Coolier - 新生・東方創想話

この大空の果てまで

2009/02/17 22:33:52
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どこまでも浸透する、青。

どこまでも吹き抜ける、風。

そしてどこまでも果てしない、あの空。

もしもそこへ辿り着けるとしたなのら、あなたはついてきてくれるの?

この大空の果てまでいっても、一緒にいてくれるの?

唇が動く。

しかしその言葉を聞き取る前に、世界の色が急速に失われて行く、最後には、青かった空も、白一色となって―――






――――――――――――――――――――――





朝日が障子の隙間から降り注いでくる、その眩しさに八雲紫は目を覚ます。

夢?幻?

さっきまで眼前に広がっていた青空はなく、目に映るものは見慣れた天井だけ。

“この大空の果てまでいっても、一緒にいてくれるの?”

はたしてこれは誰への問いかけだったのか、そして目覚める寸前に見えたかすかに動いた唇。
彼女が誰で何を言ったのかを知る術などない、覚めてしまった夢はもう二度と戻ることはないのだから。永遠に。
このことが胸に引っかかり紫の寝起きは最悪だ。
もう一度寝直せばこの続きが見られるのではないか、できるはずがないことを思いながら大きく伸びをした。
すると日のあたる障子に影が射す。

「紫様、お目覚めですか?」
「ええ、起きてるわ、藍、お水を頂戴」
「はい、ただいま」

影がいなくなり光が戻る、そこにいたのは紫の式、八雲藍。
ほどなくしていそいそと藍が戻ってくる。
再び影の射した障子がすぅーっという音を立てて開かれる。
そこから藍が入ってくると紫に水の入ったグラスを差し出した。
そのグラスは朝の光を浴びて七色に輝いていた。

「お水をお持ちしました」
「ありがとう」

紫は藍から水を受け取りそれを一口で飲み干す。
寝起きで火照っていた紫の身体に冷たい水がなじんでゆく、床に置いたグラスがコトンと涼やかな音を鳴らした。

「紫様、朝食の準備ができております、身支度が終わりましたらお越しください」
「分かったわ」

藍がグラスを片付け去っていった。
紫も起き上がり着替え、髪を整えると食卓へと向かった。
すると今日は箸が3つ。

「あ、紫様、おはようございます」
「あら橙おはよう、来ていたの?」
「はい、藍様にたまには来なさいと呼んでいただきました」
「そう」

空いた席に座っていたのは藍の式、橙、普段は山に住んでいるのだがたまにこうして屋敷にやってきて、一緒に食事をしたりする。
この屋敷では和食が中心となっている、全て藍が作っているのだ。
だいたい朝のメニューは決まっていて、ご飯、味噌汁(毎回あぶらあげと豆腐)、納豆、漬物、卵焼きである。

「あの……藍様……」
「ん?どうしたの橙」
「私納豆食べられません……」
「橙、好き嫌いはいけないわ、立派な妖獣になれないわよ」
「紫様ごめんなさい……」
「あぁ、よしよし、じゃあ納豆は私が食べてあげるから、そのかわりに私の卵焼きあげるね」
「わぁい、藍様の卵焼きだぁ!」
「藍、あなたも甘やかすのはいいけれどほどほどにしなさいよ」
「はい……申し訳ありません……」

そういった紫は大して怒った顔はしておらず、むしろ呆れているような顔だった。

「ん、今日の漬物は美味いな」
「紫様もだいぶ言動が年寄りくさくなってきましたね」
「藍、お味噌汁、飲んであげましょうか?」
「いえいえいえいえ!!謹んで遠慮します!!」

藍が味噌汁をかばうように自分の真ん前によせて抱え込むように食事をしている。

「藍、それ危ないわよ」
「え?」

と、藍が紫のほうを向いた瞬間、何かに押された味噌汁のお椀がコトッと倒れた。
テーブルの上、藍の声にならない叫びと共に味噌汁と油揚げと豆腐が散った。若干あぶらあげの数が多い。

「あぁ……あぁあ……」
「本当に仕方ないわね、あなたはただでさえ無・駄・に・胸が大きいんだから、気をつけなさいよ」
「あうぅ……」

片隅で橙がしきりに自分の胸元を気にしているのは気のせいか。
ぺたぺたと触っては、紫と藍のほうを交互に何度も見てひとつ、大きなため息をついた。

「すん……ふぎんとってきましゅ……」
「いってらっしゃい」

藍が涙目になりながら台所へと消えて行く、九本の尻尾も力なく倒れ床にズリズリと引きずっている。

「あら橙、食べないの?」
「あ、いえ!少し考え事をしていただけです」
「そう、それなら藍の手伝いにいってあげたら?」
「そ、そうですね、行ってきます!!」

橙がとてとてと走っていく、二本の尻尾が力なく倒れ床にズリズリと引きずっている。

「ごちそうさま」

そうして部屋に一人となった紫はさっさと食べ終え、まだ箸をつけていない味噌汁を藍の席の前に置くと自室へと戻っていった。





―――――――――――――――――――――――――――――





ずずずっ、社から変な音が聞こえてきた。博麗神社の巫女、博麗霊夢はいつものことかと中を覗き込んでやっぱり呆れかえった。

「住居不法侵入のうえ窃盗よ?」
「ここは住居じゃないわ」
「窃盗だけでも十分な罪よ、しかも神社から」
「いいじゃない、お茶の一杯や二杯」

お茶の一杯や二杯だけでなく煎餅までかじっている。
霊夢はだめだこりゃ、とばかりにため息をつき眉間を押さえた。
紫は食後のお茶に博麗神社を訪れていた。

「あんたもいい加減に神社にお茶飲みにくるのやめてよね」
「ここで飲むお茶のほうが美味しいのよ、あなたも飲む?」
「はぁ、私のなんだけどね、もらうわ、自分で入れるのも面倒だし」

ちょぼぼぼぼ、と急須から小気味いい音と共に湯飲みに茶が満たされていく。
霊夢はそれを紫からひったくるとふーふーと冷まし一口。

「悔しいけど美味しい」
「そう」

霊夢が苦々しく言った後しばらく二人無言でお茶をすする。

「ねぇ」
「昼ご飯なら出さないわよ?」
「最後まで聞いてよ」
「いいわ、聞くだけよ」
「そろそろお腹がすいてこないかしら?」
「帰れ」

霊夢はそう吐き捨てるように言うと自分の湯飲みを持って台所に消えた。
ほどなくするとなにやら美味しそうな匂いが漂ってくる。
和風あんかけご飯を二皿持った霊夢が台所から戻ってくる。

「あら、まだいたの?いいわ、作りすぎちゃったから、食べる?」
「いただくわ」

紫は知っていた、昼時まで待っていると霊夢がなんだかんだ気を使って余分に作ることを。
それをさも偶然かのように言う霊夢を見ておもしろそうに笑った。

「なによ、いらないの?」
「いただくってさっき言ったわ」
「まったく、どうしてここで食べる必要があるのかしら」
「ここだといろいろなものを食べられるからよ、人間と違って妖怪にとって食事なんてもともと不要なもの。
 強いて言うなら味を楽しむためにしているのよ」
「それならどうしてさっきお腹がすいたなんていったの?」
「私が、とは言ってないわ、すいてこないかしら、とあなたに聞いたのよ」

霊夢が不機嫌な顔になる、紫はその顔を見てまたクスクスと笑った。
紫がそれから仏頂面でただ黙々と食べていた霊夢に「おいしいわ」というと、その表情が少しだけ緩んだようだった。

食後に社の縁側で再び二人並んでお茶をすする。
今はちょうど昼下がり、太陽も昇りきり後は沈むだけ。
紫はコトっと湯飲みを置いて立ち上がる。

「そろそろ帰るわ、ごちそうさま」
「はいはい」
「明日も来ようかしら」
「どうぞご自由に」
「あら、断られるのかと思ったわ」
「別に来るなと言っても来るんでしょう?
 それにあんたがいても迷惑にはならないし、私も少しは楽しいからいいわよ」
「ふふ、本当にそう思ってる?」
「思っていなかったら勝手にお茶をすすってる時点で夢想封印よ」
「それもそうね、それじゃあ、また明日」

そっぽを向いて手を振る霊夢、紫からは見えないが恥ずかしそうに笑っていた。
どうやら今日の霊夢は少しだけ機嫌がよかったようだ。
それとも、紫が来たから機嫌がよくなったのか。





――――――――――――――――――――――――――





紫はスキマを使って屋敷へと戻る。
この時間、廊下には日の光が当たってポカポカと暖かい。
そこに藍と橙が仲睦まじく昼寝をしている。
すぅー、すぅーっと寝息を立てる藍の尻尾にモフモフと橙が絡み付いている。

「ふふっ」

思わず笑みがこぼれる紫。
そのそばに腰掛けると藍と橙の頭を交互に撫でた。
撫でられるリズムに合わせるようにピクピクと耳が動く。
そのうち紫もうとうとしはじめ、そこへゴロリと横になり藍の尻尾を枕代わりに眠りへと落ちていった。





―――――――――――――――――――――――――





ふと紫の目に飛び込んできたのはあのときの白、今朝夢に見ていた無色の空。

「夢、なのかしら」

驚くほど意識がはっきりしている、夢の中でこれが夢だと自覚できるほどに。
もしかしてこれは今朝の夢の続き?
と、疑問に思った紫だったが“彼女”は、目の前にいる、それで確信が持てた。

「そう、藍、あなただったのね」

ふと、今朝の夢が鮮明によみがえってくる、確かにあの時紫が問いかけたのは藍だった。どこか幼い感じがするが確かに藍である。
それでもあのときの藍の言葉が思い出せない、色が失われたときから。

「なんのことだか、分かりかねます」
「いえ、以前の夢のことよ、ここはその続きみたい」
「夢とは一夜限りの幻、故に夢幻、夢の続きを見ることなど不可能です」
「これがたとえ続きでなくても構わないわ」
「と、いいますと?」
「私があなたにした質問、覚えているかしら?」
「この大空の果てまでいっても、一緒にいてくれるの?
 という質問ですか?」
「そうよ、なんだかやっぱり夢の続きみたいね、あなたがそれを知っているってことは」
「厳密には違います、夢とは、その自分自身の持つ欲望を満たすための幻、その世界は自身の記憶から創られます。
 そして私が以前の夢の八雲藍であるという確信もない、そもそも私があなたの知る八雲藍であるという確信もまたない」

紫にはこの雰囲気はどこかで感じた覚えがあった。
それは遠い昔、藍を憑かせてまもないころ、藍がはじめて紫に反抗した日の事。
紫の質問にまともに答えようとしない藍。
紫はそのときに深い悲しみを感じた。
孤独感を感じた。
そして、この空から急速に色が奪われていく様な感じがした。
この無色の空、確かにあの時の空は、こんな色に見えた。

そうか……今日は……、やっと、思い出した。

「あなたはたしかに八雲藍よ、だって、あなたは生まれたときのあなたにそっくりだもの。
 小難しい言葉をずっと並べているだけ。
 それに、私を“紫様”と呼ばず“あなた”と呼ぶところも。
 それでね、思い出したのよ、この胸の引っ掛かりを含めて」

すっと、紫の瞼が開く。
見上げた先には輝く星空、蒼い月、そして、藍色の空。

「お目覚めですか?紫様」
「ん……藍?」
「はい、目が覚めたら紫様が私の尻尾を枕に眠っていたものですから、動くに動けませんでしたよ」
「ねぇ……藍、私ね、夢を見ていたの」
「どんな夢ですか?」
「あなたが私に初めて反抗したときのこと」
「あ……」
「そういえば、数百年前のちょうど今日のことだったわね」
「そうでしたね」

藍の瞳がどこか悲しげにもみえる。
紫は藍を見上げたまま言った。

「あなたは私の質問に対して、小難しい言葉を並べてごまかしてたのよね、私が答えなさいといっても絶対に口を割らなかった。
 答えは結局聞けずに、どうしてあそこまで強情だったの?」
「あれは……ですね……、恥ずかしかったんです」
「恥ずかしかった?」
「自分の考えに一致しないことを言う紫様を、冷めた目で見てしまったんです、そんな自分が恥ずかしくて……」
「私、そんなに変なこといったかしら」
「いいえ、むしろ変だったのは私のほうです。
 小難しい言葉を並べていたのではなくて、ただ、あの頃の私には理解できなかったんです」
「あの頃、ね、今思うとあなたがここまで変わったのも驚きだわ」
「それを言わないでください……昔の話です……」

藍の顔が真赤に染まった。

「でも、なぜいったい今頃そんな話を?」
「さっきの夢よ、今朝から見てた夢なんだけどね、それに昔のあなたが出てきたのよ」
「そうでしたか」
「でもあの時からよね、あなたが変わり始めたの」
「そういえばそんな気がしますね」
「生まれた頃のあなたといったらすごかったものね、ただ命令されるままに動いて、無愛想で、それでも頭だけはよかったのよね」
「紫様は、そんな私は嫌いでしたか?」
「とんでもない、好きだったからあんなこと聞いたんじゃない」
「空の話ですか」
「そうよ、可笑しいわよね、あなたったら、空の果ては宇宙です……とか、宇宙の果てに行くには膨張率から考えて……」
「も、もうやめてください……」

藍が恥ずかしがってあわあわしている、うつむこうにも尻尾に紫が乗っているものだから顔を下げられず、ただぶんぶんと頭を振っていた。
紫の顔が真剣な表情に戻る。

「ねぇ、あのときの質問をもう一回してもいいかしら」
「なんでまた……」
「いいじゃないの、気になるのよ、まだ答え、聞いていないんだから」
「……わ、分かりました、どうぞ」
「この大空の果てまでいっても、一緒にいてくれるの?」
「……はい、この空にだって、紫様が行かれるのでしたら、どこへだって」

「本当はね、少し寂しかったのよ」
「え?」

気恥ずかしそうに答えた藍に続くかのように紫がやや自嘲気味に言った。

「夢のあなたが言っていたわ、夢は自身の欲望を満たすための幻って、だから私がこのことを思い出して夢に見たのも、寂しくて不安だったからじゃないかってね」
「不安、ですか?」
「藍は私とずっと一緒にいてくれるのか、そう思ったらなんだか寂しいじゃないの」
「……それでは紫様、私に命令してください」
「命令?」
「私の口から言わせたいんですか?」
「うふふ、そうね、じゃあ藍」
「はい」
「ずっと私のそばにいなさい、ずっとずっと、私と一緒にいなさい」
「はい」

紫も藍も自分たちで言っていて恥ずかしくなったらしく二人でそっぽを向いていた。
そんな二人を蒼い月だけが照らしていた。ずっと、ずっと。
この空はもう、無色じゃない。

時に紫色に、時に藍色に、時に橙色に。

空はいつも3色で、八雲はいつも3人で。

―――――――――――――――――――――

日常生活でほのぼのとさせつつも最後はオリジナルな過去に入ってみました。
八雲家いいですよ八雲家www
そんでちょこっとだけ出た霊夢、いらない気がしてきたwww
それに意識して書いたわけじゃなのに若干霊夢がツンデ霊夢になったwww

(紫に対しての)ツンデ霊夢万歳!!
(魔理沙に対しての)ツンデレアリス万歳!!

夕方の空って本当に紫で藍で橙なんですよね、それを見てこの話を思いつきました。
それと夢で何かを思い出すって案外あるんですよねー。

はい、これから学年末試験だ~、しばらく書けなくなっちまうなぁ……
3月ごろに終わるのですがね、それまでかけないので残念です。
でも、今回最後にこれだけ言わせてください。

『ツンデレ万歳!!』
宵月
http://eveninglunatick.blog81.fc2.com/
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コメント



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2.100煉獄削除
良い、良いですね、紫様と藍の雰囲気などがとても好きです。
朝食時の藍の表情や尻尾が垂れていたという光景も
想像できてしまって…もう、可愛すぎるっ!
紫様と藍の後半の会話も、どこか静かでいて
お互いのことを想いあっている言葉でとても素敵でした。
面白かったですよ。
8.100削除
橙がペタペタしてる・・・
というか藍はどんだけあぶらあげ好きなんでしょうね。
前半はほのぼのと、後半はちょっと切なくなりました。
よかったと思います。