マムシんとブラウンは焦っていた。何故ならここ数ヶ月のツレがいとも簡単に撃破されてしまったからだ。マムシんはコントローラーパネルを叩き、酸性ミサイルやレーザーキャノンを撃ちまくる。焦って撃ったミサイルは標的に当たることなく民家へと墜落していく。それをかき分ける様にぬえとマミゾウは飛び、重々しい装甲にダメージを与えていった。そして遂に装甲にヒビが入って、ぬえとマミゾウはハイタッチを交わす。
「……フッ、まあ想定内でしょう。だがこの装甲に傷を負わせた事、高くつきますよ!!!」
マムシんはコントローラーパネルの横にある"厳重注意"と書かれたガラスを叩き割り、レバーを引く。すると装甲から巨大なスピーカーが出現し、超音波と大音量のコンボを発動する。あまりの音量に民家は耐えきれず、ガラスがどんどん砕けていき、しばらくすれば辺りは更地となり、見渡しが良くなった。だがマムシんはゼェゼェを息を荒げ、モニターから目を離す。どうやら長時間の音波攻撃を発動したせいで身体に影響が出たのだろう。水を一口飲み、再度モニターに目をやるとそこにはヘッドフォンを装着したマミゾウがいた。
「悪いがお前達の部下から装備品を拝借してね。音波攻撃が来た時に備えておいたんじゃよ。まあヘッドフォンを付けた獣に興味を抱くのはいいが、後ろを心配した方がいいんじゃないかのう?」
次の瞬間、マムシんの乗っていたロボが崩壊し操縦席が火に包まれた。画面にヒビが入ったモニターを確認すると、ぬえが何やらコアの様な物を持ち上げており、マミゾウに自慢している。きっとメインコアを破壊されたと確信したマムシんは急いでテレポート機能を作動させ、地上に降りる。しかしどうやら出待ちされていたらしく、ヨシタカ同様ボコボコにされてしまった。
最後の一体に向き合いそれぞれ武器を構えていたが、ここでブラウンの操縦席に通信音が鳴り響く。通信から伝言を受け取ったブラウンはすぐさま方向転換し、幻想郷を去ろうとした。しかしぬえとマミゾウがそれを許す訳もなく、敵の本拠地に向かうべく両翼に捕まり、畜生界へ向かう。
ブラウンは荒野の地面に着地し、指定された場所へ向かった。極力信じたくないと心に呟きながら奥へと進むが、そこにあった真実はあまりにも残酷だった。そこには心臓が破裂した遺体があり、その遺体にブラウンは見覚えがあった。わなわなと震える手ですくい上げ、再度自分の組長である事を確認する。
次の瞬間、右斜めの方から弾幕が飛んで来て、ロボが装備していたジェットパックが発火した。ロボの正面には魔理沙が立っており、何やらリュックを背負っている。
「よう、デカブツ。来て早々なんだが、私の新技の的になってもらうぜ!喰らえ!よく分からないミサイル攻撃!!」
すると魔理沙は背中のリュックからバズーカを取り出し、ロボ目掛けて発射する。しかし弾はあっさりと片手で防がれ、ノーダメージの結果に終わった。ロボがハンマーを振りかざし、反撃を繰り出すが、突然ロボは動かなくなってしまった。ブラウンは計器を見るが、原因不明の電波により操縦が効かなくなっている。すぐさまブラウンはレバーを引き、緊急脱出した。
[モード『鬼神ガジェット5』(G5)]
動かなくなったロボからパーツが飛んでいき、ブラウンの体を包んでいく。最後のパーツがハマると、ライトセーバーの様な刀を手に取り、魔理沙と霊夢に向き合う。
「全く、ようやく終わりと思えばすぐこれだわ。」
「でもここが正念場。行くわよ!!!」
合流した永琳達と共に霊夢達は立ち上がる。
「おやおや、負けてしまうとは情けない。」
「……うるさい。」
俺は今、どこか分からない黒い空間にいる。経緯としては霊夢にトドメを刺されかけたところからになるが、それ以降の記憶が一切ない。どうやってここに来たのか、何故目の前に奴がいるのか、色々考える前に自分が負けた事を察する。俺は背を向け、暗い空間を歩き出す。
「正直、惜しかったね。君は全てを捧げても彼女達には勝てなかった。もう少し泣くかと思ったんだが、まあ最低限の仕事はしたから良しとしよう。」
相変わらずこの人はしつこい。龍陽の時はもっと躊躇があったのだが、何故か俺に対しては現れては世間話をしてくる。だが貴重なデータを貰っている以上、文句は言えない立場なので我慢している。奴は少し離れ、話を続ける。
「負けてしまった訳だが、これから君はどうするつもりだ?私と同じ様に宙を彷徨い続ける運命を辿るかい?まあ私からしたら君達二人は他より優秀なモルモットに過ぎないが。」
「お前もそうか、ドクター。結局俺達は誰かに操られないと生きていけない、いわゆる生きたマリオネットだ。もうやる気も希望も消えた。後は何もしたくない。ゆっくり時間が過ぎるのを待つさ。」
今までの努力が水の泡になった俺は寝そべって目を閉じた。こんな状況にはもう慣れっこでね。ドクターが裏切るのは目に見えていた事だし、こんな事は前世でも畜生界でもあったから。睡魔が近づく俺にドクターは額に手を当て、俺の頭を鷲掴みにし、持ち上げる。
「君は自分自身を理解出来た。だが100%では無い。君に力をやろう。彼女達をも凌駕する力を。正直君の綺麗事にはうんざりしていてね。その力を使えるかはどうかは君にかかっているが、残業位はしてくれないと。さ、後は頼んだよ。私が見たいのは本質だ。」
途端に何かが記憶に入ってくる。これは見覚えのある内容だが、俺はこんな報告書は書いた覚えは無い。視界は暗くなっていくが流れ込んだ内容は容赦なく入ってくる。
暗く、より暗く、さらに暗く
暗闇は広がり続ける
闇は濃度を増していく
希望の値はマイナスフォトンである
この次の実験は
非常に
非常に
興味深い。
君に力を託そう
ニンゲンの闇は利用価値がある
……………………
君達二人はどう思う?
ブラウンは押され気味だった。いくら相手が体力切れとはいえ、百戦錬磨の博麗霊夢が着いているので幹部一人の力ではどうすることもできない。モタモタしている間に右腕を破壊され、ブラウンは弾幕の雨を受ける。
「よし、命中!!」
爆風が晴れ、傷だらけのブラウンが現れるが、意外な人物も立っていた。それは先程死んだ筈の大陽だった。霊夢は確かに死んだのを確認している。だが目の前に立っている事に変わりはないので、霊夢達はアンテナを巡らして戦闘態勢に入る。
「ブラウン、お前は邪魔だ。帰って義手でも付けてろ。」
そう言うとブラウンは黒いルービックキューブのような物を使い、黒い煙に包まれて消えていった。
大陽は霊夢達に向き直り話を試みようとしたが、お構い無しに弾幕が飛んでくる。だが弾幕は電気のシールドで防がれ、消滅していった。そこで永琳はある事に気付く。
「貴方、今何かしらの能力を使ったでしょう?電気でカモフラージュしているみたいだけど、弾幕は弾かれず、打ち消される事も無くただ"消滅"した。それが能力でしょう。物を消滅させる程度の能力は聞いたことが無いけど。」
「半分正解で半分不正解。元々の能力、『水、炎、雷を操る程度の能力』の共通点を探した結果だ。お前達のおかげでこの能力は覚醒した。侵食、熱分解、電気分解を再現出来た今なら勝てるかもな。答えを教えてあげよう。今の俺は
『あらゆる事象や仮質を分解する程度の能力』だ。」
言い終わるやいなや大陽は闇を纏い、サムサラブラスターを連発する。更に重力操作で逃げ道を塞ぎ、地面から刀を生やしてきた。依姫は素早く神降ろしを行い、再びゼウスの力で反撃を開始する。だが神降ろしをする一歩手前まで時が戻り、動揺した依姫に銃弾が浴びせられる。
「『王の鎮魂歌(キングレクイエム)α』。こいつのお陰で今の力があるみたいな事だからな。これは悪魔で"応用"だ。十六夜咲夜のな。不死でも能力の分解さえしてしまえば無力化出来て能力も使える。複雑な能力は時間がかかるがな。」
そうこう言ってるうちに大陽はスキマを開き、機関銃を取り出す。サムサラブラスター、刀、加えて能力により、命中率は飛躍的に上昇し、全員の四肢に傷を負わせた。防御だけでは太刀打ち出来ないと判断した依姫と豊姫は、能力が発動するよりも早く神降ろしでギリシャ神話の神を召喚し、豊姫は月の兎達を大量に呼び寄せた。これだけの戦力があれば勝てる。誰もがそう思っていた。その勝利への道筋がハリボテだと気付いたのは、大陽を攻撃するコンマ数秒前の豊姫と依姫だけだった。大陽は電気の色を白から黒に変え、今まで見たことがない程の出力で斬撃を繰り出した。
禁技『神裂──────』
斬撃の後、追い討ちをかける様に槍を投げた。
『──雷槍』
空を裂く巨大な黒い斬撃と雷は一瞬で数え切れない程の命を奪い、斬撃はそのまま畜生界を牛耳る三大組長のビルを切り裂いて崩落させた。豊姫と依姫は黒焦げになっていたが、更に追い討ちをかける様に周囲がサムサラブラスターの放つ赤と紫の光で包まれる。
『空想上の輪廻の崩壊』
その場で集中砲火され、妹紅が助けに入るが依姫と豊姫の遺体は原型を留めていない。助けに入った妹紅も跡形もなくぐちゃぐちゃだった。霊夢はギリギリで交わし、大陽に目をやると不思議な事が起きていた。
「これまで、数多のタイムランが繰り返された。俺がそこで学んだ事といえば、何をやっても無駄だという事だけだ。武士に生まれ変わろうが、戦士に生まれ変わろうが、兵隊に生まれ変わろうが、結局は人の気持ちを母親の腹に置いてきた権力者だけがものを言う。今もこうしている間に何処ぞのプリンは自分の勝手な想像で他国に攻撃を仕掛ける、黒電話の豚はどんどん核兵器を排他的経済水域に落とす、挙げ句の果てにC国は日本の商品をパクって自分のモノだと主張する馬鹿だらけだ。過ちに気付き、発信してくれる連中もいるが、国が間違いと言えば間違い、正しいと言えば正しい。そう、これこそが本当の目的。権力者だけがピーチクパーチク喚く世の中を壊し、全ての人間が平等に暮らし、己の弱さに悔いることが無い世界を作る。最高だろ?」
大陽は喋りながら、左目の眼帯を外す。驚く事に左目が現れると同時に、見開いた目は角膜が蒼色で白い部分は黒になっていた。同様する霊夢達を無視して、大陽は纏っている闇を濃くし、リアルゴに炎を注ぐ。その瞬間、リアルゴは破裂し、形だけが残った剣が現れる。更に背中から漆黒の翼を生やし、空を飛んだ。
ぬえとマミゾウは霊夢と合流し、状況確認すると幻想郷であった出来事を話した。魔理沙は話が終わる前に大陽に突撃したが、奇しくも外れカウンターを受ける。更に重力操作で追いやられ、霊夢達も巻き添えになってしまった。
「さあ、審判の時だ。」
永琳は矢を放ち大陽の気を逸らそうとしたが、弾幕が濃すぎて気を逸らすどころか回避も不可能に近づいていた。だが経験の浅さか、回避先は安置になっているのでそこから妖夢とぬえは近接攻撃を加える。だがやはり分かっているかのように回避され続け、霊夢と剣を交えるが、重力操作で再び引き剥がされた。
「俺は何度も選択を誤った。だが今は違う。こうやって最善策の運命を厳選し、選択する。言わば一種の未来予知かもな。」
その時、大陽は高く飛び炎を円陣を描く。しかもその炎は雨の中でも消えず、中心に大陽を捉えている。何かを察して全員が身構えると、それに答える様に大技が繰り出された。
『特守炎威閃皇』
炎は水の様に舞い、辺りを埋めつくそうと地面を喰らっている。だがそれよりも魔理沙の顔を凍らせたのは、風と氷を使い、炎の被害を拡大させていた事だ。
このままでは畜生界どころか幻想郷にまで被害が出る。そう感じた霊夢は魔理沙と妖夢に合図を送り、一斉攻撃を仕掛ける。マミゾウも出来る限りの妨害をして弾幕を当てやすい様にしたが、それでも当たらずその場にいる全員が地べたに這いつくばってしまった。
「クッ、クソォ!どうやって勝てば…」
「諦めろ。もういい加減争いは飽きたんだ。それに俺だって争いは嫌いなんだ。」
「分かった。降参よ。」
倒れた仲間達の間から現れた永琳は両手を挙げて降伏している。その後ろには残夢も着いてきており、反撃の意思が感じられない。その呆れた光景に魔理沙は勢いよく立ち上がってブチ切れた。
「ふざけんな!!!一体どれだけの仲間達の血が流れたと思っているんだ!そんな情けねえ姿慧音先生に見せられるのかよ!!!」
「いや儂らの出番は終わったと伝えに来ただけじゃ。そう"儂ら"のな。」
その時、霊夢達の上を見覚えのある影が通り過ぎる。
「花形、登場よ。」
次の瞬間、巨大なスプーンが大陽の剣と火花を散らし、持ち主と一緒に着地する。
「尤魔…!!!」
「よう、寂しかったか?別に私はどっちでもいいがなァ。」
どうやら一杯食わされたせいで少し苛立っている様だ。だが思いもしない復活に、霊夢は力がみなぎってきた。魔理沙も同様に再び背中からレーザー砲を取り出し的に向き合う。そして宿敵の復活を認識した大陽は、先程斬撃を放った時の数十倍の電気を放出した。
「また懲りずに殺されに来たか、綿菓子頭め。生憎俺はお前が嫌いでね。テメェには随分こき使われてた貸しがある。そのツケを今顔面に叩き付けてやる!!!」
「おお、威勢がいいのはいい事だな。丁度腹も減ってきた所だ。ツケを払ってくれるんなら釣りは渡さねえとなァ!!!」
饕餮も大陽と同じ黒い電気を放出し、言葉を交わす。恐らく自分の電気を吸収して得たのだろうと察した大陽は、今まで見せなかった恨みたっぷりの顔で饕餮に斬りかかる。それに反応するように饕餮も電気を使い、欠けたスプーンを剣に当てる。だが剣とスプーンは交える前に見えない壁に衝突し、間に稲玉が発生し衝撃波が生まれた。
(クソ重い、尤魔が能力吸っただけで俺と対等に戦えるのか!)
(やはりコイツの分解は私みたいに無限の再生力がある奴には分解出来ても追いつけてない。このままヘマする前に、押し切る!)
稲玉が弾けると周囲一帯にクレーターができ、その中心部で饕餮と大陽が戦っている。砂埃が激しいが、饕餮は今まで以上に互角に戦えているのが確認出来た。観戦中の魔理沙は傍の岩に腰掛けて永琳に話した。
「なあ永琳。もし饕餮が負けたらどうするんだ?私はもう魔法薬使い切っちまったぞ。」
「あの二人はどちらが勝ってもボロボロなのは間違い無いわ。例え大陽が勝ってもその時はその時よ。」
永琳の言う通り、一撃一撃が渾身なので片方が勝っても無事では済まない。こうしている間にも勝利へと近付いているのが感じられる。納得した魔理沙は背伸びをして岩にもたれ掛けた。
もうどれだけダメージを与えたか覚えてない程、戦闘が長引いていた。少なくとも饕餮はそう感じた。息切れし、体がだるいが、それは向こうも同じだ。だが消耗戦だと感じた大陽は再び空を舞い、先程の大技を繰り出そうとしている。
「これで分かったか!俺は操られていた時とは違う。お前は生物として、俺には勝てねぇ!!」
「ケッ、もう勝った気でいやがる。だが私はそうゆう言い訳が一番嫌いなんだよ!」
饕餮は残り数枚のスペルカードを使おうとしたが、饕餮の前に三人の影が現れる。霊夢、魔理沙、妖夢はそれぞれ一斉に切り札を放ち、大技に対抗する。
『夢想封印 夢限』
魔砲『ファイナルマスタースパーク』
彼岸剣『地獄極楽滅多斬り』
大陽は少し驚くが、大技は衰える事無く発動させ、全力をぶつける。
「これが最期だァ!!!お前らァァァァァ!!!!!」
『霾雅守炎威閃皇』
互いの最高出力が重なり、畜生界全体に地震と衝撃波が広がった。
全力を出しすぎたせいか、大陽は頭からの出血が激しく鼻血も出てきた。地面に着くと同時に背中の翼が消え、息を切らした。霊夢達の方を見ると全員が致命傷で苦しんでおり、ようやく勝利したと確信する。だが饕餮の姿を見るやいなや、大陽は舌打ちをする。
「クソが。」
饕餮のスプーンの一撃を喰らい、大陽は倒れてしまった。ふうっとため息をついた饕餮に永琳と残夢が駆け寄り、敵の死体を見てほっとする。
「ようやく終わったんじゃな。」
「ええ。仇はとったわよ。妹紅、…姫様………。」
永琳は溢れる涙をグッと堪え、空を見上げた。
饕餮達は本拠地に乗り込み紫を探そうとしたが、探す前に向こうからスキマで出てきた。だが様子がおかしい。明らかに肌はピチピチになっているし、何より手にポップコーンバケットを持っている。3Dメガネを外し、ポップコーンを食べながら紫は喋る。
「あら、遅かったじゃない。丁度今アニメの映画見ていたんだけど、一緒に見ない?」
「紫、確か囚われているって…」
「ああ。最低限度の自由は確保されていたからそこまで不自由じゃなかったわよ。それに聞いて〜。外の世界のタピオカミルクティーっていう飲み物が美味しくて美味しくてもう何杯もおかわりしちゃったわ。(超爽やかな笑顔)」
「ハッハッハ!実にお前さんらしくていいぞ紫w!心配して損したぞw!」
「はぁ〜〜~人が苦労して助けに来てやったのにこのザマかよ。」
「そいつは悪うございましたね。」
四人全員が突然後ろから声をかけられびっくりしたが、その声の主にもっとびっくりした。先程思いっきり顔面を叩いた筈の大陽が立っており、紫を除き全員が戦闘態勢に入る。だが大陽は何も言わず、スペルカードを発動させた。
ビーストアス『捲土重来』
その瞬間、大陽の頭上に巨大な時計の円陣が出現し、崩れた地形が瓦礫と共に元通りになり砂になった岩は再び形成された。そして大陽の口から黒い球体が吐き出され、時間とともにその球体はレミリアへと形を変えた。それに共鳴するように次々と失われた命が戻り、時計の円陣が消える頃には全員が生き返った状態で故人を探していた。
「お嬢様……!」
「咲夜……!」
「神子様〜〜〜!神子様〜〜~!どこに居られますか〜〜~?」
「心配無い。私はここだ。」
殺された家臣や主に会えて涙を流す者、泣きわめく者、ボールにつられて何処かに行っていた猫も、主人を見つけて歓喜している様だ。この光景に饕餮は唖然とし、残夢ももちろん紫も驚いていた。
「勘違いするな。俺達は計画重視で動いていた。だが死人を出すつもりは毛頭ない。これはその詫びだ。」
言い終わると大陽はバタリと倒れ、全員が集まっても動き出す事はなかった。
霊夢は首に手を当ててみるが反応は無く、心臓も鼓動を打っていなかった。今度こそ死んだ事を確認したが、一つ疑問が残る。
「本当に死人を出さないつもりならなんで殺したんでしょうね。」
「確かに。話し合いなら出来る知性はあるしな。」
「それはこいつが蘇らせる事を予め予定しておいたからだ。」
その質問に答えたのは龍陽であり、今も癒えない傷を癒しながら立っている。そこに一台のヘリコプターが着陸し、救急搬送の担架を持ってきた。
「こいつは俺以上に優しい男さ。失って悲しくなる事は誰よりも知っている。だからこそお前さん達を生き返らせたんだろう。」
だが話を進める事に龍陽の体は塵になり始め、幹部達が着く頃には下半身が消えていた。幹部達は泣きじゃくるが、それを嘲笑うように塵になる速度は早くなっていた。もう先が長くないと察した龍陽は、自分を助けてくれた様に慈愛の手で幹部達を抱き締める。
「俺の魂はこいつの命を伸ばすために使っちまった。俺は間も無く消える。だが組員全員に伝えろ。最初で最後の命令口調だ。"この先何があってもこいつに着いて行け。"それが遂行されれば、もう思い残す事は無い。」
「そんな、組長。行かないで欲しいッス!!」
「…………。………………!!」
手を離すと、首から上までしか残っていない状態で霊夢と饕餮に向き直り、別れの言葉を告げると塵一つ残さず消えていった。塵は畜生界を照らすビルの光の中へ飛んでいき、やがて見えなくなっていった。
その後はヘリコプターに大陽を乗せると本部に戻って行き、霊夢達は異変解決を知らせに地上へと帰って行った。あれから半年、大陽率いる組員は幾度となく他の組から攻撃を受けたが、見事圧倒的な技術力と軍事力で迎撃し続けた。だが三大組織の同盟から猛攻撃を受け、被害は尋常ではない程酷い。現在復興作業中で、一時的に三大組織と休戦協定を結ぼうとしている。組長達が集まる一室で幹部達は、目の前の馬と亀と羊とにらめっこをしていた。一応敵対組織なので、三人の前に用意された紅茶には一口もつけていない。
「まあそんなに固くならずに。毒なんて入っていませんよ。」
「よし、早速本題に入るが例の休戦協定だったら飲んでやってもいい。だがしかしこちらからの条件を飲めたらの話だがなァ。」
「あの戦力と技術力は私達の筋肉を向上させるのにも使えるし、しょっとがん?とやらで埴輪共にも優位に戦えることが出来る。そこでこんな紙を用意したわけだ。」
驪駒から手渡しで契約書を受け取り中身に目を通すと、ヨシタカはブチ切れて台パンし、三組長に罵詈雑言を浴びせる。
「ふざけるな!こんな条件誰が飲めるか!」
「えぇ。こればかしはヨシタカに同意です。」
ブラウンも目を通したが、ここまで酷い契約書は初めて見た。
一つ、組員全員を頸牙組、鬼傑組、剛欲同盟に移籍する事。
一つ、組の所持する武器や設計図を無償で寄付する事。
一つ、如何なる事情でも三大組織の組員全員に傷を付ける事は許されない。もしこの規則が破られた場合、協定を破棄する。
一つ、組長の身柄を引渡し、金輪際関わらない事。
一つ、この規則が一つでも破られた場合埴安神 袿姫と同盟を組み、組を壊滅させる事。最終的な決定権は悪魔で饕餮尤魔にある。
飲み込めないなら断ってもいいと言う驪駒の声が聞こえない程、三幹部達は悩む。まさに馬の耳に念仏と言ってもいいが、驪駒自身がそれを経験するとは思ってもいなかっただろう。
「三日待ってくれ!三日後には必ず結論を…」
「ダメです。待って半日ぐらいでしょうね。」
三日間で戦力を整える作戦はさせまいと八千慧はピシャリと告げた。いよいよ本格的に選択が迫られる中、聞き覚えのある声が結論を出した。
「特に問題は無いから、別に飲んでもいいぞ。」
声の主はいつの間にかソファーでコーヒーを注いでおり、何処から持ってきたか分からない砂糖を十三個入れている。
「久しいな、大陽。何時来たと言う質問は後で聞いてやるから今言った事、本当なんだろうな。」
「あぁ、本当だ。別に情報が漏れても困ることは特にないからな。それともお前達は何か漏れたら困ることでもあるのか?」
饕餮は確信した。例え多重人格で表舞台に出てなくても、組長としてのスキルは十分に育っていると。目の前で、甘すぎたか砂糖が足りなかったか知らないがむせている包帯まみれの生身の人間に注意をはらう。だが面倒事は大嫌いな脳筋馬鹿はそんな事は気にせずポケットからハンコを取り出し、大陽もハンコを押して契約を進めようとしている。
「よし、じゃあこれで今日からウチの支配下…」
「待ちなさい馬鹿馬。こうゆう物は押す前に目を通すのです。」
八千慧と饕餮は再び契約書に目を通すが、あまりの衝撃に八千慧は目を丸くし、饕餮は大笑いで契約書をビリビリに破いた。二人が見た内容は支配下とはほど遠い条件であり、あまりの甘々条件に驪駒も笑うしかなかった。
「ハッハッハ!!!流石は饕餮に育てられた人間だ!そうゆうところまで分解して吸収したかw!」
「まあ意地の悪さは私譲りだからなァw!!」
動揺が混ざった見栄っ張りに大陽はドン引きするも、とにかく休戦協定の話はチャラになり、次いでに大陽率いる組織は正式に四大組織に加入された。
「で、それでそれで?」
「その時の組長の顔は今でも鮮明ッスよ!『一杯食わせてやった』的な感じ。スマホの待ち受けにしたいッスよ!!」
「やめろ恥ずかしい。俺は常に真剣なんだよ、諸君。それと可愛い部下が苦しんでいるところを放置しているようじゃあ、組長やってないよ。」
ガヤガヤ騒がしい獣達のやり取りはしばらくこれで固定だな。そう感じた俺は席を外し、組長室に戻る。正直あの契約書を見た時は顔が真っ青になったが、よくよく考えれば事象を分解し改ざんすればいいじゃんと気付いたので結果オーライだ。テラスに移動し、そよ風に当たるのもまた一興。こうして考え事にふっけるのは至福のひとときに値する。龍陽が繋いだ命は無駄にしたくないので、あいつの為にも俺は組長でいなければならない。変わらない景色、変わらない日常に飽き飽きしていた俺だったが、ここではそういうのはないので満足出来そうだ。これから何度も困難が俺の足を引っ張ろうとするだろう。だがその度俺は困難を殺し、屍の上で生活する。雨で血が流れても、俺が殺した事は消えないしな。ようやく手にした幸せはこの手でずっと、握りしめていたい。
「あのー、すみません。組長宛ての手紙なのですが、受け取って貰ってもよろしいでしょうか?」
「ああ構わない。すまんな。気付いてやれなくて。」
一通の手紙を丁寧に開封し、中身を確認する。どうやらまた面倒事に巻き込まれたようで、俺はため息をついた。
しばらくして読み終わると、組長室にはドクターが居座っていた。ドクターは椅子から立ち上がると、最後のUSBを手渡しされた。
「君とその親友はよくやってくれたよ。成功報酬の【overwrite】(オーバーライト)だ。」
オーバーライト。それはとある赤髪のボーカロイドが歌っていた方ではなく、事実上のオーバーライト(上書き)である。すぐさまパソコンに繋ぎ、オーバーライトを起動させた。ロードまで時間があるので少しドクターと話をしようとしたが、何処ぞのさとり妖怪のように心を読まれたかは知らないが話はドクターから始まった。
「君は本当いいのかい?何度も何度も同じ時間軸を経験し、自分の満足する結果が出るまで、事象を分解し続けた。決して誇れることじゃないが君は何度も彼女たちを殺している。あんなに外の世界を侵略しようとしていたのに、それで君は満足かい?」
「あいつらは俺に殺され続けるに値しないって事。それに、あんなに疲れるのはもう勘弁願いたいね。」
丁度ロードが100%に到達し画面に【上書き完了】と表示され、俺は仰向けになる。
「あ、それから作った資料は全部二番目の引き出しにあるからご心配なく。平行世界(マルチバース)についてまとめてあるから。」
「それはどうもありがとう。I(アイ)も喜ぶと思うよ。」
そう言うとドクターはいつの間にか消えていった。ああそうだ。前にもこんな事があったから説明しとくぞ。あの時龍陽が貰った三つのUSB、あれはマルチバースに関するデータだ。この世界は以上な程波長が多いので調べてみると、どうやらマルチバースは数多の数存在するらしい。博麗霊夢が消え、魔理沙が最強になる世界線。西行寺幽々子が自身の遺体を探し出すのを止める為、妖夢が俺の様に時間軸をいじったりする世界線。はたまた幻想郷が海に沈んだ世界線など、色んな世界線が存在する。俺はドクターにその世話係、いわゆる守護神的な立ち位置を命じられていた。ぶっちゃけるが、絶対めんどい奴じゃん。だがめんどくてもマルチバースの均衡を保つ為にもやらなければいけない。ハァ〜~とクソデカため息をついて、机の上にあるチョコドーナツに手を伸ばす。
まあ今は幸せなので良しとしようと、チョコドーナツについているホイップクリームをすすりながら食べ進めた。これから宴会にも誘われているので、しばらく糖分は控えよう。俺はまだ四個入っているドーナツの袋を閉じ、組長室を後にした。
season2 終
「……フッ、まあ想定内でしょう。だがこの装甲に傷を負わせた事、高くつきますよ!!!」
マムシんはコントローラーパネルの横にある"厳重注意"と書かれたガラスを叩き割り、レバーを引く。すると装甲から巨大なスピーカーが出現し、超音波と大音量のコンボを発動する。あまりの音量に民家は耐えきれず、ガラスがどんどん砕けていき、しばらくすれば辺りは更地となり、見渡しが良くなった。だがマムシんはゼェゼェを息を荒げ、モニターから目を離す。どうやら長時間の音波攻撃を発動したせいで身体に影響が出たのだろう。水を一口飲み、再度モニターに目をやるとそこにはヘッドフォンを装着したマミゾウがいた。
「悪いがお前達の部下から装備品を拝借してね。音波攻撃が来た時に備えておいたんじゃよ。まあヘッドフォンを付けた獣に興味を抱くのはいいが、後ろを心配した方がいいんじゃないかのう?」
次の瞬間、マムシんの乗っていたロボが崩壊し操縦席が火に包まれた。画面にヒビが入ったモニターを確認すると、ぬえが何やらコアの様な物を持ち上げており、マミゾウに自慢している。きっとメインコアを破壊されたと確信したマムシんは急いでテレポート機能を作動させ、地上に降りる。しかしどうやら出待ちされていたらしく、ヨシタカ同様ボコボコにされてしまった。
最後の一体に向き合いそれぞれ武器を構えていたが、ここでブラウンの操縦席に通信音が鳴り響く。通信から伝言を受け取ったブラウンはすぐさま方向転換し、幻想郷を去ろうとした。しかしぬえとマミゾウがそれを許す訳もなく、敵の本拠地に向かうべく両翼に捕まり、畜生界へ向かう。
ブラウンは荒野の地面に着地し、指定された場所へ向かった。極力信じたくないと心に呟きながら奥へと進むが、そこにあった真実はあまりにも残酷だった。そこには心臓が破裂した遺体があり、その遺体にブラウンは見覚えがあった。わなわなと震える手ですくい上げ、再度自分の組長である事を確認する。
次の瞬間、右斜めの方から弾幕が飛んで来て、ロボが装備していたジェットパックが発火した。ロボの正面には魔理沙が立っており、何やらリュックを背負っている。
「よう、デカブツ。来て早々なんだが、私の新技の的になってもらうぜ!喰らえ!よく分からないミサイル攻撃!!」
すると魔理沙は背中のリュックからバズーカを取り出し、ロボ目掛けて発射する。しかし弾はあっさりと片手で防がれ、ノーダメージの結果に終わった。ロボがハンマーを振りかざし、反撃を繰り出すが、突然ロボは動かなくなってしまった。ブラウンは計器を見るが、原因不明の電波により操縦が効かなくなっている。すぐさまブラウンはレバーを引き、緊急脱出した。
[モード『鬼神ガジェット5』(G5)]
動かなくなったロボからパーツが飛んでいき、ブラウンの体を包んでいく。最後のパーツがハマると、ライトセーバーの様な刀を手に取り、魔理沙と霊夢に向き合う。
「全く、ようやく終わりと思えばすぐこれだわ。」
「でもここが正念場。行くわよ!!!」
合流した永琳達と共に霊夢達は立ち上がる。
「おやおや、負けてしまうとは情けない。」
「……うるさい。」
俺は今、どこか分からない黒い空間にいる。経緯としては霊夢にトドメを刺されかけたところからになるが、それ以降の記憶が一切ない。どうやってここに来たのか、何故目の前に奴がいるのか、色々考える前に自分が負けた事を察する。俺は背を向け、暗い空間を歩き出す。
「正直、惜しかったね。君は全てを捧げても彼女達には勝てなかった。もう少し泣くかと思ったんだが、まあ最低限の仕事はしたから良しとしよう。」
相変わらずこの人はしつこい。龍陽の時はもっと躊躇があったのだが、何故か俺に対しては現れては世間話をしてくる。だが貴重なデータを貰っている以上、文句は言えない立場なので我慢している。奴は少し離れ、話を続ける。
「負けてしまった訳だが、これから君はどうするつもりだ?私と同じ様に宙を彷徨い続ける運命を辿るかい?まあ私からしたら君達二人は他より優秀なモルモットに過ぎないが。」
「お前もそうか、ドクター。結局俺達は誰かに操られないと生きていけない、いわゆる生きたマリオネットだ。もうやる気も希望も消えた。後は何もしたくない。ゆっくり時間が過ぎるのを待つさ。」
今までの努力が水の泡になった俺は寝そべって目を閉じた。こんな状況にはもう慣れっこでね。ドクターが裏切るのは目に見えていた事だし、こんな事は前世でも畜生界でもあったから。睡魔が近づく俺にドクターは額に手を当て、俺の頭を鷲掴みにし、持ち上げる。
「君は自分自身を理解出来た。だが100%では無い。君に力をやろう。彼女達をも凌駕する力を。正直君の綺麗事にはうんざりしていてね。その力を使えるかはどうかは君にかかっているが、残業位はしてくれないと。さ、後は頼んだよ。私が見たいのは本質だ。」
途端に何かが記憶に入ってくる。これは見覚えのある内容だが、俺はこんな報告書は書いた覚えは無い。視界は暗くなっていくが流れ込んだ内容は容赦なく入ってくる。
暗く、より暗く、さらに暗く
暗闇は広がり続ける
闇は濃度を増していく
希望の値はマイナスフォトンである
この次の実験は
非常に
非常に
興味深い。
君に力を託そう
ニンゲンの闇は利用価値がある
……………………
君達二人はどう思う?
ブラウンは押され気味だった。いくら相手が体力切れとはいえ、百戦錬磨の博麗霊夢が着いているので幹部一人の力ではどうすることもできない。モタモタしている間に右腕を破壊され、ブラウンは弾幕の雨を受ける。
「よし、命中!!」
爆風が晴れ、傷だらけのブラウンが現れるが、意外な人物も立っていた。それは先程死んだ筈の大陽だった。霊夢は確かに死んだのを確認している。だが目の前に立っている事に変わりはないので、霊夢達はアンテナを巡らして戦闘態勢に入る。
「ブラウン、お前は邪魔だ。帰って義手でも付けてろ。」
そう言うとブラウンは黒いルービックキューブのような物を使い、黒い煙に包まれて消えていった。
大陽は霊夢達に向き直り話を試みようとしたが、お構い無しに弾幕が飛んでくる。だが弾幕は電気のシールドで防がれ、消滅していった。そこで永琳はある事に気付く。
「貴方、今何かしらの能力を使ったでしょう?電気でカモフラージュしているみたいだけど、弾幕は弾かれず、打ち消される事も無くただ"消滅"した。それが能力でしょう。物を消滅させる程度の能力は聞いたことが無いけど。」
「半分正解で半分不正解。元々の能力、『水、炎、雷を操る程度の能力』の共通点を探した結果だ。お前達のおかげでこの能力は覚醒した。侵食、熱分解、電気分解を再現出来た今なら勝てるかもな。答えを教えてあげよう。今の俺は
『あらゆる事象や仮質を分解する程度の能力』だ。」
言い終わるやいなや大陽は闇を纏い、サムサラブラスターを連発する。更に重力操作で逃げ道を塞ぎ、地面から刀を生やしてきた。依姫は素早く神降ろしを行い、再びゼウスの力で反撃を開始する。だが神降ろしをする一歩手前まで時が戻り、動揺した依姫に銃弾が浴びせられる。
「『王の鎮魂歌(キングレクイエム)α』。こいつのお陰で今の力があるみたいな事だからな。これは悪魔で"応用"だ。十六夜咲夜のな。不死でも能力の分解さえしてしまえば無力化出来て能力も使える。複雑な能力は時間がかかるがな。」
そうこう言ってるうちに大陽はスキマを開き、機関銃を取り出す。サムサラブラスター、刀、加えて能力により、命中率は飛躍的に上昇し、全員の四肢に傷を負わせた。防御だけでは太刀打ち出来ないと判断した依姫と豊姫は、能力が発動するよりも早く神降ろしでギリシャ神話の神を召喚し、豊姫は月の兎達を大量に呼び寄せた。これだけの戦力があれば勝てる。誰もがそう思っていた。その勝利への道筋がハリボテだと気付いたのは、大陽を攻撃するコンマ数秒前の豊姫と依姫だけだった。大陽は電気の色を白から黒に変え、今まで見たことがない程の出力で斬撃を繰り出した。
禁技『神裂──────』
斬撃の後、追い討ちをかける様に槍を投げた。
『──雷槍』
空を裂く巨大な黒い斬撃と雷は一瞬で数え切れない程の命を奪い、斬撃はそのまま畜生界を牛耳る三大組長のビルを切り裂いて崩落させた。豊姫と依姫は黒焦げになっていたが、更に追い討ちをかける様に周囲がサムサラブラスターの放つ赤と紫の光で包まれる。
『空想上の輪廻の崩壊』
その場で集中砲火され、妹紅が助けに入るが依姫と豊姫の遺体は原型を留めていない。助けに入った妹紅も跡形もなくぐちゃぐちゃだった。霊夢はギリギリで交わし、大陽に目をやると不思議な事が起きていた。
「これまで、数多のタイムランが繰り返された。俺がそこで学んだ事といえば、何をやっても無駄だという事だけだ。武士に生まれ変わろうが、戦士に生まれ変わろうが、兵隊に生まれ変わろうが、結局は人の気持ちを母親の腹に置いてきた権力者だけがものを言う。今もこうしている間に何処ぞのプリンは自分の勝手な想像で他国に攻撃を仕掛ける、黒電話の豚はどんどん核兵器を排他的経済水域に落とす、挙げ句の果てにC国は日本の商品をパクって自分のモノだと主張する馬鹿だらけだ。過ちに気付き、発信してくれる連中もいるが、国が間違いと言えば間違い、正しいと言えば正しい。そう、これこそが本当の目的。権力者だけがピーチクパーチク喚く世の中を壊し、全ての人間が平等に暮らし、己の弱さに悔いることが無い世界を作る。最高だろ?」
大陽は喋りながら、左目の眼帯を外す。驚く事に左目が現れると同時に、見開いた目は角膜が蒼色で白い部分は黒になっていた。同様する霊夢達を無視して、大陽は纏っている闇を濃くし、リアルゴに炎を注ぐ。その瞬間、リアルゴは破裂し、形だけが残った剣が現れる。更に背中から漆黒の翼を生やし、空を飛んだ。
ぬえとマミゾウは霊夢と合流し、状況確認すると幻想郷であった出来事を話した。魔理沙は話が終わる前に大陽に突撃したが、奇しくも外れカウンターを受ける。更に重力操作で追いやられ、霊夢達も巻き添えになってしまった。
「さあ、審判の時だ。」
永琳は矢を放ち大陽の気を逸らそうとしたが、弾幕が濃すぎて気を逸らすどころか回避も不可能に近づいていた。だが経験の浅さか、回避先は安置になっているのでそこから妖夢とぬえは近接攻撃を加える。だがやはり分かっているかのように回避され続け、霊夢と剣を交えるが、重力操作で再び引き剥がされた。
「俺は何度も選択を誤った。だが今は違う。こうやって最善策の運命を厳選し、選択する。言わば一種の未来予知かもな。」
その時、大陽は高く飛び炎を円陣を描く。しかもその炎は雨の中でも消えず、中心に大陽を捉えている。何かを察して全員が身構えると、それに答える様に大技が繰り出された。
『特守炎威閃皇』
炎は水の様に舞い、辺りを埋めつくそうと地面を喰らっている。だがそれよりも魔理沙の顔を凍らせたのは、風と氷を使い、炎の被害を拡大させていた事だ。
このままでは畜生界どころか幻想郷にまで被害が出る。そう感じた霊夢は魔理沙と妖夢に合図を送り、一斉攻撃を仕掛ける。マミゾウも出来る限りの妨害をして弾幕を当てやすい様にしたが、それでも当たらずその場にいる全員が地べたに這いつくばってしまった。
「クッ、クソォ!どうやって勝てば…」
「諦めろ。もういい加減争いは飽きたんだ。それに俺だって争いは嫌いなんだ。」
「分かった。降参よ。」
倒れた仲間達の間から現れた永琳は両手を挙げて降伏している。その後ろには残夢も着いてきており、反撃の意思が感じられない。その呆れた光景に魔理沙は勢いよく立ち上がってブチ切れた。
「ふざけんな!!!一体どれだけの仲間達の血が流れたと思っているんだ!そんな情けねえ姿慧音先生に見せられるのかよ!!!」
「いや儂らの出番は終わったと伝えに来ただけじゃ。そう"儂ら"のな。」
その時、霊夢達の上を見覚えのある影が通り過ぎる。
「花形、登場よ。」
次の瞬間、巨大なスプーンが大陽の剣と火花を散らし、持ち主と一緒に着地する。
「尤魔…!!!」
「よう、寂しかったか?別に私はどっちでもいいがなァ。」
どうやら一杯食わされたせいで少し苛立っている様だ。だが思いもしない復活に、霊夢は力がみなぎってきた。魔理沙も同様に再び背中からレーザー砲を取り出し的に向き合う。そして宿敵の復活を認識した大陽は、先程斬撃を放った時の数十倍の電気を放出した。
「また懲りずに殺されに来たか、綿菓子頭め。生憎俺はお前が嫌いでね。テメェには随分こき使われてた貸しがある。そのツケを今顔面に叩き付けてやる!!!」
「おお、威勢がいいのはいい事だな。丁度腹も減ってきた所だ。ツケを払ってくれるんなら釣りは渡さねえとなァ!!!」
饕餮も大陽と同じ黒い電気を放出し、言葉を交わす。恐らく自分の電気を吸収して得たのだろうと察した大陽は、今まで見せなかった恨みたっぷりの顔で饕餮に斬りかかる。それに反応するように饕餮も電気を使い、欠けたスプーンを剣に当てる。だが剣とスプーンは交える前に見えない壁に衝突し、間に稲玉が発生し衝撃波が生まれた。
(クソ重い、尤魔が能力吸っただけで俺と対等に戦えるのか!)
(やはりコイツの分解は私みたいに無限の再生力がある奴には分解出来ても追いつけてない。このままヘマする前に、押し切る!)
稲玉が弾けると周囲一帯にクレーターができ、その中心部で饕餮と大陽が戦っている。砂埃が激しいが、饕餮は今まで以上に互角に戦えているのが確認出来た。観戦中の魔理沙は傍の岩に腰掛けて永琳に話した。
「なあ永琳。もし饕餮が負けたらどうするんだ?私はもう魔法薬使い切っちまったぞ。」
「あの二人はどちらが勝ってもボロボロなのは間違い無いわ。例え大陽が勝ってもその時はその時よ。」
永琳の言う通り、一撃一撃が渾身なので片方が勝っても無事では済まない。こうしている間にも勝利へと近付いているのが感じられる。納得した魔理沙は背伸びをして岩にもたれ掛けた。
もうどれだけダメージを与えたか覚えてない程、戦闘が長引いていた。少なくとも饕餮はそう感じた。息切れし、体がだるいが、それは向こうも同じだ。だが消耗戦だと感じた大陽は再び空を舞い、先程の大技を繰り出そうとしている。
「これで分かったか!俺は操られていた時とは違う。お前は生物として、俺には勝てねぇ!!」
「ケッ、もう勝った気でいやがる。だが私はそうゆう言い訳が一番嫌いなんだよ!」
饕餮は残り数枚のスペルカードを使おうとしたが、饕餮の前に三人の影が現れる。霊夢、魔理沙、妖夢はそれぞれ一斉に切り札を放ち、大技に対抗する。
『夢想封印 夢限』
魔砲『ファイナルマスタースパーク』
彼岸剣『地獄極楽滅多斬り』
大陽は少し驚くが、大技は衰える事無く発動させ、全力をぶつける。
「これが最期だァ!!!お前らァァァァァ!!!!!」
『霾雅守炎威閃皇』
互いの最高出力が重なり、畜生界全体に地震と衝撃波が広がった。
全力を出しすぎたせいか、大陽は頭からの出血が激しく鼻血も出てきた。地面に着くと同時に背中の翼が消え、息を切らした。霊夢達の方を見ると全員が致命傷で苦しんでおり、ようやく勝利したと確信する。だが饕餮の姿を見るやいなや、大陽は舌打ちをする。
「クソが。」
饕餮のスプーンの一撃を喰らい、大陽は倒れてしまった。ふうっとため息をついた饕餮に永琳と残夢が駆け寄り、敵の死体を見てほっとする。
「ようやく終わったんじゃな。」
「ええ。仇はとったわよ。妹紅、…姫様………。」
永琳は溢れる涙をグッと堪え、空を見上げた。
饕餮達は本拠地に乗り込み紫を探そうとしたが、探す前に向こうからスキマで出てきた。だが様子がおかしい。明らかに肌はピチピチになっているし、何より手にポップコーンバケットを持っている。3Dメガネを外し、ポップコーンを食べながら紫は喋る。
「あら、遅かったじゃない。丁度今アニメの映画見ていたんだけど、一緒に見ない?」
「紫、確か囚われているって…」
「ああ。最低限度の自由は確保されていたからそこまで不自由じゃなかったわよ。それに聞いて〜。外の世界のタピオカミルクティーっていう飲み物が美味しくて美味しくてもう何杯もおかわりしちゃったわ。(超爽やかな笑顔)」
「ハッハッハ!実にお前さんらしくていいぞ紫w!心配して損したぞw!」
「はぁ〜〜~人が苦労して助けに来てやったのにこのザマかよ。」
「そいつは悪うございましたね。」
四人全員が突然後ろから声をかけられびっくりしたが、その声の主にもっとびっくりした。先程思いっきり顔面を叩いた筈の大陽が立っており、紫を除き全員が戦闘態勢に入る。だが大陽は何も言わず、スペルカードを発動させた。
ビーストアス『捲土重来』
その瞬間、大陽の頭上に巨大な時計の円陣が出現し、崩れた地形が瓦礫と共に元通りになり砂になった岩は再び形成された。そして大陽の口から黒い球体が吐き出され、時間とともにその球体はレミリアへと形を変えた。それに共鳴するように次々と失われた命が戻り、時計の円陣が消える頃には全員が生き返った状態で故人を探していた。
「お嬢様……!」
「咲夜……!」
「神子様〜〜〜!神子様〜〜~!どこに居られますか〜〜~?」
「心配無い。私はここだ。」
殺された家臣や主に会えて涙を流す者、泣きわめく者、ボールにつられて何処かに行っていた猫も、主人を見つけて歓喜している様だ。この光景に饕餮は唖然とし、残夢ももちろん紫も驚いていた。
「勘違いするな。俺達は計画重視で動いていた。だが死人を出すつもりは毛頭ない。これはその詫びだ。」
言い終わると大陽はバタリと倒れ、全員が集まっても動き出す事はなかった。
霊夢は首に手を当ててみるが反応は無く、心臓も鼓動を打っていなかった。今度こそ死んだ事を確認したが、一つ疑問が残る。
「本当に死人を出さないつもりならなんで殺したんでしょうね。」
「確かに。話し合いなら出来る知性はあるしな。」
「それはこいつが蘇らせる事を予め予定しておいたからだ。」
その質問に答えたのは龍陽であり、今も癒えない傷を癒しながら立っている。そこに一台のヘリコプターが着陸し、救急搬送の担架を持ってきた。
「こいつは俺以上に優しい男さ。失って悲しくなる事は誰よりも知っている。だからこそお前さん達を生き返らせたんだろう。」
だが話を進める事に龍陽の体は塵になり始め、幹部達が着く頃には下半身が消えていた。幹部達は泣きじゃくるが、それを嘲笑うように塵になる速度は早くなっていた。もう先が長くないと察した龍陽は、自分を助けてくれた様に慈愛の手で幹部達を抱き締める。
「俺の魂はこいつの命を伸ばすために使っちまった。俺は間も無く消える。だが組員全員に伝えろ。最初で最後の命令口調だ。"この先何があってもこいつに着いて行け。"それが遂行されれば、もう思い残す事は無い。」
「そんな、組長。行かないで欲しいッス!!」
「…………。………………!!」
手を離すと、首から上までしか残っていない状態で霊夢と饕餮に向き直り、別れの言葉を告げると塵一つ残さず消えていった。塵は畜生界を照らすビルの光の中へ飛んでいき、やがて見えなくなっていった。
その後はヘリコプターに大陽を乗せると本部に戻って行き、霊夢達は異変解決を知らせに地上へと帰って行った。あれから半年、大陽率いる組員は幾度となく他の組から攻撃を受けたが、見事圧倒的な技術力と軍事力で迎撃し続けた。だが三大組織の同盟から猛攻撃を受け、被害は尋常ではない程酷い。現在復興作業中で、一時的に三大組織と休戦協定を結ぼうとしている。組長達が集まる一室で幹部達は、目の前の馬と亀と羊とにらめっこをしていた。一応敵対組織なので、三人の前に用意された紅茶には一口もつけていない。
「まあそんなに固くならずに。毒なんて入っていませんよ。」
「よし、早速本題に入るが例の休戦協定だったら飲んでやってもいい。だがしかしこちらからの条件を飲めたらの話だがなァ。」
「あの戦力と技術力は私達の筋肉を向上させるのにも使えるし、しょっとがん?とやらで埴輪共にも優位に戦えることが出来る。そこでこんな紙を用意したわけだ。」
驪駒から手渡しで契約書を受け取り中身に目を通すと、ヨシタカはブチ切れて台パンし、三組長に罵詈雑言を浴びせる。
「ふざけるな!こんな条件誰が飲めるか!」
「えぇ。こればかしはヨシタカに同意です。」
ブラウンも目を通したが、ここまで酷い契約書は初めて見た。
一つ、組員全員を頸牙組、鬼傑組、剛欲同盟に移籍する事。
一つ、組の所持する武器や設計図を無償で寄付する事。
一つ、如何なる事情でも三大組織の組員全員に傷を付ける事は許されない。もしこの規則が破られた場合、協定を破棄する。
一つ、組長の身柄を引渡し、金輪際関わらない事。
一つ、この規則が一つでも破られた場合埴安神 袿姫と同盟を組み、組を壊滅させる事。最終的な決定権は悪魔で饕餮尤魔にある。
飲み込めないなら断ってもいいと言う驪駒の声が聞こえない程、三幹部達は悩む。まさに馬の耳に念仏と言ってもいいが、驪駒自身がそれを経験するとは思ってもいなかっただろう。
「三日待ってくれ!三日後には必ず結論を…」
「ダメです。待って半日ぐらいでしょうね。」
三日間で戦力を整える作戦はさせまいと八千慧はピシャリと告げた。いよいよ本格的に選択が迫られる中、聞き覚えのある声が結論を出した。
「特に問題は無いから、別に飲んでもいいぞ。」
声の主はいつの間にかソファーでコーヒーを注いでおり、何処から持ってきたか分からない砂糖を十三個入れている。
「久しいな、大陽。何時来たと言う質問は後で聞いてやるから今言った事、本当なんだろうな。」
「あぁ、本当だ。別に情報が漏れても困ることは特にないからな。それともお前達は何か漏れたら困ることでもあるのか?」
饕餮は確信した。例え多重人格で表舞台に出てなくても、組長としてのスキルは十分に育っていると。目の前で、甘すぎたか砂糖が足りなかったか知らないがむせている包帯まみれの生身の人間に注意をはらう。だが面倒事は大嫌いな脳筋馬鹿はそんな事は気にせずポケットからハンコを取り出し、大陽もハンコを押して契約を進めようとしている。
「よし、じゃあこれで今日からウチの支配下…」
「待ちなさい馬鹿馬。こうゆう物は押す前に目を通すのです。」
八千慧と饕餮は再び契約書に目を通すが、あまりの衝撃に八千慧は目を丸くし、饕餮は大笑いで契約書をビリビリに破いた。二人が見た内容は支配下とはほど遠い条件であり、あまりの甘々条件に驪駒も笑うしかなかった。
「ハッハッハ!!!流石は饕餮に育てられた人間だ!そうゆうところまで分解して吸収したかw!」
「まあ意地の悪さは私譲りだからなァw!!」
動揺が混ざった見栄っ張りに大陽はドン引きするも、とにかく休戦協定の話はチャラになり、次いでに大陽率いる組織は正式に四大組織に加入された。
「で、それでそれで?」
「その時の組長の顔は今でも鮮明ッスよ!『一杯食わせてやった』的な感じ。スマホの待ち受けにしたいッスよ!!」
「やめろ恥ずかしい。俺は常に真剣なんだよ、諸君。それと可愛い部下が苦しんでいるところを放置しているようじゃあ、組長やってないよ。」
ガヤガヤ騒がしい獣達のやり取りはしばらくこれで固定だな。そう感じた俺は席を外し、組長室に戻る。正直あの契約書を見た時は顔が真っ青になったが、よくよく考えれば事象を分解し改ざんすればいいじゃんと気付いたので結果オーライだ。テラスに移動し、そよ風に当たるのもまた一興。こうして考え事にふっけるのは至福のひとときに値する。龍陽が繋いだ命は無駄にしたくないので、あいつの為にも俺は組長でいなければならない。変わらない景色、変わらない日常に飽き飽きしていた俺だったが、ここではそういうのはないので満足出来そうだ。これから何度も困難が俺の足を引っ張ろうとするだろう。だがその度俺は困難を殺し、屍の上で生活する。雨で血が流れても、俺が殺した事は消えないしな。ようやく手にした幸せはこの手でずっと、握りしめていたい。
「あのー、すみません。組長宛ての手紙なのですが、受け取って貰ってもよろしいでしょうか?」
「ああ構わない。すまんな。気付いてやれなくて。」
一通の手紙を丁寧に開封し、中身を確認する。どうやらまた面倒事に巻き込まれたようで、俺はため息をついた。
しばらくして読み終わると、組長室にはドクターが居座っていた。ドクターは椅子から立ち上がると、最後のUSBを手渡しされた。
「君とその親友はよくやってくれたよ。成功報酬の【overwrite】(オーバーライト)だ。」
オーバーライト。それはとある赤髪のボーカロイドが歌っていた方ではなく、事実上のオーバーライト(上書き)である。すぐさまパソコンに繋ぎ、オーバーライトを起動させた。ロードまで時間があるので少しドクターと話をしようとしたが、何処ぞのさとり妖怪のように心を読まれたかは知らないが話はドクターから始まった。
「君は本当いいのかい?何度も何度も同じ時間軸を経験し、自分の満足する結果が出るまで、事象を分解し続けた。決して誇れることじゃないが君は何度も彼女たちを殺している。あんなに外の世界を侵略しようとしていたのに、それで君は満足かい?」
「あいつらは俺に殺され続けるに値しないって事。それに、あんなに疲れるのはもう勘弁願いたいね。」
丁度ロードが100%に到達し画面に【上書き完了】と表示され、俺は仰向けになる。
「あ、それから作った資料は全部二番目の引き出しにあるからご心配なく。平行世界(マルチバース)についてまとめてあるから。」
「それはどうもありがとう。I(アイ)も喜ぶと思うよ。」
そう言うとドクターはいつの間にか消えていった。ああそうだ。前にもこんな事があったから説明しとくぞ。あの時龍陽が貰った三つのUSB、あれはマルチバースに関するデータだ。この世界は以上な程波長が多いので調べてみると、どうやらマルチバースは数多の数存在するらしい。博麗霊夢が消え、魔理沙が最強になる世界線。西行寺幽々子が自身の遺体を探し出すのを止める為、妖夢が俺の様に時間軸をいじったりする世界線。はたまた幻想郷が海に沈んだ世界線など、色んな世界線が存在する。俺はドクターにその世話係、いわゆる守護神的な立ち位置を命じられていた。ぶっちゃけるが、絶対めんどい奴じゃん。だがめんどくてもマルチバースの均衡を保つ為にもやらなければいけない。ハァ〜~とクソデカため息をついて、机の上にあるチョコドーナツに手を伸ばす。
まあ今は幸せなので良しとしようと、チョコドーナツについているホイップクリームをすすりながら食べ進めた。これから宴会にも誘われているので、しばらく糖分は控えよう。俺はまだ四個入っているドーナツの袋を閉じ、組長室を後にした。
season2 終