖房の燃料とかがたくさん必要でしょ? でもいざとなればパチェとかフランの火の魔法で代用できるし、洗濯物だってパチェの日と風の魔法で十分乾くわ」
実際紅霧異変の時はそうしてたんだけどねー、と主従コンビが笑い合う。
妙な真実にへぇ、と感心する2人。
そして続ける。
「でも、いくら暖房があるといっても、寒い日には温かいものを食べたいじゃない?」
うんうんと頷く魔理沙とフランドール。
「で、咲夜は猫舌だから、料理を作った本人が1番食べ辛そうにしてるわけ。それは可哀想でしょ? それに、寒い日の水回りは辛そうだったからね」
「お、おじょーさま! 私はおじょーさまやいもーとさまのためなら、この身惜しくなどありませんわ!」
麗しい忠誠心を剥き出しに、酔って赤い顔をシリアス風にする咲夜。
「だーめ」
「ふにゃぅ」
そんな表情は一瞬で崩れ散った。
器用に体を折り曲げて、膝の上の咲夜の額に自分の頭をコツンと合わせるレミリア。
咲夜はそんな彼女に思い切り顔を綻ばせた。
「ラブラブだな」
「ラブラブだね」
こっちが熱くなるなー、そうだねー、と掛け合う2人にレミリアは顔を少し赤くした。
料理や酒を少しつまんでから、新たな話題。
「じゃあ、白蓮達や神奈子達、さとり達の異変に出向かなかったのは何でだ?」
「んー、まず宝船異変ね。あれは特に必要なかったからよ」
「?」
いまいち理解できない、といった風に首を傾げる魔理沙。
「里の人間達はあれが縁起がいいとか言ってたけど、人間にとって縁起いいものが私達妖怪にもいいとは言えないでしょ?」
「まあ、確かに」
「それに財宝が乗ってるとか噂があったけど、財宝だったらうちにもたくさんあるしね」
「ほほぅ?」
目を光らせる魔理沙。
そんな彼女に釘を刺す。
「盗もうとしてもダメよ? それに、宝物庫には鍵があるから入れないわ」
「あ、その鍵私が持ってるよー。部屋に置いてる」
「いつの間にー!?」
刺す釘が錆びていた。
「でかしたフラン!」
「お姉様ったら、ベッドの下の妙な箱に色々大事なもの隠してるんだもん。他にはエロほ」
「黙ろうか」
「あい」
ちょっとカリスマ込めて爆弾発言しようとした妹を睨みつける。
右手を挙げて返事する妹さん。
「魔理沙、とにかくうちの財宝は盗んだりしないでね? そいつらには私の家族の思い出とかそういうものが込められてるんだから」
「イイハナシダナー」
「盗むなよ?」
「あい」
さらにカリスマ込めて茶化そうとした友人の白黒を睨みつける。
右手を挙げて返事する魔法使い。
はぁー、と深い溜息をつく主に膝の上の従者は微笑んだ。
くくく、と笑いながらさらに尋ねる。
「で、神奈子達の時は?」
「ああ、あれは別に神社が乗っ取られたってよかったからよ。そしたら霊夢がフリーになって、心置きなくうちに誘えるじゃない♪」
「「…………」」
霊夢にレミリアが熱をあげていることは皆知っている。
それを知っていたから、魔理沙は霊夢に「もし私の住むとこがなくなったらあんたんちに厄介になるから」と言われたことを黙ることにした。
「……だー、めー、ですぅー」
レミリアが両頬を押さえてきゃーきゃー乙女している折、不機嫌そうな声で咲夜がレミリアに突っかかる。
「どうした、咲夜?」
「……おじょーさまはー、私のですぅー。誰にもあげたくないですー」
一瞬で頼れる主モードに戻ったレミリアに、幼い口調で独占宣言。そして膝の上で寝ながら腰に腕を回し、ぎゅっと抱きつく。
「よしよし。大丈夫だって。私がお前を見捨てるなんてことは絶対にないから」
「……えへへー」
髪を撫でてもらいながら表情を緩める咲夜。
そんな彼女に金髪魔法少女ズはにやにや顔で息を揃えて
「「イイハナシダナー」」
「お前らうるさい」
2人でレミリアを笑っている時、あ、と呟いてフランドールが手を叩く。
「魔理沙の家を壊したら魔理沙を正当な理由でうちに連れてこれるね! 破壊は任せろー」
「「やめて!」」
自分で言ってる時点で正当じゃなかった。
「ちっ」
舌打ちするフランドールに一抹の不安を覚えつつ、話題を元に戻す。
「じゃ、じゃあさ、さとり達の異変に出向かなかったのは?」
「それは私もよくわからないの。一応私とフランと美鈴の3人でサポートしようと思っていたんだけどね。温泉が人間にとっていい癒しって聞いていたから、異変解決の暁には労ってやろうと思っていたんだけど、咲夜が頑なに拒否してね」
ちなみにオプションの予定としては、
レミリア:未来視・時を止めれば相手の弾幕の軌道が読める
フラン:火力強化・ショット・ボムの攻撃力が跳ね上がる
美鈴:身体強化・残機1に対して被弾が2回まで許される
余談だが、パチュリーが魔理沙のサポートをしていたと知りフランドールがひと暴れしたことは姉妹は2人とも黙っていた。
「ねえ咲夜、貴女どうして地下の異変に行かなかったの?」
「……ぃです」
「え?」
レミリアが咲夜に尋ねるが、帰ってきた答えは弱々しすぎて聞こえなかった。
デビルズイヤーが自慢のレミリアにも聞こえてなかったということは、実際言葉にもできてなかったんだろう。
もう1度尋ねると、
「恥ずかしい、です……」
震える声でそう言った。
「……笑わないから、言ってごらんなさい?」
「……えっと、ですね?」
「うん」
しばらく躊躇していたが、3人は辛抱強く待った。
そして、意を決したように答える。その答えは、
「……暗いの、苦手なんです。怖いから」
何か可愛かった。
「「「………………」」」
一同絶句。
魔理沙は感動に近い何かを覚えながら完全にフリーズ、レミリアもあんた私に仕えて何年目よ!? などと心中でてんぱっていた……
……のだが、次の瞬間には鬼に依頼しての図書室含む紅魔館大改築ビフォアアフターの計画を立てていた。
そんな2人をよそに、フランドールが恐る恐る咲夜に話しかけた。
その様子はまるで自分を避けているクラスメイトと話をしようとする子供のよう。
「あの、咲夜? もしかして咲夜が私の部屋にご飯とか持ってきた時変に怖がってたのって、私を怖がってたんじゃなくて……」
「あ、はい。単に地下が暗いから、です……おじょーさまに似て可愛らしいいもーとさまを怖がる理由なんて、ありませんよぅ」
「そ、そっか……えへへ」
思いがけない真実を知り、顔を綻ばせるフランドール。
彼女のそんな様子に、レミリアと魔理沙も顔を見合わせクスリと笑い合った。
その後、咲夜はレミリアの、フランドールはこいしを別の部屋に寝かせて戻った魔理沙の膝の上でそれぞれ眠りについた。
そしてしばらく2人で静かに酌をする。いつしか月もだいぶ傾いていた。
「……さて、そろそろ宴もたけなわね、朝日が出ないうちに帰ろうかしら」
「うん? 日傘ありゃ余裕なんだろ? もっとゆっくりしていきゃいいじゃないか」
「そうだけど、この娘がこうだからねぇ」
そう言って、膝の上の咲夜を撫でる。いい夢を見ているのか幸せそうな顔だった。
「美鈴にでも担がせたらいいじゃないか」
美鈴やパチュリーも宴会に参加している。といっても、パチュリーはアリスや白蓮といった魔法使いと飲みながら談義していたし、美鈴は咲夜に強い酒を勧めて潰した後に絡んだ命蓮寺の門番や船長と意気投合していた。なぜか3人とも飲み進めるにつれて泣き上戸になっていったが。
「それもそうだけど……この娘は、私が運んでやりたいの」
そう言いながら咲夜を見つめる彼女の瞳は、悪魔とは思えないほど優しかった。
それを感じ取り、魔理沙は野暮なことを言うのをやめにした。
「……そうか。じゃあフランは私が連れて行ってやろうか」
「頼むわね」
「おう」
その後、魔理沙が半分寝ているフランドールを箒の後ろに乗せ、レミリアが咲夜をお姫様抱っこで抱えたところへ、美鈴とパチュリーが合流する。
相当酒を楽しんだ反動か、2人とも体調は優れてなさそうだった。
一斉に飛翔する。
夜明け前の清々しい空気と腰に抱きつく温かな感触を味わいながら、魔理沙はレミリアに抱えられた咲夜に目を向ける。
「んー……♪」
寝顔は今もとても穏やかだった。それがレミリアという存在によってもたらされているという安寧だというのなら、
(何だかなぁ)
少しだけ、羨ましかった。だが、友人だと思っている存在が幸せそうにしているということは、
それはそれで、悪いことじゃないよな。そう思った。
数日後、久しぶりに紅魔館に向かった魔理沙が、地下室が埋め立てられ窓が圧倒的に増えた新生紅魔館に驚愕するのは、また別の話。
いつかの時みたいに紅くはなく、また別のいつかの時のように歪んだものでもない、純粋に美しい月が人妖を照らしている。
鬼や亡霊などの飲めや騒げの喧騒から離れた縁側で、紅魔の主従が穏やかに過ごしていた。
「まったく…ご主人様より先に潰れて、あまつさえ膝枕までさせるなんてね。メイド失格ね」
「ご、ごめんなさーい……」
珍しく酔い潰れたメイド長が、主に看てもらっていた。普段、というか普通ならまずありえないような状況だが、レミリアはそんな咲夜を責めることなく、優しげに撫でてやっている。
「もう。謝んなくていいから、ゆっくりしなさいな」
「はい……ありがとうございましゅ……」
「咲夜、子供みたーい♪」
「うー…」
呂律が回らなくなってきている咲夜を、滅多にない外出をそれなりに楽しんでいるフランドールが笑う。
「おーおー、瀟洒なメイドも形無しだなぁ」
「おや、白黒」
「あ、魔理沙~って、ソレ、何?」
珍しいものを見るかのような目で魔理沙が近付く。その顔は宴会参加者の例に漏れず赤い。
彼女を見てフランドールは顔を綻ばすも、彼女が抱いている者を見て怪訝な顔をする。
「ん? 地霊殿の主の妹。酔っ払っちまったのか、抱きついてきて離してくれないもんだからさ」
魔理沙以上に赤い顔をした、古明地こいし―ファーストコンタクトで魔理沙を気に入った珍しい妖怪―を抱っこしていた。
こいしは心地よいのか顔が緩み切っている。
ちなみにそんなこいしの姉である古明地さとりは、
「うふふ~、あんたの大事なところはどんな味がするのかしら~?」
「きゃぁっ。や、やめてください霊夢さん!」
酒が完全に回り酔っ払って理性が吹っ飛んでいる(神職者であるはずの)巫女に襲われていた。
何も考えていないか考えていても支離滅裂な酔っ払いという存在はある意味さとりにとっては天敵といえよう。
あまつさえ、大事なところをひん剥かれて責められている。
「ふうっ」
「ひゃぁん!」
息を吹きかけられたり。
「ぺろっ」
「そ、そこはダメェ! 私、そこ弱いんですっ……!」
優しく舐められたり。
一応断っておくが、ひん剥かれたさとりの大事な部分とは、彼女の妖怪としての最大の特徴である第3の目である。
無駄に周りの心の声が聞こえないように瞼を閉じていたのだが……彼女のゆく末は……まぁね。
閑話休題。
「うー!! 次、私ー!!」
「んー、だめー……」
理性でこいしを引き離したい衝動を抑えつつ、フランドールが魔理沙に迫る。
が、寝ぼけつつもこいしがNoを出す。むしろ、彼女の能力的にこれが真骨頂かもしれない。
「がぁー!」
「落ち着け」
こいしを落とさないよう注意を払いつつフランドールの頭をポンポンと撫でる。
うーと零しながらも大人しくなった彼女の横に腰を下ろした。
これならいいでしょ、と背中から抱きついてきたフランドールに苦笑しながら、レミリアに話しかける。
「それにしても、咲夜がお前にベッタリな図って珍しいな」
「そりゃ人前で見せないようにはこの娘もするわよ。でも私と2人っきりの時とかはねぇ」
「お、おじょーさまぁ、それは秘密にしてくださいって言ってるじゃないですかぁ……」
咲夜としてはレミリア相手ならともかく、フランドールや魔理沙にとっての『かっこいい女性』でありたいのである。
こんな状況は、あまり見られたくなかったのだが。
咲夜の照れが多分に含まれた嘆きに、笑みを堪え切れないレミリア。
「くくく。だそうだ魔理沙、下手に言いふらしたりなんかしたらグングニルで串刺しにするぞ?」
「バラした張本人の台詞じゃないだろソレ……」
「えー! お姉様、そんなことしたらレーヴァテインで17分割にしてやるからね」
「わはは、頼もしいなぁ」
3人で、酌のし合いを続けていく。咲夜のように潰れないようそれぞれが自分のペースを保ちつつ続ける談笑は楽しかった。
ふと、レミリアが呟く。
「最近は平和ねー。異変らしい異変も起こりもしないし、退屈だわ。妖怪の山にまた喧嘩でも売ろうかしら」
「私も私もー!」
物騒極まりないレミリアの案にフランドールが賛同する。実際レミリアはかつて山を大窮地に追い込んだことがある分シャレにならなかった。
「それはやめとけって。異変が起きたってどうせお前は動かんだろうに……ん?」
呆れながら零した魔理沙が、ふと何かに気付いたような顔をする。
「どうかしたのかしら?」
「んー? いや、最近咲夜が異変解決に出ないなー、って思っただけさ」
少し考えてから、何でもなかった風に魔理沙が返す。
しかし、そこでさらに疑問が生まれた。
「……そういや、そもそも咲夜が異変解決に出かけたのって何でだっけ?」
話のタネにちょうどいい、という風に、レミリアも答える。
「んー……まず基本的に、咲夜自身が気になったっていうのがあるわね」
「ああ、萃香とか天子のやつか。それと花の異変」
「そうそう。あと永遠亭の連中が起こした異変は、私が引っ張ったんだった」
「そうだよー、私だって魔理沙と組んで行きたかったのにー!」
ぶーぶーと文句を言って抱きつく力を強くするフランドールを宥める。
そのままレミリアの膝の上の咲夜に声をかけた。
「なにー? まりさー」
口調は柔らかくなっているが意識はちゃんとしているようだ、そんな咲夜に尋ねる。
「お前って何で異変解決に行ったり行かなかったりするんだー? 教えてくれないか?」
「いいわよー」
「んー、じゃあまず春雪異変は?」
「あー、あれはねー、私が猫舌だからー」
「「は?」」
「ぷぷっ」
いきなりの斜め上な回答に目を丸くする魔理沙とフランドール。
その真意を知っているのかレミリアは笑い、それに付け加えた。
「ほら、うちの屋敷は大きいから、暖房の燃料とかがたくさん必要でしょ? でもいざとなればパチェとかフランの火の魔法で代用できるし、洗濯物だってパチェの日と風の魔法で十分乾くわ」
実際紅霧異変の時はそうしてたんだけどねー、と主従コンビが笑い合う。
妙な真実にへぇ、と感心する2人。
そして続ける。
「でも、いくら暖房があるといっても、寒い日には温かいものを食べたいじゃない?」
うんうんと頷く魔理沙とフランドール。
「で、咲夜は猫舌だから、料理を作った本人が1番食べ辛そうにしてるわけ。それは可哀想でしょ? それに、寒い日の水回りは辛そうだったからね」
「お、おじょーさま! 私はおじょーさまやいもーとさまのためなら、この身惜しくなどありませんわ!」
麗しい忠誠心を剥き出しに、酔って赤い顔をシリアス風にする咲夜。
「だーめ」
「ふにゃぅ」
そんな表情は一瞬で崩れ散った。
器用に体を折り曲げて、膝の上の咲夜の額に自分の頭をコツンと合わせるレミリア。
咲夜はそんな彼女に思い切り顔を綻ばせた。
「ラブラブだな」
「ラブラブだね」
こっちが熱くなるなー、そうだねー、と掛け合う2人にレミリアは顔を少し赤くした。
料理や酒を少しつまんでから、新たな話題。
「じゃあ、白蓮達や神奈子達、さとり達の異変に出向かなかったのは何でだ?」
「んー、まず宝船異変ね。あれは特に必要なかったからよ」
「?」
いまいち理解できない、といった風に首を傾げる魔理沙。
「里の人間達はあれが縁起がいいとか言ってたけど、人間にとって縁起いいものが私達妖怪にもいいとは言えないでしょ?」
「まあ、確かに」
「それに財宝が乗ってるとか噂があったけど、財宝だったらうちにもたくさんあるしね」
「ほほぅ?」
目を光らせる魔理沙。
そんな彼女に釘を刺す。
「盗もうとしてもダメよ? それに、宝物庫には鍵があるから入れないわ」
「あ、その鍵私が持ってるよー。部屋に置いてる」
「いつの間にー!?」
刺す釘が錆びていた。
「でかしたフラン!」
「お姉様ったら、ベッドの下の妙な箱に色々大事なもの隠してるんだもん。他にはエロほ」
「黙ろうか」
「あい」
ちょっとカリスマ込めて爆弾発言しようとした妹を睨みつける。
右手を挙げて返事する妹さん。
「魔理沙、とにかくうちの財宝は盗んだりしないでね? そいつらには私の家族の思い出とかそういうものが込められてるんだから」
「イイハナシダナー」
「盗むなよ?」
「あい」
さらにカリスマ込めて茶化そうとした友人の白黒を睨みつける。
右手を挙げて返事する魔法使い。
はぁー、と深い溜息をつく主に膝の上の従者は微笑んだ。
くくく、と笑いながらさらに尋ねる。
「で、神奈子達の時は?」
「ああ、あれは別に神社が乗っ取られたってよかったからよ。そしたら霊夢がフリーになって、心置きなくうちに誘えるじゃない♪」
「「…………」」
霊夢にレミリアが熱をあげていることは皆知っている。
それを知っていたから、魔理沙は霊夢に「もし私の住むとこがなくなったらあんたんちに厄介になるから」と言われたことを黙ることにした。
「……だー、めー、ですぅー」
レミリアが両頬を押さえてきゃーきゃー乙女している折、不機嫌そうな声で咲夜がレミリアに突っかかる。
「どうした、咲夜?」
「……おじょーさまはー、私のですぅー。誰にもあげたくないですー」
一瞬で頼れる主モードに戻ったレミリアに、幼い口調で独占宣言。そして膝の上で寝ながら腰に腕を回し、ぎゅっと抱きつく。
「よしよし。大丈夫だって。私がお前を見捨てるなんてことは絶対にないから」
「……えへへー」
髪を撫でてもらいながら表情を緩める咲夜。
そんな彼女に金髪魔法少女ズはにやにや顔で息を揃えて
「「イイハナシダナー」」
「お前らうるさい」
2人でレミリアを笑っている時、あ、と呟いてフランドールが手を叩く。
「魔理沙の家を壊したら魔理沙を正当な理由でうちに連れてこれるね! 破壊は任せろー」
「「やめて!」」
自分で言ってる時点で正当じゃなかった。
「ちっ」
舌打ちするフランドールに一抹の不安を覚えつつ、話題を元に戻す。
「じゃ、じゃあさ、さとり達の異変に出向かなかったのは?」
「それは私もよくわからないの。一応私とフランと美鈴の3人でサポートしようと思っていたんだけどね。温泉が人間にとっていい癒しって聞いていたから、異変解決の暁には労ってやろうと思っていたんだけど、咲夜が頑なに拒否してね」
ちなみにオプションの予定としては、
レミリア:未来視・時を止めれば相手の弾幕の軌道が読める
フラン:火力強化・ショット・ボムの攻撃力が跳ね上がる
美鈴:身体強化・残機1に対して被弾が2回まで許される
余談だが、パチュリーが魔理沙のサポートをしていたと知りフランドールがひと暴れしたことは姉妹は2人とも黙っていた。
「ねえ咲夜、貴女どうして地下の異変に行かなかったの?」
「……ぃです」
「え?」
レミリアが咲夜に尋ねるが、帰ってきた答えは弱々しすぎて聞こえなかった。
デビルズイヤーが自慢のレミリアにも聞こえてなかったということは、実際言葉にもできてなかったんだろう。
もう1度尋ねると、
「恥ずかしい、です……」
震える声でそう言った。
「……笑わないから、言ってごらんなさい?」
「……えっと、ですね?」
「うん」
しばらく躊躇していたが、3人は辛抱強く待った。
そして、意を決したように答える。その答えは、
「……暗いの、苦手なんです。怖いから」
何か可愛かった。
「「「………………」」」
一同絶句。
魔理沙は感動に近い何かを覚えながら完全にフリーズ、レミリアもあんた私に仕えて何年目よ!? などと心中でてんぱっていた……
……のだが、次の瞬間には鬼に依頼しての図書室含む紅魔館大改築ビフォアアフターの計画を立てていた。
そんな2人をよそに、フランドールが恐る恐る咲夜に話しかけた。
その様子はまるで自分を避けているクラスメイトと話をしようとする子供のよう。
「あの、咲夜? もしかして咲夜が私の部屋にご飯とか持ってきた時変に怖がってたのって、私を怖がってたんじゃなくて……」
「あ、はい。単に地下が暗いから、です……おじょーさまに似て可愛らしいいもーとさまを怖がる理由なんて、ありませんよぅ」
「そ、そっか……えへへ」
思いがけない真実を知り、顔を綻ばせるフランドール。
彼女のそんな様子に、レミリアと魔理沙も顔を見合わせクスリと笑い合った。
その後、咲夜はレミリアの、フランドールはこいしを別の部屋に寝かせて戻った魔理沙の膝の上でそれぞれ眠りについた。
そしてしばらく2人で静かに酌をする。いつしか月もだいぶ傾いていた。
「……さて、そろそろ宴もたけなわね、朝日が出ないうちに帰ろうかしら」
「うん? 日傘ありゃ余裕なんだろ? もっとゆっくりしていきゃいいじゃないか」
「そうだけど、この娘がこうだからねぇ」
そう言って、膝の上の咲夜を撫でる。いい夢を見ているのか幸せそうな顔だった。
「美鈴にでも担がせたらいいじゃないか」
美鈴やパチュリーも宴会に参加している。といっても、パチュリーはアリスや白蓮といった魔法使いと飲みながら談義していたし、美鈴は咲夜に強い酒を勧めて潰した後に絡んだ命蓮寺の門番や船長と意気投合していた。なぜか3人とも飲み進めるにつれて泣き上戸になっていったが。
「それもそうだけど……この娘は、私が運んでやりたいの」
そう言いながら咲夜を見つめる彼女の瞳は、悪魔とは思えないほど優しかった。
それを感じ取り、魔理沙は野暮なことを言うのをやめにした。
「……そうか。じゃあフランは私が連れて行ってやろうか」
「頼むわね」
「おう」
その後、魔理沙が半分寝ているフランドールを箒の後ろに乗せ、レミリアが咲夜をお姫様抱っこで抱えたところへ、美鈴とパチュリーが合流する。
相当酒を楽しんだ反動か、2人とも体調は優れてなさそうだった。
一斉に飛翔する。
夜明け前の清々しい空気と腰に抱きつく温かな感触を味わいながら、魔理沙はレミリアに抱えられた咲夜に目を向ける。
「んー……♪」
寝顔は今もとても穏やかだった。それがレミリアという存在によってもたらされているという安寧だというのなら、
(何だかなぁ)
少しだけ、羨ましかった。だが、友人だと思っている存在が幸せそうにしているということは、
それはそれで、悪いことじゃないよな。そう思った。
数日後、久しぶりに紅魔館に向かった魔理沙が、地下室が埋め立てられ窓が圧倒的に増えた新生紅魔館に驚愕するのは、また別の話。
異変解決に出たり出なかったりした理由や会話、ほのぼのとした雰囲気とか面白いお話でした。
私が頂いていきまs(スカーレットシュート
昼飯前なのにおなか一杯です。ご馳走様でした。
彼女たちを間近で見られる妖精メイドが羨ましいw
私も現実にサヨナラしてぇ……
2828がとまらないかわいさ溢れる素敵なお話でした
いいぞもっとやれ!!!!!
それがあなたにできる善行ですW
雰囲気ほんわかで好きです
この上さとりんが霊夢に苛められる様をこと細かになんて書かれたら、俺はもう発狂しちまう!!
絶対書くなよ!ぜ、絶対だぞ!!!
さり気にカリスマを保ってるお嬢様の献身的な態度もまた良し
楽しげな宴会の雰囲気と惚気が絶妙な感じで、とてもいい糖分補給になりました
始終、にやにやしまくってました。
咲夜さんの素は甘えん坊、なんですねー。
かわいすぎだろおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっっ