博麗神社で一人の少女がぬっくりとしている。
誰も来ないから上半身は涼しそうなサラシだけ。
だらしなく着こなした巫女服。
今日は日常以上にゆったりとした感じだ。
初夏とあってか、霊夢は気怠そうにして動かない。
時折欠伸をして、大体は机に頬を乗せて魔理沙を見ている。
眠くなってきたらジャーキングで体がビクつく。
その勢いで頬を強く打ち付け、涙目になる。
それでも霊夢は動かずに無心に魔理沙を見ている。
「ふわぁ~」
「むぅ……」
「ねむ」
「ほっ」
そんな霊夢の視線を感じているのは魔理沙。
魔理沙もまた、誰も来ないとみて上半身はラフ。
お気に入りの帽子は霊夢の頭に乗せてある。
彼女は霊夢がぬくぬくしている間に神社を漁った。
霊夢は珍しく何も言わない。
そこで変なものを見つけてきた。
けんだまという玩具で、糸に吊られた赤い玉を窪みに嵌めるというもの。
今はそれに熱中しているようだ。
しかしいくらやっても成功しない。
大きい窪みに入れることすらままならない。
手先不器用な彼女のことだ。
こんなことならアリスに人形を教われば良かったと後悔する。
やがてイラつき始める。
表情に焦りが見え始める。
霊夢はニヤリと笑った。
魔理沙が霊夢を睨んだ。
「ん」
霊夢が手を差し出す。
頬は机に付いたまま。
かなり挑発的な態度。
そして不気味な笑み。
魔理沙は霊夢の頭にある帽子をとってから、けんだまを渡した。
「ほれ」
「ん」
「やれ」
「うぉい」
けんだまを受け取った霊夢がようやく上体を起こす。
その時に「よっこらせ」と言ってしまうのも、彼女らしい。
亀のように遅かったが、亀よりはマシだ。
サラシを調節して、けんだまを構えた。
真剣な表情で手首を捻る。
「ほっ」
「お?」
玉は見事な曲線を上に描く。
そして頂点に到達する。
やがて重力に引き寄せられる。
アーチが地に届く頃、軽い音がする。
玉はしっかりと窪みに嵌っていた。
小さい方の窪みである。
難易度は大きい窪みより幾分高い。
霊夢がドヤ顔を魔理沙に向ける。
悔やむ魔理沙。
「~~~!」
「どう?」
「ふんっ」
「ほっ、それっ」
霊夢はまた玉を操る。
霊夢が手首を捻るたびに、玉は自由に飛び回る。
まるで自律してるかのように。
右に左に上にと。
玉に空いた穴に尖を突き挿す。
少しのズレも無く、穴に嵌る。
軽快な音が響いた。
柄の末端にも小さな窪みを見つけた霊夢は、そこを見定めてけんだまを振った。
抗うことなく綺麗に動く赤い玉。
まさに芸術とは宇宙史との直結。
幻想が生んだ天才肌。
淡々と繰り出される連続技に魔理沙はポカンとしていた。
そして大技が放たれる。
霊夢が本体を投げた。
玉も勝手に飛び、糸が絡み合い、そのまま落下するかと思われた。
しかし宙で本体の尖が穴を仕留めた。
針の穴に糸を通すような緻密な技だ。
いや、それ以上である。
元の形に戻って落ちてきたけんだまを、霊夢は手で軽く受け止める。
そして渾身の笑みを魔理沙に近づける。
「どや」
「くっ!」
「ほれ」
「お」
霊夢が魔理沙にけんだまを投げた。
縺れることなく掌中に収まったけんだまを魔理沙はしばし睨む。
そして意を決したように構えた。
霊夢になんか負けてられないという思いだろう。
「おっし!」
手を振った。
赤い玉がそれに従い、弧を描く。
最初とは全く違う、優雅な振りだ。
移動させた座標は完璧だった。
しかし、座標の決定が誤謬だった。
不幸の巫女を招く。
「おー」
「ぷっ」
振り上げた先には霊夢が既にさっきまでの態勢に戻っていた。
気の抜けた顔で玉を見つめていた。
それが滑稽な姿ということは良くわかる。
頬をべたーっと机に乗せて、顔面が崩れているからだ。
しかしそこが問題ではない。
……元に戻る時間が早すぎる。
魔理沙はその早業に吹いてしまったのだ。
もちろん、成功せずに玉は変な方へ流れてしまった。
「あーあ」
「お前……」
「ん?」
もはや魔理沙は怒る気にもなれなかった。
長閑すぎるその表情と服装と気分に、魔理沙は微笑んでしまう。
なんだか自分が頑張っていることがバカバカしくなるくらいに。
霊夢が恥じらいもなく訊いてきた。
「なに?」
「いや」
「ったく」
「……ぷっ」
「なによ」
けんだまを拾い上げ、魔理沙はそれを机の上に置いた。
雑に絡まった糸が、魔理沙っぽい。
霊夢はそれを一瞥したが、すぐに目を閉じた。
魔理沙は喉が渇いた。
お猪口を持つようなジェスチャーを目を瞑っている霊夢に向け、すぐに頼む。
「ちゃ」
「え?」
「ちゃ」
「なに」
「ちゃ」
「ちゃ?」
「くれ」
「なにを?」
「ちゃ」
「ったく」
「茶くれ」
「……はぁ」
「さんきゅ」
霊夢が立ち上がって台所へ向かう。
すぐに戻ってきたそのお盆には徳利がふたつ。
和の香りに包まれた茶を魔理沙はひったくる。
「あっ!」
「へへっ」
「もう……」
飲んだ。
「うま」
「でしょ?」
「もいっこ」
「え?」
「ちゃもいっこ」
「ほれ」
「お」
霊夢は自分の徳利を渡した。
動くのが面倒だったからなのか。
それとも魔理沙が「うま」と呟いたときに微笑んだ霊夢の表情がそれを物語っているのか。
再度魔理沙が飲む。
「うめ」
「ええ」
「くれ」
「やだ」
「土産」
「むり」
「何故」
「饑饉」
「ちっ」
「ふん」
「バカ」
軽く無視した霊夢は魔理沙が飲み終えた徳利をお盆に乗せ、片付けた。
けんだまも一緒に片付けた。
もうすることはない。
平和な時間が流れる。
また霊夢はあの態勢に戻る。
もはや机と同化しているようなものだ。
はたから見ると本当に情けなく、可愛らしい。
そして魔理沙はまた神社に漁りに出掛けた。
今度はなにを持ってくるのか。
霊夢はちょっと期待した。
「れいむぅ」
「ん?」
「これ」
「おー」
お手玉だった。
それも五つ。
花柄のどこにでもあるようなものだ。
神社にあったことすら知らないほど、霊夢はここ最近の記憶が曖昧だ。
悉く和風なものを持ってくる魔理沙に、霊夢は微笑む。
「なんだよ」
「べつに」
「ほれ」
「なんで?」
「見本」
「おーけー」
サラシを整える。
寝癖で前髪が不安定だ。
ポニーテールに結び、再度サラシを整える。
右手に三つ、左手に二つ。
「やれ」
「うるさい」
魔理沙がニヤニヤして霊夢を覗き込む。
霊夢は鼻で軽くあしらい、手元を見つめる。
そして軽快にお手玉を投げた。
誰も来ないから上半身は涼しそうなサラシだけ。
だらしなく着こなした巫女服。
今日は日常以上にゆったりとした感じだ。
初夏とあってか、霊夢は気怠そうにして動かない。
時折欠伸をして、大体は机に頬を乗せて魔理沙を見ている。
眠くなってきたらジャーキングで体がビクつく。
その勢いで頬を強く打ち付け、涙目になる。
それでも霊夢は動かずに無心に魔理沙を見ている。
「ふわぁ~」
「むぅ……」
「ねむ」
「ほっ」
そんな霊夢の視線を感じているのは魔理沙。
魔理沙もまた、誰も来ないとみて上半身はラフ。
お気に入りの帽子は霊夢の頭に乗せてある。
彼女は霊夢がぬくぬくしている間に神社を漁った。
霊夢は珍しく何も言わない。
そこで変なものを見つけてきた。
けんだまという玩具で、糸に吊られた赤い玉を窪みに嵌めるというもの。
今はそれに熱中しているようだ。
しかしいくらやっても成功しない。
大きい窪みに入れることすらままならない。
手先不器用な彼女のことだ。
こんなことならアリスに人形を教われば良かったと後悔する。
やがてイラつき始める。
表情に焦りが見え始める。
霊夢はニヤリと笑った。
魔理沙が霊夢を睨んだ。
「ん」
霊夢が手を差し出す。
頬は机に付いたまま。
かなり挑発的な態度。
そして不気味な笑み。
魔理沙は霊夢の頭にある帽子をとってから、けんだまを渡した。
「ほれ」
「ん」
「やれ」
「うぉい」
けんだまを受け取った霊夢がようやく上体を起こす。
その時に「よっこらせ」と言ってしまうのも、彼女らしい。
亀のように遅かったが、亀よりはマシだ。
サラシを調節して、けんだまを構えた。
真剣な表情で手首を捻る。
「ほっ」
「お?」
玉は見事な曲線を上に描く。
そして頂点に到達する。
やがて重力に引き寄せられる。
アーチが地に届く頃、軽い音がする。
玉はしっかりと窪みに嵌っていた。
小さい方の窪みである。
難易度は大きい窪みより幾分高い。
霊夢がドヤ顔を魔理沙に向ける。
悔やむ魔理沙。
「~~~!」
「どう?」
「ふんっ」
「ほっ、それっ」
霊夢はまた玉を操る。
霊夢が手首を捻るたびに、玉は自由に飛び回る。
まるで自律してるかのように。
右に左に上にと。
玉に空いた穴に尖を突き挿す。
少しのズレも無く、穴に嵌る。
軽快な音が響いた。
柄の末端にも小さな窪みを見つけた霊夢は、そこを見定めてけんだまを振った。
抗うことなく綺麗に動く赤い玉。
まさに芸術とは宇宙史との直結。
幻想が生んだ天才肌。
淡々と繰り出される連続技に魔理沙はポカンとしていた。
そして大技が放たれる。
霊夢が本体を投げた。
玉も勝手に飛び、糸が絡み合い、そのまま落下するかと思われた。
しかし宙で本体の尖が穴を仕留めた。
針の穴に糸を通すような緻密な技だ。
いや、それ以上である。
元の形に戻って落ちてきたけんだまを、霊夢は手で軽く受け止める。
そして渾身の笑みを魔理沙に近づける。
「どや」
「くっ!」
「ほれ」
「お」
霊夢が魔理沙にけんだまを投げた。
縺れることなく掌中に収まったけんだまを魔理沙はしばし睨む。
そして意を決したように構えた。
霊夢になんか負けてられないという思いだろう。
「おっし!」
手を振った。
赤い玉がそれに従い、弧を描く。
最初とは全く違う、優雅な振りだ。
移動させた座標は完璧だった。
しかし、座標の決定が誤謬だった。
不幸の巫女を招く。
「おー」
「ぷっ」
振り上げた先には霊夢が既にさっきまでの態勢に戻っていた。
気の抜けた顔で玉を見つめていた。
それが滑稽な姿ということは良くわかる。
頬をべたーっと机に乗せて、顔面が崩れているからだ。
しかしそこが問題ではない。
……元に戻る時間が早すぎる。
魔理沙はその早業に吹いてしまったのだ。
もちろん、成功せずに玉は変な方へ流れてしまった。
「あーあ」
「お前……」
「ん?」
もはや魔理沙は怒る気にもなれなかった。
長閑すぎるその表情と服装と気分に、魔理沙は微笑んでしまう。
なんだか自分が頑張っていることがバカバカしくなるくらいに。
霊夢が恥じらいもなく訊いてきた。
「なに?」
「いや」
「ったく」
「……ぷっ」
「なによ」
けんだまを拾い上げ、魔理沙はそれを机の上に置いた。
雑に絡まった糸が、魔理沙っぽい。
霊夢はそれを一瞥したが、すぐに目を閉じた。
魔理沙は喉が渇いた。
お猪口を持つようなジェスチャーを目を瞑っている霊夢に向け、すぐに頼む。
「ちゃ」
「え?」
「ちゃ」
「なに」
「ちゃ」
「ちゃ?」
「くれ」
「なにを?」
「ちゃ」
「ったく」
「茶くれ」
「……はぁ」
「さんきゅ」
霊夢が立ち上がって台所へ向かう。
すぐに戻ってきたそのお盆には徳利がふたつ。
和の香りに包まれた茶を魔理沙はひったくる。
「あっ!」
「へへっ」
「もう……」
飲んだ。
「うま」
「でしょ?」
「もいっこ」
「え?」
「ちゃもいっこ」
「ほれ」
「お」
霊夢は自分の徳利を渡した。
動くのが面倒だったからなのか。
それとも魔理沙が「うま」と呟いたときに微笑んだ霊夢の表情がそれを物語っているのか。
再度魔理沙が飲む。
「うめ」
「ええ」
「くれ」
「やだ」
「土産」
「むり」
「何故」
「饑饉」
「ちっ」
「ふん」
「バカ」
軽く無視した霊夢は魔理沙が飲み終えた徳利をお盆に乗せ、片付けた。
けんだまも一緒に片付けた。
もうすることはない。
平和な時間が流れる。
また霊夢はあの態勢に戻る。
もはや机と同化しているようなものだ。
はたから見ると本当に情けなく、可愛らしい。
そして魔理沙はまた神社に漁りに出掛けた。
今度はなにを持ってくるのか。
霊夢はちょっと期待した。
「れいむぅ」
「ん?」
「これ」
「おー」
お手玉だった。
それも五つ。
花柄のどこにでもあるようなものだ。
神社にあったことすら知らないほど、霊夢はここ最近の記憶が曖昧だ。
悉く和風なものを持ってくる魔理沙に、霊夢は微笑む。
「なんだよ」
「べつに」
「ほれ」
「なんで?」
「見本」
「おーけー」
サラシを整える。
寝癖で前髪が不安定だ。
ポニーテールに結び、再度サラシを整える。
右手に三つ、左手に二つ。
「やれ」
「うるさい」
魔理沙がニヤニヤして霊夢を覗き込む。
霊夢は鼻で軽くあしらい、手元を見つめる。
そして軽快にお手玉を投げた。
ところでケンダマやってるとそれだけでキャラが微笑ましく思えるな
レイマリっていいですよね