『博麗の巫女』。
この名だけで私は、妖怪共から恨まれる存在であることが宿命付けられた。
この名だけで私は、孤独であることを宿命付けられた、はずだった。
妖怪に恨まれ、人間に敬われ、そして、傍には誰もいない。
そんな孤独が宿命となる、はずだった。
「霊夢ー、今日も来てやったぜー」
相変わらず妙に能天気な声。
鳥居も潜らずに神社に現れる不届き者の名は、霧雨魔理沙。
「全く、何が『来てやった』よ。あんたねぇ、人の家でお茶から夕食まで勝手に食べておいて、土産の一つも持ってこないつもり?」
まあ、素直に言うなら、「来てくれてありがとう」なんだけど、そんなことを言うとこの白黒、「大丈夫か?熱でもあるんじゃないか?」なんて言ってくれそうだからやめておく。
「まあまあ。私自身は何も持ってきて無いが、私が誘った客が色々持ってきてくれるはずだぜ?」
それで勘弁してくれ、なんてぬかしてる。こいつの場合、勘弁しようがしまいが関係ないだろう。
「で、『客』って誰よ?」
魔理沙の箒は一人用。魔理沙以外に降りてくる影は無かったと思ったけど。
「全く、この神社の石段は長すぎるわ。短くしてあげようかしら」
そんな不穏当な愚痴とともに現れたのは、紅い悪魔ことレミリア・スカーレットと、あれ?
「前半部分は概ね同意ね。参拝客が少ないのも頷けるわ」
此方も中々よろしくない発言の主、七色の魔女ことアリス・マーガトロイドだった。
「ねぇ、レミリア」
「何、霊夢?」
「何でその組み合わせなの?」
そう。珍しく咲夜がいない。あの人間の従者、レミリアから10歩以上離れる事は無いんじゃないかと思うほど普段はぴったりくっついているのに。
「何言ってるの霊夢。咲夜が年中私にくっついてたら、今頃紅魔館は廃墟ね。今日も仕事をこなした後で来るように言ってあるわ」
それに、春が来なかったときにもあの子を動かしたじゃない、と一言。
……確かに。
「で、魔理沙。これがあなたの呼んだ客人?」
「ああ、そうだけど?」
「二人とも土産を持ってるようには見えないんだけど?」
「奇遇だな、私もだぜ」
プチン、と綺麗な音がした気がした。
「ふ、ふざけるなー!」
再びお茶に縁側に腰掛けてお茶を啜る。隣ではレミリアとアリスが紅茶を飲んでいる。
「湯飲みで紅茶って本当に違和感あるわね。普段咲夜がわざわざティーカップを使う訳だわ」
そんなものだろうか。同じお茶なんだし、大して変わらない気もするが。
「あら、霊夢。じゃあ貴女がティーカップで緑茶を飲むのを想像して御覧なさい」
……確かに少し変な感じがするかも知れない。
少なくとも、湯飲みとティーカップなら湯飲みで飲みたい。
「そういうものよ」
「そうね、やっぱり紅茶はティーカップに限るわね」
お茶請けが和菓子だから妥協するけど、とはアリスの弁。
「私も混ぜてほしいぜ」
不意に別の方向から声。
「あら、魔理沙、楽しそうね」
簀巻きにされた(勿論したのは私だけど)魔理沙に優雅な微笑を見せるアリス。
これが都会派の余裕、という奴なのだろうか。明らかにおかしな状態の魔理沙を見ても動じない。
……まあ、簀巻きにされる瞬間を見てるんだから当然か。
「これが楽しそうにみえるか?」
「ええ、とっても。」
「月人の所に行くことを強く勧めるぜ……」
訂正。アリスは明らかに楽しんでる。立場が逆なら「ザマミロ」って言葉が聞こえそうな感じ。
まあそういう下品かつ直接的な貶し文句を使わないのもアリスの美徳の一つかも知れない。
「と、そういえばさ、パチュリーはどうしたんだ?図書館から一緒に来たはずだろ?」
「ああ、来る途中でマリサの家の近くを通ったのよ」
なんとなく怪しげな雲行き。
「で?」
「それだけ。『ああ、そういえばここが魔理沙の家ね』って言っただけよ」
「……」
「まあ、転移魔法の術式が見えた気がするけど気のせいじゃない?」
「謀ったなー!」
暴れだす魔理沙。簀巻きだからいくら暴れたところで見てて面白いだけだけど。
「自業自得よ」
「一言で切り捨てないでくれ霊夢」
むしろ私が疑問に思ったのは別のところ。
「それよりアリス、あなたパチュリーとずいぶん仲よくなったのね?」
アリスのティーカップを運ぶ手がぴたりと止まった。
私そんなに変な質問したっけ。
「どうしたの?顔真っ赤にして?」
魔理沙も微妙ににやついている。なんか簀巻きで顔だけだして暴れながらにやついてるのはちょっと気色わるいかもしれない。
「違うわ、霊夢。こういう時は一言で十分」
魔法の一言があるのよ、とレミリア。
「何よ」
「昨晩は、お楽しみでしたね」
ボン。
いい音がした、気がした。
アリスの顔色が一瞬で変わった。
「な、ななななな、なんのことかしら?」
真っ赤だ。暴れ疲れて息切れしている魔理沙の顔より赤い。
だけど、レミリアの一言とそのリアクションで全てがばれたと気付け。
「「ニヤニヤ」」
こういうときにレミリアと行動がかぶるというのはちょっとむかつくというか何と言うか。
でも、こういうのを見たらこうなるのは自然の摂理だと思う。
「ち、違うわよ?パチュリーとは別にそういうわけでは……」
「失礼しまーす」
「あら、早苗」
これは、思わぬところからの助け舟。レミリアが舌打ちしたのは聞かなかったことにしよう。
「はい、これ、お土産の御神酒です」
今日の来客、4人目にして初の土産。
嬉しいんだけど何か釈然としない。
「しかし、貴女もこういう宴会をするなら人間相手にすればいいのに……」
「私も人間だぜ?」
思わぬところからの一言。
「……」
そこに何かがいることに少し驚きを見せる。
そして、簀巻きの魔理沙を見て、私を見る。
私はただ首を横に振る。何となく、力ない感じを出せれば役者として十分。
「……」
しばし沈黙。
「し、趣味は人それぞれですよね……」
早苗の呟きは聞かなかったことにしておこう。その方がおもしろそうだ。
「き、今日の宴会、私と八坂様達も参加させてもらっていいですか?」
あ、結局そこはスルーするんだ。
早苗の弱点発見、かな。明らかにアドリブに弱い。予想を超えた事態が起きるとパニクる。
確かに思い返してみれば、自分の想定どおりに進まない事柄に関しては脆かったなこの子。
……これは使える。
「!?」
「あら、どうしたの早苗?そんな慌ててこっちを見て」
「気のせいですよね……?」
「何が?」
「いや、なんとなく怖気がしたといいますか、不穏な感じがしたので」
危ない。気配が漏れてたか。
「気のせいよ。そんなことより、私これから宴会の準備をしなきゃいけないから、手伝ってもらえるかしら?」
「あっ、はい。喜んで」
うんうん。いい子だ。
年の差は無いはずなんだけど、見てて微笑ましくなるのが不思議でならない。
「何が『気のせい』よ。明らかに何か企んでたじゃない」
レミリアの呟きは早苗の耳には入らなかったらしい。良かった。
「レミリア」
「何?霊夢」
「余計なこと言わないで頂戴」
「私もあの子を弄るのに混ざらせてもらうわよ」
狙いはそっちだったか。
「別にかまわないわよ。だから黙ってなさい」
「はーい」
既に弄られ属性がついてるあたりは微かに不憫さを感じるけど。
しかし何時もの事ながら、レミリアも素直になると見た目相応な稚気をみせる。
メイド長もこれに惚れたのかな。というより、紅魔館の主要な住人は、みな単に「吸血鬼」という種族のカリスマに惹かれてるだけでなく、レミリアのこういうところにも魅力を感じてるんだろう。
妖精メイド軍団を除けば、そうとでも考えない限り大人しく他者の下にいるような連中じゃないし。
「霊夢、あんまり他家の事情を詮索するのは良く無いわ」
睨まれた。考えてることは筒抜けだったらしい。
「まあ霊夢ならいつでも歓迎だけどね。それと、また『客』が来るわよ」
「あら、じゃあ、アリス、早苗と一緒に宴会の準備始めちゃってもらえる?」
「わかったわ。早苗ちゃん、でいいわね?」
「あっ、はい。こちらこそよろしくお願いします」
…本当に健気な子だ。
宴会の準備はあの二人に任せておけばよさそうね。
「いらっしゃ……、って、何だ、花と蟲じゃない」
「随分とご挨拶ね。呼ばれたからわざわざ来てあげたっていうのに。お望みとあらば、この神社ごと花の肥やしにしてあげてもいいのよ?」
「こらこら、物騒なこと言わない。紅白も、いきなり酷いこと言わないでちょうだい」
リグルと幽香。これまたなんとも珍しい組み合わせな気もするが。
「実はな、霊夢」
簀巻きが勝手にしゃべりだした。
「幽香を誘うつもりで花畑に行ったら、こいつらときたら、二人でいちゃついてたんだぜ」
「へぇ。それは中々面白いニュースね」
レミリアが食いついた、と思ったけど一瞬で固まる。
「やっぱり魔理沙、『口は災いの元』って言葉を知っておくべきだわ」
「そうね、それに私も、もっと面白そうなこと見つけたし」
レミリア、逃げたな。
まあ、これだけの殺気じゃある意味当然か。『弾幕らないか?』なんていう次元じゃない。
「 魔 理 沙 ~ ♪ 」
『そこにいるのは、風見幽香の姿をした別のものだった』とレミリアは、後日取材に来た射命丸文に言ったとか。
「まあまておちつけ幽香私はただあのときのお前があまりにかわいらしかったから悪気はなかったんだとだからその傘とか分身とかやめてまってデュアルスパークははんそくd」
「バイバイ♪」
あ、簀巻きが星になった。
「うーん珍しい光景。あの幽香さんが真っ赤ですよレミリアさん如何ですか?」
「そうですね霊夢さんこれは中々貴重な1シーンと言わざるを得ませんね多分蟲との間に深い関係があるんでしょうね」
「やはりそう思いますかレミリアさん、って、こっち向いた」
霖之助さんに聞いた外の世界の『解説者』ごっこを中断する。
だって、スペカルールとか関係なしな殺気なんだもの。
「あなたたちも星になりたいの?」
「どうしたの?花の妖怪。私達何も見て無いし聞いてもいないわ」
レミリア、当然の判断だけど、何か墓穴を掘ってる気がするのは気のせいかしら?
「そう、ならいいけど」
そういって普段どおりの笑顔に戻る。それはそれで恐いけど。
まあ、レミリアの発言に対して、『そう言うこと自体が既に共犯の証拠、死になさい』なんて言われたらどうしようかと思っていたが。
「そうそう、忘れるところだったけど、私とリグルから持参品よ」
「あら、良さそうな日本酒ね」
「ええ、私達が招かれるなんて珍しいことだし、少し奮発させてもらったわ」
「私も『蟲の知らせ』サービスとか色々やったし、それなりに余裕もあったからね」
「そう、これでお酒の心配は要らなくなりそうね。私も蔵のワインを持ってくるように言ってあるし。
……霊夢、どうしたの?さっきから黙り込んで」
「お二人様、いらっしゃい!今日は無礼講よ!さあ、早く始めるわよ!」
とりあえず前菜とかツマミになりそうなものを軽く作って持っていくと、神社の広場は既に大騒ぎになっていた。
「えっと……」
さっきより人数が圧倒的に増えている。知ってる限りでも、メイド、夜雀、紫色の魔女とか。
普段の宴会ではあまり見ない面々が中心みたい。
「はぁ、またこの展開なのね…」
「アリスさん。どういうことです?」
「どうせ予想外の客が土産を持ってきたんでしょう。霊夢ったら喜びの余りテンションが振り切れちゃってるのよ」
あの面々からするに、そうね、リグルか幽香あたりかしら、と続ける。霊夢から見たら二人とも『マイペース』だろうしね、とのこと。
「はあ……」
ということは、折角私の土産を使って作った貝の酒蒸しは見向きもされないのか。
ちょっと腹が立った。
貝をくれたのは山の妖怪だけど。
「じゃあ、早苗ちゃん」
アリスさんはツマミ類を宴会の真ん中に置くだけ置いて戻ってきたらしい。私に警告したいようだ。
面倒見のいい人ですね、って私が言うと変だろうか。
「あんまり巻き込まれないように…ガボッ」
酒瓶がアリスさんの口にクリーンヒット。
うわー。すごい勢いで酒が流れ込んでいく。急性アルコール中毒とか大丈夫かな?じゃなくて。
「何やってるんですか!」
しかも投げたの神奈子様だし。
周りの面子も笑ってるし。『絶妙なコントロールね!』じゃないって。
「まあまあ早苗。いいじゃないか。今日は『無礼講』なんだから」
「昨日も一昨日も山で同じ発言を聞きました!」
毎日宴会で、今日は後片付けこそしなくてすみそうだからまだいいけど、こんなんじゃ身体が持たないじゃないですか、私ただの人間なんですから。
なんて愚痴っていると、ふっ、っと世界が暗くなった。
「そーなのかー」
私がその日最後に聞いた台詞は、そんな間の抜けた言葉だった。
「あいたたたた……。参ったな、これは二日酔いの予感」
昨日は…、と考えるとまた頭痛が襲って来た。二重の意味で。
「やっぱり、後は野となれ、よね……」
辛うじて覚えているのは、幽香とリグルがいい雰囲気で話しながら飲んでたのを程々にからかい、夜雀を脅して歌わせたあたりまで。
結局二人の持ってきた日本酒のほかに、咲夜とパチュリーが持ってきたワイン、守矢神社から持参の神酒、果てには夜雀が屋台用に持っていた酒類まで全部空けたのだろう。
「うーん……」
あ、手伝い要員が残ってる。可哀想にも酔い潰されたのは誰だ?
「あれ?私……きゃっ」
とりあえず起きた早苗は雁字搦めに。人身御供ってやつだ諦めな。
ついでに横で倒れてるアリスも捕獲。
…アリスの服が乱れてるのは見なかったことにしておこうと思った。そういえば宴会中もパチュリー見なかったしなぁ。レミリアのいうとおり、ってところかしら。
アリスを叩き起こし、三人で朝食、ついでに永遠亭の薬師にもらった二日酔い用の薬を飲む。
で、庭に戻ってきてまず一言。
「お二人さん、まわり見て?」
まさに惨状。
「何してもらいたいか、わかるわよね?」
昨日の幽香ほどでは無いけど、ちょっと殺気を見せておく。
「ふぅ、こうなったら何言っても無駄ね。ちゃっちゃと片付けるわよ」
先に折れたのはアリス。まあ、もとから面倒見はいいほうだから、こういう仕事は向いてるでしょ。
「どうせ守矢神社でも同じことしてますしね……」
早苗も折れる。この子は守矢神社の神二人のほかに、疫病神まで背負ってるんじゃなかろうか。もしくはあの二人のどちらかが元々疫病神の性質を持ってるか。
「二人とも貧乏くじに縁がありそうね。これからも宜しく頼むわ♪」
「そんなもの欲しくないわよ」
「あら、蒐集家としては持っておいて損は無いんじゃない?」
「どうせ魔理沙の尻拭いが仕事になるんだから嫌よ全くもう」
そんなくだらないやりとりをしながら思う。
今の私は独りじゃないなぁ、と。
幸せ、というのか、とかはわからないけど、こういうのも悪くないな、と思った。
「霊夢さん、ぼーっとしてる暇があったら早く手を動かしてください!」
うん、まあ、下らないこと考えてる暇も与えてもらえないしね。
「そういえば、私のいない間に魔理沙が消えてたけどどうしたの?」
「あら、アリス、聞きたい?命の保障は出来ないわよ?」
七曜の魔女ことアリス・マーガトロイドだった。
でわなく
七色の人形遣いことアリス・マーガトロイドだった。です
でもさらりと読めていいです
惜しむらくは説明不足、描写が不十分のところがあるところですねー。あと脱字でしょうか? 最後のほうに『この子は神二人のほかに』とまで書いてとまってる文章があるんですが。
とりあえず、お二人に指摘いただいた部分のミスは修正いたしました。
…いや、やっぱり推敲不十分でしたね。しっかりせねば。
>名前が無い程度の能力の4名様
まずコメント日時の早い方のから、と言う感じでいうなら、
・ありがとうございます。今後とも努力するつもりなので、よろしくおねがいします。あと、悪い点を見つけたらびしばし指摘してください。(×2)
・『まとまりがない』のは「やっぱりか…」という気分もあります。
いや、完全に言い訳ですが、最初は携帯のメモ帳にあったネタを膨らませた挙句に暴走させたお話なので、携帯にメモした時の構想と180度違う話ができてるんですよね…。
多分冒頭のシリアスっぽさが当初の予定だったと思われます。
…長々と言い訳しましたが、ご指摘ありがとうございます。
・説明不足、描写不十分は前々からご指摘があったのですが、依然としてなおってないですか…。
完成した後流し読みしながら足してはいるんですがね…。
のんびりほのぼの感が伝わったのを励みに頑張りますので、よろしくおねがいします。
…長い長いコメントですが、失礼致しましたー。
でも、もう少し他のキャラの様子も描いてほしかったかも。
アリスの服はどうして乱れていたのでしょう。聞いてはいけないような気もしますがw