注意:
タイトルの通りです。「アリスは俺の嫁」な方や、ゲーム本編キャラが、
男性キャラとねんごろになる事に違和感を覚える方は、読まない方が
良いかもしれません。
セーヌ川岸の
手回しオルガンの老人を
忘れてしまいたい
青麦畑でかわした
はじめてのくちづけを
忘れてしまいたい
パスポートにはさんでおいた
四つ葉のクローバー 希望の旅を
忘れてしまいたい
アムステルダムのホテル
カーテンからさしこむ朝の光を
忘れてしまいたい
はじめての愛だったから
おまえのことを
忘れてしまいたい
みんなまとめて
今すぐ
思い出すために
(寺山修司『思い出すために』)
…なんて詩を書いたのは誰だっただろう。
初めて読んだ時は、その、あんまりにもキザったらしい内容に、思わずベッドの上で転
がってしまったものだったけれど、純白のドレスに身を包んだ今なら、その気持ちがよく
わかる気がする。
よそよそしさと恥じらいをどこかに感じながら、手をつないで歩いたあの日。
二人っきりのお茶会。
誕生日に、手編みのマフラーをプレゼントした時の彼のはにかんだ笑顔。
そして、真夜中の魔法の森、初めて交わしたキス…
どの思い出も、懐かしく感じる一方で、セピア色に染まってゆくのが寂しくもある。
ああ!そうだった。いつものように魔理沙に会いに行ったあの日、ふと目についたこの
詩集を取ろうとして、偶然同じものを取ろうとした彼と手が触れあい、思わず見つめ合っ
てしまったのだ。思えば、あれが私と彼との本当の意味での出会いだったかもしれない。
それならば、この詩も忘れなくちゃ。
「思い出すための詩を忘れないといけないなんて面倒な話ね、ふふ。」
「なにをワケの分からないことを言ってるのよ。」
「本日はおめでとうございます、アリスさん。それにしても綺麗ですねえ、ほんとうに
似合ってます。」
「ここは神社よ?なのにドレスってのはどうなのよ。」
「あら、外の世界では一般的、とまではいいませんが、神前式でドレスを着る花嫁さんも
割といらっしゃいましたよ?それに、ウェディングドレスは女の子の永遠の憧れ。素敵じゃ
ないですか。」
「女の”子”ねえ…」
「茶化しに来ただけなら帰ってもらえるかしら?」
と、突然入ってきてガヤガヤし始めた霊夢と早苗に上海たちを向ける。彼女らも勿論、
いつもの服装とは別で、白を基調としたドレスに着替させている。
「わ。可愛い!」
「別に遊びに来たわけじゃないわよ。今日の流れを確認しに来たの。」
二人には今日の斎主と典儀を頼んである。ふたりとも普段と変わらない格好であるが、
いつものぐーたらだったりのんびりとした雰囲気とは違い、どこか引き締まった印象を受け
るのは、やはりこれも神事の一つだからなのだろうか。そういえば、異変解決や、突発的な
思いつきの妙なものを除けば、霊夢がまともな神事を行うところを見るのは初めてかもしれ
ない。
「…大体流れはこんな感じね。何か質問ある?」
「大丈夫、特に気になることは無いわ。」
「それじゃあ私たちはそろそろ出ていきましょうか。」
「そうね。あっちにも説明しに行かないといけないし。」
「ありがとう。二人とも、本番はよろしくお願いします。」
「こちらこそお願いしますね。」
「まあ、任せておきなさい。それじゃ。」
「あ、そうそう。忘れてたわ。」
出ていく直前、扉に手をかけ、少しだけ振り向いて。
「おめでとう、アリス。」
そう言って、足早に出ていく霊夢。
そして早苗は「素直じゃないんだから。」と苦笑いし、ペコリと頭を下げ、あとを追って
行ったのであった。
------------
二人が出ていってから、暫くぼんやりとしていると、とても懐かしい声が聞こえてきた。
「幽香~、この部屋でいいのかしら?」
「霊夢から教えてもらったでしょ。間違いないわよ。」
「さっきからそう言って全然違う部屋ばっかりじゃない!毎回『会いたかったわアリスちゃ
ん!おめでとう!』って言って扉を開けたら違くて、すっごい気まずい雰囲気になって!昨
日だって『挙式は今日よ』なんて言うものだから慌てて神社に行ったら霊夢に………
……ってあら、アリスちゃん?」
「…久しぶりね。相変わらずなようで安心したわ、お母さん。」
扉の向こうには、きょとんとした母と、その姿を見てニヤニヤとしている幽香が立ってい
た。可哀想に、昨日からずっと遊ばれっぱなしらしい。
それにしても、初めて来たであろう幻想郷を、どうして幽香に案内してもらっているの
か。こうなるであろうことは火を見るよりも明らかだったじゃないか。せめて魅魔だろう。
誰だ、幽香に案内を頼んだのは。夢子か。夢子姉さんか。グッジョブ!
「なにを二人して親指立てているの?」
「なんでもないわ。」
「そうね。」
「???まあいいわ。そんなことより、アリスちゃんおめでとう!」
「わっ」
ガバッと、母が抱きついてきた。温かい。母は、会えばとにかく頻繁に抱擁してくるのだ
が、こんなにも懐かしい気持ちになったのは初めてかもしれない。だから、いつもは恥ずか
しくてすぐに引き離してしまうのに、今日に限っては、ギュッと抱きしめ返してしまった。
「ふふ、こうやって長い間抱き合っているのはいつ以来かしら?」
「少なくともこっちに来てからはないわね。」
「そうよ!たまにしか帰ってこないし帰ってきたと思ったら夢子ちゃんと一緒にいじめてく
るし!
あーあ、マイちゃんやユキちゃんにちょっかいされて涙目になって抱きついてきてくれた
頃が懐かしいわ~。」
「あ、あの頃は私も弱かったから、お母さんを盾にしてやり過ごしていたのよ。」
「寂しくなったのか、夜中に突然私のベッドにもぐりこんできたりもしたわね~。」
「あの、それはアレよ。」
「なあに?」
「…寒かったから…?」
「それって、結局寂しかった、というのと同じ意味じゃないかしら?単に寒くて眠れないな
ら暖房つければいいだけの話しだし。」
「あれ?えーと、その…」
会えば一度は行うおなじみのやり取り。母が昔の話をして、私が反論する。結局私がボロ
を出して、言いくるめられるのもおなじみの光景だ。
「…少しはリラックスできたみたいね。良かったわ。」
「え?」
「アリスちゃんったら、ガチガチに緊張しているんだもの。気付いてなかったのかしら?」
言われて初めて、さっきまでとは違い肩や背がとても軽くなっていることに気付いた。
「やっぱり、お母さんには敵わないわ。」
「ふふふ。そうよ、母は偉大なのよ。」
「弾幕は弱っちいけどね。」
「あれは幽香たちが異常なだけで私が弱いわけじゃないでしょ!」
「あれ、そういえば幽香は?」
「?」
いつの間にか幽香は退出しており、代わりに可愛らしくも優雅な花、デンファレの鉢植え
がちょこんと置かれていた。大方母で遊ぶのに満足したため出て行ったのだろうが、彼女は
私の知る中では最も気まぐれな妖怪である。もしかすると、空気を読んで立ち去ってくれた
のかもしれない。何にせよ、今は母娘水入らずの時間を過ごせるらしかった。
二人っきりの部屋で、隣同士で並び、私は母の肩に頭を預ける。さっきは恥ずかしくて茶
化してしまったが、母は本当に偉大だと思う。
「ねえ、お母さん。」
「なあに?」
「私も、お母さんみたいになれるかな?」
ぽつりと、漏らしたのは、そんな不安。
私は、母と似ていない。
そして、私と似ても似つかない母は、あまりに偉大で。
そんな母と比べると、私はとてもちっぽけな存在に思えて。
「大丈夫よ。」
すべてを包み込むように、私の頭を撫でながら、母はささやく。
「アリスちゃんは、私の自慢の娘ですもの。」
------------
「それじゃ、式を楽しみにしているわ。」
しばらく二人っきりの時間を過ごした後、母は出て行った。
そして、入れ違うようにして、
「入るぜ。」
と、今、一番会いたくて、同時に一番会いたくなかった彼女、魔理沙が入ってきた。彼女
は、いつものいかにもな白黒魔法使いルックではなく、最上等の和服に身を包んでいる。
「隣、いいか?」
「ええ。」
彼女はそう言うと、さっきまで母が座っていたところに腰をおろす。それからしばらく、
私も彼女も無言。なんとなーく、気まずい雰囲気。
静寂を破ったのは、彼女であった。
「まあ、アレだ。おめでとう、アリス。」
「ありがとう。」
「それにしても、こうやって二人で話すのも久しぶりだな。」
「あら、一方的に避けられていた気がするんだけど?」
「そりゃあ異変は解決しないといけないからな。避けなければ被弾してしまうんだぜ。」
「茶化さないで。」
「…その、私も今まで頑固になりすぎていた。ごめん。」
思えば、彼と付き合い、結婚することをみんなに知らせたとき、ただ一人反対し、拒絶
し、怒ったのが彼女であった。これまで長い間独占し、愛を持って接してきた相手である。
私によって盗られてしまったと感じるのも無理はない。
結局、彼女は、他ならぬ最愛の彼を思って身を引いたのだが、それ以来、ずっと私は彼女
から避けられ続けていたのである。
「ところで、向こうはどうだったの?真っ先に行ったんでしょう?」
「ああ、傍から見て笑っちまうくらいカチンコチンに固まってたぜ。」
「それで?」
「仕方が無いからな。私が飛びついてくすぐってやった。」
「貴女らしいわね。」
「おや、妬かないのか?」
「妬くわけないでしょう。」
「くっ、余裕だな。」
久しぶりに、本当に久しぶりにこうやって彼女と話す。それだけの事だが本当に嬉しい。
それにしても、彼はどんな時でも落ち着いているイメージであったのだが、まさか私と同
じく緊張していたとは。意外なところで彼と繋がっているように感じ、幸せな気分に浸ると
同時に、私は先程の認識を、改めて強く意識した。
「なあ、アリス。」
「何かしら?」
「私は、まだ、お前を認めたわけじゃないからな。」
そう。彼女は彼を思って身を引いた。私を認めたわけじゃない。
それでも、彼女はこうして話しかけ、歩み寄ってきてくれた。
「分かってる。たとえ何年かかっても、貴女に認めさせてみせるわ。」
「そいつは楽しみだな。」
今までと同じ関係、というのは不可能だろう。私が壊してしまったから。
ならば、ゆっくりとでも、新しい関係を作り直せばいいのだ。
「だから、これからもよろしくね。魔理沙お義母さん。」
「その呼び方は勘弁して欲しいんだぜ。」
「やっぱり?」
私たちは、家族なのだから。
タイトルの通りです。「アリスは俺の嫁」な方や、ゲーム本編キャラが、
男性キャラとねんごろになる事に違和感を覚える方は、読まない方が
良いかもしれません。
セーヌ川岸の
手回しオルガンの老人を
忘れてしまいたい
青麦畑でかわした
はじめてのくちづけを
忘れてしまいたい
パスポートにはさんでおいた
四つ葉のクローバー 希望の旅を
忘れてしまいたい
アムステルダムのホテル
カーテンからさしこむ朝の光を
忘れてしまいたい
はじめての愛だったから
おまえのことを
忘れてしまいたい
みんなまとめて
今すぐ
思い出すために
(寺山修司『思い出すために』)
…なんて詩を書いたのは誰だっただろう。
初めて読んだ時は、その、あんまりにもキザったらしい内容に、思わずベッドの上で転
がってしまったものだったけれど、純白のドレスに身を包んだ今なら、その気持ちがよく
わかる気がする。
よそよそしさと恥じらいをどこかに感じながら、手をつないで歩いたあの日。
二人っきりのお茶会。
誕生日に、手編みのマフラーをプレゼントした時の彼のはにかんだ笑顔。
そして、真夜中の魔法の森、初めて交わしたキス…
どの思い出も、懐かしく感じる一方で、セピア色に染まってゆくのが寂しくもある。
ああ!そうだった。いつものように魔理沙に会いに行ったあの日、ふと目についたこの
詩集を取ろうとして、偶然同じものを取ろうとした彼と手が触れあい、思わず見つめ合っ
てしまったのだ。思えば、あれが私と彼との本当の意味での出会いだったかもしれない。
それならば、この詩も忘れなくちゃ。
「思い出すための詩を忘れないといけないなんて面倒な話ね、ふふ。」
「なにをワケの分からないことを言ってるのよ。」
「本日はおめでとうございます、アリスさん。それにしても綺麗ですねえ、ほんとうに
似合ってます。」
「ここは神社よ?なのにドレスってのはどうなのよ。」
「あら、外の世界では一般的、とまではいいませんが、神前式でドレスを着る花嫁さんも
割といらっしゃいましたよ?それに、ウェディングドレスは女の子の永遠の憧れ。素敵じゃ
ないですか。」
「女の”子”ねえ…」
「茶化しに来ただけなら帰ってもらえるかしら?」
と、突然入ってきてガヤガヤし始めた霊夢と早苗に上海たちを向ける。彼女らも勿論、
いつもの服装とは別で、白を基調としたドレスに着替させている。
「わ。可愛い!」
「別に遊びに来たわけじゃないわよ。今日の流れを確認しに来たの。」
二人には今日の斎主と典儀を頼んである。ふたりとも普段と変わらない格好であるが、
いつものぐーたらだったりのんびりとした雰囲気とは違い、どこか引き締まった印象を受け
るのは、やはりこれも神事の一つだからなのだろうか。そういえば、異変解決や、突発的な
思いつきの妙なものを除けば、霊夢がまともな神事を行うところを見るのは初めてかもしれ
ない。
「…大体流れはこんな感じね。何か質問ある?」
「大丈夫、特に気になることは無いわ。」
「それじゃあ私たちはそろそろ出ていきましょうか。」
「そうね。あっちにも説明しに行かないといけないし。」
「ありがとう。二人とも、本番はよろしくお願いします。」
「こちらこそお願いしますね。」
「まあ、任せておきなさい。それじゃ。」
「あ、そうそう。忘れてたわ。」
出ていく直前、扉に手をかけ、少しだけ振り向いて。
「おめでとう、アリス。」
そう言って、足早に出ていく霊夢。
そして早苗は「素直じゃないんだから。」と苦笑いし、ペコリと頭を下げ、あとを追って
行ったのであった。
------------
二人が出ていってから、暫くぼんやりとしていると、とても懐かしい声が聞こえてきた。
「幽香~、この部屋でいいのかしら?」
「霊夢から教えてもらったでしょ。間違いないわよ。」
「さっきからそう言って全然違う部屋ばっかりじゃない!毎回『会いたかったわアリスちゃ
ん!おめでとう!』って言って扉を開けたら違くて、すっごい気まずい雰囲気になって!昨
日だって『挙式は今日よ』なんて言うものだから慌てて神社に行ったら霊夢に………
……ってあら、アリスちゃん?」
「…久しぶりね。相変わらずなようで安心したわ、お母さん。」
扉の向こうには、きょとんとした母と、その姿を見てニヤニヤとしている幽香が立ってい
た。可哀想に、昨日からずっと遊ばれっぱなしらしい。
それにしても、初めて来たであろう幻想郷を、どうして幽香に案内してもらっているの
か。こうなるであろうことは火を見るよりも明らかだったじゃないか。せめて魅魔だろう。
誰だ、幽香に案内を頼んだのは。夢子か。夢子姉さんか。グッジョブ!
「なにを二人して親指立てているの?」
「なんでもないわ。」
「そうね。」
「???まあいいわ。そんなことより、アリスちゃんおめでとう!」
「わっ」
ガバッと、母が抱きついてきた。温かい。母は、会えばとにかく頻繁に抱擁してくるのだ
が、こんなにも懐かしい気持ちになったのは初めてかもしれない。だから、いつもは恥ずか
しくてすぐに引き離してしまうのに、今日に限っては、ギュッと抱きしめ返してしまった。
「ふふ、こうやって長い間抱き合っているのはいつ以来かしら?」
「少なくともこっちに来てからはないわね。」
「そうよ!たまにしか帰ってこないし帰ってきたと思ったら夢子ちゃんと一緒にいじめてく
るし!
あーあ、マイちゃんやユキちゃんにちょっかいされて涙目になって抱きついてきてくれた
頃が懐かしいわ~。」
「あ、あの頃は私も弱かったから、お母さんを盾にしてやり過ごしていたのよ。」
「寂しくなったのか、夜中に突然私のベッドにもぐりこんできたりもしたわね~。」
「あの、それはアレよ。」
「なあに?」
「…寒かったから…?」
「それって、結局寂しかった、というのと同じ意味じゃないかしら?単に寒くて眠れないな
ら暖房つければいいだけの話しだし。」
「あれ?えーと、その…」
会えば一度は行うおなじみのやり取り。母が昔の話をして、私が反論する。結局私がボロ
を出して、言いくるめられるのもおなじみの光景だ。
「…少しはリラックスできたみたいね。良かったわ。」
「え?」
「アリスちゃんったら、ガチガチに緊張しているんだもの。気付いてなかったのかしら?」
言われて初めて、さっきまでとは違い肩や背がとても軽くなっていることに気付いた。
「やっぱり、お母さんには敵わないわ。」
「ふふふ。そうよ、母は偉大なのよ。」
「弾幕は弱っちいけどね。」
「あれは幽香たちが異常なだけで私が弱いわけじゃないでしょ!」
「あれ、そういえば幽香は?」
「?」
いつの間にか幽香は退出しており、代わりに可愛らしくも優雅な花、デンファレの鉢植え
がちょこんと置かれていた。大方母で遊ぶのに満足したため出て行ったのだろうが、彼女は
私の知る中では最も気まぐれな妖怪である。もしかすると、空気を読んで立ち去ってくれた
のかもしれない。何にせよ、今は母娘水入らずの時間を過ごせるらしかった。
二人っきりの部屋で、隣同士で並び、私は母の肩に頭を預ける。さっきは恥ずかしくて茶
化してしまったが、母は本当に偉大だと思う。
「ねえ、お母さん。」
「なあに?」
「私も、お母さんみたいになれるかな?」
ぽつりと、漏らしたのは、そんな不安。
私は、母と似ていない。
そして、私と似ても似つかない母は、あまりに偉大で。
そんな母と比べると、私はとてもちっぽけな存在に思えて。
「大丈夫よ。」
すべてを包み込むように、私の頭を撫でながら、母はささやく。
「アリスちゃんは、私の自慢の娘ですもの。」
------------
「それじゃ、式を楽しみにしているわ。」
しばらく二人っきりの時間を過ごした後、母は出て行った。
そして、入れ違うようにして、
「入るぜ。」
と、今、一番会いたくて、同時に一番会いたくなかった彼女、魔理沙が入ってきた。彼女
は、いつものいかにもな白黒魔法使いルックではなく、最上等の和服に身を包んでいる。
「隣、いいか?」
「ええ。」
彼女はそう言うと、さっきまで母が座っていたところに腰をおろす。それからしばらく、
私も彼女も無言。なんとなーく、気まずい雰囲気。
静寂を破ったのは、彼女であった。
「まあ、アレだ。おめでとう、アリス。」
「ありがとう。」
「それにしても、こうやって二人で話すのも久しぶりだな。」
「あら、一方的に避けられていた気がするんだけど?」
「そりゃあ異変は解決しないといけないからな。避けなければ被弾してしまうんだぜ。」
「茶化さないで。」
「…その、私も今まで頑固になりすぎていた。ごめん。」
思えば、彼と付き合い、結婚することをみんなに知らせたとき、ただ一人反対し、拒絶
し、怒ったのが彼女であった。これまで長い間独占し、愛を持って接してきた相手である。
私によって盗られてしまったと感じるのも無理はない。
結局、彼女は、他ならぬ最愛の彼を思って身を引いたのだが、それ以来、ずっと私は彼女
から避けられ続けていたのである。
「ところで、向こうはどうだったの?真っ先に行ったんでしょう?」
「ああ、傍から見て笑っちまうくらいカチンコチンに固まってたぜ。」
「それで?」
「仕方が無いからな。私が飛びついてくすぐってやった。」
「貴女らしいわね。」
「おや、妬かないのか?」
「妬くわけないでしょう。」
「くっ、余裕だな。」
久しぶりに、本当に久しぶりにこうやって彼女と話す。それだけの事だが本当に嬉しい。
それにしても、彼はどんな時でも落ち着いているイメージであったのだが、まさか私と同
じく緊張していたとは。意外なところで彼と繋がっているように感じ、幸せな気分に浸ると
同時に、私は先程の認識を、改めて強く意識した。
「なあ、アリス。」
「何かしら?」
「私は、まだ、お前を認めたわけじゃないからな。」
そう。彼女は彼を思って身を引いた。私を認めたわけじゃない。
それでも、彼女はこうして話しかけ、歩み寄ってきてくれた。
「分かってる。たとえ何年かかっても、貴女に認めさせてみせるわ。」
「そいつは楽しみだな。」
今までと同じ関係、というのは不可能だろう。私が壊してしまったから。
ならば、ゆっくりとでも、新しい関係を作り直せばいいのだ。
「だから、これからもよろしくね。魔理沙お義母さん。」
「その呼び方は勘弁して欲しいんだぜ。」
「やっぱり?」
私たちは、家族なのだから。
ストーリー的な盛り上がりがなかったのでこの点数で。
東方=百合、という構図が多いので新鮮でした。
ところで、「思い出すために」やP.N.を見る限り詩人か合唱人か何かですかな?