台所で倒れ伏している霊夢を発見し、慌てて永遠亭に担ぎ込んだのは魔理沙だった。
発見当時の霊夢は顔がむくみ、髪の毛は色あせてしまっていた。
肌のツヤは完全に失せ、目はぽやっと半開きで焦点が合っていない。
意識は無く、明らかに命の灯が消えかかっている様な風体だった。
魔理沙は「霊夢を助けてくれ!」と半泣きで永琳に懇願した。
緊急入院。精密検査。
その結果、永琳は廊下で俯いて座り込んでいた魔理沙に、霊夢の深刻な症状を宣告することとなった。
「軽度の栄養失調よ。しばらくまともな食事をしていなかったみたい。
いま点滴を打っているから、そのうち意識も戻るわ」
つまり深刻ではあったが、命に別状は無いということだ。
魔理沙は安堵から全身の力が抜け、ほーっと長いため息をついた。
だが、永琳の表情は険しい。
「どうして、こんなになるまで放っておいたの」
「……すまん。この頃宴会も無かったし、私も研究で忙しくて神社に行ってなかったんだ。
いつも腹を空かせていたけど……まさか、ここまで追い詰められていただなんて……」
永琳の尋問めいた問いかけにそこまで話して、魔理沙は涙をこらえる様にまた俯いてしまう。
友人の悲惨な姿が、自分の責任であるかのように思えたのだ。
その態度を見て、永琳は表情を和らげて魔理沙の肩に手を置く。
「でも、貴方のおかげで迅速な処置ができたわ。
これからはこういう事が無いよう、こまめに様子を見てあげて」
魔理沙は唇を結ぶと、力強く頷く。
そして霊夢の具合が良くなったら、寿司でも焼肉でも好きな物を好きなだけ奢ってやろう、と心に決めたのだった。
――◇――
窮地を脱したかに思えた霊夢。だが、異変は今現在も続いていた。
「霊夢さん。食べないと体に毒ですよ」
「……」
「霊夢さん……お願いですから……一口でいいので、食べてください……」
「……」
上半身を起こしてもらった霊夢の口元に差し出された匙が、力なく下ろされる。匙の着地点は、盆の上の茶椀に入れられた湯気の立つ白粥。
盆には卵焼き、ほうれん草のおひたし、鮭の照り焼き、梅干しに味噌汁など、永遠亭の食事を担当する鈴仙が作った病院食が並んでいる。
しかし、霊夢に食事を摂らせようと頑張っている鈴仙は、今日も無力感と悔しさに顔を歪めながら、手つかずの盆を下げるしかなかった。
霊夢の意識は戻ったが、あくまで生理的に覚醒しているというだけだった。
目は開いているが、一日中ぼーっとみじろぎせず一点を見つめ、かさかさに乾いた唇は呼吸の為の穴と成り下がっている。
永琳や鈴仙が話しかけても、まるで反応が返ってこない。
植物を相手に喋っているみたいだった。これはこの状態の霊夢を見舞った魔理沙が、震えながら語った感想である。
そして当然の様に、霊夢は食事を静かに拒否し続けた。
正確には、食事をしようという気力を失ってしまったらしい。
口元にご飯を持って行っても完全無視。なだめてもすかしても食事に興味すら示さない。
一度業を煮やした鈴仙が、なかば無理矢理に口へ粥を押し込んだことがある。
だが、口角からだらだらと零れる白い筋を見たとき、鈴仙は短絡的行為の代償を心に刻まれるほど後悔した。
こうして、飲まず食わずでもう3日。
栄養点滴を続けているが、根本的解決にはならない。
日に日にやつれてゆく霊夢を見せつけられ、魔理沙は永琳に当たった。
「どういうことだ! あれじゃ死んでいるのも同然なんだぜ!」
「……検査では脳や内臓に異常は見られない。病原菌も毒物も危険な妖力だって未検出。
反射反応や自発呼吸は認められるけど……多分、倒れた時のショックで放心してしまったのよ。
いくら私でも、心の問題に効く薬は作れないわ。一時的に症状を抑えるだけ。
もし投薬治療に踏み切ったら、霊夢はその薬をこの先一生飲み続けなければいけない」
「じゃあどうするんだよ!?」
「栄養補給は流動食をチューブで直接胃に少しずつ流す方式に切り替えて、根気強く意思が戻るのを待つしか」
「ほお。そんな姑息な延命措置を施して、いつ霊夢は蘇るんだ。ええ? 答えろよ天才薬師」
「そんなの分かる訳ないでしょ!」
バァン、と診察机を平手打ちして永琳が激昂する。傍に控えていた鈴仙はビクリと肩を竦ませた。
鈴仙は、永琳が霊夢を治せない自分にイライラしていることを知っていた。故に、魔理沙の気持ちと板挟みになって胸が張り裂けそうだった。
診察室に苦しいほどの沈黙が流れた後、魔理沙がぼそりと口を開く。
「……悪かった」
「……私も感情的になって、らしくなかったわ」
永琳も落ち着きを取り戻し、理知的に話を進めようとする。
しかし、冷静になれば非情な現実が待っている。このままでは、薬に頼らざるを得ない事態になる。
再び嫌な沈黙。
だが今度は、魔理沙の何かひらめいたらしい大きな声で破られた。
「……食事。そうだ、食事だ!
永琳、霊夢は美味い飯が大好物だった。だからとびっきり美味そうなご飯を見せつけたら、きっと食べたくなって飛び起きるぜ。
よく言うよな、目が覚めるほど美味い料理って。やってみる価値はあるだろ?」
魔理沙はそうまくしたてる。
突拍子もない意見に聞こえるが、永琳は存外悪くない提案に思えた。
心のケアの方法には、外部刺激による療法が有効だ。セラピストと対話したり、音楽や動物と触れ合ったりするだけでも癒しに繋がる。
ましてや今回の出来事は食べ物が発端だ。少なくとも、ここでグズグズと話し合いをしているよりは建設的である。
「それは、名案かもしれない。
私が許可するから、明日からでも始めてみましょう。
貴女は霊夢の好みを私よりも知っているから、準備をお願いできるかしら」
「おう! そうと決まれば、早速材料を集めて下拵えしてくるぜ!」
そう言うやいなや、魔理沙は帽子を引っつかんで慌ただしく部屋を出て行った。
ふぅ、と一息ついた永琳は、鈴仙が一人しょげていることに気が付いた。
聡明な永琳は察しが付く。鈴仙は毎日霊夢の為に食事を作っていたこと。だけど、目覚めるほどの感動は無かったこと。
永琳は、鈴仙の方を向いて優しく話しかける。
「うどんげ、貴女の料理はいつだって特別製よ。患者にとっても、勿論私や姫様やてゐにとってもね」
そう慰められて、ようやく鈴仙は頬を弛緩し、ぎこちないながらも笑みを浮かべた。
――◇――
「なぁ、霊夢。霊夢はキノコのステーキ、好きだったよな。
いつだったか、ステーキが食べたいけど先立つものが無いなんて愚痴ってた時に、私が作ったやつだよ」
そう言って魔理沙は、霊夢の面前にキノコステーキを差し出す。
大き目の食用キノコを縦に厚く切って焼き、大根おろしソースをかけたものだ。
焼けたキノコの香ばしい匂いが、霊夢の鼻孔をくすぐっているはずだ。
だが、霊夢は黙ったまま。視線は所在なさげに壁を向いていた。
「はは、やっぱり似非ステーキじゃだめか。じゃあ、そんな霊夢にサプライズだ。
ほーら、本物のステーキだ。美味そうだろ。
人里の肉屋で一番いいやつを注文したんだ。見ろ見ろ、この肉汁。たまらないぜ」
魔理沙はキノコを病室の隅に置かれたテーブルに乗せ、代わりにじゅうじゅうと鉄板の上で音を立てる牛ステーキを手に取る。
表面からしたたる肉汁は、見ているだけで食欲を刺激する。
でも、霊夢の反応は同じだ。食指どころか指一本動かさない。
「……肉、嫌いだったのか。
ちょっと気が早いが焼肉を用意したんだけど、それじゃ駄目かな。
す、寿司の方がよかったか? ほら、こんなにたくさんあるんだぜ。よりどりみどりだぜ……」
魔理沙はまるでいじけた子供の機嫌を取るかの様に、矢継ぎ早に言葉を紡ぐ。
指差したテーブルの上には魔理沙が用意した焼肉と寿司も置いてあった。
しかし、全て上物の決して安くない品物が手も付けてもらえず、ただそこに鎮座している。
そこには先程の食べ物の他に、ハンバーグ、ラーメン、カレー、天ぷら、から揚げ、朱鷺鍋、焼き魚に味噌汁、果てはデザートの団子やぜんざいまで所狭しと並んでいた。
おかげで病室には、様々な料理の匂いが湿気の様に充満している。
だがそれらはすべて、徒労に終わった残骸であった。
「……霊夢。全部お前の好物だぜ。食べたくないのか……
それとも、もう食べられないのか……戻って、来られないのか……」
悄然と魔理沙が霊夢に問いかける。だが霊夢が返事をしないので、実質独り言をつぶやいたのと同じだった。
そのことをイヤというほど思い知り、魔理沙の心は急激に絶望へと沈んだ。
そして、かつて霊夢を起こしてやると息巻いていた目にうっすらと涙が溜まり始めたその時、魔理沙はふわりと後ろから肩を抱かれた。
「……このままだと、貴女まで壊れてしまうわ。少し休みなさい」
「永琳……」
「貴女はよく頑張っている。でも、これら豪勢な食費の中に、貴女の分は含まれているのかしら」
「……」
図星だった。
たとえ高級な食材でも日参で持って来るために、魔理沙は最近粗食に努めていたのだ。
まるで自分の食事まで、霊夢に献上する様に。
「貴女まで倒れたら、霊夢も喜ばないわよ」
「……わかってる。でも、じっとしていられないんだ。
ここで私が諦めたら、霊夢はもう誰にも助けられない気がして……」
「……魔理沙。貴女は長くこの幻想郷に住んでいるのに、まだ分かっていないのかしら」
「……え?」
一人思い悩む魔理沙は、いぶかしげな声を上げる。すると永琳は魔理沙の手を引いて廊下へと連れ出す。
魔理沙はつんのめる様に永琳について行った。
「わっ、わっ!? 何なんだぜ」
「気分転換で少し外に出なさい。そして知るのよ。幻想郷がどんな場所なのかを」
永琳はそれだけ言って魔理沙と庭先に出ていく。
そこで魔理沙は目撃した。
永遠亭の広い庭に押し掛けたのは、大勢の人妖、神々、妖精や幽霊の群れ。
種族様々な衆の大半は大荷物を抱えて、ワイワイとにぎやかにお喋りしている。
呆気にとられた魔理沙を、先頭にいたレミリアが発見して話かけてきた。
「あ、魔理沙。まだ霊夢は生きてる?
安心しなさい。咲夜の手にかかれば、100年間眠っていた人間も目覚める料理が出来上がるわよ」
「しかも数瞬でフルコースを完成させて、テーブルに並べることもできますわ」
そう自信満々に言い切る咲夜。その後ろでは、中華鍋と幅の広い包丁を担いだ美鈴が追随していた。
よく見ると、他の面子も食料や調理道具を持参しているらしい。
妖夢は愛用の包丁鞄を下げ、持ってきた材料をつまみ食いしようとする幽々子をたしなめていた。
その向こうでは、割烹着姿の慧音が妹紅と何やら話している。妹紅は筍が入ったカゴを背負っていた。
あそこでどよめきが起こっているのは、守矢神社の一行が雄々しい鹿を一頭逆さ吊りでここまで運んできたからだ。
命蓮寺の一団は大釜や寸胴鍋を野外用の組み立て式かまどに乗せ、まるで炊き出しの様である。
その横ではリュックに水筒を下げた布都が「すごいのう」を連呼。そばの神子や屠自古が複雑な表情で食器の確認をしていた。
その他にも、ゆで卵を自慢する空にかき氷を自慢し返すチルノがいたり、酒樽を豪快に転がす鬼がいたりと、場はかなり混沌としていた。
「こ、これは」
「面会謝絶が続く霊夢を心配した鴉天狗の記者が、昨日訪ねてきたの。
患者の情報は明かせないって言っても、『教えてくれないなら、強行突破も辞しません』なんて物騒な話よね。
それで仕方なく現在の病状と治療の試みを説明して丁重にお帰りいただこうと思ったら、『そういうことなら、ご協力ができます』って飛び去って行ったわ。
そして今朝の新聞がこれ」
永琳が魔理沙に差し出した新聞記事には、霊夢の治療に参加しないか、という有志を募る記事であった。
今霊夢を呼び戻そうと魔理沙が必死に頑張っている。しかし、個人では限界がある。
だから、皆で協力しよう。霊夢の目覚めに繋がる料理を持って来よう。
そういった内容の記事が掲載されていた。
魔理沙は新聞を食い入る様に読み、信じられないといった風情で呟く。
「それで……こんなにたくさん……」
「許可なく記事にしたのはあまり感心できないけど、これだけの住人が集まってくれたのよ。
皆が困っていたら一人が動くかわりに、一人がしんどい時は皆で助けるっていうのが幻想郷のしきたりでしょ。
存分に頼りなさい。貴女は一人じゃないのよ」
そう永琳が諭す様に優しく語りかける。
魔理沙はその言葉を噛みしめ、帽子を少し目深に被って目元から流れた水滴を誤魔化す。
そして、まるで眩しい物を見る様に改めて前を向いた。
すると、後ろの方にいた面々も魔理沙に気づく。
「あ、魔理沙ちゃんじゃないの~。霊夢ちゃんの具合はどう? 一応こちら側にはまだ来てないから大丈夫よね~」
「幽々子様、黒い冗談はお止め下さい」
「でももう安心しろ。慧音の美味―い筍料理を食べさせてやるからね」
「妹紅……何か恥ずかしいな」
「おっし! これから鹿の解体ショーを始める! 皆の者、括目せよ」
「「「うおぉぉ!」」」
「皆様、このように楽しいイベント盛りだくさんの守矢神社を、どうぞ応援してくださるようお願い……」
「奉仕活動参加者の方。こちらでけんちん汁の無料配給を実施しています。ご飯もありますよ」
「聖、霊夢にあげる分まで配らないようにね……」
「祭りみたいじゃのう! すごいのう!」
「……布都。ちゃんと目的が分かって、ここに来ているのですよね?」
「まりさ! れーむにこのゆで卵あげるよ。美味しいよ」
「あたいのかき氷の方が美味しいよ! 頭キーンってなるからすぐ起きてくるって」
「はっはっは! 酒は百薬の長。今日は鬼の酒蔵を開放するぞ」
「ささ、飲め呑め。遠慮はいらん」
「「「ひゃっはぁ!」」」
後半はほとんど好き勝手なことを始める集団に、魔理沙の顔が久しぶりに綻んだ。
「……不謹慎かもしれないけど、こういう根気のいる戦いは楽しむ方がいいわ。
あまり悲観的にならず、面白そうなことには全力で。それが」
「幻想郷流、だろ?」
魔理沙はいつも通り不敵でボーイッシュな笑みを浮かべると、正面の集団に大きな声で語りかける。
「皆! こんなに集まってくれて、ありがとうなんだぜ!
新聞の通り、霊夢はまだいつもの霊夢じゃない。だから、皆の力を貸してほしい。
早速、料理を見せてやってくれ!」
魔理沙の導入に、一同は「おうっ!」と鬨の声を上げる。
こうして、幻想郷をも動かす霊夢救出作戦が開始されたのだった。
――◇――
魔理沙は、博麗神社の縁側に座っていた。
幻想郷も秋の色合いが濃くなり、縁側から見える赤や黄色の茂みは寂しい情緒を感じさせる。
しかし博麗の巫女はそんな哀愁とは無縁で、落ち葉の掃除が大変だとこぼしつつ、その落ち葉で焼き芋を焼く算段を立てるだろう。
魔理沙が思い出すのは、賑々しく行われた永遠亭での出来事。
レミリアの言葉に嘘はなく、咲夜は豪奢なフレンチのフルコースを一瞬で作り上げ、霊夢の周りに並べて見せた。
ただその合間に、美鈴作の青椒肉絲やら炸醤麺やら名前が分かりづらい中華料理が挟まるのが謎だった。
妖夢は、普段から幽々子の食事作りで鍛えた腕を振るい、艶やかな懐石料理をそろえた。もっとも、半分くらい幽々子に食べられてしまったが。
守矢神社からは鹿肉の刺身、竜田揚げ、鍋など鹿尽くしの野趣溢れる献立が振舞われた。
その横には、筍の煮物や若竹汁。けんちん汁とご飯といった普通の料理。
人里勢の、病人にはあまり突飛でない食べ物の方がいいのでは、という心遣いである。
神子は何故かチーズを差し出していた。曰く、「これぞ醍醐味」だそうだ。
さらに屠自古は、チーズとお空のゆで卵で燻製を拵える一工夫をした。
辺り一面にいい匂いが立ち込め、全員の食欲を刺激する。
そう、それは病室の中まで届いた。
魔理沙は縁側で想う。
自分の隣では、霊夢がいつも通りお茶を啜っている。
「なぁ、よかったな。戻ってこれて」
「まぁね。あんなに美味しそうなご飯見せつけられて、あまつさえ横で宴会なんか始められたら、起きて私も混ざるしかないでしょう」
「ははは、違いないんだぜ」
あの後、並んだ食事を処理するために、霊夢の病室に面する中庭で大宴会が催された。
チルノの氷できりりと冷やした冷酒と、お空の熱エネルギーで温めた熱燗。おつまみや料理は山の様。
いつもとテイストの違う宴会に、皆等しく酔い、騒ぎ、笑った。
それが天の岩戸を開くように霊夢の意識をこじ開け、退院した霊夢といつもの風景が戻ってくる。
そのはずだった。
魔理沙はうなだれていた顔をあげて、横を見る。
そこには、誰もいない。
雨戸が締め切られ、主のいない神社はひっそりと静まり返っていた。
そう、霊夢の意識は未だに戻っていない。今も永遠亭のベッドの上だ。
あれだけやっても、駄目だった。誰一人として、霊夢を回復させる料理を作れなかったのだ。
ついには駄目元で宴会まで披露したのに、ついぞ霊夢の視線がこちらに向くことすら叶わなかった。
一夜明け、片づけをする一同は落胆して帰宅した。
もう、万策尽きたかに思えた。どうしていいか分からない。
魔理沙はフラフラと本能の様に神社の定位置に座り込み、心にぽっかりと穴が空いた虚脱感に身を任せていた。
ふよよん、と形容のし難い音が魔理沙の斜め後ろで発音した。
スキマが開く音だ。魔理沙はほとんど無意識にそちらを振り返る。
そこに半身だけ存在するのは勿論、この幻想郷の最古参である妖怪だ。
「……紫」
「はぁい。どうしちゃったの? いつも元気印の貴女が、青菜に塩ふったみたいに」
どうやら紫は、魔理沙が疲弊している理由を知らないらしい。つまりは、霊夢の現状を知らないということだ。
魔理沙はそのことに若干のイラ立ちを感じたが、同時に胸の辺りがキュッと締まる思いだった。
この流れだと、紫に霊夢が半死半生であることを自分が伝えなければいけない。
そのとき紫はどんな反応をするのか。魔理沙は想像しただけで憂鬱になった。
しかし、迷ったのは数瞬。魔理沙は紫に全てを話すことにした。
もう、藁をもつかむ思いだった。
霊夢が一日中何も喋らず、食事も碌に摂っていないこと。今まで試した治療法。そして、それでもなお症状に改善の兆しが見えないこと。
時間をかけて、説明した。
その全てを紫が把握した時、魔理沙は紫が怒り狂うか大泣きする姿を想起した。
だが、現実は想像を遥かに凌駕していた。
「ふーん……そうなの」
「そうなのって……話聞いていたのか」
あまりに、あまりにあっさりとした紫の言葉。魔理沙はそれが冷酷な態度に思え、声を少し荒げた。
だが紫は、鼻でため息をつきながらこう続ける。
「着眼点はいいけど……皆は霊夢のこと、あんまり分かってないのねぇ」
「はぁ?」
「……じゃ、行きましょうか」
「お、おい。どこに」
「決まっているでしょう」
「ねぼすけの巫女を、起こしに行くのよ」
――◇――
紫のスキマで、一瞬にして霊夢の病室にたどり着いた。
病室には霊夢の他に永琳と鈴仙がいて、突然現れた魔理沙と紫に目を丸くしていた。
魔理沙は手短に説明する。ついに大妖怪の賢者が動いた、と。
だが紫は大上段に構える訳でもなく、霊夢の傍に寄って行って頬を撫でた。
心なしか、頬骨が浮き出している気がする。
だが相変わらず紫が相手でも、そこに何も見えていない様な虚ろな視線の霊夢に、魔理沙は下唇を噛んだ。
すると紫も、少し悲しそうな目つきになって呟く。
「霊夢……こんなになっちゃって……」
紫はそれだけ言うと、こちらに向き直りこう言った。
「後でここのお台所、少し貸してもらうわよ」
ついに紫の料理が出てくるらしい。永琳はやや緊張気味に「存分にどうぞ」と許諾する。
すると紫は、小さくスキマを開いて中をゴソゴソと手でまさぐり始めた。
どうやら材料を取り出す様だ。
病室の一同は固唾を飲んで見守る。
もうこの一品に全てがかかっている。これも効果がなかったら、打つ手がない。
水を打った様な静けさの中、紫はスキマから手を引き抜いた。
紫の手にあったのは、円筒形の金属でできた筒だった。筒と言っても、両側は同素材の蓋でしっかりと塞がっている。
缶詰、という奴だ。魔理沙も保存食としていくつか持っている。
だが筒の側面に描いてある中身を表す絵は、サバやトウモロコシといった食料品とは一線を隔していた。
「それは……桃?」
「そう、桃缶。具合が悪い時には、これがてきめんに効くのよ」
そう言って紫は、スキマから缶切りと器を取り出す。
白桃が描かれた缶詰を缶切りで開け、ガラス製で切子細工のあしらわれた涼しげな器に中身を全部あける。
半割の桃がごろごろと飛び出してきて、透明なシロップで器が満たされた。
「小っちゃかった頃の霊夢は、お腹が弱かったの。
ちょっとの風邪でもすぐお腹にきちゃうから、これしか受け付けなくってね」
紫はまるで思い出を語る様な口調で、霊夢が横たわるベッドのそばの椅子に桃を持って腰かける。
器の桃は白い肌がシロップで艶々と輝き、大きなビー玉の様だ。
また桃のジューシーで甘い香りがシロップで増幅され、魔理沙の元にまで甘くて美味しそうという情報を届けた。
そして、奇跡は唐突にやって来る。
「…………もも……」
蚊のなく様な、小さくかすれた声。だが、魔理沙を含む三人には天使の福音に聞こえた。
そう、霊夢が久方ぶりに喋ったのだ。
「ほら、霊夢の好きな桃よ。ささ、あーん」
紫はフォークで桃を一口大に切り、あーんと自身の口を大きく開けて霊夢の口元に持って行く。
すると、霊夢はこちらに首をゆっくり向けて、口をくるみ割り人形の様にかぱりと開けた。
紫は霊夢の舌の上に軽く桃を乗せてやる。霊夢は唇を閉じて桃を受け取ると、ゆっくり、ゆっくりと咀嚼した。
そしてこくり、と嚥下したのを確認して、紫が満足そうに笑みを浮かべる。
「おいしい?」
「……うん」
「もっと食べる?」
「……もっと」
「よしよし。はい、あーん」
紫が桃を運ぶと、霊夢は口を開け、桃を食べる。まるで親鳥が与えた餌を、雛鳥がついばんでいる様だ。
「霊夢が……霊夢が喋った。それに……食べてる。食べてるぜ!」
魔理沙は呆然とそう漏らす。だがその事実が心の中で噛み合うと、目から喜びの涙が溢れてくる。
普通に食事をしてくれることがこんなにも感動的なことだったのかと、魔理沙は心を震わせた。
「ちょっとお台所に行ってくるわ。兎さん、残りを食べさせてもらっていいかしら」
「はっ、はい!」
紫が鈴仙にそう器を手渡すと、鈴仙はまるで手術道具を触る様に緊張しながら受け取る。
そして台所に向かった紫を見送り、鈴仙はさっき紫がしていたように小さく切った桃を霊夢に食べさせる。
すると何日か前とは打って変わり、素直に霊夢は鈴仙の手からもぐもぐと桃を食べた。
もう辛抱できなかったのだろう。鈴仙は桃を食べさせながら、誰はばかることなく泣き始めた。
以前は無力感から邸の隅でこっそり泣き腫らしていた鈴仙だったが、今は心の底から霊夢の回復が嬉しくて涙を流している。
永琳はそんな弟子のいじらしい姿を誇りに思うが、同時に一抹の不安を感じていた。
確かに食べてはいるが、半ば反射的に口を動かしている様で、完治していると断言できない。
相変わらず目の焦点は定まっていないし、もっと自発的な生きようという霊夢の気概が見えてこない。
症状は劇的な改善を見せたが、やはり長期戦になるのか……
永琳が冷静に分析していると、紫が一人用の小さな土鍋を抱えて戻ってきた。
蓋をしてあるので詳細は不明だが、きっと温かいものが入っているのだろう。
この時霊夢はすっかり桃を平らげていた。鈴仙が紫にそのことを涙目で報告すると、紫は目を細めて鈴仙に礼を言った。
そして選手交代。紫がまた椅子に座る。
これが二品目。魔理沙は期待して見守る。
「これは……どんな料理ですか?」
永琳は師に教えを乞う様に、真剣な眼差しで紫に尋ねた。
どんなに手を変え品を変えてもそそらなかった霊夢の食欲を、たった一缶で復活させた紫の考案した料理。
紫は微笑みを浮かべて、土鍋の蓋を取り去る。
そして、長年考え続けた問題の答えを見る目で中を覗いた永琳は、拍子抜けした様に呟く。
「これは……お粥?」
「そうよ。病気を治す食事の基本でしょう」
紫は当然の様に説明する。
土鍋の中は水分を吸って膨らんだ米と、それをひたひたに覆う液体で満たされていた。
でもそれ以外には変わった具や付け合せも無く、何の変哲も無いお粥だ。
確かに優しげな質感の粥だが、永琳の後ろで鈴仙が不安そうに紫に話しかける。
「でも、ここのお粥には口も付けてもらえなかったのですよ……」
「うーん。ただのお粥じゃあ、霊夢も興味がなかったでしょうね」
紫の発言に、鈴仙は首を傾げる。
紫の口ぶりでは、この粥は病院食のそれとは違うらしい。
でも、どこに差異があるのだろう。第一、具なしのお粥にそれほど種類があるとも思えないが……
と、鈴仙が考察したところで、形のいい小鼻をひくひくさせて、気づく。
永琳は視覚情報から正体を知る。魔理沙も、粥から漂う今となっては懐かしい香りにピンときた。
それは、雨上がりの新緑の様に、吸い込んだ鼻と胸を優しく癒すさわやかで落ち着く香り。
古くは大陸から伝わり、今や日本の原風景と言わしめるまでに和文化と溶け合った飲料。
そして、いつも霊夢が手にしていた。故に、それが当たり前すぎて誰も気付けなかった霊夢の好物。
「これは霊夢がいつも飲んでいるお茶の匂い……茶粥か!」
「ご名答。普通はほうじ茶で作る茶色いお粥が一般的だけど、今回は霊夢に合わせて緑茶仕立てよ」
永琳はその説明で得心がいった様に頷く。
鍋を満たすお粥の色は、米の白だけではなく透明感のある緑色も含まれていたからだ。
研いだ米を濃い目の緑茶で煮出すというシンプルな料理。
しかし、米飯と緑茶をこよなく愛する霊夢にとって、それは特別な一品となる。
紫は香り立つ茶粥を持ち、霊夢の目の前に匙ですくって差し出す。
「霊夢。もう起きなさい。これを食べて、明日も生きていくのよ。
皆、あなたのことを待っているわ」
紫の静かな言葉が、霊夢の耳に届く。
霊夢の目が茶粥を捉え、鼻が茶粥の香りを吸い込んだ。
口を開いて、匙の粥を咀嚼し嚥下する。
その瞬間。霊夢の目が見開かれ、淀んだ瞳に光が灯った。
霊夢は紫から匙と土鍋を奪う様に手元に引き寄せた。
そして忙しなく茶粥に匙を挿し入れると、手を上げ下げするのももどかしいといった具合に粥をすくい、かきこみ、すすりこむ。
病室には霊夢の猛烈な咀嚼音と、カツカツという匙と土鍋が発する音が広がる。
先程までの病人そのものだった霊夢の豹変に、紫以外の一同が面食らう。しかし、今の霊夢には関係ない。
実に数日振りのまともな食事を、これまでの遅れを取り戻す様に勢いよく食べ続けた。
そして、小型の土鍋をあっという間に空にしてしまった。霊夢は米一粒ない土鍋に匙を入れて、一息つく。
「ふぅ……けふ。ごちそうさま」
「はい。お粗末さま」
小さなげっぷをして満足げな霊夢に、紫が微笑みかける。
すると、霊夢はしばらく呆けたように紫を眺め、次に辺りをきょときょとと見渡す。
「あれ……な、なん!? ここ永遠亭、私神社にいたわよね!? 紫? どういうこと」
「お腹の空き過ぎで、ずーっと夢見心地だったのよ」
「はぁ!?」
霊夢は訳が分からないといった風情で、なおも現状維持に努めようとする。
その言葉は明瞭。意思もハッキリとし、食欲は言うまでも無し。
そう、誰が見てもいつもの霊夢だった。
今度は入院着でベッドに寝ている事実に驚き始めた霊夢が、ふと強烈な気配に気づく。
例えるなら、辛抱強く留守番していた子供が帰ってきた親の姿を見て泣き出す寸前の様な、湿っぽいオーラを感じた。
霊夢は振り返る。その視線の先には魔理沙がいた。
そして、魔理沙は例えのままに涙を溜め、例えの続きの様に霊夢に飛びついた。
「霊夢霊夢霊夢霊夢ぅぅっ~!! よがっだよぉぉ! もどっだよぉぉ!」
「うわっ! ちょ、魔理沙何が、や、やめ」
霊夢は魔理沙の取り乱しぶりに困惑したが、とりあえず頭をなでたり体をさすったりして落ち着かせようとする。
だが魔理沙にはそんな霊夢の優しさも嬉しいのか、ふいごで火を熾す様にますます感情を昂ぶらせてしまう。
そんな感動の再開の傍で、永琳と鈴仙が紫に深々と頭を下げる。紫も「ご苦労様でした」と二人の労をねぎらった。
霊夢は、完全に復活した。
魔理沙が永遠亭に駆け込んだ日から、ちょうど一週間目のことだった。
――◇――
「はぁー、そんなことがあったのね」
そう霊夢は、まるで他人事のように感想を述べた。
縁側のいつもの席に座り、いつものお茶を啜る霊夢。
霊夢と親交のある者にとっては当たり前、しかしかけがえのない風景がそこにあった。
「まったく。あれだけしてやったのに、全部忘れちまうとはな」
「忘れたんじゃなくて覚えてないの。いきなり一週間経ってるって言われて、びっくりしたんだから」
「やれやれ、とんだタイムスリップだぜ」
そう言って魔理沙は霊夢と肩が触れ合うくらい側近の位置に座り直し、そっと小指を霊夢の小指に絡ませながら茶を飲む。
「……なんか、近くない?」
「……気のせいだろ」
「顔、赤いわよ」
「……」
「大丈夫。もう魔理沙を置いて、どこかに行ったりしないわよ」
「そ、そういえばさぁ! 聞きたいことがあったんだぜ」
安心させる様な笑顔の霊夢に心情を見透かされた魔理沙が、急に話題を変える。
「言いにくいんだが……ほら、霊夢は年中概ね腹を空かしているだろ。でも、今までちゃんと生きてきたよな」
「大きなお世話よ」
「う、すまん。それなのに、なんであの日に限って倒れるほど我慢していたんだ?
言ってくれれば、私でも誰でも飯くらい食べさせてやるんだぜ。
助けを呼ぶこともできない様な、倒れるきっかけでもあったのか?」
魔理沙の疑問に、霊夢は「あー……」と中空を眺めて、記憶を呼び起こす仕草を見せる。
そしてハッと目を見開き、急に立ち上がる。
「いけない! もしかして、あのままってこと!?」
「お、おい。どうした」
霊夢は大慌てで室内に引っ込む。魔理沙もそれについて行く。
「私が覚えている最後の日、私は空腹も限界に差し掛かっていたの」
「お、おう」
「でも糧食はすっからかん。宴会もないし、人ん家に行くのもしんどいから、切り札を使ったのよ」
「切り札?」
霊夢が説明しながらツカツカと歩く。
そしてたどり着いたのは台所。霊夢が倒れ伏していた場所だ。
「そこで私は……ああ、思い出すのも忌々しい。とにかく、完膚無きまでに希望を打ちのめされたのよ」
魔理沙はいきなりの重い展開に息を呑むが、それを尻目に霊夢は流し台へと向かう。
ついに霊夢は目的地にたどり着き、流しの中を覗き込んで盛大にため息をつく。
魔理沙もこわごわ中を覗き込み、そして口を押えてえずく。
「うっ、これ……何なんだぜ」
「やっぱり、一週間も経つとこうもおぞましくなるのね。
カップ焼きそばの残骸」
霊夢はそう諦めきった声音で呟く。
流しにはひっくり返った真四角のプラ製器に、白くぶよぶよに伸びきった麺の残滓。
だが上部の表面はかぴかぴに乾いて乾麺に戻っており、器をどかすと腐敗が始まって異臭を放っている箇所もあった。
正直に言って、見るに堪えない。
「じゃあ、霊夢の切り札って」
「ええ。紫から貰った最後のカップ焼きそばだったのに、湯切り口からボトボトボトォ! って全部出て行ったのよ!」
霊夢は流しをだん! と拳で叩いて、悔しさを全身で表現する。
その後の状況説明で、魔理沙は全てを把握した。
霊夢はあの日、どうやら一つだけあったカップ焼きそばを、今が食う時だと封を切ったらしい。
お湯を注いで3分、まるで砂漠で遠くに見えるオアシスへと走る様な気持ちで待った。
そして湯切り。霊夢は意気揚々と流しにカップを傾けた。
ここで悲劇が起こったらしい。
思いのほか湯が熱かったのと、その反射で手を放してしまったため、フタが外れて麺の大部分を排水溝にぶちまけたそうだ。
「それで、『ああ、終わった……』って思った瞬間、目の前が真っ白になって」
「気づいたら、ベットの上だったと」
魔理沙がいい笑顔で、こめかみを引きつらせる。
ふと、魔理沙が霊夢の肩を拳で撫でる。
「……何よ」
「私はな、すごくすごくすご~く心配したんだぞ」
「え、ええ。聞いてるけど」
魔理沙の拳がトントンと、だんだん力が強くなっていく。
「ホント心臓が止まるかと思ったが、なるほど原因がそんな脱力感に満ち溢れたもんでよかったよかった」
「ちょ、魔理沙……叩かないで」
「少しくらい我慢しろ。私は何日も辛抱強く待ったんだ。
この! この! こいつぅ! 心配ばっかり掛けさせて! 本当に良かった!」
「痛たっ! やめ、ストップ! 謝るから。どうもすいませんでしたぁ!!」
ついにはポカポカと駄々っ子パンチを霊夢の胸元繰り出す魔理沙に、霊夢はおたおたと謝る。
その頃、今朝の朝刊で霊夢の復帰を知った幻想郷の面々が、博麗神社に向かっていた。
皆は手に手に永遠亭で振舞ったのと同等、もしくはそれ以上の料理と酒を持って。
今日は霊夢の快気祝い。久方ぶりの飲む理由に、諸人こぞりて景気よく美食を放出する。
そんな一同、共通の想いは一つ。
結局のところ、幻想郷の人々はいっぱい食べる霊夢を見ているのが好き、ということなのだった。
【ごちそうさまでした】
発見当時の霊夢は顔がむくみ、髪の毛は色あせてしまっていた。
肌のツヤは完全に失せ、目はぽやっと半開きで焦点が合っていない。
意識は無く、明らかに命の灯が消えかかっている様な風体だった。
魔理沙は「霊夢を助けてくれ!」と半泣きで永琳に懇願した。
緊急入院。精密検査。
その結果、永琳は廊下で俯いて座り込んでいた魔理沙に、霊夢の深刻な症状を宣告することとなった。
「軽度の栄養失調よ。しばらくまともな食事をしていなかったみたい。
いま点滴を打っているから、そのうち意識も戻るわ」
つまり深刻ではあったが、命に別状は無いということだ。
魔理沙は安堵から全身の力が抜け、ほーっと長いため息をついた。
だが、永琳の表情は険しい。
「どうして、こんなになるまで放っておいたの」
「……すまん。この頃宴会も無かったし、私も研究で忙しくて神社に行ってなかったんだ。
いつも腹を空かせていたけど……まさか、ここまで追い詰められていただなんて……」
永琳の尋問めいた問いかけにそこまで話して、魔理沙は涙をこらえる様にまた俯いてしまう。
友人の悲惨な姿が、自分の責任であるかのように思えたのだ。
その態度を見て、永琳は表情を和らげて魔理沙の肩に手を置く。
「でも、貴方のおかげで迅速な処置ができたわ。
これからはこういう事が無いよう、こまめに様子を見てあげて」
魔理沙は唇を結ぶと、力強く頷く。
そして霊夢の具合が良くなったら、寿司でも焼肉でも好きな物を好きなだけ奢ってやろう、と心に決めたのだった。
――◇――
窮地を脱したかに思えた霊夢。だが、異変は今現在も続いていた。
「霊夢さん。食べないと体に毒ですよ」
「……」
「霊夢さん……お願いですから……一口でいいので、食べてください……」
「……」
上半身を起こしてもらった霊夢の口元に差し出された匙が、力なく下ろされる。匙の着地点は、盆の上の茶椀に入れられた湯気の立つ白粥。
盆には卵焼き、ほうれん草のおひたし、鮭の照り焼き、梅干しに味噌汁など、永遠亭の食事を担当する鈴仙が作った病院食が並んでいる。
しかし、霊夢に食事を摂らせようと頑張っている鈴仙は、今日も無力感と悔しさに顔を歪めながら、手つかずの盆を下げるしかなかった。
霊夢の意識は戻ったが、あくまで生理的に覚醒しているというだけだった。
目は開いているが、一日中ぼーっとみじろぎせず一点を見つめ、かさかさに乾いた唇は呼吸の為の穴と成り下がっている。
永琳や鈴仙が話しかけても、まるで反応が返ってこない。
植物を相手に喋っているみたいだった。これはこの状態の霊夢を見舞った魔理沙が、震えながら語った感想である。
そして当然の様に、霊夢は食事を静かに拒否し続けた。
正確には、食事をしようという気力を失ってしまったらしい。
口元にご飯を持って行っても完全無視。なだめてもすかしても食事に興味すら示さない。
一度業を煮やした鈴仙が、なかば無理矢理に口へ粥を押し込んだことがある。
だが、口角からだらだらと零れる白い筋を見たとき、鈴仙は短絡的行為の代償を心に刻まれるほど後悔した。
こうして、飲まず食わずでもう3日。
栄養点滴を続けているが、根本的解決にはならない。
日に日にやつれてゆく霊夢を見せつけられ、魔理沙は永琳に当たった。
「どういうことだ! あれじゃ死んでいるのも同然なんだぜ!」
「……検査では脳や内臓に異常は見られない。病原菌も毒物も危険な妖力だって未検出。
反射反応や自発呼吸は認められるけど……多分、倒れた時のショックで放心してしまったのよ。
いくら私でも、心の問題に効く薬は作れないわ。一時的に症状を抑えるだけ。
もし投薬治療に踏み切ったら、霊夢はその薬をこの先一生飲み続けなければいけない」
「じゃあどうするんだよ!?」
「栄養補給は流動食をチューブで直接胃に少しずつ流す方式に切り替えて、根気強く意思が戻るのを待つしか」
「ほお。そんな姑息な延命措置を施して、いつ霊夢は蘇るんだ。ええ? 答えろよ天才薬師」
「そんなの分かる訳ないでしょ!」
バァン、と診察机を平手打ちして永琳が激昂する。傍に控えていた鈴仙はビクリと肩を竦ませた。
鈴仙は、永琳が霊夢を治せない自分にイライラしていることを知っていた。故に、魔理沙の気持ちと板挟みになって胸が張り裂けそうだった。
診察室に苦しいほどの沈黙が流れた後、魔理沙がぼそりと口を開く。
「……悪かった」
「……私も感情的になって、らしくなかったわ」
永琳も落ち着きを取り戻し、理知的に話を進めようとする。
しかし、冷静になれば非情な現実が待っている。このままでは、薬に頼らざるを得ない事態になる。
再び嫌な沈黙。
だが今度は、魔理沙の何かひらめいたらしい大きな声で破られた。
「……食事。そうだ、食事だ!
永琳、霊夢は美味い飯が大好物だった。だからとびっきり美味そうなご飯を見せつけたら、きっと食べたくなって飛び起きるぜ。
よく言うよな、目が覚めるほど美味い料理って。やってみる価値はあるだろ?」
魔理沙はそうまくしたてる。
突拍子もない意見に聞こえるが、永琳は存外悪くない提案に思えた。
心のケアの方法には、外部刺激による療法が有効だ。セラピストと対話したり、音楽や動物と触れ合ったりするだけでも癒しに繋がる。
ましてや今回の出来事は食べ物が発端だ。少なくとも、ここでグズグズと話し合いをしているよりは建設的である。
「それは、名案かもしれない。
私が許可するから、明日からでも始めてみましょう。
貴女は霊夢の好みを私よりも知っているから、準備をお願いできるかしら」
「おう! そうと決まれば、早速材料を集めて下拵えしてくるぜ!」
そう言うやいなや、魔理沙は帽子を引っつかんで慌ただしく部屋を出て行った。
ふぅ、と一息ついた永琳は、鈴仙が一人しょげていることに気が付いた。
聡明な永琳は察しが付く。鈴仙は毎日霊夢の為に食事を作っていたこと。だけど、目覚めるほどの感動は無かったこと。
永琳は、鈴仙の方を向いて優しく話しかける。
「うどんげ、貴女の料理はいつだって特別製よ。患者にとっても、勿論私や姫様やてゐにとってもね」
そう慰められて、ようやく鈴仙は頬を弛緩し、ぎこちないながらも笑みを浮かべた。
――◇――
「なぁ、霊夢。霊夢はキノコのステーキ、好きだったよな。
いつだったか、ステーキが食べたいけど先立つものが無いなんて愚痴ってた時に、私が作ったやつだよ」
そう言って魔理沙は、霊夢の面前にキノコステーキを差し出す。
大き目の食用キノコを縦に厚く切って焼き、大根おろしソースをかけたものだ。
焼けたキノコの香ばしい匂いが、霊夢の鼻孔をくすぐっているはずだ。
だが、霊夢は黙ったまま。視線は所在なさげに壁を向いていた。
「はは、やっぱり似非ステーキじゃだめか。じゃあ、そんな霊夢にサプライズだ。
ほーら、本物のステーキだ。美味そうだろ。
人里の肉屋で一番いいやつを注文したんだ。見ろ見ろ、この肉汁。たまらないぜ」
魔理沙はキノコを病室の隅に置かれたテーブルに乗せ、代わりにじゅうじゅうと鉄板の上で音を立てる牛ステーキを手に取る。
表面からしたたる肉汁は、見ているだけで食欲を刺激する。
でも、霊夢の反応は同じだ。食指どころか指一本動かさない。
「……肉、嫌いだったのか。
ちょっと気が早いが焼肉を用意したんだけど、それじゃ駄目かな。
す、寿司の方がよかったか? ほら、こんなにたくさんあるんだぜ。よりどりみどりだぜ……」
魔理沙はまるでいじけた子供の機嫌を取るかの様に、矢継ぎ早に言葉を紡ぐ。
指差したテーブルの上には魔理沙が用意した焼肉と寿司も置いてあった。
しかし、全て上物の決して安くない品物が手も付けてもらえず、ただそこに鎮座している。
そこには先程の食べ物の他に、ハンバーグ、ラーメン、カレー、天ぷら、から揚げ、朱鷺鍋、焼き魚に味噌汁、果てはデザートの団子やぜんざいまで所狭しと並んでいた。
おかげで病室には、様々な料理の匂いが湿気の様に充満している。
だがそれらはすべて、徒労に終わった残骸であった。
「……霊夢。全部お前の好物だぜ。食べたくないのか……
それとも、もう食べられないのか……戻って、来られないのか……」
悄然と魔理沙が霊夢に問いかける。だが霊夢が返事をしないので、実質独り言をつぶやいたのと同じだった。
そのことをイヤというほど思い知り、魔理沙の心は急激に絶望へと沈んだ。
そして、かつて霊夢を起こしてやると息巻いていた目にうっすらと涙が溜まり始めたその時、魔理沙はふわりと後ろから肩を抱かれた。
「……このままだと、貴女まで壊れてしまうわ。少し休みなさい」
「永琳……」
「貴女はよく頑張っている。でも、これら豪勢な食費の中に、貴女の分は含まれているのかしら」
「……」
図星だった。
たとえ高級な食材でも日参で持って来るために、魔理沙は最近粗食に努めていたのだ。
まるで自分の食事まで、霊夢に献上する様に。
「貴女まで倒れたら、霊夢も喜ばないわよ」
「……わかってる。でも、じっとしていられないんだ。
ここで私が諦めたら、霊夢はもう誰にも助けられない気がして……」
「……魔理沙。貴女は長くこの幻想郷に住んでいるのに、まだ分かっていないのかしら」
「……え?」
一人思い悩む魔理沙は、いぶかしげな声を上げる。すると永琳は魔理沙の手を引いて廊下へと連れ出す。
魔理沙はつんのめる様に永琳について行った。
「わっ、わっ!? 何なんだぜ」
「気分転換で少し外に出なさい。そして知るのよ。幻想郷がどんな場所なのかを」
永琳はそれだけ言って魔理沙と庭先に出ていく。
そこで魔理沙は目撃した。
永遠亭の広い庭に押し掛けたのは、大勢の人妖、神々、妖精や幽霊の群れ。
種族様々な衆の大半は大荷物を抱えて、ワイワイとにぎやかにお喋りしている。
呆気にとられた魔理沙を、先頭にいたレミリアが発見して話かけてきた。
「あ、魔理沙。まだ霊夢は生きてる?
安心しなさい。咲夜の手にかかれば、100年間眠っていた人間も目覚める料理が出来上がるわよ」
「しかも数瞬でフルコースを完成させて、テーブルに並べることもできますわ」
そう自信満々に言い切る咲夜。その後ろでは、中華鍋と幅の広い包丁を担いだ美鈴が追随していた。
よく見ると、他の面子も食料や調理道具を持参しているらしい。
妖夢は愛用の包丁鞄を下げ、持ってきた材料をつまみ食いしようとする幽々子をたしなめていた。
その向こうでは、割烹着姿の慧音が妹紅と何やら話している。妹紅は筍が入ったカゴを背負っていた。
あそこでどよめきが起こっているのは、守矢神社の一行が雄々しい鹿を一頭逆さ吊りでここまで運んできたからだ。
命蓮寺の一団は大釜や寸胴鍋を野外用の組み立て式かまどに乗せ、まるで炊き出しの様である。
その横ではリュックに水筒を下げた布都が「すごいのう」を連呼。そばの神子や屠自古が複雑な表情で食器の確認をしていた。
その他にも、ゆで卵を自慢する空にかき氷を自慢し返すチルノがいたり、酒樽を豪快に転がす鬼がいたりと、場はかなり混沌としていた。
「こ、これは」
「面会謝絶が続く霊夢を心配した鴉天狗の記者が、昨日訪ねてきたの。
患者の情報は明かせないって言っても、『教えてくれないなら、強行突破も辞しません』なんて物騒な話よね。
それで仕方なく現在の病状と治療の試みを説明して丁重にお帰りいただこうと思ったら、『そういうことなら、ご協力ができます』って飛び去って行ったわ。
そして今朝の新聞がこれ」
永琳が魔理沙に差し出した新聞記事には、霊夢の治療に参加しないか、という有志を募る記事であった。
今霊夢を呼び戻そうと魔理沙が必死に頑張っている。しかし、個人では限界がある。
だから、皆で協力しよう。霊夢の目覚めに繋がる料理を持って来よう。
そういった内容の記事が掲載されていた。
魔理沙は新聞を食い入る様に読み、信じられないといった風情で呟く。
「それで……こんなにたくさん……」
「許可なく記事にしたのはあまり感心できないけど、これだけの住人が集まってくれたのよ。
皆が困っていたら一人が動くかわりに、一人がしんどい時は皆で助けるっていうのが幻想郷のしきたりでしょ。
存分に頼りなさい。貴女は一人じゃないのよ」
そう永琳が諭す様に優しく語りかける。
魔理沙はその言葉を噛みしめ、帽子を少し目深に被って目元から流れた水滴を誤魔化す。
そして、まるで眩しい物を見る様に改めて前を向いた。
すると、後ろの方にいた面々も魔理沙に気づく。
「あ、魔理沙ちゃんじゃないの~。霊夢ちゃんの具合はどう? 一応こちら側にはまだ来てないから大丈夫よね~」
「幽々子様、黒い冗談はお止め下さい」
「でももう安心しろ。慧音の美味―い筍料理を食べさせてやるからね」
「妹紅……何か恥ずかしいな」
「おっし! これから鹿の解体ショーを始める! 皆の者、括目せよ」
「「「うおぉぉ!」」」
「皆様、このように楽しいイベント盛りだくさんの守矢神社を、どうぞ応援してくださるようお願い……」
「奉仕活動参加者の方。こちらでけんちん汁の無料配給を実施しています。ご飯もありますよ」
「聖、霊夢にあげる分まで配らないようにね……」
「祭りみたいじゃのう! すごいのう!」
「……布都。ちゃんと目的が分かって、ここに来ているのですよね?」
「まりさ! れーむにこのゆで卵あげるよ。美味しいよ」
「あたいのかき氷の方が美味しいよ! 頭キーンってなるからすぐ起きてくるって」
「はっはっは! 酒は百薬の長。今日は鬼の酒蔵を開放するぞ」
「ささ、飲め呑め。遠慮はいらん」
「「「ひゃっはぁ!」」」
後半はほとんど好き勝手なことを始める集団に、魔理沙の顔が久しぶりに綻んだ。
「……不謹慎かもしれないけど、こういう根気のいる戦いは楽しむ方がいいわ。
あまり悲観的にならず、面白そうなことには全力で。それが」
「幻想郷流、だろ?」
魔理沙はいつも通り不敵でボーイッシュな笑みを浮かべると、正面の集団に大きな声で語りかける。
「皆! こんなに集まってくれて、ありがとうなんだぜ!
新聞の通り、霊夢はまだいつもの霊夢じゃない。だから、皆の力を貸してほしい。
早速、料理を見せてやってくれ!」
魔理沙の導入に、一同は「おうっ!」と鬨の声を上げる。
こうして、幻想郷をも動かす霊夢救出作戦が開始されたのだった。
――◇――
魔理沙は、博麗神社の縁側に座っていた。
幻想郷も秋の色合いが濃くなり、縁側から見える赤や黄色の茂みは寂しい情緒を感じさせる。
しかし博麗の巫女はそんな哀愁とは無縁で、落ち葉の掃除が大変だとこぼしつつ、その落ち葉で焼き芋を焼く算段を立てるだろう。
魔理沙が思い出すのは、賑々しく行われた永遠亭での出来事。
レミリアの言葉に嘘はなく、咲夜は豪奢なフレンチのフルコースを一瞬で作り上げ、霊夢の周りに並べて見せた。
ただその合間に、美鈴作の青椒肉絲やら炸醤麺やら名前が分かりづらい中華料理が挟まるのが謎だった。
妖夢は、普段から幽々子の食事作りで鍛えた腕を振るい、艶やかな懐石料理をそろえた。もっとも、半分くらい幽々子に食べられてしまったが。
守矢神社からは鹿肉の刺身、竜田揚げ、鍋など鹿尽くしの野趣溢れる献立が振舞われた。
その横には、筍の煮物や若竹汁。けんちん汁とご飯といった普通の料理。
人里勢の、病人にはあまり突飛でない食べ物の方がいいのでは、という心遣いである。
神子は何故かチーズを差し出していた。曰く、「これぞ醍醐味」だそうだ。
さらに屠自古は、チーズとお空のゆで卵で燻製を拵える一工夫をした。
辺り一面にいい匂いが立ち込め、全員の食欲を刺激する。
そう、それは病室の中まで届いた。
魔理沙は縁側で想う。
自分の隣では、霊夢がいつも通りお茶を啜っている。
「なぁ、よかったな。戻ってこれて」
「まぁね。あんなに美味しそうなご飯見せつけられて、あまつさえ横で宴会なんか始められたら、起きて私も混ざるしかないでしょう」
「ははは、違いないんだぜ」
あの後、並んだ食事を処理するために、霊夢の病室に面する中庭で大宴会が催された。
チルノの氷できりりと冷やした冷酒と、お空の熱エネルギーで温めた熱燗。おつまみや料理は山の様。
いつもとテイストの違う宴会に、皆等しく酔い、騒ぎ、笑った。
それが天の岩戸を開くように霊夢の意識をこじ開け、退院した霊夢といつもの風景が戻ってくる。
そのはずだった。
魔理沙はうなだれていた顔をあげて、横を見る。
そこには、誰もいない。
雨戸が締め切られ、主のいない神社はひっそりと静まり返っていた。
そう、霊夢の意識は未だに戻っていない。今も永遠亭のベッドの上だ。
あれだけやっても、駄目だった。誰一人として、霊夢を回復させる料理を作れなかったのだ。
ついには駄目元で宴会まで披露したのに、ついぞ霊夢の視線がこちらに向くことすら叶わなかった。
一夜明け、片づけをする一同は落胆して帰宅した。
もう、万策尽きたかに思えた。どうしていいか分からない。
魔理沙はフラフラと本能の様に神社の定位置に座り込み、心にぽっかりと穴が空いた虚脱感に身を任せていた。
ふよよん、と形容のし難い音が魔理沙の斜め後ろで発音した。
スキマが開く音だ。魔理沙はほとんど無意識にそちらを振り返る。
そこに半身だけ存在するのは勿論、この幻想郷の最古参である妖怪だ。
「……紫」
「はぁい。どうしちゃったの? いつも元気印の貴女が、青菜に塩ふったみたいに」
どうやら紫は、魔理沙が疲弊している理由を知らないらしい。つまりは、霊夢の現状を知らないということだ。
魔理沙はそのことに若干のイラ立ちを感じたが、同時に胸の辺りがキュッと締まる思いだった。
この流れだと、紫に霊夢が半死半生であることを自分が伝えなければいけない。
そのとき紫はどんな反応をするのか。魔理沙は想像しただけで憂鬱になった。
しかし、迷ったのは数瞬。魔理沙は紫に全てを話すことにした。
もう、藁をもつかむ思いだった。
霊夢が一日中何も喋らず、食事も碌に摂っていないこと。今まで試した治療法。そして、それでもなお症状に改善の兆しが見えないこと。
時間をかけて、説明した。
その全てを紫が把握した時、魔理沙は紫が怒り狂うか大泣きする姿を想起した。
だが、現実は想像を遥かに凌駕していた。
「ふーん……そうなの」
「そうなのって……話聞いていたのか」
あまりに、あまりにあっさりとした紫の言葉。魔理沙はそれが冷酷な態度に思え、声を少し荒げた。
だが紫は、鼻でため息をつきながらこう続ける。
「着眼点はいいけど……皆は霊夢のこと、あんまり分かってないのねぇ」
「はぁ?」
「……じゃ、行きましょうか」
「お、おい。どこに」
「決まっているでしょう」
「ねぼすけの巫女を、起こしに行くのよ」
――◇――
紫のスキマで、一瞬にして霊夢の病室にたどり着いた。
病室には霊夢の他に永琳と鈴仙がいて、突然現れた魔理沙と紫に目を丸くしていた。
魔理沙は手短に説明する。ついに大妖怪の賢者が動いた、と。
だが紫は大上段に構える訳でもなく、霊夢の傍に寄って行って頬を撫でた。
心なしか、頬骨が浮き出している気がする。
だが相変わらず紫が相手でも、そこに何も見えていない様な虚ろな視線の霊夢に、魔理沙は下唇を噛んだ。
すると紫も、少し悲しそうな目つきになって呟く。
「霊夢……こんなになっちゃって……」
紫はそれだけ言うと、こちらに向き直りこう言った。
「後でここのお台所、少し貸してもらうわよ」
ついに紫の料理が出てくるらしい。永琳はやや緊張気味に「存分にどうぞ」と許諾する。
すると紫は、小さくスキマを開いて中をゴソゴソと手でまさぐり始めた。
どうやら材料を取り出す様だ。
病室の一同は固唾を飲んで見守る。
もうこの一品に全てがかかっている。これも効果がなかったら、打つ手がない。
水を打った様な静けさの中、紫はスキマから手を引き抜いた。
紫の手にあったのは、円筒形の金属でできた筒だった。筒と言っても、両側は同素材の蓋でしっかりと塞がっている。
缶詰、という奴だ。魔理沙も保存食としていくつか持っている。
だが筒の側面に描いてある中身を表す絵は、サバやトウモロコシといった食料品とは一線を隔していた。
「それは……桃?」
「そう、桃缶。具合が悪い時には、これがてきめんに効くのよ」
そう言って紫は、スキマから缶切りと器を取り出す。
白桃が描かれた缶詰を缶切りで開け、ガラス製で切子細工のあしらわれた涼しげな器に中身を全部あける。
半割の桃がごろごろと飛び出してきて、透明なシロップで器が満たされた。
「小っちゃかった頃の霊夢は、お腹が弱かったの。
ちょっとの風邪でもすぐお腹にきちゃうから、これしか受け付けなくってね」
紫はまるで思い出を語る様な口調で、霊夢が横たわるベッドのそばの椅子に桃を持って腰かける。
器の桃は白い肌がシロップで艶々と輝き、大きなビー玉の様だ。
また桃のジューシーで甘い香りがシロップで増幅され、魔理沙の元にまで甘くて美味しそうという情報を届けた。
そして、奇跡は唐突にやって来る。
「…………もも……」
蚊のなく様な、小さくかすれた声。だが、魔理沙を含む三人には天使の福音に聞こえた。
そう、霊夢が久方ぶりに喋ったのだ。
「ほら、霊夢の好きな桃よ。ささ、あーん」
紫はフォークで桃を一口大に切り、あーんと自身の口を大きく開けて霊夢の口元に持って行く。
すると、霊夢はこちらに首をゆっくり向けて、口をくるみ割り人形の様にかぱりと開けた。
紫は霊夢の舌の上に軽く桃を乗せてやる。霊夢は唇を閉じて桃を受け取ると、ゆっくり、ゆっくりと咀嚼した。
そしてこくり、と嚥下したのを確認して、紫が満足そうに笑みを浮かべる。
「おいしい?」
「……うん」
「もっと食べる?」
「……もっと」
「よしよし。はい、あーん」
紫が桃を運ぶと、霊夢は口を開け、桃を食べる。まるで親鳥が与えた餌を、雛鳥がついばんでいる様だ。
「霊夢が……霊夢が喋った。それに……食べてる。食べてるぜ!」
魔理沙は呆然とそう漏らす。だがその事実が心の中で噛み合うと、目から喜びの涙が溢れてくる。
普通に食事をしてくれることがこんなにも感動的なことだったのかと、魔理沙は心を震わせた。
「ちょっとお台所に行ってくるわ。兎さん、残りを食べさせてもらっていいかしら」
「はっ、はい!」
紫が鈴仙にそう器を手渡すと、鈴仙はまるで手術道具を触る様に緊張しながら受け取る。
そして台所に向かった紫を見送り、鈴仙はさっき紫がしていたように小さく切った桃を霊夢に食べさせる。
すると何日か前とは打って変わり、素直に霊夢は鈴仙の手からもぐもぐと桃を食べた。
もう辛抱できなかったのだろう。鈴仙は桃を食べさせながら、誰はばかることなく泣き始めた。
以前は無力感から邸の隅でこっそり泣き腫らしていた鈴仙だったが、今は心の底から霊夢の回復が嬉しくて涙を流している。
永琳はそんな弟子のいじらしい姿を誇りに思うが、同時に一抹の不安を感じていた。
確かに食べてはいるが、半ば反射的に口を動かしている様で、完治していると断言できない。
相変わらず目の焦点は定まっていないし、もっと自発的な生きようという霊夢の気概が見えてこない。
症状は劇的な改善を見せたが、やはり長期戦になるのか……
永琳が冷静に分析していると、紫が一人用の小さな土鍋を抱えて戻ってきた。
蓋をしてあるので詳細は不明だが、きっと温かいものが入っているのだろう。
この時霊夢はすっかり桃を平らげていた。鈴仙が紫にそのことを涙目で報告すると、紫は目を細めて鈴仙に礼を言った。
そして選手交代。紫がまた椅子に座る。
これが二品目。魔理沙は期待して見守る。
「これは……どんな料理ですか?」
永琳は師に教えを乞う様に、真剣な眼差しで紫に尋ねた。
どんなに手を変え品を変えてもそそらなかった霊夢の食欲を、たった一缶で復活させた紫の考案した料理。
紫は微笑みを浮かべて、土鍋の蓋を取り去る。
そして、長年考え続けた問題の答えを見る目で中を覗いた永琳は、拍子抜けした様に呟く。
「これは……お粥?」
「そうよ。病気を治す食事の基本でしょう」
紫は当然の様に説明する。
土鍋の中は水分を吸って膨らんだ米と、それをひたひたに覆う液体で満たされていた。
でもそれ以外には変わった具や付け合せも無く、何の変哲も無いお粥だ。
確かに優しげな質感の粥だが、永琳の後ろで鈴仙が不安そうに紫に話しかける。
「でも、ここのお粥には口も付けてもらえなかったのですよ……」
「うーん。ただのお粥じゃあ、霊夢も興味がなかったでしょうね」
紫の発言に、鈴仙は首を傾げる。
紫の口ぶりでは、この粥は病院食のそれとは違うらしい。
でも、どこに差異があるのだろう。第一、具なしのお粥にそれほど種類があるとも思えないが……
と、鈴仙が考察したところで、形のいい小鼻をひくひくさせて、気づく。
永琳は視覚情報から正体を知る。魔理沙も、粥から漂う今となっては懐かしい香りにピンときた。
それは、雨上がりの新緑の様に、吸い込んだ鼻と胸を優しく癒すさわやかで落ち着く香り。
古くは大陸から伝わり、今や日本の原風景と言わしめるまでに和文化と溶け合った飲料。
そして、いつも霊夢が手にしていた。故に、それが当たり前すぎて誰も気付けなかった霊夢の好物。
「これは霊夢がいつも飲んでいるお茶の匂い……茶粥か!」
「ご名答。普通はほうじ茶で作る茶色いお粥が一般的だけど、今回は霊夢に合わせて緑茶仕立てよ」
永琳はその説明で得心がいった様に頷く。
鍋を満たすお粥の色は、米の白だけではなく透明感のある緑色も含まれていたからだ。
研いだ米を濃い目の緑茶で煮出すというシンプルな料理。
しかし、米飯と緑茶をこよなく愛する霊夢にとって、それは特別な一品となる。
紫は香り立つ茶粥を持ち、霊夢の目の前に匙ですくって差し出す。
「霊夢。もう起きなさい。これを食べて、明日も生きていくのよ。
皆、あなたのことを待っているわ」
紫の静かな言葉が、霊夢の耳に届く。
霊夢の目が茶粥を捉え、鼻が茶粥の香りを吸い込んだ。
口を開いて、匙の粥を咀嚼し嚥下する。
その瞬間。霊夢の目が見開かれ、淀んだ瞳に光が灯った。
霊夢は紫から匙と土鍋を奪う様に手元に引き寄せた。
そして忙しなく茶粥に匙を挿し入れると、手を上げ下げするのももどかしいといった具合に粥をすくい、かきこみ、すすりこむ。
病室には霊夢の猛烈な咀嚼音と、カツカツという匙と土鍋が発する音が広がる。
先程までの病人そのものだった霊夢の豹変に、紫以外の一同が面食らう。しかし、今の霊夢には関係ない。
実に数日振りのまともな食事を、これまでの遅れを取り戻す様に勢いよく食べ続けた。
そして、小型の土鍋をあっという間に空にしてしまった。霊夢は米一粒ない土鍋に匙を入れて、一息つく。
「ふぅ……けふ。ごちそうさま」
「はい。お粗末さま」
小さなげっぷをして満足げな霊夢に、紫が微笑みかける。
すると、霊夢はしばらく呆けたように紫を眺め、次に辺りをきょときょとと見渡す。
「あれ……な、なん!? ここ永遠亭、私神社にいたわよね!? 紫? どういうこと」
「お腹の空き過ぎで、ずーっと夢見心地だったのよ」
「はぁ!?」
霊夢は訳が分からないといった風情で、なおも現状維持に努めようとする。
その言葉は明瞭。意思もハッキリとし、食欲は言うまでも無し。
そう、誰が見てもいつもの霊夢だった。
今度は入院着でベッドに寝ている事実に驚き始めた霊夢が、ふと強烈な気配に気づく。
例えるなら、辛抱強く留守番していた子供が帰ってきた親の姿を見て泣き出す寸前の様な、湿っぽいオーラを感じた。
霊夢は振り返る。その視線の先には魔理沙がいた。
そして、魔理沙は例えのままに涙を溜め、例えの続きの様に霊夢に飛びついた。
「霊夢霊夢霊夢霊夢ぅぅっ~!! よがっだよぉぉ! もどっだよぉぉ!」
「うわっ! ちょ、魔理沙何が、や、やめ」
霊夢は魔理沙の取り乱しぶりに困惑したが、とりあえず頭をなでたり体をさすったりして落ち着かせようとする。
だが魔理沙にはそんな霊夢の優しさも嬉しいのか、ふいごで火を熾す様にますます感情を昂ぶらせてしまう。
そんな感動の再開の傍で、永琳と鈴仙が紫に深々と頭を下げる。紫も「ご苦労様でした」と二人の労をねぎらった。
霊夢は、完全に復活した。
魔理沙が永遠亭に駆け込んだ日から、ちょうど一週間目のことだった。
――◇――
「はぁー、そんなことがあったのね」
そう霊夢は、まるで他人事のように感想を述べた。
縁側のいつもの席に座り、いつものお茶を啜る霊夢。
霊夢と親交のある者にとっては当たり前、しかしかけがえのない風景がそこにあった。
「まったく。あれだけしてやったのに、全部忘れちまうとはな」
「忘れたんじゃなくて覚えてないの。いきなり一週間経ってるって言われて、びっくりしたんだから」
「やれやれ、とんだタイムスリップだぜ」
そう言って魔理沙は霊夢と肩が触れ合うくらい側近の位置に座り直し、そっと小指を霊夢の小指に絡ませながら茶を飲む。
「……なんか、近くない?」
「……気のせいだろ」
「顔、赤いわよ」
「……」
「大丈夫。もう魔理沙を置いて、どこかに行ったりしないわよ」
「そ、そういえばさぁ! 聞きたいことがあったんだぜ」
安心させる様な笑顔の霊夢に心情を見透かされた魔理沙が、急に話題を変える。
「言いにくいんだが……ほら、霊夢は年中概ね腹を空かしているだろ。でも、今までちゃんと生きてきたよな」
「大きなお世話よ」
「う、すまん。それなのに、なんであの日に限って倒れるほど我慢していたんだ?
言ってくれれば、私でも誰でも飯くらい食べさせてやるんだぜ。
助けを呼ぶこともできない様な、倒れるきっかけでもあったのか?」
魔理沙の疑問に、霊夢は「あー……」と中空を眺めて、記憶を呼び起こす仕草を見せる。
そしてハッと目を見開き、急に立ち上がる。
「いけない! もしかして、あのままってこと!?」
「お、おい。どうした」
霊夢は大慌てで室内に引っ込む。魔理沙もそれについて行く。
「私が覚えている最後の日、私は空腹も限界に差し掛かっていたの」
「お、おう」
「でも糧食はすっからかん。宴会もないし、人ん家に行くのもしんどいから、切り札を使ったのよ」
「切り札?」
霊夢が説明しながらツカツカと歩く。
そしてたどり着いたのは台所。霊夢が倒れ伏していた場所だ。
「そこで私は……ああ、思い出すのも忌々しい。とにかく、完膚無きまでに希望を打ちのめされたのよ」
魔理沙はいきなりの重い展開に息を呑むが、それを尻目に霊夢は流し台へと向かう。
ついに霊夢は目的地にたどり着き、流しの中を覗き込んで盛大にため息をつく。
魔理沙もこわごわ中を覗き込み、そして口を押えてえずく。
「うっ、これ……何なんだぜ」
「やっぱり、一週間も経つとこうもおぞましくなるのね。
カップ焼きそばの残骸」
霊夢はそう諦めきった声音で呟く。
流しにはひっくり返った真四角のプラ製器に、白くぶよぶよに伸びきった麺の残滓。
だが上部の表面はかぴかぴに乾いて乾麺に戻っており、器をどかすと腐敗が始まって異臭を放っている箇所もあった。
正直に言って、見るに堪えない。
「じゃあ、霊夢の切り札って」
「ええ。紫から貰った最後のカップ焼きそばだったのに、湯切り口からボトボトボトォ! って全部出て行ったのよ!」
霊夢は流しをだん! と拳で叩いて、悔しさを全身で表現する。
その後の状況説明で、魔理沙は全てを把握した。
霊夢はあの日、どうやら一つだけあったカップ焼きそばを、今が食う時だと封を切ったらしい。
お湯を注いで3分、まるで砂漠で遠くに見えるオアシスへと走る様な気持ちで待った。
そして湯切り。霊夢は意気揚々と流しにカップを傾けた。
ここで悲劇が起こったらしい。
思いのほか湯が熱かったのと、その反射で手を放してしまったため、フタが外れて麺の大部分を排水溝にぶちまけたそうだ。
「それで、『ああ、終わった……』って思った瞬間、目の前が真っ白になって」
「気づいたら、ベットの上だったと」
魔理沙がいい笑顔で、こめかみを引きつらせる。
ふと、魔理沙が霊夢の肩を拳で撫でる。
「……何よ」
「私はな、すごくすごくすご~く心配したんだぞ」
「え、ええ。聞いてるけど」
魔理沙の拳がトントンと、だんだん力が強くなっていく。
「ホント心臓が止まるかと思ったが、なるほど原因がそんな脱力感に満ち溢れたもんでよかったよかった」
「ちょ、魔理沙……叩かないで」
「少しくらい我慢しろ。私は何日も辛抱強く待ったんだ。
この! この! こいつぅ! 心配ばっかり掛けさせて! 本当に良かった!」
「痛たっ! やめ、ストップ! 謝るから。どうもすいませんでしたぁ!!」
ついにはポカポカと駄々っ子パンチを霊夢の胸元繰り出す魔理沙に、霊夢はおたおたと謝る。
その頃、今朝の朝刊で霊夢の復帰を知った幻想郷の面々が、博麗神社に向かっていた。
皆は手に手に永遠亭で振舞ったのと同等、もしくはそれ以上の料理と酒を持って。
今日は霊夢の快気祝い。久方ぶりの飲む理由に、諸人こぞりて景気よく美食を放出する。
そんな一同、共通の想いは一つ。
結局のところ、幻想郷の人々はいっぱい食べる霊夢を見ているのが好き、ということなのだった。
【ごちそうさまでした】
孤軍奮闘していた魔理沙をすごく応援したくなりましたw
面白かったです、ごちそうさまでした
あっちでもこっちでも、魔理沙はやっぱりお母さんポジションで変わらないんだなぁ……。
で、食べさせ過ぎて太った霊夢のお腹をフニフニするのはまだですか?
二十分前の俺
えーりんえーりん助けてえーりん!
えーりん「むりっす」
なん・・だと・・
あ、これバッドエンドじゃね\(^o^)/と思ったがそんなことはなかった
さすがゆかりんやでぇ・・
鈴仙が不憫だったので20点引いて100点にしておきますね
そしてゆかりんの一人勝ちでも、霊夢が助かってくれた事を素直に喜べる魔理沙が報われてよかったです。
ハラハラしながら読み進めましたが、良いお話しに落ち着いて安心しました。
むやみにネタにしてはいけない
紫がそのお母さんぶりを発揮して、静かに助ける場面も、魔理沙が安堵して泣き崩れる場面も良かった。
感動したので、100点献上。
もう少し驚きが欲しかった。
そして流石にだぜだぜ言い過ぎでは。
話の展開もまとまっていて読み易いです。
オチも自分的には好きでした。
自分の時はジャムパン・クリームパン・CCレモンが突破口でした。
ご感想ありがとうございます。オチはいつもの平和で霊夢が愛されている幻想郷が戻ってきた、という空気を演出したくて、このような形になりました。
しかし感動されたということで、安心しました。
3番様
そしてシンクがボンッと鳴ってビクッ! 応援ありがとうございます。お粗末様でした。
6番様
あちらの霊夢は、今作の比じゃないくらいガリッガリですよ(哀)
この後、皆の食え食え攻撃でモチモチするかもしれませんね。そ~れフニフニ!
10番様
確かに、鈴仙は今回報われ率が低いですね……
それでも20点引いての満点、誠にありがとうございます。
奇声を発する程度の能力様
ありがとうございます。親友のために頑張る健気さがいいですね。
15番様
お母さんの看病と言えば、やっぱり桃缶かな、というイメージです。
魔理沙はたとえ誰の力であっても、霊夢が目覚めればそれでいいという優しい一面があると思って書きました。本当に報われました。
21番様
出汁茶漬けといって、やや茶色の出汁に浸かったお茶漬けを食べたことがあります。なかなかに美味です。
やはり最後は安心したい、ハッピーエンド症候群ながま口です。
22番様
お腹が空いている、という状況も威力を倍増させますよね。その次にショックなのが、カップの内線まで沸かしたお湯が少なすぎて届かないこと(笑)
24番様
し、失礼いたしました。以後、気を付けて慎重に湯を捨てます(ソコ!?)
32番様
ありがとうございます。
33番様
幻想郷の皆さんなら、きっとやってくれるだろうという想いが通じました。
ご感想にあるシーンは、特に力が入っていた部分なので、お褒めの言葉をいただき光栄です。
36番様
確かにもうちょっとひねりは欲しかったかな、とは思いました。
しかし、魔理沙の語尾は以前の拙作の方が不自然な使い方をしていた回もあったので、今回は割とマシなんじゃないかな、と自負しております。
38番様
ご感想、ありがとうございます。
読みやすいとオチが好きは、私にとって何よりのお褒めの言葉です。
39番様
なんと。39番様はお医者様なのでしょうか。
食べ物を突破口に、とはいささか突飛な発想かと思ったのですが、世界は広いんですね。
しかしその3点セットなら、私も飛び起きそうですな。
3食しっかり食べて健康生活! がま口でした。
それにしても霊夢、みんなや特に魔理沙にお礼ぐらい言わないと駄目だよ。
焦点がぼやけているようにも思うので90で。
ところでお腹がすいたのですがどうしてくれる。
そういえば言ってませんでしたね……。それでは、本編に追加して――
ついにはポカポカと駄々っ子パンチを霊夢の胸元繰り出す魔理沙に、霊夢はおたおたと謝る。
だがその力はやがて弱まり、魔理沙は噛みしめる様にこう呟いた。
「本当に、生きててくれて良かった……」
霊夢はその様子を静かに見つめる。
そしてそのいじらしい魔理沙の背中を、霊夢はそっと抱きしめる様に撫でながらこう魔理沙への思いを告げた。
「魔理沙も、皆も……今までありがとう。私、魔理沙が親友で幸せよ」
ぽたりと床に落ちた涙を、霊夢は見なかったことにして背中をさすり続けた。
43番様
今回一番の功労者は魔理沙だと思いましたので、オチも魔理沙に担当してもらいました。
お腹の件は……白がゆを丼に入れて、叩いた梅干し・カツオ節・焼き海苔・すりゴマ・みじん切りのねぎを半練りにしたものを上にそえるだけ。
少しずつ溶かしてすすると、各材料からうま味が染み出て素敵なお味に……あぁ、私もお腹が空いてきましたよ(笑)
ご感想、ありがとうございます。
私もいっぱい食べて、それも笑顔で美味しそうに食べる人に好感を抱きます。
そんな人、近くにいないかなぁ……
せめてお米! お米を献上してあげてください!
>魔理沙が異変を起こして、霊夢が異変を解決しようとして反射的に復活する
あ、そのテがあったか(拳ポン)
ちなみに私は、黙って一途にぺヤング一択です。