※ この作品はジェネ内で書いてる甘リアリシリーズの出張版の短編で、魔理沙とアリスが仲良くしているのは仕様です。 やや刺激が強いので、服用の際は苦めのコーヒーを片手にどうぞ。
ある春目前の幻想郷のお話。
一番鳥の鳴き声で目を覚ました私は、傍らで眠るアリスを起こさないように注意してベッドから抜けだした。まだ冬の名残が残っているのか、少し肌寒い。
こっそり部屋を抜け出して、昨日のうちに人形達が沸かしてくれた朝風呂に入ってまずは目覚まし。温かいお湯が肌を滑る度、とても心地良い感覚に包まれる。昨日の夜にアリスに愛してもらったのを洗い流す感じがするのがちょっとだけ名残惜しい。
「・・・んー気持ちいいんだぜ。」
鎖骨の下のキスマークに視線をやって少しだけ赤面してから、窓の外に視線をやる。朝のだんだんと明るくなる空は今日も美しい。
人の気配に気が付いて、ふと後ろを振り返るとそこには、朝焼けの空よりも遥かに美しいアリスの姿があった。
「魔理沙。起きてたの?」
「あ・・・起こしたか、悪いな。」
「ううん、いいのよ。でも、ちょっと寒かったかな。」
「悪かったんだぜ。じゃあ、今から暖めてあげようか・・・?」
「うーん、嬉しいけど、風邪を引いちゃうかもしれないから今は・・・ね。」
「おお、それもそうだ。じゃあ、とりあえず・・・」
「ええ・・・」
手と手を繋ぎ、一緒に湯船に入ってから交わすおはようの口づけ。全身に活力と愛情に満ち、今日と言う日を元気よく生きるための魔法をそっとかけあう。どれくらいそうしていたか分かんなくなった所で離れて、赤くなるアリスを見る。
―おはよう
その一言で、笑顔になれる関係になってまだほんの少しだけど・・・幸せだなぁと実感する。のんびりと洗いあいっこをしたり、ゆっくり柔軟体操をするそんな春の朝のバスタイムを満喫し、すっかり温もった私達が、脱衣所で身支度を整えている時の事である。
「しっかし、育たないなぁ・・・」
「どうしたの、魔理沙?」
自分の胸元とアリスの胸元を見ながら大きくため息。下着を付け終えたアリスが、私の方へ視線を向ける、その優しい瞳を見つめて私は言葉を紡ぎ出す。
「アリス、申し訳無いんだぜ・・・私、貧相な胸だからさぁ。」
相変わらず育たない自分の胸に思わずため息をもう一つ。暫く触って、そのそんなに無い感触に少しだけ泣きそうになったが、そんな私を見てアリスがそっと肩に手を置いて優しく声をかけてくれた。
「気にしちゃダメよ。魔理沙は凄く魅力的な女の子だわ。」
「それでもだー、アリスのような胸には憧れるんだぜ。」
「うーん、でも肩凝りとか酷くなるわよ。」
「安心しろ、アリスが肩凝りになったら私がマッサージしてやるんだぜ。その時は私もお願いするんだぜ・・・何時になるかは分かんないけど。」
「魔理沙はまだこれから大きくなれるわ。人間だもの。」
「そうだな。」
たゆんと揺れるが、それでいて上品なアリスのバストに視線を戻す。アリスはそっぽを向いて、いそいそといつもの服に着替え始めるが、その姿を特等席で眺められる私は今間違いなく・・・
―春、真っ盛りである。
「今日は食材の買い出しに行かないとね。」
「おお、もうストックが無くなったか。」
「うん。やっぱり二人分だものねー」
いつもの服に着替え終わったアリスが同じくいつもの服に着替えた私の髪を梳きながらそう言った。同棲生活を始めて、一緒に一日を過ごすようになると、消耗品の消費が二倍になるのはやむを得ない事。
それよりも、今はこのアリスと一緒に寝ても起きても傍に居られる事が嬉しい。
「一緒に暮らしてる事を実感するんだぜー」
「ねー」
そう言いながらも私は懐中時計を取り出して時間をチェックした。そして、ある事を思い出す。この時間帯に買い物が出来てかつ、大変お安く良い物を仕入れる事の出来る場所の事を。
「アリス、朝市に行ってみないか?」
「朝市?」
「そうだぜ、この時間ならまだやってる筈だ。」
幻想郷各地の食料品の流通が活発に行われているこの時間帯なら、安く、しかも質の良い物が手に入りやすい、というわけだ。
アリスはほぉーという表情で頷き、私の方を見てウインクをしてくれる、決まりである。
「じゃあ、早速行ってみようか。」
「ええ。」
髪を梳き終わった私達は、防寒具を身につける。まだ冬の終わりでもあるこの時期の上空は、地上以上に冷えるからである。勿論、アリスが地底の異変の時に作ってくれたケープは絶対に外さない。
「そのケープ、お気に入りね。」
「アリスが作ってくれたから凄く、温かいんだぜ。」
「ありがと。」
差し出されたペアマフラーのもう片方を巻きつける。防寒対策はバッチリだ。私は箒を掴んでアリスと一緒にまだまだ夜の色の残る外へと駆けだす。
「今日は・・・前か後ろどっちがいい?」
「うーん、今日は後ろが良いな。」
「おーい、昨日散々抱きついただろー」
「いいじゃないの。それに、朝市やってる場所、魔理沙の方が詳しいんでしょ?」
「それもそうだな。じゃあ、帰りはアリスよろしくー」
「分かったわ。」
アリスと結ばれてから・・・もっととんでもないコトの上か下か前か後ろかも協議した事もあったが、今日はそんなの無し。
箒に腰かけ、アリスが抱きついてきた所で魔力を箒に込めてふわりと空に舞い上がる。
「魔理沙・・・あったかい。」
「私もだぜ。」
薄明かりの中、私達は人里の方へと向けて空を飛ぶ。途中、新聞を配り終えて疲れた表情の文やはたて等と挨拶をしたりしつつ目的地へ向かう、朝の幻想フライト。
スピードは控えめ、二人きりのフライトを楽しめるように・・・ね。
それでも、言うほど距離は無いから、あっと言う間に目的地は見えてくるんだけど。
「えーと、恋色航空よりお知らせしまーす。当機は間も無く目的地の市場へと到着しまーす。」
「ん?どうしたの、文献にあった外の世界の飛行機のマネ?」
「そうだぜー。お客様につきましては、シートベルトの確認を今一度お願いします・・・」
「そう言う事、わかった。」
腰に巻きついていた手がギュッと閉まり、私のお腹に少し力がかかる。そして、背中に当たるふくよかな感触。これがあれば、アリスが前の時にもこう言う風な感じにしてあげられるのに・・・
「シートベルト、締め直したわよ。」
「おう、良いんだぜ。じゃあ、降下するぜー」
眼下に広がる朝市の喧騒から少し離れた所に降り立った私達は、そっと一歩前へと踏み出す。自然と手は繋がれ、周りの人ごみに負けぬようにアリスをエスコートしつつ、必要な物を買っていく。人ごみを掻きわけても懸命に付いてくるアリスの手の温もりは、凄く温かい。
「次は・・・お肉かな。」
「じゃあ、あそこにしよう。鶏肉とか一杯並んでるぜー」
活気のある市場に出来た、私とアリスだけの小さな恋色の世界。その世界の中で、私達の表情は凄く輝いていた・・・
「ホント、これだけの物がこの値段。有難いわー」
「いや全く。来て良かったなぁー」
市場に設けられた食堂で、朝食を食べる私達。ご飯とお味噌汁だけは共通だけど、おかずは二人で半分こ、こうすれば色んな物が食べられるのである。卵焼きをお箸で切り分けて、そっと一つアリスの口に運んであげる。
ちょっと照れくさそうにはにかんでるアリスもとっても可愛いんだぜ。
「それに、この朝ご飯。それだけでも価値はあるわ。」
「・・・私のとどっちが美味しい?」
「そんなの聞くまでも無いわ、魔理沙の方よ。でも、どっちもとっても美味しいわ。」
「ありがとな、アリス。あ、ご飯粒付いてるぜ?」
「あら、やだ・・・どこ?」
「じっとしてて?」
アリスの柔らかい頬に指を滑らす、美しい張りのある肌の感触を少しだけ感じながらご飯粒を取り除いた。そして、そのまま口に運んだ。
「魔理沙!?」
「へへっ、ご飯残したら罰が当たるんだぜ。」
「もう、皆が見てるじゃない!」
「いいじゃないかー、もう皆には知られてるんだしー」
「まぁ・・・それは、そうだけど・・・・・ねぇ。」
赤面して俯くアリスはとっても愛おしい。周知の仲ではあるが、やっぱりアリスは恥ずかしがりな所があるので、こういう反応を示す。でも、時にはアリスの方が私よりも大胆な行動を取る事もあるので、それはお互い様。
暫くは無言で、竹の子の田楽で焚きたてのご飯を食べていたが、落ち着きを取り戻したのを見計らい、私はアリスにそっと声をかけた。
「それにしても、こうやって朝から二人きりで外食するのって初めてだな。」
「博麗神社や紅魔館とかで呼ばれた事はあるけど、二人っきりじゃないもんねー」
「はは、確かに。アリスとこの一時を過ごせて、嬉しく思う。」
「魔理沙・・・」
朝から大好きな人と外食、それも贅沢なお話だ。アリスの優しい微笑みに、こちらの表情まで緩んでいく。美味しいご飯と、様々なおかずをお腹一杯平らげた私達は、お茶を飲みながらこの市場の喧騒をしばし楽しむ。
世間話をする者、競りの話をする者・・・・・食堂の片隅には、買い出しに来ていると思われる霊夢、妖夢や幽々子といった御馴染の姿も見える。
こうして、何気なく流れる日常の中で、私は大好きな人の傍に居て気持ちを通じ合わせていられる事が何よりの幸せだなって思う。
特別な日、って言ったら言い過ぎかもしれないけど、こうやって毎日を特別な日に変えてくれる大好きなパートナー。
そんな、アリスの七色に変わる可愛い表情を堪能しながら、食後のお茶を飲む。
「あぁ、お腹一杯だぜ。」
「よく食べたわね、魔理沙。」
「だが、栄養は胸には行かないんだぜー」
視線を落とし、朝起きてすぐからの問題に立ち帰る。私も十分に大人に近い年齢になってきているが、相変わらずのつるぺたぶり。
それでも、太ったりはしないように凄く気を使ってはいる。運動を欠かさないようにして、ちゃんと身体を鍛えているのだ。魔法使いだって、身体は鍛えておかないと強い魔法は撃てないんだぜ。
喧騒の中で、自分の胸をアリスの胸をひたすら見比べていると見かねたアリスが私のほうに顔を寄せて、耳元でこんな事を囁いてきた。
「どんな胸でも、魔理沙は可愛いのよ。私にとっては、ね。」
「アリス・・・」
「しょげないしょげない。元気が無いのは魔理沙らしくないわ。」
どんな魔法よりも元気の出るのがアリスの言葉、春の早朝の太陽のように穏やかで優しいその笑顔に照らされて、私も笑顔になる。
「うん、良い笑顔。」
「アリスだって。」
笑いあえるのって、ホント素晴らしい。たとえどんなに苦しい事があっても、大好きな人となら乗り越えて行ける・・・そんな気がするから。
穏やかな空気に満ち満ちた食卓であったが、食堂から人が少なくなり始めるのを見て私は懐中時計を眺める。
そろそろ研究に丁度良い時間かな。すっかり空になった湯呑みをお盆の上に置いて、アリスが纏めてくれたお皿と共に返却口に返す。洗い物をしているおばさんにご馳走様を言うのも忘れちゃいけない。
そして、アリスの元へ戻り彼女の手を取る。
「さあて、そろそろ帰るんだぜ。」
「そうね。今日も研究、頑張りましょうか。」
「だなぁ。手伝えることがあったら、言ってくれよー」
「ええ。魔理沙は何か覚えたい呪文とかない?」
「うーん、ヒーリングとか教えてくれたから今のところはいいや。アリスも自分の事があるだろうしー」
「ありがと、魔理沙。何時でも言ってね?」
「おう。」
他人を想う気持ちを覚えた私。かつては、気ままに空を飛び、気ままに好きな事して暮らしてたけど、他人の気持ちに想い、応える事の素敵さをアリスは教えてくれた。
もっと色んな事をお互いに教えあえるようになりたいなぁと淡い願望を抱きつつ食堂を後にする。アリスに箒を渡して後ろに回り込んで、マフラーを巻きなおしてすぐに飛び立つ準備は完了する。買った食材は、人形達が持ってくれるから安心である。
「じゃあ、魔理沙。しっかり捕まっててね。」
「おう。任せるぜー」
そう言ってアリスの背中に全てを預ける。お揃いのシャンプーの香りが微かに鼻をくすぐった。満腹感がもたらす心地良さと合わさって、だんだん瞼が重くなってくる。
「アリスぅ・・・眠いよぉ。」
「良いわよ。家までゆっくりお休み。」
「そうさせて貰うんだぜ。ありがとな、アリス。」
アリスも背中になると寝てるケースがある、だからこれもお互い様。温かい背中越しに感じるアリスの鼓動が私の鼓動とシンクロし始める。
トクン、トクンと優しい鼓動が今日のフライトの子守唄。
「風が出て来たわね」
「んー」
ばたつくお下げ髪が頬に当たった、それくらい強い風が吹いている。アリスがスピードを落として安全運転に移行した。まぁ、これはいつもの事だけど、アリスは絶対に無理をしないから安心してのんびりとしていられる。
安全運転に映って飛んでいると、さぁっと、春一番の風が凪いだ。上空に居るとその春一番も無視できない強風になるわけで。
「きゃっ!揺れる!!」
「落ち着け、アリス。こうやって、ほら・・・!」
箒を使った飛行に慣れていないアリスの姿勢が乱れたので、私はそっと箒に魔力を送って姿勢を制御する。でも、揺れはなかなか収まらない。私はアリスにしがみ付きながら目を閉じて箒のコントロールを懸命に行う。
アリスの魔力と私の魔力もシンクロし、混ざり合って共鳴し増幅されていく。春一番の風に負けない私達の魔力が箒に満ちて行き、徐々に水平飛行へと移る。
私達はコトバやココロだけじゃなくて、魔力も通じ合わせる事が出来る・・・
普通のカップルじゃ出来ない、特別な力を通じたふれあいも私達の大切なコミュニケーション。
春一番に煽られて眠気が吹っ飛んだ私は、箒が安定性を取り戻した所でアリスの方を見る。頬を赤らめて視線を下に向けているのが気になった。
「どうした、アリス?」
「・・・・どこ触ってんの?」
その言葉で自分の手が何処にあるのかを確かめた。手には柔らかで、それでいて張りのある何とも言えない夢見心地の感触・・・としか、今の私の言葉では説明できない。
頬を赤らめたままそっぽを向くアリスに私は慌てて弁解を試みる。
「あ、これは・・・そう、耐震対策だぜ!こうやって、揺れないようにだ!!」
そのまま勢いで持ちあげてみると、ぽよーんとした感触が帰って来た。この感触を知っているのは、アリス以外では定期的に触らせて貰っている私だけだと思う。
「確かに揺れたけど、流石にこれは・・・」
「んー、誰も見ていないようだが。」
「椛とかに見られてたらどうするのよ!」
「おお、千里眼の存在を失念していたぜ!」
胸に当てた手を怒るアリスの腰の所に戻して、ぎゅっと抱きつく。んもーとか色々言ってるアリスの耳元に唇を寄せてそっと囁いた。
「二人とも落ちないようにするので必死で気が付かなかった・・・ゴメン。」
「魔理沙・・・」
俯いて暫く黙りこくるアリス。またびゅうと吹く春一番の風に今度は調子を合わせて風に乗って、幻想の空を舞う。
「・・・魔法のアシスト、ありがとう。私だけの魔力だと不慣れだったしー」
「おう。アリスのアシストなら、何を差し置いてもするんだぜ。」
「でも・・・触るのは、二人きりの時だけに・・・ね。」
「今も空の上で二人っきりだぜー」
「もう!魔理沙ったら!!」
俯き恥じらいながら言葉を紡ぎ出すアリスも可愛い。背中に顔を埋めていた私の頬が緩みっぱなしだ。
そうこうしている内に私の家が見えて来た。アリスはゆっくりと高度を落として、そっと地面に足を付けた。私もそれに倣って足を付けて、大地を踏みしめる。春一番が魔法の森を揺らし、大好きな森の香りが辺りに満ちて行く。
「無事に戻ってこれたな。」
「ええ、風に煽られた時はどうしようかと思ったけど。」
「まぁ、怪我とか無くて良かったじゃないか。」
「それもそうねー」
魔力施錠にそっと魔力を流し込んで解錠、後ろのアリスに先に入って貰う。そして、私も後に続く。すると、何かに気が付いたアリスが靴を下駄箱に入れながら私に。
「魔理沙、胸を気にするのなら、猫背は良くないわ。ほら、姿勢を正す!」
「へいへーい。」
背中に手を置いて、ちょっと猫背だった背中を真っすぐに伸ばしてくれた。今だ自己主張をしていないこの私の胸であるが、いつかはアリスのようなあげた時にぽよーんとした感覚を持つ理想に近づけば良いなぁと思いながら箒を玄関に立てた。
そして、アリスの上着を預かり、私の上着の傍に仲良く並べてハンガーにかけて吊るす。寄り添うようにかかったその上着が今の私達の関係を表しているみたいで少しだけ照れくさくなった。
下駄箱に私の靴を入れてくれたアリスと手を繋いで居間に戻り、人形達が買った食材の整理整頓をする光景を眺めていると、少しホッとしたのか一度は吹き飛んだ眠気がまた蘇って来た。
「あぁ、まだ眠さが残るんだぜー」
「魔理沙、寝るの?」
「おう、朝早かったしなぁ。研究の時に眠さで事故でも起こしたら、それこそアリスに迷惑がかかってしまうんだぜ。」
瞼が重くなってきた、このまま寝たら、とっても心地よい夢が見れそうである。背筋を気にしながら寝室の方へと向かっていると、アリスが私の右肩にそっと手を置いた。
「魔理沙が気にしてる胸の問題の事で言い忘れた事があるんだけど・・」
「うん?」
「背筋伸ばす以外にも、もう一つ効果的な方法があるわ。」
そう言いながらアリスは、私の後ろから抱きついてきた。そして、先ほどの私と同じような姿勢を取る。アリスの細くて綺麗な指が、私の胸に回って来た所でアリスは私の耳元で私がしたようにか細い声で囁く。
「さっきのお返しもあるし・・・ね。」
「成程・・・そうきたか。だが、二人っきりじゃないと嫌だって言ってたよな。」
「・・・ええ。」
「・・・分かったんだぜ。アリス、じゃあ、行こうか。」
自分で言ったその一言が恥ずかしくて顔から火が出そうになったけど、私はアリスの手を取って一緒に寝室に飛び込んだ。ベッドに腰掛けて、キスをして、そっとアリスの手が胸に触れる。そして、愛を分かち合いながら過ごす春の朝の出来事。
それは、心温まる愛に満たされた私達のたった一度しか無い、人生と言う名の物語の大切な記憶・・・
―春はあげぽよ やうやう赤くなりゆくアリスの柔肌は少しあかりて 色めきだちたるアリスの声の細くたなびきたる―
(魔理沙之草紙序段より一部抜粋)
ある春目前の幻想郷のお話。
一番鳥の鳴き声で目を覚ました私は、傍らで眠るアリスを起こさないように注意してベッドから抜けだした。まだ冬の名残が残っているのか、少し肌寒い。
こっそり部屋を抜け出して、昨日のうちに人形達が沸かしてくれた朝風呂に入ってまずは目覚まし。温かいお湯が肌を滑る度、とても心地良い感覚に包まれる。昨日の夜にアリスに愛してもらったのを洗い流す感じがするのがちょっとだけ名残惜しい。
「・・・んー気持ちいいんだぜ。」
鎖骨の下のキスマークに視線をやって少しだけ赤面してから、窓の外に視線をやる。朝のだんだんと明るくなる空は今日も美しい。
人の気配に気が付いて、ふと後ろを振り返るとそこには、朝焼けの空よりも遥かに美しいアリスの姿があった。
「魔理沙。起きてたの?」
「あ・・・起こしたか、悪いな。」
「ううん、いいのよ。でも、ちょっと寒かったかな。」
「悪かったんだぜ。じゃあ、今から暖めてあげようか・・・?」
「うーん、嬉しいけど、風邪を引いちゃうかもしれないから今は・・・ね。」
「おお、それもそうだ。じゃあ、とりあえず・・・」
「ええ・・・」
手と手を繋ぎ、一緒に湯船に入ってから交わすおはようの口づけ。全身に活力と愛情に満ち、今日と言う日を元気よく生きるための魔法をそっとかけあう。どれくらいそうしていたか分かんなくなった所で離れて、赤くなるアリスを見る。
―おはよう
その一言で、笑顔になれる関係になってまだほんの少しだけど・・・幸せだなぁと実感する。のんびりと洗いあいっこをしたり、ゆっくり柔軟体操をするそんな春の朝のバスタイムを満喫し、すっかり温もった私達が、脱衣所で身支度を整えている時の事である。
「しっかし、育たないなぁ・・・」
「どうしたの、魔理沙?」
自分の胸元とアリスの胸元を見ながら大きくため息。下着を付け終えたアリスが、私の方へ視線を向ける、その優しい瞳を見つめて私は言葉を紡ぎ出す。
「アリス、申し訳無いんだぜ・・・私、貧相な胸だからさぁ。」
相変わらず育たない自分の胸に思わずため息をもう一つ。暫く触って、そのそんなに無い感触に少しだけ泣きそうになったが、そんな私を見てアリスがそっと肩に手を置いて優しく声をかけてくれた。
「気にしちゃダメよ。魔理沙は凄く魅力的な女の子だわ。」
「それでもだー、アリスのような胸には憧れるんだぜ。」
「うーん、でも肩凝りとか酷くなるわよ。」
「安心しろ、アリスが肩凝りになったら私がマッサージしてやるんだぜ。その時は私もお願いするんだぜ・・・何時になるかは分かんないけど。」
「魔理沙はまだこれから大きくなれるわ。人間だもの。」
「そうだな。」
たゆんと揺れるが、それでいて上品なアリスのバストに視線を戻す。アリスはそっぽを向いて、いそいそといつもの服に着替え始めるが、その姿を特等席で眺められる私は今間違いなく・・・
―春、真っ盛りである。
「今日は食材の買い出しに行かないとね。」
「おお、もうストックが無くなったか。」
「うん。やっぱり二人分だものねー」
いつもの服に着替え終わったアリスが同じくいつもの服に着替えた私の髪を梳きながらそう言った。同棲生活を始めて、一緒に一日を過ごすようになると、消耗品の消費が二倍になるのはやむを得ない事。
それよりも、今はこのアリスと一緒に寝ても起きても傍に居られる事が嬉しい。
「一緒に暮らしてる事を実感するんだぜー」
「ねー」
そう言いながらも私は懐中時計を取り出して時間をチェックした。そして、ある事を思い出す。この時間帯に買い物が出来てかつ、大変お安く良い物を仕入れる事の出来る場所の事を。
「アリス、朝市に行ってみないか?」
「朝市?」
「そうだぜ、この時間ならまだやってる筈だ。」
幻想郷各地の食料品の流通が活発に行われているこの時間帯なら、安く、しかも質の良い物が手に入りやすい、というわけだ。
アリスはほぉーという表情で頷き、私の方を見てウインクをしてくれる、決まりである。
「じゃあ、早速行ってみようか。」
「ええ。」
髪を梳き終わった私達は、防寒具を身につける。まだ冬の終わりでもあるこの時期の上空は、地上以上に冷えるからである。勿論、アリスが地底の異変の時に作ってくれたケープは絶対に外さない。
「そのケープ、お気に入りね。」
「アリスが作ってくれたから凄く、温かいんだぜ。」
「ありがと。」
差し出されたペアマフラーのもう片方を巻きつける。防寒対策はバッチリだ。私は箒を掴んでアリスと一緒にまだまだ夜の色の残る外へと駆けだす。
「今日は・・・前か後ろどっちがいい?」
「うーん、今日は後ろが良いな。」
「おーい、昨日散々抱きついただろー」
「いいじゃないの。それに、朝市やってる場所、魔理沙の方が詳しいんでしょ?」
「それもそうだな。じゃあ、帰りはアリスよろしくー」
「分かったわ。」
アリスと結ばれてから・・・もっととんでもないコトの上か下か前か後ろかも協議した事もあったが、今日はそんなの無し。
箒に腰かけ、アリスが抱きついてきた所で魔力を箒に込めてふわりと空に舞い上がる。
「魔理沙・・・あったかい。」
「私もだぜ。」
薄明かりの中、私達は人里の方へと向けて空を飛ぶ。途中、新聞を配り終えて疲れた表情の文やはたて等と挨拶をしたりしつつ目的地へ向かう、朝の幻想フライト。
スピードは控えめ、二人きりのフライトを楽しめるように・・・ね。
それでも、言うほど距離は無いから、あっと言う間に目的地は見えてくるんだけど。
「えーと、恋色航空よりお知らせしまーす。当機は間も無く目的地の市場へと到着しまーす。」
「ん?どうしたの、文献にあった外の世界の飛行機のマネ?」
「そうだぜー。お客様につきましては、シートベルトの確認を今一度お願いします・・・」
「そう言う事、わかった。」
腰に巻きついていた手がギュッと閉まり、私のお腹に少し力がかかる。そして、背中に当たるふくよかな感触。これがあれば、アリスが前の時にもこう言う風な感じにしてあげられるのに・・・
「シートベルト、締め直したわよ。」
「おう、良いんだぜ。じゃあ、降下するぜー」
眼下に広がる朝市の喧騒から少し離れた所に降り立った私達は、そっと一歩前へと踏み出す。自然と手は繋がれ、周りの人ごみに負けぬようにアリスをエスコートしつつ、必要な物を買っていく。人ごみを掻きわけても懸命に付いてくるアリスの手の温もりは、凄く温かい。
「次は・・・お肉かな。」
「じゃあ、あそこにしよう。鶏肉とか一杯並んでるぜー」
活気のある市場に出来た、私とアリスだけの小さな恋色の世界。その世界の中で、私達の表情は凄く輝いていた・・・
「ホント、これだけの物がこの値段。有難いわー」
「いや全く。来て良かったなぁー」
市場に設けられた食堂で、朝食を食べる私達。ご飯とお味噌汁だけは共通だけど、おかずは二人で半分こ、こうすれば色んな物が食べられるのである。卵焼きをお箸で切り分けて、そっと一つアリスの口に運んであげる。
ちょっと照れくさそうにはにかんでるアリスもとっても可愛いんだぜ。
「それに、この朝ご飯。それだけでも価値はあるわ。」
「・・・私のとどっちが美味しい?」
「そんなの聞くまでも無いわ、魔理沙の方よ。でも、どっちもとっても美味しいわ。」
「ありがとな、アリス。あ、ご飯粒付いてるぜ?」
「あら、やだ・・・どこ?」
「じっとしてて?」
アリスの柔らかい頬に指を滑らす、美しい張りのある肌の感触を少しだけ感じながらご飯粒を取り除いた。そして、そのまま口に運んだ。
「魔理沙!?」
「へへっ、ご飯残したら罰が当たるんだぜ。」
「もう、皆が見てるじゃない!」
「いいじゃないかー、もう皆には知られてるんだしー」
「まぁ・・・それは、そうだけど・・・・・ねぇ。」
赤面して俯くアリスはとっても愛おしい。周知の仲ではあるが、やっぱりアリスは恥ずかしがりな所があるので、こういう反応を示す。でも、時にはアリスの方が私よりも大胆な行動を取る事もあるので、それはお互い様。
暫くは無言で、竹の子の田楽で焚きたてのご飯を食べていたが、落ち着きを取り戻したのを見計らい、私はアリスにそっと声をかけた。
「それにしても、こうやって朝から二人きりで外食するのって初めてだな。」
「博麗神社や紅魔館とかで呼ばれた事はあるけど、二人っきりじゃないもんねー」
「はは、確かに。アリスとこの一時を過ごせて、嬉しく思う。」
「魔理沙・・・」
朝から大好きな人と外食、それも贅沢なお話だ。アリスの優しい微笑みに、こちらの表情まで緩んでいく。美味しいご飯と、様々なおかずをお腹一杯平らげた私達は、お茶を飲みながらこの市場の喧騒をしばし楽しむ。
世間話をする者、競りの話をする者・・・・・食堂の片隅には、買い出しに来ていると思われる霊夢、妖夢や幽々子といった御馴染の姿も見える。
こうして、何気なく流れる日常の中で、私は大好きな人の傍に居て気持ちを通じ合わせていられる事が何よりの幸せだなって思う。
特別な日、って言ったら言い過ぎかもしれないけど、こうやって毎日を特別な日に変えてくれる大好きなパートナー。
そんな、アリスの七色に変わる可愛い表情を堪能しながら、食後のお茶を飲む。
「あぁ、お腹一杯だぜ。」
「よく食べたわね、魔理沙。」
「だが、栄養は胸には行かないんだぜー」
視線を落とし、朝起きてすぐからの問題に立ち帰る。私も十分に大人に近い年齢になってきているが、相変わらずのつるぺたぶり。
それでも、太ったりはしないように凄く気を使ってはいる。運動を欠かさないようにして、ちゃんと身体を鍛えているのだ。魔法使いだって、身体は鍛えておかないと強い魔法は撃てないんだぜ。
喧騒の中で、自分の胸をアリスの胸をひたすら見比べていると見かねたアリスが私のほうに顔を寄せて、耳元でこんな事を囁いてきた。
「どんな胸でも、魔理沙は可愛いのよ。私にとっては、ね。」
「アリス・・・」
「しょげないしょげない。元気が無いのは魔理沙らしくないわ。」
どんな魔法よりも元気の出るのがアリスの言葉、春の早朝の太陽のように穏やかで優しいその笑顔に照らされて、私も笑顔になる。
「うん、良い笑顔。」
「アリスだって。」
笑いあえるのって、ホント素晴らしい。たとえどんなに苦しい事があっても、大好きな人となら乗り越えて行ける・・・そんな気がするから。
穏やかな空気に満ち満ちた食卓であったが、食堂から人が少なくなり始めるのを見て私は懐中時計を眺める。
そろそろ研究に丁度良い時間かな。すっかり空になった湯呑みをお盆の上に置いて、アリスが纏めてくれたお皿と共に返却口に返す。洗い物をしているおばさんにご馳走様を言うのも忘れちゃいけない。
そして、アリスの元へ戻り彼女の手を取る。
「さあて、そろそろ帰るんだぜ。」
「そうね。今日も研究、頑張りましょうか。」
「だなぁ。手伝えることがあったら、言ってくれよー」
「ええ。魔理沙は何か覚えたい呪文とかない?」
「うーん、ヒーリングとか教えてくれたから今のところはいいや。アリスも自分の事があるだろうしー」
「ありがと、魔理沙。何時でも言ってね?」
「おう。」
他人を想う気持ちを覚えた私。かつては、気ままに空を飛び、気ままに好きな事して暮らしてたけど、他人の気持ちに想い、応える事の素敵さをアリスは教えてくれた。
もっと色んな事をお互いに教えあえるようになりたいなぁと淡い願望を抱きつつ食堂を後にする。アリスに箒を渡して後ろに回り込んで、マフラーを巻きなおしてすぐに飛び立つ準備は完了する。買った食材は、人形達が持ってくれるから安心である。
「じゃあ、魔理沙。しっかり捕まっててね。」
「おう。任せるぜー」
そう言ってアリスの背中に全てを預ける。お揃いのシャンプーの香りが微かに鼻をくすぐった。満腹感がもたらす心地良さと合わさって、だんだん瞼が重くなってくる。
「アリスぅ・・・眠いよぉ。」
「良いわよ。家までゆっくりお休み。」
「そうさせて貰うんだぜ。ありがとな、アリス。」
アリスも背中になると寝てるケースがある、だからこれもお互い様。温かい背中越しに感じるアリスの鼓動が私の鼓動とシンクロし始める。
トクン、トクンと優しい鼓動が今日のフライトの子守唄。
「風が出て来たわね」
「んー」
ばたつくお下げ髪が頬に当たった、それくらい強い風が吹いている。アリスがスピードを落として安全運転に移行した。まぁ、これはいつもの事だけど、アリスは絶対に無理をしないから安心してのんびりとしていられる。
安全運転に映って飛んでいると、さぁっと、春一番の風が凪いだ。上空に居るとその春一番も無視できない強風になるわけで。
「きゃっ!揺れる!!」
「落ち着け、アリス。こうやって、ほら・・・!」
箒を使った飛行に慣れていないアリスの姿勢が乱れたので、私はそっと箒に魔力を送って姿勢を制御する。でも、揺れはなかなか収まらない。私はアリスにしがみ付きながら目を閉じて箒のコントロールを懸命に行う。
アリスの魔力と私の魔力もシンクロし、混ざり合って共鳴し増幅されていく。春一番の風に負けない私達の魔力が箒に満ちて行き、徐々に水平飛行へと移る。
私達はコトバやココロだけじゃなくて、魔力も通じ合わせる事が出来る・・・
普通のカップルじゃ出来ない、特別な力を通じたふれあいも私達の大切なコミュニケーション。
春一番に煽られて眠気が吹っ飛んだ私は、箒が安定性を取り戻した所でアリスの方を見る。頬を赤らめて視線を下に向けているのが気になった。
「どうした、アリス?」
「・・・・どこ触ってんの?」
その言葉で自分の手が何処にあるのかを確かめた。手には柔らかで、それでいて張りのある何とも言えない夢見心地の感触・・・としか、今の私の言葉では説明できない。
頬を赤らめたままそっぽを向くアリスに私は慌てて弁解を試みる。
「あ、これは・・・そう、耐震対策だぜ!こうやって、揺れないようにだ!!」
そのまま勢いで持ちあげてみると、ぽよーんとした感触が帰って来た。この感触を知っているのは、アリス以外では定期的に触らせて貰っている私だけだと思う。
「確かに揺れたけど、流石にこれは・・・」
「んー、誰も見ていないようだが。」
「椛とかに見られてたらどうするのよ!」
「おお、千里眼の存在を失念していたぜ!」
胸に当てた手を怒るアリスの腰の所に戻して、ぎゅっと抱きつく。んもーとか色々言ってるアリスの耳元に唇を寄せてそっと囁いた。
「二人とも落ちないようにするので必死で気が付かなかった・・・ゴメン。」
「魔理沙・・・」
俯いて暫く黙りこくるアリス。またびゅうと吹く春一番の風に今度は調子を合わせて風に乗って、幻想の空を舞う。
「・・・魔法のアシスト、ありがとう。私だけの魔力だと不慣れだったしー」
「おう。アリスのアシストなら、何を差し置いてもするんだぜ。」
「でも・・・触るのは、二人きりの時だけに・・・ね。」
「今も空の上で二人っきりだぜー」
「もう!魔理沙ったら!!」
俯き恥じらいながら言葉を紡ぎ出すアリスも可愛い。背中に顔を埋めていた私の頬が緩みっぱなしだ。
そうこうしている内に私の家が見えて来た。アリスはゆっくりと高度を落として、そっと地面に足を付けた。私もそれに倣って足を付けて、大地を踏みしめる。春一番が魔法の森を揺らし、大好きな森の香りが辺りに満ちて行く。
「無事に戻ってこれたな。」
「ええ、風に煽られた時はどうしようかと思ったけど。」
「まぁ、怪我とか無くて良かったじゃないか。」
「それもそうねー」
魔力施錠にそっと魔力を流し込んで解錠、後ろのアリスに先に入って貰う。そして、私も後に続く。すると、何かに気が付いたアリスが靴を下駄箱に入れながら私に。
「魔理沙、胸を気にするのなら、猫背は良くないわ。ほら、姿勢を正す!」
「へいへーい。」
背中に手を置いて、ちょっと猫背だった背中を真っすぐに伸ばしてくれた。今だ自己主張をしていないこの私の胸であるが、いつかはアリスのようなあげた時にぽよーんとした感覚を持つ理想に近づけば良いなぁと思いながら箒を玄関に立てた。
そして、アリスの上着を預かり、私の上着の傍に仲良く並べてハンガーにかけて吊るす。寄り添うようにかかったその上着が今の私達の関係を表しているみたいで少しだけ照れくさくなった。
下駄箱に私の靴を入れてくれたアリスと手を繋いで居間に戻り、人形達が買った食材の整理整頓をする光景を眺めていると、少しホッとしたのか一度は吹き飛んだ眠気がまた蘇って来た。
「あぁ、まだ眠さが残るんだぜー」
「魔理沙、寝るの?」
「おう、朝早かったしなぁ。研究の時に眠さで事故でも起こしたら、それこそアリスに迷惑がかかってしまうんだぜ。」
瞼が重くなってきた、このまま寝たら、とっても心地よい夢が見れそうである。背筋を気にしながら寝室の方へと向かっていると、アリスが私の右肩にそっと手を置いた。
「魔理沙が気にしてる胸の問題の事で言い忘れた事があるんだけど・・」
「うん?」
「背筋伸ばす以外にも、もう一つ効果的な方法があるわ。」
そう言いながらアリスは、私の後ろから抱きついてきた。そして、先ほどの私と同じような姿勢を取る。アリスの細くて綺麗な指が、私の胸に回って来た所でアリスは私の耳元で私がしたようにか細い声で囁く。
「さっきのお返しもあるし・・・ね。」
「成程・・・そうきたか。だが、二人っきりじゃないと嫌だって言ってたよな。」
「・・・ええ。」
「・・・分かったんだぜ。アリス、じゃあ、行こうか。」
自分で言ったその一言が恥ずかしくて顔から火が出そうになったけど、私はアリスの手を取って一緒に寝室に飛び込んだ。ベッドに腰掛けて、キスをして、そっとアリスの手が胸に触れる。そして、愛を分かち合いながら過ごす春の朝の出来事。
それは、心温まる愛に満たされた私達のたった一度しか無い、人生と言う名の物語の大切な記憶・・・
―春はあげぽよ やうやう赤くなりゆくアリスの柔肌は少しあかりて 色めきだちたるアリスの声の細くたなびきたる―
(魔理沙之草紙序段より一部抜粋)
落ちがよかったです
相変わらずの程よい糖分っすねw
ニヤニヤする頬を押さえながらゆっくりじっくり堪能させてもらいました。ってかそうしないと悶え殺される(笑)
砂糖が大量漏れ。ダム湖並みに吐いた。
まさにGJ!