(注意:今回は地の文あります。今までと雰囲気が変わりますが、ご了承ください。)
私、ミスティア・ローレライは長いこと屋台をやっている。当然合コン会場になったことも結構ある。が、今回のタイプは初めてだ。
合コン前のノリはこんな感じだ。
鈴仙 「男性の方ってどんな人なんでしょうか!」
霊夢 「落ち着きなさいよ。それより私のリボンの位置大丈夫かしら?」
アリス「そういえばトイレはどうしたの幽香?」
幽香 「男用女用に分けたわ。ちゃんと綺麗好きな子を用意したわ」
アリス「子?」
魔理沙「帽子に星つけてるの大丈夫かな、あざといとか思われないかな」
早苗 「星くらいどうでもいいじゃないですか、私なんてニキビですよ」
妖夢 「みなさーん!遅くなりましたぁ!」
6人 (来た!!・・・え?)
「ここが会場かぁ~」
強面の男が喋る。
「普段こんなところ来なかったからな」
受けるのは額が傷だらけの男だ
「あ~、すみません、皆様をお待たせして」
巨漢の男が話しかける
「席は自由でいいんですか」
角刈りの男が声をかけるが、答える女はいない
霊夢 (なにこれ?)
早苗 (なんというか・・・)
鈴仙 (これ完全に・・・)
6人 (ヤクザだよね?)
7人の侍と妖夢が席をつく中、6人の女は完全に下を向いていた。
合コンテク第3項目の目線チェックは誰も行っていない。
私、ミスティア・ローレライは今宵の伝説の全てを証言する。
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合コンに入る前に人物紹介をしておこう。
女性の参加者は席順に
第1テーブル
魂魄妖夢
鈴仙・練り物・イナバ
第2テーブル
博麗霊夢
アリス・マーガトロイド
霧雨魔理沙
第3テーブル
風見幽香
東風谷早苗
となっている。その内”少なくとも合コンが始まる前は”彼氏を作りたいと思っているのが、鈴仙、霊夢、早苗であり、この3人を各テーブルにばらけて配置した。更に第2テーブルは何かと女子だけで会話しがちな霊夢と魔理沙の間にアリスが入っている。これらは全て合コン・ジェネラルこと、アリスの采配だ。
対する男性陣、コードネームは『先輩』『両津』『主将』『チャラ男』『江頭』『男子高生』『横綱』である。彼らの人物像は妖夢によって事前解説されてはいたのだが、実物は全く違う。どうやらこの白髪オバケ、頭も半人前らしい。こと顔について、私ミスティア・ローレライが改めて解説する。
先輩 「妖夢、幹事の席はここか?」
妖夢 「はい先輩、あ、主将もこちらですか?」
主将 「ああ、」
鈴仙 「ひっ・・・」
まず『先輩』こと妖夢の彼氏だが・・・、アントニオ猪木の中学時代はたぶんこんな感じ、と言ったような外見だ。そして頬の肉が大きく抉れている。人というより鮫の顔に近い。後に話を聞くと、妖夢の通う道場は古剣術、外の世界で忘れ去られたものが幻想入りしたものらしい。そこでは防具を使わずに殴り合うものだからみんなこんな顔になるらしい。
主将 「驚かして済まない。まぁみんなこんな見てくれだが、別にヤクザものってわけじゃないんだ。」
鈴仙 「ひ、は、はぁ・・・」
そして『主将』。これはバキの花山薫似(スペック戦後)とでも言おうか、ヤクザそのものの外見だ。鈴仙に話しかけているが、どうみてもヤクザが女子高生に売春を強要しているようにしか見えない。
男子高生「博麗霊夢さんですね。本日はよろしくお願いします」
霊夢 「よ、よろしく」
第2テーブルも着席が始まったらしい。霊夢に話しかけているのが『男子高生』のあだ名の男だが・・・一言でいえば竹内力ミニサイズ。身長だけを言えば小柄な方だが、分厚い筋肉を全身にまとっているため、迫力は巨漢そのものだ。歴戦の博麗の巫女も怖気づいている。
両津 「アリスさん、実は僕、アリスさんの人形劇見てたんですよ」
アリス「そうなの、ふふふ」
アリスの前に席につくのは『両津』のコードネームの男だが・・・正に両津そのもの。こち亀が幻想入りしたのかと思うくらいだ。しかし顎を砕かれたことがあるのか、左の口の端が吊り上り、歯をむき出しにしている。子供が見たら泣き出すだろう。対するアリスは余裕の表情で、まるで天使のように微笑んでいるが、テーブルの下の足は震えている。翼の折れたエンジェル、といった具合だ。
チャラ男「魔理沙さんですか~、うわ本物、マジテンション上がってきた~」
魔理沙 「そりゃよかったな」
で、魔理沙の席にはチャラ男。言うほどイケメンじゃない、というより普通だ。イケメンというのは相対評価らしい。反面、傷面の男たちの中で傷を全くつけてないところを見ると相当練習態度に問題ありとも言えそうだ。・・・まぁあんな大怪我をする練習に付き合う筋合いは全くないともいえるが。対する魔理沙のほうは、まさしく安堵、と言った表情。性的興奮などとは無縁の顔だ。
江頭 「本日はよろしく」
幽香 「あなた、相当やるわね」
江頭 「ほぅ?」
第3テーブルも着席だ。コードネーム『江頭』だが、江頭2:50とは似ても似つかぬ外見。まず前頭部禿げと聞いていたが、若禿げではなく、額の無数の傷のせいだ。額だけでなく二の腕にも裂傷が走り、落ち武者というより歴戦の闘将、といった外見だ。対する幽香姉さまは興奮していて、今すぐにでもヤリたそうな顔だ。・・・ただし少年漫画的な意味で。
横綱 「あなたは確か、山の神社の・・・」
早苗 「ひっ!こ、東風谷早苗ですっ!よろしくお願いしますっ!!」
最後に横綱が席につく。横綱の外見だが、サンドウィッチマンの伊達、と言えば分かるだろうか。ただし本物はメガネをはずすと可愛いが、こっちはどうやっても怖い。対する早苗は虎に襲われたハムスターのように体を震わせている。
もう一度席をおさらいしよう。
第1テーブル
先輩ー妖夢
主将ー鈴仙
第2テーブル
男子高生ー霊夢
両津ーアリス
チャラ男ー魔理沙
第3テーブル
江頭ー幽香
横綱ー早苗
という配置である。合コンというより、マル暴がキャバクラに行きました、という絵だ。ビールを配りながら、私は一つだけ確信していた。
今日、新しいカップルができることはまずないだろう、と
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(第1テーブル:妖夢視点)
私、魂魄妖夢は少なからず混乱していた。
会が始まる前はイキイキしていた皆が今はまるで沈んでいる。それも落胆とは少し違う。まるで何かに襲われたかのようだ。・・・私がいない間に何かあったのだろうか?
先輩 「それではみなさん、本日はお集まりいただき・・・」
先輩が幹事の挨拶をしているが、全く頭に入らない。特に気になるのが鈴仙さん。鈴仙さんは合コン経験があり・・・こう言ってしまっては何だが、男なら誰でもいいみたいなタイプだ。なのに今日はどうしたというのだろう。
妖夢 「(鈴仙さん、その、どうかしましたか)」
鈴仙 「(どうか、て、そりゃあ・・・)」
何故か歯切れが悪い。自慢の付け耳もこころなしか垂れ下がっている。
先輩 「では乾杯!」
男子&妖夢「かんぱーい!!」
女子6人「・・あ、かんぱい。」
女性陣が何故か出遅れた。これはいよいよ何かあったに違いない。後で聞いてみよう。
先輩 「・・・俺の話、長かったかな?」
妖夢 「え、普通だと思いますよ」
先輩 「なら、いいんだが・・・」
やはり先輩も違和感を覚えたのか、頭をかきながらぼやく。私はそんな先輩に枝豆を剥いてあげている。幹事として、この場に漂う異様な空気を何とかしたいのだが、そもそも何が原因か分からない。
主将 「ああ、そう気を病むことはない。・・・俺たちは慣れているからな」
妖夢 「?」
しかし主将には心当たりがあるのか、そう答える。この人はいつも冷静沈着というか、何事にもどっしり構え、それが私たちの不安を取り去る。本当に頼りがいがある誇るべき主将だ。こんなにいい男なかなかいないと思うのだが、出会いに恵まれないのだろうか。
妖夢 「まぁ楽しくやりましょうよ、ね、鈴仙さん!!」
鈴仙 「・・・そ、そうね!そうよね!!ここまできたらそうよね!!」
ここまでとはどこのことを言っているのか、そんなわけの分からないことを言いながら鈴仙さんは酒を呷る。
妖夢 「ちょ、鈴仙さん!?」
鈴仙 「止めないで妖夢、私がここを潜り抜けるには酒の力が必要なの!!月から出る時も!師匠を探すときも!お酒だけはいつでも私の味方をしてくれたわ!!」
いきなり訳の分からないことを言い始めて酒を飲む鈴仙さん。まぁスイッチが入ってくれたのならいいでしょう。私は無意識に先輩に微笑んだ。先輩も苦笑している。とにかく今は宴会を楽しもう。しかし、隣のテーブルはどうなっているのだろうか?
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(第2テーブル:アリス視点)
どうしてこうなった!?
私、アリス・マーガトロイドは己の運命を呪った。何故、なぜ、ホワイ?紅魔館のロリ吸血鬼が私の運命でもいじったの!?
私は今回のために色々準備してきたけど、こんなプレッシャーの前で何をしていいのか分からない。
男子高生「僕、前の宗教対戦の時、いつも霊夢さんを応援していたんですよ」
霊夢 「そういう気持ちがあるなら少しでもお賽銭を入れに来なさいよね」
男子高生「ははは、一本取られたな。今度入れに行きますよ」
どうやら霊夢は最初の衝撃から立ち直ったらしい。流石は世界1位。安定力が違う。2位から6位に転落した私とは大違いだ。
チャラ男「で、今度そこで集会があってですね~、」
魔理沙 「へ~、で?」
しかしこの私から2位を奪った女は立ち直れていない、いや何というか、淡泊。何故か知らないけど会話すること自体無駄、とでも言いたそうな顔だ。正直、一番会話しやすそうな男だと思うんだけど。
両津 「アリスさんどうしました?」
アリス「え?ええ。人形劇の話だったかしら?」
まずい。さっきから会話に集中できない。というか、この人怖すぎ!!歯をむき出して、今にも噛みつかれそうな感じがする。魔界で合コンした時代は悪魔とか死神とかフランケンとかそれはもう、いろんなタイプとやったけど、この人間の方が明らかに怖い!!
両津 「そうですそうです!!それで・・・」
アリス「最近はザクにハマってるわね」
両津 「ザク・・・ですか?」
私は強引に会話の主導権を奪う。今の私には話を聞きながら思考なんてできない。機械的に知っている内容をしゃべりつつ、現状打破を考えるのだ。
一般的に、現状打破の方法としてメジャーなのが席替え。話のマンネリ化を防げるし、移動することによるリフレッシュ効果もあるだろう。だが、今回の場合は無理。というより何このメンツ?7人全員危険牌ってどういうこと?バカなの?
ああ~~~、思考がまとまらない。え~と、そうだ幽香!幽香ならなんとかしてくれるかも知れない。幽香はどこ・・・
ミシミシミシッ・・・・!!
テーブルの会話が止まる。全員が音の発生源に注目した。そこにいたのは江頭と言う男と・・・その男に硬い握手をする幽香の姿があった・・・。
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(第3テーブル:幽香視点)
幽香 「ふぅ~ん、なかなかやるじゃない」
江頭 「おう、まだ本気ではないがな」
幽香 「ふぅ~ん、」
骨をきしませつつ、私は微笑む。何か違うとは思っていたが、この握力。どう考えても人間のそれとは違う。これは妖怪というより・・・
幽香 「鬼に近い力ね」
江頭 「おぅ、何かうちのご先祖様に鬼がいたって話だ。まぁ眉唾だがな!」
幽香 「へぇ~、あなた名前は?」
江頭 「星熊太吉ってんだ!!」
幽香 「星熊・・・」
なるほど、案外本当の話かもね。まぁ同性なだけかも知れないけど
早苗 「(ちょ、ちょっと幽香さん!!何やっているんですか!?)」
幽香 「(ちょっとしたスキンシップよ)」
早苗 「(スキンシップって・・・)」
やれやれ。山の巫女にしては情けないことを言っている早苗に対し、男性陣の反応は違っていた。
主将 「太吉に張り合える奴がいるとはな」
先輩 「風見幽香さんていう、ほら、太陽畑の・・・」
両津 「流石の太吉も大妖怪は荷が重いか?」
男子高生「いや、あっちもかなり本気ですよ」
ふふふ、どうやらあっちの反応は慣れたもの。流石に過激な鍛錬を積んでいるだけあるわ。しかし”かなり本気”ねぇ・・・
幽香 「そろそろ疲れてきたかしら?」
江頭→太吉「まだまだ!・・・て、いいてぇところだが・・・俺より握力で強い奴がいるとは・・・」
幽香 「あら、握力以外ならいるみたいな言い方ね」
太吉 「剣じゃ主将には勝てねぇ、てか俺は3番目だしな」
握手を解く。はぁ・・・正直危なかった。かなりどころか、私は全力だった。太吉が強いのか、私も老いが来たのか・・・。あれ、今日何しに来たんだっけ?ふと、アリスの視線に気づく。完全に恨みがましい視線だ。
アリス「(ちゃんとやりなさいよ!!)」
幽香 「(ごめん・・・)」
そうそう、私は今日は早苗のアシストだったかしら。私と太吉だけで盛り上がっちゃいけないわね。で、早苗は・・・
完全沈黙だった。さっきからデブが・・・じゃなかった、横綱が必死に話しかけているが反応なし。もう合コンそのものを諦めているようね。
太吉 「あ、わりぃわりぃ!強そうな奴がいて、つい興奮しちゃって!そういうのは俺だけなんで安心してくれ!コイツなんてウチの道場来る前は虫も殺せないやつだったんだぜ、なぁ!?」
空気の悪さを察知したのか、フォローに回る太吉。気遣いができる、というのはどうやら本当らしい。が、気遣い程度でこの場をどうこうできるものではない。さてはて、この緑巫女は何を思っていることやら・・・
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(第3テーブル:早苗視点)
帰りたい・・・!!
今、私が考える全てのことはこれに集約していた。そりゃあ、私自身、夢見すぎてたところはあります。ええ、それは否定しません。現実と別冊マーガレ○トの違いくらい分かります。けどこれじゃ少年チャンピ○ンの世界じゃないですか!!
私は今日のために色々準備してきました。その一つが袖の中に仕込まれているこのスペルカード。全く宣伝というわけではございませんが、我々守矢神社は縁結びもやっておりまして、このカードには神奈子の神徳が詰まった注連縄が。この縄で結ばれると男女が半ば強制的に結ばれるという、どちらかというと黒魔術に近い逸品です。しかし今はこれで妖夢さんの首を絞めたい。
というより、失礼すぎじゃありません?私たち、自分でいうのもなんですが、かなりの美少女ぞろいですよ。なんというか、人生の余りものみたいなメンツを押し付けられる筋合いないじゃないですか。ああ~、正面のガマガエルみたいな奴が何か言ってる。あなたは山に行きなさい、そしたら諏訪子様というお似合いの方がいらっしゃいますよ!!
幽香さんも何か言ってる、ヒャッハーみたいなやつも何か言ってる、でも、あー、あー、何も聞こえない。私、東風谷早苗は閉店中です。御用の方は一昨日きやがれ、です。もうこの席から一刻も早く・・・
早く・・・
そうです、席替えですよ!!この現状を打破するには席替えしか・・・、いえ、席替えも無駄でした。
私はざっとこのメンツを見渡す。このVシネマメンツじゃどこの席を行っても終わり。もっと、すらっとした執事みたいな恰好した男性とか・・・そんなこというと少女漫画か、みたいなツッコミ受けそうですけど、そういう男性がいて然るべきだと思うんですよ。奇跡が起きて、今こう、目の前に白馬の王子様が現れないかとかそういう修行をしておくべきでした。
私はひとしきり反省して顔を上げる。見るとこのテーブル、もはや私以外で会話をしている。自業自得とは分かっていますが、少しさみしい気分です。私以外の方はどうしているんでしょうか。そうだ、鈴仙さんとかならこの事態に対応できているんでしょうか?
私が鈴仙さんを見るとそこには・・・暴れる鈴仙さんと、何と抜き身の刀を振るう妖夢さんでした。
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(第1テーブル:妖夢視点)
殺す、殺す、殺す・・・!!
先輩 「ちょっと妖夢!!落ち着け!!」
妖夢 「だって・・・だって・・・」
それはそれは私も鈴仙がどういう人か分かってました。男にだらしないところがあるとか、そういうところありますが、それでもTPOくらい弁えると・・・
鈴仙 「あれぇぇぇ、よぉうむ、どうしたのぉ、そんなにおこってぇ?」
妖夢 「そこを動くな、淫乱ウサギ!!」
主将 「わ、妖夢を抑えろ!!」
先輩 「分かってます!!ほら、妖夢・・・」
妖夢 「くぅぅぅ・・・!!」
この淫乱ウサギ、あろうことか私の先輩に手を出しやがった!!斬るッ斬るッ!!殺して死なす!!殺して死なせて捌いて、ウサギ鍋にしてやるッ!!
先輩 「まぁまぁ妖夢、その、なんだ、落ち着けって」
妖夢 「先輩はどっちの味方なんですか!?」
元はと言えば先輩も先輩だ!あんな淫乱ウサギにデレデレして!!それも私の目の前で!!
妖夢 「先輩みたいな人がデレデレするからあの淫乱ウサギがつけ上がるんですよ!!あんなウサギは処理して然るべきです!!さぁ離してください!!」
先輩 「まぁ何だ、お前も飲みすぎだ。ほら、落ち着こう」
見ると淫乱ウサギは主将に寄りかかっている。本当に男なら何でもいいらしい。そうならそうと先に言ってくれればいいんだ。先に聞いていればコッチも養豚場のオスの小屋に放り込んでやったものを・・・ッ!!
このままでは危険すぎる。席替えだ。席替えしてこの危険物を隔離すべきだ。これが私のできる最大の妥協!!さぁアリスさん!!早くッ!!
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(第2テーブル:アリス視点)
あっちこっちから席替えムードが漂っている・・・。
私だってそれは分かっているけど、どう席替えしてよいものか困った。
本来、合コンの席替えは自由意志で行われるものだが、今回は別。しっかりマネージメントしないと事故が起きるでしょう。冷静にテーブルを見渡す。
まず第1テーブル。
妖夢と鈴仙が喧嘩をしている。これは隔離すべきね。幹事が喧嘩って既に大問題だけど、もうそんな些細なことは気にしてられない。幸い、お互いのパートナーは気に入っているようだし、席だけ離せば次第に落ち着くでしょ。
次に第2テーブル。
うまくいっているのは男子高生、もとい竹内力と霊夢だけ。魔理沙は何が気に入らないのか、チャラ男に対し、気のない相槌。他の男性をつけるべきね。とはいえ、他の男性って誰ならいいのかしら。両津か横綱か江頭か・・・。まぁ後で考えましょう。というより私も両津から離れたい。笑顔が本当に怖い・・・。
最後に第3テーブル。
早苗がどうやら孤立しているみたい。幽香が他2名の男子と談笑している。まぁ幽香なら誰を付けても大丈夫ね。
分析完了。ここで私が取るべき配置は・・・。
アリス「皆、ちょっといいかしら。そろそろ席替えしたいと思うんだけど・・・」
それぞれが私の方に注目する。まぁそうでしょうね。明らかに席替えが必要な状況だし。
アリス「でもぉ、みんな照れ屋さんだから私が勝手に決めるわね!え~と、」
嘘だが、全員受け入れている。この状況、誰かがマネージメントしないとやってられない。
アリス「まず、幹事さんたち。あなたたちは第3テーブルに移って。」
先輩 「了解!」
妖夢 「がるるるるぅ・・・」
まるで飼い主以外に吼える犬みたいね。まぁ飼い主さんと遠くの席に移ってもらいましょう。
アリス「第3テーブルの早苗以外の人は第1の方に行ってくれるかしら?」
幽香 「分かったわ」
太吉 「主将のところか」
横綱 「・・・」
どうやら横綱、早苗に相手にされなかったことがよっぽどショックらしい。
アリス「で、私も第1テーブルに行くわ」
横綱がぱっと明るくなる。現金なやつだ。一方魔理沙は恨みがましい目で見てくる。
アリス「ああ、ごめん訂正。幽香たちは私と第2に来て。で、魔理沙の正面の人が第1に行ってくれるかしら。で、霊夢たちは悪いけど第3。」
霊夢 「いきましょ」
男子高生「ほいっと」
これで布陣はこんな感じになる。さり気なく横綱の前に腰を下ろしつつ、おさらいをする。
第1テーブル
鈴仙 主将、チャラ男
第2テーブル
横綱、アリス、幽香、魔理沙、両津、江頭→太吉
第3テーブル
早苗、妖夢、先輩、霊夢、男子高生
暴れる鈴仙については周りに女性がいない方が返って安心だろう。チャラ男も鈴仙の近くの方が嬉しいだろうし。
私は横綱の前。さっきから孤立して寂しそうだし、少しぐらい相手にしてあげないとね。魔理沙は両津の前に移動し、そこに幽香と太吉が混じる。魔理沙も何故かうれしそうだ。そんなにチャラ男に何か不満があったのだろうか。
早苗の席にはカップル2組を配置。この組み合わせはうまくいってるから、早苗は無理して会話に加わる必要はない。というより、とっとと帰りたそうだ。静かにできる環境がいいだろう。
うん、我ながら完璧な布陣。これで問題はしばらく置きそうにないわね。ああ、落ち着くとトイレに行きたくなっちゃった。行ってこようっと。
アリス「魔理沙ちょっと席外すわね。」
魔理沙「トイレか?」
アリス「そういうのは分かっていても言わない。」
軽くチョップしつつ、私は席を外す。さて、これで少しは平穏な会になるかしら。
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(第2テーブル:魔理沙視点)
ふぅ・・・失礼だと分かってはいたんだが。
私は霧雨店を飛び出して以来、結構な事例に携わった。年齢はどうだか知らないが、人生経験はこの中で飛びぬけて豊富なつもりだ。で、だいたい一目見ればそいつの人間の価値は分かる。
両津 「どうしたんですか?」
魔理沙「いや、なに、しっかり飲み直そうと思っただけだぜ」
そう、私は今からが本番。こいつの”手”は信用できそうだ。
人を見るとき、手と足を見ればだいたい分かる。これが私の持論だ。最初の男は剣道場の男のくせに”手”が女性のようにきれいだった。つまりこの男、稽古をロクにしていない。口では大層なことを言うだけに私の不満はたまりっぱなしだった。コイツの話に真実はほとんどない。
ふと自分の手を見る。手のひらは分厚い皮膚に覆われ、ところどころ白く脱色している。業種にもよるが努力している人間は大抵そうなる。ちなみにコーリンの手はタコだらけ、無名塚との往復でできたものだ。で、両津の手。指、特に左手の指には巨大なタコがあった。剣道は左手の動きが重要とか言っていたからそれだろう。
魔理沙「相当練習したんだな、そのタコ」
両津 「ん?ああ、分かりますか。見栄えは悪いけど男の勲章みたいなものです。」
魔理沙「ホントに両さんみたいだな」
両津 「両さん?」
魔理沙「ああ、こっちの話だ。剣道場って言っても良く知らないが、目的ってあるのか」
両津 「強くなる目的ってことですか?そうですね、自分は幼い頃に姉を妖怪に喰われて亡くしましてね、もうそうならないようにって」
魔理沙「あ、わりぃ」
両津 「いいんですよ。そーなのかー、て間抜けなことを言うやつでね。今では負けないだろうって思ってますがね、ははは」
魔理沙「そ、そーなのかー・・・」
両津 「魔理沙さんは、その・・・?」
魔理沙「ああ、まだ実家には戻ってないし、これからも戻らない。私は大魔法使いになるって決めたからな。」
両津 「よろしければ、大魔法使いになるって決めた経緯を是非。」
魔理沙「うん、それか、昔な・・・」
(・・・魔理沙、助けて!!!)
魔理沙「うわ、何だ、今の!?」
両津 「? 何か?」
魔理沙「いや、声。アリスか?」
両津 「アリスさん?まだ戻られてないですが・・・」
(・・・魔理沙、助けて!!!)
まさか!?私は人形を見る。地底の異変の時にアリスにもらったやつだ。そこから声がする・・・。
魔理沙「アリスはトイレだったな?」
両津 「ええ、しかし」
魔理沙「邪魔するぜ」
何らかの緊急事態か。しかし何なんだ。私はトイレに行く。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
(さかのぼること、5分前)
(トイレ:アリス視点)
ふぅ。
私は便器に腰を下ろす。何だかどっと疲れちゃった。
しかし最初はどうなることかと思ったが、意外とうまく回りそうだ。まぁ彼氏ができることはないだろうが。
私はゆっくりと用を足す。幽香が新しく作ったお蔭か、実に快適な空間だ。というより幽香、こんな能力持っていたのね。最初トイレ掃除するって言い始めた時、そこまでしなくてもって思ったけど、こういうことか。
ま、今回のメンツじゃその努力は無駄なんでしょうけど・・・。
しかし妖夢の男性の評価基準はどうなっているのだろう。見た目より中身、てよく言うが、あまりにも見た目を軽視しすぎなような・・・強い男性がかっこいいということなんでしょうけど。流石Samuraiってところね。
さて、そろそろ戻りましょうか。私は水を流すために壁のスイッチを押す。
じゃー、という水の流れる音・・・は聞こえなかった。
代わりにペロッと大事な部分を舐められる感触・・・。
アリス「え?」
思わず下を見た私の視線の先には・・・。何と表現したらよいか、太い3本の触手だ。
アリス「え、え、どういうこと?きゃッ!?」
信じられない事態が起こった!!ありのままに言うと、私のお尻が便器に”喰われた”。
アリス「え?何?いや!?」
信じられない事態に混乱しつつ、ふと合コン前の会話が過る。
”ちゃんと綺麗好きな子を用意したわ”
”子?”
子?触手?便器?幽香?能力・・・。まさかあの女!!
アリス「きゃーーーーーーーーーーーーーー!!!!!」
信じがたいことにあの女のトイレ、食人植物だったのだ!!綺麗好きというのは植物のことで、そいつは人の汚物を綺麗に舐めとる・・・そういうこと!!世界広しと言えども食人植物をトイレに用いようとする発想ができるのは幽香くらいだろう!
アリス「あの、馬鹿ッ!頭までお花畑なの!?きゃ、いや、そんなところ舐めないで!!」
中の触手がぐりぐり攻撃してくるッ!!いや、このままじゃ私、エロ同人みたいに!!エロ同人みたいに!!
アリス「誰か助け・・・はっ!?」
重要なことを忘れてた。助けを呼ぼうにも私の下半身は完全に裸!!つまり男の前でストリップショーを行う羽目になる!!何か、何かないの!?でも、え?アレ、確か地底の時に・・・。
私は左手を翻す!その瞬間、人形が生きているかのように私の手元にやってくる!
アリス「魔理沙!助けて!!お願い!!」
私は親友に懇願した。
・・・
・・
・
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
(トイレ:魔理沙視点)
魔理沙「アリス!!大丈夫か!?」
私はノックもせずにドアを開ける!何かは分からないが緊急事態だ。マナーとか言ってられない!!
アリス「魔理沙!!来てくれたのね!!」
・・・・・・。
あらゆる事態を想像していた私も・・・こればっかりは想像できなかった。
1.トイレに腰を掛けるアリス
2.紅潮した顔
3.切羽詰まった声
4.左手に人形を持っている
5.右手は股間に伸びている
これらを総合するに私のやるべきことは
魔理沙「お楽しみ中、邪魔したぜ・・・」
アリス「どういうことッ!?」
私は静かにドアを閉める。何やらアリスの叫び声も聞こえるが、無視して歩く。
まさかアリスにこんな趣味があるとは。何も合コン中に自慰しなくても。久々に男に会って興奮したってことなのだろうか。私はとっとと席へ戻ることにした。
両津 「おかえりなさい。アリスさん、どうでした?」
魔理沙「まぁ、なんだ、きにするな」
私も親友、こういうのはそっと・・・また人形から喧しい声がする。何だ、まだ何かあるのか?
魔理沙「すまん、また失礼するぜ」
両津 「はぁ・・・」
私は渋々立ち上がり、またトイレに行く。しかし何なんだ?私は何か重要な思い違いをしているのか?私はトイレの前に行き、ドアを開けようとして・・・ふと違和感を覚えた。
(このトイレ、確か今日幽香が作ったんだよな。
しかし、そもそも合コンのためにトイレを作るか、というより作れるか?
例え作れたとしても、何故そこまでして・・・?
そういえばアリスは幽香のトイレ製作を知っていた。
あの時は合コンテクの一環だと思ったが、よくよく考えるとおかしい。
もしかして、何かこのトイレはアリスにとって重要な意味が・・・?
更に言えば、彼氏を探す気がないアリスの合コンへのやる気も違和感がある。
そもそもアリスは何故私を呼んだんだ?
そしてなぜこんなところで自慰を?
それともアリスにとって、ここでの自慰が必須なのか?
・・・
・・
・
そうか!!そういうことだったのかッ!!
アリスは余りにもモテ過ぎて、もはや男に興奮できなくなっていた。
そこで性欲を持て余したアリスは・・・
初対面の男に自慰を目撃されることでしか感じられない女になってしまったのだ!!
そう考えると全てが辻褄が合う!
アリスはトイレで自慰を始めたものの、男たちが訪れず、このままじゃ達しそうになってしまった。だから私を呼び出したんだ!!でも私が一人で来たものだから、目的を達成できず、だから何度も私を呼び直したんだ!!)
魔理沙「そうか、アリス!!分かったぞ!!」
私はトイレに向けて叫んだ。
アリス「!? 魔理沙!? そうよ、そういうことなの!!だから今すぐ!!」
魔理沙「安心しろ!!直ぐに両津さんを呼んでくるからな!!」
アリス「どういうことッ!?」
私は駆け出した!!こうしては居られない!一刻も早く両津さんのところに戻らねば!!
魔理沙「あのー両津さん、ちょっといいか?」
私は逸る気持ちを抑えつつ、丁寧に声をかけた。
両津 「え、僕、両津っていう名前ではないんですが・・・」
魔理沙「そこはどうでもいいんだぜ。ちょっと来てくれないか?」
霊夢 「何、魔理沙、またトイレ?」
魔理沙「ん?霊夢、まさか、トイレいくのか?」
霊夢 「ええ、そうだけど?」
魔理沙「そうか、今、女子トイレはアリスが使っているからいつものトイレを使うといいぜ」
霊夢 「? はぁ?」
私は霊夢を見送りつつ、そう答える。まずいな、少し待たないと。アリスはおそらく自分の性癖を周りに知られたくないだろう。
両津 「あの、僕の名前はですね・・・」
魔理沙「ああ、その話は後で。1分後に立つぞ」
頭に?マークを出してる両津さんを後目に私はいう。残念ながらアリスに時間がない。私もできる限りのことをしてやらなくては。
きっかり1分後。私は両津さんを連れてトイレに向かった。
両津 「あの、そのトイレ、今はアリスさんが入っているはずでは?」
魔理沙「そうなんだが・・・まぁ何だ、しっかり協力してやってくれ。」
私は中を見ないようにしてドアを開ける。
両津 「・・・うわぁぁぁっぁぁぁぁぁ!?」
それは驚くだろう。私も驚いた。しかし今は男女の仲、邪魔をするのは野暮って話だ。
両津 「しょ、植物・・・妖怪!!」
アリスくらいの美少女が自慰して誘ってるんだから、顎が外れるほど驚くだろう、だからこの叫びも当然・・・
魔理沙「妖怪?」
私は急いで中を見る!!そこにいたのはアリス・・・
ではなく、巨大な植物妖怪だった。
両津 「こ、これはいったい・・・?」
魔理沙「ま、まさか・・・」
私は重要な思い違いをしていたというのか!?しかしどこから間違った!?いや、そんなことを考えている暇はない!!重要なのは、さっきまでアリスがいた場所にアリスがいない、そして植物妖怪がいる!!これが導き出す答えは!!
魔理沙「アリスが・・・喰われたのか?」
両津 「な、何!?」
両津さんが一瞬泣きそうな、子供みたいな顔をした。が、一瞬無表情になり、次に現れた顔は阿修羅のそれだ。
両津 「・・・魔理沙さん、援護できますか?」
魔理沙「あ、ああ。一体何を・・・」
両津 「助け出します。アリスさんを。今度こそ・・・」
両津さんが私に初めて見せた表情だった。亡くなった姉への無念、強くなるために一切の妥協をしなかった鍛錬、その全てが試される時。そう考えているんだろう。
そして、それは、私も同じだ。
魔理沙「もし、アリスを助けられたら・・・両津さんの本名を教えてくれるか?」
両津 「喜んで。」
魔理沙「よし!!行くぞ妖怪!!」
私たちは2人、トイレに駆け込んだ!!
私、ミスティア・ローレライは長いこと屋台をやっている。当然合コン会場になったことも結構ある。が、今回のタイプは初めてだ。
合コン前のノリはこんな感じだ。
鈴仙 「男性の方ってどんな人なんでしょうか!」
霊夢 「落ち着きなさいよ。それより私のリボンの位置大丈夫かしら?」
アリス「そういえばトイレはどうしたの幽香?」
幽香 「男用女用に分けたわ。ちゃんと綺麗好きな子を用意したわ」
アリス「子?」
魔理沙「帽子に星つけてるの大丈夫かな、あざといとか思われないかな」
早苗 「星くらいどうでもいいじゃないですか、私なんてニキビですよ」
妖夢 「みなさーん!遅くなりましたぁ!」
6人 (来た!!・・・え?)
「ここが会場かぁ~」
強面の男が喋る。
「普段こんなところ来なかったからな」
受けるのは額が傷だらけの男だ
「あ~、すみません、皆様をお待たせして」
巨漢の男が話しかける
「席は自由でいいんですか」
角刈りの男が声をかけるが、答える女はいない
霊夢 (なにこれ?)
早苗 (なんというか・・・)
鈴仙 (これ完全に・・・)
6人 (ヤクザだよね?)
7人の侍と妖夢が席をつく中、6人の女は完全に下を向いていた。
合コンテク第3項目の目線チェックは誰も行っていない。
私、ミスティア・ローレライは今宵の伝説の全てを証言する。
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合コンに入る前に人物紹介をしておこう。
女性の参加者は席順に
第1テーブル
魂魄妖夢
鈴仙・練り物・イナバ
第2テーブル
博麗霊夢
アリス・マーガトロイド
霧雨魔理沙
第3テーブル
風見幽香
東風谷早苗
となっている。その内”少なくとも合コンが始まる前は”彼氏を作りたいと思っているのが、鈴仙、霊夢、早苗であり、この3人を各テーブルにばらけて配置した。更に第2テーブルは何かと女子だけで会話しがちな霊夢と魔理沙の間にアリスが入っている。これらは全て合コン・ジェネラルこと、アリスの采配だ。
対する男性陣、コードネームは『先輩』『両津』『主将』『チャラ男』『江頭』『男子高生』『横綱』である。彼らの人物像は妖夢によって事前解説されてはいたのだが、実物は全く違う。どうやらこの白髪オバケ、頭も半人前らしい。こと顔について、私ミスティア・ローレライが改めて解説する。
先輩 「妖夢、幹事の席はここか?」
妖夢 「はい先輩、あ、主将もこちらですか?」
主将 「ああ、」
鈴仙 「ひっ・・・」
まず『先輩』こと妖夢の彼氏だが・・・、アントニオ猪木の中学時代はたぶんこんな感じ、と言ったような外見だ。そして頬の肉が大きく抉れている。人というより鮫の顔に近い。後に話を聞くと、妖夢の通う道場は古剣術、外の世界で忘れ去られたものが幻想入りしたものらしい。そこでは防具を使わずに殴り合うものだからみんなこんな顔になるらしい。
主将 「驚かして済まない。まぁみんなこんな見てくれだが、別にヤクザものってわけじゃないんだ。」
鈴仙 「ひ、は、はぁ・・・」
そして『主将』。これはバキの花山薫似(スペック戦後)とでも言おうか、ヤクザそのものの外見だ。鈴仙に話しかけているが、どうみてもヤクザが女子高生に売春を強要しているようにしか見えない。
男子高生「博麗霊夢さんですね。本日はよろしくお願いします」
霊夢 「よ、よろしく」
第2テーブルも着席が始まったらしい。霊夢に話しかけているのが『男子高生』のあだ名の男だが・・・一言でいえば竹内力ミニサイズ。身長だけを言えば小柄な方だが、分厚い筋肉を全身にまとっているため、迫力は巨漢そのものだ。歴戦の博麗の巫女も怖気づいている。
両津 「アリスさん、実は僕、アリスさんの人形劇見てたんですよ」
アリス「そうなの、ふふふ」
アリスの前に席につくのは『両津』のコードネームの男だが・・・正に両津そのもの。こち亀が幻想入りしたのかと思うくらいだ。しかし顎を砕かれたことがあるのか、左の口の端が吊り上り、歯をむき出しにしている。子供が見たら泣き出すだろう。対するアリスは余裕の表情で、まるで天使のように微笑んでいるが、テーブルの下の足は震えている。翼の折れたエンジェル、といった具合だ。
チャラ男「魔理沙さんですか~、うわ本物、マジテンション上がってきた~」
魔理沙 「そりゃよかったな」
で、魔理沙の席にはチャラ男。言うほどイケメンじゃない、というより普通だ。イケメンというのは相対評価らしい。反面、傷面の男たちの中で傷を全くつけてないところを見ると相当練習態度に問題ありとも言えそうだ。・・・まぁあんな大怪我をする練習に付き合う筋合いは全くないともいえるが。対する魔理沙のほうは、まさしく安堵、と言った表情。性的興奮などとは無縁の顔だ。
江頭 「本日はよろしく」
幽香 「あなた、相当やるわね」
江頭 「ほぅ?」
第3テーブルも着席だ。コードネーム『江頭』だが、江頭2:50とは似ても似つかぬ外見。まず前頭部禿げと聞いていたが、若禿げではなく、額の無数の傷のせいだ。額だけでなく二の腕にも裂傷が走り、落ち武者というより歴戦の闘将、といった外見だ。対する幽香姉さまは興奮していて、今すぐにでもヤリたそうな顔だ。・・・ただし少年漫画的な意味で。
横綱 「あなたは確か、山の神社の・・・」
早苗 「ひっ!こ、東風谷早苗ですっ!よろしくお願いしますっ!!」
最後に横綱が席につく。横綱の外見だが、サンドウィッチマンの伊達、と言えば分かるだろうか。ただし本物はメガネをはずすと可愛いが、こっちはどうやっても怖い。対する早苗は虎に襲われたハムスターのように体を震わせている。
もう一度席をおさらいしよう。
第1テーブル
先輩ー妖夢
主将ー鈴仙
第2テーブル
男子高生ー霊夢
両津ーアリス
チャラ男ー魔理沙
第3テーブル
江頭ー幽香
横綱ー早苗
という配置である。合コンというより、マル暴がキャバクラに行きました、という絵だ。ビールを配りながら、私は一つだけ確信していた。
今日、新しいカップルができることはまずないだろう、と
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(第1テーブル:妖夢視点)
私、魂魄妖夢は少なからず混乱していた。
会が始まる前はイキイキしていた皆が今はまるで沈んでいる。それも落胆とは少し違う。まるで何かに襲われたかのようだ。・・・私がいない間に何かあったのだろうか?
先輩 「それではみなさん、本日はお集まりいただき・・・」
先輩が幹事の挨拶をしているが、全く頭に入らない。特に気になるのが鈴仙さん。鈴仙さんは合コン経験があり・・・こう言ってしまっては何だが、男なら誰でもいいみたいなタイプだ。なのに今日はどうしたというのだろう。
妖夢 「(鈴仙さん、その、どうかしましたか)」
鈴仙 「(どうか、て、そりゃあ・・・)」
何故か歯切れが悪い。自慢の付け耳もこころなしか垂れ下がっている。
先輩 「では乾杯!」
男子&妖夢「かんぱーい!!」
女子6人「・・あ、かんぱい。」
女性陣が何故か出遅れた。これはいよいよ何かあったに違いない。後で聞いてみよう。
先輩 「・・・俺の話、長かったかな?」
妖夢 「え、普通だと思いますよ」
先輩 「なら、いいんだが・・・」
やはり先輩も違和感を覚えたのか、頭をかきながらぼやく。私はそんな先輩に枝豆を剥いてあげている。幹事として、この場に漂う異様な空気を何とかしたいのだが、そもそも何が原因か分からない。
主将 「ああ、そう気を病むことはない。・・・俺たちは慣れているからな」
妖夢 「?」
しかし主将には心当たりがあるのか、そう答える。この人はいつも冷静沈着というか、何事にもどっしり構え、それが私たちの不安を取り去る。本当に頼りがいがある誇るべき主将だ。こんなにいい男なかなかいないと思うのだが、出会いに恵まれないのだろうか。
妖夢 「まぁ楽しくやりましょうよ、ね、鈴仙さん!!」
鈴仙 「・・・そ、そうね!そうよね!!ここまできたらそうよね!!」
ここまでとはどこのことを言っているのか、そんなわけの分からないことを言いながら鈴仙さんは酒を呷る。
妖夢 「ちょ、鈴仙さん!?」
鈴仙 「止めないで妖夢、私がここを潜り抜けるには酒の力が必要なの!!月から出る時も!師匠を探すときも!お酒だけはいつでも私の味方をしてくれたわ!!」
いきなり訳の分からないことを言い始めて酒を飲む鈴仙さん。まぁスイッチが入ってくれたのならいいでしょう。私は無意識に先輩に微笑んだ。先輩も苦笑している。とにかく今は宴会を楽しもう。しかし、隣のテーブルはどうなっているのだろうか?
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(第2テーブル:アリス視点)
どうしてこうなった!?
私、アリス・マーガトロイドは己の運命を呪った。何故、なぜ、ホワイ?紅魔館のロリ吸血鬼が私の運命でもいじったの!?
私は今回のために色々準備してきたけど、こんなプレッシャーの前で何をしていいのか分からない。
男子高生「僕、前の宗教対戦の時、いつも霊夢さんを応援していたんですよ」
霊夢 「そういう気持ちがあるなら少しでもお賽銭を入れに来なさいよね」
男子高生「ははは、一本取られたな。今度入れに行きますよ」
どうやら霊夢は最初の衝撃から立ち直ったらしい。流石は世界1位。安定力が違う。2位から6位に転落した私とは大違いだ。
チャラ男「で、今度そこで集会があってですね~、」
魔理沙 「へ~、で?」
しかしこの私から2位を奪った女は立ち直れていない、いや何というか、淡泊。何故か知らないけど会話すること自体無駄、とでも言いたそうな顔だ。正直、一番会話しやすそうな男だと思うんだけど。
両津 「アリスさんどうしました?」
アリス「え?ええ。人形劇の話だったかしら?」
まずい。さっきから会話に集中できない。というか、この人怖すぎ!!歯をむき出して、今にも噛みつかれそうな感じがする。魔界で合コンした時代は悪魔とか死神とかフランケンとかそれはもう、いろんなタイプとやったけど、この人間の方が明らかに怖い!!
両津 「そうですそうです!!それで・・・」
アリス「最近はザクにハマってるわね」
両津 「ザク・・・ですか?」
私は強引に会話の主導権を奪う。今の私には話を聞きながら思考なんてできない。機械的に知っている内容をしゃべりつつ、現状打破を考えるのだ。
一般的に、現状打破の方法としてメジャーなのが席替え。話のマンネリ化を防げるし、移動することによるリフレッシュ効果もあるだろう。だが、今回の場合は無理。というより何このメンツ?7人全員危険牌ってどういうこと?バカなの?
ああ~~~、思考がまとまらない。え~と、そうだ幽香!幽香ならなんとかしてくれるかも知れない。幽香はどこ・・・
ミシミシミシッ・・・・!!
テーブルの会話が止まる。全員が音の発生源に注目した。そこにいたのは江頭と言う男と・・・その男に硬い握手をする幽香の姿があった・・・。
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(第3テーブル:幽香視点)
幽香 「ふぅ~ん、なかなかやるじゃない」
江頭 「おう、まだ本気ではないがな」
幽香 「ふぅ~ん、」
骨をきしませつつ、私は微笑む。何か違うとは思っていたが、この握力。どう考えても人間のそれとは違う。これは妖怪というより・・・
幽香 「鬼に近い力ね」
江頭 「おぅ、何かうちのご先祖様に鬼がいたって話だ。まぁ眉唾だがな!」
幽香 「へぇ~、あなた名前は?」
江頭 「星熊太吉ってんだ!!」
幽香 「星熊・・・」
なるほど、案外本当の話かもね。まぁ同性なだけかも知れないけど
早苗 「(ちょ、ちょっと幽香さん!!何やっているんですか!?)」
幽香 「(ちょっとしたスキンシップよ)」
早苗 「(スキンシップって・・・)」
やれやれ。山の巫女にしては情けないことを言っている早苗に対し、男性陣の反応は違っていた。
主将 「太吉に張り合える奴がいるとはな」
先輩 「風見幽香さんていう、ほら、太陽畑の・・・」
両津 「流石の太吉も大妖怪は荷が重いか?」
男子高生「いや、あっちもかなり本気ですよ」
ふふふ、どうやらあっちの反応は慣れたもの。流石に過激な鍛錬を積んでいるだけあるわ。しかし”かなり本気”ねぇ・・・
幽香 「そろそろ疲れてきたかしら?」
江頭→太吉「まだまだ!・・・て、いいてぇところだが・・・俺より握力で強い奴がいるとは・・・」
幽香 「あら、握力以外ならいるみたいな言い方ね」
太吉 「剣じゃ主将には勝てねぇ、てか俺は3番目だしな」
握手を解く。はぁ・・・正直危なかった。かなりどころか、私は全力だった。太吉が強いのか、私も老いが来たのか・・・。あれ、今日何しに来たんだっけ?ふと、アリスの視線に気づく。完全に恨みがましい視線だ。
アリス「(ちゃんとやりなさいよ!!)」
幽香 「(ごめん・・・)」
そうそう、私は今日は早苗のアシストだったかしら。私と太吉だけで盛り上がっちゃいけないわね。で、早苗は・・・
完全沈黙だった。さっきからデブが・・・じゃなかった、横綱が必死に話しかけているが反応なし。もう合コンそのものを諦めているようね。
太吉 「あ、わりぃわりぃ!強そうな奴がいて、つい興奮しちゃって!そういうのは俺だけなんで安心してくれ!コイツなんてウチの道場来る前は虫も殺せないやつだったんだぜ、なぁ!?」
空気の悪さを察知したのか、フォローに回る太吉。気遣いができる、というのはどうやら本当らしい。が、気遣い程度でこの場をどうこうできるものではない。さてはて、この緑巫女は何を思っていることやら・・・
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(第3テーブル:早苗視点)
帰りたい・・・!!
今、私が考える全てのことはこれに集約していた。そりゃあ、私自身、夢見すぎてたところはあります。ええ、それは否定しません。現実と別冊マーガレ○トの違いくらい分かります。けどこれじゃ少年チャンピ○ンの世界じゃないですか!!
私は今日のために色々準備してきました。その一つが袖の中に仕込まれているこのスペルカード。全く宣伝というわけではございませんが、我々守矢神社は縁結びもやっておりまして、このカードには神奈子の神徳が詰まった注連縄が。この縄で結ばれると男女が半ば強制的に結ばれるという、どちらかというと黒魔術に近い逸品です。しかし今はこれで妖夢さんの首を絞めたい。
というより、失礼すぎじゃありません?私たち、自分でいうのもなんですが、かなりの美少女ぞろいですよ。なんというか、人生の余りものみたいなメンツを押し付けられる筋合いないじゃないですか。ああ~、正面のガマガエルみたいな奴が何か言ってる。あなたは山に行きなさい、そしたら諏訪子様というお似合いの方がいらっしゃいますよ!!
幽香さんも何か言ってる、ヒャッハーみたいなやつも何か言ってる、でも、あー、あー、何も聞こえない。私、東風谷早苗は閉店中です。御用の方は一昨日きやがれ、です。もうこの席から一刻も早く・・・
早く・・・
そうです、席替えですよ!!この現状を打破するには席替えしか・・・、いえ、席替えも無駄でした。
私はざっとこのメンツを見渡す。このVシネマメンツじゃどこの席を行っても終わり。もっと、すらっとした執事みたいな恰好した男性とか・・・そんなこというと少女漫画か、みたいなツッコミ受けそうですけど、そういう男性がいて然るべきだと思うんですよ。奇跡が起きて、今こう、目の前に白馬の王子様が現れないかとかそういう修行をしておくべきでした。
私はひとしきり反省して顔を上げる。見るとこのテーブル、もはや私以外で会話をしている。自業自得とは分かっていますが、少しさみしい気分です。私以外の方はどうしているんでしょうか。そうだ、鈴仙さんとかならこの事態に対応できているんでしょうか?
私が鈴仙さんを見るとそこには・・・暴れる鈴仙さんと、何と抜き身の刀を振るう妖夢さんでした。
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(第1テーブル:妖夢視点)
殺す、殺す、殺す・・・!!
先輩 「ちょっと妖夢!!落ち着け!!」
妖夢 「だって・・・だって・・・」
それはそれは私も鈴仙がどういう人か分かってました。男にだらしないところがあるとか、そういうところありますが、それでもTPOくらい弁えると・・・
鈴仙 「あれぇぇぇ、よぉうむ、どうしたのぉ、そんなにおこってぇ?」
妖夢 「そこを動くな、淫乱ウサギ!!」
主将 「わ、妖夢を抑えろ!!」
先輩 「分かってます!!ほら、妖夢・・・」
妖夢 「くぅぅぅ・・・!!」
この淫乱ウサギ、あろうことか私の先輩に手を出しやがった!!斬るッ斬るッ!!殺して死なす!!殺して死なせて捌いて、ウサギ鍋にしてやるッ!!
先輩 「まぁまぁ妖夢、その、なんだ、落ち着けって」
妖夢 「先輩はどっちの味方なんですか!?」
元はと言えば先輩も先輩だ!あんな淫乱ウサギにデレデレして!!それも私の目の前で!!
妖夢 「先輩みたいな人がデレデレするからあの淫乱ウサギがつけ上がるんですよ!!あんなウサギは処理して然るべきです!!さぁ離してください!!」
先輩 「まぁ何だ、お前も飲みすぎだ。ほら、落ち着こう」
見ると淫乱ウサギは主将に寄りかかっている。本当に男なら何でもいいらしい。そうならそうと先に言ってくれればいいんだ。先に聞いていればコッチも養豚場のオスの小屋に放り込んでやったものを・・・ッ!!
このままでは危険すぎる。席替えだ。席替えしてこの危険物を隔離すべきだ。これが私のできる最大の妥協!!さぁアリスさん!!早くッ!!
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(第2テーブル:アリス視点)
あっちこっちから席替えムードが漂っている・・・。
私だってそれは分かっているけど、どう席替えしてよいものか困った。
本来、合コンの席替えは自由意志で行われるものだが、今回は別。しっかりマネージメントしないと事故が起きるでしょう。冷静にテーブルを見渡す。
まず第1テーブル。
妖夢と鈴仙が喧嘩をしている。これは隔離すべきね。幹事が喧嘩って既に大問題だけど、もうそんな些細なことは気にしてられない。幸い、お互いのパートナーは気に入っているようだし、席だけ離せば次第に落ち着くでしょ。
次に第2テーブル。
うまくいっているのは男子高生、もとい竹内力と霊夢だけ。魔理沙は何が気に入らないのか、チャラ男に対し、気のない相槌。他の男性をつけるべきね。とはいえ、他の男性って誰ならいいのかしら。両津か横綱か江頭か・・・。まぁ後で考えましょう。というより私も両津から離れたい。笑顔が本当に怖い・・・。
最後に第3テーブル。
早苗がどうやら孤立しているみたい。幽香が他2名の男子と談笑している。まぁ幽香なら誰を付けても大丈夫ね。
分析完了。ここで私が取るべき配置は・・・。
アリス「皆、ちょっといいかしら。そろそろ席替えしたいと思うんだけど・・・」
それぞれが私の方に注目する。まぁそうでしょうね。明らかに席替えが必要な状況だし。
アリス「でもぉ、みんな照れ屋さんだから私が勝手に決めるわね!え~と、」
嘘だが、全員受け入れている。この状況、誰かがマネージメントしないとやってられない。
アリス「まず、幹事さんたち。あなたたちは第3テーブルに移って。」
先輩 「了解!」
妖夢 「がるるるるぅ・・・」
まるで飼い主以外に吼える犬みたいね。まぁ飼い主さんと遠くの席に移ってもらいましょう。
アリス「第3テーブルの早苗以外の人は第1の方に行ってくれるかしら?」
幽香 「分かったわ」
太吉 「主将のところか」
横綱 「・・・」
どうやら横綱、早苗に相手にされなかったことがよっぽどショックらしい。
アリス「で、私も第1テーブルに行くわ」
横綱がぱっと明るくなる。現金なやつだ。一方魔理沙は恨みがましい目で見てくる。
アリス「ああ、ごめん訂正。幽香たちは私と第2に来て。で、魔理沙の正面の人が第1に行ってくれるかしら。で、霊夢たちは悪いけど第3。」
霊夢 「いきましょ」
男子高生「ほいっと」
これで布陣はこんな感じになる。さり気なく横綱の前に腰を下ろしつつ、おさらいをする。
第1テーブル
鈴仙 主将、チャラ男
第2テーブル
横綱、アリス、幽香、魔理沙、両津、江頭→太吉
第3テーブル
早苗、妖夢、先輩、霊夢、男子高生
暴れる鈴仙については周りに女性がいない方が返って安心だろう。チャラ男も鈴仙の近くの方が嬉しいだろうし。
私は横綱の前。さっきから孤立して寂しそうだし、少しぐらい相手にしてあげないとね。魔理沙は両津の前に移動し、そこに幽香と太吉が混じる。魔理沙も何故かうれしそうだ。そんなにチャラ男に何か不満があったのだろうか。
早苗の席にはカップル2組を配置。この組み合わせはうまくいってるから、早苗は無理して会話に加わる必要はない。というより、とっとと帰りたそうだ。静かにできる環境がいいだろう。
うん、我ながら完璧な布陣。これで問題はしばらく置きそうにないわね。ああ、落ち着くとトイレに行きたくなっちゃった。行ってこようっと。
アリス「魔理沙ちょっと席外すわね。」
魔理沙「トイレか?」
アリス「そういうのは分かっていても言わない。」
軽くチョップしつつ、私は席を外す。さて、これで少しは平穏な会になるかしら。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
(第2テーブル:魔理沙視点)
ふぅ・・・失礼だと分かってはいたんだが。
私は霧雨店を飛び出して以来、結構な事例に携わった。年齢はどうだか知らないが、人生経験はこの中で飛びぬけて豊富なつもりだ。で、だいたい一目見ればそいつの人間の価値は分かる。
両津 「どうしたんですか?」
魔理沙「いや、なに、しっかり飲み直そうと思っただけだぜ」
そう、私は今からが本番。こいつの”手”は信用できそうだ。
人を見るとき、手と足を見ればだいたい分かる。これが私の持論だ。最初の男は剣道場の男のくせに”手”が女性のようにきれいだった。つまりこの男、稽古をロクにしていない。口では大層なことを言うだけに私の不満はたまりっぱなしだった。コイツの話に真実はほとんどない。
ふと自分の手を見る。手のひらは分厚い皮膚に覆われ、ところどころ白く脱色している。業種にもよるが努力している人間は大抵そうなる。ちなみにコーリンの手はタコだらけ、無名塚との往復でできたものだ。で、両津の手。指、特に左手の指には巨大なタコがあった。剣道は左手の動きが重要とか言っていたからそれだろう。
魔理沙「相当練習したんだな、そのタコ」
両津 「ん?ああ、分かりますか。見栄えは悪いけど男の勲章みたいなものです。」
魔理沙「ホントに両さんみたいだな」
両津 「両さん?」
魔理沙「ああ、こっちの話だ。剣道場って言っても良く知らないが、目的ってあるのか」
両津 「強くなる目的ってことですか?そうですね、自分は幼い頃に姉を妖怪に喰われて亡くしましてね、もうそうならないようにって」
魔理沙「あ、わりぃ」
両津 「いいんですよ。そーなのかー、て間抜けなことを言うやつでね。今では負けないだろうって思ってますがね、ははは」
魔理沙「そ、そーなのかー・・・」
両津 「魔理沙さんは、その・・・?」
魔理沙「ああ、まだ実家には戻ってないし、これからも戻らない。私は大魔法使いになるって決めたからな。」
両津 「よろしければ、大魔法使いになるって決めた経緯を是非。」
魔理沙「うん、それか、昔な・・・」
(・・・魔理沙、助けて!!!)
魔理沙「うわ、何だ、今の!?」
両津 「? 何か?」
魔理沙「いや、声。アリスか?」
両津 「アリスさん?まだ戻られてないですが・・・」
(・・・魔理沙、助けて!!!)
まさか!?私は人形を見る。地底の異変の時にアリスにもらったやつだ。そこから声がする・・・。
魔理沙「アリスはトイレだったな?」
両津 「ええ、しかし」
魔理沙「邪魔するぜ」
何らかの緊急事態か。しかし何なんだ。私はトイレに行く。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
(さかのぼること、5分前)
(トイレ:アリス視点)
ふぅ。
私は便器に腰を下ろす。何だかどっと疲れちゃった。
しかし最初はどうなることかと思ったが、意外とうまく回りそうだ。まぁ彼氏ができることはないだろうが。
私はゆっくりと用を足す。幽香が新しく作ったお蔭か、実に快適な空間だ。というより幽香、こんな能力持っていたのね。最初トイレ掃除するって言い始めた時、そこまでしなくてもって思ったけど、こういうことか。
ま、今回のメンツじゃその努力は無駄なんでしょうけど・・・。
しかし妖夢の男性の評価基準はどうなっているのだろう。見た目より中身、てよく言うが、あまりにも見た目を軽視しすぎなような・・・強い男性がかっこいいということなんでしょうけど。流石Samuraiってところね。
さて、そろそろ戻りましょうか。私は水を流すために壁のスイッチを押す。
じゃー、という水の流れる音・・・は聞こえなかった。
代わりにペロッと大事な部分を舐められる感触・・・。
アリス「え?」
思わず下を見た私の視線の先には・・・。何と表現したらよいか、太い3本の触手だ。
アリス「え、え、どういうこと?きゃッ!?」
信じられない事態が起こった!!ありのままに言うと、私のお尻が便器に”喰われた”。
アリス「え?何?いや!?」
信じられない事態に混乱しつつ、ふと合コン前の会話が過る。
”ちゃんと綺麗好きな子を用意したわ”
”子?”
子?触手?便器?幽香?能力・・・。まさかあの女!!
アリス「きゃーーーーーーーーーーーーーー!!!!!」
信じがたいことにあの女のトイレ、食人植物だったのだ!!綺麗好きというのは植物のことで、そいつは人の汚物を綺麗に舐めとる・・・そういうこと!!世界広しと言えども食人植物をトイレに用いようとする発想ができるのは幽香くらいだろう!
アリス「あの、馬鹿ッ!頭までお花畑なの!?きゃ、いや、そんなところ舐めないで!!」
中の触手がぐりぐり攻撃してくるッ!!いや、このままじゃ私、エロ同人みたいに!!エロ同人みたいに!!
アリス「誰か助け・・・はっ!?」
重要なことを忘れてた。助けを呼ぼうにも私の下半身は完全に裸!!つまり男の前でストリップショーを行う羽目になる!!何か、何かないの!?でも、え?アレ、確か地底の時に・・・。
私は左手を翻す!その瞬間、人形が生きているかのように私の手元にやってくる!
アリス「魔理沙!助けて!!お願い!!」
私は親友に懇願した。
・・・
・・
・
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
(トイレ:魔理沙視点)
魔理沙「アリス!!大丈夫か!?」
私はノックもせずにドアを開ける!何かは分からないが緊急事態だ。マナーとか言ってられない!!
アリス「魔理沙!!来てくれたのね!!」
・・・・・・。
あらゆる事態を想像していた私も・・・こればっかりは想像できなかった。
1.トイレに腰を掛けるアリス
2.紅潮した顔
3.切羽詰まった声
4.左手に人形を持っている
5.右手は股間に伸びている
これらを総合するに私のやるべきことは
魔理沙「お楽しみ中、邪魔したぜ・・・」
アリス「どういうことッ!?」
私は静かにドアを閉める。何やらアリスの叫び声も聞こえるが、無視して歩く。
まさかアリスにこんな趣味があるとは。何も合コン中に自慰しなくても。久々に男に会って興奮したってことなのだろうか。私はとっとと席へ戻ることにした。
両津 「おかえりなさい。アリスさん、どうでした?」
魔理沙「まぁ、なんだ、きにするな」
私も親友、こういうのはそっと・・・また人形から喧しい声がする。何だ、まだ何かあるのか?
魔理沙「すまん、また失礼するぜ」
両津 「はぁ・・・」
私は渋々立ち上がり、またトイレに行く。しかし何なんだ?私は何か重要な思い違いをしているのか?私はトイレの前に行き、ドアを開けようとして・・・ふと違和感を覚えた。
(このトイレ、確か今日幽香が作ったんだよな。
しかし、そもそも合コンのためにトイレを作るか、というより作れるか?
例え作れたとしても、何故そこまでして・・・?
そういえばアリスは幽香のトイレ製作を知っていた。
あの時は合コンテクの一環だと思ったが、よくよく考えるとおかしい。
もしかして、何かこのトイレはアリスにとって重要な意味が・・・?
更に言えば、彼氏を探す気がないアリスの合コンへのやる気も違和感がある。
そもそもアリスは何故私を呼んだんだ?
そしてなぜこんなところで自慰を?
それともアリスにとって、ここでの自慰が必須なのか?
・・・
・・
・
そうか!!そういうことだったのかッ!!
アリスは余りにもモテ過ぎて、もはや男に興奮できなくなっていた。
そこで性欲を持て余したアリスは・・・
初対面の男に自慰を目撃されることでしか感じられない女になってしまったのだ!!
そう考えると全てが辻褄が合う!
アリスはトイレで自慰を始めたものの、男たちが訪れず、このままじゃ達しそうになってしまった。だから私を呼び出したんだ!!でも私が一人で来たものだから、目的を達成できず、だから何度も私を呼び直したんだ!!)
魔理沙「そうか、アリス!!分かったぞ!!」
私はトイレに向けて叫んだ。
アリス「!? 魔理沙!? そうよ、そういうことなの!!だから今すぐ!!」
魔理沙「安心しろ!!直ぐに両津さんを呼んでくるからな!!」
アリス「どういうことッ!?」
私は駆け出した!!こうしては居られない!一刻も早く両津さんのところに戻らねば!!
魔理沙「あのー両津さん、ちょっといいか?」
私は逸る気持ちを抑えつつ、丁寧に声をかけた。
両津 「え、僕、両津っていう名前ではないんですが・・・」
魔理沙「そこはどうでもいいんだぜ。ちょっと来てくれないか?」
霊夢 「何、魔理沙、またトイレ?」
魔理沙「ん?霊夢、まさか、トイレいくのか?」
霊夢 「ええ、そうだけど?」
魔理沙「そうか、今、女子トイレはアリスが使っているからいつものトイレを使うといいぜ」
霊夢 「? はぁ?」
私は霊夢を見送りつつ、そう答える。まずいな、少し待たないと。アリスはおそらく自分の性癖を周りに知られたくないだろう。
両津 「あの、僕の名前はですね・・・」
魔理沙「ああ、その話は後で。1分後に立つぞ」
頭に?マークを出してる両津さんを後目に私はいう。残念ながらアリスに時間がない。私もできる限りのことをしてやらなくては。
きっかり1分後。私は両津さんを連れてトイレに向かった。
両津 「あの、そのトイレ、今はアリスさんが入っているはずでは?」
魔理沙「そうなんだが・・・まぁ何だ、しっかり協力してやってくれ。」
私は中を見ないようにしてドアを開ける。
両津 「・・・うわぁぁぁっぁぁぁぁぁ!?」
それは驚くだろう。私も驚いた。しかし今は男女の仲、邪魔をするのは野暮って話だ。
両津 「しょ、植物・・・妖怪!!」
アリスくらいの美少女が自慰して誘ってるんだから、顎が外れるほど驚くだろう、だからこの叫びも当然・・・
魔理沙「妖怪?」
私は急いで中を見る!!そこにいたのはアリス・・・
ではなく、巨大な植物妖怪だった。
両津 「こ、これはいったい・・・?」
魔理沙「ま、まさか・・・」
私は重要な思い違いをしていたというのか!?しかしどこから間違った!?いや、そんなことを考えている暇はない!!重要なのは、さっきまでアリスがいた場所にアリスがいない、そして植物妖怪がいる!!これが導き出す答えは!!
魔理沙「アリスが・・・喰われたのか?」
両津 「な、何!?」
両津さんが一瞬泣きそうな、子供みたいな顔をした。が、一瞬無表情になり、次に現れた顔は阿修羅のそれだ。
両津 「・・・魔理沙さん、援護できますか?」
魔理沙「あ、ああ。一体何を・・・」
両津 「助け出します。アリスさんを。今度こそ・・・」
両津さんが私に初めて見せた表情だった。亡くなった姉への無念、強くなるために一切の妥協をしなかった鍛錬、その全てが試される時。そう考えているんだろう。
そして、それは、私も同じだ。
魔理沙「もし、アリスを助けられたら・・・両津さんの本名を教えてくれるか?」
両津 「喜んで。」
魔理沙「よし!!行くぞ妖怪!!」
私たちは2人、トイレに駆け込んだ!!
着地地点だけは間違えないでほしいです
これは地霊殿前ですね…間違いない
てか花山薫って、なにそれこわい。
なら最初からやっとけばいいのに…
是非、このまま突っ走って欲しい。
読みやすかったです。