Coolier - 新生・東方創想話

マトリョーシカの中と外で

2010/05/22 23:53:09
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 鳥たちが忙しげに鳴き交わす声で、目が覚めた。まだ焦点が合わない目をこすりながら、枕もとの時計をにらみつける。いつもどおりなら、六時半前後のはずだ。十数秒も文字盤とにらめっこをして、ようやく時刻を読み取ることができた。六時、四十分。いつもより少し遅れ気味だ。食卓ではもうアリスが、朝食の支度を済ませて待っているだろう。
 適当に身支度を済ませて、リビングへ入る。
「おはよう、魔理沙」
思ったとおり、そこにはアリスが居た。食卓には、アリスが作ってくれたと思しき朝食が並べられている。
「おはよう、アリス」
――――ズキン――――
答えながら、アリスの向かいの席に腰掛ける。いつからだろうか。こうして、二人で暮らすようになったのは。つい最近のような気もするし、物心付いたときからこうだったような、不思議な気持ちすらある。食事中のアリスをぼんやりと眺める。今日は何をする予定だったか。紅魔館の図書館に行く? いや、そこには一昨日行ったばかりだ。どうにも思い出せないので、アリスに聞いてみることにした。
「なあアリ」
――――ズキン!――――
「うっ!?」
突然胸に刺すような痛みが走り、私はアリスに話しかけるのを中断した。
「大丈夫!?」
食卓の向こうで、アリスが立ち上がるのが見えた。目と目が合う。それだけで、胸が痛む。身体の中で何かが暴れているかのような痛み。私は、
「すまんアリス。ちょっと部屋で休んでくる」
そう一言言い残して、自室へ向かった。
 部屋に戻ると、さっきまでの痛みが嘘のように引いていった。ここ何日か、ずっとだ。アリスと会話したり、アリスと目が合ったり。そんなきっかけで、身体に激痛が走る。どうしたらいい? どうしたら治る? この不思議な現象は。このままじゃ、私がアリスと一緒に暮らせない。見つめあうこともできない。それは、いやだ。私からアリスを取ったらアリスから私を取ったら私にはアリスには二人には何も残らないいやだいやだどうしたらいいどうすればこの悩みから解放されるんだ――
 こうしてアリスのことを考えるだけでも、刺すような痛みが全身を駆け巡る。私の中の何かが、アリスのことを考えるなと文句を言っているような、そんな意思を感じる。祈るように天井を見上げた私の目に、太い梁が映った。その瞬間、脳内が晴れた。
――ああ、そうだった。アリスと過ごせない人生になんて、何の価値もないじゃないか。

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 どうやら、目が覚めたらしい。この数時間ほど暗いばかりだった私の眼に、光が飛び込んでくる。一瞬光に埋め尽くされた視界が、だんだんと部屋の壁を写し始める。ここ数日、繰り返されている日常。そうしていると、視点が急に高くなった。高くなったと言っても、私の身長の大体胸くらいの高さにしかならない。
――私は、そこにいるからだ。私が事故で死んだとき一緒にいたアリスは、私の魂を魔法で捕らえた。そして、アリスが初めて完成させた自立人形に無理やり詰め込んだというわけだ。
『おはよう、魔理沙』
 リビングには、アリスが居た。椅子に座って、私の少し上を見つめている。
『おはよう、アリス』
私の声が聞こえる。私と、そっくり同じ声色。顔も、私にそっくりなんだろう。この忌々しい人形は。その声で、アリスの名前を呼ぶな! お前が、アリスの前に立つな! そこに居て良いのは、私だけだ! そう強く念じてみても、私にはこの人形に、ほんの少し、ちっぽけな痛みを与えてやることしかできないらしい。だが、それでいい。それでもいい。アリスと、私以外が会話するのを少しでも邪魔できるなら。
 『魔理沙』は、テーブルを挟んだ向かいに座ったらしい。目の前に、いつもよりずっと近いところに、テーブルが見える。アリスの前には朝食が並べられている。もちろん、こちらには何もない。まあ、あったところで、それを食べることは私が全身全霊で邪魔していただろう。こいつがアリスの手料理を食べるなんて、絶対に認められない。
 頭上で、『魔理沙』が何かを言おうとする気配がした。
『なあアリ』
 もう何日もたつというのに、これだけは慣れない。アリスが、私ではなく、私によく似た別人に、私を見るのと同じ目を向ける。やめろ! やめろやめろやめろやめろやめろ!
 今まで見えていたテーブルの上の景色が一転、視界が床で埋め尽くされる。それで、私は『魔理沙』が椅子から転げ落ちたことを知った。いままでこんな効果をあげたことは無かったが、苦しんでくれる分には言うことはない。そうしているうちに、『魔理沙』は自室へと戻った。
 で、どうするんだ? お前がアリスの前に居続ける限り、私はお前の邪魔をし続けるぞ? その縄で、どうするつもりだ? 死ぬのか? 死ぬんだな? 勝った! 勝ったんだ! これで復讐が! 私が死んだ後、私以外と幸せそうに過ごすアリスなんてものを、私に見せつけた罰だ! 死ね! そうだ! あとはその椅子さえ蹴飛ばせば! はは、ははは、あっははああっはあはははははははあはは
 お久しぶりです。さとうとしおです。
なんか、悲しい話を書いてみたくて書きました。
これが悲しい話なのかはよく分かりませんが、自分はこれが書きたかったと言える話にはなりました。
魔理沙の怒りの対象が、あちこちにぶれていますが、きっと怒りに我を忘れていたからだと思います。
さとうとしお
[email protected]
https://twitter.com/sugarAsalt
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コメント



0.720簡易評価
6.100名前が無い程度の能力削除
魔理沙がアリスの事好きすぎる・・・理想のマリアリだった。
マリ→→→←アリ 
魔理沙、生き返ってくれー!
9.60名前が無い程度の能力削除
ふむ
たしかにこれはみんな死にますなw
でもあんまり悲しさが伝わってこなかったのが残念w
アリスの心情風景も書いてもらえていたらいい感じの悲しい話になったんじゃないかとナマ言ってみますw
15.90名前が無い程度の能力削除
なんてそそられる設定w
長編でもないのにこれだけオチがはっきりしているのはすげぇとオモタ