Coolier - 新生・東方創想話

三角関係の稀な結末

2010/10/27 23:24:24
最終更新
サイズ
12.91KB
ページ数
1
閲覧数
2319
評価数
9/46
POINT
1770
Rate
7.64

分類タグ


「おらおら!魔理沙様のお通りだ!道を空けな!……な~んてな」

今日も今日とて霧雨 魔理沙は紅魔館の図書館に本を盗みに、いや借用しに来ていた。
門番隊をけちらし、妖精メイドを吹き飛ばしながらやってきた魔理沙だったが、
図書館に突入すると妙なことに気がついた。
司書メイドに勢いがないのだ。
いつもなら編隊を組んで追い返そうとしてくるし魔導書の攻撃もある。
しかし今日に限ってはただ散発的に弾幕を打ち込んでくるだけ。
さらに図書館の主たるパチュリー・ノーレッジの姿がどこにもない。
いつもなら怒りながら一番に現れるのに。
そんなわけで多少の物足りなさを感じる魔理沙だった。

「魔理沙さん! 狼藉は許しませんよ!」

そんな魔理沙に声をかけたのはパチュリーの使い魔で図書館の司書長、小悪魔である。

「おっ! 小悪魔か、やっと歯ごたえのある奴がでてきたな。ところでパチュリーの奴はどうした?」

魔理沙の何気ない問いに小悪魔の表情が一気に曇る。

「パチュリー様は……その……」
「どうしたんだ? 具合でも悪くしたのか」
「ええ、そうなんですが……」

歯切れの悪い小悪魔だが、魔理沙は気にせずパチュリーの個室に箒の先を向ける。

「それじゃお見舞いにでもいかないとな。生憎土産は持ち合わせていないが」
「ちょっと待ってください!」

小悪魔の制止を訊かず、勝手知ったる様子で魔理沙は図書館を突き進んだ。






「入るぜ」

軽く挨拶してパチュリーの私室に足を踏み入れる魔理沙。
部屋は薄暗いが、周りが確認できなくなるほどではない。

「うわっ」

だが数歩歩いたとたん躓きかける魔理沙。
よく見ると床には魔導書や紙の束がめちゃくちゃに散らばっていた。
物によってはビリビリに引き裂かれた物まである。
まるで泥棒にでも荒らされたようだと魔理沙は思った。
魔理沙が知る限り、パチュリーは本をとても大切にしていたはずだ。
こんなに散らかすことも、散らかしたまま放置することもないはずだ。
この部屋をみただけでも彼女が只ならぬ状況にあることが知れた。魔理沙は部屋の隅に目を向ける。
そこにはベットの上で丸まったまま身じろぎしないパチュリーがいた。

「おいパチュリー」

魔理沙は少し声のトーンを落として声をかける。
だがパチュリーの反応はない。

「お~いパチュリ~」

すこし声を大きくする。
だが反応はない。

「おいパチュリー!」

今度は勢いよく声をかけた。

「……何しにきたの……本なら勝手に持って行きなさい」

反応が返ってきた。
だが魔理沙は一瞬それがパチュリーの言葉であると認識できなかった。
声が別人のように掠れている。
そしてなにより、あのパチュリーが勝手に持っていけなどと言うはずがない。

「おまえ、どうしたんだ?」
「……なんでもないわ」
「なんでもないわけないだろ!」

そう言うやいなや魔理沙は掛け布団を一気にはぎ取る。
そこには泣きはらして目元を真っ赤にしたパチュリーがいた。
服も髪もぐちゃぐちゃで何より普段から薄めの生気がさら薄くなっている。
まるで触れれば折れてしまいそうなぐらい弱々しい姿だった。

「おい! 本当にどうしたんだよ! 悪い病気なのか、それとも変な呪いにかかって」
「……なんでもないの。お願いだから出てって。誰とも話したくないのよ」

そう言うや泣き出すパチュリー
取り付く島のない魔理沙は静かに部屋を出ていくしかなかった。




部屋の前では小悪魔が待っていた。

「なあ、何があったんだ?お前なら知ってるんだろ」

小悪魔はパチュリーの使い魔であり、また秘書のような存在である。
彼女以上にパチュリーのことに詳しい者など存在しないだろう。
小悪魔は少し躊躇したようだが、しばらくすると口を開いた。

「実はお嬢様と妹様が……」

その言葉だけで魔理沙は全てを理解した。

パチュリーはレミリア・スカーレットを愛していた。
だがレミリアの妹であるフランドールもレミリアのことを愛していた。
レミリアとフランドールが結ばれ、パチュリーは一人取り残されたのだろう。
三角関係のよくある結末というやつだ。

「なるほどな」

その場から立ち去ろうとする魔理沙。
その前に小悪魔が立ちふさがる。
攻撃的な魔力と、敵意すら込めた視線と共に。

「どこに行かれるのですか?」
「ちょっとヤボ用にな」
「もしお嬢様方ところに行かれるのでしたら、全力で止めますよ」

ゆっくりと構えをとる小悪魔。

「お前はパチュリーの使い魔だろ」
「ええそうです。ですからパチュリー様が望まれないことは全力で阻止するのです」

自分が愛した人が不幸になることなんて望まない。たとえ自分の望みが叶わなくても。
そんなパチュリーだからベットの中で延々と泣き続けているのだろう。
小悪魔に比べ付き合いの浅い魔理沙でもそれぐらいは知っている。

「心配するな。レミリアもフランも、誰も不幸になんてしやしないさ」

魔理沙はにやりと笑って宣言した。
それを見て小悪魔はふぅと深く息を吐き出すと無言で道を空けた。
だがすれ違う際、

「もし言葉を違えれば地獄に引きずり落としますからね」

ボソッと呟いた。
魔理沙の背中に少し寒気が走った。





紅魔館の最上部、レミリアの私室に2人の吸血鬼が椅子を並べてケーキを食べていた。

「お姉様あ~ん」
「あ~ん」

フランドールは幸せだった。
彼女は先日想い人である姉に自らの想いを告白した。
そして姉はそれを受け入れてくれた。
それは495年のすれ違いの最高の結末だった。少なくとも彼女にとっては。

「じゃまするぜ!」

姉妹の、否、恋人同士の甘い時間は無遠慮な魔法使いの声に遮られた。
フランドールは突然の乱入者、霧雨 魔理沙を睨みつける。
だが魔理沙はそんな視線に気を向けずレミリアの方に歩いていく。

「何のようかしら魔理沙?」

魔理沙は答えない。
無言のままレミリアのすぐ前まで歩いていき、彼女の頬を思い切りブン殴った。

「お姉様!」

無論人間無勢がいくら力を込めたところで吸血鬼の体に痣一つ作ることはできない。
それでも愛しい人の顔を害されたフランドールから殺意が吹き出す。
並の人間ならそれだけで気を失っていただろう強力な殺意。
だが魔理沙はレミリアを睨みつけたまま視線を外さない。
レミリアもその目を真正面から受け止めたまま動かない。

「私がなにをしに来たかわかってんのか?」
「パチェのことでしょ」

そこの言葉に、魔理沙はもう一発レミリアに叩き込んだ。

「魔理沙ぁぁぁ!!」

飛びかかるフランドール。
だがそれを手で制したのは他ならぬレミリアだった。

「わかってるなら……わかってるならお前はこんなところで何やってるんだよ!
 お前はあいつの親友なんだろ。あいつずっと泣いてんだぞ!」

声を荒げる魔理沙に、しかしレミリアは表情一つ変えない。

「……知ってるわ。パチェの想いも泣いていることも全部知ってる。
 でもどうしろというの? 私はフランを選んだの。パチェの想いを知っていて、
 それでもなおフランを選んだの。そんな私がいって何になるの?
 パチェを傷つけるだけだわ」

レミリアは魔理沙から視線を外し、俯き気味に首を振る。
だが魔理沙にとってそれは予測済みの回答だった。

「パチュリーの想いを受け入れてやってくれ」

その言葉にレミリア再び魔理沙を睨みつける。

「聞こえなかったの? 私はフランを……」
「フランもパチュリーも二人とも選べばいいだろ」
「はっ?」

レミリアは絶句するしかなかった。
魔理沙は言葉を続ける。

「フランの想いもパチュリーの想いも両方受け入れて、二人とも幸せにしてやればいいんだよ。
 そうすれば万事解決だ。だれも不幸になんてなりやしない」
「そんなことできるわけが……」
「スカーレットデビルだかなんだか知らないが普段偉そうにしてるのは只のはったりか。
 泣いてるヤツ一人抱きしめられないで何が紅魔館の主だ! 偉そうなこと言うな!
 お前しかいないんだよ。パチュリーの涙を止められるのは。だから頼む……」

先ほどまでの態度とは一転、頭を下げる魔理沙。
レミリアは目を閉じしばらく微動だにもしなかったが、意を決したように立ち上がった。
だが……

「ダメだよ……そんなの……ダメ! 絶対ダメ!」

横からフランドールがレミリアに抱きつく。
レミリアをここから動けなくするために。
この部屋を出てパチュリーの元に行かせないために。

「お姉様は言ったよね。私のこと愛してるって。それは嘘だったの?」
「嘘じゃないわ」
「なら行かないで! ここにいて! 私だけを見て!」
「……」
「お姉様には私を幸せにする責任があるんだよ! 
 私のことをずっと閉じこめてきた分、これから私を幸せにしなきゃいけないんだよ!」
「……」

フランドールの言葉にレミリアは答えることができない。
彼女が抱える負い目。妹を閉じこめ続けてきたという罪の意識。
それがレミリアの心に今も重くのしかかっていた。
思わず後ずさるレミリア。そのまま虚ろな目をして椅子に座り込んでしまう。

「それでいいよお姉様。お姉様はずっと私とだけ一緒にいればいいんだよ。ふふふ……あはは」

狂気を感じる笑顔でレミリアを離さないフランドール。

「いい加減にしろよフラン」

そんな彼女に魔理沙は口調を強くして話しかける。
フランドールは顔だけを魔理沙に向ける。敵意と殺意を視線に乗せて。

「なんで魔理沙は邪魔するの? 私やっと幸せになれるんだよ。それなのになんで邪魔するの?」
「決まってんだろ。お前が幸せになるためだよ。パチュリーも紅魔館の家族なんだろ。その家族が泣いたままでいいのか?」

言い聞かせるように語りかける魔理沙。
だがフランドールの顔から狂気の色は抜けない。
しかしレミリアの瞳に光が宿った。

「いいよ。私はお姉様さえいれば他に何もいらない!私の家族はお姉様だけむぐっ」

フランドールの暴言を自らの唇で塞ぐレミリア。
そのまま右腕でフランドールを力強く抱きしめる。

「フラン、よく聞きいて。
 私はあなたを地下室から出したときに誓ったの。もう二度とあんたを手離さないって。
 二度と家族を辛い目にあわせないって。みんな幸せにしてみせるって。
 でもここでパチェを手離したら、それはきっと過去の誤りの繰り返しになるわ。
 だってパチェも、いえ、咲夜も美鈴も小悪魔もメイド達も、みんな私の、私とあなたの家族なんだから」

最愛の人の口から出た言葉にフランドールの顔が絶望に染まる。

「……なんでよ……なんで私だけを見てくれないの!
 もういい! お姉様のことなんてもう知らない。パチュリーも魔理沙も大嫌い!」

姉の手から逃れようと暴れるフランドール。

「離して! 離しっむぐっ!」

再びレミリアがフランドールの唇をふさぐ。
今度はさきほどのように短いキスではない。
フランドールが抵抗をやめるまで続く長い長いキス。
やがて抵抗の勢いも落ち、身じろぎせずに姉に身を任せたところでレミリアは唇を解放した。

「フラン、私はなんて言われようとあなたを離さない。
 私があなたを幸せにしたいから。あなたがなんと言おうと、私はあなたを幸せにする。
 パチェも離さない。2人とも私の腕の中で幸せにしてみせる。
 だからあなたは私の腕に抱かれていなさい」

その言葉にフランドールは心底あきれかえったような顔をする。

「お姉様ってすっごくバカ」
「わかってるわ」
「その上我侭で自分勝手で傲慢で強欲で」

そこまで言って一回深く息を吸うと、憑き物が落ちたようなさっぱりとした表情を見せた。

「でも私そんなお姉様が好き。大好き。だからお姉様の好きにして。
 私もお姉様から離れない。お姉様の腕の中で絶対に幸せになってみせるから」
「ありがとうフラン」

フランドールを右腕に抱いたまま立ち上がり、前に進むレミリア。
魔理沙の横を通り過ぎるとき、小さく一言、

「世話になったわ」

とだけ呟いた。
魔理沙は何も言わず、その背中が消えるまで見送った。
心の中で、もう離すんじゃねえぞバカ吸血鬼、と悪態つきながら。






「パチェ!」

フランドールを抱いたまま、迷うことなくパチュリーの私室に入るレミリア。
その声に反応してベットの上でむくりと起きあがるパチュリー。
だがフランドールを抱いたままのレミリアを見るなり、敵意を露わにし、

「来ないで! 近づかないで!」

周りの本を手当たり次第に投げつける。
レミリアは怯むことなく避けることなく、妹だけを羽を使って守りながら前に進んでいく。
途中、顔に本が当たろうとも、その歩みが滞ることはない。
そしてパチュリーの前にたどり着くなり、左腕で彼女を抱き上げる。

「なにするの! 離して!」

腕の中で暴れるパチュリー。
レミリアはそんな彼女の唇をなにも言わずに奪った。

「んっ!」

レミリアの手から逃れようとするパチュリー。
だが非力な魔女の力で吸血鬼から逃れられるわけがなく程なくして抵抗をやめた。
すっと口を離すレミリア。それでも左腕は解放しない。

「何なのよ! このバカ! あなたは妹様を選んだんでしょ!
 私のことなんて放っといてよ! どうせ魔理沙に何か言われたんでしょ!
 バカにしないで! あなたが来たって……来たって……」

涙目のままレミリアに罵声を浴びせるパチュリー。
だが徐々に声のトーンが落ちていき、やがて押し黙る。
レミリアは黙ってそれを受け止める。
フランドールは心配そうに2人を眺めていた。

「パチェ、よく聞いてちょうだい。確かに私はフランを選んだわ。
 でもあなたのことを選ばなかったって訳じゃない」
「なに言ってるのよ?」
「察しが悪いわね。フランもあなたも愛してる。そう言ってるの」
「なにをバカなことを!」
「バカで結構! 私はパチェを幸せにする。フランも幸せにする。もうなにも手離さない。
 そう決めたの。私がそう決めた以上、それが運命よ! 大人しく従いなさい!」

きっぱりと断言するレミリア。その言葉には有無を言わせぬ気迫が込められていた。
埒が明かないとみたパチュリーはフランドールの方を向く。

「妹様はそれでいいの! あんなこと言われて許せるの!」
「いいよ。私はそういうお姉様を愛してるから」

即答するフランドール
体を震わせ押し黙るパチュリー。
やがて絞り出すように声を出した。

「……レミィってすっごくバカよ」
「さっきも同じことを言われたわ」
「妹様だってバカよ。こんなレミィを愛してるなんて」
「うん、わかってる」
「……私も……私もバカよ。
 抱きしめられて……幸せにするっていわれて……嬉しくてたまらないんだからぁぁぁぁぁ!」

留処なく涙を流すパチュリー。
だがその涙は先ほどまでとは全く違う、とてもとても美しい涙だった。






「損な役回りですね魔理沙さん」
「小悪魔か」

部屋の外で様子を伺っていた魔理沙に小悪魔が話しかける。

「パチュリー様のこと、少しは気があったんじゃないですか」
「さあな、まっ私みたいなか弱い女の子はアリス一人抱えるだけで手一杯なんだよ」

そう言って魔理沙はにやりと笑った。
だがその笑みを見て、小悪魔は遠慮がちに口を開く。

「え~あの~そのアリスさんからご連絡がありまして」
「おっ、早く帰ってこいってか?」

恥ずかしそうににやける魔理沙。

「いえ、『今日はあの子たちと外に食べに行くから晩ご飯は適当に食べてね』とのことでした」
「なん……だと……」

まるで妻と子供に置いてけぼりをくらった夫のような扱いに、魔理沙の表情が驚愕の色に染まる。
ちなみにあの子たち、とはアリスと仲のよい三妖精のことである。

「ご飯食べていきますか?」
「……ごちそうになるぜ」

この日、紅魔館の夕食は不思議と塩味がしたという。
ここまで読んでいただいてありがとうございます。

今回はパチュレミフランの話。
ツイッターの発言をみて思いついた話です。
かなり捻くれていますが、いかがだったでしょうか。

誤字脱字その他ご指摘等あれば教えていただけるとうれしいです。
それではお粗末様でした。
clo0001
http://twitter.com/clo0001
簡易評価

点数のボタンをクリックしコメントなしで評価します。

コメント



0.1340簡易評価
10.70爆撃削除
い……いいのかなあ……?
果たして、これでうまくいくのか不安です。
でもオチで軽く吹きました。なんだかんだで、夫婦関係チックになってんじゃねえかという。
14.50名前が無い程度の能力削除
うまく行くかなぁ…?
半端なく自分勝手だねレミリア。
22.20名前が無い程度の能力削除
泥棒なんかにそんなこと言われてもなぁ。
25.70名前が無い程度の能力削除
誰が正しいか判らなくなってきたぜ!
26.40名前が無い程度の能力削除
お嬢様に可愛さがたりない
27.10名前が無い程度の能力削除
とゆーかこの魔理沙の主張って、レミリアがフランとパチュリーの両方に気があった上でフランを選んだんでないと成り立たないんだが。
パチュリーの想いが恋愛感情でレミリアのはあくまでも家族愛であった場合、この結末は最終的な破局しか生まないだろう。
なにやってんだこいつら?
31.10名前が無い程度の能力削除
これはないわ・・・・・・
33.無評価名前が無い程度の能力削除
一度選んだなら、それが正しかった。
魔理沙のただの身勝手にしか…見えない。それに動かされてしまう程度なら
どちらへの想いも怪しいもんだ
36.100れふぃ軍曹削除
三角関係、難しいですよねホント。特に百合(というか同性恋愛)だったらなおさら。
かなり個人的な主張ですが、一人しか愛せないなんてしょせん人の世界の中にある法ですからね。
妖怪同士、それもレミリアならこういう結末を選んだとしても、それはそれでありなのかと。
というか私的にはこういう話を待っていたわけで。笑
38.60名前が無い程度の能力削除
……あれー?
48.無評価名前は無い程度の能力削除
傷ついたパチュリーを何とかしたいと言う気持ちは分からないでもないのですが、これはさすがに無理がありますよ。