Coolier - 新生・東方創想話

女の子たちの聖戦

2010/02/15 03:28:11
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 注意!
 このSSは、作品集86内の『寒い日は炬燵に入って』の設定を受け継いでおります。
 こちらだけでも大丈夫ですが、読んでおいた方が話に入りやすいかもしれません。
 それではっ。 














 バレンタインデー。
 本来、キリスト教のお祭りであるその日は、日本では一般的には恋する少女が勇気を出して、想い人に甘いチョコと気持ちを一緒に渡す日。
 今回は、そんな勇気を持った幻想郷の少女たちのお話。









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 -魔法の森の場合-



「魔理沙、はいこれ」

 二月十四日の夜。
 いつもよりちょっと豪華な夕食の後の、アリスから私への言葉。

「えっと、これ……」
「今日は、バレンタインでしょ」

 私にプレゼントを渡してくるアリスは、照れているのかそっぽを向いたまま。
 ことり、とテーブルの上におかれたプレゼントは、白い皿に盛られたクッキーだった。

「ああ、そうだったな。じゃあ貰うぜ」

 そう言って、皿の中のクッキーを一枚手に取る。
 それは星の形のクッキーだった。
 白い生地にチョコチップが散りばめられているそれは、何をモチーフにしたのか、私には一目で分かった。
 さくり、と一口食べてみる。
 生地の甘みとチョコのほろ苦さが合さって、なんともいえない味を作り出す。

「おいしいぜ、アリス」
「そう、よかったわ」
「ああ、いつものクッキーよりもな」

 へへっと笑って味に対する評価をしてみた。が、先ほどから緊張で味が分からないというのは秘密だ。
 
 アリスは先ほどから、何やら困った様子でちらちらと窓の外を見たり、暖炉の方を見たりして、忙しない。
 膝の上に組んだ手ももじもじさせていて、次に言う言葉を探しているような、そんな感じだった。
 かくいう私も、たぶん傍から見れば同じような感じなんだろう。
 さっきから壁に飾られてある人形や、皿に盛られたクッキーばかり目に入って、アリスの顔を見られない。
 ほんの少し重い空気が流れた後、アリスがゆっくりと問いかけてきた。

「あのね、そのクッキーなんだけどね、実は……」
「私をイメージして作ったんだろ?」
「……やっぱり、わかった?」
「もちろん。白と黒で星っていったら、この魔理沙様以外にないだろ」

 へへんと胸を張ってそう答える。
 アリスはクスッとうれしそうに笑って、そして言葉を続ける。

「実は、それまだ完成じゃないの」
「うん? これでか?」
「うん。実はもう一つ、足りないものがあるの」

 そう言ってアリスが取り出したのは小さな瓶だった。
 きゅっきゅと蓋を開けて、なかから小さな粒を取り出す。
 そしてそれを、とても優しくクッキーのそばにおいた。
 黄色い小さなその粒は、部屋の明かりに照らされキラキラと輝いている。

「これで、完成」

 満足そうにアリスはそう言って、私を見つめてきた。
 正面に座っているアリスのその目は、この小さな粒と同じようにキラキラと綺麗に輝いていて、吸い込まれそうになってしまう。

「これね、金平糖なの。黄色くて星のお菓子って、私思いつかなくて。どうしようかなって思ったらたまたま見つけて、これしかないなって」

 照れながら、それでいて嬉しそうに一つ一つ言葉をつないでいくアリス。

「これも、私をイメージして?」
「うん、そうよ」

 白黒の星のクッキーに、寄り添うように置かれた黄色い金平糖。

「どうして、そこまでして私を表現したかったんだぜ?」

 その言葉に、またもや手をもじもじさせるアリス。

「……それを、聞く?」
「ああ。当然の権利だろ?」

 困ったように微笑んで、少し俯くアリス。少し息を吸い込んで、言葉を紡ぐ。
 
「えっとね、私の心に一番残った魔理沙を形にしたかったの」
 
 蝋燭の明かりに浮かぶその顔は、まるで空に浮かぶ星のようにとても儚げで。

「私の心を奪った、そんな魔理沙を、作ってみたかったの」

 歌うように紡がれるその声は、まるで天の川のように澄んでいて。


「大好きよ、魔理沙」

 
 私が一番大好きな星空。そのすべてがアリスの中にある。そんな気がした。

 それなのに、どうしてアリスはそんな不安げな顔をするのだろう。
 
 言葉の無い時間が、私とアリスの間に流れる。
 バクバクという心音が私の世界を支配して、前を向くことしか許されない。
 目にうつるアリスは、とても心配そうな顔をして、私を見つめている。

「ま、魔理沙。返事は、もらえないの?」

 震えるアリスの声で、それが現実だと理解する。
 私は、アリスの声と同じように震える手を伸ばし、皿に置かれた黄色い金平糖を手に取る。

「アリス、あーん」

 おそらく、私の声も震えていただろう。でも、精一杯の笑顔はしたつもりだ。
 戸惑いながら、ゆっくりと口をこっちに持ってくるアリス。その小さい口に、黄色い星を優しく入れる。
 そして、大きく息を吸い込んで、私なりの返事をした。

「これが答えじゃ、だめかな」

 今度は震えていない、まっすぐな声を出せたと思う。
 その証拠に、アリスは笑顔になったから。

「もう。こういうときぐらい、言葉でくれたっていいじゃない」
「言葉より、態度で表わすのが魔理沙様だぜ」
「……そうだったわね」

 そう言って二人で笑い合う。

「あ、紅茶のおかわり淹れてくるわ」
「おお、頼むぜ」

 パタパタと台所に入っていくアリスの背中を見送ったあと、持ってきた自分の袋から瓶をひとつ取り出す。
 今日アリスに渡すはずだったそれは、私が選んだとっておき。

「さあて、どうやって渡そうかなぁ」

 振るとカランと音のするビンの中には、光り輝く七色の金平糖が詰められていた。










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 -妖怪の山の場合-




 顔を真っ赤にさせて、しどろもどろな言葉とともに椛が手渡してきたのは、その顔と同じくらい真っ赤なマフラー。
 
「今年の冬は寒いですから」
 
 と手渡すその手には、あちこちに傷が目立っている。

「ありがと。貰っておくわね」

 そう言ってマフラーを受け取り、取材のためと言って外に出ようとすると、椛に服の裾を掴まれた。
 私を見る顔はとても不安げで、警備をしている時の、凛とした顔つきとは大違い。
 そんな椛を見ていると、もっと意地悪をしたくなっちゃうわけで。

「どうしたの?」

 本当はわかっている。今日はバレンタインで、このマフラーが手編みだってことも、椛が私を引き止めた訳も。
 でも私はそれに気付かないふりをして、椛をもっと困らせたいと思ってしまっている。
 それもこれも、この娘が愛しいから。

「あの、そのですね……」

 耳がへにょりと垂れているのは困っている証拠。不安な気持ちが出ているんです、と教えてもらったのは三か月前。
 声が小さくなっているのは緊張している証拠。昔から治らない癖なんです、と教えてもらったのは一か月前。
 ごくりと息をのんで、何かを決めたように見上げてくる目は、今日初めてみる目。新しく知った椛。
 
「私、文さんのことが好きです!」
 
 その言葉を聞くために、私はあなたのほとんどを知った。
 でも、あなたの事で知らないことはないんだと、言えない自分にその言葉で気づいた。

「……このマフラー。そういう意味で、受けとって貰えますか?」

 じっと私を見つめる、初めてみる椛の目は今まで見たどの椛よりも綺麗で、それでいて力強かった。

 椛から受け取った真っ赤なマフラーを、椛の首に巻く。

「あ……」

 その瞬間、哀しそうな顔になるあなた。でも大丈夫、そんな意味じゃないから。
 椛の首に回したマフラーの、もう一方を私の首に巻く。
 くるくると、マフラーでつながれた私と椛の距離は限りなく零に近くなる。
 唇と唇が触れてしまいそうな、そんな距離で、

「せっかくだから、こっちの方が暖かいでしょ」

 できるだけの笑顔をいま、あなたに届けられただろうか。

「あ、あやさん……」
「これからも、よろしくね。椛」
「は、はい!」

 そう言って、私の胸の中に抱きついてくる椛。
 マフラーからだけじゃなくなった暖かさは、もう手放したくないくらいやさしくて。
 だから私は、無意識の内にその背中に、ぎゅっと手をまわしちゃったりするんだろうな。

 はてさて、私の懐にしまった、椛に送る予定のこの手帖。
 どのタイミングで取り出したら、この娘は一番喜んでくれるのだろうか。














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 -博麗神社の場合-




「紫、何これ?」

「なんでもないわよ。ただ、おまんじゅうが手に入ったから霊夢におすそ分けしようと思って」

「ふうん。じゃあ、食べてもいいのね」

「もちろん。どうぞ召し上がれ」

「あら。紅白まんじゅうだなんて、いいことでもあったの?」

「さあ、それはどうでしょう。これから良いことがあるのか、それともないのか。といったところですわね」

「何それ?」

「気にしないで」

「じゃあ気にしないけど。いただきます」

「ええ、どうぞどうぞ」

「あむあむ。あら、むらさきのあんこなんて、珍しいわね」

「そうでしょう。だから霊夢に持ってきたの」

「うん。おいしいわよこれ」

「そう。それは良かった」

「あむあむ」

「あ、あのね。霊夢」

「あむ。何?」

「あのね、えっとね……」

「なによ。さっさと言いなさいよ」

「――――――――っなんでもないわ! じゃあ私はこれで!」

「ちょっと、もう帰るの!? お茶入れるわよ!」

「いえ、用事を思い出したの! そ、それじゃあね」

「あ、ちょっと紫! 待ちなさ……」

「……スキマで逃げやがった」

「なんなのよ、もう……」

「……バレンタインなら、……そう言って渡しなさいよ」

「何が貰ってきたよ。手づくりなのがバレバレじゃない。まんじゅう自体も、この箱の包み紙も」

「……ゆかりのばか」

「はぁ。……このリボン、どうやって渡そうかなぁ」



 
どうも、こちらではお久しぶりのジーノです。

前の作品で、詳細が見たいというコメントをいただいて以来温めてきた今作。
バレンタインデイが幻想入りしたので、形にしてみました。
様々なバレンタイン、ということで、書き方も様々にしてみました。
いかがでしたでしょうか。

ゆかりんをへたれに書いてしまうのは、もはや持病なのかな…。

ここまで読んでいただき、圧倒的感謝!
ジーノ
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コメント



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1.80狐今削除
コレは何という可愛いゆかりん・・・。
他にもツボがいっぱいでした。
っていうか、貴女のおかげで今まで好きになれなかった
マリアリとかゆかれいむが(なんか王道がいやだった)が
好きになってしまったじゃないか!
王道いいよ王道!
でも個人的にもう少し長さが欲しかったかなぁと。
でもこれはこれでGJ!ごちそうさまでした。
2.100名前が無い程度の能力削除
ゆかりん・・・もうちょっと、もうちょっと帰るのを待っていれば・・・!!
3.100名前が無い程度の能力削除
砂糖砂糖……違う、お茶お茶。
7.100名前が無い程度の能力削除
ゆかりん可愛いゆかりん
15.100名前が無い程度の能力削除
良いですね
21.100名前が無い程度の能力削除
砂糖をはいてしまいました
31.100奇声を発する程度の能力削除
だばぁ。(砂糖を吐く音
何だか最近甘いお話を読むと手が震える…。
37.100名前が無い程度の能力削除
>>31
節子、それ糖尿病や。治療薬に作者まりまりさで検索して全て読めば治るよ!
45.100名前が無い程度の能力削除
糖分不足の発作が収まった…いやぁ助かります
46.100名前が無い程度の能力削除
医者に血糖値が常人の半分以下と言われた私もこれで大丈夫だ
51.100名前が無い程度の能力削除
へたれゆかりん可愛い!