Coolier - 新生・東方創想話

厄神様の独り言

2009/02/11 01:49:09
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人々が払った厄を集めては、それを天の神々に返す。
払われた厄は鍵山雛の回りに渦巻いている。それが再び人間に訪れないように監視している。
しかしその厄は自分にこそ降りかからないものの、彼女の周りにいる人間、妖怪、その全てに影響する。
厄を集めてくれる神様、それは本来奉られる存在、しかし近づけばその厄は自分に降りかかる。
その事実は時がたつと共に歪んでいき、彼女自身が厄を生み出していると考える人間も多くなっている。
よって誰も彼女に感謝することもなく、忌み嫌う人間もいる。
だから彼女に近づこうとするものは皆無、彼女も自分から寄せ付けずにいた。


「そう、それでいいのよ」


誰に向けたわけでもない言葉、そしてその言葉は誰の耳に入る事もなく風に流される。
木の枝に座って見上げた空、どこまでも青く澄み渡っている。
ふいに、ガサッと下で物音がした。
雛が下を見るとそこには腰を抜かした人間。


「ひぃぃい、や、厄神だあ!!」


恐れ、畏怖、そこで倒れていた人間はそんな表情で雛を見ていた。
自分からは見えないが、他人から見ると雛の周りには厄が集まり黒い霧のように見える。
それはさらに人間の恐怖をかき立てた。よってたまに出会う人間の全てが逃げ出すか気絶するかのどちらか。


「なにもしないわ、すぐに立ち去りなさい」


静かにそう言って場所を移動する、立ち去れとは言ったものの腰を抜かした人間がすぐに動けるわけではないことを雛は何度も見てきた中で知っていた。
あまりこの場所にとどまればこの人間に厄が降りかかってしまう。それだけは避けなくてはならない。
そうしてまた一人になっていく、孤独になっていく。


「そう、それでいいのよ」


最近独り言が多くなってきたと感じていた雛。
実際気がつけばいつも一人だから発する言葉は全て独り言、そう思うとなんだか可笑しかった。
そうしてまた空を見上げていた、もう日が暮れ始めさっきの青い空とは打って変わり茜色に染まっていた。
そんな中ふと、何かが聞こえた。
雛は耳をすませる。
風の音の中に聞こえたかすかな音、子供の泣き声。


「もうすぐ日も暮れるというのに、なにをしているのかしら」


そう言ってみたものの実際何もしない。
これが普通の人間ならば行って様子を見る。
これが普通の妖怪ならばとって食べる。
だから私は普通じゃないのね、そんなことを考えていると突如泣き声が悲鳴にかわった。
何があったのかは少し気になった、でも何らかの不幸が訪れたのなら私が行っても無駄なこと。
その不幸に厄を上乗せするだけだから。


「誰か!助けて!!」


今度ははっきりと聞こえた声、どうやらこちらに向かって逃げてきているようだ。
仕方なく木から降りてその声のほうに向かう。

するとそこに子供が倒れていた、木の根に躓いて転んだみたいだ。
しかしその後ろには虫一匹すらいない、いったい何があったのだろう。
雛が振り向くと倒れていた子供はいつの間にか起き上がり雛を見ていた。


「どうしてこんな時間に森にいるのかしら」
「妖怪においかけられて・・・、気づいたらここにいたんだ」
「そう、だったら早く帰りなさい、もう日が暮れるわよ」


少年はそういった雛をじーっとみていた。
雛はなんだか居心地が悪かった。


「お姉ちゃんが厄神様なの?」
「そうよ」
「お婆ちゃんが言ってた、厄神様は不幸を集めてくれるって、だから僕の不幸も集めてくれたの?」
「違うわ、私が集めるのは払われた厄だけ、個人の不幸なんて多すぎて集められないもの」
「そうなんだ」


そういうとその子は下を向いてなんだかそわそわしている。そうして何かを決意したかのように顔を上げた。


「ねぇ、お姉ちゃん、一緒に遊ぼうよ・・・」


少年は真赤な顔で照れながら、そして満面の笑みで雛にそういった。
でも雛にはその笑顔が痛かった。
普段人と接することがない、出合ったとしても恐怖や怒りの顔しか見たことがない。
だからこんな笑顔が、温かくて、痛かった。


「私のそばにいると、不幸になるわよ、私なんかじゃなくて村の子供たちと遊びなさい」


少年を離れさせるためにちょっと強めに言った。
すると少年は今にも泣き出しそうな顔をしてしまった。
雛はまだ小さい子供にこんなことを言ってしまったことに罪悪感を覚えながらも、これが正しい選択だったと自分に言い聞かせていた。
これ以上自分のそばにいさせたら妖怪に襲われるだけじゃすまなくなるかもしれない。
雛がそんなことを考えていると、唐突に少年は目に涙を溜めて言った。


「僕さ、友達いないんだ、だから、お姉ちゃんと遊びたいんだ」
「・・・っ」
「だめ、かな」
「分かったわ、でも日が暮れるまでよ」


少年があまりにもかわいそうで雛は了承してしまった。


「じゃあさ、鬼ごっこやろうよ」
「どんな遊びなの?」
「お姉ちゃんは僕から逃げて、それで僕に捕まったら今度はお姉ちゃんが僕を追いかけるの、10数えるから逃げてね」


雛はこのまま逃げてしまおうかと思った。
後ろから少年が走って追いかけてくる、本気になって逃げれば人間一人から逃げ切ることなど雑作もない。
でも雛は適度に捕まり、適度に捕まえた。
それでも少年は本当に楽しそうで、次第に逃げようという気も薄れていった。


「お姉ちゃんどうしてくるくる回りながら逃げるの?」
「こうしていると、雛みたいでしょう?」
「雛?お雛様のこと?」
「そう、厄払いのために川に流したりするでしょう?」
「うん、確かにくるくる回ってるね」
「私はそんな神様だから、そうやって払われた厄を集めているのよ」
「へぇー、そうなんだー、よし!捕まえた!!」
「話してるときに捕まえるのはずるいわ」
「えへへー」


遊んでいるうちにだんだん森も暗くなってきた、最後に雛が捕まったところで


「はい、今日はもうおしまい、もう日が暮れるわ」
「ありがとう、すっごく楽しかったよ」


ありがとう、そういわれただけなのになんだか雛はくすぐったい気分だった。
人間と接するのも悪くないな、と思っていた。


「これ、あげるね」


そういって少年は石を取り出して雛に渡した。
その石はよくみると星の形をしているようだった。


「僕の宝物なんだ、僕の初めての友達に上げるって決めてたんだよ」
「友達・・・」
「うん、僕たちもう友達だよね?」
「・・・そうね、ありがとう」
「じゃあね、お姉ちゃん」


そういって少年は笑顔で手を振ってかけていった。
雛もそれに笑顔で手を振り返した。
しかしその方向は森の奥。どうして森の奥に、雛はあわてて追いかけた。
おかしい、村とは反対方向、それほど複雑な森でもないのに方向を間違えるはずがない。
その先で見たもの。血だらけで倒れている少年の姿、すでに息はなくもう冷たくなっている。


「そう、やっぱり私の近くにいたせいで・・・ごめんね・・・」


雛は少年の亡骸を抱きしめむせび泣いた。
分かっていたのに、人間を寄せ付けたらこうなることが分かっていたのに。
雛はずっと自分を責め続けていた、ずっと一人だったのに、ずっと一人でよかったのに。
自分と同じで一人だったこの少年を見ていたら、一緒にいてあげたかった。
でも私はそんなことをしてはいけなかった、近寄るものにあらゆる不幸が訪れる。
だから・・・、だめなのに・・・だから・・・!!!
強く抱きしめた背中、目を開けてよく見るとその背中には生々しい爪痕、妖怪にやられたのか。


「妖怪・・・?そういえば・・・」


雛は少年が言っていた言動が妙に引っかかった。
『妖怪に襲われて・・・』確かに少年はこういっていた。
こんな小さな子が妖怪に襲われて逃げ切れるはずがない・・・
そして目の前にはすでに冷たくなっている少年。
それから答えを導き出すにはあまりにも簡単だった。


「ああ、そっか、あの子、もう死んじゃってたのね」


妖怪に無残にも殺されてしまった少年、でもその顔をよく見れば、別れていったときの笑顔のままだった。


「そう、あなたも一人で寂しかったのね、もう聞こえてないでしょうから私は独り言を言うことにするわ」


血にまみれている頭を膝に乗せて、その髪を優しくなでる。


「私もね、正直言うと寂しかったの、本当は独りでいなきゃいけなかったのに。
でも自分に嘘をついていたわ、これでいいって。
そんなときね、あなたが私の前に現れたの、最初は何かにおわれているのかと思ったら、なんにもいないし。
そのときもう死んでたのよね、びっくりしたわ」


どこかおどけたような口調、でもその言葉とは裏腹に目からは大粒の涙がとめどなくあふれ、その顔をくしゃくしゃにしていた。


「楽しかったわ、あなたと遊べて、あなたと友達になれて」


周りはもう日も沈んで真っ暗になった、夜の闇に彼女の声が吸い込まれていく。


「ありがとう、さようなら」


その場には雛しかいない、でもその言葉はどこか、重なっているようにも聞こえた。
初投稿です。風神録より鍵山雛でした。
永遠のROM厨を自負していたんですけどなぜか執筆開始。
駄文すみません。

オリキャラの設定が難しかったです。なにせ死人動かしてるものですから・・・
ちょっと展開が速すぎましたかね、あんまりダラダラとやってもしょうがないとか思ってたんですが。
文章力のない人間は長文を書くと次第にそれが明らかになっていくからいやなんでしゅよ・・・

雛いいですよね、雛。風神録でも雛を眺めててピチューンなんてありますから(言い訳)

これ自分的にはシリアス系で書いたつもりなんですけど、友人に
「ホラーだろ、だって死人動いてんだぜ?」
といわれました、いいえ、シリアスです。

ではこの辺で、次回作に期待されたら泣いて喜びます。
宵月
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コメント



0.1430簡易評価
4.100名前が無い程度の能力削除
なんかいいですねぇ・・・
確かにホラーかもしれないですけど。
5.90名前が無い程度の能力削除
 シンプルだけど、雰囲気が良いですね。文も無駄がない。
 次はもっと、ボリュームがあるものを期待します。
 「・・・」は「……」を使ったほうがよいかもしれません。
 偉そうにすみませんでした。どうかがんばってください。
21.90sige削除
雛はねぇ…いいですよね。
面白いですよ! これがもっと長かったらもっと面白いかなー。
とか思いました、どうもすいませんでした。
24.70☆月柳☆削除
良かったんですが、色々突っ込みどころも。
妖怪は襲うだけ襲って食べなかったのかとか、雛は何故自分の考えを貫き通さなかったのかとか(少年と一緒に遊ぶにしたとしても、何故考えを折ってまで遊んだのかという理由が、かわいそうというだけでは乏しい気がしました)
でも、生きたまま逃げてきた設定だと、シリアス通り越してダークになっちゃうからなぁ。
いや、でもそれはそれでなかなか。
きっちり設定を関連付けて書き込めば、すごくいい作品になりそうな気がします。
ああ、でもここまで書いて気づいたんですが、妖怪は襲うだけ襲ったけど近くに雛がいることに気づいて逃げたのか……。
31.100名前が無い程度の能力削除
ああ、こういう物語が読みたかった。
32.90名前が無い程度の能力削除
うーん、悲しくも美しい
厄神様も寂しいのです
ひとり厄を引き受け流されて、ただくるくると、くるくると
いつかまた雛は人間と出会い知るのでしょうね

きっときっと雛は一人ではないのです
ずっと人と歩んできたのですから

厄神様の悲しく優しき心を覗かせていただきました。