Coolier - 新生・東方創想話

幽霊の正体見たり怖い巫女

2020/12/07 21:26:39
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注意、このお話は東方projectの二次創作です。
   オリ設定、オリキャラが存在します。





「あひいいい……」

 ああ、堪らない。

「ひぃいいい……」

 今宵は何と愉快な夜なのだろう。

 妖怪の本分は人を襲う事にある。どのような形であれ人を襲った実績を残す事が大事なのだ。今宵は満月、妖怪の力が最も強くなる。さらに新月の時よりも優れた景色がある。そう、月明かりが人にあらぬ錯覚を見させてくれるのだ。
 幽霊の正体見たり枯れ尾花。昔の人は妖怪という事実を認めたくないが為に面白い言葉を生み出した。妖怪とは怖いという感情が生み出すもので、恐怖を感じた状態なら枯れた草木さえも妖怪に見える、というそうだ。
 だが、私を見ろ。そうだ。私だ。妖怪は確かにここに存在している。さあ、里の人間よ私を恐れ、ひれ伏すが良い。
とはいえ、今宵は多くの人を驚かした。余り騒ぎを大きくしたとあっては、私も危うくなる。騒ぎを野放しにしておく程、人間というものは危機に対する意識が欠如している訳では無い。むしろ、私達より弱い分だけ危機意識に長けている。運が良ければ、あと一人と言ったところ……カモがおいでなさった。

 柳に隠れて人を待つ。背中を向けて静かに悲しげにすすり泣き。柳の葉が静かに音も無く棚引き、合わせて身体が揺れていく。ゆらゆら、ゆらゆら。柳の葉に気を取られ、私が揺れている事に気が付いても頭だけが周りと動きが違うとは気が付かない。気が付いた時には既に手遅れ。

「……!……!!」

 驚いて声も出ない。背中越しであろうと別の目から驚いている様子を見られるのは愉快だ。腰を抜かして意識を失う程に驚かしてやるぞ。
 柳に合わせて揺れる。私の身体も揺れる。合わせて揺れない。頭だけ揺れない。いや、揺れている。縦に揺れて、伸びていく。妖力を帯びて鈍く、月明かりの光が像を残し、まるで長く伸びた首の様に見えている。三尺ほど伸ばし、真後ろに首を回す。まるでフクロウのように。見下ろし見据えた。男は腰を抜かして私を見上げていた。だが、まだ終わりにしてあげない。放射状に広がる九つの頭。頭を増やし、首を増やし、言うなれば気味の悪い頭の花弁。
 と、意識を失ってしまった様だ。頭を打ってはいない様だが、倒れた時に大きな音がした。随分と酔っているようだし、酔っぱらいが躓いてすっ転んだぐらいにしか思われないだろう。

……さあて、逃げるか……。

~~~~~

「あー、最悪……」

人里の茶屋で冷茶をすする。机に肘を立てて片手で頬杖を着く。我ながら月に当てられていたとはいえ、随分と軽はずみな行動をしたと思う。人里で人間を襲ったのだ。傷つける目的ではなく、驚かす事が目的だったとはいえ、結果的に怪我をさせなかっただけ。私が原因で怪我でもさせようものなら里の妖怪に、どんなとばっちりが及んだか分かったものではない。
 瓦版に目を落とす。茶屋の客席ひとつひとつに置いてある。内容は、酔っぱらいがすっ転んで怪我をした、とある。そう、私が昨夜に驚かした酔っぱらいだ。本人は、もう若くねえ、歳はとりたくねえなぁ、などと他愛の無い事を言っている記事だが、下手をすれば私がやったと思われても仕方がなかった。先のとばっちりは、この瓦版を見て思った事だ。背中に冷や汗が浮かんだ。

 自己嫌悪。

「こらー、待ちなさい」

 自己嫌悪に陥っている私の耳に少々癇に障る声が入って来る。何事かと顔を上げて見てみると、十ぐらいの男の子たちに翻弄されている少女がいた。そのなりから人間でない事は一目で分かる。なにより、紫色の趣味の悪い番傘、特に一つ目に大きな舌など普通の人間が持ち歩くとは思えない。それにしても通りを挟んで向かいの広場の奥から聞こえるとは随分と騒がしい。気分を紛らわすのに丁度良いと思い、そのまま茶をすすりつつ眺める事にした。暫く眺めていると童の親だろうか、大人たち何人かが彼女に寄って来た。それぞれが、食事や菓子などを持ち寄って渡したりしている。ふと、通りの鐘台から音がする。もうそんな時間かと思い、食事でも注文しようかと思った。だが、去って行く少女が随分と気になった。

「親父、残りはツケといてくれ」

銭を置き、私は彼女を追い掛ける事にした。

~~~~~

 大通りから脇道へ、立派な家屋は鳴りを潜め、長屋が続く飲屋街を抜ける。橋を渡り職人街へ。普段この辺りに用が無く近づく事さえない。宿場町の様に小さな平屋が連なり、それぞれに職人が使う施設が揃っている。紙漉き、機織り、染め物、などなど。歩いていて気付いたが、湿度と熱が住処の周囲よりも高く感じる。周りを見れば、それも当然だと思った。平屋の戸口、その下には水路が引かれている。さらに職人街では、そこかしこで水と火が使われている。熱くも感じる訳である。
 そんな事を考えながら少女の後を追うと、とある場所に入って行った。先から同じ様な音が聞こえてきているから、その平屋にある施設が何かは想像するまでもなく分かる。金属同士が打ち叩かれる鍛冶場だ。あんな身なりで子供にさえ翻弄される華奢な少女が?と思ったが、入って行ったからには鍛冶を行うのだろう。それとも客として入って行ったのか?浮かぶ疑問は入れば分かる事だが、私は二の足を踏んだ。
特に用件も無く、ただ気になっただけで入って行くのは気が引ける。何より、それではただの冷やかしではないか。そうやって、しばらく店先から離れた所で見ていたら、件の場所から鍛冶の音が聞こえて来た。興味には抗えず、二度三度店先で右往左往した。威を決して店の中に入って行く。
 土間と地続きで談笑する為の客間。一段高い客間の大きさは6畳ほどだろうか。霧雨商店みたいな大きな商店とは違う。大通りの一般的な商店と同じぐらいだ。土間の空き地には先に見た茄子色の趣味の悪い番傘が置いてある。おそらくは乾かしているのだろう。奥に入る戸口は一か所だけ。普通なら勝手口に続くのだろうが、音から察するに奥は鍛冶場になっているのだろう。

「誰?お客さん?」

 私の姿は見えていない筈だ。鍛冶の音の中では碌に耳も聞こえないだろう。それなのに、私が入った事に気が付いて私に対するかのように声を掛けた。突然の事に慌てて逃げ出そうかとも思った。だが、私が逃げるよりも早く件の少女は作業を中断して私の所に現れた。前掛けの手ぬぐいで手の水を拭いながら、ススが付いた顔で暖簾を掻き分けて現れた。

「……あ、あんた、何で私が入って来たって分かったんだ?」

 彼女は、キョトンとした表情で私の言葉を受ける。そうして、何を言っているか一拍置いて気が付くと、ああと手を打って言った。

「あの子が教えてくれたんだよ」

 指こそ差していなかったが、土間に置いてあった趣味の悪い番傘が、あの子だという事は疑いようがなかった。私の見通しは間違っていなかった。

「あんた、人間じゃ……」

ない。私が言い切る前に遮られた。目の前にいた彼女に。

「小傘。私は多々良小傘。お察しの通り、私は人間じゃないよ。その子が私。私は唐傘の付喪神だよ」

 付喪神。と言おうとしたが言葉が出なかった。私達、妖怪は己の性分から逸脱した行動や習性は取れない。各々の生まれに関わる由来に沿った行動が主な生き様になる。私が人を驚かすのも、その為だ。と草の根の偉い人が言っていた。それなのに、番傘の付喪神である彼女が鍛冶を行うのも大分おかしな行動である。

「貴女は何て呼べば良い?」

 少々、考え事をしていたら小傘から自己紹介を求められた。隠す必要もないし、名無しのままでは話もできない。

「私は赤蛮奇。見た目じゃあ分からないと思うが、ろくろ首だ」

 ろくろ首?と首を傾げる姿を見て、少々考えつつも一拍置いて首を宙に飛ばす。

「うわぁ!びっくりした!」

 目の前の人が急に首を宙に飛ばせば吃驚するもの。人間が相手なら……いや夜分遅く妖怪が活動する時間帯ならまだしも、日が一番高い時間帯に飛ばすのは気が引ける。一拍を置いたものの、やはりというか当然。そのつもりは無かったものの驚かれてしまった。

「えーと、赤蛮奇?さん?」
「呼びやすい様に呼んでくれ」
「ねえねえ、いま首を飛ばしたけど、どうやったの?教えて欲しい!」

 若干、興奮気味で迫って来る小傘を制しつつ、私は首を戻して話を聞く事にした。そうして、彼女は話しをし始めた。
 小傘の言う所によると、彼女は正真正銘の付喪神だそうだ。普段は、ベビーシッターやものづくりに精を出して日々の糧を得ている。ものづくりの中には、武具や農具の鍛冶、農具や漁具の笊や籠の作成、木や竹の建具や木工具でその中には小さな社や仏檀の細部意匠なども含まれているそうだ。その会話だけで胃もたれしてしまう程に彼女の行っている活動は幅広く密度が濃い。

「ただねぇ。やっぱ付喪神としては人を驚かして満腹になりたいんだよ」

 小さな小傘のボヤキは、皮肉気味に呟かれたように聞こえた。ここまで様々な事を行い、日々の糧を得られる程に研ぎ澄まされ、ともすれば職にあぶれない程度には評価されている。つい、見当違いなボヤキと思ってしまい心に思っていた事が、そのまま口から溢れてしまった。

「驚かせるしか能が無い私に比べてれば贅沢な悩みだよ……」

 小さく、それ以外に例えようがない小さなボヤキ。私の小さな小さな言葉は虚空に消える事無く拾われた。拾われてしまった。いや、何で拾った?わたしの言葉に頬を膨らませてしかめっ面を浮かべる小傘に。

「人間を驚かせる能があるのに何が不満なの?むしろ、その方法を教えて欲しいぐらいよ」

 私の言葉に迫る小傘。その表情は鬼気迫るものがあった。食に貪欲な餓鬼か、それとも力を求める羅刹か、とにかく、その姿が付喪神の枠に収まっているとは思えなかった。

「わかった……単純な事だが教えてやる。だから、そう迫るなって」

~~~~~

「いいな?教えた通りにやるんだぞ?」
「分かったよ」

幽霊の正体見たり枯れ尾花。人間だけではないが、生物はとかく不安を恐れる。生臭さを感じる満月の夜。夜半に生暖かい風が流れる時間などは、不安の心も最高潮だろう。ここに至るまで大変であった。
小傘は、驚かす事に絶望的に才能がない。才能に引っ張られ資質も絶望的。何より努力の方向性も方向音痴。良き師に恵まれなかったでは済まされない程である。それを一から矯正した。彼女と出会ってから約半年。努力の方向性が定まり、何でもそつなくこなす彼女の才能と資質が合致した。そこからは普通の妖怪、もしくは妖獣や果ては神に至るまで、ありえない速度で成長を遂げた。私がただの妖怪であった為に私の少し上の能力で止まってしまった事が、とても惜しく感じる。
決行は月明かりのない新月の夜。僅かな光のない夜中でこそ小傘の長所が光る。私が興行主であるなら、こう言うだろう。

 さあさあ、怖がり物が好きなおっとおとおっかあ。寄ってきねえ。見てきねえ。爺さん、婆さん、見ても良いが三途の川の死神に気に入られても知らねえぞ。注意はしたぞ。腰を抜かすぐらいの情はある。情にすがるかはアンタら次第だ。吃驚して心臓が止まっても知らねえぞ。さぁ、最高の戦慄を楽しもうじゃないか。

 明かりの無い新月の夜。幽霊の正体見たり枯れ尾花。とばかりに恐れを知らない人間が歩んでいく。水路に沿って街路樹の如く並ぶ柳の木。酔って楽しみ気分が良い。そんな人間は我々の格好の餌。赤く染まった、その表情。瞬く間に青く染めましょう。
 灯かりなき水路。沿って並ぶは柳の木。一人の鴨、通りがかったが運の尽き。疎らに光る雨粒が、降って消えてまた光る。鼻を触って確かめて、雨が降らぬと知ったため。酔いの中でおかしいな。なんで雨が見えている?降って光る雨粒が、七色に輝き降りすさぶ。開いて閉じて変幻自在。自然じゃないと気付いたら、妖怪の世界に迷い込む。恐れ慄き立ちすさぶ。怯えて真開き呆然と、ただただ驚き逃げて行け。
 数多の人間を里の中で驚かせ空腹の飢餓から逃げ続けた私の教えを受けたのだ。見よ。見よ。闇夜という漆黒の黒一色に塗りつぶされた用紙に描かれる小傘の弾幕模様を。さあさあ、叫べ。無様に叫んで逃げて行け。でなければ。恐れて言葉を失って。腰を抜かせて気を失え。
 小傘の美しくも素晴らしい弾幕を見て、ついつい気が強くなってしまった。と、その段階で一つの疑問が浮かんだ。小傘のおどろおどろしくも不気味で、美しくも鮮やかな弾幕を見て、何故平然としていられるかという事だ。呆然としているには毅然と立っている様に見える。立ちながら気絶をしていた?いや、気絶をしていたと言うには泰然自若と言う言葉が当てはまる程に、平然と立っているように思える。まるで、腕組みをして立ちはだかっているようだ。
 私の疑問はすぐに解決した。小傘に弾幕の光源を目つぶしに逃げる様に伝えようとした。その際、弾幕の光源が私の疑問に思う人間を照らしたからだ。

「あ……」
「あんた達!!!」

 いってーーー!!!私が言葉を放つよりも早く。私にゲンコツを喰らわした。いや、正しくは、小傘をゲンコツで撃墜し私にゲンコツを喰らわした。刹那の時間と言うには、距離感が狂っているほどに早すぎる。なにより、姿を見せていた小傘なら兎も角、家屋の影から様子を窺っていた私にさえ気づいたのだ。早すぎるなんてものではない。
 さあさあ、今宵は店仕舞いだ。みんなが驚く見世物は終わりだ。どんなに恐怖を楽しむ仕掛けだって、種が割れてしまえば大したものでは無い。一人の珍客の来報で、半年間の努力は水の泡だ。私は、店仕舞いを告げる事も出来ず……そもそも、この行いはご法度だ。私と小傘。迷惑な妖怪退治は酔っぱらいの肴になり夜は明けていくのであった。

~~~~~

 その後……。
 私達を退治した博麗の巫女こと博麗霊夢は、神社に小傘を呼び有無を言わさず弾幕の披露をさせたそうだ。渦上に広がり狭まり雨粒の様に降り注ぐ七色の弾幕はまるで花火の様で、参拝者を楽しませたそうだ。火薬は要らず給料も必要ない呈の良いタダ働き要員として騒ぎを起こした彼女は見世物として最適だったのだろう。
 と、涙ながらに私に語った小傘であるが、彼女もタダでは起きない。霊夢からショバ代タダの屋台をあてがわれたそうで、霊夢としては弾幕披露で扱き使うからまともに使えないと思っていたそうだ。だが、小傘は職人仲間を募って職人仲間から手数料をせしめたらしい。小傘は手数料を安く提供し職人仲間は手数料ほぼタダで稼ぎが手に入ると、お互いに良い関係であったそうだ。
 結果、神社への賽銭は非常に少なかった(もっとも、妖怪退治が成功したので懐事情は非常に良かった点が納得いかなかった)

~~~~~

 その後……2

「いったーい」
「痛いって言っても、もう随分経つよね?もう痛みも引いたでしょ?」

 幻影の痛みが襲う私を気遣うつもりもない、この畜生は影狼。同じ草の根ネットワークの同志であり友人である。口悪く紹介するのも友人のよしみであるから目を瞑ってくれ。

「痛がってるんだから、もう少し気遣ってくれると嬉しいんだけど」
「だって、貴女が下手を打った自業自得じゃない」
「それでも撫でてくれるだけでも嬉しいんだけど。その毛むくじゃらの手で」
「ひ、人が気にしている事を……妖怪だけど」

 そんな他愛の無い話をしている内に、もう一人の同志にして友人が現れた。

「二人とも仲が良いわね」
「何処がだ」
「いや、仲が良いかは別にして、同志である事は変わらないぞ」

 もう一人の同志にして友人、わかさぎ姫が現れた。皮肉を含む言い方に、影狼は反論し私は皮肉を返しつつも同志を強調した。

「それよりも、蛮奇ちゃんが騒いでくれていたおかげで、人間の集まる場所や集まる時間帯が分かったわ」
「本当か姫」

 わかさぎ姫の報告に影狼が目を輝かせて反応する。いや、清々しい程に良い反応だ。

「それなら、私達三人で人間を驚かせる事も十分にできるな」
「ええ、水路を元に辿っているから間違いないわ。二人で驚かせて一人は見張り。完璧よ」

 私も賛同の言葉を贈った。今にして思えば、私は先日の新月に酔っていたのかもしれない。言わば、今も酒が入ったような状態だったのだ。だから、ここで静止できていれば、その後の結果を見ずに済んだかもしれない。
 昨日の今日。人里で騒ぎが起こったのだから、博麗の巫女がうろちょろしている可能性は十分にあった。だから、私達が何かを起こす前に、たまたま遭遇した霊夢に有無を言わさずにコテンパンにされた。私達三人……いや、今回は完全に通りすがりだった小傘も含めて四人が被害に遭った。暫くは人間を驚かそうなどとは思えなくなった。

だから……。

 今はもう大人しい。
ここまで読んで頂きありがとうございます。
まいん
http://twitter.com/mine_60
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5.100めそふらん削除
妖怪達の努力が垣間見れて面白かったです。
小傘ちゃんはやっぱり巻き込まれる…
6.100南条削除
面白かったです
小傘もさることながら、割としたたかに次を狙う草の根妖怪たちもいい味を出していると思いました。
8.90ローファル削除
面白かったです。
野良妖怪達の頑張る姿にほっこりしました。