Coolier - 新生・東方創想話

旧今雨夜~封魔星霜~

2023/05/02 16:15:50
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※本作には、幽香が魅魔の生前のパートナーだったり、夢幻館の跡地に紅魔館が建っていたりといった独自設定・独自解釈があります。それを踏まえた上でお読み下さい。



Prologue

―玄武の沢
 妖怪の山の麓、霧の湖の畔にある不思議な地形の沢。
 かつて、妖怪の山が荒ぶる火山だった頃、その溶岩が冷えて固まることで、玄武岩の六角形柱状結節が並び立つ奇妙な地形を作り上げた。
 玄武岩の柱状結節が乱立するこの沢には無数の洞窟がある。
 その中でも、ヒカリゴケが生い茂る最も巨大な洞窟―そこに沢の主である玄武の大亀を祀った祠があり、それが玄武の沢と呼ばれる所以である。
 この洞窟の奥は、禁忌を犯して河童達が空けた異世界に通じる穴が空いており、かつてはこの穴を通じてやってきた侵入者との諍いもしばしばあった。
 その洞窟の奥から久方ぶりに一つの人影―幻想郷への来訪者が現れる。
「幻想郷も久しぶりだ。ここは変わらないねえ……」
 その人影は玄武の沢の光景に目を細める。
「久しいですな」
 玄武岩の岩の一つが、ゆっくりと動いてその人影に声をかける。
「驚いた。わたしみたいなのに出迎えてくれる者がいるとは。あんた、今も神社の横の池にいるものと思っていたよ」
 大きな岩の一つに見えたものは、巨大な亀だったのだ。
「ご主人様は、すでにわしを必要としておりませんでな。いようがいるまいが、構いませんのじゃ」
 人影は寂しそうに目を細める。
「そうかい……。じゃあ、あの子ももうわたしを必要としていないかもしれないねえ」
「それは、自分の目で確かめなされ」
「もちろん、そうさせてもらうさ、玄爺」
 玄爺と呼ばれた亀は、目を細めて改めてその人影の姿を確認する。
 その姿は薄らと透けているように見えた。
「それで、あの子があなたを必要としていると言ったら、どうなさるおつもりですかな、魅魔殿」
 魅魔と呼ばれた怨霊は不敵に微笑む。
「その時は―第二次魔界戦争の始まりだよっ」


―博麗神社
 妖怪の山の麓、幻想郷の東の端に位置し、外の世界と幻想郷の狭間にある神社である。
「のどかねえ……」
 母屋では、縁側から外の景色を眺めながら、一人の少女が煎餅を囓っていた。
 艶やかな黒髪を左右耳の下に白い髪飾りで留め、後頭部には赤く大きなリボン、肩や腋を露出させた特徴的な赤い巫女装束に白い袖と白い襟、胸元には黄色いリボンという、紅と白で構成された出で立ちをした少女。
 彼女の名は博麗霊夢。
 博麗神社で、幻想郷と外の世界を隔てる博麗大結界の管理をする、博麗の巫女である。
 玄武の沢に怨霊―魅魔が現れてからしばらくの時間が流れていた。
「すっかり春だなあ」
 隣にいるもう一人の少女も、皿に載った煎餅を囓る。
 癖のある金髪を片側だけお下げに垂らして白いリボンで留め、肩には赤いリボンの付いた黒いケープ、白のブラウスの上に黒いサロペットスカート、その上にMの文字がデザインされたベージュのエプロンという、白と黒で構成された出で立ちをした少女。
 二人がそれぞれ手に取った煎餅を囓り終えると、それぞれの視線が机に載った皿に向かう。皿に残された煎餅は一枚。
 二人の視線が交叉する。
 素早い動きで先んじて皿から煎餅を取ったのは魔理沙。
 遅れて霊夢も、魔理沙の手から煎餅を奪おうとするも、その手は空を切る。
 魔理沙はそのまま煎餅を自分の口に咥えるも、空を切った霊夢の手はそのまま魔理沙の胸を掴んだ。
「んっ」
 魔理沙が悩ましい声を上げて思わず煎餅を半分に噛み切ると、霊夢は魔理沙の口から落ちた煎餅の半分を受け止め自分の口に放り込んで素早く咀嚼する。
 そのままの勢いで、霊夢は魔理沙を畳の上に押し倒してその唇に口づけた。
「ん~……」
 霊夢は魔理沙の胸を揉みしだきながら、その口腔内に舌を差し入れて、その中にある残り半分の煎餅を掻き出して自分の口に入れていく。
「わたしの勝ちね」
 体を起こした霊夢は、舌なめずりしながら誇らしげな表情。
「また、わたしの負けか……」
 続いて体を起こした魔理沙は、涙目で自分の衣服の乱れを直している。
 この場面だけ見ると、無理矢理手籠めにされた乙女のようだった。
「しっかし、相変わらず貧相な体ね~」
「う、うるさいぜ。オマエだって大差ない―」
「なぁに、揉んで確かめてみる?」
 霊夢が誘うような表情で自分の胸をたくし上げるような仕草をしてみせるが、たくし上げるようなものはそこには何もなかった。
「いや、いいぜ……」
「照れなくてもいいのに―あら、煎餅の食べカスがまだ付いてるわね」
 霊夢はそう言って魔理沙を抱き寄せて再び口づけた。
「霊夢……やめっ」
 霊夢は魔理沙の声にかまわず、魔理沙への口づけをやめない。
 霊夢は執拗に魔理沙の唇を貪り、しまいには舌を差し入れ始める。
「おかしいぜ……恋人同士でもないのに、こんなっ」
 そう言いつつも、魔理沙の方からも霊夢に応え、舌を絡め合う二人。
「これで、やっと綺麗になったわね」
 ようやく体を離し、微笑みかける霊夢。
「ごちそうさま、魔理沙」
 霊夢は魔理沙の自分への想いを察しつつ、その想いが告げられるのを待たずに、近頃は自分の方から積極的にスキンシップをとるようになっていた。
 魔理沙はしばらく肩で息をしていたが、落ち着いてから遠い目で縁側の外の景色に視線を戻す。
「結局、弾幕ごっこでも煎餅の奪い合いでも、わたしは霊夢に勝てなかったな……」
「魔理沙?」
 魔理沙はベージュのリボンのついた黒い三角帽を被って立ち上がる。 
「お前に勝ったら言うつもりのことがあったんだが―」
―今のわたしには言う資格がない。もう、言うことが出来ない。
「待ちなさい―」
 その場を立ち去ろうとする魔理沙を立ち塞がって止める霊夢。
「待ってってば。らしくないわよ。わたしを置いてどこに行こうって言うの?」
 魔理沙の顔は、今にも泣き出しそうに見えた。
「冗談言うなよ。霊夢がいなきゃ、わたしはつまんなくて死んじゃうぜ?」
 魔理沙が霊夢とじゃれながら何度も言ってきた台詞。
「魔理沙―」
 しかし、今の言葉はこれまでと違い、とても本心から言っているようには見えなかった。
「じゃあな、霊夢。こちらこそ、ごちそうになったぜ」
 去りゆく魔理沙の袖を掴もうとするが、すんでのところで掴むことができない霊夢。
 今まで見たことがないほどに、辛い表情をして去って行く魔理沙を、霊夢は止めることができなかったのだ。





―博麗霊夢は一人だった。
 しかし、それは博麗大結界の管理者である博麗の巫女として当然のこと。
 人も妖怪も分け隔てなく接して贔屓があってはならない。
 誰も平等に扱うと言うことは、誰とも親しくなれないと言うことなのだ。
 しかし、そんな当たり前のことが―霧雨魔理沙は許せなかった。
 誰よりも博麗霊夢のそばにいて、常に隣にあり。
 それに並ぶ存在であろうと常に霊夢に挑み続けてきた。
 霊夢も、魔理沙のその思いを汲み、手加減することなく魔理沙の挑戦を受け続けてきたのだ。
 しかしこの日、その霧雨魔理沙が霊夢のもとを、幻想郷を去った。
 博麗霊夢は、魔理沙が他の誰よりも自分のことを、想ってくれていると思っていた。
 魔理沙が自分より優先する人物など、霊夢は一人しか知らない。
 初めて霊夢が魔理沙と出会ったとき、魔理沙は一人ではなかったのだ―。 



1st Phase 魅魔

―時間は、玄武の沢に魅魔がやってきたときまで遡る。

―魔法の森
 幻想郷で最も湿度が高く、人間が足を踏み入れる事が少ない原生林。
 幻想郷で森といえばこの魔法の森のことを指す。
 人間の里からの道のりは比較的マシな部類だが、森の中は人間にとっては最悪の環境で、地面まで日光が殆ど届かず、暗くじめじめしており、茸が際限なく育つ。
 胞子が宙を舞い、普通の人間は息をするだけで体調を壊してしまう。
 近くに居るだけで魔法を掛けられた様な幻覚を見るような種も多い。
 また、この茸の幻覚が魔法使いの魔力を高めると言う事で、この森に住む魔法使いもいる。
 そもそも魔法の森と呼ばれるようになったのも、この幻覚作用をもつ茸が生える為である。
 霧雨魔理沙も、この魔法の森に居を構える魔法使いの一人だった。
 今日も、魔理沙はライバルである博麗霊夢との弾幕ごっこを終えて、体中の擦り傷だけを手土産に帰宅する。
 魔理沙がいま帰ったにもかかわらず、自宅にはすでに明かりがともっていた。
「アリス~、いま帰ったぜ」
「おかえり、魔理沙」
 魔理沙は耳を疑った。
 その声は異変解決で魔界に赴いて以降、魔理沙の自宅に入り浸って世話を焼くようになったパートナー―アリス=マーガトロイドのものではなかった。
 ひどく懐かしく響くその声色。
 魔理沙は恐る恐るその声の方に視線を向ける。
 そこには、流れるような長い緑髪の上に青い三角帽をかぶり、青を基調とした洋服に同色のマントを羽織り、帽子に描かれた太陽や胸元のリボンは黄色と、青を地に黄色をアクセントとした装いをした女性。手には三日月を象った杖を持ち、帽子と同じデザインのスカートからは足ではなく幽霊の尾が覗いていた。
 魔理沙の魔法の師匠であり、育ての親でもある怨霊―魅魔。
「申し訳ないけど、アリスには遠慮してもらって―」
「魅魔様っ」
 最後まで聞くことなく、魔理沙は魅魔の胸の中に飛び込んだ。
「おっと……」
 魅魔はフラつきながらも自分の胸に飛び込んできた弟子を受け止める。
「魅魔様魅魔様ぁ」
 魔理沙は必死でその豊かな乳房の間に顔を埋める。
「夢じゃないですよね、幻じゃないですよね……」
「まったく、いつまで経っても甘えん坊だねえアンタは」
 魔理沙は確認するかのようにその匂いを嗅ぎ、両手でゆっくり揉みしだく。
「どさくさに紛れて揉むなって……ずいぶんいやらしい揉み方をするようになったねえ。近頃こういうことは、アリスにしてるんじゃないのかい?」
「そんなことしてな……くもないですけど」
「アリスがぼやいてたよ。アリスと寝てるときも、寝言で未だにわたしの名前を呼んでるって。まったくこの子は……」
 魅魔は、自分の乳房から魔理沙の両手を離させると、自分の両掌で魔理沙の両頬を持ってその顔を至近距離からみつめる。
「ほら、近くで顔を見せておくれ。少しは凜々しくなったかねえ」
 至近距離から魅魔の整った顔立ちと艶っぽい唇を見て、気恥ずかしさから目を反らす魔理沙。
「魔理沙」
 魅魔は魔理沙の唇にそっと口づけた。
「んっ」
 驚きのあまり目を見開く魔理沙。
「ママのキスが欲しいならそう言えばいいんだよ」
 今度は魔理沙の方から魅魔の唇に口づけ、貪るようにその唇に吸い付く。
「ふふふ」
 唇を離し、ぼうっとしている魔理沙を、魅魔が姫君を運ぶように抱える。
「他に何をして欲しい? 今日は魔理沙のして欲しいこと、なんでもしてやるよ」
 魅魔は、自分に抱きついたままの魔理沙をそっと寝室に運んで寝台に寝かせる。
「嫌です」
 魔理沙が、魅魔のローブの裾を強く握りしめる。
「なんだって?」
「これが最後だなんて嫌ですっ。消えないでください魅魔様」
 ぎょっとした顔で、寝台から睨め上げる弟子を見る魅魔。
「なかなか鋭いじゃないか。言葉の端々から察したのかい?」
「違いますっ」
 魔理沙が魅魔を寝台に引きずり込んで押し倒す。
「全然体温が違うじゃないですかっ」
 再び魅魔の乳房を揉みしだく魔理沙。
「こらっ、揉みすぎぃ―」
「なんて、なんて冷たい……」
 魔理沙の頬を涙が伝う。
 魅魔は怨霊である。怨霊の体は怨みの炎で常に熱く燃えさかっている。
 魔理沙を暖かく包み込み育んでくれた魅魔の体が、今では氷のように冷たかった。
「自分じゃ気付かないもんだねえ」
 魅魔はそっと魔理沙の頭を撫でる。
「わたしが消えてなくなる訳じゃない。ただ、信仰が失われたことで、幻想郷でのわたしの存在がなくなって、誰の記憶からも消えるだけさ。その前に、あんたに会えたらと思って来たんだが―」
「それでも嫌ですっ。忘れたくないし、他の誰にも忘れさせたくない」
 魔理沙が、魅魔の乳房の間に顔を埋めその体を強く抱きしめる。
「魅魔様は、わたしに全てをくれたじゃないですか。わたしには、魔法使いとしての才能なんてなかったのに……」
 魔理沙の目からは、止めどなく涙が流れ続ける。
 魔法使いになれたことはもちろん、いま共にあるライバルやパートナーと出会えたのも魅魔に着いてきたからの出会いだったのだ。
「愛しているんです、魅魔様」
「わたしも愛してるよ、魔理沙」
 再び師弟が唇を重ねようとする最中、薄らと魅魔の体が透け始める。
「魅魔様?!」
「たまになるんだよ。直ちに消えることはないさ」
 魔理沙はいそいそと魅魔の胸元の黄色いリボンほどき、ローブを緩め始める。
「なんで脱がせるんだい、魔理沙」
「魅魔様が苦しそうにしているので、師匠思いの弟子としては衣服を緩めて楽にして差し上げようと」
 魅魔の服を緩め、露わになった胸元に唇をすぼめて近づけていく魔理沙。
「魔理沙、なんだいその口は」
「これで最後かも知れないなら、存分に吸わせてくださいっ」
 魅魔の乳房に吸い付く魔理沙。
「やめなっ……今はダメ―」
「してほしいことなんでもしてくれるって言いましたよね?!」
「それは―んっ」
「嬉しい、魅魔様。わたしの舌で感じてくれてるんですね。いよいよ、わたしも師匠越え……はむっ」
「違っ―」
 ますます薄れていく魅魔の体。
「このっ」
 お返しとばかりに魔理沙の胸に手をやる魅魔。
「きゃっ」
 魔理沙が悲鳴を上げて体を強張らせる。
「魅魔様っ。弟子のおっぱい触るとか何考えて―」
「師匠のおっぱいこれだけ好きにしておいて、自分のおっぱいは触るなとか虫が良すぎなんだよ」
 魅魔は体を入れ替えて、今度は魔理沙の服を脱がそうと手をかけたが、思いとどまってその唇に深く口づけた。
「んっ、んん~」
 魔理沙の胸に手をやり、弄びながら魅魔は魔理沙の口腔内を蹂躙していく。
 最初は抵抗していた魔理沙も、ぐったりしてなされるがままになっていった。
「ふぅ。ひとまず落ち着いたかね。弱っている師匠にとどめを刺そうとは、とんでもない弟子だよ」
 薄れていた体が元に戻ったのを確認しながら魔理沙を見下ろす魅魔。
「そんなことするはずが……何の話をしてるんですか魅魔様」
 魔理沙が涙目で体を起こして衣服の乱れをただしていく。
「そりゃあ、魅魔様にならムチャクチャにされてもいいですけど」
 魔理沙が魅魔の方を恥ずかしそうに見ている。
「無自覚でやってたのかい……あんた。魔法使いの才能は乏しいくせに〝魅魔〟の才能はあったようだね」
 魔理沙はきょとんとした表情で魅魔の方を見ている。
「あんたに会いに来たのは、あたしが消える前にわたしが〝魅魔〟と呼ばれる由縁である最後の奥義を教えるためでもあるんだよ」
「はいっ。魅魔様」
 魔理沙は神妙な表情で魅魔の一部を見ている。
「いいかい。魔力の授受は本来、魔術回路を移植したあたしとあんたのような師弟や、特殊契約で結ばれた使い魔のような魔力の波長の近い者同士でしかできない。
 そして、経口など互いの体液を介して魔力を授受する場合と違い、乳房を介して魔力を受け取る場合は、相手が乳房に溜め込んだ魔力を一方的に奪うことができ―ってさっきからどこ見てるんだいっ!」
 魔理沙の視線は魅魔の胸元に釘付けのまま。
 魅魔はようやく自分の衣服が魔理沙の緩められて以降、乳房が露わになったままだったことに気付いた。
 魅魔が衣服をただしていくのを名残惜しそうに見る魔理沙。
「ああっ……減るものじゃないし、もっと見せてくれても―」
「見るのはいいけど、あんたさっきから大事な話を全然聞いてないじゃないだろ」
「つまり、魅魔様がおっぱいを吸わせてくれると―」
「やっぱり聞いてないじゃないか!」
 魅魔の拳骨が魔理沙の頭を強かに叩く。
「まあ、いいさ。あんたの顔を最後に見て奥義を伝授したら消えるつもりだったが、あんたがそこまであたしを必要としてくれるなら、足掻いてやるのも悪くない。もちろん、協力してもらうけどね」
「魅魔様が生き残るためなら、何でもします」
 魔理沙は鼻息荒くして拳を握りしめる。
「異変を久しぶりに起こすなら、あんたにはこの奥義を修めてもらわないと。この術は、魔力の波長を調整して波長が違う相手からも乳房を介して魔力を奪うのが肝だ。波長が近いあたしと練習してもあまり意味がない。アリスなら吸わせてくれるだろうし、アリスに練習させてもらうといいよ」
「はい。アリスには、もう何度かおっぱいを吸わせてもらってます」
 ずっこける魅魔。
「ちょっと見ない間に、あんたらも進んでるんだねえ……」



2nd Phase アリス=マーガトロイド

 その森の中ほどにあるこぢんまりとした白い洋館―マーガトロイド邸。
 魔法の森に居を構える魔法使いの一人―アリス=マーガトロイドの自宅である。
 魅魔との再会を果たした魔理沙は、翌日にここへ訪れていた。
「アリス~、邪魔するぜ~」
 家の主人である少女が、扉を開いて笑顔で魔理沙を迎え入れる。
「よく来てくれたわね。魅魔様から話は聞いているわ、あがってちょうだい」
 整えられた金髪を赤いヘアバンドで留め、青の洋服の肩に白いケープを羽織って、首と腰に赤いリボンを巻いたロングスカートの少女―アリス=マーガトロイド。
 アリスは魅魔のメイドをしていた頃の癖で魔理沙と同じように様付けで魅魔を呼ぶ。
「大事な話だし、わたしの部屋で聞くわ。あそこが一番防音が効いてるから」
「お、おう」
 アリスが魔理沙を自室に誘う。
 彼女は魔理沙と違い、人間ではなく種族として魔法使いであり、魔理沙の異変解決時におけるパートナーを務めていた。
「さあ、座って」
 アリスは自室のベッドに腰掛け、微笑みかけながら魔理沙に隣に座るようにポンポンと叩いた。
「わかったぜ……」
 隣に座った魔理沙の腕を取り、当然のように寄り添うアリス。
 アリスは魔理沙に想いを寄せており、魔理沙が霊夢を想っているのを知りつつも、パートナーとして魔理沙を支え、メイド時代に魅魔から仕込まれた魔理沙好みの手料理を振る舞ったりと魔理沙に迫っていた。
「つまり、魅魔様の存在を維持するために、わたしの……そして魔界の力を貸して欲しいという訳ね」
 魔理沙の腕にアリスの体が押し当てられその感触が伝わってくる。
 アリスに触れられるのは嫌ではなかった。
 人形遣いだけあって、アリスは自らも人形のように着飾り、衣服や肌の手入れも行き届いていて、その肌は絹のように柔らかく、滑らかで触っていて心地よかった。
 そして、腕に当たる今日のアリスの感触はいつもよりずっとふくよかで、魔理沙をドキドキさせていた。
「ああ、アリスにはいつも頼んでばかりで申し訳ないんだが……」
「いいのよ。魔理沙のためだもの。魅魔様とはわたしも知らない仲じゃないしね」
 魔理沙の肩にもたれかかるアリス。
 耳に吐息がかかる距離でアリスは囁きかける。
「わたしが頼めば、神綺様を初め魔界のみんなの協力は取り付けられると思うわ」
 アリスが魔界神の寵愛を受ける末娘なことは、魔理沙もよく知っていた。
「それにね……」
 アリスは魔理沙から体を離して向かい合い、赤いリボンをほどいてケープを脱ぎ捨てる。
 衣擦れの音と共に、ケープの下から現れたのはブラウスをはち切れんばかりに押し上げる二つの膨らみだった。
「アリス、やっぱりそれ……」
 魔理沙が恐る恐る指さす。
 アリスは、もとより魔理沙や霊夢と違ってほどよい大きさで形の整った乳房の持ち主で、霊夢に弾幕ごっこで敗れて落ち込む魔理沙を、何度もその胸に抱きしめて癒やしてくれた。
 しかし、今のアリスの乳房は魅魔に匹敵するほどの大きさだった。
「ひとっ走り魔界に行って、神綺様から魔力をもらえるだけもらってきたわ。わたしと神綺様なら問題なく魔力の受け渡しが出来るしね」
 魔法使いは、乳房や髪に魔力を蓄積させることがあり、その影響で乳房が膨らんだり髪が変色することがある。
 アリスが乳房の下で腕を組んで見せ、魔理沙にウインクする。
「ついでに、魔界のみんなにも話をつけてきたわ。これで、魅魔様から教わった奥義の練習が存分に出来るし、趣味だけでなく実益も兼ねて吸わせてあげられるわね」
 アリスは、魔理沙の頼みで何度かベッドや風呂場でおっぱいを吸わせてあげたこともあった。
「う、うん……」
 魔理沙は恥ずかしそうに視線を反らそうとするも反らせずにいた。
「なあに、また照れてるの? 魔理沙ってば本当に可愛いんだから」
 アリスは魔理沙の頬に額に瞼にキスの雨を降らせ、最後に唇に触れるだけのキスをする。
「いつもみたいに魔理沙の好きにしてくれていいのよ、ほら」
 アリスは魔理沙の手を取って、その掌を自分の乳房に押し当てる。
―トクントクントクントクン
 アリスの乳房から心臓の音が掌を通じて伝わってくる。
「スイッチが入ったら、いつも凄い勢いで揉んで吸うくせに……ほら、こっちも」
 アリスが魔理沙のもう一方の手も取り、掌をもう一方の乳房に押し当てる。
「アリスぅ」
 魔理沙が息を荒くしながら、ゆっくりと掌を動かし始める。
「んっ……魔理沙ぁ」
 瞼を閉じて唇を突き出すアリス。
「うっ」
「ほらっ、魔理沙の方から」
 アリスは瞼を閉じて唇を突き出し、魔理沙の方から口づけてくれるのを待っている。
 魔理沙の行動には、微妙な線引きがされている。
 寝室や風呂に入り込まれてなし崩し的に一緒に寝たりお風呂に入ったりして、悪戯でアリスの方から何度かキスされたことがあっても、自分の方からはなかなかキスしようとはしなかった。
「もうっ」
 アリスは魔理沙の首を強引に抱き寄せ、口づけさせる。
「んむっ」
 アリスが執拗に唇を吸ってくるのに応え、魔理沙の方からも応えて二人は舌を絡め合う。
 魔理沙の掌は、相変わらずアリスの乳房を揉み続けている。
 ほどなく二人は唇を離し、改めて向かい合う。
「ふふふ……ごちそうさま、魔理沙」
 離した唇から唾液が糸を引き、アリスはそれを舌なめずりして拭う。
 アリスは魔理沙に待つように仕草で伝えて、ブラウスのボタンを外し始める。
 ブラウスをはち切れんばかりに押し上げる乳房が、ボタンを一つまた一つと外すたびに圧迫から解放され、淡いブルーの下着越しに深い胸の谷間が露わになっていく。
 アリスの乳房を構成する肌は、アリスの顔や手の肌と同じく絹のように白く滑らかだった。
 魔理沙はハラハラしながら、アリスの乳房が解放されていくのを見守っている。
「ねえ、魔理沙。一つ確認しておきたいことがあるの」
 ボタンを外していく自分の指先に釘付けになっている魔理沙を見て、満足げに微笑むアリス。
「魔理沙は、わたしを選んでくれるってことで、いいんだよね」
 ボタンを外す手を止めたアリスの顔を魔理沙が見たことで二人の視線が交錯する。
「ねえ、その……。わたしだけが脱いでじっと見つめられるのも恥ずかしいし、魔理沙も一緒に脱いでくれないかしら」
 恥ずかしそうに視線をそらすアリス。
「ああ、わかったぜ」
 魔理沙もサロペットスカートを脱ぎ始め、それに合わせてアリスもボタンを外すのを再開する。
「魔理沙、自分でも気付いてると思うんだけど、あなたはおっぱい依存症なのよ」
 ボタンを外し終えたアリスがブラウスを脱ぎ捨てる。
「おっぱい依存症―」
 ブラウスを脱いだ下には淡いブルーの下着のみがアリスの乳房を隠しており、そこには深い谷間が形成され、執拗に魔理沙に揉みしだかれたせいで、そそり立った先端が下着越しにもわかる。
「いくらなんでも見過ぎよ……ホントにえっちなんだから。ほら、魔理沙も早く脱いでよ」
 アリスは恥ずかしそうに自分の乳房を両腕で覆い隠す。
「大きなおっぱいをみたら視線が釘付けになって、どうしようもなく触りたくなる吸い付きたくなる。宴会で酔ったフリして幽々子や紫や神奈子や白蓮のおっぱいを触ったり……わたしと一緒に寝るときも寝ぼけていつも吸いに来るよね」
「うぅ……それは」
 魔理沙が恥ずかしそうにブラウスを脱ぎ捨てる。
「いいのよ」
 素早くアリスは魔理沙をその胸に抱き寄せた。
「修業時代から、毎夜のように魅魔様から授乳で魔力を補充されてたんだもの。癖になるのも仕方ないよね」
 アリスが魔理沙の頭をそっと撫でた。
 魔理沙の目の前には深い谷間、鼻先には下着越しにアリスの乳房の先端が押し当てられる。
 下着の薄い生地越しに、乳房の先端が透けて見える。
 今すぐ押し倒して、揉みしだいて吸い付きたい。
 どことなく性格は霊夢に似ているのに、アリスはこうやって魔理沙を甘えさせてくれて、その胸に抱きしめてくれる。
 魅魔と離れて誰にも甘えられずにいた魔理沙には、そんなところがどうしようもなく魅力的に映り、霊夢という想い人がいるにもかかわらず、引き離せずにずっと来たのだ。
 魔理沙は、吸い寄せられるように下着越しに透けて見える、アリスの乳房の先端に唇を寄せていく。
「でも、わたしならそんな魔理沙をわかってあげられるし、〝あいつ〟と違って魔理沙の欲求を受け止められるモノも持っているわ。誰よりも魔理沙を愛してるという自負もある」
 アリスは魔理沙とくっついたまま改めて正対し、息のかかる距離まで顔を近づけて話す。
 二人の体の間で、それぞれの乳房が合わさり押しつぶされる。
「えっ……魔理沙?」
 アリスが驚いて体を離す。
「どうしたの、それ」
 アリスが魔理沙の乳房を指さす。
 魔理沙の乳房はほどよい大きさに膨らんでおり、大きくなる前のアリスと変わらないぐらいになっている。
 服の上から見たサイズとは明らかに異なっていた。
「着痩せの魔法だぜ。その、魅魔様の秘術を継承してから、魔力容量が増えたのか急に膨らみだして……」
 アリスの視線に魔理沙は恥ずかしそうに胸を腕で覆い隠す。
「あんまり見られると恥ずかしいぜ……」
「もう、魔理沙ってばホントに可愛いんだから」
 アリスは魔理沙の頬に額に瞼にキスの雨を降らせ、最後に唇に触れるだけのキスをする。
 アリスがスカートを脱ぎ捨てると魔理沙もそれに倣い、下着姿になってベッドに並んで腰掛ける二人。
 アリスのスラリと伸びた足から腰のくびれ、へその窪みから大きく膨らんだ谷間へ流れるボディラインが、白磁のように白くなめらかな肌で形成されている。
 それを隠すのは、アリスが自ら縫ったであろう淡いブルーの下着のみ。それは薄い生地に細かい刺繍が施されたもので、急成長したにもかかわらずアリスの体にぴったりフィットしており、とてもよく似合っていた。
 この事態を見越して、自分に見せるためにあつらえた勝負下着なのだろうか。
 そう思うと、魔理沙の胸の奥が熱くなった。
 魔理沙が、アリスのつま先から順に腰や乳房へと視線を上げていった先でアリスと目が合う。
「だから見過ぎだってば……ふふ、あんまり綺麗だから見とれちゃった?」
 微笑んで、からかうように片手の指をかけて下着をずらし谷間を見せつけながら、もう片方の手の指で魔理沙の鼻先をツンと突くアリス。
「ああ―綺麗だぜ、アリス」
 悪態をつくのも忘れて、うっとりした表情で本音を話す魔理沙。
「えっ……その、ありがと」
 アリスは恥ずかしそうに視線をそらす。
 正面から向き合うのが気恥ずかしくなって、改めてその腕を取って魔理沙に寄り添う。
 乳房が下着越しに魔理沙の腕に押しつけられ、よりハッキリとアリスの感触が腕から伝わってくる。
 そして、なにより魔理沙の視界には、アリスの胸の谷間が真上から覗き込めるようになっていた。
 ゴクリと唾を飲む魔理沙。
 魔理沙の中に、直接触れたいというこらえきれない衝動が込み上げてくる。
「それで、その……さっきの話の続きだけど、魔理沙はわたしを選んでくれるってことでいいのかしら」
 アリスのおっぱいを吸うだけならば、答えをはぐらかしたままアリスを押し倒すことも出来る。
 これまでも、魔理沙は何度かそんなことをしてきた。
 しかし、今回はその先に魅魔が起こす異変にアリスや魔界が協力してくれるかの成否がかかっている。
「今回の異変で幻想郷や霊夢を敵に回して、幻想郷にあなたたちの居場所がなくなったとしても、わたしや魔界は全て受け入れる用意があるわ。わたしは、幻想郷でも魔界でも魔理沙とずっと一緒にいてあげられる」
 アリスがより深く自分の胸を魔理沙の腕に押し当て、耳元で甘く囁く。
 魔理沙の鼻の下が伸び、鼻の息が熱くなる。
 今すぐ押し倒して、揉みしだいて吸い付きたい。
「それに……魅魔様もわたしで秘術の練習をしろって言ったのよね? これは魅魔様の意思でもあると思うの」
 魔理沙の脳内で理性を押しとどめていた霊夢の姿に、魅魔の姿が上書きされる。
「ねえ、わたしを選んでくれるわよね?」
 アリスが魔理沙から体を離して正対し、下着の肩紐を両方とも外してみせる。
 その乳房が最後の圧迫から解放され、アリスが組んでいる両腕を離せば、全てが露わになる状態となった。
―プツン
 魔理沙の中で、何かが切れる音がした。
―そうか、これは魅魔様の意思なんだ。
 それは、魔理沙の理性を吹き飛ばすには十分すぎるほどの理由だった。
 魔理沙がアリスの両肩を強く掴む。
「もちろんだぜ。わたしはアリスのことを愛しているからな」
 魔理沙の目は虚ろとなり光が失われていた。
「嬉しい……。わたしも愛してるわ、魔理沙」
 アリスが瞼を閉じると、改めて魔理沙が先ほどと違い自らその唇に口づける。
 それと同時にアリスの両乳房に手を伸ばす魔理沙。
 アリスの腕がどけられると同時に下着はストンと落ちて、むき出しとなった乳房を魔理沙の掌が鷲づかむ。
「んっ、アリス。どこを触って……」
 魔理沙がアリスの乳房を掴むと同時に、アリスの指先は魔理沙の股間に触れていた。
「ねえ、魔理沙が魅魔様の秘術を覚えたら、他の魔女の魔力を奪って回る―そういう計画なのよね」
 アリスは魔理沙の耳元で囁きながら指をそっと動かす。
「ひゃんっ……そういう計画だぜ」
「だったら、魔理沙に選ばれたわたしは特別が欲しい……おっぱいに加えて、ここから魔力の授受をして欲しいの」
 魔理沙の掌は相変わらずアリスのおっぱいを揉み続けている。
「でも……」
「大丈夫……わたしも初めてよ。魔理沙のためにとっておいたんだから」
 目を反らした魔理沙の耳に口づけ、囁くアリス。
「魔理沙がわたしを選んでくれるなら、問題ないでしょ……んっ」
 魔理沙の指はアリスの乳房の先端を責め立て始めていた。
「もうっ、お返しっ」
 アリスも魔理沙の両胸を鷲づかむ。
「ぴゃっ?!」
 魔理沙の思わぬ反応に驚くアリス。
「その……急に膨らみだしたせいで、敏感になってるんだぜ」
 涙目で恥ずかしそうに視線をそらす魔理沙。
「それと、アリスとするのはいいんだけど……優しくして欲しい―」
―プツン
 アリスの中で何かが切れる音がした。
「アリス?」
 アリスは俯いており、その表情はよく見えない。
「魔理沙、ゴメン」
 アリスは魔理沙の肩を持って強引にベッドに押し倒す。
 その鼻息は荒く、目は爛々と輝いていた。
「でも魔理沙も悪いのよ? あなたが、こんなに可愛いすぎるから」
 魔理沙の下着越しにふにふにと乳房を揉みしだく。
「あんっ……乱暴にするなら」
 そう言って翳した魔理沙の手をとるアリス。
「乱暴にするなら……なに?」
 アリスは魔理沙に微笑みかける。
「この手はなに? 異変を起こすには、わたしや魔界の協力が必要なんじゃないのかしら」
「うっ……」
 アリスの昏い笑顔に対して、たじろぐ魔理沙。
「スキありっ」
 アリスが強引に魔理沙の下着を剥ぎ取って、その乳房を直接揉みしだく。
「やめっ……アリスの卑怯者―」
 アリスは魔理沙に深く口づける。
「ふぐっ」
「許してね。魔理沙もそうだと思うけど、わたしも限界なの」
 魔理沙の方からも、アリスの乳房を揉みしだき、応えて舌を絡めていたが、敏感になった乳房を弄られる快感から次第になされるがままになっていく。
「初めてでも二人一緒なら怖くない……きっと気持ちいいから、最高の夜になるから―」
 アリスは自分に言い聞かせるように言いつつ、両膝の裏を持って魔理沙を強引に開脚させる。
「アリスっ、こんな格好恥ずかし―んんっ」
 さらに、自分の下腹部を擦りつけるアリス。
「アリス―やめっ……ふぁっ」
「本当に嫌なら、抵抗してもいいからね、魔理沙」
 アリスは優しく微笑みかけながら腰を動かし続け、重なった秘部は湿り気を帯びていく。
 魔理沙の躰は想い人に触れたくても触れられない寂しさ人恋しさから、アリスに抵抗する意思を挫かれ受け入れてしまっていた。
 何より、度重なる献身により魔理沙はアリスのこと〝も〟好きになってしまっている。
「はぁ―気持ちよすぎて、変になっちゃうぜ……」
 躰の芯からこみ上げてくる未経験の快楽に涎を垂らし、顔を歪ませる魔理沙。
 アリスに応えて、自分の方からも腰を動かし始める。
「絶対後悔させない……魔理沙のことを一番愛しているわたしが、きっと幸せにするから―」
 魔理沙の眼前ではアリスの剥き出しのおっぱいが激しく揺れ動く。
―ああ、アリスのおっぱい……
「んんっ……はむっ」
 揉みしだきながら、その先端に無我夢中でむしゃぶりつく魔理沙。
「ふふ……そう、それでいいのよ魔理沙」
 アリスは微笑みながら、さらに激しく腰を動かす。
「愛してる……ずっと大好きだから、これからも一緒にいようね、魔理沙―」
 アリスはこれまでの思いの丈をぶつけるように魔理沙の躰を求め、魔理沙も幻想郷への未練を断ち切るかのようにそれに応える。
 二人の魔法使いは、その夜疲れ果てるまで何度もその躰を重ね合ったのだった。



3rd Phase 聖白蓮

―命蓮寺
 人間の里のほど近くにある寺院。門を越えた敷地内には白い石造りの長い階段があり、それを登った先には賽銭箱が置かれた緑灰色瓦の大きな本堂がある。
 本堂の右には鐘撞き堂があり、左には赤布がかかった大量の地蔵が並べられていた。
 かつて、宝船として人々の注目を集めた聖輦船を、地上に着地させて飛倉の姿に戻した上で改装したもの。
 人間の里の最も近くにある宗教施設であることから、妖怪だけでなく人間の信仰も集めていた。
 その日、霧雨魔理沙はこの寺を訪れ、その最奥にある一室で一人の女性と対峙していた。
「お話はわかりました」
 金髪に紫のグラデーションが入ったロングウェーブに紫の瞳。白黒のゴスロリ風のドレスに表地が黒・裏地が赤のマントを羽織り、その起伏に富んだ悩ましい肢体を包み込んでいた。
 彼女の名は聖白蓮。かつて、魔界に封印されていた元人間の大魔法使いで、多くの妖怪や人間が帰依する命蓮寺の住職である。
「残念ながら、信者達のためにもわたしたちは、あなた方の起こす異変に協力することは出来ません。聖輦船をお貸しすることも出来ません」
「やっぱり、そうなるよな……」
 白蓮のハッキリとした返事に、魔理沙はばつが悪そうに頭をかく。
 一年前に起きた事件で、聖白蓮は封印されていた魔界から救い出され、幻想郷にやって来た。
 その時に幻想郷から魔界に到り、聖白蓮を乗せて帰ってきたのが、命蓮寺に変形する前の聖輦船である。
「ですが、異変を解決しようとする側にも協力せず、聖輦船を貸さないことを約束しましょう」
 意外そうな顔をする魔理沙。
「えっ、いいのか? 聖輦船を貸してそれで異変解決した方が信仰が集まるんじゃ―」
「いいえ。そういう異変を起こすということを、事前に知れただけでこちらは十分に信仰を集める手立てがとれます。外の世界では〝いんさいだぁ取引〟と言うそうですね」
 白蓮は笑顔で話を続ける。
「中立をお約束するのは、そのお礼だと思って下さい。もちろん、異変のことは口外しませんよ。こちらにも不利益になりますから」
 白蓮は悪戯っぽく片目を閉じて自分の唇に指を当てて見せた。
「ですが、それとは別にわたし個人は、あなたの力になりたいと思っています」
 白蓮は衣擦れも音と共に黒い上着を脱ぎ捨てた。
「白蓮?」
 白蓮の体を覆うのは白いインナー一枚となり、その大きな乳房が強調される形になる。
「そういえば、魔理沙が助けたいというお師匠様―魅魔さんといいましたか。確か、その方とわたしが似ていると魔理沙は言っていましたね。どこが似てるんですか?」
「どこって―」
 魔理沙は、強く存在を主張する白蓮の乳房に視線を泳がせ、視線を戻すとその頬には白蓮の掌が添えられていた。
「本当に可愛いですね、魔理沙は」
 全て見透かされたことを察し、気恥ずかしくなる魔理沙。
 白蓮はすぐ近くで魔理沙を慈しむように見つめている。
 異変以降、白蓮は魔理沙を気に入り、困ったことがあれば何でも相談に乗ると言って、気にかけてくれていた。
「その魅魔さんから受け継いだ秘技の練習相手が必要だと、アリスさんから聞きました」
 そう言いつつ、残されたインナーも脱ぎ捨てる白蓮。
 黒い下着越しに、その大きな乳房とその胸の谷間が露わになる。
「わたしも、その練習に使ってもらえませんか?」
 白蓮の乳房を見て息をのむ魔理沙。
「いい……のか?」
 鼻息を荒くする魔理沙。
「ええ、あなたの力になりたいんです、魔理沙」
 魔理沙の方に向かって両手を開き、微笑みかける白蓮。
 その奥に、魔理沙を待ち受ける二つの大きな膨らみ。
「白蓮っ」
 魔理沙は白蓮の胸の中に飛び込む。
 出来上がった白蓮の躰はびくともせず、しっかりと魔理沙を受け止めた。
 筋肉質の白蓮の躰も、乳房だけは柔らかく、魔理沙の顔を優しく受け止めてくれる。
 魔理沙は白蓮の下着をずらしてその乳房を露わにすると、その先端に吸い付いた。
「んっ……わたしは、今回の異変で戦う予定はありませんから、ママのおっぱいを存分に吸っていって下さいね」
 魔理沙に指と舌で執拗に責め立てられ、快楽で顔を歪めて後ろ向きに倒れ込む白蓮。
「はぁぁぁ―」
 強靱な肉体を持ち、絶大な強さを誇る白蓮の痴態に興奮して、さらに魔理沙は激しく責め立てる。
「それと、わたしのスペルカードも持っていって……わたしだと思って下さい」
 魔理沙がふと顔をあげると、白蓮は相変わらず慈愛の表情で魔理沙を見ている。
「白蓮は……どうしてわたしにそこまでしてくれるんだ?」
 博愛主義者の白蓮が、明らかに自分を贔屓している―魔理沙にはそう思えたのだ。
「言っていませんでしたか? わたし―」
 白蓮が顔をたぐり寄せ、その唇に口づける。
「―魔理沙のことが、大好きなんですよ」
 唇を離し、至近距離で微笑みかける白蓮。
「んっ」
 魔理沙の方からも白蓮に深く口づける。
 その間も魔理沙の指は執拗に白蓮の乳房を揉みしだいていた。
 今度は反対側の乳房にむしゃぶりつく魔理沙。
「魔理沙、異変が始まれば落ち着く暇もなく、魅魔さんにもしばらく会えないでしょう。だから、今日はわたしを魅魔さんだと思って……存分に甘えて下さいね」
 命蓮寺の最奥にある住職の私室。
 そこからは、しばらく魔理沙は出てくることはなかった。



4th Phase 風見幽香

 命蓮寺を出て、魔法の森へ戻る道すがら、魔理沙は考えていた。
―大きさこそ申し分ないが、やはり白蓮のおっぱいは神奈子や美鈴と同じで魅魔様より硬いんだよな。
 魔理沙にとって、魅魔のおっぱいこそが至高。
―かといって、紫や幽々子のは柔らかすぎる。アリスは、魔力補充で膨らんでるときは魅魔様と遜色ないけど、普段はパチュリーや咲夜や早苗と同じでサイズが足りないし。
 魔理沙は自分のサイズのことを棚上げして考え続ける。
 魅魔が不在の時は、魔理沙は常にかわりとなるおっぱいを求めてきたのだ。
 そうこうするうちに、魔法の森の入り口が見えてくる。
 魔法の森の入り口には瓦屋根の目立つ和風の一軒家が建っていた。
 隣には大きな倉、近くには大きな桜の木が一本。
―香霖堂
 そう大きく屋号が書かれた看板が下がっている。
 魔理沙の実家―大手道具屋〝霧雨店〟でかつて修行していた、森近霖之助の営む道具屋である。
 幻想郷で唯一、外の世界の道具を扱う道具屋とされており、店主の霖之助は魔理沙・霊夢の古なじみであることから、二人は道具や服のメンテナンスをいつも依頼していた。
「もうこんなところまで来てたか。香霖から八卦炉を受け取らないとな」
 店の前に降り立ち、魔理沙がドアを開けようとすると、内側から先んじてドアが開く。
 その向こうから現れたのは一人の女性。
 癖のある緑のショートボブの髪に、真紅の瞳。白地に赤のチェック柄のベストとロングスカートを穿き、胸元には黄色いリボンをつけ、手には白い日傘。
 彼女の名は風見幽香。花を操る程度の能力を持つ大妖怪である。
「幽香……なんでお前がここに―」
 手に持った日傘を翳してみせる。
「わたしは異変前に、メンテナンスをお願いした道具を受け取りに来ただけよ。あなたもそんなところじゃなくて?」
「くっ―」
 図星を疲れて黙って幽香を睨み付ける魔理沙。
―こいつも香霖の店を使っていたのか。
 風見幽香は魅魔のかつてのパートナー。
 今回の異変にも協力すると魅魔から聞かされていた。
 魅魔の弟子である魔理沙にとっては、魅魔を奪い合うライバルのような関係である。
「ちょうどいいわ。お互いの道具の試運転も兼ねて弾幕ごっこでもどうかしら。久しぶりに虐めてあげる」
 魔理沙を見下し笑う幽香。
―今に見てろよ。
 幽香を睨み返しながら、魔理沙は自分の胸に手を当てた。
 着痩せの魔法で目立たないが、魔理沙の胸にはアリスや白蓮から受け取った魔力が蓄えられている。
 魔法の森に入った二人は、いつも魔理沙とアリスが弾幕ごっこに使う広場に降り立つ。
「幽香。お互い最も得意な魔法でケリを付けようぜ。それなら一撃で終わるだろ」
 魔理沙が幽香に八卦炉を向けて言い放つ。
「あなたがわたしにパワーで勝てるはずないでしょう。考えてものを言いなさい。いつもみたいにスピードで攪乱しに来なさいよ」
 魔理沙は忠告を無視して、幽香に向けた八卦炉に魔力を込めていく。
「本当に成長しないわねあなたは。あなたみたいなのが、異変の成否を握っていると考えたら頭痛がしてくるわ」
 幽香も魔理沙に向けて日傘を構える。
「そう言いつつも、いつもわたしに絡んでくるじゃないか。わたしがオマエより強くなるのが、わたしに魅魔様を奪われるのが本当は怖いんだろう?」
 八卦炉に魔力を充填しようとするも違和感があった。
 原因は八卦炉じゃない。アリスや白蓮から受け取った魔力が胸の中で渦巻いたままでうまく出力できていない。
「呆れた……本気でそう思っているの」
 吹き出す幽香。
「頼まれもしないのに、わたしがあなたみたいな雑魚に構うはずないでしょう」
「なん……だと?!」
 なんだかんだ悪態をつきつつも、幽香は自分を少なからず認めてくれている―魔理沙はそう思っていた。
「魅魔に頼まれたから仕方なく付き合ってあげてるにきまってるでしょう」
 魔理沙が悔しさで歯を食いしばる。視界が滲むのを必死にこらえた。
「マスター―」
 充填が不完全ながらも強引に魔砲を撃ちにいく魔理沙。
「ちょっと、魔理沙?」
 幽香もやむなく迎撃態勢に入る。
「スパーク!」
 魔理沙の八卦炉から魔砲が照射されると同時に、幽香の日傘からも魔砲が放たれた。
 幽香の魔砲が魔理沙の魔砲を食い破りすぐさま魔理沙の眼前に迫る。
 魔理沙の意識は―そこで途絶えたのだった。


 次に魔理沙が目を覚ましたとき、目の前には逆さまにぶら下がるような形で、二つの大きな膨らみがあった。
 後頭部には柔らかな感触。
 懐かしい夢を見ているような感覚。
「魅魔様―」
 その膨らみに魔理沙はそっと手を伸ばす。
「んっ―」
 やはり、その感触は間違いなくあの人のものだった。
「魅魔様だぁ―」
「誰が魅魔よ」
 その声を聞いて、一気に現実に引き戻される魔理沙。
 体を起こし、その声の主を確認するとそこにいるのは風見幽香。
 魔理沙を膝枕してくれていたのは風見幽香である。
 そして、自分の掌が掴んでいるのは風見幽香のおっぱいだった。
「だって、このおっぱいは―魅魔様で」
 指を動かしてみるも、それは明らかに魅魔の感触で―魔理沙は混乱した。
「まあ、魅魔とは長いことパートナーやってて、あいつの術で魔力がお互い均等になるようにずっと調整してたから、大きさも感触も瓜二つになってるかもね」
 魔理沙は愕然とした。
 いくら大きくても嫌いなこいつのおっぱいにだけは、ずっと触れようともしなかった。でも、まさかこんなところに正解があったとは。
「それで、いつまで揉んでるつもり?」
「ご、ごめん―」
 慌てて手を引っ込める魔理沙。
「まあ、いいか」
 幽香が魔理沙をその胸に抱き寄せる。
「その……さっきは悪かったわよ」
 その乳房に魔理沙は顔を埋める。
「その、嘘だから……本当は魅魔には何も頼まれてないの」
「幽香?」
 理屈ではわかっていても、このおっぱいに包まれていると、魅魔に包まれている気になってしまう。
「わたし、あなたのこと気に入ってるのよ」
 魔理沙は、うっとりとした気分のままその乳房に指を這わせる。
「それと、魅魔から聞いてない? 魅魔の術で波長の違う魔力を取り込んでも、定着にしばらく時間がかかるのよ。だから、魔力を溜め込んでもしばらく待たないと出力できな―んっ」
 夢見心地で、魔理沙は幽香の乳房を揉みしだいている。
「しょうがないわね―」
 幽香は衣擦れの音と共に黄色いリボンをほどき、ベストとブラウスのボタンを外していく。
「ちょっと、幽香―」
 ブラウスの下からは、淡いグリーンの下着越しに深い胸の谷間。
「魔力が必要なんでしょ?」
「いい……のか?」
 魔理沙が幽香の顔を見つめる。
「吸いたいんなら、わたしの気が変わらないうちに早くしなさいよ」
 頬を染めて顔を背ける幽香。
 こんな風見幽香を見るのは初めてだった。
 魔理沙は幽香の下着をずらしてブラウスの奥にある幽香の乳房に顔を埋める。
 最初は遠慮がちに先端を舌で嘗めていたが、しっかりと吸いついて魔力を補給し始める。
「んっ」
 魔理沙の耳には幽香の艶っぽい声が届く。
―こいつ、魅魔の若い頃にどんどん似てくるのよね……。調子が狂うわ。
 魔理沙は魔理沙で、またもや魅魔から魔力を補給してもらっている気分になってきていた。
 しかし、秘術を使えば魅魔とは魔力波長が違うことは実感できる。
 いま、自分におっぱいを吸われて艶っぽい声を出しているのは、周辺最強と恐れられている大妖怪―風見幽香なのだ。
 その事実が魔理沙をさらに興奮させた。
 こらえきれず、幽香は仰向けに倒れ込む。
 今度は反対側のおっぱいに吸い付く魔理沙。
「あんっ―あんたに期待してるのは魅魔だけじゃないんだから」
 魔理沙の頭を幽香が優しく撫でる。
 顔を上げると、幽香が見たこともない優しい表情で自分を見つめていた。
「絶対に、魅魔を助けるわよ。魔理沙」
―魔力の波長も声も顔も、おっぱい以外は全て風見幽香なのに……。
 魔理沙には、幽香の表情が魅魔に重なって見えた。
「幽香―」
 どちらからともなく眼を細め、唇を寄せていく二人。
「あなたたち何してるの?」
 怒気を含んだ声に驚いて振り返る二人。
 そこにいたのは、アリス=マーガトロイド。
「魔理沙がなかなか帰ってこないところに、こっちから大きな爆音がしたから見に来てみたら……」
 アリスが険しい形相で二人に歩み寄る。
「幽香、魔理沙にだけはおっぱいに触らせないでって、わたし言ったわよね?」
 慌てて衣服を正す幽香。
 状況的に、幽香が自ら脱いで魔理沙に吸わせたことは明らかだった。
 幽香は、アリスが魔界から幻想郷にやってきて以降、何かにつけて気にかけており、魔理沙とのことも応援しているといつも言ってくれていた。
 これは明らかな裏切りではないのか―。
 アリスは魅魔と幽香の両方から胸に抱きしめられた、唯一と言っていい人物だった。
 そして、魔理沙が幽香に抱きしめられることの危険性を、文字通り肌で感じていたのだ。
「その、魔理沙の新しい術の練習台が一人でも多く必要だと思ってね。それに、魔理沙とはもう結ばれたんでしょ―」
「あなたは別っ」
 今回の異変がうまくいかなくて、魅魔が消滅した場合。
 魔理沙と幽香の魅魔を挟んだ三角関係が一変、失ったものを埋め合わせるために魔理沙と幽香が急接近するという未来もあり得るのだ。
「そもそも、異変の協力者から魔力をとってどうするのよ。敵対する可能性のある相手から奪わなきゃ意味がないじゃない」
 魔理沙の首根っこを掴んで持ち上げ抱き寄せるアリス。
「魔理沙も魔理沙よ。わたしというものがありながら」
 アリスが魔理沙をその胸に抱きしめる。
 その心地よい感触に酔いしれるも、我に返る魔理沙。
 魔理沙がアリスから魔力を吸って、元のサイズに戻ったはずの乳房がまた膨らんでいる。
「アリス、これって―」
 魔理沙は顔を離し、確かめるようにアリスの乳房を揉みしだく。
「打ち合わせがてら、神綺様から魔力をもらってきたわ。吸うならわたしから吸いなさいっ」
「さっき、異変の協力者から魔力をとっても意味がないって―」
「わたしはいいのっ」
 魔理沙をその胸に再び深く抱きしめながら、アリスは言い放つ。
「神綺様から無尽蔵に魔力を持ってこれるんだから」
 自分の胸から魔理沙を引き剥がすと、回り込んでその腕を取るアリス。
「ほら、魔理沙。早く帰って続きをしましょう。異変起こす限界ギリギリまで、あらゆるところから魔力を注いであげるからね」
 アリスは嬉しそうに魔理沙の頬に口づけると、二人は仲睦まじく魔法の森上空に飛び上がる。
「今日は、一緒に寝る前にお風呂も一緒に入りましょう?」
「アリスと一緒に入って洗いっこすると、体の隅々どころかナカまで洗おうとするから、ベッドに行く前に疲れ果てちゃうぜ―」
「じゃあ、今日は気分を変えてお風呂場で全部済ませちゃおうか」
 そうは言いつつも、腕に当たる豊かな感触を感じながら、魔理沙もまんざらでもなさそうな様子である。
「お風呂でするなんて、なんだか恥ずかしいぜ」
「いまさら何を恥ずかしがってるのよ。わたしたち―もう夫婦じゃない」
「ああ―そうだな」
 幽香は、そんな会話をしながら飛び去る二人をただ黙って見送るのだった。
「強くなったわね、アリス―」
 だが、魔理沙の表情や瞳に翳りが見えたのが気になった。
 おそらく、それはアリスも気付いている。
 だからこそ、未練を断ち切らせるべくより積極的に異変前に絆を深めようとしているのだ。
 風見幽香は思いを巡らせる。
 このことが異変にどう影響を与えることになるのか―。




 アリス=マーガトロイドは焦っていた。
 魔理沙が最も想っている人物は悔しいが博麗霊夢で、その次が自分であるとは信じている。
 その霊夢が、煮え切らない魔理沙にしびれを切らして、積極的に迫りだしたのだから焦るのは当然だろう。
 だが、魔理沙にとって霊夢が一位でアリスが二位だとしたら、魅魔はチャンピオンであり格が違うのだ。
 そして、魔理沙と魅魔は師弟であり母娘である―二人からはそう聞いている。
 しかし、アリスにはただそれだけには見えなかった。
 相思相愛の恋人同士のようにも、見えるのだ―。


 その日、人間の里の中央の広場には多くの人だかりが出来ていた。
 なんでも、いつも人形劇を披露してくれているアリス=マーガトロイドが新作を発表すると大きく広告が打たれていたからだ。
 その新作人形劇は、『幺樂~○○○~』とタイトルの付いた連作となっており、幻想郷において異変解決に活躍する実在の人物や、『幻想郷縁起』に登場する実在の妖怪も登場する作品で、新しい登場人物も登場し喝采をもって喜ばれた。
 その新しい登場人物の中でも、主人公達と共に異変解決に奔走し、最も活躍したキャラクター。
 それが、怨霊―魅魔だった。



5th Phase パチュリー=ノーレッジ

―霧の湖
 幻想郷を見下ろす妖怪の山の麓にあるその湖は、昼になると霧に深く包まれ、それほど大きくないにもかかわらず見通しがつかなくなる。
 その湖の畔―霧の奥に紅色を基調とした、周囲の景色からひどく浮いた洋館が建っていた。
 紅魔館と呼ばれるその館の主人は、吸血鬼であるため太陽を苦手としており、未だ眠りについていた。
 その紅魔館のさらに地下には、幻想郷最大の蔵書量を誇ると言われる図書館が存在している。
 魔理沙はその日、この場所を訪れ一人の少女と対峙していた。
「いつもみたいに忍び込まず、堂々とわたしのところへくるなんていい心がけじゃない」
 少女は長い紫髪の先をリボンでまとめ、その上から三日月の飾りのついたナイトキャップを被っていた。
 紫と薄紫の縦じまが入った寝間着の上から薄紫の上着を羽織り、服のいたるところに青と赤のリボンが施されている。
 彼女は本のそばにいるものこそ自分と考えており、その出で立ちは寝て体を休める時間以外は全ての時間を読書に費やしたい、着替える時間すら惜しいという彼女の生活を物語っていた。
 彼女の名はパチュリー=ノーレッジ。この大図書館の管理人にして、種族魔法使い。そして、アリスにとっては魔理沙を巡るライバルだった人物である。
「今日はどうしたの? まさか、殊勝にもこれまで盗んだ本を返しに来たのではないでしょう」
「今日は、純粋にオマエに会いに来たんだぜ」
 魔理沙が、すっとパチュリー歩み寄る。
―わたしに、会いに、来た?
 魔理沙の今までにない言動にパチュリーの胸が高鳴る。
―落ち着け、落ち着きなさい。
 胸に手を当てて、パチュリーは大きく深呼吸する。
 パチュリーは、魔理沙が胸の大きな女性が好きと知ってからは、着痩せの魔法を使わずに胸元の大きく空いた服装で魔理沙を出迎えており、もちろん今日もそうしていた。
「どうした? パチュリー。具合でも悪いのか」
 振り向けば、至近距離まで魔理沙の顔が近づいている。
―ち、近いっ
「な、なんでもないわ。近寄らないで」
 顔を背け、突き飛ばそうとしたパチュリーの手を魔理沙が掴む。
「パチュリー。今まで、お前の気持ちに応えてやれなくてゴメン」
 驚いて魔理沙の方を振り向くと、優しげな表情で自分を見つめていた。
「な、何よ今さら」
「パチュリー……」
 魔理沙は、掴んだパチュリーの手を持ってその体をたぐり寄せ、唇を重ねようとする。
「や、やめてよ魔理沙」
 パチュリーは恥ずかしそうに顔を背け、反対側の手で魔理沙の肩を押して突き離そうとする。
―らしくない。今日の魔理沙はおかしい。何を考えているの。
「やめないぜ」
「んっ」
 しかし、魔理沙はパチュリーの顎をつまんで強引に唇を重ねる。
―こんなのは魔理沙じゃない。何かあるに違いない。
 しかし、思考とは裏腹にパチュリーは自ら魔理沙を抱き寄せ、応えて深く唇を重ね合う。
 魔理沙は、胸元の大きく空いたパチュリーの服の上から手を差し入れ、直接その乳房を揉みしだく。
―なにか対策を……考えないと。
 パチュリーの躰は熱を帯び、魔理沙の指に反応して乳房の先端は熱を帯びてゆく。
「はあ、はあ……」
 腰砕けして、魔理沙にもたれかかるパチュリー。
「こんなんじゃ、許さない。絶対に許さないんだから」
 パチュリーは頬を染め、涙目で魔理沙を睨み付ける。
―何を言っているのわたしは。これでは恋する年頃の乙女のよう。
「じゃあ、ベッドでこれまでの償いをさせて欲しい」
 魔理沙は、姫君を抱きかかえるように、パチュリーの体を持ち上げる。
「いいか? パチュリー」
 至近距離から慈愛に満ちた表情で魔理沙が微笑みかける。
「いいけど、その……優しくしなさいよ」
 恥ずかしそうに視線をそらすパチュリー。
「ありがとう、パチュリー」
 魔理沙が優しくその頬に口づけをし、寝室へ向けてパチュリーをそのまま運んでいく。
―小悪魔、聞いてるわよね。
 パチュリーが弾んだ声で念話を飛ばす。
―これからわたしがいいと言うまで、あなたも含めて何人たりとも部屋に入れないでちょうだい。もし、誰かが入ってきたら―消すから。
 その言葉を最後に、パチュリーは魔理沙と共に寝室に引きこもる。
 小悪魔はパチュリーの指示通り、寝室に近づかずかつ誰も近寄らないように見張っていたため、なかで何が起こっていたのかは知るよしもない。
 ツヤツヤな頬で、満足げな魔理沙が部屋から出てきたのが数時間後。
 そこから、半日間は中から何の声も飛んでこなかったので、小悪魔は余韻に浸っているのか疲れて眠っているのだろうと声もかけなかった。
―こあ……くま。
「お呼びですか、パチュリー様」
 一人の少女がパチュリーの念話に反応して、その寝室の扉を開ける。
 赤い長髪で頭と背中に悪魔然とした羽、白いシャツに黒色のベストとネクタイ、同色のタイトスカート。彼女の職業に見合った司書然とした格好でその起伏に富んだ悩ましい肢体を包み込んでいた。
 彼女は小悪魔である。小悪魔は種族名であり、名前はもうない。パチュリーの使い魔として、契約時に名前を捧げてしまったので、彼女には名前がなかった。
「ずいぶんとお楽しみだったようですね、パチュリー様―」
 小悪魔は使い魔として以上の想いを主人であるパチュリーに向けている。
 パチュリーの想いは知っているし、使い魔として協力はするモノの、パチュリーと魔理沙が仲良くなるのには複雑な思いがあり、正直面白くなかった。
 ベッドの上を見ると、そこにいたのは白髪の少女。
 服こそパチュリーの服を着ているが、白髪なのに加えて剥き出しのハズのおっぱいは、小悪魔の愛してやまない豊かな膨らみではなく、真っ平らだった。
「こあ……くま」
 しかし、恍惚の表情で小悪魔を呼ぶその声は確かに主人のそれだった。
「パチュリー様が、パチュリー様だったモノに……そのお姿はどうなさったんですか」
「バカを言ってないで……こっちに来なさい」
 恐る恐るパチュリーのいるベッドに近づく小悪魔。
「もっとそばに……」
 そばに寄ると、パチュリーは小悪魔の顔を強引にたぐり寄せて深く口づけた。
「んっ、パチュリー様ぁ」
 ベッドに引きずり込んで押し倒し、パチュリーはより深く小悪魔に唇を重ねる。
 構ってもらえなくて自分がすねているのを察してくれているのだ―小悪魔はそう思った。
―パチュリー様……
 小悪魔もパチュリーに応えて舌を絡め合う。
「ええい、まどろっこしいわ」
 パチュリーは小悪魔のベストを剥ぎ取り、強引にシャツを脱がせる。
「やんっ、パチュリー様のえっちぃ」
 露わとなった黒い下着も剥ぎ取り、剥き出しになった乳房にパチュリーが吸い付く。
「そんな、授乳プレイなんて……んっ」
 小悪魔が艶っぽい声を上げる中、パチュリーの頬にツヤが戻り、髪は元の紫色に、乳房もどんどん膨らんでいく。
「ふう、なんとか戻ったかしら」
 小悪魔の前では、髪色も紫に乳房のサイズも元に戻ったパチュリーが衣服を正していた。
「お帰りなさい、パチュリー様」
 恍惚の表情で小悪魔はそう言って、体を起こそうとするも起き上がれないことに気付く。
「はれ? なんらこれ」
 自分の体を確認すると、乳房は真っ平らになっており、髪も真っ白。
「こういう時のための、予備としてあなたに限界ギリギリまで魔力を与えているのよ。役に立ったわね小悪魔」
「お役に立てて光栄です、パチュリー様ぁ」
 ベッドの上で起き上がれないまま、うわごとのように呟く小悪魔。
「こうなると、妹様が気がかりだわ。小悪魔、すぐに妹様の様子を―」
 そう言ってベッドを見ると、小悪魔は相変わらず恍惚の表情のまま、白髪で平らなおっぱい丸出しでうわごとを呟いている。
「ああ、もうっ」
 素早く詠唱して移動用の魔方陣を発動、足下に現れた輝く魔方陣に沈んでいくパチュリー。
 厳重に施錠された、大図書館のさらに地下にある部屋。
 禁書庫を改装したその部屋にパチュリーはやって来ていた。
 ベッドの上には一人の幼女。
 サイドテールにまとめた髪の上から紅いリボンの付いたナイトキャップを被り、紅を基調とした半袖の洋服にミニスカートを穿き、胸元には黄色いリボン。
 またその背中からは、一対の枝に七色の結晶がぶら下った特殊な翼が生えている。
 彼女の名は、フランドール=スカーレット。
 この紅魔館の主人の妹で、吸血鬼にして魔法少女。彼女も魔理沙を慕っていた。
「遅かったか……」
 彼女も、金色だったはずの髪は真っ白に脱色し、平らなおっぱい丸出しのまま恍惚の表情でうわごとのように魔理沙の名前を呼んでいた。
「いったい何を企んでいるの、魔理沙」
 顎に指を当て、思案するパチュリー。
 これはただ事ではない。自分とフランドールの魔力をなりふり構わず奪って逃走するなど、あまりにも後先を考えていない行動である。
 もちろん、パチュリーはこの段階で魅魔の存在や、魔理沙とアリスの間にあったことなど知るよしもなかった。
「咲夜はいるかしら! 人間の里にいくから着いてきて欲しいの―いえその前に魔法の森に寄るわ」



6th Phase 十六夜咲夜

―人間の里
 幻想郷のほとんどの人間が暮らす里。
 幻想郷で「里」と言えば通常は「人間の里」を指す。
 幻想郷の維持には人間が必要なため、妖怪の賢者によって保護されており、妖怪退治を仕事とする者も住んでいる。幻想郷の中でも人間にとって非常に安全に暮らせる場所である。
 ここには日頃から様々な妖怪が訪れており、人間の店で普通に買い物をしたり遊んだりする者も多い。中には夜に活発に活動する妖怪用に、夜中は妖怪専門店として営業している人間の店すらある。お酒の出る店では人間と妖怪が一緒になって飲んだり騒いだりしているのも珍しくない、のんびりとした場所である。
「人間の里がこんなことになっていたとはね―」
 パチュリーが人間の里の様子を見て思わずそう呟く。
 ここは、人間の里で最も人通りの多い繁華街。
 多くの店が軒を連ね、昼間は多くの人で賑わい、アリスの人形劇もこの一角の広場でいつも上演されていた。
 それが、真昼にも関わらず人通りはまばらで、多くの店は閉めており、その店先には見慣れない紺色の護符が貼られていた。
「人間の里が、こんなことになったのはいつ頃から?」
 パチュリーが傍らにいる少女に問いかける。
 ボブにカットした銀髪の両側を三つ編みに結って緑のリボンで留め、その上にホワイトブリム。胸元にも緑色のリボンの付いた青い洋服の上に、肩や襟にレースのついた白いエプロンをつけた、青と白のメイドルックの少女。
 彼女の名は十六夜咲夜。紅魔館のメイド長にして主人であるレミリア=スカーレット付の従者。そして、紅魔館に住む唯一の人間である。
「アリスが数日前に新作の人形劇を披露してすぐに、このような状況になったと記憶していますわ……」
 咲夜は紅魔館の中で唯一、買い出しなどで定期的に人間の里に訪れる存在であり、他の住人は引きこもりか、あるいは知己の住む博麗神社や魔法の森といった特定の場所にしか出かけない者ばかりだった。
「出来れば報告が欲しかったところね」
 パチュリーが店先の紺色の護符を見てみると、そこには怨霊〝魅魔〟を信仰するから加護を授けて欲しいと願う内容が書かれており、発行元は命蓮寺となっている。
「その命蓮寺謹製の護符、アリスが人形劇をした直後から大量に出回りだして、すぐに里中に広まりましたわ」
「これで、怨霊〝魅魔〟と命蓮寺への信仰が飛躍的に高まるでしょうね」
 魅魔という怨霊の名前はパチュリーも聞き及んでいた。
 魔理沙が崇拝とも呼べる敬慕を寄せる師匠であり母親たる存在。
 パチュリーは面識がないが、霊夢やアリスはそれなりに親交があったと聞き及んでいる。
「その頃から、実際に魔界の魔物がコンスタントに現れて周辺を脅かしているようで、怨霊〝魅魔〟への恐怖に拍車をかけているようですわ」
 実際、パチュリーと咲夜が魔法の森や人間の里への移動中にも、魔界のものらしき魔物と遭遇していた。
「怖い人形劇を見ただけで、子供どころか大人まで怯えているのは、集団幻惑魔法か何かを使ったのでしょう。それ以上にその場にいなかったはずの者にまで噂が伝播する速度が異様に早かったことも、これで得心がいったわ」
 店の軒先に立てかけてあった箒をパチュリーがその手に取り、呪文を詠唱するとその箒には口が生えてきて、魅魔様を信仰しないと魔物に襲われると話し始める。
「付喪神―」
「化け狸は、付喪神を好んで部下として使役すると、幾つかの本に書かれていたわ」
「確か、命蓮寺では化け狸を飼っていましたわね……」
 これで、命蓮寺とアリスや魔理沙が無関係だという方が無理があるだろう。
 命蓮寺の住職である聖白蓮は、魔界に封印されていた経歴からアリスと面識があり、異変解決の経緯から魔理沙を気に入っていたとも聞いている。
「魔法の森にあったはずの、魔理沙とアリスの家が〝跡形もなくなくなっていた〟ことも、関係しているのでしょうね」
 パチュリーにはようやく大筋が見えてきていた。
 多くの要因に関係して出てくるキーワードは、〝魔界〟そして怨霊〝魅魔〟。
「それと、妖精達の噂話程度の話なので耳に入れるか迷っていたのですが―」
「どんな些細な話でもいいわ、全て話しなさい」
 思案する咲夜にパチュリーが詰め寄る。
「その、魅魔とおぼしい怨霊が、魔理沙の家に出入りするのを目撃したという話と、それとこれは大変申し上げにくいのですが―」
「なに?」
「魔理沙とアリスが……その、結婚したと―」
 聞いた瞬間にパチュリーは俯いて歯を食いしばる。
「あの人形遣いっ……」
 まず間違いなく、魔理沙が今回の異変を起こしたのは怨霊〝魅魔〟のため。
 そして、アリスも共犯者としてかなり深いところで関わっているのは自明だ。
 むしろ、協力を条件により魔理沙とより絆を深めたに違いない。
 異変を起こすにあたり魔理沙は自分の知己を、魅魔を知り魅魔のために協力してくれる人物とそうでない人物二つに分類している。
 そして、霊夢やアリスと違い、魅魔を知らず魅魔にも認知されていない自分は、必然的に協力してくれない側に分類された訳で。
 そして、おそらくアリスも承知の上で、魔力だけを吸い尽くされて捨てられたのだ。
「ははっ、ははは―」
 パチュリーは乾いた笑い声を上げる。
「パチュリー様?」
 なんと滑稽で、なんと愚かなのだろう。
 そんなことも知らず、パチュリーは浮かれて魔理沙にこの身を捧げたのだ。
 魅魔を知らない自分は、魔理沙の隣に立つ候補にすら挙がっていなかったことも知らないで……。
 空を仰いで目頭を押さえるパチュリー。
 泣くな、泣いたら負けだ。怒るか、それが出来ないならせめて笑い飛ばせ。
「咲夜。紅魔館に戻りましょう。レミィとこの事態にどう対処するかの対策を練るわ」
―このまま終わらせてなるものですか。
 パチュリーは表情を引き締める。
 このままで、アリスの掌の上で踊らされたままでよいはずがないのだ。
「してやられた……完全に掌の上で踊らされたわね―」
 パチュリーはその建物を見上げて思わず呟いた。
 二人は、紅魔館の〝建っていた〟霧の湖の畔に帰ってきていた。
 〝館〟の門前では、一人の女性がシェスタをしている。
 腰まで届く紅い髪を部分的に側頭部からお下げに垂らしたリボンで留め、髪の上には〝龍〟と書かれた星形のエンブレムのついた緑の帽子を被り、スリットの付いた淡い緑色の大陸風の衣装に身を包みこんだ背の高い女性。
彼女の名は紅美鈴。紅魔館の門番である。
「美鈴! 起きなさい、美鈴」
 上司である咲夜が声をかける。
「はい。紅美鈴、寝ておりません。本日も異常ありま―」
 そう言いかけて振り返る美鈴。
 そこには、紅一色に染め抜かれたいつもの紅魔館の姿はなく、かわりに紅白チェック柄の館の姿があった。
 紅美鈴が手塩にかけて育てた庭園はなく、足下には青いタイルが敷き詰められている。
「―異常ありです」
 振り返ってそう告げた美鈴の頬を、パチュリーが手に持っていた魔導書の角で殴打する。
「パチュリー様……申し訳、ありま、せん」
 美鈴の頬を往復で何度も殴打し続けるパチュリー。
 普段のパチュリーなら、高速詠唱でなんらかの魔法を使って折檻するはずで、大切な魔導書を武器にするようなことはないのだが、彼女は彼女で余裕を失っている。
 額に手を当てて項垂れる咲夜。
 今回ばかりは、フォローのしようがない。
「門番、お疲れ様」
 脇からかかった声に驚いて振り向く三人。
 そこにいたのは、一人の女性。
 金髪を肩のところで外向きに巻き上げた特徴的な髪型をした、褐色の瞳の女性。白い肩掛けの着いた赤い洋服に身を包み、頭には赤いリボンのついた白い鍔ぜり帽子。
 手にはその洒落た服装とは不釣り合いな、刃が外に向いた大鎌を持っていた。
「交替するわ。この館―〝夢幻館〟の門番は、このエリーだから」
 自分の胸に手を当てて、誇らしげに語る。
 彼女の名はエリー。夢幻館の門番を務める、元死神である。
「〝夢幻館〟ですって? その名は……すると、館の主人は―」
 パチュリーがその名を聞いて、館とその門番の姿を交互に見る。
 それは確か、紅魔館が幻想郷にやってくる前に湖の畔に建っていた洋館の名だったはず。
 幻想郷にやってきた直後に、文献を探せるだけ探して調べたことを思い出す。
「いま、帰ったわエリー。そちらは、お客様かしら」
 パチュリー達三人が、さらに背後を振り返るとそこには二つの人影。
 一人は、腰まであるブロンドの髪に紫の瞳、白いシャツの上から紺色のベストを着て、赤いロングスカートを穿き、髪と胸元には赤いリボンをつけた少女。
 背中には背丈の倍はあろうかという蝙蝠羽を生やしていた。
「吸血鬼―〝くるみ〟」
「吸血鬼?!」
 パチュリーの言葉に咲夜が驚愕する。
「幻想郷に初めて現れた吸血鬼はレミィ達じゃないのよ。〝吸血鬼条約〟はくるみが〝吸血鬼異変〟を起こしたときに締結されたの。その前例があったから、レミィ達は幻想郷にすんなり受け入れられたのよ」
 パチュリーは、もう一つの人影に視線を移す。
「そして、〝夢幻館〟の主人―風見幽香」
「我が館、〝夢幻館〟へようこそ。よろしければ、ご一緒にお茶でも如何かしら」
 くるみに寄り添われた、夢幻館の主人―風見幽香は不敵に微笑みかける。
「いいえ、今回は遠慮させて頂きますわ」
 どうにかして言葉を絞り出すパチュリー。
「ふふふ、それは残念」
 そう言うと、幽香はパチュリー達を素通りしてエリーのいる門の方へと向かう。
「おかえりなさい、幽香ちゃん。くるみもお務めお疲れ様」
 エリーが嬉しそうに回り込んで、くるみが取っているのと反対側の腕を取って幽香に寄り添う。
「あらためて、おかえりなさい―幽香ちゃん」
 そう言って、エリーとくるみはそれぞれ幽香の頬に口づける。
「あんたたち……わたしがいない間も〝夢幻館〟を守っていてくれたんだね―ありがとう」
 幽香も、まんざらでもない表情だった。
「それじゃあ、夢幻館はいつでもあなた方の来訪をお待ちしておりますわ―」
 幽香達三人は門前でパチュリー達の方へ振り返る。
「十六夜咲夜さん、いいえ×××。」
―ズキン
「くっ」
 頭痛を覚えてよろめく咲夜。
 自分はその名前を知っている。なぜだ、どういうことだ。
 あの妖怪―風見幽香とは、五年前の花の異変で会ったのが初めてのはず。
 風見幽香は、自分記憶のの中で欠落している、紅魔館にやってくる前の自分を知っているというのか。
 思い出そうとすると、さらに頭痛が増していく。
「大丈夫ですか、咲夜さん」
 咲夜は心配する美鈴の胸に顔を埋め、その身を委ねる。
「よかった。わたしのおっぱい探して、そこにもたれかかる元気はあるようですね。なんでしたら、揉みますか―ああ、もう揉んでますね」
 美鈴の乳房を揉みながら体を起こす咲夜。
「パチュリー様、風見幽香は特定の住処を持たない妖怪だったはずでは……」
「七年前、紅魔館が幻想郷にやってくるのと入れ替わりに、夢幻館が消失した後はそうだったようね―」
 咲夜は絶句した。
「今から七年前、関係者の間では〝幻想魔界戦争騒動〟と呼ばれる事件が起きて、霊夢と魔理沙と魅魔、そして夢幻館の主だった風見幽香の四人は異変解決に魔界に向かい、風見幽香が異変から戻って来たら、夢幻館はなくなっていて―かわりに紅魔館が外の世界から幻想入りしていたのよ」
「そんな―」
「それ以降、紅魔館と夢幻館はコインの裏表のようにいつ裏返ってもおかしくないように存在してきた」
 門扉を閉めて、館の中に入っていく幽香達三人の背中を見ながら語り続けるパチュリー。
「パチュリー様。では、部下の失態を取り戻すべくわたし―十六夜咲夜が紅美鈴と共に夢幻館に攻め入り―」
「ダメよ」
 パチュリーが咲夜の言葉を遮る。
「それは認められない。レミィからも、あなたと風見幽香を戦わせないようにキツく言われている」
 やはり、レミリアもパチュリーも咲夜の過去を知った上でそれを伏せようとしている―。
―疑ってはならない。
 もし、そうだとしてもそれはきっと自分のためだ。過去を知っても良い結果にはならないからそうしてくれているのだ―咲夜は頭痛をこらえながら自分にそう言い聞かせる。
「ですが、お嬢様を助けないと―」
「言っておくけれど、夢幻館に攻め入って風見幽香を倒しても、紅魔館が戻ってくる訳ではないわよ」
 言葉に詰まる咲夜。ならば、どうすれば良いというのだ。
「結界にこれだけの歪みが生じたんだもの、どこかで見ているのでしょう、八雲紫!」
 パチュリーが宙空に向かって声を張り上げる。
「はいはい、見ておりますとも」
 その声と共に、何もなかったはずの空間から一人の女性が顔を出す。
 癖のある金髪の毛先をいくつか束にして赤いリボンで結んだ上から、同じく赤いリボンのついたナイトキャップを被り、瞳は澱んだ紫色。紫を基調としたフリルのついたドレスに、手には白い手袋をはめて日傘を持った女性。
 いくつもの目玉が覗いた空間の裂け目のようなものから現れ、さらにその裂け目に腰をかけて宙に浮いている。
 彼女の名は八雲紫。
 幻想郷の賢者と呼ばれる大妖怪の一人であり、この幻想郷を守る結界を張ったのも彼女である。
 そして、怪我でもしたのか体の到るところに包帯を巻いていた。
「地底の異変の時のように、この異変をどう解決するかの対策を話し合いたいの。紅魔館が使えないので、話し合いは博麗神社でよろしいかしら」
「構いませんわ。博麗の巫女も、ようやく異変解決の準備が整ったところですので」
 八雲紫が座っていた裂け目を大きく開いて博麗神社への通路を開く。
 パチュリーがそこへ入る前に、怪訝な表情で八雲紫を睨む。
「八雲紫……あなたは、今回の異変をある程度予見していたのではなくて?」
「いいえ? わたしもそこまで万能じゃありませんわ」
 パチュリーがその瞳を見つめるも、八雲紫の紫色に淀んだ瞳からは何も察することは出来なかった。
 八雲紫が、アリス=マーガトロイドを魔界からの客人として目をかけていたとは人づてに聞いている。
「魔理沙の師匠―魅魔が久しぶりに幻想郷に現れ、アリスが最近魔界に行き来していたことぐらいは掴んでいたはずよね?」
「アリスが、魔界神から授かった魔力を使い、魔理沙の師匠から伝授された特殊プレイを実行して、魔理沙を堕としたとしか認識していませんでしたわ」
 パチュリーが頬を赤らめる。
「わかったわ。話し合いでは、まずその辺りを詳しく聞かせてもらおうかしら」
 八雲紫が、驚きながらも少し嬉しそうに反応する。
「そこから話すの?! 優先順位はそれでよいのかしら」
―本当に大丈夫なのだろうか。
 咲夜には早くも話し合いに暗雲が垂れ込めてきたように思えた。



7th Phase 博麗霊夢

―時間は少し遡る。

 一人の少女が妖怪の山から麓の方へ飛んでいく。
 薄緑の長髪に蛙を模した髪留めをつけ、髪を左側で一房まとめて前に垂らしておりそこにも白蛇が巻き付くような髪留めをつけた少女。
 白地に青の縁取りがされた袖と上着、青いスカートの特徴的な巫女装束に身を包んでおり、手にはお祓い棒。赤と青、色合いこそ違うもののその肩や腋を露出させたその構造は霊夢の巫女装束によく似ていた。
 彼女の名は東風谷早苗。守矢神社の巫女である。
 かつては幻想郷で神社と言えば博麗神社が唯一であり、巫女も博麗霊夢のみだった。しかし、一年前にこの守矢神社が幻想郷にやってきてからは、幻想郷に神社が二つ、巫女も二人となっていた。
 もっとも、守矢神社では巫女のことを風祝と呼ぶのだが。
 彼女は焦っていた。
 彼女は、異変解決の先達である博麗の巫女―博麗霊夢と商売敵として最初は敵対していたもののその実力を知るにつれ、憧憬を抱くようになりそばで共に異変解決をしたいと思うようになっていた。
 そして、今回の異変でも霊夢と共に異変解決に向かえると思っていたのだ。
―異変解決? 今回は守矢神社は不参加だよ。妖怪の山の支配層と足並みをそろえることにしたんだ。
―魔界という異世界に向かって、誰も見てないところで異変を起こした主犯を退治しても信仰が得られるわけじゃない。その成果をいくら喧伝しても人々の心には響かないよ。
―それなら、向こうが放った魔物から人間を守り、目に見えるところで退治する方が遙かに効果的で信仰が得られるさ。
 自分の神社におわす二柱の神々の言葉を思い出し、歯を食いしばる早苗。
 あの神々は、打算的で信仰を得られたり物理的な利益が得られるときしか動かないのだ。
 今回の異変では、異変解決に長らく共に挑んできた魔理沙が敵に回ってしまい霊夢が落ち込んでいると聞いた。
 こういう時こそ、共に異変解決に出向ければと思ったが、それが出来ないのならばせめて落ち込んでいる霊夢を励ましたいと―そう早苗は考えていた。
 霊夢のために何かしてあげたいというのに、博麗神社の留守番を買って出ることすら許してもらえないとは、なんと歯がゆいのだろう。
「おやおやおや~? これはこれは東風谷早苗さん。どちらへ行かれるんですか。こちらは博麗神社の方角では」
 そこへ、後方から凄まじいスピードで早苗に追いついて併走する一人の女性。
 セミロングの黒髪に、赤い山伏風の帽子をかぶり、白いフォーマルな半袖シャツに、黒いフリルの付いたミニスカート。シャツの左側とスカートの右足側に派手なもみじ柄の線が入っており、背中には黒い鴉の羽を生やした少女。
 彼女の名は射命丸文。妖怪の山に住む烏天狗で霊夢と親交の深い妖怪の一人だった。
「お察しの通りよ。お裾分けを持って霊夢のところに向かってるの」
 手に持った袋包みをかざして見せる早苗。
「あややや……今はやめておいた方が賢明だと思いますけどねえ」
「どういう意味ですか?」
 質問に答えることなく不敵に笑う文。
 早苗はスピードを加速させ神社へ向かう。
 石段を越え鳥居をくぐり、境内を経由して母屋へ。
「霊夢……さん?」
 そこにいたのは、博麗霊夢ともう一人の女性。
「あら、東風谷早苗さんじゃないですか」
 博麗霊夢をその胸に抱きしめていたのは、妖怪の賢者―八雲紫。
「さな……え?」
 その胸から顔を離した霊夢が、泣き腫らした顔で早苗の方を振り返る。
 早苗の方に視線を向けたあと、不敵に微笑んで霊夢を強引にたぐり寄せる紫。
「霊夢―」
 そして、その唇に深く口づける。
「んむっ」
 霊夢の方は、最初の方こそ抵抗していたが、次第にとろんとした表情で紫に答え、その身を委ねて紫のふくよかな乳房を揉みしだく。
「あ~あ、言わんこっちゃない」
 震えながら二人の様子を見る早苗の横でニヤニヤと笑う文。
 早苗は文の方を振り返ってキッと睨み付ける。
「これ、霊夢さんに渡しておいてくださいっ」
 手に持ったお裾分けの袋包みを渾身の力を込めて投げつける。
「はい、確かに任されました」
 文は余裕の表情でそれを危なげなく受け止める。
「では、わたしはこれでっ」
 早苗は凄まじい速度で飛び去ってしまった。
「調子に……乗らないでよっ」
 早苗が飛び去ったあと、霊夢が紫の体を引き離した。
「霊夢。異変が起きているのに、博麗の巫女たるあなたがそんな調子では困るのよ」
「だって、だって―魔理沙がいないのよ……。魔理沙が、もうわたしなんていらないって」
 枯れたと思っていた涙がまた霊夢の目から溢れ出る。
 困った表情で霊夢を見つめる紫。
 霊夢の中で、魔理沙の存在がここまで大きくなっていたとは。
「なら、今回の異変解決は、魔理沙を取り戻すために戦いなさい。あなただって、魔理沙があなたのことを嫌いになったから捨てたとは思っていないのでしょう」
 霊夢の涙を指で拭いながら話す紫に対して、黙って頷く霊夢。
「でも、でも―」
「ええ、寂しいのね霊夢」
 紫が再び霊夢をその胸に抱きしめる。
「それも大丈夫よ。博麗の巫女のメンタル管理もわたしの務めだもの。それに、人の心をスキマに入り込んで埋めるのは―」
 紫が再び霊夢に口づける。
「―スキマ妖怪たるわたしの本懐よ」
 またもや無断で唇を奪われ、激昂する霊夢。
「だから、調子に乗るなって―」
 霊夢は振り上げた手に、常備していたお祓い棒を構えて振り下ろそうとするも、その手は背後から何者かに掴まれる。
「えっ」
 もう片方の手も掴まれ、そのまま後ろ向けに引き倒され、強かに床に頭を打ち付ける霊夢。
「―ったぁ」
「よっ、霊夢」
 霊夢の手を押さえながら、その顔を覗き込んだのは一人の少女。
 薄茶色のロングヘアー先っぽで一つにまとめ、後頭部には赤く大きなリボン。頭の左右からは身長と不釣り合いに長くねじれた角を二本生やし左の角にも青のリボン。瞳は真紅で、白のノースリーブに紫のロングスカートを穿いた少女。
 彼女の名は伊吹萃香。霊夢を気に入り、博麗神社に入り浸っている鬼である。
「どういうつもりよ、萃香」
 霊夢はジタバタと腕を動かそうともがくが、鬼の剛力で押さえられびくともしない。
「よくやったわ」
 萃香に引き倒された霊夢に、そのままのしかかる紫。
「そのかわり、次はわたしの番だからね」
 霊夢の顔を見下ろしながら舌なめずりする萃香。
「このっ」
 霊夢は今度は足を振り上げようとするも、今度は別の手に掴まれる。
「では、その次はわたしの番ということでお願いしますよ」
 霊夢の足を掴んだのは射命丸文だった。
「あんたたちっ」
 そのまま、四肢を鬼・天狗という二人の大妖怪に押さえつけられる霊夢。
「心配いりませんわ」
 その上から八雲紫が覆い被さり霊夢にそっと口づける。
「わたしも、伊達に長生きしてないの。年端もいかない乙女の悦ばせ方ぐらいは十二分に心得ているわ」
 艶っぽい瞳で霊夢を見つめる紫。
「やめて―やめてよ紫」
 霊夢は懇願するような目で、紫を見つめ返す。
 紫は身動きのとれない霊夢に深く口づけ、霊夢のささやかな胸を強く揉みしだいた。
「んっ」
 最初こそ手足を動かそうと足掻いていたが、次第にとろんとした目で紫の口づけに応え始める霊夢。
 博麗の巫女たる博麗霊夢が手段を選ばず本気で足掻けば、大妖怪三人が相手といえども対抗する手段がないではない。
 しかし、霊夢の躰は想い人に触れたくても触れられない寂しさ人恋しさから、八雲紫に抵抗する意思を挫かれ受け入れてしまっていた。
「紫ぃ……」
 霊夢に、すでに抵抗意思がないと悟った萃香と文が霊夢の四肢から手を離すと、霊夢は自分の方から紫の唇を求め、その乳房を揉みしだいて足を絡め始める。
 首筋や太股といった霊夢の敏感な部分を指や舌でまさぐり始める萃香と文。
「はぁ―んっ」
 必要とあらば、親交のある自分たちでも冷徹に調伏する博麗の巫女―博麗霊夢が自分たちを受け入れ、艶っぽい声をあげている。
 その事実は三人を興奮させ、さらに加速させる。
 三人の大妖怪はその夜、博麗の巫女―博麗霊夢の躰をかわるがわる夜通し慰め続けたのだった。


 明くる日、何事もなかったかのように博麗神社では、地底で異変が起こったときと同じように八雲紫とパチュリーを中心に異変解決の方針を巡っての話し合いが行われていた。
 もちろん、博麗霊夢も立ち会いのもと。
 地底で異変が起こったときと違うのは、この場に霧雨魔理沙がいないことである。
「命蓮寺は? 聖輦船は借りられないのかしら、魔界へ行くならあの船を使うのが一番早いじゃない」
 パチュリーが問いかける。
「まあ、予想はしていたけれど、断られたわ。怨霊〝魅魔〟の護符の件といい、命蓮寺が魔理沙やアリスと繋がっているのは明らかね」
 八雲紫が肩をすくめる。
 命蓮寺の住職である聖白蓮が魔理沙を可愛がっており、アリスとも親交があったことは周知のことだった。
 しかし、この状況下で下手に命蓮寺を糾弾して敵を増やし、人里の人間達の不安をあおるのは得策ではない。
「妖怪の山は? 今回の異変でどう動くつもりかしら」
 パチュリーがその場に居合わせた、萃香と文に問いかける。
「妖怪の山は、今回の異変解決に消極的です。魔界からやってくる魔物の防衛のために主だった妖怪は山とその周辺に留め置く方針で……守矢神社も足並みをそろえるようです」
 申し訳なさそうに説明する文に、パチュリーは小さく舌打ちする。
「聖輦船を使えない以上、妖怪の山の麓にある玄武洞から幻夢界を通って魔界に行くことになると思いますので。そこはわたしが推薦した者達に案内させる手はずになっています。あの穴はもとは河童が空けたものですからね」
 文が、自分の胸に手を当てて説明する。
「霊夢が異変解決に出かけている間の留守は、わたしが預かるよ。魔界の魔物なんて余裕で蹴散らしてやるから、安心して異変解決に行っておくれ」
 萃香も、自分の胸に手を当てて話す。
「わたしも、巡回ルートを博麗神社のある区画にしてもらいました。博麗神社が魔物に襲われていないか、こまめに立ち寄らせてもらいますから」
 対抗するように文が前に出る。
「ただでさえ、ウチは〝妖怪神社〟なんて言われてるのに、誰が鬼や天狗なんかに留守を任せるもんですか。わたしが留守の間は頼んだわよ、仙人様」
 霊夢が同席する女性に話しかける。
「え、ええ……任されたわ」
 同席した女性は気まずそうに霊夢に答える。
 ピンク色の髪をシニョンキャップでまとめ、白いシャツに黄緑のスカートとワインレッドの前掛け。胸元には牡丹の花飾りをして、右腕全体は包帯でぐるぐる巻き、左手には鎖のついた鉄製の腕輪をした女性。
 彼女の名は、茨木華扇。最近、博麗神社に出入りするようになり、霊夢を気にかけている妖怪の山に住む仙人だった。
 萃香はジト目で華扇を見ており、華扇は視線をそらしている。
「仙人様ねえ……」
―ここでオマエの正体を全てぶちまけてやろうか。
「霊夢、こんな状況だし、人手は多いに越したことはないわ。萃香さんにも留守番を手伝ってもらってはどうかしら。魔物があなたの留守を狙って大量に押し寄せることもあり得ると思うの」
 華扇は萃香の小声の脅迫に、慌てて霊夢に提案する。
「まあ、仙人様がそういうのなら構わないけど」
「それより、さっきから気になっていたのだけれど、あなた達三人はなんで傷だらけなの」
 八雲紫だけでなく、萃香や文もそこかしこに包帯を巻いている。
 三人とも大妖怪であり、多少の傷はすぐに回復するはずで、彼らに消えにくい傷をつけるには、魔を払う神に属する力の攻撃が必要だった。
「これは、わたしたちと霊夢さんとの愛の証ですから……」
 嬉し恥ずかしそうに語る文。
「何言ってんのよ?!」
 パチュリーや華扇の視線を受けて動揺する霊夢。
 紫や萃香もまんざらでもない表情で頬を掻いている。
「まあ、でもちょっとは元気でたわ。ありがとね、あんたら」
 霊夢も頬を染めて目を反らす。
「「霊夢っ」」
「霊夢さんっ」
 三人がひしと霊夢に抱きつく。
「だ~っ、鬱陶しい。言うんじゃなかったわ」
「おや、あんたも混ざりたいのかい? 仙人様」
 萃香が華扇の方を見てニヤリと笑う。
「せ、仙人のわたしが、そんな浮ついたことに混ざるはずがないでしょう」
 視線をそらして呟く、華扇。
「この場にいる面々は魔界に行く者と、留守番する者にわけられたかしら」
 パチュリーが改めて手を叩いて論点を整理し始める。
「では、夢幻館の風見幽香にはウチの門番に責任を持って当たってもらうとして、魔界に攻め込むメンバーは出立の準備を進めてちょうだい」
「パチュリー様、それはいくらなんでも……」
 咲夜が紅茶を供しながら、パチュリーを諫めようとする。
「言ったと思うけれど、あなたが随伴するのは認められないわよ」
「藍、幽々子のところへのお使いは終わったかしら」
 紫の声と共に、いくつもの目玉が覗いた空間の裂け目から一人の女性が顔を出す。
 金髪のショートボブに金色の瞳を持ち、その頭には角のように二本の尖がりのあるナイトキャップを被り、青い道士服に身を包んだ九本の尾を持つ狐の妖獣。
 彼女の名は八雲藍。八雲紫の式で、九尾の狐である。
「滞りなく終わりました」
―西行寺幽々子のところに? こいつはまた何かを企んでいるのか。
 パチュリーは怪訝な顔で八雲紫を見る。
 月の都にロケットでレミリア達が攻め込んだときも、八雲紫はそれを陽動として水面下でいろいろと動いていたのだ。
「なら、よそ行きではない、異変解決用の服を準備しておいてちょうだい」
「はい、ただちに」
「それから、そちらにいる門番さんの汚名返上に手を貸してさしあげなさい」
 パチュリーと咲夜が、思わず紫の顔を見る。
「勘違いしないでくださいな。そちらの戦力が不足すると、こちらにも不都合が出るの。一番面倒なのは、風見幽香が夢幻世界を逆走して魔界の戦いに参戦してくることですから。せめて、あいつを足止めできるだけの戦力が必要なのですわ」
 幻想郷と魔界の間には、夢幻世界という不安定な亜空間が広がっている。
 そして、夢幻世界と幻想郷の狭間に建つのが夢幻館である。
「では、こちらは借りと思わなくてよいということでよいのかしら」
 パチュリーが神妙な表情で紫と向き合う
「ええ、それで構いません。では各自準備を整えた後、一刻の後に玄武の沢に集合といたしましょう」



8th Phase にとり&椛VS里香

 霊夢・紫・パチュリー・咲夜の四人が玄武の沢に到ると、二人の少女が待ち受けていた。
「おっ、ようこそ河童のアジトへ」
 その一人が気さくに四人に向かって話しかける。
 ウェーブのかかった外ハネが特徴的な青髪を、赤い珠がいくつも付いた数珠のようなアクセサリーでツーサイドアップにして、緑のキャスケットを被り、白いブラウスに水色の上着、裾に大量のポケットが付いた濃い青色のスカートを穿いた少女。
 彼女の名は河城にとり。妖怪の山に住む河童の一人である。
「お待ちしておりました。文様からお話は伺っております」
 対照的にもう一人の少女は、かしこまった口調で礼儀正しく挨拶する。
 白い短髪の上から山伏風の帽子を被り、上半身は白色の明るい服装で下半身は裾に赤白の飾りのついた黒い袴を穿いて、頭には白い犬耳、袴の下からは白い尻尾を生やした少女。
 彼女の名は犬走椛。妖怪の山に住む白狼天狗の一人だった。
 犬走椛は白狼天狗の中でも、千里眼というレアスキルの持ち主である。
 八雲紫が一歩前に出る。
 彼女はいつものフリル付きの紫のドレスから、式神である八雲藍と同じ衣装―八卦の萃と太極図を描いた紫色の中華風の服に着替えていた。
 そして、文が推薦したという二人の少女を交互に見る。
 二人とも、妖怪の山の支配階級の中では下層に位置づけられる種族に属するものの、その中では中核的存在である。
 妖怪の山の支配階級の指示に従いつつ、出せる最大戦力としてはこの辺りが限界ということか。
 紫は小さく息を吐いた。
「賢者様、なにか?」
 椛が紫の様子を見て訝しむ。
「確認しておきたいのだけれど、あなた達は今回の異変でどこまでご協力願えるのかしら」
「魔界の入り口である、幻夢界の案内までだねえ。それが山の上層部からの指示さ」
 今度はにとりが答える。
「あれは、かつて河童が作ったものだからね。案内は任せておくれ」
 幻想郷では、異世界へ通じる穴を空ける技術は禁忌とされている。
 その昔、河童が禁忌を犯してこんな穴を空けたせいで、魔界や地獄から魔物や怨霊が逆流し、何度か博麗神社も被害を被っていた。
 幻想郷から見ても、幻夢界を経由するルートは特殊な航行装置や特殊能力を使わず魔界に行く、唯一と言って良い手段となっていた。
「退路の確保は、お願いしていいのかしら?」
 にとりが椛の方に視線を向けると、椛が黙ってうなずく。
「それは、任せておくれ。これぐらいの協力しか出来ないのは、こちらも心苦しく思っているんだ。上層部からやるなとは言われていないし、退路の確保ぐらいなら責任を持ってさせてもらうよ。そのかわり―」
 にとりが小さく霊夢を手招きする。
「―魔理沙を必ず連れ帰っておくれよ」
 霊夢の耳元で耳打ちする。
「もちろん、そのつもりよ。わたしは、そのために魔界へ行くんだから」
 にとりもまた、魔理沙を慕う者の一人。
 耳ざとく話を聞いていたパチュリーはピクリと反応する。
 かつて、地底で異変が起きたときも紫とパチュリーで異変解決に向けて方針が話し合われ、霊夢と魔理沙が直接異変解決に赴き、霊夢のサポートを務めたのが紫・萃香・文で、魔理沙のサポートを務めたのがアリス・パチュリーとにとりだったのだ。
「博麗らしからぬ発言だねえ。まあ、正直なのは嫌いじゃないさ」
 そう言ってニヤリと笑うと、にとりは大きな洞窟の方に視線を向ける。
 その視線の先には、〝玄武鎮護〟と書かれたお札が何枚も貼られた大きな洞窟の入口がある。
「じゃあ、行こうか」
 にとり・椛を先頭に一行は洞窟の中を進んでいく。
 この洞窟―玄武洞の奥には玄武を祀った祠があり、その奥にかつて河童達が空けた異世界に通じる穴があった。
 洞窟の入口はヒカリゴケによる乱反射で明るくなっていたが、その分奥に進むと急に暗くなっていった。
 洞窟の道中には、一定間隔おきに陰陽玉を模した装飾が続いていく。歴代の博麗の巫女達が陰陽玉の霊力でゲートを封印していた痕跡である。
 かつて、霊夢が陰陽玉の霊力でこの封印をこじ開けてそれぞれの世界に攻め込んだのだ。
 少し開けた場所に祠があり、その祠を境界として足場が途切れてその先には宇宙のような空間が広がっていた。
―幻夢界
 その昔、河童達が禁忌とされる技術を用いて空けた結界の穴から続く廻廊である。
 この穴は地獄や魔界に通じているが、幻夢界は魔界との境に渡された廻廊であり、この空間を使えば夢幻世界を周回する悪魔姉妹に出会わず安定して魔界に行くことが出来る。
「なんだか、よくないものが集まってきているわねえ」
 霊夢には見えていた。
 亡霊ではなく幽霊。怨霊としての気質を持つ幽霊が、幻想郷側から次々と集まってきており、この洞窟の奥へと向かっているのだ。
「地底の異変の時は、地獄から怨霊が噴き出したけど、どうやら今度は逆みたい」
 人間の里の人々の信仰により、魅魔が大きな力を身につけつつあり、名もなき怨霊がより大きな力を持つ怨霊に惹かれて集まっている。
「この怨霊の行き先を辿っていけば魅魔のところへたどり着くのだろうし、楽ではあるけど―」
 この怨霊を習合するたびに、魅魔は怨霊としての力を増していくのだ。
「霊夢は、ここに来たことがあるのよね?」
 霊夢に問いかける咲夜。
「ええ、最後に来たのは七年前だったかしら……」
 かつて、ここに霊夢と共に攻め入った残りの三人は、魔理沙初め全員異変を起こす側に回ったと咲夜は聞いていた。
 そのまま飛び続けていると、宇宙空間の中に赤土の大地が現れ、その迫り出した崖の上に金属製の台に五つの金属球が乗った施設が見えてくる。
「あの奇妙な建物は何かしら?」
 指さして尋ねる咲夜に霊夢が答える。
「あれは―」
「奇妙な建物じゃないですっ。ここの砲台は全部、わたしが作ったんだからね!」
 その施設に近づくと、その上に立つ一つの人影が見えてきた。
「よく来たのです! 侵入者たち」
 ところどころに紫のラインの入ったブラウスの上から白衣を羽織り、茶髪を赤いリボンで三つ編みに留めて垂らした女性。
 彼女の名は里香。魅魔の手下の一人で人間の技術者であり、侵入者を迎え撃つための砲台も彼女が作ったものである。
 彼女の脇には陰陽玉を模した砲塔に葉が生え蔦が絡まったデザインの戦車が置かれている。
「……とにかく、わたしの最高傑作の、〝ふらわ~戦車〟でおとなしく、やられてくださいなのです」
 そう言うと、素早くその戦車に乗り込む里香。
「その台詞も懐かしいわねえ……。聞いたのは、もう九年前だったかしら」
 霊夢がしみじみと呟く。
 そして、その後に初めて魔理沙と戦ったのだ。
「霊夢っ。懐かしがってる場合じゃありませんわ」
 金属球が弾幕を発し始めたのに対して咲夜はナイフを構える。
 咲夜に言われ、霊夢もお祓い棒を構える。
「ここはわたし達に任せてもらおうか」
 にとりが前へ出て霊夢達を制する。
「どちらにせよ、わたしたちは上層部の指示でここまでしかご案内できず、これ以上進めません」
 にとりと共に、椛も前へ出て刀と盾を構える。
「ここは、わたし達だけで片づけますのでみなさまは力を温存して下さい」
 その言葉と共に、砲台に向かって飛び出す椛。
 最初は外側の二つだけから弾幕が放たれていたが、椛が砲台に近づくにつれて内側の二つ、最後には中央を含めてすべての砲台から弾幕の発射される。
 そして、里香の搭乗する〝ふらわ~戦車〟も砲台上を横に移動しつつ、砲台の放つ弾幕と連携しつつ椛に向けて弾幕を放つ。
 椛は螺旋状に弾幕を放ち、弾幕を相殺したり盾で防いだり刀で斬ったりしながら、〝ふらわ~戦車〟に肉薄していく。
「光学『オプティカルカモフラージュ』!」
 その声と共に、砲台の目前に突然にとりが姿を現し、青と赤の交差する砲弾型の弾幕で砲台の砲塔を次々と破壊していく。
「光学迷彩?!」
 砲台の弾幕は前衛として椛が全て引きつけていたため、姿を消して反対側から近づいていたにとりは弾幕に曝されることなくすぐ傍まで近づいていたのである。
「わたしの砲台を、よくもっ」
 砲台の砲塔を破壊し尽くしたにとりに〝ふらわ~戦車〟の砲塔を向けるも、今度は反対側から椛の弾幕に曝される里香。
「ああっ……わたしの〝ふらわ~戦車〟が―」
 にとりも合流し、二人がかりの弾幕で集中砲火に遭い、あちこちを破損し、ついに沈黙する〝ふらわ~戦車〟。
「やられたなのですぅ。さらばなのですぅ」
 戦車が沈黙したのを確認してにとり・椛が弾幕を撃つのを止めたのを見て、〝ふらわ~戦車〟を乗り捨てて逃げていく里香。
「今のうちに先に進んでっ」
 にとりが霊夢たちを急かす。
「ありがとう、にとり。ただ、あの里香という戦車技師だけど―これで終わりじゃないわよ」
「わかった。気をつけるよ」
 にとりの言葉を聞いて、霊夢たち四人は砲台を越えて幻夢界の先に進んでいく。
「どうやら、無事に行ったみたいですねえ」
 目を凝らして遠くを見つめる椛。
「千里眼のあんたがそう言うなら、もう大丈夫そうだね」
「なんで追いかけてこないんですか!」
 里香の怒号と共に、里香の逃げた先―砲台の向こう側から何かがせり上がってくる。
 それは、天使の輪と悪魔の翼がついて、下からは葉が生えたただただ巨大な目玉だった。
 その目玉は瞼で覆われており、瞬きしながらその場に残ったのがにとりと椛の二人だけなことを確認している。
「あたいを追ってくれば、この飛行型戦車〝イビルアイ∑〟で、一網打尽にしてあげたのに!」
「あれで終わりじゃないとは、わたしも思ってはいたが、えらい禍々しいのが出てきたねえ」
 にとりの頬を一筋の汗が伝う。
「もういいのです! あんたたちを倒して、早く追いかけるのです」
 目玉から視界一面を覆うような、大量の弾幕が吐き出される。
 にとり・椛は避けるのが精一杯で反撃の糸口が掴めない。
 弾幕のパターンを掴んでどうにか反撃しようとした矢先、レーザーが照射される。
 レーザーが体を掠めたことで冷や汗をかくにとり。
―間違っても、自分の身に付けたまま炸裂させちゃいけないよ。
 にとりは、懐にしまったものをと親友に言われた言葉を思い出す。
「椛っ。一瞬でいいから、あの弾幕を押さえ込んで」
 無言で頷く椛。
「狗符『レイビーズバイト』!」
 椛が刀を振り上げてそう宣言すると、黄色と赤の二色の牙を模した弾幕が上下から〝イビルアイ∑〟に襲いかかる。
 しかし、圧倒的な弾幕を前に押し返すには到らず、すぐに押し返され始める椛。
「河童『のびーるアーム』っ」
 にとりは、弾幕が椛の方に偏った隙を突いて新たなスペルカードを発動。
 二つのオプション球から何本ものレーザーを照射するのに混ぜて、一本のマジックハンドを伸ばして〝あるもの〟を投擲した。
 里香が咄嗟に気付いて、〝イビルアイ∑〟にぶつかる前に戦車の至近距離で、その投擲物を撃ち落とした。
 するとその投擲物が炸裂、×型の青い弾幕を放ち始める。
「炸裂弾ですか? これぐらいならどうということは―」
 戦車の中で、操縦桿を操作するも弾が発射されていないことに気付く里香。
「災禍『呪いの雛人形』。そいつには、わたしの親友がたっぷり厄を込めてくれている」
 〝イビルアイ∑〟はあらゆる機能が不具合を起こし、弾幕を放つどころか飛行を続けることすら困難な状態に陥っていた。
「どういうことなのです。整備はこれ以上ないほど完璧にしたハズ……」
 里香が、事態をどうにかしようと操縦席にあるボタンや操縦桿を操作するも、一向に状況は好転しない。
「同じ技術者として、これだけのものを製作したことには敬意を表する。心苦しいがこれも仕事なんでね―壊させてもらう」
 正面で腕を振り上げるにとり。
「水符『河童のポロロッカ』!」
 にとりが腕を下ろすと同時に激流を模した青い大玉弾幕が放たれ、宙に浮いているだけのただの的と化した〝イビルアイ∑〟に襲いかかる。
 弾幕の濁流に呑み込まれた里香と戦車は、砲台の壁に強かに打ち付けられ、落下していった。
「雛さんに助けられましたね」
「いや、危なかったよ。懐に入れたまま被弾してたら、厄を受けたのはこちらの方だった」
「そんなに危ないものだったんですか?!」
「こんな危ないもの受け取れないと断ろうとしたんだが、断り切れなくてねえ……」
 幻夢界の星空を見上げる。
「魔理沙だけじゃなく、アリスも帰ってくるといいねえ、雛」
「鍵山雛さんのお目当ては、アリスさんでしたか」
「紅魔館のロケット完成記念パーティーで、一人でいたところに、アリスとメディスンの二人で話しかけてくれて、それから仲良くなったって話だよ」
「色んな思惑があるんですね……」
 二人が幻夢界で話しているところに、二つの人影が幻想郷側から現れる。
 椛が咄嗟に刀を構えようとするもそれを制するにとり。
「あんた達か……八雲紫から話は聞いている。早く行ってあげるといいよ」





―霊魔殿
 幻想郷と魔界の狭間にある幻夢界を越えた先にある古城。
 魔界の入り口とも言うべきこの区画の領主の居城だった城である。
 魔界の荒野を覆い尽くす赤土を焼いた煉瓦で建築されたそれは、かつての領主が堕天使と同じ名を名乗っていたのにもかかわらず、巨大な教会のような造りをしていた。
 かつて、魅魔が根城にしていた場所である。
 霧雨魔理沙はその入り口に立ち、必ずここにやってくる親友を待っていた。
 ここは、親友と初めて戦った思い出の場所だった。
―真理沙? 優しすぎて魔法使いにはそぐわないねえ。今日からあんたは〝魔理沙〟と名乗りな。あんたには、あたしのとっておきをくれてやるよ。
 魅魔が自分を弟子に取ってくれたときに言ってくれた言葉。
それと合わせて、霖之助が別れ際に最後に聞かせてくれた、博麗神社と地獄との狭間にある祠に祀られた祟り神の話を思い出していた。
 かつて、幻想郷の主導権を巡って、八雲紫と風見幽香が争っていた時に、それぞれに人間のパートナーがいた。
 争いの末、幻想郷は八雲紫の主導で運営されていくことになる。
 そして、風見幽香のパートナーだった人間はそれを怨んで死に、幻想郷や後の博麗神社を祟る怨霊と化してしまった。
 そして、幻想郷への復讐の念だけが一人歩きし、土地ではなく念に縛られた地縛霊の亜種―念縛霊となって博麗神社に怨みを持つ多くの怨霊を習合し、強大な祟り神と化したという。
―それがきっと魅魔様だったんだ。
 霊夢が旧地獄で暴れたときに封印が解けて復活したけれど、霊夢が作った命名決闘法で博麗神社に怨みを抱く妖怪は圧倒的に減り、習合できる怨霊は目に見えて減っていた。
 何より、魅魔様から邪気の抜ける最大の原因になったのは―魔理沙自身。
 魔理沙に対して母親のように接し、仇敵だったはずの博麗の巫女ともつるむようになったせいで、復讐なんてどうでもよくなって―それで怨霊として存在を維持できる訳がないのだ。
 あの人を生き延びさせるためならなんでもやろう―そのせいで親友と決裂することになっても、それはしょうがない。
「久しぶりね。魔理沙」
 その声に顔を上げる。
「来てくれると思ってたぜ―霊夢」
そこには、待ち望んだ親友の姿があった。
「その髪と耳、懐かしいわね」
 魔理沙の髪は赤く焼け、耳は異形化して妖精のように尖っていた。
「魔力を制御しきれずにこのザマだぜ。みっともない」
 九年前に初めてここで戦った時と違って、すでに半人前でもないハズの魔理沙が制御しきれない―いったいどれほどの量の魔力をその体に溜め込んでいるのだ。
「霊夢、この力でオマエを撃ちたくない。城にいい酒を用意してあるから、魅魔様が完全復活するまで酒でも飲まないか? 魅魔様だって、もう全人類に復讐なんて考えてないハズ―」
 博麗霊夢は懐からお祓い棒を取り出す。
「出来ないわ、魔理沙。わたしは―博麗の巫女なの」
「そう―か」
 魔理沙も懐からミニ八卦炉を取り出す。
 魔理沙は、幻想郷で別れたときと同じ、今にも泣き出しそうな顔をしていた。
 そして、きっと今は自分も同じような顔をしているのだろう―そう霊夢は思った。
 いつもの、ただの力試しではない、この異変の成否を賭けた二人の弾幕ごっこが始まろうとしていた。



9th Phase パチュリーVSアリス

 魔界の赤い荒野を飛び続ける紫・パチュリー・咲夜の三人。
 ほどなく草木が混じり始め、川に行き当たってそれに沿って飛んでいくことになる。
 パチュリーに咲夜がそっと寄ってくる。
「パチュリー様、よろしかったのですか? その、魔理沙には用があったのでは」
 幻夢界を越えてほどなく現れた古城―霊魔殿。
 霊夢はそこから感じる強大な魔力に対して、自分が一人で当たると言って離脱していった。
 感じる魔力と霊夢の様子から、そこに魔理沙がいるのは明らかだった。
 異変の主犯にぶつかる前に、博麗の巫女が離脱しようとしているにもかかわらず、八雲紫が止めようとしなかったことからも間違いない。
「もちろん、魔理沙にはわたしも用があるわ。でも今はそれ以上にあの女に言いたいことがあるのよ」
 川に沿ってさらに進んでいくと、遠くに建物が幾つか建っているのが見えてくる。
「あれが霊夢の言っていた街―エソテリアかしら」
 この街には用がないため、三人は上空をそのまま飛び抜けていく。
 かつて、この街はアリスが治めていた場所で、ここで初めて魔理沙とアリスが出会い戦ったと聞いている。
 さきほど、この話を霊夢から聞いたときパチュリーは驚いた。
 この場所に来て改めて実感する。
 魔法の本場である魔界―この場所でアリスの存在が如何に大きいのか。
 川沿いにさらに登っていくと、目の前には青白く輝く水晶で組み上げられた神殿が現れる。
「これがパンデモニウム……」
 三人は息を呑んだ。
 それは禍々しいその名に合わず、神々しさすら漂う壮麗な建造物だった。
 ドリア調の彫刻がされた水晶の柱は、雪の光を煌びやかに反射している。
 それらが支える屋根は美しい意匠の施された黄金で葺かれ、星の光を受けて燦然と輝いており訪れる者を威圧していた。
「ようこそ、パンデモニウムへ」
 その奥から響き渡る声。神殿の反響で四方から跳ね返ってくる。
 神殿の奥からやってくる一つのシルエット。
 煌めく白銀色の髪を桜桃のような赤い髪留めでサイドテールにまとめ、黒いリボンの巻かれた肩口のゆったりした赤いローブを着た女性。
 見た目は大人であるのに、童顔で小柄の幼い印象。
 彼女は水晶の階段の最上段で立ち止まった。
「わたしは、魔界の神をしております、神綺です」
 白銀色の無機質な瞳を覗き込んで、パチュリーの足は竦ませる。
―これが魔界の神か……。
 この人が、魔界の本場である魔界の頂点。
 魔界の神と言うからもっと畏怖されるような存在かと思いきや、むしろ大地母神のイメージに近く、アリスの母親というのも大いにうなずけた。
 しかし体の感覚が、この魔界に満ちる瘴気の源泉が彼女だと告げていた。
 そして瘴気と共に溢れ出すとんでもない量の魔力。
「幻想郷の賢者をしております、八雲紫です」
 黙っているパチュリーにかわって八雲紫が話し始める。
「これはこれは。いつもアリスちゃんがお世話になっております」
 八雲紫と神綺は、それぞれの世界の代表者として直接会うことはないものの、間接的にやりとりしたことは何度かあった。
 実際に神綺はアリスが幻想郷に移住する際も便宜を図るように頼んでいる。
「今回はなんの件でいらっしゃったかは、わかっているつもりです。結界がほどけてそちらに魔物が這い出している件よね」
「ええ、お察しの通りです」
「ですが、一年前には逆にそちら側からこちらに、船舶で侵入された方々がいらっしゃいましたよね」
 八雲紫が考え込む。
「聖輦船の件ですか……」
「今回はその時と同じ、うちの子のお友達の身内に復活に必要なことなんですの。
 こちらが一年前にそうしたように、目を瞑って下さらないかしら」
 一年前の事件では、幻想郷側から聖輦船が魔界に侵入しそこに封印されていた魔法使いを勝手に連れ出して、幻想郷に住まわせている。
 幻想郷の支配階級が意図したことではないとはいえ、魔界には少なからず迷惑をかけてしまったことは否めない。
「そして、あなたがパチュリーちゃんね」
 八雲紫が返答に窮している間に、神綺がパチュリーの方を向く。
「は、はいっ」
「アリスちゃんからよくお話は聞いているわ」
 神綺がパチュリーに微笑みかける。
 しかし、その瞳は虚ろでそこから一切の感情が読み取れなかった。
「アリスちゃ~ん、お友達が遊びに来てくれたわよ~」
 奥からさらに二つのシルエットが浮かび上がる。
 一人の女性と、その女性に手を引かれた一人の幼女。
 波がかった黄金色の髪の上にホワイトブリムを被り、胸元に黒いのリボンの付いた赤い洋服の上に、肩や襟にレースのついた白いエプロンをつけた、赤と白のメイドルックの大柄な女性。
 彼女の名は夢子。神綺が最初に創った最古にして最強の魔界人で、魔界人の中で唯一神綺の傍に残り仕えることを許されている。
 そして、夢子に手を引かれて来たのは一人の幼女。
 整えられた金髪をリボン付きの青いカチューシャで留め、白い洋服に水色の吊りスカート、腰に白いリボンを巻き手には青赤一対の人形を抱いていた。
「え……アリス?」
 戸惑う咲夜と幼女の目が合う。
 走って神綺に駆け寄る幼女。
「神綺様、夢子さん、そろそろ元に戻してよ。あいつらが来るまでって約束だったでしょ?」
「アリスちゃん、お願いするなら〝お母さん〟でしょ」
「そうよ、アリス。わたしのことは〝夢子お姉ちゃん〟でしょ」
 幼女は衆目の前で頬を赤らめて俯く。
―なんだ、この可愛い生き物は。
 咲夜は、走って駆け寄って一緒に愛でたい衝動に駆られる。
「お母さん、夢子お姉ちゃん、元に戻して……お願い」
 夢子が黙ってアリスと呼ばれた幼女を抱き上げ、神綺と自分の間に持ち上げる。
 そして、神綺と夢子がアリスの両頬にそれぞれ口づけると、煙と共に幼女は消え去り、かわりに幻想郷の住人がよく知るアリス=マーガトロイドがそこに現れた。
「やっと戻れた……よく来たわね、紫・咲夜、それにパチュリー!」
 気を取り直して三人の方を指さすも、紫と咲夜はニコニコと慈しむような視線を向けており、パチュリーに到っては顔を背けて必死に笑いを堪えていた。
「なんなのよ、もう!」
 いきり立つアリス。
「お母さ―神綺様も八雲紫も、こういうときに幻想郷には、便利な決着方法があるでしょう」
「なるほど、いいことを言うわねアリス。すっかり失念していたわ。あなたも、すっかり幻想郷に染まったわねえ」
 言いながら八雲紫も神綺と同じくニコニコしながらアリスを見守っている。
「だから、なんなのよこの空気! あたしの相手はあなたよ、パチュリー」
「当然でしょ」
 笑いを堪えきったパチュリーが、ようやく真顔でアリスと向かい合う。
「夢子ちゃんは、そちらのメイドさんのお相手をして差し上げなさい。わたしは、賢者様ともう少しお話をするわ」
「かしこまりました、神綺様」
 神綺と夢子、紫と咲夜が両サイドに分かれて対峙したのに対して、アリスとパチュリーが改めて一対一で対峙する。
「パチュリー、改めて確認しておきたいのだけれど、今さら何をしに来たの? まさか、純粋に異変を解決しに来ただけとか言わないわよね」
 パチュリーは歯を食いしばってアリスを睨み付ける。
「この城に来る途中にエソテリアの街を通ったでしょう? 七年前にあの街でわたしは魔理沙と出会ってから、ずっと想い続けて……ようやくその想いが届いて、わたしたち心も体も通じ合ったのよ」
 アリスは瞼を閉じ、魔理沙と結ばれた夜を思い出し、自らの体を抱きながら体をくねらせる。
「それで、もう一度聞くわ。ここに何をしに来たのパチュリー」
 アリスと魔理沙が出会ったのは、七年前の春に起きた〝幻想魔界戦争騒動〟。
 パチュリーが魔理沙と出会ったのは、七年前の夏に起きた〝紅霧異変〟。
 二人の出会いの時期はほぼ同じだった。
 二人と魔理沙の関係性の明暗を分けたのは、パチュリーが未だに顔も知らない、魔理沙が慕ってやまないというあの怨霊の存在。
「あなたはそんな……そんな勝ち方で満足なのっ―アリス」
 歯を食いしばってパチュリーが絞り出した言葉がそれだった。
 アリスが無言でパチュリーを睨み返す。
 賢明なこの魔女のことだ。調べた上で、おおよその事情は把握済みなのだろう。
「なりふりなんて構ってられないのよ。わたしはね、誰よりも魔理沙を愛してるのよ。あなたはもちろん、〝あいつ〟よりもね。だから、魔理沙の愛を得られるためならなんでもするし、なんでも利用するわ」
 自分の胸に手を当てて、まるで自分に言い聞かせるように叫ぶアリス。
「これ以上の問答は無用かしら」
「ええ、そのようね」
 パチュリーがスペルカードを構えたのに対して、アリスもスペルカードを取り出す。
「火金符『セントエルモエクスプロージョン』」
 先制したのはパチュリー。
 パチュリーは頭上で火球を生成すると、離れた地面に投げつけていく。
 その火球は斜め上に伸びる巨大な火柱となり、アリスに向けて立ち上がっていった。
「戦操『ドールズウォー』!」
 アリスは十二体の人形を召喚、火柱や他の弾幕に対応させつつ、自身は着実にパチュリーとの距離を詰めていく。
「このスペルカード、〝魔理沙から〟聞いているわよ。相性の悪い相克の属性を組み合わせて、絶妙な力加減で反発させあうことで威力を高めているのよね?」
 不敵に笑うアリスに対して、パチュリーは苦々しげな表情で歯を食いしばる。
「土水符『デリュージュフォーティディ』っ」
 パチュリーは続けて、蛇行するように二本の軌道を描く、超高速水弾の連射を放つ。
「ふふふ、これも〝魔理沙から〟聞いて―」
「わたしも〝魔理沙から〟聞いているわ。本気を出さないハズのあなたが、本当は本気だったんじゃないかというスペルカード―」
「人形『レミングスパレード』っ!」
 アリスが大きく舌打ちする。
 人形がパレードのごとく次々と召喚され、我が身を省みず次々と突進自爆し、アリスのために道を開いていく。
 初めて魔理沙に引き合わされたときから、どちらの方が魔理沙と親しいかをアリスとパチュリーは競い合い、こうやって張り合ってきた。
 アリスもパチュリーも直接顔を合わせる前から、魔理沙の口からその存在を聞かされ、互いに嫉妬することで初めて自分の中にある想いを自覚したのだ。
「火水符『フロギスティックピラー』っ」
 パチュリーは上空からは水柱、足下からは火柱を次々と形成し、アリスを挟み撃とうとする。
―やはり違う。
 属性の組合せこそ魔理沙から聞いたとおりだが、パチュリーのスペルカードは魔理沙から聞いたものより確実に強化されている。
 しかし、恋も魔法も研鑽を続けているのは自分も同じだし、決して劣ってはいない。
「グランギニョル座の怪人っ」
 アリスを護るように召喚された八体の人形が回転しながら米粒弾をばら撒いていき、一定時間おきに相手に向かって一斉にクナイ弾を投げる。
 大量の弾幕を放つ攻防一体の八体の人形たちに囲まれながら、パチュリーに向かってさらに距離を詰めていくアリス。
「どうしたの? 調子が悪そうじゃない、パチュリー」
 パチュリーが肩で息をしながらアリスを睨み付ける。
「こんなのはどうかしら? 試験中『レベルティターニア』」
 アリスの両サイドに、仁王のように召喚された二体の人形。
 その二体が、巨体に見合った強力な極太レーザーをパチュリーに向けて放つ。
「月金符『サンシャインリフレクター』っ」
 眼前に六角形の反射板を召喚し、極太レーザーを受け止めるパチュリー。
 パチュリーの頬に一筋の汗がしたたり落ちる。
 しかし、反射して跳ね返しても、アリスの人形はレーザーを発射し続け、跳ね返したレーザーをさらに押し返す。
「がっ……」
 パチュリーが堪えきれず、咳き込み始める。
「げほっ、げほっ―」
 レーザーの照射を止めて、うずくまって咳き込み続けるパチュリーの傍に、降り立つアリス。
「無様ね、パチュリー。そんな体で、瘴気の濃い魔界に来たりするからそうなるのよ」
 パチュリーは、アリスの言葉を聞く余裕もなく、咳き込み続けている。
「まあ、神綺様の血肉を受けたわたしたちにとっては、この瘴気は魔力を補充してくれる栄養でしかないのだけどね」
 アリスは気持ちよさそうに深呼吸してみせる。
 魔界の神である神綺自身はもちろん、アリスや夢子を初めとする魔界人達は神綺の発する魔界中を漂う瘴気を自分の魔力として取り込むことが出来る。
 彼女らに魔界の中で持久戦や消耗戦を挑むのはあまりにも無謀だった。
 彼らを倒すには高出力のスペルカードで短期決着をつけるしかない。
 七年前に、幻想魔界戦争騒動―第一次魔界戦争では幻想郷側には霧雨魔理沙・魅魔・幽香といった高出力魔法を得意とする面々が揃っており、彼女らにアリス達魔界側は敗れたのだ。
 しかし、第二次魔界戦争とも言うべき今回、彼女ら三人は全員魔界側に着いており、高出力魔法を使う者は限られる。
 頼みのパチュリーも、とても高出力魔法を放てるコンディションでは―。
 そんな中、アリスは気付く。
「はぁ、はぁ―」
 パチュリーの咳が荒くなるどころか、みるみる収まってきている。
 息もみるみる整っていく。
「……日木符『フォトシンセシス』」
 光の柱に包まれ、その中でパチュリーの息が整い、あっという間に呼吸も回復する。
 深呼吸すると、その紫だった髪が真っ赤に焼けていった。
「やっと、波長を合わせられた。少し手間がかかったわね」
 パチュリーが起き上がってアリスの方を振り返る。
「そんな、神綺様の魔力に波長を合わせて取り込むなんて、魔界人でもないのにそんなことが―」
 アリスはそれを見て後ずさる。
 絶大な魔力容量を持つパチュリーが、制御しきれないほどの魔力をその身に取り込んだのだ。
「相手の波長に魔力を合わせる研究ならずっとしてきたもの。こんなところで役に立つとは思わなかったけれど」
 あることに思い至り、アリスは苦々しげな表情をする。
「魔理沙に魔力の波長を合わせて、おっぱい吸わせて魔力を補充してあげるため―」
 パチュリーがアリスに微笑みかける。
 彼女は、魔理沙が自分で魔力の波長を調整して魔力を奪えるようになる前から、魔力を自ら捧げられるように研究を進めていたのだ。
「絶好調よ。今なら、よほど調子が良くないと出来ない、とっておきのスペルが撃てそう」
 これまでにない早口で詠唱を始め両手に違う属性を召喚するパチュリー。
 アリスは、パチュリーとさらに距離を取って警戒を強める。
 パチュリーがこれまで出してきたスペルカードは、互いに反発し合うような相克の属性の組合せのスペルカード。
 そして、パチュリーの操る七曜の属性の中で最も強く反発し合う、最悪の組合せというと―。
「日月符『ロイヤルダイアモンドリング』」
 パチュリーが掲げた両手の上に、皆既日食を模した光の渦が現れ、そこから光る弧状の弾幕が次々と放たれる。
「試験中『ゴリアテ人形』っ!」
 アリスは先ほどよりさらに大きな一体の人形を召喚。
 人形は両手に持った二本の巨大な刀で、パチュリーの弾幕を次々となぎ払う。
 パチュリーが回復したことで、二人の戦況は膠着状態を取り戻していた。
 アリスとパチュリーは思う。
―もし魔理沙を介することなく、純粋に二人で会うことが出来たなら、親友になれたかも知れないのに―。


10th Phase 紫&咲夜VS神綺&夢子

「ああ、あれほど純真だったアリスが、すっかり色を知って……お姉ちゃん寂しいわ」
 アリスの様子を見て、涙ぐむ夢子。
「わかります。あんな可愛い子がああなっちゃうなんて、この短時間でわたしまで悲しくなってしまいましたわ」
 咲夜が大いに共感して頷く。
「あら、話せるのね。幻想郷のメイドさん」
「ええ、わたしが住み込みで働いている紅魔館のお嬢様方も、それはそれは可愛らしいんですよ」
 両頬を押さえて、もだえる咲夜。
「紅魔館―」
 夢子は、その名前に聞き覚えがあった。
 七年前に魔界に攻め込んできた一人、風見幽香。
 彼女はそのさらに一年前に、魔界の外縁にある夢幻世界と幻想郷の挾間に建つ夢幻館を、力尽くで乗っ取っている。
 七年前の事件を境に、魔界が結界を張って魔界及び夢幻世界と幻想郷の行き来を遮断したことで、風見幽香が魔界から帰ると同時に夢幻館は幻想郷から消失。
 夢幻館の跡地に出来た結界の隙間には、外界から別の洋館が流れ込むだろうし、風見幽香なら勝手に新たな洋館を乗っ取って自分のものにするだろう―それが神綺や夢子の見解だった。
 しかし、その予想は覆された。
 新たに流れ込んだその洋館の住人達は、攻め込んできた風見幽香を撃退。
 幻想郷の勢力図の一角として食い込み独自の地位を築いたと聞いている。
 目の前にいるメイドや、アリスと因縁あるあの魔女も、その洋館―紅魔館の住人だというのか。
「興味が涌いてきましたわ……」
「ウチのお嬢様はあげませんよ―だから館ごとお嬢様達をさらったんですか?!」
 咲夜が夢子を睨み付ける。
「なんだか、面白い誤解をしているようね……わたしが興味が涌いたと言ったのは、あなたによ」
「私の躰は、お嬢様のものなので……」
 自分の躰を抱きかかえて、頬を染める咲夜。
「ふふふ―あなたは本当に面白く誤解するわね……デモンゲート」
 そう呟いて夢子が片手を振り上げると、背後の空間が波紋状に歪み背後にあるパンデモニウムが波紋を通して歪む。
 波紋の中から湧き出た白い霧が無数の紅い切っ先を形成していく。
「同好の士を虐めるのは気が進まないし、手加減してあげるわ」
 夢子がニヤリと口の端をつり上げると、上げていた片手を振り下ろす。
 それと同時に無数のクナイ弾が咲夜に向けて加速し、襲いかかろうとしていた。
「幻符『殺人ドール』!」
 咲夜が時間停止している間に投擲したナイフで迎撃する。
「ドールオブミザリィ!」
 夢子が両手に青い短剣の束を取り出し、追加で投擲して咲夜のナイフと相殺する。
―なんで互角なの?!
 物量的にも弾幕一つ一つの質量としても、咲夜が圧倒的に押し負けているはずなのだ。
「あなた、思ったより強いのね。調整が難しいわ……」
 わざと互角にされているんだ。
 咲夜が歯を食いしばる。
 しかも、時間停止している間に配置したナイフまで、きっちり相殺して撃ち落としているのだ。
 あり得るのか、そんなことが。
「あなたならば、気付いているのではなくて? この魔界という世界は、神綺様の胎内も同じ―あらゆる能力はその瘴気に阻害され、神綺様の介入を許すことになる」
「幻葬『夜霧の幻影殺人鬼』っ」
 咲夜は能力で時間を停止。さっき以上の数のナイフを配置していく。
「つまりはこういうことよ」
 その声に咲夜は驚く。
 停止した咲夜の世界の中で、夢子はこちらを見て不敵に微笑んでいた。
 能力解除後、ゲートから発するクナイ弾で次々と咲夜のナイフを撃ち落としていく夢子。
「神綺様の血肉を最も多く受け継いだわたしは、その力の片鱗を使うことが出来る」
 そう言えば、あの横着者の八雲紫が、魔界に来てから一度もスキマを開いていない。
「空虚『インフレーションスクウェア』!」
 咲夜が夢子との間に赤い結界を張り、その外側から大量のナイフを放ち始める。
「あなたの実力はだいたいわかったわ……スターソードの護法」
 夢子は背後に四つのゲートを展開。そこから渦を巻くように金色の短剣が発せられる。
「これぐらいでいいかしら……潰さないようにアリを踏むのって難しいわねえ」
 咲夜の額からは大量の汗が噴き出す。
「デフレーションワールド!」
 咲夜の宣言と同時に、赤い結界の内側にビッシリと隙間なくナイフの弾幕が現れる。
 〝永夜異変〟で蓬莱山輝夜を倒した、短期間の過去と未来の同時再生。
「いいじゃない。その調子で抗ってちょうだいっ」
 夢子は笑いながら、それに合わせて弾幕の密度を上げていった。


「いいわねえ。夢子ちゃん、楽しそう」
 神綺は、夢子の方を見て微笑む。
「魔界神様は、娘達をとても可愛がってらっしゃるのね」
 神綺は、紫の方を振り返る。
「ええ、みんなとても可愛い子達。特にアリスちゃんは―」
 今度はアリスの方を見て微笑む神綺。
「確かに、アリスさんはとても可愛らしく、ステキなお嬢さんですね」
 紫が神綺に微笑み返す。
「今回は、アリスさんの願いを叶えるために、他の多くの娘さんも頑張ってらっしゃるようですね」
 神綺の頬がピクリと反応する。
「ええ、みんなの可愛い末妹たっての願いですもの。姉たちみんな張り切ってくれていますわ」
「魔空間のゲートにも、エソテリアの街にも誰も詰めておらず、この城も誰も護っていない裸城同然。みなさん、アリスさんの願いのために幻想郷にいらしてくれているのかしら」
 神綺は笑顔のまま、何も語らない。
「アリスさんの願いは、魔理沙の母親であり師匠である怨霊〝魅魔〟を復活させること。みなさんの活躍のおかげで、幻想郷は怨霊〝魅魔〟への恐怖で染まり、多くの妖怪や神々は自分たちを守るので手一杯―」
「―何がおっしゃりたいのかしら」
 神綺がその背に、三対六枚の白い蝙蝠羽を展開する。
「……魔神復誦」
 神綺が呪文の詠唱を始めると同時に羽と手元から白い弾幕が発せられる。
 呪文の詠唱を続けるうちに、神綺の翼が白から紫に変色していき、弾幕も同じく紫に変化してその威力を増していく。
「紫奥義『弾幕結界』!」
 紫が神綺を渦巻きつつ取り囲むような、青・紫二色のクナイ弾を展開する。
 神綺の発する弾幕ごと囲んで封じ込めようとするような弾幕だった。
「あら、新しいお客様?」
 神綺が何かに気付いたように小首をかしげる。
 その様子にめざとく気付く紫。
 魔界は神綺の胎内も同じ。この世界のどこに誰がいて、どこに移動しようとしているのかを手に取るように把握している。
「おもてなししないといけないかしら―幽幻魔眼」
 神綺の左右に現れた二つの波紋。
 その波紋は大きな魔力の渦となり、神綺の六枚羽を吸収して球状に形を形成していく。
 頭のサイドテールが大きく光を放ち、光が収まったとき渦のあった場所には巨大な眼球が浮かび上がっていた。
 二つの眼球は、神綺の周りを周回し始める。
 周回していた二つの眼球の瞳孔が開かれる。
「魔界神聖!」
 周回する眼球から大粒の白い光弾が大量にバラ撒かれ、神綺自身は逆回転で大量の赤いクナイ弾をバラ撒き始める。
「『深弾幕結界―夢幻泡影―』!」
紫は、さらに多くの青・紫二色のクナイ弾を展開、神綺を封じ込めようとする。
 神綺が紫に向かってニッコリと微笑む。
「あらあら、法界―魅魔ちゃんのいる方へ向かっているのかしら。困ったわあ……おもてなしできる人が誰もいない」
 額に汗を垂らしながら、神綺を封じ続けるために必死で弾幕を放ち続ける紫。
―あとは頼んだわよ、幽々子。



11th Phase 幽々子&妖夢VS魅魔&明羅

 魔界の中を二つの人影が進んでいく。
 その二つの人影は、小怨霊が向かう方向に従ってパンデモニウムを迂回し、魔界のさらに奥へと向かっていた。
 その人影の一つの女性が笑顔で語る。
「親友に頼られるってのは、やっぱりいいものねえ~」
 整えられた桜色のミディアムヘアーにナイトキャップを被り、キャップの前面には魂魄模様が描かれた天冠。身に纏った水色を基調として白いフリルのあしらわれた和風仕立ての洋服を、腰の青いリボンで留めていた。
 彼女の名は西行寺幽々子。冥界にある白玉楼に住む西行寺家のお嬢様であり、〝死霊を操る程度の能力〟を持つことから冥界の幽霊の管理を任されている亡霊である。
「幽々子様、今回もわたしたちは、月面の時と同じ役割ということなのですね?」
 もう一つの人影の少女が、遠慮がちに訊ねる。
 ボブにカットした銀髪を黒いリボンで留め、白いシャツの上から魂魄を模した柄が描かれた緑色のベストとスカート、胸元には黒い蝶ネクタイ。短刀を一本腰に佩き長刀を一本背負い、脇には大きな白い霊魂が浮かんでいた。
 彼女の名は魂魄妖夢。冥界にある白玉楼に住む剣術指南役兼庭師であり、人間と幽霊のハーフである。
「その通りよ、妖夢」
 妖夢に微笑みかける幽々子。
 第二次月面戦争でも、霊夢が紅魔館のロケットで魔理沙達と月面に攻め込んでいる間に八雲紫が別働隊として動いていた。
 しかし、月の使者である綿月姉妹はそれぞれ手分けして両方を押さえる。
 そこに、幽々子達は第三部隊として月の都に潜入して戦利品を勝ち取って帰ってきたのだ。
「今回の異変解決の成否はわたしたちにかかっているの。今回も紫はわたしたちに託してくれたのよ」
 幽々子が妖夢の頭をそっと撫でる。
 第二次魔界戦争とも言うべき今回も、美鈴や藍が夢幻館に攻め込んでいる間に、紫や霊夢が魔界へ攻め込み魔界の支配層と一戦交え、幽々子達は第三部隊として異変の主犯のもとへ向かう。
 あの時も、妖夢は事態が理解できないまま幽々子に振り回され、その指示通り動くことしか出来なかった。
「そろそろ、法界に着くわ」
 幽々子に誘われるまま小怨霊を追っていくと、周囲に何らかの機械仕掛けの装置が浮かび上がる不思議な空間に迷い込む。
「かつて、聖白蓮が封印されていた場所だそうよ」
 上空には、人工的に造られたであろう太陽が浮かび辺りを照らしている。
「幽々子様は、本当に紫様と仲が良いのですね……」
 妖夢は前も向いて頬を膨らませる。
 自分は事態の把握もできずオロオロする中で、自分が慕う主人は旧友と以心伝心で通じ合っている―妖夢にとってそれは面白いことではなかった。
 幽々子は何も答えない。
 妖夢が幽々子の方を振り返ると、ニヤニヤしながらこちらの顔を覗き込んでいる。
「妖夢ってば、本当に可愛いんだから」
 幽々子が妖夢に抱きついてその頬に自分の頬を擦りつける。
「ふふ、妖夢好き好き~」
「ちょっと、幽々子様っ。ここはもう敵地で、飛びづらっ―」
 妖夢が強引に幽々子を突き放そうとする。
「もう、妖夢ったら照れなくてもいいじゃないの―あら?」
 幽々子は何かに気付いたらしく表情を変える。
「妖夢! 危な~い」
 どういうわけだか、言葉とは裏腹に幽々子は笑顔で妖夢を突き飛ばした。
 二人の体は赤い大地に落ち、二人がいた空間を一本の青い閃光が貫いて大地を焼いた。
「あんたたち、見せつけるためにこんな魔界の奥地までやって来たのかい」
 暗闇から現れたのは、怨霊〝魅魔〟。
 その姿はずいぶんとハッキリしており、周囲の小怨霊が吸い込まれるたびにその濃さを増していた。
 魅魔の視線の先では幽々子が妖夢を押し倒し、組み伏せていた。
「妖夢っ、妖夢ぅ……」
 幽々子は妖夢の両手首を地面に押さえつけ、妖夢の唇を貪り味わっている。
「幽々子様、ダメですって、やめっ―」
 その言葉を無視して幽々子の舌は妖夢の唇をこじ開けて侵入し、その口腔内を蹂躙していった。
 そう言いつつ妖夢もそれに応えて舌を絡め合い、両掌で幽々子の乳房を夢中で揉みしだく。
「まだやってんのかい……」
 魅魔は二人に三日月杖を向けたまま、もう片方の手で額を押さえる。
「はぁ、はぁ―幽々子様っ、愛してます」
「わたしも大好きよ、妖夢」
 魅魔はその様子に大きく溜息をつく。
「いい加減にしろっ」
 魅魔の脇から飛び出して二人に斬りかかる一つの人影。
―キィン
 妖夢は咄嗟に幽々子を突き上げて体を起こし、白楼剣を鞘から抜いて受け止めていた。
「ふむ。護衛の剣士として最低限のことはするようだ。それとも、こちらの油断を誘うためにわざとやっていたのか?」
 妖夢に斬りかかったのは一人の女性。
 袖口と裾に赤いダンダラ模様のある白い袴の上から赤い羽織を着て、紫の髪を後ろでポニーテールにした、いかにも侍といった格好。
 彼女の名は明羅。魅魔の従者で元は地獄の獄卒という変わった経歴の持ち主である。
「ええ、その通りです。よくぞ見抜きましたね……なかなかやるじゃないですか」
 体を起こし、頬を赤らめながら衣服をただす妖夢。
 幽々子はそれを慈しむような目で、魅魔はジト目でそれを見ている。
「その剣士さんのお相手をしてさしあげなさい―〝雷獣〟明羅」
 明羅は斬りかかった小太刀を改めて左手に持って構え直す。
「かしこまりました、魅魔様」
 妖夢は、楼観剣と白楼剣の二刀を抜いた後、ムッとして楼観剣を鞘に収めて白楼剣で明羅に斬りかかった。
「なにをしている? キミは二刀使いだろう、二本抜いたらどうだ」
 明羅は両手持ちの妖夢の剣撃を、左の片手持ちの小太刀で軽くいなしていく。
「なかなかのスピードだ。しかし、わたしにもさきほど魅魔様が言ったとおり〝雷獣〟という異名があってね」
 一度距離を取って仕切り直す二人。
「重心や距離の測り方でわかります。あなたも本来は二刀使いでしょう!」
「しかし、キミと私の実力差を考えると、破邪の小太刀一本が妥当なのだがな……ではこうしよう」
 明羅は懐から赤い盃を取り出すと、そこに瓢箪から酒を注いで右手に盃を持ったまま左手に破邪の小太刀を構える。
「キミが、この盃から酒を零すことが出来たら二刀でお相手しよう」
 妖夢がわなわなと体を震わせる。
 白楼剣一本のまま斬りかかるも、明羅の左手一本の小太刀に再び強く弾き返される。
「気に障ったかな? だが、これはわたしの体に流れる血の半分を占める―鬼の一族に伝わる、相手の力量を測る闘法でね」
 妖夢がとうとう、楼観剣を抜き放ち二刀となる。
「剣伎『桜花閃々』!」
妖夢が二刀で最大限速度を解放して幾つもの斬撃を放つも、明羅はその全てを器用に捌いていく。
 盃の酒は一滴も零れてはいなかった。
「半人半霊のキミと半人半鬼のわたしでは、やはり―」
 スピードはほぼ互角ながら、膂力では明羅が圧倒している。
 それが剣撃の力の差に表れていた。
「ならば……人智剣『天女返し』!」
 妖夢は一呼吸入れてから、瞬間移動とも呼べる速度で渾身の二刀斬撃を繰り出し、しかもそこから二刀は返す刀で別軌道の斬撃を繰り出す。
「むっ―」
 少し躊躇ったものの、それも捌ききる明羅。
「これは、わたしとしたことが……」
 盃からは、幾らかの酒が滴り落ちていた。
 明羅は盃の残りの酒を飲み干して懐にしまう。
「約束通り、わたしももう一本の星幽剣を抜くことにしよう」
 しかし、明羅の腰にはすでに抜かれた破邪の小太刀の鞘が残るのみだった。
 明羅が、既に空の鞘から剣を抜く体勢をとる。
「エンドオブデイライト!」
 明羅の宣言と共に、その手の中に周囲の〝闇の力〟が凝縮されてく。
 明羅が鞘から抜き放つと、その右手には漆黒の闇の長刀が握られていた。
 その長刀を振るうと、稲妻のように折れ曲がった剣閃が凄まじい速度と威力で、妖夢の脇の大地を抉る。
「星幽剣をを抜くのは久しぶりだが、こんなものか……」
 明羅が、星幽剣を見て慄く妖夢の方を改めて振り返る。
「どうした? 二本抜けと言ったのはキミだろう……次は当てるぞ」
 半人半霊と半人半鬼、二人の二刀の剣士が改めて対峙する。
「断霊剣『成仏得脱斬』!」
 妖夢が楼観剣と白楼剣の二刀を構えて力を込めると、剣が桜色のオーラをまといそのオーラが巨大化していく。
「そうだ……わたしに二刀を抜かせた以上、最大以上の力でかかって来るがいい―ミッドナイトレインストーム!」
 明羅が楽しそうに妖夢の振り下ろしたオーラを、折れ曲がった連続斬撃で迎え撃つ―二人の剣士は鎬を削り合うのだった。


「困ったわねえ……思ったより実力に差があるみたい。せめて、今日までに〝狂気の瞳〟を使いこなせるようになっていたらねえ」
 幽々子が頬に手をついて溜息をつく。
「西行寺幽々子―会うのは一〇〇〇年振りぐらいかい? あの時はお互いまだ生身の人間だったか」
 魅魔が幽々子に話しかける。
「あら、魅魔さん? 申し訳ないんだけど、わたしは生前の記憶がなくてね」
 幽々子が困ったように小首をかしげる。
「ああ、そうかい。まあ、あたしもしばらくは生前の記憶がなかったからね。一〇〇〇年前と同じようなことしてたもんだから、てっきり記憶があるもんだと……そういえばあの時は、あんたが八雲紫に押し倒されていたんだっけね」
「紫が……わたしを?!」
 幽々子が頬を染め両手に手を当てる。
「わたしが覚えてないだけで、生前にそんなことがあったなんて―」
 幽々子は笑顔のまま、背後に桜色の巨大な奥義を展開する。
「詳しく聞きたいのはやまやまなんだけど、その親友との約束があってね。あまり時間がないのよ。妖夢もこのままだと泣いちゃいそうだし」
「イビルフィールド」
 魅魔も、周囲に四色の光球を発現させ周囲を周回させ始める。
「それは、魔理沙と同じオーレリーズ―いえ、あなたが魔理沙の師匠ということはそれが本家本元なのかしら」
「西行寺幽々子、あんたにいい取引がある。あたしにもあんたにもメリットのある話さ」
「弾幕ごっこをしながらでいいなら、聞くだけ聞いてみようかしら……蝶符『鳳蝶紋の死槍』」
 幽々子が死蝶と槍を模したレーザーを魅魔に向けて放つ。
「反幽幻弾……まあ、いいさ。そのまま聞いておくれ」
 魅魔が反射シールドを目前に張って幽々子の弾幕を跳ね返す。
「あたしの目的は怨霊を取り込んでの完全復活。あんたと親友との約束は、あたしが復活すると予想される一定時間までにあたしを倒すってところだろう」
「まあ、そんなところねえ」
 幽々子は頬に手を当てて考える。
「だが、いまさら完全復活を阻止しても、あたしの存在はすでに幻想郷で確立されていて、異変目的は既に達成されている。あんたどう見ても戦闘狂ってタイプじゃないし、痛いのも疲れるのも嫌だろう」
「そうねえ。痛いのも疲れるのも好きじゃないわねえ」
「そこでだ―」
弾幕による喧噪の中、語らう二人。
「悪くないわね、乗ってあげる」
「すまないねえ」
 弾幕の制止して改めて向き合う幽々子と魅魔。
「わたしから見て、初対面のあなたを信じた訳じゃないわ。わたしが信じたのは、あなたが魔理沙の師匠だから―弟子に感謝することね」
 幽々子が魅魔に向かって構える。
「幽雅『死出の誘蛾灯』!」
 幽々子の宣言と共に、小怨霊が加速し凄まじいスピードで魅魔に吸い込まれていく。
「ああ、そうすることにするよ。魔理沙は、あたしには過ぎた弟子で―娘だ」
 無数の小怨霊が魅魔に習合されていき、とうとう幻想郷からやって来ていた小怨霊の列が途切れた。
 幻想郷から引き寄せられていた全ての小怨霊を魅魔が吸収したのだ。
「では、約束通り決着を付けましょうか―西行寺無余涅槃」
 幽々子が背後に開いた扇を中心に、青・紫・赤の色とりどりの弾幕や赤い大玉弾・レーザーが、かわるがわる拡散や収束を繰り返し繰り出される―幽々子の最終奥義であり死の体現。
「魔理沙のためにも、もちろん約束は守るさ―幽幻乱舞」
 魅魔も、周囲を周回する光球や三日月杖の先から星弾やレーザーを発し始めた。



12th Phase 霊夢VS魔理沙

 霊夢と魔理沙の対決―先手を取ったのは霊夢だった。
「神技『八方龍殺陣』!」
 赤や黄色の札弾に紅いクナイ弾を大量に織り交ぜた、レミリアすら封殺した陣系スペルの最上位カード。
「……スターダストミサイル」
 それを魔理沙は一歩も動くことなく、ミニ八卦炉から発する弾頭弾幕のみで相殺していく。
「宝具『陰陽鬼神玉』っ」
 霊夢は続いて上空に巨大な陰陽を出現させ、魔理沙めがけて落とす。
 それに対して魔理沙はミニ八卦炉を上空に向ける。
 八卦炉から、上空に向けて伸びる細い光線。
「……邪恋『実りやすいマスタースパーク』」
 その光線にそって極太の魔砲が放たれ、陰陽玉もろとも周囲の弾幕を吹き飛ばしてしまった。
 魔理沙はその場から一歩も動いていない。
「らしくないわね、魔理沙」
 相殺できる弾幕すら回避して楽しむような、霊夢の考えた命名決闘法を最大限楽しもうとしてくれるのが、魔理沙の戦い方のハズだ。
 こんな、弾幕を力尽くで消し去るような強引なやり方は、スペルカードルールのなんたるかもわかっていない、新参の力だけ強大な妖怪のやり方ではないのか。
 それとも、わたしとはもう弾幕ごっこを楽しむ気すらないというのか。
「少しは、動いたらどう? 神霊『夢想封印 瞬』」
 霊夢が結界を用いて瞬間移動しつつ札弾をばら撒き、その札弾は黒から紅へと変色すると軌道を変えて襲い来る。
「そうさせてもらうぜ、グレートエンゼル」
 魔理沙はこれまでのように箒を使わず、背中から天使の翼を生やして浮かび上がる。
「……超人『聖白蓮』」
 聖白蓮から借り受けた、人類の限界を超えた超高速移動を可能にするスペルカード。
 魔理沙は霊夢の瞬間移動する先々に現れ、札弾が加速する前にはたき落としたりあるいは直接受け止めたりとスペルカードを封殺していく。
 魔理沙のような人間では、本来は身体にかかる負荷に耐えられないスペルカードだが、膨大な魔力量を身体強化にまわすことでその使用を可能にしていた。
「くっ……」
 ことごとく攻め手を封殺されて焦る霊夢。
 〝永夜異変〟の時は、一面に「夢想封印 散」で札弾をばら撒いて「夢想封印 集」で相手めがけて収束させることで、魔理沙とアリスのタッグを撃退した。
 だが、今の魔理沙は札弾をばら撒くことすら許さない。
 その身に宿る膨大な魔力を惜しみなく使用して、圧倒的な力で霊夢の戦意を折りに来ている。
「夢想天生!」
 霊夢を取り囲むように八つの色とりどりの陰陽玉が現れ、札弾をばら撒いていく。
 札弾は黒・紅・紫と色を変えるごとに軌道を変化させつつ相手に向かって飛んでいく。
 霊夢の生まれ持った〝主に空を飛ぶ程度の能力〟を最大限発動し、空どころかありとあらゆるものから浮くことで、完全なる無敵状態となる究極奥義。
 今の霊夢には一切の攻撃は通じず、時間制限がなければ誰も勝つことが出来ない。
 だから、魔理沙が時間制限付きのスペルカードに落とし込んだのだ。
 「夢想天生」という名も魔理沙が考えたものである。
「もう使うのか。思ったより早かったな……天儀『オーレリーズユニバース』」
 霊夢の陰陽玉に合わせるように、魔理沙も色とりどりの八つの光球を召喚。
 光球からは星弾・レーザーが発せられ、霊夢の札弾を相殺していく。
 霊夢は一切の攻撃を受けることはないため、被弾することはないが状況は膠着していた。
「時間稼ぎはわたしの望むところだぜ……どうするんだ、霊夢」
 魔理沙は、魅魔の完全復活までの時間を稼ぐために、ここで霊夢を足止めしているのだ。
 霊夢が「夢想天生」を解除するのに合わせて、魔理沙も「オーレリーズユニバース」を引っ込める。
「次の一枚で決着をつけるわ」
 霊夢が懐から一枚のスペルカードを取り出した。
「望むところだぜ」
 魔理沙も一枚のスペルカードを取り出す。
「最後は、わたしから行かせてもらう」
 スペルカードを翳し、ミニ八卦炉に魔力を充填していく魔理沙。
 魔理沙のことだ、得意の魔砲を撃ってくるに違いない。
 霊夢は思考を巡らせる。
 魔理沙の放つ最大の魔砲と言えば魔砲「ファイナルマスタースパーク」。
 もともとはアリスとの合体技だが、今の魔理沙なら一人で放てても不思議ではない。
―違う。
 背筋に冷たいものが走って、スペルカードを持ち替える霊夢。
 これは、もっと恐ろしいものだ。最大の結界で迎撃しないとマズい。
 魔理沙は手に持ったスペルカードをその胸に当てて目を閉じる。
―魅魔様。どうか、私に力を―
 最後のスペルカードはこの一枚と決めていた。
 霊夢に勝つには、魅魔様から受け継いだものを全てぶつけるしかない。
「トワイライト―」
 ミニ八卦炉に充填された膨大な魔力が青白い光を放ち始める。
「―スパーク!」
 ミニ八卦炉から、見たこともないほどに凄まじい太さと威力の魔砲が放たれる。
 これが、魔理沙が理想とする魅魔の魔砲。
 霊夢はお祓い棒を構え、すぐに祝詞を唱える。
「大結界『博麗弾幕結界』!」
 博麗大結界を模した、霊夢の張れる最も硬い結界。
 魔理沙の放った魔砲を受け止め霊夢の結界がバチバチと火花を散らす。
「霊夢、最後に聞いておきたい。魅魔様がこのまま消えてもいいと、お前は本気で思っているのか?」
 そういえば、博麗神社に別の神様を勧請したら、既にいる神様は消えてしまうのもやむなし―かつて霊夢は香霖堂でそんなことを話していた。
「魔理沙、わたしは博麗の巫女なの……わたしが好きでこんなことしてると思ってるの?」
「だからって……おまえとわたしが出会えたのだって―」
―魅魔様のおかげなのに
 そう言いかけて魔理沙は言葉を呑み込む。
「霊夢ぅぅぅっ!」
 魔理沙が魔砲の火力をさらに増していく。
 幻想郷の魔法使いから奪ってきた魔力―それを全てこの一撃に込めていく。
 魔理沙の尖った耳がいつもの耳に戻り、髪も赤髪からいつもの金髪へと変色していく。
「魔理沙ぁぁぁっ!」
 霊夢は霊夢で、結界が抜かれないように霊力を込めていく。
―ピシッ
 霊夢の結界に亀裂が入る。
 音と共にその亀裂はどんどん広がっている。
 魔理沙がその顔を喜色で歪ませる。
 結界の向こうで、霊夢が悲痛な表情で魔理沙に向けて何かを叫んでいる。
「やっと、霊夢に勝っ―」
 魔理沙は、霊夢の結界と同時に別のものにも音を立てて亀裂が走っているのに気付かない。
「魔理沙っ」
 霊夢が泣きそうな表情で結界を解除して魔理沙の方に向けて飛び出す。
 魔理沙が魔力を込め続けているのに、フッと止んでしまう魔砲。
 手元を見ると、ヒビだらけのミニ八卦炉が今にも暴発しようとしている。
 魔理沙の膨大な魔力にミニ八卦炉が耐えられなかったのだ。
 結界で魔理沙の目前に瞬間移動した霊夢が、魔理沙を抱えてその場から飛び去る。
―ドォォォン
 間一髪。霊夢の張った結界の向こうで、暴発したミニ八卦炉が砕け散った。
「また、香霖に叱られちゃうな……」
 結界越しに爆発を見ながら魔理沙が呟く。
「わたしも一緒に謝ってあげるわよ」
 霊夢が振り返って見ると、魔理沙の髪は真っ白に脱色していた。
「これは……今回もわたしの負けか?」
「知らないわよ、バカ……」
 苦笑する魔理沙をその肩に抱き寄せ、霊夢は小さく嗚咽する。
 魅魔様のためとは言え、魔理沙は霊夢を幻想郷もろとも一度捨てたのだ。
 それにもかかわらず、霊夢は自分をここまで心配してくれている。
 そう考えたら魔理沙の胸に愛しさがこみ上げてくる。
「霊夢……」
「魔理沙……」
 どちらからともなく、二人は目を細め互いの唇を寄せていく。
「あんたたち、仲直りしたみたいだねえ。そりゃあ、なによりだ」
 その声に驚いて、逆方向を向いて正座する霊夢と魔理沙。
 魔理沙は、改めてその声の主の方を振り返る。
「魅魔様っ」
 なんのためらいもなく、その胸に飛び込む魔理沙。
「こんなボロボロになって……」
「まあ、退治されちまったからね。それにボロボロと言ってもアンタほどじゃないよ」
 魅魔は、魔理沙の頭を優しく撫でる。
「でも、見ての通り完全復活できたよ。これで当分消えることはないさ」
「ああ……温かい―」
 涙を浮かべて魔理沙はその乳房に顔を埋めて揉みしだく。
「すべてアンタのおかげさ。ありがとう、魔理沙―」
 魅魔は魔理沙の両頬を押さえて自らの顔を近づけ、そっと唇を重ねる。
 うっとりとした目で唇を開いて魅魔を受け入れる魔理沙。
「んふぅ―」
 お互いの体を抱き寄せ、舌を絡め合う師弟。
 ほどなくして、ようやく体を離す魅魔と魔理沙。
 魔理沙の舌からは唾液の糸が引いていた。
「髪を見てみな。これでしばらくは魔力が保つだろ」
 真っ白だった魔理沙の髪は元の金髪に戻っていた。
 しつこく魅魔の胸を揉みしだいていた魔理沙の体を強引に引きはがす魅魔。
「ああ、魔力補充してくれるなら、どうせならそっちから吸わせて下さいよ魅魔様~」
 物欲しそうに見る魔理沙から、魅魔は自分の胸を手で覆って隠す。
「外でそんなこと出来るはずないだろ、このバカ弟子が」
 魅魔もさすがに少し照れて頬を赤くしている。
「懐かしいわね。七年前にわたしが幻想郷に来たときに、最初に見た光景だわ」
 近くにいるはずなのに、アリスが遠い目で二人のキスシーンを見ていた。
 向こうでは、霊夢も同じ目で魔理沙と魅魔を見ている。
 七年前も、魔界で神綺との戦いで髪が真っ白になった魔理沙に、経口で魅魔が魔力補充するのを霊夢とアリスは見せつけられたのだ。
 パチュリーは驚愕の表情を浮かべながら霊夢やアリスと魅魔・魔理沙を見比べている。
 魔理沙を取り巻く彼女らと自分との差を改めて実感するのだった。
「助かったぜアリス。おまえの協力がなければ、魅魔様を助けられなかった」
「ええ、魔理沙の助けになれてわたしも嬉しいわ」
 笑顔で魔理沙に微笑みかけるアリス。
 魅魔が声をかける直前の霊夢と魔理沙のやりとりから一部始終をアリスは見て思う。
 言質も取ったし、既成事実も作った。
 魔理沙の心の中でのアリスの占める割合は確実に広がったのは間違いない。
 それでも序列自体は変わらないのか……。
 幽々子が魅魔を倒して異変の主犯を倒し、妖夢と明羅と共にパンデモニウムまで戻ってきて合流し、その面々全員で霊魔殿まで引き返していた。
 この勢揃いの状況で魔理沙は最初に魅魔の胸に飛び込んで、次にアリスに声をかけたのだ。
「あんたがパチュリーだね?」
「は、はいっ」
 魅魔がアリスの隣にいるパチュリーに声をかける。
「魔理沙からいつも聞いているよ。魔理沙がいつも世話になってるそうだね―ありがとう」
「いえ、そんな―」
 立て続けにアリスと魔理沙の保護者に引き合わされて戸惑うパチュリー。
 魅魔は背後から魔理沙を抱きすくめたままで、魔理沙はその中で気恥ずかしそうにしている。
―魔理沙はわたしのものなんだよ
 まるで、その事実を衆目に対して見せつけるかのような行動だった。
 こいつが、魔理沙が慕ってやまない師匠にして母親―魅魔。
 パチュリーは、ようやく霊夢やアリスと同じスタート地点までやって来たのだと実感する。
「ちょっと幽々子―」
 端では、八雲紫が西行寺幽々子を呼びつけて小声で話していた。
「なんで、魅魔が完全復活してるのよ」
「でも、わたしは紫の指定した時間までにちゃんとあの怨霊を退治したわよ?」
 それがおかしいのだ。藍にも手伝わせて、魅魔が完全復活までにかかる時間は綿密に計算したし、その上で答えを出していたのだ。
「紫のお願い通りのことをやったんだから、約束のご褒美はちゃんとちょうだいね」
 幽々子が紫に正面からくっついて両頬に手を当てる。
 至近距離から微笑みかけられ、気恥ずかしさに目をそらす紫。
「それはいいけど……おかしいのよ。魅魔の完全復活の時間が、誤差では説明がつかないほど早まっているの。これは、誰かが霊を操ってその時間を早めたとしか―」
 そう言いつつ、紫は自分に寄り添う女性の存在に気付く。
 退治された魅魔が傷だらけなのと対照的に、傷がないどころか服にも擦り切れや汚れすらないではないか。
「幽々子、あなたまさか―んむっ」
 自分の唇で強引に紫の唇を塞ぐ幽々子。
「わたしは覚えてないけど、わたしが生きてたときから紫はわたしに好き放題してたんだから、わたしも好きにさせてもらうわ」
「魅魔から、聞いたの―ふぐっ」
 しばらくはなされるままだった紫だが、ほどなくして幽々子に応えて舌を絡め合い、二人は互いの乳房を揉み合うのだった。
「ちょっと、もう終わってるの?」
 その頃、風見幽香が夢幻世界を経由して遅れてたどり着いていた。
 その姿は、紅美鈴や八雲藍との戦闘でボロボロになっている。
「ちょうどいいわ、幽香ちゃん。この異変で荒廃した魔界の修復を手伝ってちょうだい」
 幽香の肩に手を置く神綺。
「ええ?!」
 神綺が衆目を集めるために手を叩く。
「満身創痍の魔理沙ちゃんはいいけれど、それ以外の今回の異変を起こす側で参加した子達には、みんな魔界の復興を手伝ってもらいますからね」
 未だに腕の中にいる魔理沙を抱きすくめる魅魔。
「魔理沙がこんな状態だからね。母親として、わたしが介抱してあげないと―」
「魅魔ちゃん、あなた完全復活したばかりで一番元気よね」
 神綺が魅魔に微笑みかける。
「なら、パートナーであるわたしが魔理沙を介抱―」
「もちろん、アリスちゃんには復旧作業を一番頑張ってもらうわよ。魔界を巻き込んだ主犯ですものね」
 神綺に微笑みかけられて固まるアリス。
「しょうがないわね……こうなると、わたしが魔理沙を紅魔館に連れて行って介抱してあげるしか―」
 パチュリーが魔理沙のすぐそばで、恥ずかしそうに話し始める。
 魔理沙の視線にめざとく気付いた魅魔は、腕の中の彼女を抱え上げた。
「霊夢~、受け取りなっ」
 抱え上げた魔理沙を、少し離れたところにいた霊夢に向かって投げつける魅魔。
「魅魔、ちょっ―」
 放り投げられた魔理沙を受け止めきれず、覆い被さられて霊夢は地面に倒れた。
「なにするんですか魅魔様!」
「なにすんのよ魅魔!」
 不平を鳴らす魔理沙と霊夢。
「霊夢~! 魔理沙はあなたに介抱して欲しいみたいよ」
 魅魔の言葉に、魔理沙の体が反応する。
「そう……なの?」
 魔理沙の目の前にある霊夢の顔―少し恥ずかしそうにしながらも魔理沙を見つめている。
 気がつけば、魔理沙は霊夢の顔の横に両手をついて、押し倒したような格好になっていた。
「そう……だぜ」
 魔理沙もなんだか気恥ずかしくなって視線をそらす。
「なら、しょうがないわね。早く退きなさいよ……おぶって神社まで運んであげる」
「ああ、わかっ―」
 体勢を変えようとした疲労困憊の肘に、負荷がかかって耐えきれず倒れ込む魔理沙。
「んんっ―」
 霊夢と魔理沙、目も反らせないほどに近く―お互いの目の前にお互いの瞳。
 そして、唇には柔らかな感触。
「ごめっ―」
 慌てて体を起こす魔理沙。
「いまの……事故よね?」
 霊夢は体を起こすことなく、頬を染めて目を反らす。
「ああ、そうだぜ―」
「じゃあ、これも事故ってことで―」
 霊夢が魔理沙の首を持って抱き寄せる。
「ふむっ―」
 霊夢が魔理沙に深く唇を重ねる。
 魔理沙も、それに応えて深く唇を重ね合った。
「「ちょっと! あなたたちなにしてるのよ」」
 アリスとパチュリーが二人の様子を見て駆け寄ってくる。
「ほら魔理沙、逃げるわよ」
 背中を向けた霊夢にすぐさま負ぶさる魔理沙。
 霊夢は素早く結界を展開して魔理沙と共にその場から離れたのだった。
 魔理沙を負ぶって幻想郷に戻るべく飛び続ける霊夢。
「なあ、霊夢。わたし―幻想郷に帰れるかな」
 人間の里を含め、幻想郷全体を巻き込んであれだけの異変を起こした―そんな自分が戻れるかを魔理沙は心配していた。
「当然でしょ、他にどこに帰るって言うのよ。文句言うヤツがいたら、ぶん殴ってやるわよ」
 魔理沙が幻想郷を離れて魔界に住むようにでもなろうものなら、完全にアリスの思惑通りになってしまうではないか。
「ありがとう―霊夢」
 魔理沙がより深く霊夢に覆い被さる。
―ふにょん
 霊夢の背中に感じる感触に違和感を感じた。
「魔理沙、ちょっと見ない間にずいぶん成長してない?」
「魅魔様の秘術を継承してから、魔力容量増加と共に急に膨らみだしたんだぜ」
 複雑な感情が霊夢の中で渦巻く。
 ずっと仲間だと思っていた旧友に裏切られたような置いて行かれたような―。
「そういう霊夢だって少しは成長して―」
 霊夢に負ぶさったまま、その胸元に手を伸ばす魔理沙。
「ちょっと、どこを触って―んっ」
「―少しも成長してねえ」
 脇を飛んでいた陰陽玉に向けて魔理沙を投げ飛ばす霊夢。
 魔理沙はどうにか陰陽玉に乗って体勢を整えた。
「まったく……愛が足りないぜ、霊夢」
 魔理沙が唇をすぼめてチュッと鳴らすと、霊夢は頬を赤らめてお祓い棒を振り上げる。
「いや、あの―霊夢。わたし、瀕死の状態で」
 霊夢は振り上げたお祓い棒を震わせていた。
―まったく、いろんな女に手を出したあげく人の気も知らないで……。
「あ……お~い、にとり」
 幻夢界まで戻って、そこで待っていたにとりに手を振る魔理沙。
「ちょっ……痛い、痛いって霊夢」
 霊夢は反射的にお祓い棒を振り下ろし、ポカポカと魔理沙を殴りつける
 このあと、神綺が魔界の結界を元通りにしたことで、霧雨魔法店・マーガトロイド邸・紅魔館は元通り幻想郷に復帰して、その住人も元通り住むことになる。
 その住人達の関係性まで元通りになるのかは、それともなんらかの変化が起こるのか―。



Epilogue

 紅魔館の地下にある大図書館のさらに地下深く。
 禁書庫を改装したその部屋は、頑丈な造りになっていて、中からも外からもそう簡単に入れないようになっており、現在は館の主の妹であるフランドール=スカーレットの私室として利用されている。
 その日、その部屋にアリスが招かれていた。
「ようこそ、アリス=マーガトロイド」
 部屋の主であるフランドールがアリスを迎え入れる。
「お招きありがとう、フランドール」
 部屋に入り、その奥を覗き込む。
「それと、パチュリー―」
 部屋の奥にはパチュリーが待ち受けており、その脇には小悪魔が控えている。
 あの異変―第二次魔界戦争からしばらくの時間が流れていた。
 神綺が魔界の結界を元通りにしたことで、魔理沙とアリスは魔法の森に戻り、自宅で再び暮らすようになり、紅魔館も湖の畔に戻ってきた。
 彼女らが幻想郷で再び暮らす条件として、アリスは人間の里で魅魔が霊夢達によって退治された顛末を人形劇で発表した。
 魔理沙の要望で、脚本に魅魔は滅ぼされたのではなく、信仰をやめればまた人々を脅かすかも知れないとラストに加えて。
 監修に参加した八雲紫も渋々ながら承諾した。
 魔理沙の要望が通らないなら、魔理沙とアリスは揃って魔界に移住すると、アリスがあらかじめ仄めかしていたのだ。
 もし、そんなことになれば霊夢の仕事ぶりに明らかに影響が出るだろう。
 怨霊〝魅魔〟の加護を授かる紺色の護符は、人里の多くの家では次第に剥がされていき命蓮寺に返納されるも、一部の人々は買い換えて引き続き店先に貼り続けている。
「それで、アリス。今日は何から話しましょうか」
 パチュリーがアリスに席に座るように促し、小悪魔がパチュリー・アリス・フランドールの着いた席にそれぞれ紅茶を置いていく。
「そういえば、あなた―あれだけ大々的に実家まで巻き込んで、魔理沙を奪ったあげく霊夢に奪い返されて、未だに魔理沙の家に入り浸って世話を焼いているそうね」
 パチュリーが鼻で笑いながらアリスを見る。
「ええ、わたしは魅魔様―いいえ、お母様から魔理沙のことを頼むとお願いされているもの。パチュリーは、もう魔理沙のことを諦めたのかしら」
 アリスは誇らしげな表情で豊かな胸に手を当てる。
 またも、魔界に行って魔力を補充してきたのだろう、その大きさは明らかにパチュリーを凌いでいた。あるいは、このあとはそのまま魔理沙の家に行って魔力の補充をさせるつもりなのかも知れない。
 パチュリーは苦々しげな表情でそれを睨み返す。
「わたしは、今も魔理沙のこと大好き―」
 フランドールが無邪気に言いながら紅茶を啜る。
「わたしだって―」
 パチュリーは言い淀む。
 完全勝利とまで行かなかったが、今回の一件でアリスは魔理沙との距離を一気に縮めていた。
 何より、魅魔の存在が維持できたのはアリスが魔界を巻き込んでまで協力したおかげなのは確かなのだ。仮に、魔理沙が霊夢と恋仲になったとしても、このことで恩義を感じる魔理沙が、アリスを家から追い返すとは思えなかった。
「そんなことより、今日は提案があってきたのよ、パチュリー・フラン」
 アリスは紅茶を一口含み、一呼吸置いてから話す。
「魔理沙を、こちら側に引き入れるまで、休戦としてはどうかしら」
 パチュリーは顎に指を当ててアリスの提案について考える。
「幸いにして、魔理沙はこちら側に来ることに既に興味を示している。最大の恋敵である霊夢をレールから外すというのは悪い提案ではないと思うのだけれど」
「休戦―というのはどういう状態を指すのかしら」
 パチュリーが改めて顔を上げてアリスの方を見る。
「これまで通り、それぞれが魔理沙にアプローチするのは問題ない。だが、霊夢に対するものは例外として、互いが互いを貶めるようなことは控えて、魔理沙を〝魔法使い〟にすることについては協力し合う」
「わたしは乗ったわ」
 即答するフランドール。
「そういうことなら、協定を結ばせてもらうわ」
 パチュリーもフランドールに続く。
―霊夢さえ除外すれば、わたしたちになら勝てると思っているのでしょうね。
 小悪魔の方を一瞥するパチュリー。
―魔理沙とのことに関しては、この子も味方とは言えないようだし、厳しい状況ね。
「それよりアリス。魔理沙を〝魔法使い〟に引き込んで、霊夢は人間のままだとして、死後に幽々子や魅魔のように亡霊や神霊になって幻想郷や冥界に留まる可能性は考えている?」
 アリスが額を押さえて俯く。
「それは―考えもしなかったわね」
 歴代博麗の巫女の中でも、当代の霊夢を特に気に入っているという八雲紫が働きかけて、霊夢の死後も西行寺幽々子に働きかけて亡霊として冥界に留まらせたり、あるいは神霊化させて博麗神社の祭神に加えて次代以降の博麗の巫女に祀らせるようなことは十分あり得る。
 特に後者は、守矢神社の風祝である東風谷早苗も死後にそのようなことになる可能性があるため、極めて現実味があった。
「まあ、いいわ。そのような可能性があることは頭の隅に置いておいても、わたしたちと同じ土俵に魔理沙を立たせることには、確実に価値があるもの」
「―それもそうね」
「この場で、魔理沙にまつわるあらゆる可能性を出し合って列挙しておきましょう。頭の隅に置いておくだけでも、今後の動き方に対して大きな差が出るわ」
 そして、魔女達の話し合いが始まる。
「それと、魔理沙を得るなら最終的に、あの怨霊をなんとかすべきなのではなくて?」
「それには同意するけれど、それについてはさらに次の段階よ。まずは、魔理沙に残された時間そのものを伸ばさないと―」
 パチュリーの言葉に首肯しながらもその提案をやんわりと退けるアリス。
 魅魔の歓心を得ているアリスからすればその排除はむしろ急務ではない。
 むしろ、魔理沙とアリスの距離が開いたり、魔理沙と霊夢の距離が縮まったときに味方してくれる可能性すらあるのだ。
 なんにせよ、魔理沙を同じ土俵に上げて、霊夢を排除するか霊夢を遠ざければ、目の前にいる者たちは敵ではない。
 言質も取って既成事実もある自分は、ある意味で霊夢にすら勝っているし、自分が本妻だと言い張ることもできる―そして何より自分には切り札がある。
 アリスは自分の下腹部に手を当てた。
 魅魔と同じく、アリスにも神綺から継承した秘術があった。
―新たな生命を創る魔法。
 そして、アリスは思ったのだ。
 最初に創るのは魔理沙と自分の子供がいい。
 あの夜、魔理沙から十分すぎるほどの量のサンプルは回収できたから、材料には事欠かない。
 そのために、自分の家に招いて魔理沙に迫ったのだ。
 それに、あの夜以降もアリスが魔界で乳房に魔力を補充してくるたびに、魅魔と再び離れた反動か魔理沙は再びアリスの胸で甘えてくるようになったのだ。
―魔理沙ってば本当に可愛いんだから。
 この調子ならば、新たなサンプルの回収も難しくはないだろう。
 パチュリー達との話し合いを続けながら、アリスは不敵に微笑む。
―無事に創ることが出来たら、なんと名付けようかしら……。
 魔理沙を巡る新たな火種は、ここで早くも燻り始めていた。


―博麗神社
 妖怪の山の麓、幻想郷の東の端に位置し、外の世界と幻想郷の狭間にある神社でる。
「のどかねえ……」
 母屋では、縁側から外の景色を眺めながら、一人の少女が煎餅を囓っていた。
 艶やかな黒髪を左右耳の下に白い髪飾りで留め、後頭部には赤く大きなリボン、肩や腋を露出させた特徴的な赤い巫女装束に白い袖と白い襟、胸元には黄色いリボンという、紅と白で構成された出で立ちをした少女。
 彼女の名は博麗霊夢。
 博麗神社で、幻想郷と外の世界を隔てる博麗大結界の管理をする、博麗の巫女である。
 第二次魔界戦争と呼ばれる異変から、しばらくの時間が流れていた。
「すっかり春だなあ」
 隣にいるもう一人の少女も、皿に載った煎餅を囓る。
 癖のある金髪を片側だけお下げに垂らして白いリボンで留め、肩には赤いリボンの付いた黒いケープ、白のブラウスの上に黒いサロペットスカート、その上にMの文字がデザインされたベージュのエプロンという、白と黒で構成された出で立ちをした少女。
 二人がそれぞれ手に取った煎餅を囓り終えると、それぞれの視線が机に載った皿に向かう。皿に残された煎餅は一枚。
 二人の視線が交叉する。
 素早い動きで先んじて皿から煎餅を取ったのは魔理沙。
 遅れて霊夢も、魔理沙の手から煎餅を奪おうとするも、その手は空を切る。
 魔理沙はそのまま煎餅を自分の口に咥えるも、空を切った霊夢の手はそのまま魔理沙の胸を掴んだ。
「んっ」
―ふにゅっ
「えっ?!」
 魔理沙が悩ましい声を上げて思わず煎餅を半分に噛み切るも、口から落ちた煎餅の半分を自ら受け止める。
 なお、霊夢は自分の掌をみつめたまま固まっている。
 霊夢が固まっている間に、自分の口の中に残った煎餅、そして噛み切った残り半分の煎餅と咀嚼して呑み込んでいく魔理沙。
 全ての煎餅を咀嚼して嚥下し、口周りをペロリとなめ取る。
「わたしの勝ち―」
「なによこれ」
 霊夢は魔理沙を畳の上に押し倒してその乳房を再び鷲づかむ。
―なによ、大きい上に柔らかくて手に吸いつくじゃない。
 見た目と掌の感触が明らかに一致していない。
「着痩せの魔法だぜ……。膨らみかけで敏感になってるから、あまり激しくされると―んっ」
「魔界からの帰りより明らかに膨らんでるじゃない。さすがに急成長じゃ説明がつかないわよ」
 霊夢は魔理沙の乳房を揉み拉き、その力を次第に強くしていく。
―しかも感度もいいなんて。むかつくわね本当に
 魅魔から継承した術は授乳されることで他人から魔力を奪い、自分の乳房に蓄えることが出来ると聞いた。しかし、魔力容量を超えた魔力は定着せずに数日のうちに飛散してしまう。
 そこから導かれる答えは―。
「魔界から帰った後も―しかも、ここ数日のうちに誰かから吸い取ったでしょ!」
「アリスに―」
 霊夢が手早く魔理沙のサロペットスカートを脱がせていく。
「こら、脱がすな―」
 服を脱がせた途端、着痩せの魔法が解除されて、下着に包まれた大きな乳房と深い谷間がまろび出る。
「やっぱり……これ、アリスの縫った下着よね」
 それは見覚えのある、薄い生地に細かい刺繍が施された淡いブルーの下着―急成長したにもかかわらず魔理沙にぴったりフィットしていた。
 異変が終わった後も、性懲りもなくそんなことを続けているのかこいつらは。
「この際だから聞いておくわ。あの異変の時、魅魔やアリス以外に誰からおっぱい吸ったの?」
 下着越しに霊夢が揉みしだき続ける。
「んっ―白蓮とパチュリーとフランと……幽香」
 魔理沙は頬を染め、悩ましい声を上げている。
「幽香?! あんたら仲悪かったんじゃないの」
 魔理沙はすでに抵抗しようとせず、完全に霊夢にされるがままになっていた。
 霊夢の掌には魔理沙の鼓動が伝わり、硬くなった尖端が当たっている。
 下着越しに魔理沙の乳房の先端を摘まむ霊夢。
「ひゃん―そうだったんだけど、今回は魅魔様を助けるために吸わせてくれて……」
―なんだか変な気分になってきたわね。
 魔理沙につられて頬を染める霊夢。霊夢の方もなんだかドキドキしていた。
「れ、霊夢ぅ……」
 艶やかな唇の隙間からは熱い吐息と共に囁かれる霊夢の名前。
 手を止めた霊夢を魔理沙は物欲しそうに潤んだ瞳で見上げてくる。
「魔理沙……」
 魔理沙は何かを待つように黙って目を閉じ、霊夢は魔理沙に顔を近づけていく。
「霊夢?」
 待っても寂しいままの唇―魔理沙はうっすら目を開いて霊夢を見た。
「魔理沙―さっきの煎餅の奪い合い……あなたの勝ちよね」
「ああ、わたしの勝ちだぜ」
 霊夢は慈しむような瞳で魔理沙を見下ろしている。
 その艶やかな唇は、それ以上魔理沙に近づこうとしない。
「わたしに勝ったら、何か言うことがあったんじゃないの?」
「うっ―」
 言葉に詰まる魔理沙。出来れば、弾幕ごっこで勝ってから言いたかった。
「ねえ、言ってよ魔理沙ぁ」
 頬を染めて瞳を潤ませ、懇願するようなに言う霊夢。
「わたしは、霊夢のことが大好きだぜ……だから、これからもずっとそばにいさせて欲しい―」
「よく出来ました」
 そう言って霊夢は再び瞼を閉じて魔理沙に唇を重ねる。
「んふぅ」
 深く唇を重ね、舌を絡ませ合いながら、霊夢は再び魔理沙の乳房を揉みしだく。
「そういえば魔理沙―今回の異変、あなたが煮え切らないせいで起こったことは自覚してる?」
「霊夢、返事は……」
「言わなきゃわかんないの? そういうところよ」
 小首をかしげる魔理沙。
「あなたが使ってる着痩せの魔法。他の魔女が使わずに、むしろ胸元を強調するような服を着てるのはなんでかわかる?」
「ええっと―」
 霊夢に問われて考え込んでしまう魔理沙。
「じゃあ、あなたはそういう格好をしてる他の魔女達を見てどう思うの?」
「そりゃあ、嬉しいけど―」
「だ・か・ら・でしょ?」
 魔理沙の伸びた鼻の下を指で弾く霊夢。
「じゃあ、割と前にわたしが布団をもう一組買ってたって話は少し前にしたわよね。早苗が泊まったりするときは二組出してるのに、あんたが泊まるときは一組しか出さないのは、なんでかわかる?」
「あっ―」
 魔理沙が気付いて頬を赤らめる。
「もういいっ。これからはあんたが泊まるときも二組出すっ。だいたい、初めて会ったときもそうだけど、あんた同じ布団だと寝ぼけて揉んだりあまつさえ吸おうとしてくるから、貞操が危うい―」
 怒って背を向けた霊夢を魔理沙がそっと抱きすくめる。
「気付いてあげられなくてごめん―霊夢」
「……うん」
 顔は見えないが、魔理沙には霊夢が泣いているように見えた。
「でも、やっぱり言葉にして欲しいぜ―」
「わたしも、魔理沙のことが大好き……だから、これからもずっとそばにいて欲しい―」
 魔理沙はより深く霊夢を抱きしめる。
「今夜も一緒に寝よう。せっかく想いが通じ合った二人が、別の布団で寝るなんておかしいぜ」
「あんたは……よくもそんな恥ずかしいセリフを―」
 背中に当たる感触で霊夢があることに思い到る。
「そういや、あんたが散々他の女のおっぱい吸ったのはわかったけど……あんた吸われたことはあるの?」
「それは、なかったと思うけど―」
 ニヤリと口角をつり上げ、振り返った霊夢が再び魔理沙を押し倒し、その乳房を揉みしだく。
「ちょっ―霊夢?!」
 下着越しに揉みしだかれ、魔理沙の乳房の先端はみるみる硬度を取り戻していく。
 それをさらにクリクリと弄ぶ霊夢。
「こらっ……やめ―」
 硬度が最高に達したタイミングで、霊夢は魔理沙の下着をずらし、その乳房がまろび出る。
 覆い被さった霊夢の眼下には、遮るものは何もなく魔理沙の乳房がさらされていた。
「ふふふ、綺麗よ魔理沙……」
 霊夢に執拗に責め立てられたせいで、その先端は充血しそそり立っている。
 うっとりとした表情で硬くなった乳房の先端を見つめる霊夢。
「そんなに見られると、恥ずかしいぜ―」
 頬を赤らめ、隠そうとした魔理沙の両手を素早く制すると、霊夢はそのまま唇を寄せていく。
―ちゅー……。
 博麗神社の母屋に、魔理沙の悩ましい喘ぎ声だけが小さく響く。
―はむっ
「ちょっ……霊夢、歯を立てるな、舌で転がすのもやめっ―」
 霊夢に執拗に弄られたせいですっかり硬くなった乳房の尖端をさらに責め立てられ、快感のあまり魔理沙は畳の上で喘ぎながら体をくねらせる。
「先手必勝で、吸われる前に吸えばよかったのね。今夜からはそうさせてもらうわ」
 霊夢の下で魔理沙は頬を上気させて、ぼうっとした表情で天井を見上げている。
「どう、初めて吸われた気分は」
 ニンマリと悪戯っぽい微笑みを浮かべながら、霊夢が魔理沙を見下ろす。
「吸われるのも、悪くないぜ―」
      Fin
独自解釈を駆使して、原作へのオマージュも織り交ぜて、自分なりに新作キャラ旧作キャラが入り乱れて活躍するストーリーを書いてみました。
気さくと繋がってる部分も多いので、そちらも読んで頂けたら嬉しいです。
感想をお待ちしております。
胡玉
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コメント



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2.90名前が無い程度の能力削除
魔力供給のトンデモ設定でヤバい作品か思ったけど、なんやかんやしっかりしてるし、面白かったです